とある暗部の心理掌握 > 6


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10月某日、学園都市の闇の底


学園都市の裏舞台が大きく動いてから数日後。心理掌握はその日も最愛の人物に面会に来ていた。

いや、それが“面会”と言えるのかは分からないが。


「やっほー、帝督。今日の気分は?」


返事は無い。心理掌握もそれを期待していなかった。

なぜなら面会相手には口が無かったからだ。

いや、それどころか顔も、手も、体のほとんどがすでにない。

わずかに残る胴体には巨大な機械が取りつけられ、首から上は何本ものコードが伸びている。

そしてそのコードの先には、謎の液体が入った不気味な3つの容器が存在していた。

その液体は特殊な保存液で、中には分割された脳みそがユラユラと浮いている。

まともな人間なら、吐き気を感じるような光景だ。

学園都市第1位『一方通行』に虐殺された、第2位垣根帝督のこれが現在の姿である。

「ようやく今日になって、あの日の戦いの映像が届いたの」

「すでに3回ほど見たけど…また後で部屋でゆっくり見る予定よ」

「帝督が…負ける光景なんて…滅多に見られないしねー」


徐々に声が震えてくる心理掌握。この場所では、彼女は自分を偽る事は無い。


「またここに居たんですか。超探しました」


2人きりの空間に、第3者の声が聞こえてきたので思わず心理掌握は不機嫌になった。


「今日はお休みなのに…何か用なの?…絹旗」

「超睨まないで下さい。クソったれの『仕事』が超再開されるみたいです」

「…そう。思ったより早かったわね」
「なにせアイテム、スクール、ブロック、メンバーとどれも超壊滅しましたからね」

「上の方もそろそろ手が回らなくなってきたのかな?」

「そういうことでしょう。実際の仕事はもう少し先になりますが、たぶんあなたにも今日あたり超連絡が来るはずです」

「うん、教えてくれてありがとー」

「…今日も超こもりっきりですか…?」

「ううん。ようやく映像も届いたし、もう部屋に戻るよ」

「ああ、超頼んでいた第1位との戦闘映像ですか。見てどうするんです?」

「決まってるじゃない。…もう一度、帝督に抱き締めてもらう方法を見つけるのよ」

「だっ!?…超恥ずかしくないんですか!?」

「全然。あの日あれだけ恥かいたからね。この程度は大したことないじゃない?」

 

あの日――緊急報告メールをもらった心理掌握は、我を忘れて取り乱した。

どうやって帰ったか分からないまま常盤台の自室へ戻ると、待っていた絹旗とフレンダの前で…


「ああ。確かにあれは超恥ずかしかったですね」

「誰にも言わないでよ?…私が大泣きしたなんて」


まるで幼児のようにエーンエーンと文字通り泣きだした。

訳も分からず慰める2人に対し、心理掌握は「ていとくー」と暴れてメチャクチャ迷惑をかけた。

おまけに絹旗が止めなければ、もう少しで能力が暴走するところであった。

そんなこんなで、2人にはすっかり恋心も情けない顔も知られた後なのである。


「後が怖いし、超言いませんよ。…じゃあ、私は先に戻ります」

「うん。心配かけてごめん」

「…私はあなたの護衛ですから、それぐらい超当たり前です」


そして絹旗が後にしたこの場所を、心理掌握もゆっくり出て行った。


「じゃあ、また来るね帝督」

 

 

常盤台中学学生寮(学舎の園)、心理掌握の部屋


心理掌握が部屋に戻ると、そこにはフレンダがいてベッドで寝ころんでいた。


「お帰りー」

「ただいま。随分くつろいでるようだけど、見つかったら困るのは理解してる?」

「ふふん。結局そんな心配は杞憂なわけよ!元々この部屋は特別扱いで滅多に見回りも来ないしね」

「なら良いけどさー。…絹旗は?先に戻ってきたかと思ったけど?」

「学舎の園で映画鑑賞するって言ってたよ」

「…昨日も行ってなかった?」

「あー、なんか明日は仕事で外国に行くから、その前にいっぱい見ておくんです!って張り切ってた」

「うわー可哀想。相変わらず上は人使いが荒いわね」


堂々と寮に居るこのフレンダだが、女子高生であり、常盤台中学の生徒ではない。

護衛の絹旗のサポート役として、心理掌握が個人的に寮に置いているだけである。

なので寮監などに見つかると面倒なことになるのだが、流石に暗部に居た彼女は見つかるヘマをしていない。
「さて、フレンダも一緒に見る?」

「あ、出かける前も見てたあの時の映像?」

「そう」


そして心理掌握は、第1位と第2位の凄まじい死闘を目に焼き付ける。


「…」

「これ本当に能力な訳?黒い翼に白い翼って、結局伽話の世界なわけよ」

(そう、この2人の能力は、他の能力者とは明らかに性質が違う)

