とあるミサカと天草式十字凄教 > 14


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9月30日、第7学区のとある病院 とある病室


すっかり日が沈み、夕食の時間も終わった頃。

培養器の中で魔術理論を復習しているフルチューニングのもとに、『妹達』の1人、検体番号10032号が現れた。

通称『御坂妹』とも呼ばれる彼女は、少しばかり焦った雰囲気で唐突に告げた。


「緊急事態です。病院内で起きたテロ行為により火災が発生しました、とミサカは落ち着いて言います」
「…え?」

「まだ煙が出ていますし、患者全員を避難させる事にしました、とミサカは報告を続けます」

「…レイが培養器から出ても良いのですか?」

「いいえ。あなたは培養器ごと病院車に収容されることになります」

「その輸送の為に来ました、とミサカは説明が面倒になったので有無を言わさず移動を開始します」


それだけ言うと、御坂妹はテキパキと培養器の連結を解除。

移動用の車輪を取り付けて、ベビーカーのようにフルチューニングを運び出した。


「ちくしょう、まだあのクソガキを捕まえていなかったのに…」

「ちょ、もう少し丁寧にレイを運んでください!…っていうか話を聞けよ!?」

それからしばらく経って。

培養器を載せた病院車は、第七学区の立体駐車場で待機している。

事態が全く把握できないフルチューニングは、何も出来ない事を悔しく感じていた。


(一体何が起こったのでしょうか…?)

(まだ調整中の『妹達』を武装させているなんて、ただ事ではありません)

(…いざとなれば、強引に培養器から出なくては)


もちろん今のフルチューニングが培養器から出ても、戦力と呼べるほどの力は無い。

今の彼女は、能力を使えば死ぬ可能性があるからだ。

しかもイタリアで監禁された際に、彼女は能力強化用の部品を多数失っている。

そんな状態で全力を出したところで、彼女の出力はレベル3を超える事は無い。
(レイに残された武器は、師匠から教わった『ゴーレム術式』と鋼糸のみ)

(ですがゴーレムは完成に程遠く、鋼糸も以前ほど自由に扱えない)

(このボロボロの体では、格闘術を学ぶことすら儘ならない…なんてレイは無価値なんでしょう)


だが、誰かを救いたいのならそれでも前へ進むしかない。

フルチューニングが中から培養器を睨みつけていると、聞き覚えのある声が耳に届いた。


「だから、“ミサカネットワーク接続用電極のバッテリー”が必要なんだって言ってるんだよ!?」

(あれは…インデックスの声…?)


それはつい最近イタリアで再会した、イギリス清教の腹ペコ修道女の声だった。
インデックスの焦り交じりの訴えに、御坂妹が話を聞こうと近づいて――

瞬間。

その場でピシリと硬直した。

否、御坂妹だけではなくフルチューニング以外の全ての『妹達』が同時に動きを止めた。

理由は1つ。

打ち止めから送られた緊急コードが、脳の稼働領域の大半を奪い取ったからだ。

木原数多によって入力されたウイルスが、ミサカネットワークを通じて一気に拡大していく。


「しっかりしてください!」


もはや今の御坂妹には、フルチューニングの言葉に反応する余裕すらない。

そして、それだけでは終わらなかった。


(……ぐ、う!?)

(この感覚は…あの時の…!?)
フルチューニングの脳内に埋め込まれたチップが、無慈悲にシステムを稼働させる。

次にフルチューニングが目を開けた時、すでに彼女は別人だった。



「――特別コード『エンジェル』の受信を確認」

「――虚数学区の展開を補助……正常に終了」

「――AIM拡散力場の“魔術的”誘導を開始」

「――『ヒューズ・カザキリ』の出現を確認」



世界と切り離された培養器の中。

誰も気づくことのないまま。

フルチューニングの頬に、一筋の涙が儚く流れてすぐ消えた。
同時刻、窓の無いビル


全てを管理していたアレイスターは、ゆったりと微笑んだ。


(虚数学区・五行機関の展開に成功したか)

(出力の低下は避けられなかったが…うまい具合にアレが役に立ったな)

(――“能力者”は“魔術”を使えない)

(その概念を捻じ曲げたミサカネットワークは、“魔術とAIM拡散力場の相互干渉”を可能にする)

(科学と魔術の融合攻撃…能力者にも、魔術師にも効果的な『自爆誘導術式』が出来あがると言う訳だ)

(廃棄された試作型では、ここまでの強度を得られるとは思っていなかったが…)

(流石は『天草式十字凄教』に鍛えられた事はある)

(多角宗教融合型十字教天草式…“十字教でありながら、天使への攻撃を可能にする唯一の流派”)

(その魔術の流れを体で覚えたアレは、いずれは天使の加護を受けた魔術師でも無力化できるようになる)

(喜ばしいイレギュラーも有ったものだ)


この瞬間より、フルチューニングは正式にアレイスターのプランへ組み込まれることになった。

 

 

 

――フルチューニングが意識を取り戻した時、事態は大きく進展していた。

 

 

 

 

