中の人「おっ!目が覚めたか」上条「テメェ……」 > 06


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ここまでのまとめ

御坂美琴
 →現在、ラスベガスにいる父の元へと移動中。五和の助言で、海原光貴を指名手配してしまう。

海原光貴
 →指名手配されたせいで、必要悪の教会の人間に目をつけられた。ショチトル達を守る為、自分一人で追っ手を誘きだす事に。
現在、人気の無い所で、大人のお姉さんと密会中。

インデックス
 →学園都市に到着。上条夫妻、小萌と再会する。

竜神当麻
 →鬼嫁に浮気現場に踏み込まれた浮気性の夫みたいな状況に陥る。
ツンデレお姉さん系のヴェントと追いかけっこ中。
ヴェントによって美琴のお株が奪われつつあるような気がしないでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

インデックスサイド ―学園都市―

 学園都市内部のとある公園に設置された複数のテントの中の一つにインデックス達がいた。
 学園都市からは、ホテルなどの設備を貸し与えてもらっていたのだが、
慣れない施設で行うより、こちらの方が遥かに効率的だから、という理由で野営する事になったのだ。
 しかし、実際は、学園都市による盗聴盗撮によって魔術サイドの守る『神秘』が盗まれるリスクを避ける為の措置だった。
 戦争が終わったとはいえ、両者にはまだ緊張の糸が張り詰めたままだ。
 アニェーゼ達はこのテントの中で、世界中から送られてくる情報を取りまとめ分析している。
 特殊な術式を使い、世界全体の魔力の流れを監視していたルチアがぴくりっと動いた。

ルチア「北アメリカ西部にて、膨大な量のテレズマ反応があります!」

アニェーゼ「詳細は出ますか?」

ルチア「今やってます。場所はアメリカ、ラスベガスの中心部。対象は南西部に向かって高速で移動しているようです。
しかし、周囲に拡散しているテレズマの量が多すぎて、こちらの術式との干渉を引き起こしています。
鮮明な情報は得られ無いかもしれないですね」
ルチアの隣で、サポートをしていたアンジェレネが、おどおどした感じで、報告を上げる。

アンジェレネ「え、遠視による像の投影に成功しました!」

 アニェーゼは、アンジェレネに近寄ると、彼女が映しだした像を覗き込む。

アニェーゼ「ちっ!ノイズがひどいですね。
……これは。すぐにこのデータを、必要悪の教会にあるデータベースと照合しちまって下さい」

 アニェーゼの隣に佇んでいたインデックスもまたその像を覗き込む。
 その後ろには、ステイルがぴったりと張り付いている。
 ステイルの任務は、上条当麻の探索に加えて、インデックスの護衛もある。
 というより、ステイル本人にとってはインデックスの護衛の方が重要だった。
 例によって、インデックスが使用するテントの全てに、大量のルーンのカードが貼り付けられている。

インデックス「この人てれびで見たことある!
9月30日に、この街を襲撃した前方のヴェントだよね?とうまと戦ったローマ正教の魔術師」

アニェーゼ「そうみたいっすね。問題はこの女と戦ってる男。
コイツは何者でしょう?神の右席っていえば、天使の術式を使う化物クラスの魔術師でしょうに……」

ルチア「照合結果でました。やはり、女の方は前方のヴェントで間違いないようです」

アニェーゼ「男の方は?」

ルチア「この男と外見が一致する魔術師は登録されていないようですね……。
生命力のパターンにも該当者なしです」

 ルチアは険しい顔をつくる。隣のアニェーゼも同様に、同じ事を考えていた。

アンジェレネ「あの……」

アニェーゼ「こりゃ当たりかもしれないっすね。
必要悪の教会にも登録されていない、神の右席レベルの魔術師。
……何で前方のヴェントと戦ってるのかは知りませんが」
ルチア「付近にいる部隊に連絡を入れますか?
現在、北アメリカ大陸には天草式が展開しているはずです」

アンジェレネ「聞いて下さい!」

 アンジェレネの叫びも空しく、アニェーゼは勝手に話を進める。

アニェーゼ「ええ、ラスベガス付近に待機するように伝達してください。
相手は天使クラスの化物です。普通に戦っても勝ち目はありません。
戦いの決着がついてから、弱ったところを一網打尽にしちまいましょう」

ルチア「分かりました」
 業を煮やしたアンジェレネが、ルチアの後ろに回りこみ。彼女の修道服の裾を捲り上げた。

アンジェレネ「ち、ちゅうもぉぉーく」

ルチア「…………」

 突然の出来事に、ルチアを含めたその場の全員がフリーズする。
 テントの中にいる全ての人間の視線が、彼女のフリフリのついた白いパンツと艶かしい太ももに釘付けになっていた、
 二秒ほどたってから、ようやく状況を飲み込めたルチアが、顔を真っ赤にして、スカートを手で押さえながら、アンジェレネに食って掛かる。
ルチア「シ、シスターアンジェレネ!!何をするんですか!?」

アンジェレネ「だ、だって、誰も私の話を聞いてくれないから……」

ルチア「女子寮ならともかく、ここには殿方もいるのですよ!!」

 ルチアが横目でチラチラとステイルの方を見ながら怒鳴る。その瞳は心なしか涙ぐんでいるようにも見える。
 とうのステイルはというと、つまらなさそうに真新しいタバコに火をつけながら、溜息をつく。

ステイル「ああ、僕の事なら気にしなくていいよ。見てないから。興味もないし」

ルチア「…………」
アニェーゼ「それはそれでどうなんでしょかね?」

 話を振られたルチアは
“それでいいのです。神父たるものそうでなくては……しかし、何でしょうこの敗北感は。
とにかく、シスターアンジェレネは後で百叩きですね”
などと小声でごにょごにょいいながら、己の中の何かと戦っていた。
 しばらく、そうして悩んだのち、この鬱憤を全て元凶たるアンジェレネに向ける事を決めたのか、彼女に向き直って問い詰める。
 いつも以上の剣幕で睨みつけてくるルチアに、アンジェレネはすでに涙目になっていて、“ひっ”と怯えた声を上げた。
 猫背で華奢な彼女の体が、ますます縮んで見える。

