とある暗部の心理掌握 > 5


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7年前、学園都市のとあるマンションの一室


垣根帝督には、年の離れた姉がいた。

見たこともない両親の代わりに彼を育ててくれた、厳しくて優しい姉だ。

彼女は優れた能力開発研究者でもあったので、普段は研究所に詰めて中々この家に帰ってこない。

そんな彼女が今日は珍しく御馳走を作り、垣根と一緒にお祝いをしていた。

3日前に、垣根が学園都市の第2位に正式に認定されたので、それを祝ってのささやかなパーティである。


「にしても、帰ってくるなら連絡ぐらいいれろよな」

「すっかり忘れてたのよ、許して~」

「まあいいけどよぉ」

「いや~、流石レベル5!第2位!心が広いな~」

「…もう酔っぱらったのか」


垣根は呆れて愚痴をこぼすが、それでもその表情はどこか楽しそうであった。
「どーせなら、第1位になれりゃーカッコも付くのに」

「なによ~、もうお姉さんとしては十分すぎる出来た弟なんだけど?」

「そりゃどーも。っていうか俺の事より、姉さんはどうなんだよ?」

「へ?うち?」

「最近ますます忙しいみたいじゃねーか。俺第2位になったし、もうお金の心配なら…」

「“てっくん”は優しいな~」

「いつまでも“てっくん”って言うな!俺は真剣に言ってるんだぞ」

「うんうん、ありがと。でも、最近上から新しい理論が提供されてね~、その確認実験でしばらくは忙しいままね」

「新しい理論?」

「そうよ~。何でもこの実験が成功すれば、みんなが能力をもっとうまく扱えるようになるんですって」

「へー、それはスゴい…のか?」

「分かってないわね~、ここにいる学生の6割がレベル0なのよ?その子達が能力を使えるようになれば素敵じゃない」

「そういうものなの?」

「ああ、第2位のてっくんには分からないのか~、ショック~」

「分かった、分かったよ!だからくっつくな!」
「あ、そ~言えばその実験には第1位の子が協力するって話なの」

「確か第1位って『一方通行』だよな、見た事ねえけど」

「そ~ねえ、うちもまだ会ってないわ。どんな子か楽しみね~」


結局その日は、久しぶりに姉弟水入らずの楽しい一時を過ごした。


それから2週間たち、新しい実験の話などを垣根が半ば忘れていたころ。

突然、ある一報が垣根にもたらされた。

知らせを受けた垣根は、慌てて連絡を受けた場所へ向かった。

そこで彼は――


「…嘘だろオイ」


変わり果てた姿の姉を見ることになる。

 

 

とある研究所の一室


姉が変死体となって発見されてから、すでに何日が経過したのかも垣根は把握していなかった。

あっという間に葬儀を含む全てが行われ、事件はアンチスキルが引き続き調査している。

抜け殻となった垣根は、ようやく外に出れるようになり、姉の職場にある私物を引き取りに来ていた。


(…何で…)

(姉さんに恨みが?)

(それとも通り魔?)

(犯人さえ分かれば、俺が殺してやるのに…)


垣根がやりきれない思いを抱いて荷物をしまっていると、1枚の写真が目にとまった。

自分が第2位となったことを、姉と2人でお祝いした時の写真である。


(ああ…職場に飾ってたのか)


言葉に出来ない思いが胸を一杯にする。震える手で写真立てからその写真を抜くと、裏にメッセージがあった。



――ごめんね、てっくん

 

思わず垣根は目を見開いた。


(どういう事だ?)

(まるで…自分が死ぬ事を分かってたみたいじゃねえかよ!)


それまでが嘘のように、垣根の体に力が戻ってくる。

そして急いで全ての私物を家に持ち帰ると、ゆっくり調べ始めた。



学園都市のとあるマンションの一室



垣根が姉の持ち物を調べ始めて2日後、ついに彼は歯ブラシの中にある超小型チップを発見する。

その中には、姉の言っていた新しい実験の全容が記録されていた。


実験名称:暗闇の五月計画


実験内容:学園都市第1位『一方通行』の演算パターンを置き去りの頭にインプットすることで
    
     被験者の『自分だけの現実』の最適化を図る


実験結果:第1次実験では、被験者20名のうち11名が死亡、残る9名も発狂などをおこしいずれも失敗


(これは…置き去りを使った…人体実験!?)
やがて映像は、その被験者の苦しみもがく様子に切り替わった。


――ああああ!苦しい!

――誰!?私に話しかけないでぇ!

