とある暗部の心理掌握 > 4


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10月9日(学園都市独立記念日)朝、スクールの隠れ家


垣根と心理掌握は、研究所襲撃予定時刻3時間前の今から集合していた。

と言っても、2人で甘い時間を過ごそうと言う訳ではない。

予定外の事態が発生したので、早めに集まっていただけである。

その証拠に、隠れ家には3人目の人物がいつも通りの無表情で現れた。


「…グループに捕まってた人材派遣(マネジメント)は始末した」


スクール正規メンバーのゴーグル少年が、一仕事終えて帰還したところである。


「御苦労さま。グループの反応は?」

「居たのは下部組織だけ。正規メンバーには気づかれていない」

「よし。いやあ、まったく焦らせやがる。早速連中から殺す羽目になるかと思ったぜ」


素早い対策を打てたためか、垣根は余裕の笑みを崩さずにゴーグル少年を労った。
「にしても、グループが早速出しゃばるなんてね」

「ま、これ以上はグループも動けないだろ。ブロックの対処にかかりきりになるはずだ」

「まあねー。ブロックのおかげで敵の戦力が分散されるのは助かったわ」

「でも帝督、暗部には他にも厄介な《アイテム》と《メンバー》がいるんだけど」

「大した問題にはならねえな、その2つなら同時に相手したってケリはつく」


この第2位ならそうだろうが、心理掌握やゴーグル少年にはとてもそんな余裕はない。


「…只でさえ綱渡りな計画なのに、そんな事態になったら私は逃げて“他人の振り”をするわ」

「ばーか、今さら逃がすかよ。首輪で繋いでやろうか」

「うわぁ…」

「…趣味悪い」

「おいお前ら!俺をそんな目で見るんじゃねえよ!」


学園都市に喧嘩を売っている最中とは思えないような明るい声が、隠れ家に響いた。

それがスクール3人の最後の集まりだとは、微塵も予感をさせないで。

 

 