ルチア「それで。私のスカートをめくってでも聞いて欲しい。大切な話とはなんですか?シスターアンジェレネ?」

アンジェレネ「は、はい。一時間程前、天草式から送られて来た、とある事件の重要参考人の顔写真と、この男性の顔が一致してるんです」

アニェーゼ「何ですって?一体何の事件ですか?」

アンジェレネ「く、詳しい事は天草式でも把握できていないようなのですが。
どうやらラスベガスの一般人が魔術師のトラブルの巻き込まれたようで、その事件の重要参考人という事です。
資料には、その人物はアステカの魔術師で、学園都市の学生の姿に成りすまして活動している可能性があると、補足されてます」
アニェーゼ「では、その顔写真というのは、学園都市の学生の姿を写したものなのですか?」

アンジェレネ「そのようです」

インデックス「待って。アステカの魔術師……。
そういえば、8月31日にとうまの命を狙ってきたアステカの魔術師がいたはずなんだよ!」

アニェーゼ「それは本当ですか?」

インデックス「私の完全記憶能力は知ってるでしょ?
あの時は、けいたいでんわ越しに特徴を聞いただけだけど。
とうまは間違いなくアステカの魔術師と戦ってる。
魔術で変装した、トラウィスカルパンテクウトリの槍のレプリカ使いだよ」

アニェーゼ「その魔術師がその後どうなったか知ってますか?
あの少年の事ですから、始末したわけじゃねえでしょうし」

インデックス「知らない。
とうまは、問題は片付いたから心配するなってしか言わなかったもん」

アニェーゼ「そうですか……。
とにかく、そのアステカの魔術師の身柄を確保して事情を聞く必要がありそうですね」

ルチア「私が各隊に通信してきます」

アニェーゼ「よろしくお願いします」

 捜索本部全体が慌しく動き始めた。
 そんな中、インデックスは映し出されてくる、ぼやけたノイズ交じりの像をを見つめていた。
 少しでも情報を得たいという彼女なりの思いが在った為だ。
 人の動作というものは、どんな人間でも、必ずクセというものが存在する。
 歩いたり走ったりするときのフォームが人によって違うように、それは人によって様々だ。
 インデックスはその完全記憶能力によって、見た人間全てのクセも記憶している。
 だからこそ、気が付いてしまった。
 映しだされるアステカの魔術師の像を見ながら彼女は小さく首をかしげる。

インデックス「……とうま?」

 

 

上条サイド ―アメリカ ラスベガス―

 竜神はハイウェイ沿いにラスベガスの街を南下する。
 トラックやタンクローリーなど比較的大きな車を足場にして、テレポートで移動しながら、
ヴェントとの距離をとろうとするのだが、流石は神の右席。瞬間的に離した距離をあっという間につめてくる。
 一度接近戦になると、ホテルの時の二の舞だ。決して近づかれる訳にはいかない。
 チラチラと後ろを振り返りながら、二トントラックの上に瞬間移動する。
 しかし、座標指定が大雑把だったため、想定していた座標より二メートル高い位置に出てしまった。
 他人の能力をコピーしているだけの竜神では、細かい調整ができないのだ。

竜神「うをっ!!また変な所に跳んじまった!?」

上条『このへったくそ!!』

 竜神の身体とトラックの相対速度にはズレがある。
 二メートルという短い距離を落下する間にも、トラックは竜神を置いて走り去ってしまいそうだ。
 このままだと、地面に叩きつけられてしまう。

竜神「うおおおおおおおォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!」

 意味もなく叫び声を上げながら、空中で足掻く。
 ゴンッっと、トラックの荷台を若干へこませながら、辛くも荷台後部に着地するが、
今度は足場の速度が速すぎて、足払いをかけられたような形で、ずっこけてしまった。

竜神「ハッ!くそっ!!」

 荷台から転げ落ちる寸前、咄嗟に荷台のふちに両腕でしがみ付いた。
 掴まりどころのない、つるつるした金属製の屋根にかろうじて引っ掛かる。
 足場のない不安定な状態で、必死にトラックにぶら下った。

竜神「やばいっ!!落ちるっ、落ちるぅぅぅ!!」
 手を離せば、地面に落下する。
 ベクトル操作の反射で、全身を覆いさえすれば、怪我をする事はないだろうが、もたもたしているうちに、ヴェントに追いつかれてしまうだろう。
 後ろからせっつかれる感覚に、気ばかりが焦る。
 そのまま匍匐前進するように、腕力だけをつかって身体を引きずるように荷台の上へと這い上がろうと試みる。
 全身から嫌な汗がでて、余計に手が滑る。
 肝を冷やしながらも、なんとか荷台の上に上りきる事ができた。

竜神「はぁ。危っぶねえ!死ぬかと思った……」
 腹ばいになり、車の天井に張り付いた状態で、後ろを確認すると、300メートル程後方にヴェントの姿が見える。

竜神「クソッ!速いな……。
80メートルくらいのテレポートじゃすぐに追いつかれちまう。
アイツ、風でも操ってブースターみたいに使ってんのか?」

上条『お前、テレポート下手だな。白井なんかはもっとスマートにやってたぞ』

竜神『竜神さんのテレポートはただの複製なんです!!
位置座標とか精密に演算してる訳じゃないから、コントロールが難しいんだよ!!』

ヴェント「クソ野郎がっ!」

 竜神の背中にぞわっっと何か得体のしれない感覚が走る。
振り返ると、間合い100メートル程につめたヴェントが、見えない空気の針を射出してきた。

竜神「うをっ!」

 襲い来る見えない凶器を、寸でのところでかわし、再びテレポートで距離をとる。
 狙いをかわされた針が、竜神の遥か前方で炸裂した。ゴバァッっと音をたててアスファルトの道路が捲れ上がる。
 直径20メートルほどのクレーターができ。吹き飛ばされた土砂とアスファルトが宙を舞っていた。
 まるで、隕石の落下現場のようだった。
竜神「アメリカ国民の皆さん御免なさい!損害賠償はどうかローマ正教によろしく!!」

