とある暗部の心理掌握 > 8


※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

学園都市の闇の底、名も無い研究所


垣根が“保管”されている部屋に到着した心理掌握は、部屋の扉を急いで封鎖した。

研究所の異変を察知した、重武装型警備ロボが追いかけてきたからだ。

閉じられた扉に対し、警備ロボはガトリング砲を連射。

たちまち凄まじい音が研究所に響くが、頑丈に作られた扉は警備ロボの攻撃にも持ちこたえる。


(けどそれも、時間の問題ね)


まもなく応援のロボットが到着し、扉は破壊されてしまうだろう。

心理掌握は落ち着くため一つ呼吸を落とすと、常盤台ネットワークの稼働準備を始めた。

 

 

研究所の外


「超邪魔です!」

「結局、そこが隙な訳よ!」


絹旗が『窒素装甲』で敵陣に突入し、正面の敵を薙ぎ倒す。

慌てて避けた敵は、フレンダが爆弾を使って吹っ飛ばした。

元アイテムの仲間だからこそ出来る、息の合った連携プレイで猟犬部隊を駆逐していく。


「薄汚い犬どもが、私の視界に入るんじゃないわよっこいつときたらー!」


すぐ近くでは、心理定規がマシンガンを容赦なく撃ち続けて高笑い。

絹旗とフレンダは、はははははー!!という心理定規の大きな笑い声を聞いて、


(案外、『電話の声』の時も超素のままだったのでは…?)

(今までのストレスが爆発してる訳よ…)


彼女の名誉のため、あの姿は誰にも言わないでおこうと密かに決意した。

 

 

第2学区、潮岸のシェルター最深部


杉谷。駆動鎧。テクパトル。

幾人もの強敵を倒して、グループの4人はついに潮岸から『ドラゴン』について聞き出していた。

だが、質問を受けた潮岸は嘲笑って答えた。


「何を言っている。『ドラゴン』はどこにでもいる」

「ほら、今は君の後ろにいるだろう」


それを聞いて振り返った『一方通行』の目の前には



「――『ドラゴン』か。その呼び名も間違いではない」



『ドラゴン』、いや、その名を『エイワス』と名乗る絶望が顕現していた。
垣根帝督のいる部屋


心理掌握の意思にあわせて、常盤台ネットワークは徐々に出力を上げていく。

演算能力が爆発的に高まり、全能感すら覚えるほどだ。

だが、それでも心理掌握は悔しそうに歯を食いしばる。


(足りない。これでは“あの日の帝督”には届かない)


かつて一方通行と戦ったあの日、彼は『未元物質』を完全に掌握していた。

その遥かなる高みまではまだ足りない。

アレイスターにとって、代わりの利かないほど重要な1位と2位の超能力。

たかが第5位の心理掌握では、代償なしには手が届かない。


故に彼女は、戸惑う事無く代償を支払う。


「あああああああァァ!!」


体晶。意図的に拒絶反応を起こさせ、能力を暴走状態にする物質。

彼女は自分の『心理掌握』という能力をさらに高めるため体晶を使い、それをネットワークを経由して抑え込んだ。

そしてゆっくりと垣根の体を抱きしめた。

 

――…心理掌握、テメェいつから暗部について知ってやがった?

――なのにどうしてお前は“俺たちの世界”に来てねぇんだ?

――俺の…演算領域に…直接干渉する…って…ハハ…褒めて…やるよ…!

――おい、何を…『私、心理定規―これからヨロシク』

――何だってこんな真似してんだ、常盤台のお嬢さんは?

