とある暗部の心理掌握 > 1


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とりあえず設定としては、

一、スクールのメンバー「心理定規」の正体は、学園都市第5位の「心理掌握」
二、スクール入りした理由は、常盤台を襲った垣根帝督の記憶を操作して、監視するため
三、御坂を含めた常盤台の人や、スクールメンバーは記憶を改ざんされて上記の事を覚えていない
四、そのことを知っているのはアレイスターと上条さんだけ

以上を頭の片隅にでも置いていただければ十分です


最後に簡単な注意を

・このお話の時間軸は一応15巻より前ですが、細かく詰めると破たんするのでややアバウトです

・主人公は心理掌握と垣根帝督の2人になります

・作者が台本形式を苦手としているため、セリフの前に名前はつきません

・基本的にシリアスなので、ギャグはありません

これらの点を踏まえて、お付き合いしてくださる方はよろしくお願いします

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スクールの隠れ家


能力開発を特色とし、外と比較して数十年進んだ科学力を持つ学園都市――

その裏に潜む組織の一つ、《スクール》のリーダー、垣根帝督はイライラしながら電話していた。


「この俺に任せるにしては、随分チャチな仕事じゃねえか」

「そう言わずに、お願いしますよ」


学園都市第2位の憤りに対し、声色一つ変えずに答えるのはスクールの指示役、電話の男だ。

いや、正確な性別などは垣根たちスクールメンバーも知らないし、知る気もないのだが。


「…ちっ」

「分かった、詳しい資料を送れ」

「助かります、それでは」ピッ


垣根は電話を切ると、ソファーの上に寝っ転がってメールを待った。
数分もしないうちにメールが届いたので、それを一瞥すると顔をしかめて

「下らねえ」

と呟いて携帯をテーブルに放り投げる。

それから5分ほどたって、この隠れ家に一人の少女が入ってきた。


「あら?…なんだお休み中?」

「いや、起きてる。つか仕事があんだけど」

「…まさか、私も?」


嫌そうな顔をして答えたのは、心理定規と呼ばれるスクールの正規メンバーだ。

彼女は人の心の距離を自由自在に調節できる、精神操作系能力者…という役割を演じている。

わずか数か月前までは表の世界にいながら、学校を守るために暗部にまで落ちた女王サマ。

かつて彼女はこう呼ばれていた…学園都市第5位、最強の精神操作系能力者――《心理掌握》と。
「ああ。とりあえずその携帯に資料があるから、確認しろ」

「えー。こういう時に限ってゴーグル君はいないんだから…」


文句を言いながらも、心理掌握は垣根の携帯に入った資料を確認する。

そこに表示されたのは、一つの幼稚園児バスであった。

今から20分ほど前に、このバスが突然第19学区で行方不明になったらしい。

そのバスには園児22名、教師3名、運転手1名が乗っており、その誰とも連絡がつかない状況だ。


「…これって誘拐?」

「そうだ。しかも目的は多分金じゃねえ」

「あの学区は再開発に失敗して寂れてやがる。その廃墟のどっかにバスごと立て篭もってるんじゃねえか」

「…にしても、妙ね。人工衛星で現在位置ぐらい簡単に分かるでしょ?」

「どうやら、使われてねえ地下道を無理やり通って移動したらしい」

「ふーん。アンチスキルは?」

「それがよお、どうも主犯の馬鹿は統括理事会メンバーの親戚って話だ」

「はぁ!?」

「ったく、何を考えてこんなことしたか知らねえが、クソめんどくせえ」

「あー、それで目的は金じゃないって言ったのか」

「そ、つー訳でお仕事だぜ」

「けどこういうのって普通は《アイテム》とか《グループ》の担当でしょー?」


この学園都市に潜む組織には、それぞれ目的が与えられている。

例えば《グループ》は裏の陰謀から表世界の人々を守るのが任務だし、

《アイテム》は統括理事会を含む上層部暴走の阻止を主任務としている。

そしてスクールは、理事会ではなく直接アレイスターの意思のもとに活動する事が多い。

あの猟犬部隊と共同作業を行ったりと、暗部組織の中でもとりわけ汚れ仕事が多いのだ。
「俺に文句言うんじゃねえよ。どうせどっちも使用中か、なにか連中じゃダメな理由があんだろ」