――気持ち悪い!いや、死んじゃう!

――頭に誰かいるよ!割れちゃうよぉ!


映し出された凄惨な光景に、垣根は思わず目を背けて涙を流した。


(こんなことをしてたのかよ!)

(…ア、アンチスキルに通報…)


垣根が思わず立ち上がった時、再び映像が切り替わった。そこに写されたのは…


「…てっくん」

「姉さん!?」

「さっきまでの映像を見たわよね?」

「ごめんなさい。まさか、こんなことになるなんて…思いもしなかった」

「すでにこの研究所は上の人達に乗っ取られたも同然…」

「この酷い実験は、まだまだ続くわ」

「それを、うちは止められなかった…!」

「上の人達に抵抗したから、きっとうちはすぐに殺される」
「無関係なてっくんに頼むなんて最低とは思うけど…」

「ここにいる置き去りの子供達を、どうか助けてあげて!」

「今のうちじゃ、アンチスキルに連絡を取ることも不可能なの」

「なんとか通報して、この実験を中止させないと…!」


その言葉を最後に、映像は不自然に途切れて終了した。


「…」

いつの間にか、垣根の目から涙は消えていた。吐き気もない。

代わりに心を満たしたのは、たった1つの感情。

――1度も自分を頼る事のなかった姉が、唯一泣いて頼ったのは死んだ後だった。


(ふざけんな)

(ふざけんな!)

(ふざけんなよ!!)


垣根は怒りにまかせて壁を殴る。痛みなど気にせず、何発も何発も。

やがて彼は苦しそうに絶叫して、その場に倒れ込んだ。

…そしてもう一度立ち上がった時、彼は覚悟を決めていた。


「アンチスキルはいらねえ…この俺の手で、ふざけた実験をぶち壊してやるよ」


それが、さらなる悲劇を生みだすとは知らずに。

 

 

とある研究所


垣根が再び姉の職場へ戻ると、温和そうな若い研究者が出迎えた。


「おや、垣根さんの弟くんじゃないか」

「…」

「2日ぶりだね。ここに何か忘れ物でも?」

「…ああ」


瞬間、ようやく扱いに慣れてきた『未元物質』の翼が現れ、研究者を一撃で吹っ飛ばした。


「…コレが忘れものだ、クソ野郎」


そう言い捨てて、垣根は研究所へ侵入した。

騒ぎを聞きつけた警備の人間や、研究所の職員を全て薙ぎ払って彼は進む。

――まだ11歳のガキだ、とっとと殺せ!

――なんで第2位が襲ってくる!?

――化け物!くたばれ!


わずか2日前に来た時とは、全く違う正体(ヒョウジョウ)を見せる研究所。

だがその全ては『未元物質』の前にひれ伏し、わずか10分で研究所は制圧された。


「おい、置き去りの子供たちはどこにいる?」

「…クソ…」

「答えないなら、本気で殺す」

「…地下だ。第3待機室にいる」


答えた研究者を投げ捨てると、垣根は1人地下の置き去りのもとへ向かう。

垣根が待機室に入ると、そこには凄まじい異臭が漂っていた。


「おい、しっかりしろ!」


部屋の明かりを付けて確認すると、およそ30人近くの子供たちがぼろ布のように横たわっていた。

すでに実験を受けたのか、虚ろな表情でうわ言を呟いているものもいた。

(だが、今から全員助けられる。姉さんの最後の願いどおり、実験は中止に追い込めた)


垣根は子供たちに手を差し出した。


「助けに来た。全員ここから逃げるぞ」


…その時、異変が始まった。


「ガアア!」

「…アアア…コロス…」

「おい、何しやがる!?」


起き上った30人の子供たちが、突然、垣根に能力を使って襲いかかってきたのだ。

驚いて応戦するが、子供たちを殺すわけにもいかない垣根は、防戦一方になる。

その時、垣根の耳に冷たい機械の音声が聞こえてきた。


警報:暗闇の五月計画、フェイズ2へ移行を確認。被験者の実践戦闘能力テストを開始。

警報:戦闘目標、レベル5第2位『未元物質』。戦闘終了までこの部屋を封鎖します。


慌てて垣根が振り返るがすでに遅く、待機室は鋼鉄の隔壁が降りて完全に封鎖された。
(そんな…罠だったのか!)