第7学区のとある病院 とある病室


フルチューニングが培養器の中で意識を取り戻した時、すでに2週間近くが経過していた。

その期間には、『前方のヴェント』及び『左方のテッラ』との戦い、学園都市の暗部の抗争など、

様々な出来事があったのだが、その間フルチューニングは意識を奪われていた為ここでは省略。

そして今、フルチューニングはお見舞いに来た天草式の少年香焼と話をしていた。


「…だからまあ、結局はあの上条さんがまた全部解決してくれたって事すよ」

「流石ですね…そのテッラという魔術師も相当強いはずですが」

「ま、実際にテッラと戦ったのは俺らの中じゃ五和だけだったんすけどね」
ローマ正教の中でも、絶大な力を持つ『神の右席』との戦い。

フルチューニングが意識を取り戻した時、最初に建宮から聞かされたのはその事だった。


(レイが意識を失ったあの日、ローマ正教はヴェントという刺客を送ってきていた)

(その標的は、上条当麻及び右手の『幻想殺し』)

(結局ヴェントは上条当麻に敗れ、事なきを得た)


だがフルチューニングは、ヴェントを弱体化させた自爆誘導結界の要が自分と打ち止めである事は知らない。

尤もそれを知っているのは、世界でただ1人なのだから当然ではある。


(その後上条当麻は、世界を混乱させたテッラをフランスで撃破)

(しかも天草式のみんなもフランスに一緒に行っていた、とは)


培養器の中で、フルチューニングは自分の拳を強く握り締めた。

香焼はその事に気づかない様子で話を続ける。
「そんな感じで過ごしてたらようやくレイが起きたって言うんで、みんなでお見舞いに来たんすよ」

「…良く分かりました、とにかく香焼も無事で本当に良かったです」

「へ…あ、え!?」

「…何ですか…?」

「いや、レイが素直にそういう事を言うと、ちょっと気持ち悪いっていうか…」

「ム!…レイが回復した時に、香焼には今日の分もまとめて電撃をお見舞いしてあげますから!」


「さあ、そろそろレイを休憩させてやらんといかないのよな」


久しぶりの口喧嘩が始まりそうになったその時、建宮が割り込んでそれを止めた。


「香焼は先に戻って食事の用意を手伝え。そろそろ対馬が怒ってるかもしれん」

「ゲ、そうだった…」


急いで病室を後にする香焼。

だが、最後に振り返ってフルチューニングに手を振った。


「じゃあ、また来るから…大人しくしてなきゃダメっすよ!」

「それぐらい分かっています…!」
タタタ、と軽快な音で香焼が走り去り、フルチューニングは建宮と2人きりになる。

なんとなく互いに黙り、どこか心地よい静寂が満ちる。

その静けさを破ったのは、フルチューニングの方だった。


「…建宮さん」

「んー?」

「本当の理由を教えてください」

「……」

「どうして天草式の戦闘部隊50余名全員が、この学園都市に来ているのですか?」

「意外と忘れがちな事ですが、この学園都市は基本的に外部の人間が入る事は出来ません」


それなのにたかがお見舞いで全員が来るのはおかしい、とフルチューニングは問いだたした。

誤魔化しきれないと思ったのか、建宮はフー、と溜息をつく。


「やれやれ香焼のヤツめ、喋り過ぎなのよ。…その所為で予想は付いているんだろう?」

「はい。十中八九上条当麻に関係があると思います」

「レイは良く分かりませんが、ローマ正教にとって『神の右席』というのは最高戦力なのでしょう?」

「そのメンバーをすでに2人も倒している上条当麻を、このまま放っておくはずがありません」


レイがそう断言すると、建宮は深刻そうな顔で頷いた。
「大当たりなのよな。我らは上条当麻の護衛に来た」

「それも…敵は『神の右席』の1人、『後方のアックア』と呼ばれる魔術師だ」

「…後方のアックア…何故その人物が来ると?」

「それがなあ、ご丁寧に奴さんは“上条当麻を殺しにいくぞ”と果たし状まで送りつけてきたのよ」

「果たし状…!」

「その為イギリス清教は、我ら天草式を派遣したという訳よな」


最悪の予想が的中した事に、フルチューニングは愕然とした。

今まで戦ったローマ正教の魔術師は、どれもレイに圧倒的な強さを見せつけてきた。

アニェーゼ部隊やビアージオは、まさに悪夢としか言いようのない傷をフルチューニングに与えている。

だが今度の敵は、それら魔術師の遥か上を行く。

――後方のアックア。

ローマ正教でもトップクラスの力を持つという魔術師相手に、天草式は勝てるのだろうか。

今まで共に過ごしてきたからこそ、フルチューニングは分かる。

建宮たちはどんな敵が相手でも絶対に逃げないし、諦めない。

……きっとその身が滅ぶまで。


(嫌だ…)

(またみんなが傷つく事になる)