「分かったわよ。…で、作戦は?」

「とりあえず、19学区に行くぞ。最後に確認された映像のポイントから、地下道を探せば痕跡はすぐにわかる」

「後は犯人たちの抵抗力を無くして、犬どもに引き渡せばいい」

「いつもながら、アバウトな作戦よねー」


呆れながら心理掌握が文句を言うが、垣根は気にすることもなくニヤリと笑う。


「うるせえ。こんな事で時間を無駄にしたくねえんだ、さっさと片付けようぜ」


そう言って、垣根は返事も聞かずに隠れ家を後にする。

慌てて心理掌握がその後を追いかけ、二人は下部組織の用意した車に乗り込んだ。

 

 

 

 

第19学区、封鎖された地下道


二人が地下道に到着してからわずか2分で、バスの痕跡は見つかった。


「…このまま、奥に続いてるわね」

「マジで隠ぺいもしてねえのかよ…」

「むしろ私たちを誘い込む罠かも?」

「ふん、だったら少しは褒めてやってもいいんだけどな」


垣根は全く気にすることもなく奥へと進んでいく。

それを見た心理掌握は、近くにいた下部組織の人間にここの封鎖を命じて、イヤイヤ自分も付いていくことにした。

が、入り口をわずかに入ったところで憂鬱になり、足を止めて溜息をつく。
(そりゃあアイツは確かに何があっても平気だろうけど…)

(何せ、常盤台の校舎に押しつぶされても大して怪我しないぐらいだし)

(でも私はかよわい女の子だから、爆弾とかあったら危険なのよー!)


同じレベル5とはいえ、その能力の差をうらめしく感じる心理掌握であった。


「あ、そろそろ時間ね。忘れるとこだった」


周りに人がいないか精神索敵をかけて確認すると、彼女はスクール用とは別の携帯を取り出して、電話をかけた。


「もしもし」

「…ん。じゃあ今日の夜いつもの場所で会合ね」

「そう、派閥参加希望者が4人…あとで資料をちょーだい」ピッ


携帯の電源をしっかり落とし、頬を叩いて気合を入れなおす。


(今日の夜には、常盤台の寮で心理掌握派閥の会合がある)

(気合入れてこの任務を終わらせなくちゃ)


彼女は自分の守る世界(ニチジョウ)のため、今日も全てを騙して歩き出す。




現在時刻:午前10時40分

 

 


第19学区、封鎖された地下道の奥


垣根がバスの痕跡を追いながら歩いていると、停車しているバスを発見した。

どうやらバスの中は無人らしく、物音ひとつ聞こえない。


(ガキどもを連れて逃げたか…?)

(大勢の人質を連れて徒歩で逃げるなんて、間抜けすぎだろう)