同日午後、第18学区、素粒子工学研究所


スクールのスナイパー砂皿が、午前中に親船の暗殺騒ぎを起こした結果、この研究所はかなり手薄になった。

そこをスクールの3人が強襲、研究員から『ピンセット』の在りかを聞き出した。


「よし、じゃあこいつを車に積んでおけ」


垣根の指示によって、スクールのステーションワゴンにピンセットが移送される最中…


「はん、尻尾をつかんだわよ、スクールの皆さん?」

「麦野の読みが超当たりましたね」

「結局、ここで全員殺せば解決なわけよ」


爆音が研究所に響き、アイテムの4人が姿を現した。


「ちょっと帝督、結構ヤバいんだけど?」

「確かに、今ここで戦闘をしてピンセットを壊すわけにもいかねえな」

「適当にあしらってここは一旦引くぞ」
指示を受けた心理掌握は、持っていたレディース用の拳銃で威嚇発砲。

だが、弾丸を無視して絹旗が走り寄り、その『窒素装甲』で彼女をぶん殴ろうとする。

…が、


「――!?」

「今のあなたに私を殴れる?」


それを予測していた心理掌握は『心理定規』を発動、相手の動きを止めて奥へ逃げ去った。


「逃がすかよォ!鬱陶しい能力使いやがって!」


その様子を見ていた麦野は『原子崩し』を彼女に向けて放射するが…


「おい、俺を無視してあいつに手ぇ出すなんて、良い度胸だな?」


垣根の背中から生える『未元物質』の翼が、それを麦野自身へ跳ね返した。


「ちぃっ!」


とっさに横へ避けるものの、完全には避けきれずに麦野のコートがジュゥ…と嫌な音を立てて焦げ付いた。

そして麦野が態勢を崩したその隙に、垣根の翼が彼女の頬を強打する。
二度三度ゴロゴロと転がった麦野は、口から流れ出る血を拭いながら叫んだ。


「そうか…テメェ第2位の垣根帝督かっ」

「おう、これでもスクールのリーダーなんだ、ヨロシク」

「ふざけんな、死ね!」


麦野は怒りにまかせて『原子崩し』を連発し、建物ごと垣根を殺そうとする。


「今がチャンスってわけよ!」


2人のレベル5が戦っている間に、横からフレンダが携行型ミサイルを垣根に撃ち込む。

だがその全ては不可視の力に遮られ、届くことなく自爆した。

ゴーグル少年の持つ『念動力』がミサイルを防いだのである。


「ブ・チ・コ・ロ・シ・か・く・て・い・ね」

「…え!?」


それを見て怒りが我慢の限界に達した麦野はゴーグル少年に走り寄ると、彼の首を片手で掴む。

そして…彼が抵抗する間もなく『原子崩し』で顔を執拗に切り裂いていく。

その上完全に死んだ彼の体からゴーグルをむしり取って、引きつるような笑みを浮かべた。
「帝督!積み込み終わったわ!」

「よっしゃ、じゃあな第4位?」


その狂気を見て尚、欠片も動じることなく垣根はその場を翼で破壊。

衝撃に巻き込まれた絹旗やフレンダが大きく吹っ飛んだ。

その上、破壊された研究所の粉塵が煙幕となり、麦野の目から垣根の姿を隠す。

派手な作戦のおかげでようやく逃走してきた垣根に、心理掌握は笑顔で告げた。


「帝督はピンセットと一緒に逃げて」

「お前はどーすんだ?」

「キー刺さったままのクレーンを見つけたの。それでアイテムを足止めしておく」

「…しょうがねえな、悪いが後を任せた。また後で落ち合うぞ」


垣根は一瞬触れるだけのキスを彼女に贈ると、下部組織の人間と共に研究所を後にした。


(こんな非常事態に…ホントズルイ男、ムカつく!)


悲しい事にその余韻に浸る間もなく、心理掌握はクレーン車へ駆け寄った。

 

 

素粒子工学研究所の外


心理掌握がクレーン車を動かした時、ちょうどアイテムのメンバーが車で垣根を追いかけようとしていた。


(…悪いけど、殺す気でやるからね。とくにアイツに手を出した第4位!)


なので一切の遠慮なくクレーン車で激突し、アイテムの車をビルの間に挟み込んだ。

さらに、止めをさすため巨大鉄球を使用して車を原型も残さず破壊する。

研究所付近に、ドゴーン!!という映画のような派手な爆発音が辺りに響く。


(うわ、逃げられたか。しかも3人バラバラに散っちゃった)


それでも流石はアイテムと言うべきか、全員生き残ってバラバラに逃げだした。


(第4位の能力は知ってるけど…あの男は誰だろう?)

(情報の全くない彼から先に片付けておくべきかな)


心理掌握はそう判断すると、路地裏に逃げた謎の男(ハマヅラ)を追いかけた。
近くにあるビルに逃げ込んだ謎の男を追いかけていくと、彼は心理掌握の姿を見て一瞬動きを止めた。

が、心理掌握が拳銃を取り出したのを見ると急いで鋼鉄のシャッターを作動させた。

慌てて何発か撃つが、弾丸は全てシャッターが受け止めてしまう。


(ちぇっ…“これ”じゃあシャッターを破壊するのは不可能ね)

(ん?)


ふとモニターでその男の様子を見ると、彼は形容しがたいジェスチャーで思い切り彼女を小馬鹿にしていた。


(決めた。こっちを使ってあの馬鹿男を泣かす)


頭に来た心理掌握は、腰から四〇ミリ小型グレネード砲を取り出した。

それを見たのか、モニターには急いで逃げようとする馬鹿が映っている。

当然、心理掌握は躊躇せず発砲――鋼鉄製のシャッターが吹き飛んだ。


「あれ?…もう逃げ場は無いのになー」


何故か馬鹿の姿が見えない。ここは3階で、他に隠れ場所は無いはずだ。

その時、彼女の耳に「負け犬上等ォおおおおお」という叫び声が聞こえてきた。
「まさか…」


急いでテラスに到着するが、そこにもう馬鹿はいなかった。


(…マジで飛び降りた?)