(第3位の御坂や4位の麦野、5位の私にしたってこんな芸当は不可能)

(それに第1位が翼を出してから、帝督の翼も明らかに変質している)

(『第1候補』と『第2候補』…これでは、スペアというよりもむしろ…)

(そう、同じコインの表と裏のよう。帝督は当事者だから、最後まで気がつかなかったみたいだけど)

(『1位』も『2位』も、アレイスターにとっては両方必要不可欠な存在だった?)

(だとすると、この状態でも帝督が回収されて生かされている説明が付く)

(アレイスターには帝督が、いや正確に言うと『未元物質』が必要不可欠である!)

(だったらそこを利用して、帝督を私のもとに取り戻す)

(その為に今私が調べなきゃいけないのは、『一方通行』と『未元物質』という超能力の秘密)

(あの『翼』は、一体どこから来たのかしらね?)
高速で思考をしている心理掌握だったが、突然の電話がそれを断ち切らせた。


「はい?」

『やー、心理定規ちゃんよね?』

「…」

『返事ぐらいしなさいよ、こいつときたらー!』


大きな声がフレンダにも届き、アイテムの指示役!?と驚きを露わにする。

それを見て、アイテムの指示役が自分に電話をかけてきた事を疑問に思った心理掌握は、さらに無言になる。

しかし相手はそれを気にすることなく話を続けてきた。


『単刀直入に言うわ、壊滅した組織の残存勢力集めて新チーム作るから、昔殺し合った連中同士で仲良くしてねー』

「本気で言ってるんですか」

『当たり前でしょー、こいつときたらー!』

「…うまくいくわけないでしょう」

『何言ってんの、あんたなら問題ないはずでしょ?…《心理掌握》ちゃーん?』

「…」

『あは、バレてないとでも思ってたのか、こいつときたらっ』


楽しそうに電話の女ははしゃいで嘲笑った。
『全員ご自慢の能力で操って、依頼はキッチリやってもらうからねー』

「…」

『なにか言ってみなさいよ、こいつときたらー!』

「…ふふ」

『?』

「そっかそっか、そういうことか…ふふ」

『何がおかしいのよー?』

「前から気になってたのよ。暗部組織の指示役の情報って、どれだけ探しても出てこないなーって」

『…』

「相手が存在しない人間なら、そりゃー出てくるはずないわよね、《心理定規》ちゃん?」

『…』

「声と口癖変えたぐらいで、“バレてないとでも思ってたのか、こいつときたらっ”」

『っ…』

「悪いけど、あなたから悪意ダダ漏れなのよ。前任者のキャラクターを受け継いだところでバレバレ」

『…へえ。やっぱレベル5は一筋縄じゃいかないわね』

「お久しぶりね、驚いたわ。回収されて、そんなことになってたなんて」

『…あんたには感謝してるわー。おかげでこんな底に落ちたんですもの』


本性を見せた心理定規が、ドロドロとした感情を電話越しに向けてくる。
『…せーっかくスクールのゴミ共が死んでくれると思ったのに、肝心のあんたが生きてるんじゃ意味ないわね』

「で、今の地位を利用して、私を殺そうと言う訳?」

『まさか。こっちが簡単に手を出すわけにはいかないのよ』

『…だから、あんたが泥沼で這い蹲るのを楽しく見守る事にするわ』

「御勝手に。悪いけど、こっちにもやる事があるのよねー。邪魔はさせないわ」

『許さない』

心理定規の声がさらに鋭く重たいものになる。

『私の場所を奪ったあんたも、私を捨てた垣根も、絶対許さない』

「…!」

『何もかも思い通りに行くと思わないでよ、《心理定規》さん?』


電話が唐突に切られ、不気味な静寂だけが部屋に残る。


「なんか、フクザツな関係だった訳?」

「そうね、昔色々と」

フレンダはそれで何かを感じ取ったのか、口を噤んだ。


「とにかく、一筋縄じゃいかないことは間違いないわ」

「慎重に計画を立てないと。フレンダも協力してね?」

「!う、うん。結局このフレンダ様に任せるといい訳よ!」

「期待してるわ」

(帝督…もう少し待っててね)


