とある暗部の心理掌握 > 7


※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

同じ日の昼過ぎ、グループの隠れ家


グループの一員である土御門元春は、突然受けた連絡に頭を悩ませていた。


(…量産型能力者(クローン)の上位個体が誘拐された…だと)

(目撃者の話だと、誘拐犯は女ってことらしいが…目的は『一方通行』か?)

(“偶然”狙われた可能性は…)


ベギィ!


突然恐ろしい音を立てて、隠れ家のドアが粉砕された。

そして現れたのは、静かに憤る学園都市第1位の白き怪物、『一方通行』である。
「…あのガキが誘拐されたってなァ本当か?」

「恐らくは。もうすぐ詳しい連絡が来る事になっている」

「ちっ。…どいつもこいつも、なンであいつを巻き込もうとしやがる!」

「無理を承知で言うが、少し落ち着け」

「うるせェな。皮ァひン剥かれたくなけりゃァ口を閉じやがれ」


険悪な雰囲気になったその時、一方通行の持つ携帯に着信。


「おい、あのガキは?」

『やれやれ。みっともなくうろたえないで欲しいものですね』


答えたのはグループの指示役、電話の男だ。


「今はテメェを殺す暇も惜しいンんだ、とっとと話せ」
『あの検体番号20001号『最終信号(ラストオーダー)』を誘拐したのは、心理定規と呼ばれる能力者です』

「心理定規…どっかで聞いた名前じゃねェか」

『ええ。少し前にあなた方が壊滅させた《スクール》の唯一の生き残りですね』

「スクールっていうと…クソったれの第2位のお仲間さンかよ」

『そうなりますね。彼女が何を目的として最終信号を誘拐したのかは判明していませんが…』

「そンなことはどうでもイイ。その女又はガキの居場所は?」

『…スクールの隠れ家ならお教えできます』

「そこにガキが居るのか?」

『そこまでは断定しかねますが』

(…手掛かりがそれしかねェなら、スクールのアジトに行くしかねェな)

「とりあえずその場所を教えろ。乗り込ンで調べてくる」

『分かりました。第7学区の――』


住所を聞いた一方通行は、すぐにそこへ向かおうと踵を返すが土御門に止められた。
「待て。相手はお前が第1位と知って喧嘩を売ってきたんだ」

「だからなンだよ?精々高く買ってやろォじゃねェの」

「分からないのか?心理定規は当然万全の状態で迎え撃とうとする」

「で?」

「なら戦力は多い方がいいだろう?」

「…」

「目的がどうあれ、相手はお前の“役立たずの宝物”に手を出したんだ」

「…ハ、随分とお節介なヤツだ」

「こんなところで万一にもお前というカードを失う訳にはいかないからな」

「…役に立たなかったら、テメェを盾にしてでもガキは助けるからな」

「調子が出たな一方通行。もうすぐ海原と結標もくる」


そしてそれから3分後、グループ全員を乗せた車がスクールの隠れ家へ向かった。

 

 