「ちょっとー!置いていかないでよ!」


ようやく追いついてきた心理掌握が声をかけるが、垣根は謝罪など口にしない。

むしろ、どんだけ俺を待たせるんだ…と言わんばかりの態度で溜息をついた。
「バスはあったが、中に誰もいねえようだな」

「まさか園児連れて団体行動してるってわけ?」

「知らねえ。…とりあえず後を追うぞ。バスの中は下っ端に一応捜査させろ」

「オッケー…ってだから置いていかないでよ!」


この場を下部組織に任せて、二人はさらに奥へと進んでいく。

1,2分ほど歩いた時、心理掌握は人の気配を感じ取った。


「垣根、近くに誰かいる」

「ああ。奥だな…オラ、出てきやがれ!」


垣根が一喝すると、奥から小さな男の子がおずおずと涙目で現れた。

資料にあった、誘拐された幼稚園児の一人だ。


「ひょっとしてあなた一人なの?」

「グス…うん。先生もユウちゃんも、みんな怖い人たちに連れて行かれた…」

「もう大丈夫よ、お姉ちゃんたちが助けに来たから」


心理掌握が男の子の頭をゆっくりと撫でながら語りかける。

念のため心の中を覗いてみたが、恐怖心でいっぱいの彼に嘘や隠し事は無かった。
「で、どうやってキミは逃げだせたのか、お兄さんに教えてくれるかな?」


とても暗部に所属しているとは思えない、爽やかな笑顔で垣根が男の子に質問する。


「あのね、怖い人の一人がね、『このガキはここに置いてけ』って僕を突き飛ばしたの」

「妙ね…どうしてそんなことを?」


その時垣根は、男の子が持っているカバンから、シュー…とわずかな音が出ているのに気がついた。


「おい!カバンを寄こせ、多分ガスだ!」

「!」


男の子からカバンを引ったくった垣根は、その中から円筒状の機械を取り出した。

そしてその機械から何らかのガスが出ていることを確認すると、《未元物質》でガスごと包み始めた。

一瞬のうちに機械が大きな繭となり、有害なガスは止まる。

それを見ていた男の子は目を輝かせた。


「すっごー!お兄ちゃん能力者なんだ!」

「おう。すっげーだろ?」


垣根は笑顔で答えると、男の子に睡眠スプレーをかけて眠らせた。
「あれれれ…ぐー…くー…」

「ちっ、ガキに毒ガス持たせてあたりに解放しやがった!」

「多分、奥にはまだ何人も園児がいるはず…追手をここで殺すか足止めする気ね」

「俺が見たところ、あの機械には遠隔装置と赤外線スキャナが付いていた」

「俺らがガキに近づいた瞬間に、ガスを出すようにするためだな」

「しかも私たちが近づかなくても、何時でも遠隔操作で人質を殺せるって事よね」

「残るガキは21人、その上教師や運転手も含めるとなると…手が足りねえな」

「でも犯人がどこに行ったか分からない以上、一人一人装置を無力化するしか方法はないわよ」

「は、そんな時間稼ぎに付き合う訳に行かねえな」


垣根はそう吐き捨てると、未元物質による6枚の白い翼を自らの背に顕在させた。
「あの遠隔装置の有効範囲はたかが知れてる。まだそんな離れていねえってことだ」

「地下道を“飛んで”園児と接触しないようにすれば、スキャナにも見つからねえ」

「そりゃそうかも知れないけど…じゃあ私はこの付近で待機してろって事?」

「何馬鹿言ってやがる。テメェが犯人に能力を使って、先に動きを止めた方が確実じゃねえか」

「けど、私は飛べない…」


心理掌握の言葉が終わる前に、垣根は彼女を抱き抱えてあっさりと飛んだ。


「ちょ、ちょっとー!」

「動くな、喚くな、ついでにもっと肉付けろ」

「どういう意味!?」


さすがにお姫様抱っこをされて照れた心理掌握は、顔を赤くして抵抗したが全て無駄だった。

やがて抵抗を完全に諦めて、犯人の“意思”がないか精神捜索をかけて垣根に協力する。
彼女の持つ心理掌握という能力は、極めて多種多様な現象を起こすが、実はそれぞれ発動条件が異なる。

記憶の読み取りや書き換え、精神操作といった高度な能力を使うには、相手に直接触れるか目を見る必要がある。

逆に念話や感情の読み取り、近くにある精神活動体の捜索などは前提条件が緩く極めて自由に扱えるのだ。

それだけではない。数ヶ月前に心理定規の記憶を読み取り、その《自分だけの現実》を盗み見た心理掌握は、

念話の能力を応用することで、心理定規の能力も完全に自分のものとしていた。


「…そろそろ行き止まりだな。一旦分かれ道まで戻るぞ」


垣根がそう言った直後、心理掌握はどこか歪んだ悪意をわずかに感じ取った。


「待って…もう少しだけこの辺を探しましょう。嫌な感覚が…」

「さすがだな、…ビンゴだぜ」

「え?」


行き止まりと思われた道の奥、古めかしい避難扉から、4人の犯人と思わしき男が銃を持って現れた。
「ちくしょう!追手が来やがった!」

「何だアイツ、空を飛ぶ能力者だと!?」


動揺を隠せていない男たちを見た垣根は、期待したほどの腕利きがいないことに軽く失望した。


「…何だお前ら、俺らみたいな裏の人間とやり合うためにこの事件を起こしたんじゃねーの?」

「計画失敗だ、ガキどもを殺…」


突然自分たちの動きが止まり、犯人たちは困惑していた。

手元にあるスイッチを押す、それだけのことがひどく難しく感じてしまって動けない。

そしてその隙に、学園都市第2位の怪物が音もなく眼前に降り立ち…


「期待はずれもいいとこだぜ…今の俺は気分が悪いんだ、死んどけよ」


その翼で全てを蹂躙した。


「で、結局こいつら何がしたかったんだ?」

「聞き出す前に全員ボコボコにしてどーすんのよ!」
「いやあ、全員じゃねえ。まだ例のご親戚サマが残ってるはずだ」

「あ、そう言えばここにいる誰とも写真が一致してないわね」

「まあこの避難扉の向こうにいるんだろ、これで終わりにしよーぜ」


垣根によって半殺しにされた犯人たちを縛りながら、心理掌握は考えた。


(この誘拐の目的って何だったのかしら?)