――だから…お前はこの俺の手元にいろ

――今のお前じゃ、色々と“足りなすぎる”

――お前の趣味ってイマイチだからな、俺が選んでやるよ

――この大事な時期に、厄介事に巻き込まれた馬鹿にはムカついたがな

――何だ、どうやら思った以上にゴールは近そうだぜ

――クソムカついた。とんだゲス野郎がいたもんだ。これは俺が始末する必要があるな、間違いねえ

――本気で欲しくなっちまった

――だから、お前は俺のモンだ

――ベタで悪いが…お前がいたらきっと最後に“すがっちまう”からな

 

 

あっという間に垣根の記憶が流れ込み、心理掌握は彼と“繋がった”。

…自分と同じような気持ちを、彼も持っていてくれた。

それを言葉ではなく、感覚として知ることが出来る喜び。

彼女が流れる涙を拭く間もなく、限界を迎えた扉が破壊され、警備ロボが何台も雪崩れ込んできた。

だが、もう心理掌握は欠片も恐怖を感じていなかった。


「せっかく2人っきりなのに…」

「“ムカついた”」


尚も垣根から離れない心理掌握に対し、無数の銃弾が発射される。

だが…


「“私”の『未元物質』に、常識は通用しない」


心理掌握の背中から生まれた真っ白な翼が、銃弾を警備ロボごと叩き潰した。


そして今度こそ2人きりになった部屋で、心理掌握は『未元物質』を使って目的を果たす。

ゴバッ!という音と共に、『未元物質』が垣根帝督と部屋の機械を繭のように覆い尽くした。

 

第2学区、潮岸のシェルター最深部


「…どうやら、私には変形機能があるらしいぞ?」


あのグループを、最強の第1位『一方通行』を、エイワスは容赦なく潰した。

それとて大したことではないかのように。

そしてエイワスは、とある研究所の方へ目を向ける。

次いで気軽に呟いた。


「…垣根帝督の方も気になるし、行ってみるか」

研究所の外


「ク!どうやら応援を超呼んでいたみたいです!」

「…結局これはマズいって訳よ」

「あの女に帝督を盗られたまま死ぬんじゃ、成仏できそうにないわね」


猟犬部隊の数が、一向に減らない。いや、それどころか増えてきている。

無線で応援を呼ばれたらしい。数で攻め落とす作戦のようだ。

それに対し弾薬が無くなりかけている3人は、徐々に包囲されてきていた。

思わず研究所に目を向ける絹旗。


(…超まだですか…?)

(そろそろタイムリミットな訳よ…!)


それでも、ここから先は通さない。

もはや只の意地で戦い続ける3人が、不敵に笑った。

 

垣根帝督のいる部屋


心理掌握は、背後に突然現れた謎の“存在”から笑みを向けられた。


「これはこれは。アレイスターが焦るのも無理は無い」

「…」

「私の正体が気になるのか?」

「いいえ。“今の私”には分かる。あなたがアレイスターの計画の中心」

「AIM拡散力場を利用した結晶体のような存在」

「そこまで。たかが人間の感情が、このような興味深い結果をもたらしたか」


まるで自分の恋愛感情を馬鹿にするかのような口調に、心理掌握はその存在を睨みつけた。
「それで君はどうしたい?」

「もう“長くは持たない”その身で、何を望む?」

「…分かっているでしょ」

「アレイスターと交渉すれば、あるいは違った道が開けるかも知れないぞ?」


その時。部屋にある『未元物質』の繭が、笑うように震えだした。


「うるせえな」


そして繭を中から破り、1人の男が現れた。

その体の半分以上を、心理掌握の『未元物質』で再構成された第2位。


「そしてムカついた。人の女を口説いてるんじゃねーよ」


垣根帝督が彼女を庇うように抱きしめる。

 

 