時刻が少し戻って、第七学区のとある病院


心理掌握がこの事態に気付いたのは、全くの偶然だった。

彼女がいつものようにカエル顔の医者と打ち合わせをしていると、血相を変えた少女が飛び込んできた。

妹達(シスターズ)の一人、ミサカ10032号。上条には御坂妹とも呼ばれているクローンだ。


「大変です、とミサカは状況を報告します!」


それに思わず驚いたのは心理掌握である。


「…御坂?…いや、クローンね」

「? 何故その事を知っているのですか、とミサカは問いかけます」

「あなたのオリジナルのお友達なのよ、私は」
「…少々疑わしいですが今はそれどころではありません、とミサカは用件を思い出します」

「何かあったのかな?」


カエル顔の医者は全く動じることなく、ゆっくりと先を促した。


「先ほど我々妹達の上位個体である『最終信号』から、ミサカネットワークを通じて救援願いが発信されました」

「つまり上位個体は何者かによって誘拐されました、とミサカは簡潔に告げます!」

「ミサカネットワークで、その子の居場所は分からないのかい?」

「ダメです。恐らく上位個体はすでに意識を失っているものと見られます、とミサカは推察します」

「そうか、じゃあ仕方ないね。何か他に手掛かりとなるような事があれば…」

「そう言えば上位個体と最後に話していた女性は、《心理定規》と名乗っていました、とミサカは思い出します」


今まで静かに話を聞いていた心理掌握がその言葉に反応した。


「《心理定規》ですって…!?」
「はい。その人にゲコ太の風船を貰ったとネットワークで自慢していました、とミサカは悔しさも思い出します」


(…あの女がクローンを誘拐して、何をする気?)


数秒とかからず答えは出た。


(あえて心理定規の名前を出している以上、目的は1つしかないわね)

(そのクローンを大切に思っている『一方通行』を使って、誘拐犯に仕立てた私を殺すつもりってトコかな)

(帝督を潰した人間を、わざわざこの私に差し向けるだなんて、随分趣味がイイわね)


恐らく、すぐにでも一方通行は自分を殺しにやってくるのだろう。

それを想像して心理掌握は思わず笑みを浮かべた。


(3流の所業ね、心理定規。…でも感謝してあげるわ)

(もしもこのまま私が気づかなければ、訳も分からず第1位と殺し合いをしていたでしょうね)

(でも、私はすでに事態を掌握した)

(これを利用することで、目障りな《グループ》をこちらに取り込むチャンスが生まれる)

そして心理掌握は、自分に注目している2人を無視して電話をかけた。


「あ、絹旗?」

「ちょっとフレンダと一緒に大急ぎで来てほしいんだけど」

「うん。場所は第7学区にあるスクールの隠れ家」

「ありがとー」ピッ


あの女がクローンをどこに監禁するか。

スクールの心理定規の犯行に見せたいのならば、スクールの隠れ家が一番適している。

しかもそこならば、元スクールのあの女も自由に出入りできるはずだ。


(向こうがスクールの隠れ家を見つけるまで、あまり猶予は無いと見るべきね)
「聞いてちょーだい。そのクローンのコは私が助けるわ」

「なぜ、とミサカは疑問を呈します」

「そのコが誘拐されたのは、恐らく私のせいだからよ」

「意味が分かりません、とミサカはさらに疑問を投げかけます」

「詳しい事はいずれ説明するから、少しここで待ってて」


まだ何か言いたそうなミサカ10032号を無視し、心理掌握は病院を出てタクシーに飛び乗った。

 

 

スクールの隠れ家


グループがそこに到着したとき、何故か家の扉が開いていた。

当然罠を警戒する土御門たちであったが、1人が無視してズンズンと奥へ向かう。


「おい、一方通行!」


思わず怒鳴る土御門の声も無視して、一方通行は笑った。


「はン、この小せェ入り口に仕掛けらるトラップ程度じゃ、俺の反射をどォにも出来やしねェよ」

「まあ、それもその通りですね」


何を考えているか分からない笑顔で、海原(エツァリ)が同意。

結標は呆れたように軽く首を振ると、一言もしゃべらずに後を付いて行った。
そしてグループの4人が殺風景なリビングに入ると、そこには…


「これでミサカの3勝目!ってミサカはミサカは勝利のガッツポーズ!」

「ク…結局このフレンダ様が手加減してあげた訳よ…」

「うわー、そういうのは超見苦しいですよ」

「ホラ、とっとと大貧民はお客さんのお茶を用意しにいきなさい」


心理掌握の言葉に促されて、悔しそうにフレンダが台所に向かった。


「ナニをしてやがンだ、テメェら…」

「あー、一方通行ー!」


頭にコブがあるものの、元気いっぱいの打ち止めが一方通行に飛びついた。

唖然としているグループのメンバーに、心理掌握が笑顔で宣告する。


「元スクールの隠れ家へようこそ。まさかグループ全員揃っているなんて思わなかったわー」

「とても都合がいいわ、早速始めましょう。…不穏な会合を、ね」

 