下を見て確認するが、そこには若奥様が乳母車を押している光景だけがあった。

それを見て溜息をつくと、心理掌握は垣根の携帯に電話をかけた。

念話を使わないのは、仮に彼が戦闘中の場合は注意を逸らしてしまうからだ。

携帯なら、出ないという選択肢がある。

だがその心配をよそに、垣根はワンコールで出た。


「標的であるアイテムの男を見失ったわ。近くにいるのは幼な妻とベビーカーだけ」

「…ターゲットの男が幼な妻またはベビーカーに偽装しているという可能性はあると思う?」

『ばーか、死ね』
「ひど!…でもやっぱり無いわよねー。油断したわ」

『まあ、おかげでこっちは無事に逃げられたから問題ねえよ』

「そう。今どこ?」

『例の倉庫へ向かってる。そこでピンセットを組み直す』

「分かった、気を付けてね。そろそろ他の組織も本気出してくるから」

『誰に向かって言ってるんだ?』


はいはい、と答えて通話を終了した心理掌握は、ここのエレベーターを探すためテラスを後にした。


2分ほどして。ようやくビルから出てきた心理掌握に、スクールの下部組織の男が話しかけた。


「心理定規さん。メンバーの1人、馬場芳郎の居場所を突き止めました」

「どこ?」

「第22学区の『避暑地』、VIP用の地下シェルターです。…厄介ですよ」
「うーん、そうでもないわ」

「は?」

「何人か人を送って、シェルターを緊急モードにしちゃうの」

「緊急モードでロックがかかったら、入り口に水攻めでもすればいいわ」

「ですが、それでは殺せませんよ?」

「いいのよ。普段からそんなトコに引きこもるような臆病者は、それだけで勝手にビビって自滅するわ」

「…分かりました、さっそく実行します」

「お願いねー」


指示を終えてスクールの車に戻った心理掌握は、既に乗っていたもう一人と対面した。

…乗っているとは言っても、拘束され、銃を突きつけられている状態ではあるが。


「アイテムの、フレンダちゃんだっけ?よろしく」

「…結局どう見ても、私の方が年上なんだけど…」

「ちゃん付けが嫌なの?細かい事は良いじゃない。それよりも」


心理掌握は笑顔でフレンダの目を見つめた。


「アイテムについて、色々教えて欲しいんだけどな?」

 

 

第4学区、食肉用冷凍倉庫


「もう一度ここで絶望しろコラ」


垣根が笑いながらそう告げて、《メンバー》のリーダーである博士を抹殺してから十分後。

再び心理掌握が垣根の携帯を鳴らした。


「よお、どうしたよ?」

『…いやにテンション高いわね。何かあったの?』

「分かっちまうか。ついさっきメンバーの頭のクソジジイを潰したところでな」

『ああ、そう言う事。納得』

「で、そっちの用件は?」

『ちょっとした経過報告よ。メンバーの正規要員は、これで全員死んだか動けない状況になったわ』

「呆気ねえな」
『ついでに、ブロックも全滅よ。グループによってみんなやられちゃった』

「なんだ、思った以上に使えない連中だ」

『まあ、彼らじゃグループ相手に勝てる訳もないしね』

「すると、残る問題は…」

『そのグループとアイテムね。特にアイテムは、私たちを殺したくてうずうずしてるでしょうし』

「…憂いはここで断っておくべきだな。アイテムのアジトへ行くぞ」

『そう言うと思って、アイテムのフレンダちゃんから情報を聞き出したところよ』

「ああ、研究所にいた外人女だろ。あっさりこっちに寝返ったのか?」

『そ。もう用は無いでしょ?…私の好きにしちゃってもいい?』

「俺は興味ねえからな、ご勝手に」

『じゃあそうするわ。アイテムのアジトの場所は今からメールするから、現地で落ち合いましょう』

「おう。あんまり遅ぇとご褒美無くなるからな」

『把握したわー』ピッ


心理掌握の言葉通り、携帯にすぐにメールが届いた。

アイテムは第3学区のレジャービル、そのVIP用サロンに集合しているらしい。


「んじゃまあ、あの凶暴女たちに勝利宣言をしに行くか」


学園都市最大の敵となった第2位が、右手のピンセットをカキカキと鳴らしながら暗い目を向けた。

 

 