この学園都市の闇が、再び動き出す。

ある者は全てを引き換えにしても、もう一度彼を取り戻すために。

ある者は全てを奪った人間へ、復讐を果たすために。

ある者は全てを利用し、自分のプランを進めるために。

 

10月某日、第七学区のとある病院


その日の夕方も、心理掌握はカエル顔の医者を訪ねていた。


「受け取った資料を全部確認してみたけど…正直、このままではどうにも出来ないね?」

「…そうですか」

「何しろ、“彼”をそこから動かすことすら不可能なのだからね」

「…」

「彼の体から伸びてるコードは、直接部屋の装置に繋がっているわけだしね」

「…」

「彼の脳がその装置の中に入っている以上、無理に取り出せば即死する」


決定的な一言を言われても、心理掌握は欠片も動じなかった。
「…では、もしも彼をこの病院に連れてこれたら?」

「それは…」

「彼の体を再生することは可能なのですね?」

「彼がここに居るなら、残った胴体から細胞のサンプルを入手して、元の姿にする事は出来なくもないね?」

「ありがとうドクター。それさえ分かれば十分です」


諦める様子を見せないレベル5を見て、カエル顔の医者は忠告をした。


「…多分、アレイスターは彼を手放しはしないはずだ」

「いいえ。…あの男が欲しいのは、帝督じゃなくて『未元物質』なんです」

「?」

「必ず彼をここに連れてきます」


すでに何か策があるのか、心理掌握は笑顔で病院を後にした。

それを見送る医者の顔には、深い憂いだけがある。


(なあ、アレイスター。君は…子供が本気になると、手に負えないという事を理解しているのか?)

(まして、あそこまで深く闇に染められた幼い精神は、目的のためなら“なんだってする”だろう)

(…それとも、それも君の計画のうちなのかな?)

 

常盤台中学学生寮(学舎の園)、心理掌握の部屋


今日帰国する予定の絹旗をフレンダが迎えに行ったため、この部屋には心理掌握1人しかいない。

その沈黙の部屋で、心理掌握は実験と計画の調整を3時間以上繰り返していた。


(…私が『体晶』を使うことで、効果は倍近く上昇できる。副作用を無視すれば、5時間の連続稼働が可能)

(常盤台ネットワークの稼働を考えると、計画を実行するのは学生の寝ている深夜が望ましい)

(後は、数日以内に行われる『迎電部隊(スパークシグナル)』の反乱を隠れ蓑にすれば…)

(目障りな《グループ》は私にまで手を回せない…!)

(うぐ!)


計画を思案中に突然吐き気を感じた心理掌握は、慌てて洗面所へ向かい咳き込んだ。
(もう、吐くものなんてとっくに有りはしないのに…)

(…『体晶』か。滝壺ってコは、よくもまあコレに耐えたものね)

(いや、むしろ体質的に私には合わないのかな)


その時、心理掌握は違和感を感じて自分のモバイルを確認する。


(このユニットは…御坂か。流石に第3位は気づくのが早いなー)

(…演算が通常値に戻った。多分、何かを感じたけど気のせいと判断したってとこね)


ほっと息を吐いて安心すると、心理掌握はモバイルを操作して常盤台ネットワークを解除する。
(よし、ネットワーク解除。これでもう本番まで使えないかな)

(ふふふ、帝督と戦った時と同じ状況だ)

(だとすると逆に縁起がいいのかも。…きっと次も、私の勝ち)


かつて常盤台を襲った垣根と戦った時、心理掌握は常盤台の能力者に自作のレベルアッパーを聞かせていた。

それにより心理掌握は生徒の脳波をコントロールし、莫大な演算能力を手にする事が出来ていた。

しかも、以前の時と違ってこのプログラムはすでに完成している。

かつて力を借りた、御坂美琴――第3位の超電磁砲――すら今は演算ユニットの1つでしかない。


(この私がここまでやる以上、絶対に計画は成功させて見せる)


それから20分後、絹旗とフレンダが寮に戻ってきたので、彼女は2人と作戦の打ち合わせをすることにした。

 

 

翌日午前、とある雑踏


暗部新チームの指示役になった少女、かつては心理定規とも呼ばれていた能力者。

その彼女が、楽しそうにゲコ太の風船を持って歩いていた。

最も、ここに彼女より優秀な精神能力者がいれば、それが誤りだと気づいたかもしれない。


(…あの女…)


心理掌握によってこのどん底へ落とされて以来、一時たりとも彼女は恨みを忘れていなかった。

とはいえ、彼女が恨んでいるのは自分がここに落とされたことではない。


(…よくも、私の居場所を…!)