 

スクールの隠れ家


心理掌握は話をする前に、近くまで迎えに来た黄泉川と一緒に打ち止めを帰宅させた。

そして、残った学園都市の暗部を代表する7人は…


「だからさっきも言ったけど、あの子を誘拐したのは私じゃないのよ」

「今さらビビって逃げよォってつもりかァ?」

「結局誘拐するぐらいなら、あっさり返したりしない訳よ」

「だから、あなた方はグループと何か話をするために今回の事件を起こしたのでしょう?」


ババ抜きをしながら、海原が鋭く問いただす。


「超論外です。交渉前に相手の心証を超悪くするのは、馬鹿のやる事ですよ」


絹旗が呆れながらカードを一枚引く。どうもペアが揃わなかったらしく、舌打ちして結標へ。
「確かにそのとおりね。交渉するなら、せっかくの人質をその前に返す意味がないもの」


絹旗から貰ったダイヤの2が手持ちとペアになり、結標は笑顔で場に捨てた。そして土御門にカードを差し出す。


「ならば、“誰に”“何故”あの子が誘拐されたか説明して貰えるかにゃー?」


土御門もペアを見つけて場に捨てた。そして隣の心理掌握に鋭い目でカードを近づける。


「もう一度言うけど、犯人は私も知らない。“何者”かが私の名前を騙って彼女を誘拐したの」

「そしてその理由は、恐らく激怒した一方通行にこの私を殺害させるためよ」


心理掌握は迷いなく1枚のカードを選ぶと、ペアを揃えた。残りは3枚、現在彼女がトップである。

それを見て、不愉快そうに一方通行が彼女の手札に手を伸ばして1枚引いた。


「自分は無関係ですってか。…その割にずいぶン余裕が有った見てェだが?」

「偶然事情を知りえたからよ。あの打ち止めってコが、クローンのネットワークを通じてSOSを発信したの」
ペアが揃わなかった一方通行は、フン、と鼻を鳴らして次のフレンダに目を向けずにカードを近づける。


「結局、そのクローンの1人から事情を聴いた私たちが、急いで監禁されているその子を助けたって訳よ!」


ジョーカーが渡ってきたフレンダは、心の中でウゲ!と呟いて次の海原へバトンタッチ。


「ですが不思議ですね。あなたたちの言う通りだとして、何故打ち止めは殺されていなかったのでしょうか?」

「ただ気絶させただけでは、無事に助けたら今のように説得の時間が出来る事になります」


海原はあっさりジョーカーを避けてペアを揃えた。彼も残り2枚。そして絹旗へ。


「それはその打ち止めってコが超特殊だからでしょう」

「何でもそこの第1位は、彼女のネットワークで演算を超補助してもらってるという話じゃないですか」


今度はペアが揃い、絹旗は小さくガッツポーズをして結標へ。
「…なるほど、彼女を殺してしまえば、能力を失った一方通行が心理定規を殺せないかもしれないと危惧したのね」