(主犯は裕福な理事会の親戚…金銭目的の可能性は低い)

(それに子供たちに毒ガスを持たせたってことは、追手が来るのを予測していたということ)

(なのに肝心の犯人たちは、私たちの登場に驚いていた…)

(どうもおかしいわね…チグハグな感じを受けるわ)

(それとも…ここにいる連中は追手が来る事を予想していなかった?)

(そう、主犯だけが暗部の追手が来る事を予測して、かつ仲間を見殺しにする気なら)

(…子供も仲間も、全て追いかけてくる暗部の実力を観察するために用意したなら)

(この誘拐の本当の目的は…暗部にいる高い能力を持つ者を捕獲すること!)

「垣根、この誘拐はもしかしたら――」
心理掌握が言葉を紡ぎ終える前に、捕まえた犯人の体が急激に膨張する。

そして次の瞬間、ボジュゥ…と奇妙な音をしながら破裂した。

それに驚き、駆け寄る垣根の姿を目にしながら、心理掌握はゆっくりと意識を失った。


「…おい、とっとと起きろよ」

「う…?」

「目は覚めたな」

「…うん、どれぐらい気絶してたの、私?」

「精々数分ってとこか。それにしても、えげつねえモン用意しやがったな」

「本当に。まさかあのガスを、仲間の人間の体に仕込んでいたなんて…」

「俺らが来るのが遅ければ、ガキどもにも同じことをしたんだろうな」

「ガスの正体は分かった?」

「ああ。あのガスはAIM拡散力場を経由して能力者を侵し、演算能力と体の自由を奪う代物だ」

「確かまだ実験中だが、いずれはアンチスキルに配備されるかもしれねえって聞いてる」

「その通りだ、暗部の諸君」


避難扉の奥から、今回の主犯である30代半ばの痩せた男が現れた。
神経質そうな顔立ちに、今は抑えきれない喜びが浮かんでいる。


「このガスが充満している今、君達能力者は抵抗することが出来まい」

「安心したまえよ。別に殺す訳じゃあない」

「ただ、私があの家系で確固たる地位を築くため、協力してほしいだけなのだ」

「…なあ、オッサン?」

「ぬ?」

「一コ答えてみろ、能力者の俺はこのガスの影響を受けているでしょーか?」

「何を当たり前なことを…」

「はい、ハズレ」


垣根は6枚の翼を再び出現させ、ドゴォッと目の前の男の急所を正確に打ちすえた。


「ぞ、ぞんな…ばがな…!」

「では、第2問。テメェは誰に喧嘩を売ったんでしょーか?」

「…じ、知らんっ、ぎざま…一体…」

「時間切れでーす。正解は学園都市第2位、垣根帝督でしたー」


さらに何発か翼で殴打すると、男は完全に沈黙した。
(うわあ…痛そ。そう言えば私も以前コイツにやられたっけ)

「ねえ、その辺で終わりにしましょーよ」

「そうだな、後はこいつを引き渡して、この下らねえ任務も終わりって訳だ」


心理掌握は、飄々としている目の前の男の怪物具合を、改めて認識した。

恐らく垣根はそのガスが噴出した際、AIM拡散力場を保護する不可視の未元物質を展開したのだろう。

一瞬でガスの正体を見極め、さらに有効な対策を打つというのは常人にはおよそ不可能な芸当だ。

そうして心理掌握が慄いていると、垣根の携帯に電話がかかってきた。


「あー、アレから電話だ」ピッ

「もしもし」

「今終わったとこだ」

「…ああ?詳しいことは連絡員にでも聞けよ」

「俺らは一旦引きあげるからな」ピッ


垣根はさっさと携帯をしまうと、集まってきた下部組織の人員に指示をとばした。


「じゃあ、証拠集めやら情報の処理やらは任せたからな」

「あ、近くにいるはずのガキどもはキチッと人数確認して保護しとけよ」


そう言い残して、垣根は心理掌握を連れて隠れ家へ戻ることにした。

 

 

スクールの隠れ家


2人が隠れ家に戻ると、すでに時計の針は12時を過ぎていることを示していた。

垣根はソファーにドッカリと座り込むと、文句を言い始めた。


「おいおい、もう午前が終わってんじゃねえかよ」

「まあ、あれだけの誘拐事件を解決したんだし、しょうがないじゃない」

「そりゃーそうだが」

「じゃあ、私は今日は帰るわよ?」

「ああ、その前に一つ聞いておきたいんだが…」

「え?」


心理掌握が振り返ると、いつの間にか背後にいた垣根によって彼女はテーブルへ投げ飛ばされた。


「何だってこんな真似してんだ、常盤台のお嬢さんは?」

「いや、正確に言えば…レベル5の一人、心理掌握サン?」

(気づかれた…なんで!?)