 ハイウェイを走行するドライバー達が急ブレーキをかけ、複数の車がスピンしながら停止するのが見えた。
 けたたましい、耳を劈くようなブレーキ音が辺りに響く。
 幸い、交通量が少なかった為、玉突き事故は発生していない様だったが。
 ホテルの分も合わせて、未だに死者が出ていないのが、不思議なくらいの被害だ。
 経済的な被害額は億単位になるのではないだろうか。
 竜神は心の中で、顔も知らない不特定多数の人々に侘びをいれながらも、なお逃げ続ける。

上条『急がないと追いつかれちまうぞ!』

竜神『それもそうなんだけどな……。あんまり離しすぎる訳にもいかないんだよな』

上条『なんでだよ?』

竜神『俺の目的は、アイツと話しをすることだからな。
逃げ切る事じゃない。本気で逃げれば逃げ切れるとは思うんだけど……』

上条『ヴェントのキレっぷり見たろ!?暢気に話しができるような雰囲気じゃないって!!』

竜神『そうんだよな……。何かいい方法ないかな?』

上条『アイツの気が済むまで殴られ続けるとか?』

竜神『勘弁してください!』

上条『お前強いんだろ?だったら、ヴェントを一撃で気絶させたりは出来ないのか?』

竜神『無理だって。
今の竜神さんは上条さんが打ち消してきた異能の力を使う事しかできないの!
ベクトル操作だって一瞬しか使えないし、今使ってるテレポートだって相当大雑把で、博打みたいなもんなんだぞ!!』

上条『でも、何か、他にも戦いようがあるだろ?
アウレオルスのアルス=マグナなんかだったら、一撃で気絶させられんじゃね?』

竜神『あれは熟練した最高峰の錬金術師が、何重にもわたって精神防壁張ったり色々下準備して、はじめて使えるような代物だぞ!
俺みたいな素人が使ったら、あっという間に自滅しちまうよ』
上条『だったらほら。フィアンマの聖なる右腕とか?』

竜神『あれも駄目。
俺じゃ出力調整がうまく出来ないんだよ。
相手に合わせてダメージを調整する機構はフィアンマの右腕自身の特性だからっ、
うをっアブねぇ!!今のはかすめたぞ!!
……俺がやろうとすると、星を粉々にするような一撃だとか、全長40キロメートルあるような剣出したりとか、そんな感じのでたらめな攻撃になっちまう。
そんなの食らわせたらヴェントのやつが死んじまうだろ?』

 竜神がかわした針が、遠くの平原へと着弾し破裂するのが見えた。
 十分街外れまでは移動できた。辺りにはほとんど、人の気配はない。
 それでも安心はできない。ヴェントの攻撃は数キロ単位で破壊をもたらす。
 もし、戦闘になるなら、被害が出ない場所にもっと引き付けなければならない。

上条『役に立たねえな。お前の右腕……』

竜神『うるせぇ!』

 その後も何十回と危なっかしいテレポートを繰り返し、ようやく街の外にでることができた。
 辺りに広がるのは、ゴツゴツと迫り出した岩と埃っぽいサボテン以外は何も無い原野だ。
 夜風で砂煙が舞い上がり、無数のタンブル・ウィードが転がっている。
 古いアメリカ映画に登場するような、西部劇の情景が広がっていた。
竜神「ここらでいいか……」

 竜神が足を止め振り返ると、後ろにはすでにヴェントが居た。
 あれだけの長距離を音速に近い速さで走って移動してきたというのに、まったく息が切れていない。
 ハンマーを肩に担いだヴェントが、顔色一つ変えず、ゆったりと近づいてくる。

ヴェント「ようやく、諦めがついたってわけ?まあ、その方が楽だし、私は嬉しいんだけど」

竜神「諦めるもんか。俺はこんなところで死ぬつもりは無いし。誰も死なせない。お前も含めてな」

ヴェント「夢想家の戯言に付き合ってる暇はないのよ。大人しく私にミンチにされなさい♪」
竜神「大体なんで俺を殺そうとするんだ?俺がお前達の神様に何かしたか?」

ヴェント「テメェの存在自体が許されないのよ。存在自体が罪。それが堕天使でしょうが」

竜神「ふざけんな!!そんなのおかしいだろ!?
俺が死んだところで、俺の存在が無かった事になる訳じゃない。
お前がやってることは、赤点とったガキが、テストをぐしゃぐしゃに破いて棄てるのと何も変わらない。
目の前にある現実から目を背けてるだけだろうが!!」

ヴェント「うるさい!!私はお前みたいなヤツが憎い。
人が大切にしてるものを踏みにじりやがって!!」
竜神「神の教えがお前にとって、大切な拠り所なのは知ってる。
でも、だからってそれが他人の大切なモノを傷つける理由になんかにはならない。
しちゃいけねえんだ!!
お前だって本当は分かってるんだろ?
それでも、自分が許せないから、十字教にしがみついて、自分を傷つけるような方法で、ローマ正教の信者を救おうとしてる。
それだけなんだろ?
だからお前は人を傷つける。自分を傷つける為に。世界中の人間から憎まれる為の“天罰”みたいな術式まで使って」