「その可能性が高いです。これが証拠に、彼女を発見した時服の中に小型の爆弾が付けられていました」

「もしも事情を知らず彼女を放置していれば、一方通行は私たちが爆弾を付けたと勘違いして逆上していたでしょう」


心理掌握が、結標の意見に合わせて証拠を提示する。


「ま、結局このフレンダ様にかかれば、その程度の爆弾は楽勝で解除出来る訳よ」


フレンダが自慢げに、取り外した爆弾をグループに見せつけた。


「…」


結標はペアを見つけられず、少しションボリして土御門へ。


「それが事実なら、確かに打ち止め(ノウリョク)を生かしたまま一方通行を差し向けられる」

「…確かにその辺は筋が通っているぜよ」


土御門は心理掌握を睨みつけた。
「だが、おかしいのはこれだけじゃないんだぜい?」

「そもそも、その誘拐犯は何故お前を直接狙わないんだろーな?」

「…」

「打ち止めを誘拐して、このスクールのアジトに監禁した犯人は、当然暗部の情報に精通しているってことだにゃー」

「そんなやつが、わざわざ第1位を利用したってことは、だ」

「そいつはよっぽどお前に死んでほしい、けどそれが自分では出来ない立場」

「…そんな特殊な境遇にいる人間に、本当に心当たりがないのか?」

「ないわねー。そもそもこんな仕事をしてる以上、誰に恨まれても不思議じゃないもの」


心理掌握は土御門の詰問を笑顔でかわす。そして再びペアを作って場に流した。ラスト1枚。

苦々しい顔をした一方通行が、その1枚を取ったので彼女は一番で上がった。


「いやいやー、良ーく思い出してほしいぜよ」


土御門は追及の手を緩めなかった。
「例えば、“誰かの地位”を横取りした事はないかにゃー?」

「…」

「居場所を取られた“本人”が、復讐のためにこの事件を起こしたとかはどうだろうにゃー?」

「面白い発想ねー。あなた小説家にでもなれば?…ねえ“海原”さん?」

「いやはや、全くです。良くそのようなアイディアが出てきましたね」

「そう言われると少し照れるぜよ。実は今度“常盤台中学”あたりを舞台にした小説を書こうと思ってるんだぜい」

「それは楽しみねー。“繚乱家政女学校”にいる友達にも見せてあげたいなあ」


人を騙す事に長けた“ウソツキ”3人が、それとなくけん制し合う。

分かる人間が聞けば、全て脅しの言葉と知って顔を青くするかもしれない。


(土御門は犯人に心当たりがあンのか?…くっだらねェな)

(結局、心理掌握と張り合うなんてあのサングラスたちはやり手な訳よ!)

(…なんですかコレ。空気が超怖いんですが)