現在時刻:午後12時10分

 

 

 


スクールの隠れ家


心理掌握は背中の痛みをこらえてなんとか立ち上がる。

その間も垣根はいつもの笑顔のまま動かない。

…背中に未元物質による翼が現れたこと以外は。


「…一応、先に聞かせて。いつ気づいたの?」

「ああ?めんどくせえな。…ここ最近どーも妙な感覚はしてたんだよ」

「テメェの事を、スクールの仲間として捉えていなかった気がする…ってな」

「違和感は徐々に大きくなってきていたが、決定的だったのはさっきの出来事だ」

「どういうこと?」

「さっきの誘拐事件で、犯人がガスで爆死した時、テメェは気絶したな?」

「あのガスは演算能力と運動能力を阻害するだけで、意識を奪う類のものじゃねえんだ」

「なら気絶した理由は、単純に目の前の光景が悲惨で耐えられなかったってことだ」

「仮にもスクールの正規メンバーが、人間爆弾“ごとき”にビビって気絶するなんざありえねえ」
「それがどうしても納得いかなかった」

「だから俺は帰る途中ずっと記憶の確認作業をしていた」

「で、ようやく記憶の一部を取り戻したんだ」

「俺とテメェは何らかの理由で敵対していて、俺はその記憶を修正されちまったこと」

「そしてテメェが…第5位の心理掌握ってことをな」

「…幾らなんでも、私の能力を自力で解除するなんてありえないわ」

「それは残念だったな、この俺にそんな常識は通用しねえ」


垣根は自分の頭をトントン、と指差した。


「どうも俺は、かつてテメェの脳波干渉に抵抗するために、自分の脳内に直接未元物質を生成したらしいな?」

「あ…」

心理掌握は過去に、この垣根に自分の計画を見破られ、絶体絶命のピンチに陥ったことがある。

その時とっさに自作の《レベルアッパー》を聞かせることで、辛くも難を逃れていた。

だが、音楽を聞いたはずの垣根は、そのネットワークから自力で脱出するという荒業を見せた。


「そう…一体どうやってあのネットワークから逃げたのかなあってずっと気になってたんだけど」

「本当に常識知らずの怪物ね、あなたは」

「当然だろ?で、それを使ってある程度は思い出した…だがまだ全てじゃねえ」

「さあ、今度はこっちの番だぜ?とっとと俺の記憶を全部戻せよ」

「まさか抵抗はしねえよな?」

「…確かに、もうあなたに私の能力が通用しない事が分かった以上、拒否権は無いわね」

(しょうがない、ここは言うとおりに記憶を戻すしかない…)