誰よりも大切な人間の隣。闇の中でも付いていくと決めた愛する人の隣。

そこを奪われ、かつ彼の心まで奪われたこと。その事をこそ彼女は恨んでいた。
心理定規は、初めて垣根帝督に出会った時の事を今も昨日の事のように覚えている。


――よお。スクールにようこそ、お嬢さん。

――『心理定規』ねえ。使い方次第じゃ結構な武器になるな。


最初に彼の能力を見たときは、心から圧倒された。

一緒に任務をこなしていくにつれ、ますますその強さを感じ取るようになった。

その恐れが畏怖になり、敬意になり、敬愛になり、思慕となるのに時間はかからなかった。


(彼の恋人になろうなんて、大それた事は考えた事もない)


ただその隣に居させてくれれば、それ以上は何も望まなかった。
だからあの時、いつものように彼に協力した。彼に敵う者などいないはずだった。


――いらっしゃい、心理定規ちゃん

――今日はゆーっくりお話しましょ?


あの悪魔のような女に出会う前までは。

…信じられない事に、その悪魔は自分と愛する彼を戦わせようとした。

その能力はあまりにも強くて逆らえず、無理に抵抗をした結果、自分の意識が壊れることになった。


そしてようやく“自分”を取り戻した時、すでに自分は心理定規ではなかった。
訳も分からず自分の居場所を消され、使い捨ての人員となって数週間。

ヘマをして死んだアイテム指示役の後継者となった彼女は、今まで以上に裏の情報を知るようになった。

そして、あの悪魔が《心理定規》として彼の隣に居る事を突き止めてしまう。


(心理定規(ワタシ)が、彼の役に立つだけならまだ我慢できた)


だがそうではなかった。

未だに信じられない事に、正体がバレた悪魔と彼は、恋人同士になったのだ。

それは、本当の絶望が彼女を襲った瞬間だった。


(あの彼が…垣根が、あんなヤツと恋人に…?)

(…許さない…)

(私を裏切ったスクールなんか大っ嫌い)

(あの悪魔も、裏切った垣根も、全員死ねばイイ)


そのあまりにも悲しい願いは、思わぬ形で実現する。
スクールが学園都市に反乱を起こし、その正規メンバーは次々と殺されていった。


(なのに、あの悪魔は生きている)

(無様にもがいて、彼を助けようとしている)

(…許さない…)

(絶対にそんな事は許さない)


だが、心理定規では立場的にも実力的にも心理掌握を殺せない。

故に彼女は、もう一つのシンプルな結論に至った。


(私が殺せないなら、殺せるヤツを利用すれば良い)


そして彼女は、予定通り目的の人物を見つける。
「あー、ゲコ太の風船だー!って、ミサカはミサカは驚いてみる!」

「可愛い子ね、あなた1人でお買いもの?」

「そうだよ、スーパーまでお使いなのってミサカはミサカは威張ってみる」

「それは偉いわね…ねえ、良い子のあなたにこの風船をあげようか?」

「ホントー!?ってミサカはミサカは喜んでみる!」

「ええ、もちろん。あ、でも他の子が気づくとまずいから、こっちにおいで」


そう言って、ちょっとしたビルの陰に誘導する。
「うわーい、ありがとー!…あ、おねーさんの名前は?ってミサカはミサカは聞いてみる」

「クス…良ーく覚えてね。《心理定規》よ」


そう笑顔で言いながら、彼女は隠していた警棒を、打ち止め(ラストオーダー)の頭に――振り下ろした。


(…あっけない)


警棒をしまって、気絶した打ち止めを抱えると、彼女はどこへともなく姿を消す。


(愛しの彼と同じく、第1位に惨殺されてグチャグチャになるといいわ、《心理定規》サン?)


その場にわずかに漂う、狂気の残滓だけを残して。

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