やがてババ抜きが終わり、大方の予想通りフレンダがババを持ったまま終了した。
遊戯が終わり、痺れを切らした一方通行が吐き捨てるように言った。


「腹の探り合いはこのへンで終わりにしよォぜ」

「そうね。偶然の産物とはいえせっかくグループがいるんだし、ここで交渉といきましょう」

「わざわざ一方通行を待ち受けていたぐらいだからにゃー、何を聞かせてくれるのか楽しみぜよ」


全員の注目を集めた心理掌握は、部屋の鍵をかけるとフレンダから特殊な爆弾を受け取った。


「え」


誰かが驚いて声を上げるがそれを無視。そして躊躇することなく爆破。

その爆発は火炎こそ出ないものの、凄まじい衝撃波が部屋に吹き荒れた。

…そして未だに驚くグループに、笑顔のままあっさりと話しだした。


「今から10分間、この家の『滞空回線』を無力化させたわ」
「そうか、『滞空回線』の弱点である衝撃を与えたってことか!」


いち早くその目的に気づいた土御門。


「それにしても、事前の警告ぐらい…」


愚痴る結標だが、それを海原が止めた。


「いえ、むしろ正解です。その事前の警告とやらをアレイスターに聞かれては意味がありません」

「そーいうこと。じゃあ時間もないし本題ね」

「私の目的はたった一つ。学園都市第2位、垣根帝督を取り戻す」

「あァ?あの三下はとっくに死ンだンじゃなかったか?」

「…アレイスターにバラバラに回収されて、辛うじて生きてるわよ」

「しぶてェ野郎だ」

「おい一方通行!」


土御門の言葉にチッ、と舌打ちして一方通行は黙り込んだ。
「アレイスターの計画では、帝督、いえ『未元物質』は必要不可欠な存在なの」

「その彼を取り戻すため、アレイスターに喧嘩を売る」

「まさかグループに、それに協力しろと言いたい訳じゃないですよね?」


何を考えているか読めない笑顔のまま、海原が心理掌握に質問する。


「そこまで言わないわ。そもそも期待もしてないし」

「私が望むのは、ただ邪魔をするなってことだけ。グループとやり合うのは大変だからね」


そこまで聞いて、一方通行が立ちあがった。


「話にならねェな。テメェが何をしようがどォでもイイ。ただこっちの行動まで制限される覚えはないンだよ」

「当然、メリットならあるわよ?」

「あン?」

「『ドラゴン』」


その言葉に、グループが全員ピクリと反応した。
「あなたたちも上層部へ喧嘩を売るつもりなのは知ってるわ」

「…どうしてお前がその単語を知っている?」


雰囲気を変えた土御門にも、心理掌握は動じなかった。


「そもそも、最初にピンセットを手に入れたのは私たち《スクール》なんだけど」

「気になる単語ぐらい、ピックアップしてあってもおかしくないでしょ」

「…続けろ」

「その『ドラゴン』について、正体を知っている人間に心当たりがあるの」

「なるほど。それを教えるから、グループはあなたの邪魔をするな、という事ですか」

「そのとおりよ海原さん。元々グループは放っておくつもりだったんだけど、せっかくこうして集まったし」

「…出来る限り、障害となりそォなもンは取り除いておこうって腹か。小物だな」

「そうよー、一方通行。『金持ち喧嘩せず』って言うじゃない…“アナタ”以外に恨みは無いしね」


第1位と第5位のレベル5、2人の間に危険な火花が飛び散った。
「ハ、やっぱり血ィぶちまけたくなっちまったかオイ?お望みならスグにグシャグシャにしてやンよ」

「勘違いしてるみたいね」


心理掌握は一方通行から目を逸らさず、嘲笑してこう言った。


「今あなたを殺さないのは、“それどころじゃない”からよ」

「全部終わった後、ちゃーんとあなたも相手してあげるわ?」

「イイ度胸だなァ」


一気に一触即発の雰囲気になるが、絹旗と土御門がそれを止めた。


「超落ち着いてください。そろそろ時間切れです」

「お前もだ、一方通行。俺たちの目的を履き違えるな」


お互いに目を逸らさない2人だったが、やがて同時に引き下がった。

そして心理掌握は統括理事の1人、『潮岸』の名前を書いたメモを土御門に渡す。


「じゃあ、これで会合は終わり。…二度と会わない事を願ってるわ」

「そうだな、《心理定規》。簡単にくたばったりするなよ」

こうしてグループが去り、3人しかいないスクールの隠れ家で。


「緊張したー」

「それは超こっちのセリフです。何突然喧嘩を売ろうとしてるんですか」

「帝督をあんな目に遭わせた人間が目の前に居るのよ?良く我慢したって自分を褒めてあげたいぐらい」

「…それにしても、どうして《心理定規》の事を黙ってた訳?」

「フレンダは馬鹿ですねー。そんなことを言ったら、あの第1位が超殺しに行くに決まってます」

「で?」

「ここで暗部の指示役が死ねば、上の連中がどう動くか超予測できません」

「絹旗の言う通りよ。それに私の正体を知る人間は、出来る限り少なくしておきたいの」

「特に敵対する可能性があるならね…」


少し沈んだ表情を浮かべた心理掌握に、絹旗が気づいた事を問いかけた。


「あのサングラス男は超感づいているみたいでしたが?」

「土御門さんは気づいているようだけど、彼は言わないでしょう」

「互いに秘密を握っているから、こう着状態のまま問題ないわ」


(帝督…多分、後3日以内にはあなたを助け出せる)

(その邪魔をするなら、アレイスターであろうと一方通行であろうと容赦しない)

(だから、だから、後でちゃんと褒めて。私をギュッとして)


あらゆる人間の感情を燃料に、学園都市はその終焉へ向けて加速する。

 