研究所近く、スクールの車の中


「もういっそ、殺してほしい…」

「そう言う無駄な事は、お馬鹿さんがやる事よ?」

「結局、この状況が馬鹿げてるわけよ…」


力なく項垂れるフレンダに対し、ひどく楽しそうな心理掌握が笑顔で告げた。


「さ、次はお待ちかねのメイド服ね」

「さっきの巫女さんで終わりじゃない訳!?」

「え、超機動少女カナミン(マジカルパワードカナミン)のコスチュームが良いの?」

「…メイド服が良いです」

「素直にそう言えばいいのに。…うん、やっぱり金髪の子だと服の黒さが映えるわねー」

「…ううう」

「じゃあ、残りはあとで。帝督に呼ばれたしそろそろ行かなきゃね」

「…ねえ」

「ん?」

「どうしてアンタは私を殺そうとしないの?」

「だって、殺したら利用価値が無くなるじゃない」
「利用価値?もうアイテムに戻れない私に価値なんて…」

「分かってないわねー。あなた、あの御坂とやり合った凄腕じゃない」

「…エヘヘ」

「そんな凄腕なら、今度は私の右腕として活躍しなさいよ」

「ま、まあこのフレンダ様の実力を見破るアンタになら、雇われてやっても良いわけよ!」


あっさりと懐柔されるフレンダを見て少し呆れる心理掌握だが、顔には欠片も出してはいない。


(…年上のくせに、こいつちょろいなー)

「じゃ、あなたは私たちの隠れ家に行きなさい。ここのお兄さんたちが送ってくれるから」

「うん。…麦野達とやり合うの?」

「帝督はその気でしょうね。私が行くのは違う目的だけど」

「違う目的?」

「優秀な人材のスカウトよ」


そうセリフを残して、心理掌握は別の車で第3学区へ向かった。

 

 

第3学区、とある高層ビルの25階


フレンダと別れてから30分少々後、ようやく到着した心理掌握は目の前の光景に溜息をついた。

何故かビルは半壊しており、中の客は我先に逃げだして大混乱になっている。

しかも、せっかく補充した砂皿というスナイパーが爆発によってやられたようだ。


(うわあ、大惨事…常盤台の時といい、ホントコイツ常識知らずね)