ヴェント「テメェに私の何が分かる!?何も知らないくせに知ったような口を利くんじゃないわよ!!」
唾を飛ばしながら、ヴェントが吼える。
 何も変わってない。竜神はそう思った。ヴェントは未だ、弟を死なせてしまった事への罪悪感から、抜け出せていない。
 それはきっと、彼女が神の右席にいる限り、不可能な事なのだろう。
 自分を傷つける生き方を選んだが為に、彼女は神の右席になったのだろうから。
 彼女の生き方を変えるには、神の右席を辞めさせなければならない。
 しかし、竜神に残された時間は、あと一週間も無い。
 天使といっても、今はほとんど唯の人間と変わらない力しかない。
 そんな自分に、この女の為に出来る事がないだろうかと、竜神は必死に考える。
竜神「……確かに俺は、お前の事を何も知らない。お前の苦しみなんて理解できねえよ。
お前に俺の苦しみが理解できないように、お前のその苦しみはお前自身のモノだ。
神様でもない限り、お前のが胸に抱えている罪悪感も取り除いてあげられないのかもしれない。
でも、お前がこれ以上罪を犯すのを止める事は出来る。
これ以上、自分で自分を傷つけるような生き方は、俺がさせない!!」

 だからこそ、ヴェントに殺される訳にはいかない。

ヴェント「思い上がるんじゃないよ堕天使風情が!!」
竜神「”上条当麻”だって言ってただろ。
お前は幸せにならないといけないんだ。
お前を救って死んでいった弟の人生に、泥を塗るのはもう止めろ!!」

ヴェント「なっ!!……一体何なんだテメェは!?クソったれがぁぁ!!」

 咆哮と共に、ヴェントがつっ込んできた。
 防御も回避も考えていない、文字通りの特攻だった。
 故に、竜神の反応が一瞬遅れてしまう。

ヴェント「死ねっ!」

 有刺鉄線の巻きついた巨大なハンマーが横なぎに振るわれる。
 空気の杭の鋭い先端が、竜神に襲いかかってきた。
まともに喰らえば、人体などあっという間に、ただの肉塊になってしまうであろう衝撃を、
正面から受け止める。

竜神「ぐはあぁぁっっっっ!!」

 慌てて反射の膜を全身に張るが、あまりの破壊力に押し負けてしまう。
 眼前から迫る攻撃を、成す術もなく喰らってしまった竜神は、後ろへと吹き飛ばされた。
 轟っという音と共に、ノーバウンドで100メートルほど宙を舞い。二回、三回と、地面に叩きつけられてから、ようやく動きが止まる。
 反射の膜は、杭がぶつかるインパクトの瞬間しか展開できていなかった。

竜神「があぁっっっっ」
硬い地面に、全身のいたるところの皮膚が削られ、痛みとショックで呼吸もままならない。
 手足の皮膚の表面が、すりおろし機にかけられたトマトのようにぐちゃぐちゃに潰れ、断面から血が滴り落ちた。
 口の中も切れてしまったようで、何だか鉄の味がする上に鉄臭い。

上条『おい竜神ぃ!大丈夫か!!?』

竜神『げほっっっ!!はぁはぁはぁ、っつ、クソッ』

 口の中に溜まった血を吐き出しながら、身をよじる。
 自分の中から、うろたえた声が聞こえてきた。
上条『もういい。逃げよう!!お前が全力を出せば逃げられるんだろ!?』

 顔を見なくても分かる。
 上条当麻は、自分自身の体が傷つく事など一ミリたりとも心配していない。
 ただただ、竜神の身を案じているだけなのだ。

竜神『はっ!これくらい屁でもねえよ!!』

 だからこそ、腹が立つ。
 昔の自分を見ているようで、苛立たしい気持ちにさせられる。
 自分が傷つく事で、傷つく人が大勢いる事をコイツは理解できていない。
 頭では解っていても、行動に移せなければ意味がない。
 インデックスを救い、勝手に死んだ。自分と同じ過ちを。
 だからこそ、こんな所で諦める訳にはいかない。
 上条当麻とインデックスが幸せに暮らせる世界。その礎を築くまでは、立ち止まれない。

上条『でも!』

竜神『情けない声上げてんじゃねえよ!テメェは黙ってそこで見てろ!!』

 竜神は悲鳴を上げる身体に鞭打ち、ふらふらと立ち上がる。
 身体の芯は斜めにかしずき、血液が足りないのか、視界が若干ぼやけている。
 それでも、諦めない。
 爪が食い込む程に右の拳を握り締め、正面から接近してくるヴェントを睨みつける。
 ヴェントは、右手に掴んだハンマーを地面に引きずりながら、ゆっくりと歩いていた。
 もはや止めをさすだけ、そう思っているに違いない。
 余裕を感じさせる足取りだった。
竜神(そうだ……これくらいなんでもねえ。
この三ヶ月間、俺がコイツに押し付けちまったモノに比べれば、この程度の痛み。なんてことねえよ!
”上条当麻”は三ヶ月の間ずっと、こんな戦場で戦ってきたんだ。
記憶を失い。
自分が誰なのかもよく分からない中で。
……きっと、苦しかった筈だ、辛かった筈だ、怖かった筈だ。
それでもコイツは”上条当麻”であり続けてくれた。
インデックスを守りたいっていう俺の『心』を大切にしてくれた。
俺の『最期の願い』を叶えてくれた。
そのせいで、コイツはインデックスにつまらない嘘を吐く破目になっちまった。
俺は知ってる。
インデックスに嘘を吐く時、コイツの指先が不安で震えていたのを。
胸に走る言いようの無い痛みを。
深い後悔と罪悪感が心の奥底でずっと燻っていた事を。
そうさせたのは俺だ!!俺のせいなんだ!!
俺がもっと強ければ、こんな事にはならなかったのに。
コイツが感じてきた苦しみは全て俺が背負うべきものだったのに……。
……だから、俺はこんな所で諦めるわけにはいかない。
俺が背負うべき重荷を全部コイツに押し付けるわけにはいかねえんだ!!)