運命の日、10月17日午後6時


かつて心理定規と呼ばれた少女が、とある街角で電話をしていた。


『一昨日の顛末を聞いたよ。君の目論見は失敗したようだね』

「…」

『君が検体番号20001号を利用するとは。アレは、今もって私の計画における重要なパーツなのだが』

「あなた、私が失敗するって分かっていたのでしょう…アレイスター?」

『…ふむ?』

「だからこそ、事件から2日も経過してからこんな嫌味を言ってきた。違う?」

『いや、単にどちらであっても気にしないだけだ。仮にアレが死んでも、また造ればそれで済む』

『もっともあの程度の計画では、心理掌握を殺せる可能性は微々たるものだとは思っていたがね』

「っ…」
『本題に入ろうか』

「報告は受けてるわ。『迎電部隊』がフラフープの地下制御施設を占拠したってね。…新チームを使う?」

『その必要はあるまい。すでにオーダーを受けた《グループ》が、迅速に制圧するだろう』

「じゃあ、私に何の用が?」

『もっと重要な、想定外のイレギュラー因子の抹殺だ』

「…抹殺対象は?」

『元アイテムの浜面仕上、絹旗最愛、フレンダ、…そして心理掌握だ』

「!」

『第4位に殺されているべき浜面仕上が生きている。これは流石に予測不可能だった』

『このままでは、彼が私の計画に致命的なダメージを与える危険性がある』

「なるほど?…でも、他の3人はどうして?」

『その3人の行動を監視した結果、加速度的にイレギュラーな行為が報告されている』

「何かを企んでいるってこと?」

『その可能性が最も高い。故にこれ以上許容は出来ない』

『…心理掌握は利用価値があると思ったが、それ以上に危険をもたらすと判断した』

「…」

『それというのも、彼女が『未元物質』と恋仲になったせいだ』
思わず心理定規は、電話を握る手に力を込めた。


『すでに全員に、十分な量の兵力を差し向けているが…』

「私にあの女を殺すチャンスをくれるってワケ?」

『そうだ。“好きにしたまえ”』


通話は一方的に終了し…心理定規は笑い声を抑えきれずに吹き出した。


(あの悪魔、よりにもよってアレイスターに狙われるなんてね)

(こうなった以上、あいつは確実に殺される)

(きっと学園都市の兵力が全て敵に回る。私が行く必要がないほどに)

(…良い気味ね)

(…本当に良い気味だわ)


既に心理定規から笑顔は消えていた。
あいつの状況はこれで絶望的だ。何を計画しているかは知らないが、彼を助けることなく無様に死ぬだろう。


(だというのに)

(どうして、どうして私は…)

(こんなにもあいつが羨ましいのかしら…)


きっとそれは、自分と違ってまだ戦う事を許されているからだろう。

心理掌握(アイツ)はまだ抵抗して戦う事が出来る。

心理定規(ワタシ)は抗うことすら許されなかった。


(結局あなたの事を、一度も名前で呼べなかったわね、帝督)

(こんな私にも、未練が残ってるみたい。最後に意地を通したいのかな)


決着は自分の手でつける。心理定規は暗闇へ向かって歩き出した。

 

 