最も、目の前の男はその惨状を大して気にしていない様子だ。

平然と足元に倒れている2人のアイテムメンバーを見下ろしている。


「帝督、ちょっと派手にやりすぎじゃない?」

「違えよ、騒ぎの大半は第4位やそこで転がってる『窒素装甲』のせいだ」

「彼女、死んでないわよね?」

「こいつはそういう能力者だからな、しぶといもんだ。それより問題なのは…」

「こっちの滝壺ってコの方ね」
「ああ。この様子だともう長くねえぞ」

「…まさか今でも『体晶』を使っている能力者がいるなんてね」

「しかも、誰かさんみてえにこの俺を乗っ取ろうと無茶しやがったからな」

「一体誰の事かしら?」

「怒るなよ、そのおかげで簡単に対処できたんだからな」

「脳内の『未元物質』を使って逆流を防ぐなんて…反則もいいとこね」

「ふん。…とりあえずこの様子なら、こいつを殺す必要も無くなったな」

「アイテムはこれでもう動けないしね。さっさと『滞空回線』を調べに行きましょう」


その時エレベーターが上がってきて、中から見覚えのある馬鹿が姿を現した。


「あれ?何だ。戻ってきちまったのか」


垣根の言葉に対し、浜面は無言。袖に隠した銃を一気に突きつけた。
「どういう事、コレ?」


心理掌握の言葉で、ようやく浜面はあの時の「クレーン女」もいることに気がついた。


「テメェあの時の!?」


浜面が2人のどちらに照準を合わせるべきか迷っているうちに、心理定規を発動。

ご丁寧にその能力を解説してあげたところで、会話を続ける。


「滝壺ちゃんを助けに来たのかー、その顔でかっこいい事するじゃない」

「うるせえ!…クソ!」

「でも、このままだとその努力は無駄に終わるんだけど?」

「全くだ。俺たちがどうこうする前に勝手にこの女は死んじまう」

「テメェら何言ってんだ!?」


垣根は、退屈そうに滝壺の置かれた状況を説明する。

それを聞いて、浜面は愕然とした表情を浮かべた。
「そんな…」

「このコを守りたいなら、もう2度と能力を使わせちゃダメなの」

「…早くこのコを連れて逃げたら?」

「俺らを見逃すのか…?」

「今の俺らにとっちゃ、こいつなんてサーチ能力が使えないならどーでもいいからな」

「それに、この絹旗ってコも殺したりしないから安心していいよ」

「……ああ」


声を絞り出してそれだけ言うと、浜面は滝壺を背負ってビルを後にした。


「ホントにただの下っ端だったなアイツ。暗部にしちゃー素直すぎる」

「良いじゃない、ああいうのも。彼がどこまで頑張れるか楽しみだし」

「それはどーでもいいが…本気でこの女も殺さない気か?」

「うん。人間は生きてる限り何らかの形で利用できるものよ」

「それは死体であっても同じなんだがな」


結局垣根は心理掌握を止めず、甘ちゃんだな、と笑うだけにしておいた。
「先に戻って『滞空回線』の解析をしておく。やること済ませたらお前も来るだろ?」

「そうね。2時間ほどで戻る予定よ」


数人の下部組織だけを残して、垣根は一足先に隠れ家へ向かった。


「…あのお人よしは超騙されましたが、私は甘くないですよ?」


こっそり目を覚ましていたボロボロの絹旗が、心理掌握を睨んで話しかけた。


「ん、どういう意味かな?」

「どーせ本当は私をここで超殺す気でしょう?あの馬鹿が逃げやすくなるために超嘘をついたに決まってます」

「何か、アイテムの境遇が分かる気がするわねー」

「…超本気で殺さないんですか?」

「だからそう言ってるじゃない」

「ははあ、ってことは超汚れ仕事を押し付ける気ですね」

「…良いですよー、今までと超同じでしょうから」

「多分想像できてないと思うんだけどなー」

「で、何をこの絹旗サマにさせるんですか?」
「私の護衛よ」

「は、護衛?」

「そうそう、あなたがピッタリなのよ!」

「…あの第2位が超いるのに?」

「ふふ、私が頼むのは常盤台中学で生活する時の護衛なの」

「常盤台中学ってあの超お嬢様学校の?」

「そうよー。レベル4の女子中学生だなんて、正にパーフェクトよね」

「なぜそんなことが必要なのか、超意味が分かりませんが?」


不思議がる絹旗に、心理掌握は念話を使って語りかけた。


『聞こえるかなー?』

「!」

『うふふ、驚いたー?』

「この強力な念話…常盤台…もしかして…?」

『そ。私は《心理掌握》って言うの。驚いた?』

「第5位が暗部入りしてるなんて、超初耳です」
『スクールの私は《心理定規》だからね。…まあこういう訳なの』

「いやいや、どういう訳ですか?」

『私たちレベル5には何かと敵が多いでしょう?』

「はあ」

『なのに御坂や帝督みたいな怪物と違って、私はただのか弱い女の子だから』

「か弱い…?」

『あなたみたいな格闘もOKな護衛が欲しかったのよ』

「いやいやいや、か弱い?」

『それ以上余計なコト言うと記憶を覗いたり消しちゃうかもよ?』

「超か弱いレベル5の護衛を超任されました!」

『ありがとー、あ、優秀なサポート役も居るから安心してね?』

「サポート役?」

『フレンダって言うんだけど』

「あいつ超何してるんですか…」


ますます体をぐったりとさせた絹旗をスクールの車へ連れ込むと、心理掌握は早速常盤台へ電話をかけた。

その内容に困惑する先生たちであったが、心理掌握は強引に要求を押しとおし――時期外れの転入生が1人誕生した。

 

 