(初めから、この俺を誘い込むつもりで・・・)


極めて優秀な頭脳を持つ垣根は、11歳ながら“敵”の目的を看破してしまう。

姉の頼みで来た自分が、この子供たちを倒す事など出来るはずもない。

だが、第2位の自分がこの程度の能力者たちに負けるはずもない。

つまり、逃げない限り戦いはいつまでも続く事になる。

それが目的だろう。自分が防戦一方で戦いを続ければ、それだけ実験データを大量に入手できる。


(姉さんの善意を…利用しやがったな!)


恐らく、姉の残したメッセージに気づいていた連中は、あえて俺に発見させて研究所に来させたのだ。

最後に力を振り絞って唯一残した手掛かりも、それすらも利用したのか。

垣根の視界が怒りで真っ赤に染まる。それでも頭が冷静に動くのが恨めしく感じるほどに。


(思い通りになんて…させるかよ!)


ならば、垣根は何としてもこの部屋を脱出して、今度こそ実験を終了させなければならない。
(でも、どうやって?)

(鋼鉄の隔壁を破壊するには、時間がかかる)

(30人の能力者と戦いながら出来る芸当じゃねえ)

(子供たちを一旦気絶させるか?)


ゴッ!!

垣根は自分の周囲を翼で薙ぎ払い、その爆風で子供たちをまとめて気絶させようと試みる。

だが、元々朦朧として強い意識を持っていなかった子供たちは、すぐに意識のないまま起き上って垣根に襲いかかってきた。


(キリがねえ!)

(相手しながら隔壁を破壊できない以上、逃げ場は…)

(待てよ、鋼鉄の隔壁じゃなく、ただの天井なら…!)


まだうまく飛ぶ事が出来ない垣根だったが、必死に天井付近まで飛翔し、全力で穴を開け始めた。

しかし、その間も子供たちの能力が次々と垣根を襲う。念力、火炎、電気、突風、正体不明の精神攻撃。


(痛い、熱い、苦しい…クソったれ!!)


体をボロボロにしながらも、ついに天井に穴を開けた垣根は急いで1階に着地する。
(なんとか逃げれた、後はどうやって子供たちを正気に戻す…?)


ようやく一息ついた垣根だったが、絶望はまだ終わらない。

再びあの悪魔のような機械の声が下から響いた。


警報:暗闇の五月計画、フェイズ2は第2位の離脱の為、失敗を確認。

警報:よってフェイズ2代理案を開始。戦闘目標修正、被験者同士。


その言葉と同時、子供たちは今度は互いに攻撃を始めた。


「クソが!ふざけんな!どうなってやがる!」


垣根は吠えるが、その声は誰にも届かない。

垣根が逃げたところで、結局子供たちは殺し合う。

だが、自分が戻ればこの実験は延々と続く。

気絶させられない以上、11歳の垣根に子供たちを殺さず無力化する方法は思い浮かばなかった。


(急いで正気に戻さないと)

(けど、この実験は頭に直接第1位の演算パターンを埋め込むってやつだ)

(外部刺激でなんとかなるレベルとは思えねえ)