ヴェント「ふん。偉そうな事言うわりに、もうぐちゃぐちゃじゃないの?
それでもまだ立ち上がるの?」

竜神「何度だって立ち上がってやるよ!!言っただろ!?俺は死なない。誰も死なせない!!」

ヴェント「甘いのよ!!誰も死なせないだって?
テメェ一人の命すら満足に守れないヤツが吐いていいセリフじゃないでしょ?」

竜神「はっ。確かにそうかもしれない。
俺はどうしようもない甘ちゃんで、世間知らずな餓鬼だよ。
でも、だからこそ、諦めない。何度間違っても、何度倒れても。
最後は皆で笑っていられるように、何度だって立ち向かってやる」

 

それが、“上条当麻”なのだから。

ヴェント「馬鹿じゃないの?
人は死ぬものよ。それこそあっけないくらいにね。
神の右席として前線で戦ってきた私はよく知ってる。
アンタが言ってた上条当麻だってそうさ。
あの男だってアンタみたいな戯言を口にしてたけど。結局死んじまったじゃない」

竜神「上条当麻は死んでない」

ヴェント「はあ?」

竜神「今は眠りについてるだけだ」

竜神(そうだ、上条当麻はまだ死んでない。
まだやり直せる。
俺は、コイツが生きる道を切り開く為の礎になる!)
ヴェント「……アンタ一体何者なんだい?」

竜神「上条当麻の守護天使。
今は竜神当麻って名乗ってる。この肉体も記憶も全て上条当麻のモノだ」

ヴェント「まさか!?学園都市の連中がまた堕天使を」

竜神「違う!俺はヤツ等に作られた存在じゃない。
自然に発生した現象の一つだ。生まれつき上条当麻の肉体には俺が宿ってたんだ」

ヴェント「はっ!そんな馬鹿げた話を信じろと?」

竜神「信じてくれ。学園都市の連中は”上条当麻”を何かの計画に使おうとしてる。
俺の推測が正しければ、一瞬で魔術サイドが滅びかねない程の危険な計画だ。
それを阻むためにお前の力を貸して欲しいんだ」
 ここにきて初めて、ヴェントの表情に怒りや憎しみ以外の感情が混じる。

ヴェント「……アンタまさか、それを私に伝える為に天罰まで使って、私をここに誘き出したのかい?」

竜神「ああ、そうだ」

ヴェント「そうかい、そりゃごくろうだったわねぇ。
でも、仮にアンタの言ってる事が正しかったとして。
それが何だっていうの?
私がここでアンタをぶち殺せば、それで終わりじゃないの?
アンタを殺せば学園都市の計画も頓挫する。違う?」

竜神「お前に俺は殺せない。
それに、例え俺を殺したところで、学園都市の計画は止まらない。
きっと”上条当麻”の代わりとなるスペアの部品を使って必ず計画を実行する」
ヴェント「はん、どうだか」

竜神「第三次世界大戦に敗れ、右方のフィアンマを失った今のローマ正教に、学園都市と正面から争うだけの体力は無い。
魔術サイドの最高権力であるイギリス清教も信用できない。
学園都市と戦うには、俺達みたいな第三勢力が手を合わせるしかないんだよ。
ただ闇雲に戦っても駄目だ。また戦争を起こす訳にはいかない」

ヴェント「…………」

竜神(ヴェントだって戦争を起こしたくはないはずだ。アイツは第三次世界大戦の時も、フィアンマを倒す為に戦ってくれた。目指すモノが一緒なら、共に戦える。根は善いヤツなんだ、弟思いのやさしいお姉ちゃんだったはずなんだ。だからきっと分かってくれる)
竜神「選べよヴェント。
上条当麻の屍の上に、仮初の平和を築くか。
それとも、俺と一緒に学園都市の頭に喰らいつくか」

ヴェント「ふん、素直に殺されるつもりも無いくせに。よく言うよ」

竜神「ああ。お前が俺を殺す方を選らぶのなら、俺は徹底的に抗うよ。
こんな中途半端なところで死ぬのは二度と御免だ」

ヴェント「まるで、一度死んだ人間みたいな言い草ね。
……まあいい。だったら証明してみせなぁ!アンタが口先だけのガキじゃないって事を!!
それが出来たら考えてやってもいいわよ」

 ヴェントはそういって、鼻で笑いながら有刺鉄線の巻かれたハンマーをかまえる。
竜神「いいぜ。
……テメェがそれを望むってんなら見せてやるよ!
”上条当麻”が望んだ幻想(未来)は、俺が必ず守る!!」

ヴェント「来な!!」

 月明かりの照らす荒野の真ん中で、二人がにらみ合う。
 さながら西部劇に登場するガンマンのように。
 静寂が辺りを支配する。
 一陣の冷たい風が吹き抜けた。それを合図にするように、二つの影は動きだした。
 竜神当麻の右腕と、前方のヴェントが作り出した風の杭が、正面から激突する。

竜神「うをおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉっっっっっ!!!」
 少年の右腕には幻想を殺す力はもう無い。
 ベクトル操作によって反射の膜を張り付けた拳が、ヴェントの空気の杭を貫く。
 竜神を叩き潰す為に存在する。殺意を持った風の鈍器が、虹色に輝き八方へと拡散していく。
 制御を失い暴走した力の奔流が、地面を削り、竜神の周囲に大きなクレーターを作り出す。
 その衝撃だけで、辺りに暴風が吹き荒れた。
 乾燥した大地から砂煙りが舞い上がり、辺りを覆い隠す。

竜神(クソッ砂煙で前が見えねぇ!)