(……ではどうするべき?)
「あれ、まだお見舞いの人がいたようだね?」


唐突に第3者から声を掛けられる。

フルチューニングが思考を中断して病室の入り口を見ると、そこにカエル顔の医者が立っていた。


「ようやく意識を取り戻したみたいばかりだと言うのに、無理はしてないだろうね?」

「大丈夫です」

「じゃあ、お見舞い中に悪いんだけど検診を始めても良いかい?」

「構わないのよな、俺もそろそろ帰らないと…」

「ああ、そう言えば」


邪魔にならないように帰ろうとする建宮だが、医者がのんびりと告げた一言がその動きを止めた。


「昨日教えてもらったけれど、イタリアでこの子に心肺蘇生を施してくれたのは君だったそうだね?」

「…?」


首を傾げるフルチューニングに対し、建宮は言葉を詰まらせて呻いた。

ちなみに、リークしたのは土御門元春であるのは言うまでも無い。
「いくら僕でも、死んだ患者を蘇らせる事は出来ないからね」

「是非ともお礼を言いたいと思っていたんだよ」

「…スマン!」


何故か突然建宮はその場で土下座した。


「どうして建宮さんは土下座しているのですか?」

「本当だねえ、彼は海で溺れた君の事を人工呼吸して助けてくれたというのに」

「そんな事があったのですか…」


医者の説明を受けたフルチューニングに、建宮は頭を下げながら力説した。


「謝っても済まないのは承知だ…」

「だがな、俺が言っても慰めにならないだろうが…アレはノーカンなのよ!」

「は?」

「あれはあくまでも人命救助、だからレイは何も気にしなくても…」

「建宮さん、話の意味が分からないのですが」


焦って弁解めいた事を語る建宮に、フルチューニングが訝しげに質問する。


「何故命を助けてもらったレイが、まるで取り返しのつかない事をされたかのような扱いを受けるのですか?」

「というより何が“ノーカン”で何が“気にしなくても良い”のでしょう?」
テスタメントは恋愛感情の入力はしていないし、おませなミサカネットワークとも繋がっていないから当然なのだが。

そこまで言われて、ようやく建宮はフルチューニングに“そっちの知識”があまりない事を知った。


(やばい、これは墓穴を掘ったことに…!?)

(考えてみれば、ファーストキスだのなんだのをレイが知ってるはずもないのよな…!)

(かと言って、ここで俺が説明するのも妙な話だし…)


「もういいですよ」


少し怒り気味のフルチューニングの声が聞こえたときには、すでに遅かった。


「後で五和や対馬さんに聞いてみます」

(ノー!?それだけはやーめーてー!)


当然心の中の絶叫は、フルチューニングに届く訳も無く。

結局建宮は、自分の口で全てを説明する事になった。

ちなみにカエル顔の医者は「検診は後回しで構わないからね」と言い残して姿を消している。
「はあ…好きな人と最初に交わす口づけをファーストキスと言うのですか」

「ううう、死にたいのよな…」

「で、何故建宮さんはレイとのそれをノーカンだと主張したのですか?」

「ええ!?」

「確かに救命措置としての人工呼吸と、口づけは意味合いが違うようではありますが」

「レイは建宮さんが好きですし、それがファーストキスでも全然構いませんよ?」

「ああ、いや、その…“好き”には色々な種類があるのよな」


何でこんなベタな少女漫画みたいな状況になっているんだ!?という心境を隠して、建宮は質問に答えなければならず。

それから30分ほど経ってようやく解放された建宮は、ぐったりと疲れ果てて病院を後にすることになった。



それから検診が始まっても、フルチューニングはモヤモヤと悩んでいた。

 

(…“好き”の種類、ですか)

(美味しいお茶が好き)

(甘いお菓子が好き)

(優しい五和が好き)

(面倒見のいい対馬さんが好き)

(楽しい香焼が好き)

(そう言えば、五和は…)

(あの上条当麻が好き、とみんなに言われて大変な事になっていましたが…)

(五和のあの“好き”は、確かに他とは違う感じでした)

(…好き?)

(あれ?…建宮さんは、どうして好き?)

(あれ?)

(あれ?)


悩み事が増えたフルチューニングは、培養器の中で難しい顔をする。

だがそれも、再びカエル顔の医者が唐突に遮った。

 

「じゃあ、これで検診は終了だ」

「…まだレイは退院できないのですか?」

「そりゃあまあ、1日2日なら何とかなるかもしれないけれど…正直止めた方がいいね?」

「お願いします、レイはどうしても外に行きたいのです!」

「何か大事な用事でもあるのかい?」


用事はある。

が、戦う為だと言えば絶対に退院の許可は下りないだろう。

それでも、何故だかフルチューニングはこれまで以上に焦りを感じていた。


(このままでは、天草式のみんなが殺されてしまうかもしれない)

(それだけは、認める訳にはいかない…!)

(あの建宮さんが死ぬなんて、絶対に!)


僅かに変化したその感情の揺れに、フルチューニングは気がつかない。

それでも必死に訴えるフルチューニングに、カエル顔の医者は渋々了承した。


「明日と明後日の2日間だけは、退院を許可しよう」

「ただし、その前にやっておく事があるね?」


そう言うと、カエル顔の医者は携帯で誰かに連絡を取り始めた。

それから10分後、呼び出しを受けて現れたのは…


「『妹達』に関する用事ってのは、一体なンだよ?」


学園都市最強の能力者、『一方通行』だった。

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