(けど、あの学校は…命に代えても守って見せる!)
垣根は心理掌握に抵抗の意思がないことを感じ取り、目だけで早くしろと促した。

逃げ場の無い心理掌握は、そっと垣根の頭に触れると、彼の記憶を全て元どおりにし始める。

その作業中、垣根は顔を微妙にしかめながらじっと耐えていた。


「…はい、終わり」

「ああ、すっきりしたなあ、全部思い出したぜ!」


垣根は一瞬で心理掌握の首を片手で締めると、ゆっくりと持ち上げた。

心理掌握は足をバタバタさせて抵抗するが、それを歯牙にもかけずに垣根は笑った。


「そうだ、俺が常盤台を襲った時、テメェとやりあったんだ」

「途中でテメェは潰したが、あの超電磁砲のヤツに一杯食わされたんだった」

「…それとも、校舎をぶっ壊したのはテメェの入れ知恵かよ?」
そう言いながら垣根が手を離し、心理掌握は力なく床に倒れた。

ようやく呼吸ができるようになったので、心理掌握は咳き込みながら訴えた。


「お願い…」

「ん?」

「もう…常盤台には手を出さないで…!」

「嫌だって言ったら?」

「…っ」

「おいおい、そんな命懸けの目をするんじゃねえよ」


垣根は、倒れている心理掌握に手を差し出して立ち上がらせると、呆れたように首を振った。


「なんだ、お前は案外間抜けかよ?もう俺が常盤台に興味はないってのが分からねえのか?」

「え、え?」

「確かにこの俺があれだけの醜態をさらしたからな。受けた借りは返したいが…」

「今ここでお前や超電磁砲を潰したとこで、精々俺の気分転換にしかならないじゃねーか」

「せっかくお前と言うレベル5が、事情はどうあれ仲間になってんだ」

「ならそれを潰すより利用する方が賢いに決まってる…だろ?」

「それは…」


ようやく意味が分かった心理掌握は、言葉を詰まらせる。
その様子を横目に見つつ、垣根は今まで誰にも見せていない表情を浮かべた。


「お前の素直さを評価して、俺も一つ秘密を教えてやるよ」

「?」

「――俺は、この学園都市の中心になる」

「…中…心?」

「そうだ。そしてクソ野郎のアレイスターとの直接交渉権を手に入れる」

「それにはお前が役に立つ。だから…お前はこの俺の手元にいろ」


垣根は先ほどとは違った意味を込めて、心理掌握に手を差し出した。


「…女の子の口説き方って知らないの?」

「そーいうのはな、もっと魅力的な女が言うもんだ」

「今のお前じゃ、色々と“足りなすぎる”」


ムッと押し黙る心理掌握は、それでも垣根の手を取ると笑顔になった。

「じゃあこれからよろしく、第2位《ほけつ》さん?」

「ふん、それも時間の問題だな」

「じゃあ、お腹も空いたしランチにしましょーか。どこかいいお店に案内してくれない?」

「…女は立ち直りが早いっつーのは本当みたいだな」


そして二人は隠れ家を後にして、少し遅めの昼食を取りに出かけた。


(あれ?どうしてかしら?)

(絶対に正体はバレたらいけなかったのに…)

(私、自分の事がバレたこと…どこか喜んでる?)

(うん、きっと、常盤台がもう襲われないって分かったからよね!)


頭の中に一瞬浮かんだ不穏な考えを打ち消すと、心理掌握は垣根の後を追いかけた。

 

 

その日の夜、常盤台中学学生寮(学舎の園)、小ホール


「ですから、是非とも心理掌握様の派閥に参加させていただきたいのです!」

「…うん、よーく分かったわ。みんなと相談して、結果は後で連絡を入れるから」


今日の派閥の会合目的は、新規参加希望者4人との面談である。

たった今最後の一人も退席したので、これから派閥の上層部で吟味し、最終決定を下すのだ。


「全員能力に関しては申し分ないでしょう。が、性格的には…」

「特に、過去の論文の着眼点は素晴らしく…」

「父親の所属する素粒子工学研究所との良い接点になるかと…」

「その方の良い噂は聞きませんし…」


結局そのうちの2人が新規メンバーとして決まるまで、1時間も時間がかかった。
「じゃあ、新しく入る2人には明日私から声をかけておくねー」

「はい、分かりました」

「では残りの方にはわたくしが通達しておきます」

「うん、お願い。…以上、解散してちょーだい」


会合終了から数分後、ホールに残っているのは心理掌握とその右腕のレベル4の少女だけになった。


「お疲れさまでした」

「そう?これぐらい楽なものじゃない」

「…心理掌握様。失礼ですが、何か喜ばしい事でも…?」

「私に?」

「はい。今日は特別、ご気分がよろしいご様子でした」

「なにか顔や態度に出てたかしら?」

「いえ。ですが、私にはっきりと分かる程度にはご機嫌でしたね」

「そっか。まあ、一つ懸案事項が解決したから、それで明るくなってたかも」

「…左様ですか。では、私もこれで失礼します」


何か言いたそうな取り巻きの少女だったが、結局素直に頭を下げてホールから消えた。

今日やるべきことを全て終えた心理掌握は、グイ、と気持ちよさそうに体を伸ばした。

そしてこの寮で唯一の1人部屋である自室に戻ると、おもむろに携帯をチェックする。


「…垣根からメール?」


メールには、いつもと同じくスクールの明日やるべき仕事の詳細が書かれていた。

が、いつもと違ってメールの最後に追伸があったので、思わず緊張して続きを見る。


『この俺相手に喧嘩売るようなお嬢様なんだから、もうビビったりトチったりするなよ』

「アイツ…ああ見えて心配性なのかも」

『ついでにもう一つ良い事を教えてやる。俺の知り合いに豊胸―』


やっぱり正体を死ぬ気で誤魔化すべきだった、と心理掌握は後悔して携帯をぶん投げた。




現在時刻:午後11時30分

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