 砂でできた薄いベールの向こうにヴェントの影が映る。
 ヴェントまで、あと2メートル。
 竜神の身体能力なら一歩で届く距離だ。

竜神「そこか!!」

 ヴェントの顔面に拳を叩きつける為に、竜神が跳躍する。
 しかし、その瞬間。ごすっっという衝撃が真横からやってきた。

竜神「はあぐぅっっっ!!」

上条『竜神いいいいいぃぃぃぃぃぃぃ!!!』

 ヴェントからすれば、牽制のために放った軽いジョブ。
 しかし、その杭の一撃は竜神を容赦なく打ちのめす。
 左肩を激しく打ち付けた竜神は、受身を取る間も無く。ノーバウンドで、20メートル程飛ばされ、迫り出した岩に激突した。
ヴェント「どうした?その程度なの?」

竜神「ごほっ。クソッ!!」

 背中を強かに打ちつけた上に、大量の土煙を吸い込んだせいで、うまく呼吸が出来ない。
 竜神はその場で這い蹲り咳き込みながらも、必死に思考を廻らせる。
竜神(殴れる距離まで接近できれば俺の勝ちなんだ。
アイツの防御術式自体はベクトル操作で無力化できる筈なんだから。
でも、砂煙で隠れて、ヴェントのピアスの動きが読めない。
攻撃の軌道が読めないから、一方的に攻撃されてしまう。
何とかして近づかないと……。
テレポートは使えない。ヴェントの真横にピンポイントで移動できるだけのコントロールは俺にはない。
万が一、地面にめり込んだり、空中に投げ出されたりしたら、いい的になるだけだ……。
あと一手、ヴェントに近づく為の何かが必要だ……。
ヴェントの攻撃を妨害する為の遠距離攻撃か、ヴェントの攻撃を防ぐ防御術式。
あるいはこの空気中に拡散する砂煙をどうにかする能力か…………砂!?そうか!!)


 舞い上がる砂煙の中で、竜神の影がむくりと起き上がった。

竜神「お前ほどうまくはいかないだろうけど……使わせてもらうぜ御坂」

 竜神は空気中の砂に含まれる砂鉄を、御坂美琴の磁力操作で操る。
 かつて、彼女に勝負を挑まれた時、彼女は川原の砂鉄を操り、上条当麻に遠距離攻撃を仕掛けてきた事がある。
 空気中の砂鉄がまるで意思を持ったかのようにうねり、ヴェントの頭上に集中する。
 砂鉄の一粒一粒が細かい振動を起こした、巨大な刃物と化す。

ヴェント「空気中の砂を!?無駄よ。こんな物ぉぉぉ!!」
 ヴェントがハンマーを振るうと、砂鉄はバラバラになり再びただの砂煙へと変わる。
 ヴェントは風を司る存在だ。周囲の風を操る事など造作も無い。
 圧倒的な暴風で、磁力で繋がれた砂鉄の連結を解除されたのだ。
 辺りに漂っていた砂煙は、あっという間に吹き飛ばされた。
 それでも。

竜神「まだまだぁぁぁ!!」

 仁王立ちした竜神の周囲に青白い雷の光がほとばしった。
 ドッバッツっという音と共に、ヴェントの半径100メートルほどの大地から、一斉に黒い砂が舞い上がる。

 磁力を操り取り出した総重量およそ2トンの砂鉄が渦を作り、ヴェントの回りを取り囲む。 まるで竜巻のように舞上がると、刃の形をとり、再びヴェントに襲い掛かった。
 それでも、ヴェントは引かない。
 先ほどと同じ様に、風を操り、周囲の砂鉄を砂煙ごとなぎ払おうとする。

ヴェント「だから、無駄だって言ってんのよ!!」

 空中に向かい有刺鉄線のついたハンマーを一振りすると、辺りに暴風が吹き荒れた。
 ヴェントの頭上に展開していた砂鉄の刃は、半径200メートル程の範囲の広がっていた砂煙と共に、その圧倒的な力で振り払われた。
 しかし。

竜神「だろうなぁ!!」
 その声は、ヴェントの後方から聞こえてきた。
 ヴェントが慌てて振り返ると、まじかまで迫った竜神が、右腕を振りかぶる姿が見えた。

ヴェント「はっ!くそっ!!」

 竜神は、ヴェントが気付かぬうちに、後ろに回りこんでいた。
 一回目の砂鉄の刃は、ヴェントの回避行動を見極める為。
 正直、ただ移動するだけで避けられたら、打つ手が無かった。
 しかし、ヴェントは強い。この程度の攻撃ならば正面からなぎ払う。それを確認したかった。
 二回目の砂鉄の刃は、竜神自身の行動を隠す為の目くらましだったのだ。
 周囲を砂鉄で覆い、姿を隠してから、回りこむ為の。

かつて、御坂美琴が上条当麻に接近戦を挑む為に使った戦術をそのまま利用したのだ。
 竜神に御坂美琴のような繊細な応用はできない。
 しかし、砂鉄を持ち上げてぶつけるだけの、シンプルな攻撃なら、かなりの規模で行なえる自信があった。
 美琴から喰らった電撃は優に発電所一つ分はくだらないのだから。
 竜神とヴェントの距離は1メートル。二人の間を遮るものは何もない。
 邪魔だった砂煙は、ヴェント自身が吹き飛ばしてしまった。
 竜神は渾身の力を拳に乗せる。

ヴェント(反撃するか?それとも、いったん距離をとるか?
いや術式の構成が間に合わない。とにかく防御をしないと!!)
 ヴェントは身体をひねりながら、咄嗟にハンマーでガードしようと構える。
 両者が雄たけびを上げる。

「「うをおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっ!!」」

 ガードをすりぬけた右ストレートが、ヴェントの顔面に届いた。
 竜神の拳がヴェントの防御術式と干渉し、七色に輝く。

竜神(この一撃で、全部終わらせるっ!!)