同時刻、第3学区の高架道路


『迎電部隊』がグループと戦闘を開始した。

その情報を受けた心理掌握たち3人は、自分たちの計画のため垣根のいる研究所へ向かっていた。

ちなみに現在車の中。絹旗が用意した運転手は…


「ちくしょう!いきなり『アシを確保してください、浜面!』っていうから来てみれば!」

「久しぶりねー、はまづら君。滝壺ちゃんは元気?」


後部座席から声をかけた心理掌握を見て、浜面は泣きそうになった。


「なんでコイツまで居るんだよ!?」

「超仕方ありません。今の雇い主ですから」

「は、え?」

「結局、私たちはこの子に雇われて一緒にいる訳よ」

「とにかく、急いでナビの示す所へ行ってちょーだい」

「なんで俺が…」


浜面は心の底からげんなりするが、結局抵抗を諦めて言う事を聞いた。
そして順調に進んで15分後、車内の4人は揃って妙な音を耳にする。


「おい、何か今変な音が…」

「超聞こえましたね」

「あ、あれ!」


フレンダが大声で警告。

全員で後ろを振り返ると、そこには『六枚羽』と呼ばれる無人戦闘攻撃ヘリが高速で迫っていた。


「おい、何だよ。オイ!なんか後ろからスゲェのが迫ってきてんぞ!?」


浜面は驚いて絶叫するも、残る3人は舌打ちをしただけで焦りを見せない。


「まさかこいつまで持ち出すなんてね。…ようやく、アレイスターがなりふり構わず私たちを殺しに来たわ」

「お前なんでそんな余裕なの!?」


心理掌握は浜面を一睨みで黙らせると、フレンダに目で合図を送る。


「結局、私の活躍でイチコロな訳よ!」


フレンダは車内に積んでおいたロケットランチャーを担ぐと、上半身だけ窓から身を乗り出す。

一瞬のち、轟音を立てて発射されたロケット弾が見事にヘリに命中。
「やった!」

「フレンダ、喜ぶのは超早いです」


絹旗が冷や汗を垂らして警告。その声は若干震えていた。


「おいおいおいおいぃぃぃ!なんか後ろにまだいるんですけどぉ!?」

「ホントね。…まさか4機も用意してくるなんて」


心理掌握も焦りを隠せず、顔色が青くなる。

フレンダが慌てて残る3機のヘリにロケットランチャーを向けようとしたが、心理掌握に止められた。


「無駄ね。あの学園都市製のヘリは学習能力を持っている。同じ手は通用しないわ」

「マジでどうするんだよ!っていうか学園都市のヘリ!?ひょっとして上層部から狙われてる感じ!?」


パニクりながらも、必死に運転する浜面に対し、絹旗が冷たく告げた。


「少し黙ってください浜面。超うるさいです」


そして絹旗は拳銃を取り出し、その粉砕式弾頭でヘリエンジンの吸気口を撃ち抜く。

たちまち粒子状になった弾頭が、エンジンの焦げ付きを誘発。

あっという間にヘリは高度を落とし、そのまま墜落して爆発した。残り2機。
だが、そこで向こうは短距離対装甲車両用ミサイルを発射。


「赤外線ミサイル来たよ!」

「!」


フレンダの言葉に反応し、心理掌握が点火した発煙筒を急いで外に投げ捨てた。


「うおぉぉぉぉ!!俺死ぬ!?」


熱源を誤認したミサイルは車に直撃こそしなかったが、その爆風で車が横転してひっくり返ってしまった。

結果4人は車内に閉じ込められ、動きを止められてしまう。


「急いで逃げる訳よ!」

「これは超マズイです!」

「絹旗、この車を真っ二つにして!」


もうこの車は使えないと判断した心理掌握の指示を受け、絹旗が『窒素装甲』を全開にして車を分断。

ようやく飛び出した4人に、残った2機のヘリが銃口を向けるが…
「やれやれ。また250億のヘリを壊す羽目になるとは」



黒曜石のナイフを取り出した海原が、金星の光を反射。

トラウィスカルパンテクウトリの槍と呼ばれる魔術で、ヘリをバラバラに分解した。

そして残る1機は。



「めンどくせェな」



音もなくヘリの上に降り立った第1位が、回転するローターを素手で引っこ抜いて撃墜した。

これで『六枚羽』は全て撃墜されたことになる。


「な、何でグループが超助けに来たんですか?」

「自分たちは、今から潮岸のいる第2学区へ向かう途中でしてね」


笑顔で答える海原。絹旗は無言で続きを促した。


「そしたら、たまたまあなた方が襲われている光景を目にしたので」

「結局、慈善事業をするタイプには見えない訳よ」


フレンダの言葉に観念したのか、海原は少し照れくさそうに答えた。