常盤台中学学生寮(学舎の園)、心理掌握の部屋


結構な怪我をしていた絹旗だったが、心理掌握は派閥の能力者を使って彼女を歩ける程度にまでは回復させた。

そして一通り寮の案内を済ませると、これから暮らすことになる自分の部屋へ連れてきた。


「これから私は帝督のところに戻るから、校舎の案内はまた明日ね」

「…」

「とりあえずこの部屋でくつろいでてね。そのうちフレンダも来るから」

「…」

「いやーそれにしても、私の部屋は元々1人分空いてたし、ちょうど良かったわ」

「…ここの学生がみんなして、あなたの顔を見ると超頭下げてくるんですが」

「そりゃーねー、伊達に派閥だ何だと苦労してないもの」

「そうですか」

「あ、クラスメイトの紹介も明日ね」

「分かりました」

「あれー、顔がニヤケてるよ?絹旗ったら学生生活もまんざらでもない感じ?」

「まさか。こんな形で学生生活を送ることになるとは超迷惑です」
「…ここの食事は結構美味しいのよ?デザートにも力入れてるし」


ピク、と絹旗の体が反応する。


「学生はみんなレベル3以上だから変な目で見られる事もないし」

「学舎の園にしかないB級専門映画館もあるし」

「仕方ないですね、しばらくは居てあげましょう」

(こいつもちょろいなー)


こうしてアイテム2人を自分の配下に置いた心理掌握は、隠れ家にいる帝督のもとへ向かうことにした。


「じゃあ、ちょこっと出かけてくるね」

「はいはい」


部屋に1人になった絹旗は、ポフン、とベッドへ座り込むと考え事をした。


(昼前には殺し合いをしていた人間を、自分の護衛に雇うなんて…)

(しかも一緒の部屋に住まわせるなんて…)

(それだけ自信があるってことなんでしょうかね?)

(まあどうせアイテムが負けた今、私たちは何も出来ませんが…)

(アイテムと言えば、滝壺さんとあの馬鹿面はどうなりましたかね?)

(…それに、第2位にやられた麦野も)

(仮にもレベル5の麦野が、あんな簡単にやられてるはずはないと思いますが…)


まさかその麦野と浜面が、ついさっき殺し合いをしていたとは流石に想像できない絹旗であった。

 

 

 

スクールの隠れ家


心理掌握は常盤台を出た後、まっすぐに垣根のいる隠れ家に向かった。

すでにそこで作業をあらかた終えていた垣根は、片手をヒラリと上げて反応した。


「順調そうね」

「まあな。解析はもう終わってる」

「そう。…あ、ここに来る途中に聞いたんだけど、アイテムが行動不能になったって。しかも原因は仲間割れ」

「それで第4位の麦野がダウンしたから、組織の維持は不可能とみて間違いないわね」

「あん?仲間割れって事は、麦野は一応、俺の攻撃からは逃げきってたのか…でも、誰が?」

「フレンダと絹旗はお前が囲ったし、滝壺理后には直接的な戦闘力はねえし…」


ここでようやく垣根はある男の顔を思い浮かべた。
「まさか…」

「そのまさか。顔の割にかっこいいことしてたあの浜面君がやったって」

「マジかよ、あいつ無能力者だろ」


垣根は軽く口笛を吹いて馬鹿そうなレベル0を賞賛した。


「…で、解析結果の方は?」

「ダメだな。結構なデータだったが、これだけじゃアレイスターと対等にやり合える立場に立てねえ」

「そっか…残念ね」

「ま、ある意味予想通りだがな。このデータにプラスしてもう一押しする必要がある」

「なら、やっぱりやるの?」

「…ああ、学園都市第1位を殺す。アレイスターと交渉するには『第一候補』になるしか道はねえ」


あの最強の第1位、『一方通行』の戦績を思い出して心理掌握はげんなりとした。


「気が進まないわー。彼はあらゆるタイプの精神能力者と戦って無敗なの」

「…」

「私なんかじゃ全然歯がたたない」

「…」
もっとも、最後までこの男に付いていくと決めた以上、心理掌握は勝つ方法を模索する。


「ただ…今は彼の能力に制限時間があるし、うまく隙をつくことが出来れば」

「…おい」

「なによ?」

「悪いな」


垣根はわずかに寂しげな笑顔を浮かべると、心理掌握に睡眠スプレーをかけた。


「…は…嘘…でしょ…」

「ベタで悪いが…お前がいたらきっと最後に“すがっちまう”からな」

「…てい…と…く…」


深い眠りに落ちて、それでも垣根の服を離さない心理掌握を、彼はそっとソファーの上に置いた。

そして彼女の頭をゆっくり丁寧に撫でると、一瞬浮かんだ逡巡を振り切って隠れ家を後にする。

7年前のことを思い出しながら。

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