ヴェント「はぐっっ!!」

 竜神が右の拳を振りぬいた。
 左頬を殴られたヴェントは、十数メートル飛ばされてから漸く動きを止めた。
 意識を奪われ、ぐったりとしたまま横たわっている。

竜神「はぁはぁはぁはぁはぁ、ぐつっっっ!!」

 竜神が勝利を確信した瞬間、これまでの疲労と痛みがどっと押し寄せてきた。
 足がガクガク震えて立っていられない。
 地面に膝をつき、雲一つない星空を見上げながら息を整える。

竜神「はぁはぁはぁはぁはぁはぁ……どうだ俺の勝ちだ!ヴェント!!」

竜神(“自分は幸せになっちゃいけない”っていうお前の幻想は俺には殺せない。
それは、お前自身が、自分でけりをつけなきゃいけない問題だからな。
でも、神の右席を抜ける口実くらいは、俺が創ってやれるはずだ。
当分は、旅掛さんと一緒に、この広い世界を見て周ればいいさ。
じっくり時間をかけて、自分の生き方を選び直せばいい。
俺と違って、お前には残された時間がたくさんあるんだから)
上条『大丈夫か竜神?』

竜神『ああ。なんとかな……。はぁ。俺とヴェントの傷の手当をしないと……』

上条『本当に大丈夫なのかよ?』

竜神『……ああ、やっぱ少し休ませてくれ』

 竜神はそのまま何も言わず。うつぶせに倒れてしまった。

上条『おい!竜神!!しっかりしろ!!』

竜神「…………」

 こうして、幻想殺しだった少年は、再びその右腕によって勝利を収めた。
 彼の大切な物を守る為の戦いは、まだまだ続く。

 

 


 御坂サイド ―アメリカ ラスベガス―

 竜神達が戦いを繰り広げていたころ、御坂達は、御坂旅掛がチェックインしているホテルに辿り着いていた。

御坂「……何よこれ?一体何が起こったって言うの?」

 ひどい有様だった。
 まるで、ミサイルが着弾したかのように、辺りは破壊の限りを尽くされていた。
 人工湖の水は干上がり、ホテル周辺のガラスというガラスが全て粉々になってる。
 負傷者を搬送する為に、サイレンをならしながら、大量の救急車が忙しなく行き来し、すでに警察が周辺にバリケードを張り巡らしていた。
白井「とにかく、お姉様のお父様が心配ですの。行きましょうお姉様」

五和「私は辺りに聞き込みをして情報収集してきます。
何か分かったら、携帯に連絡を入れてください」

御坂「うん。分かったわ。じゃあ黒子お願い」

 白井は御坂と手を繋ぎ。テレポートでホテルの敷地内に潜入する。
 旅掛が泊まっているはずの部屋はすぐに見つかった。
 他の部屋より破損具合が激しい一角だった。
 窓だけではなく、壁や家具にいたるまで、ぐちゃぐちゃに破壊されている。
 あまりの惨状に御坂は声を失う。
 御坂旅掛は一般人だ。このような惨劇に巻き込まれたらひとたまりもない。
 一瞬、最悪の事態が頭をよぎる。
御坂「パパ!!パパ無事なの!!」

白井「お姉様こちらですの!」

 白井の声が聞こえたベットルームの方に駆け出した。

白井「安心してください。お父様はご無事の様です」

 アレだけの騒ぎが起こっているというのに、御坂旅掛はベットの中で熟睡していた。
 布団の中で丸まりながら、ごにょごにょと寝言をつぶやいている。

御坂「パパー!……良かった」

旅掛「……ぅぬえあ。上条当麻……美琴ちゃんは絶対嫁にやらないからなぁ……」

御坂「ぶっっ!!」
白井「あの類人猿っ!
夢の中とはいえ、すでにお父様とのご挨拶まで済ませているとは……
この白井黒子、一生の不覚ですの!!」

御坂(ちょっと、どうゆう事!?
なんで父がアイツの事知ってるのよ?ってか嫁って。
ア、アイツのお嫁さんか……ふふふ)

白井「お、お姉様!?
なんですのその恋する乙女モード!?そんなマジな反応止めてくださいまし!!」

御坂「ハッ!!ち、違うわよ。私はまだ家庭に収まる気はないし」

白井「すでに新婚生活までトリップしてましたの!!?おのれクソ類人猿がっ!!」

御坂「違うって!!
あーもう。この馬鹿親父っ!厄介事ばっか持ってきてんじゃないわよ!!」

 未だに夢の中にいる旅掛の後頭部に張り手をかます。

旅掛「うごっ!ハッ?美琴ちゃん!?」

御坂「そうよ!!」

旅掛「何故ここに?っていうか何でこの部屋はこんなにめちゃくちゃになっているんだ?」

御坂「パパが心配だったから、駆けつけて来たのよ!!」

旅掛「美琴ちゃんがこれをやったのか?」

御坂「私じゃないわよ。私だって何でこんな事になってるか知りたいくらいだわ。
昨日カジノで何があったの?」
旅掛「カジノ?……そうだ、竜神君はどうした?」

御坂「竜神?誰それ?」

旅掛「お前達がこの部屋に来たときもう一人男の子がいなかったか?」

御坂「パパ一人だったわよ。……もしかして竜神ってコイツの事?」

 美琴は旅掛に端末を差し出す。海原光貴の顔写真が映った画面が開かれた。

旅掛「ああ、そうだこの子だ。この子は無事なのか?」

御坂「さあ?」

 その時、御坂の携帯が着信する。昨日登録したばかりの、五和の番号だった。

五和「もしもし、御坂さんですか?」

御坂「はい、そうよ」
五和「お父様は見つかりましたか?」

御坂「ええ、御蔭様で。無事だったわ」

五和「よかった。……実は、必要悪の教会から新たな情報が寄せられたので連絡したんですが」

御坂「アイツの事?」

五和「ええ、そうなんです。どうやら、このホテルの襲撃事件と関係がある情報みたいなんですが……」

御坂「どうゆう事?」

五和「御坂さんが言ってたアステカの魔術師が、今、ラスベガスの郊外で戦闘を繰り広げているらしいんです。
相手は前方のヴェント。以前、学園都市を襲撃し、上条当麻さんの命を奪おうとしたローマ正教の魔術師です。
必要悪の教会の方では、上条当麻さん拉致に、このアステカの魔術師が絡んでいるのではないかと考えているようですね」
御坂「あの男が?」