垣根帝督のいる部屋


「…帝、督…」


久しぶりに聞いた彼の声に、再び涙腺が緩む心理掌握。


「馬鹿が。こんな無茶しやがって」

「…心配しないで。自覚はあるもの」

「ハ、つくづくお前はとんでもない作戦を実行しやがるな」


その様子を見ていたエイワスが、楽しそうに問いかける。


「垣根帝督。君はどうする?」

「…」

「君も、全能力をかけて私を殺してみるかね?」

「ダメ」


得体のしれない感情が交差する2人の間に、心理掌握が割って入る。
「所詮、私の『未元物質』は紛い物、長くは持たないわ。…帝督は早く第7学区の病院へ行って」

「病院だと?」

「そこであなたの肉体を復元するの。もう準備は出来ているから」


それだけ告げると、心理掌握は力を失って垣根に倒れかかった。


「ふむ。良いのかな?」


エイワスは、心理掌握にはすでに興味を失ったかのように目を向けない。


「君の最終目的であるアレイスターとの直接交渉権」

「この私をどうにかできれば、間違いなくそれが手に入るぞ?」

「…」


垣根帝督は答えない。そのまま心理掌握を抱き上げると、無言で『未元物質』の翼を展開。

そして天井を翼で破壊すると、空へ飛び立ちながらこう述べた。


「あの『第1位』の役割を、俺はすでに知っている」

「あいつは、アレイスターにとってただの『ベクトル変換装置』って訳じゃねえ」
今度はエイワスが答えなかった。


「だからあいつが『第一候補』だった。…恐らく、アレイスターが学園都市を作った理由の1つがそれだ」

「そしてそれと同様に、アレイスターの計画にはまだ俺の『未元物質』が必要だってのも予測できる」

「体を張ってこいつが教えてくれた」


そして垣根は、エイワスに冷たい目を向けて宣言した。


「どうせアレイスターの計画は、俺が自由になったことですでに大幅な修正が必要になっている」

「意味分かるか?“今”は、お前と戦うより大事な事があるんだよ」


エイワスは、空にいる2人に微笑んだ。すでに価値と興味を失ったと言わんばかりに。


「その死にかけのレベル5は、すでに重要性を失ったも同然だぞ?」

「分かってねえな、テメェ」


垣根もエイワスに薄く笑いかけた。


「重要性で言えば、惚れた女とのデートが最重要項目に決まってんだろ」


そして、答えを聞かずに研究所内部を後にした。


「汝の欲する所を為せ。それが汝の法とならん」

「なるほど。ならば示してみたまえ、汝の法を」


そして金髪の怪物は、歌うように呟いて自らも消えた。

 

研究所の外


絹旗が轟音に気づいて後ろを振り返るのと、猟犬部隊が一斉に吹き飛ばされるのは同時だった。

心理掌握をお姫様だっこしながら現れた垣根が、『未元物質』の翼で一気に邪魔者を視界から消したらしい。


「…ようやくですか。超待たせすぎです」

「結局、あんな無茶な計画を成功させる執念が恐ろしい訳よ」

「…あ、はは」


心理定規が、残弾の無いマシンガンを捨てて垣根に駆け寄った。


「久しぶりね。…死んだと思ってたけど、結構元気そうじゃない」

「確かに久しぶりだな、心理定規。お前が来ているとは予想外だ」


その言葉を聞いて、心理定規は急に慌てだした。


「いや、あの、別にあなたを助けたかったわけじゃなくてね!?」

「ちょっとそこの女に復讐してやろうと思っただけよ!」

「…何でそれが猟犬部隊を足止めする事に繋がるんだ…?」
垣根は思わず疑問を口にするが、当然心理定規は答える事が出来ない。


(言えない…帝督が好きだから協力してたなんて、絶対言えない…)


結局、知らないわよバカー!と叫んで、心理定規はその場を走り去った。


キョトンとする垣根だが、間髪いれずに絹旗が話しかけた。


「超久しぶりですね第2位。第1位にやられたと聞いて思わずガッツポーズしたというのに、超しぶといです」

「うるせーよ。…まあお礼ぐらいは言っておくか。こいつに協力してくれて助かった」


既に意識の無い心理掌握を大切そうに撫でてから、垣根は頭を下げた。

その態度に驚く絹旗は無言になるが、今度はフレンダが笑顔で話しかける。


「そういう契約だったんだから、当然の事だし。そんなことより、さっさと2人は病院に行った方がいい訳よ」


絹旗もその言葉に同意した。
「じゃあここにいても超意味無いですし、全員で病院に行きましょうか」

「ああ。そうするか」


(…)

(…結局、最後の最後まで俺は弱かったままだ)

(姉さんと同じように、大切な人間に頼る事をしなかった)

(そんな俺に、こいつは無茶な真似して手を差し伸べてきた)




(…闇と絶望の広がる果て、か)

(こいつとなら、その先の光景を見れるかも知れねえな)



そして、学園都市に1つの夜明けが訪れた。

ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。