「実は、そこの《心理定規》さんには借りがありましてね。…かつて常盤台中学を守ってくれましたから」

「…あれは、自分の世界(ニチジョウ)を守りたかっただけよ」


こちらも少し照れくさそうに答える心理掌握。

海原が彼女たちを助けた理由。それは御坂美琴の世界を身を呈して救った、心理掌握に対するお礼だった。


「オイ、とっとと潮岸の野郎のところに行くンじゃねェのか」

「…そう言えば、どうしてあんたまで私たちを助けてくれたの?」

「どォでもいいだろ」


心理掌握と敵対していたはずの『一方通行』は、その理由を何も答えずベクトル操作で飛んで行った。

キョトンとしている3人に、「実はですね」と海原が笑顔で耳打ちする。


「あのクローンにお願いされたそうです。またみんなでトランプがしたい、ってね」

「…プ」


ちゃっかり話を聞いていたフレンダと絹旗が、思わず噴き出した。


「プクク…なんですかそれ、第1位は超ロリコンですか」

「アハハハ、け、結局あの子に甘い訳よ」

「そうね。…打ち止めちゃんに感謝ってとこかしら」


3人の反応を楽しんだ海原は、では自分はこれで、と言い残して第2学区へ向かった。
運転する車が無くなったので、浜面は滝壺の元へ帰ることにした。


「ここからなら、研究所まで歩いて10分もかからないしねー」

「…いいのかよ?」

「はまづら君も相当なお人よしだよね。死にかけたっていうのに」

「ウ…でも、あんな連中がまた来たら…」

「それこそ、無能力者の浜面じゃ超役に立てません」


あっさりと一刀両断されて、浜面は項垂れる。

が、すぐにその頭を絹旗がポンポンと叩いた。


「滝壺さんを守っているべきです。彼女に超ヨロシクと伝えてください」

「結局、全部終わったらすぐに会いに行く訳よ!」

「分かった。また後でな!」


2人に後押しされた浜面は、滝壺の居る病院まで走り出した。
それから10分後、ようやく研究所に到着した3人は、大型車両が猛スピードで近づいてくるのを感じ取った。


「うわー。ヘリだけじゃ飽き足らず、猟犬部隊の残党まで超使ってきましたか」

「あまり長くは持たないかも。結局、私たちが時間を稼いでいるうちにさっさとやることを済ませて欲しい訳よ」

「…これはちょっと、給金を弾む必要がありそうね」


そう言いつつ、それでも心理掌握は2人をここに残す事を迷わない。

彼女の目的は、たった1つであるからだ。


「じゃあ、任せたわ」

「結局、あの時命を助けてもらった以上仕方ない訳よ…」

「ここで死ぬみたいな言い方は、超やめてください」


そして真っ黒な特殊車両が3台ほど到着し、中から猟犬部隊が現れて3人に襲いかかろうとする。


瞬間。巨大なクレーン車が突如猛スピードで接近し、特殊車両に激突した。
夜の学園都市に轟音が響き、集まっていた猟犬部隊が散り散りになる。

信じられない様子で心理掌握が呟いた。


「…今日は本当にありえないことばっかりだわ」


未だに唖然としながらも、心理掌握はクレーンを操縦していたドレスの女に目を向けた。


「一体、どういうつもりなの《心理定規》?」


心理定規と呼ばれたドレスの女は、その質問には答えなかった。


「ズルいわね、心理掌握」

「あなただけが、まだ戦えるなんて本当にズルい」

「私にも、まだ戦わせてよ」

「…彼を、“帝督”を助けるんでしょう!?」

「なら、絶対に助け出しなさいよ!」

「そして今度は、私が帝督をあなたから奪って見せるわ!」

「だから、そのための邪魔者は消しといてあげる!」


必死に、けれどどこか楽しそうに心理定規がそう叫んだ。
それを聞いて、思わず心理掌握も叫んだ。


「あんな良い男、あんたみたいな女に渡す訳にはいかないわ!」


心理定規はますます笑顔になり、マシンガンを持ってクレーンから飛び降りた。


「あなたみたいに色気の欠片もない女王様じゃ、勝ち目はないんじゃない?」


その言葉を背中に乗せて、心理掌握は1人研究所に入り、垣根のもとに走って行った。

慌てて追いかけようとする猟犬部隊だが、即座に心理定規がマシンガンを掃射して足止めする。


「…“私”がスクールの心理定規よ。かかってきなさい」


そして、夜闇の中激闘が始まる。

ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。