五和「現在、ラスベガス周辺にいる天草式に召集命令が出されています。
その二人の戦闘が終わり次第。捕縛して情報を引き出すのが目的です」

御坂「五和さんも行くのよね?」

五和「はい」

御坂「分かったわ。
うちの父が、そのアステカの魔術師と接触があったみたいだから、私は父にもっと詳しい話を聞いてみる。
それが終わってから天草式の皆と合流しましょう」

五和「了解しました。合流地点は携帯端末に送っておきますね」

御坂「よろしく」

五和「それでは、またあとで」

 

上条サイド ―アメリカ ラスベガス―

竜神「おっ、目が覚めたか?」

ヴェント「テメェは……」

竜神「一応回復魔術は施しておいたけど、あんまり無理はするなよ。まあ、思いっきりぶん殴った俺が言うのもなんだけどな」

ヴェント「オーケー。状況は理解したわ。……遺言はそれだけでいいのね?」

竜神「チョット待った!!何でそうなる!?」

ヴェント「じゃあ聞くけど、これは何?」

竜神「これ?あー。膝枕か?いやだってよー。
こんな荒地に女の子ほったらかしになんてできないだろ?
そのまま地べたに寝てたら頭痛そうだったからさ、俺の上着はお前のシーツ代わりに使っちまったし……」

 そう、現在ヴェントは竜神に膝枕されていた。
 竜神の膝に頭を預けた状態で、ヴェントは竜神を睨みつける。

ヴェント「ぉ女の子っ!?……アンタよっぽど私に殺されたいらしいね」

竜神「と言いつつ、俺の膝の上から動こうとしない、ヴェントちゃんなのであった。
って、うをっごめんなさい。調子乗りすぎました。
お願いだからそのハンマーを下ろしてください!!」
 ヴェントは怪我人とは思えない程の俊敏さで起き上がると、
近くにあったハンマーを手に取り、振り上げながら竜神を見下ろす。

ヴェント「下ろしてあげるわよ。アンタの脳天になぁ!!」

竜神「っちょっとマジで勘弁してください。
長い事膝枕してたから、足が痺れて動けないんです。お願いぃ!!」

ヴェント「死ねっ!!っつぐっ」

 突然ヴェントが頭を抑えだした。立っているのがやっとといった感じだ。

竜神「ヴェント!!だから無理するなって言ったろ!?」

ヴェント「うるさい」
竜神「いいから今は休め」

ヴェント「クソッ!」

 ヴェントは舌打ちしながら、その場のしゃがみこむ。

竜神「とりあえず、勝負には俺が勝ったんだから。話しを聞いてもらうぞ」

ヴェント「……そうか、私は負けたんだね」

竜神「用件は二つ。一つ目は、アレだ、お前に守ってもらいたい人がいるんだ。
御坂旅掛っていう、俺の知り合いなんだけどさ。
色々あって、学園都市に命を狙われる可能性が高い」

ヴェント「私にソイツのお守をしろって事かい?」

竜神「そう、お前が適任だと思う。
二つ目は、後方のアックアとの連絡手段を教えて欲しい。
あのおっさんが今どこにいるか分からないんだ」

ヴェント「お守の件はともかくとして、ウィリアムの馬鹿と連絡が取りたいってんなら、占星施術旅団を尋ねるといいわ」

竜神「占星施術旅団?」

ヴェント「あの男のスポンサーみたいなもんよ。
アイツが武器の調達とかに利用してる、魔術師が営むよろず屋ってとこね」

竜神「なるほどな」

ヴェント「……学園都市が何かやらかそうとしてるってのは本当なのね?」

竜神「多分だけど、統括理事長は学園都市そのものを『箱庭』にしようとしてるんだと思う」

ヴェント「……まさか、あの堕天使が使ってた、気持ち悪い力を利用するつもりだっていうの!?」

竜神「AIM拡散力場な。アレを使ったら。確実にこの星の界の層が歪む。
間違いなく、魔術世界は一瞬で滅ぶだろうな」

ヴェント「クソッやっぱりあの時あの堕天使を殺しておけばよかったんだ……」

竜神「それじゃあ根本的な解決にはならないって。
風斬を殺しても、風斬に代わるものをつくりだして計画を実行する。
それが学園都市のやり方だからな」

ヴェント「じゃあアンタはどうするつもりなのよ」

竜神「それは……あークソっ!」

ヴェント「お客さんみたいね。アンタのか私のかは分からないけど」

 何もない荒野のど真ん中に、その者達は突然現れた。
 20人くらいの日本人が、竜神達を取り囲む。

竜神「天草式?」

 集団の一人。クワガタのような髪型をした黒髪の男が、長剣を肩に担ぎながら近づいてくる。

建宮「すまんが、アンタ方に聞きたい事があるんで、ちょっと面貸して欲しいのよな?」

 肩に担いだフランベルジュに、月の光を反射させながら、教皇代理、建宮斎字が獰猛な笑みを向けた。
 

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