(…この研究所の中を探して、麻酔用ガスかなにかを見つけて昏倒させるのが一番か)
垣根は素早く判断を下すと、研究所を調べながらアンチスキルへ電話をかけた。


『…はい』

「あ、アンチスキルですか!置き去りを使った違法な実験施設があるんだ!」

『本当ですか』

「はい、場所は――」

『了解しました、すぐに向かいます』

「頼む!早く!」

「…はい、到着しました」

「え?」


何故か電話の声が、自分の真後ろから聞こえてきた。

垣根が驚いて振り返ると、そこには顔に入れ墨をした白衣の研究者らしき男が笑いながら立っていた。


「ぎゃはははははは!!」

「誰だテメェ!アンチスキルじゃねえな!」


男は垣根に答えずに、尚もおかしくて堪らない様子で笑い続けている。
「いやー、ないわー。あのガキの演算パターンを頭に植え付けるとか、出来る訳ねえっつーの」

「中には中途半端に成功したやつもいるみてぇだが…」

「これ以上は金のムダだと思わねえか、なあおい?」

「誰だテメェって聞いてんだろ!テメェがこの実験を指揮して姉さんを殺したのか!?」

「…はー?」


男は呆れたようにナイナイ、と手を振った。


「話聞いてたかよボケ、出来る訳ねえってたった今言ったろーがよ」

「じゃあ、何でここに居やがる!」

「お仕事だよ、お偉いさんに言われてな」


そう言うと、男は垣根の開けた穴から細長い物体を投げ込んだ。

それは落下と同時にガスを噴出し、子供たちを全員昏睡状態に陥らせる。


「まーったく、手間掛けさせやがってよぉ」


音が消えた事を確認すると、男は無線で誰かに連絡を取った。


「まだ生きてるのを回収しとけ」

『了解です、木原さん』
垣根は、目まぐるしく動く展開に付いていくことが出来ない様子で呟いた。


「…助けに来てくれたのか?」

「そうでーす。ぎゃはははははは!」


その時、男の持つ無線に連絡が入ってきた。


『木原さん、逃走していた研究者を全員捕獲しました』

「遅えよバーカ」

『申し訳ありません。それともう1つ』

「なによ?」

『研究者の1人が自殺しました。どうやら強制的に実験をやらされたらしく、完全に壊れてましたね』

「あー、それってひょっとしてあの垣根ちゃん?」

『はい。一応遺体は回収してあります』

「あいつもバカだねえ」

「ちょっと待てよ!」


漏れた話を聞いた垣根は男に詰めよった。


「研究者の垣根って!?」

「おいおい、決まってんだろ。キミのねーさんじゃないか。あはははぎゃはは!」

それを聞いて垣根は目眩がした。それでもなんとか耐えて大声を出す。


「姉さんはちょっと前に殺されたんだ!葬式もやった!」

「…それに…最後のメッセージだって…」

「おーいおい、どこまで甘いのよキミ?」


絶望は終わらない。男は楽しそうに告げた。


「実験動物(ダークマター)確保のため、無理やりチップを用意させられたに決まってんじゃーん」

「なんだと!?」

「キミのねーさんが必死で残したチップを捨てずに、わざと自分を誘い込むエサにしたとか思ったかよ?」

「…」

「ハズレ。偽の“変死体”もチップも上の連中が用意したんでーす、だって優秀な研究者は殺すより利用した方がいいからなあ」


男はギャハハと笑って垣根の心を抉る。


(姉さんは…死ぬ事さえ…許されなかったのか…?)

(姉さんが…俺を実験に巻き込むことを許すはずはねえ)

(なのにそれを無理やりさせたってことは…)


今の垣根には想像もつかない恐ろしい目にあわされたのだろう。

「いやー、でも良かったな。中止にならなきゃこのまま死ねずにいただろうに、今度こそ死ねたみたいで」

「ふざけんなよ!!」


垣根は男に掴みかかって絶叫した。


「こんなことは間違ってる!」

「へー」

「アンチスキルに通報したのにお前が来たって事は、きっとアンチスキルなんかより上の立場…」

「そう、統括理事会クラスの奴がこの実験を指揮してたんだろ!」

「ほー。で、だとしてどーするのよ?」

「俺は学園都市第2位の垣根帝督、『未元物質』だ!」

「だから?」

「学園都市のトップに会わせろ!こんなことを許してたまるか!きっと第2位の俺の意見なら…」

「無駄だな」

「!」

「オマエ“程度”じゃ、アレイスターは相手にしねえよ」

思わず、掴みかかった垣根の手から力が抜ける。


「なら…どうすれば…そのアレイスターってやつと交渉するにはどうすればいい!?」

「知るか。悩んでるとこ悪いが、実はこれが俺の今日の本当のお仕事なんだわ」


そう言って、男は垣根に麻酔弾を撃った。


(そうか、最初からこいつは俺が目的で…)


揺らぐ意識の中、垣根はこの悲劇が全て自分のせいで起こった事をようやく悟った。

そしてこの学園都市が、腐った連中の跋扈するおぞましい場所だと言う事も。

 

それから暗部という闇に落ちて7年。

心優しい少年は、その全てを変えるため、アレイスターとの直接交渉権を手に入れることを誓った。

たとえ自分が、決して戻れぬ闇の底に沈むとしても。

 

 

 

そして現在、スクールの隠れ家


「う…」


心理掌握はゆっくりと目を覚ました。

自分がなぜソファーに寝ていたのか、眠る前の状況を徐々に思い出し…


「帝督!?」


ふらつきながらも急いで起き上り、辺りを見回すが誰も居ない。


(なによ…『お前はこの俺の手元にいろ』とかカッコイイこと言ったくせに!)

(今さら私を手放すなんて…許すわけないでしょ!)


急いで垣根を追いかけようと隠れ家を飛び出した瞬間、携帯にメールが届く。


(ひょっとして、帝督?)


急いでメールをチェックした心理掌握は、その場に力なく倒れ込んだ。


――緊急報告、学園都市第2位『未元物質』こと垣根帝督は、第1位『一方通行』に敗れ、死亡した。

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