とあるミサカと天草式十字凄教 > 06


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9月8日(午後1時00分)、とあるレストラン


天草式のメンバーは現在主に2手に分かれている。

パラレルスウィーツパークで『縮図巡礼』と呼ばれる魔術の準備をする別働隊と、

オルソラと一緒に行動し、追手に備える本隊である。

魔術に詳しくないフルチューニングは、現在建宮と一緒に本隊として行動していた。

「それにしても、その移動魔術ってこんなに早くから準備しないと間に合わないんですか?」

「いや、急げば準備自体は2時間程度で完了するのよ」

「じゃあ、どうして今から取り掛かっているんです?」

「相手がいつ来るか分からない以上、あらかじめ準備を終えておくのがベストよな」


『縮図巡礼』自体は、午前0時からわずか5分しか発動しない。

ただ、その為の準備儀礼はあらかじめ終了しておくことが出来る。


「それにローマ正教の連中に、『渦』の場所がバレる訳にはいかないのよな」

「だからゆっくり少人数で行う必要がある。そのため早めに取り掛かっているのよ」

いかに隠密性特化型の天草式十字凄教といえども、ローマ正教の大部隊にかかれば姿を発見されてしまう。

それを警戒して、現在儀式に取り掛かっている別働隊はわずか2人だけにしているのだ。

そして当然人数が少なければ、準備に必要な時間は長くなる。

フルチューニングは納得して、デザートのパフェを食べ始めた。


「オルソラさんはデザートいらないんですか?」

「…」

「オルソラさん?」

「あ!…ええ、私は結構ですから、お気になさらず…」

「まあ、緊張するのも無理無いのよな」
建宮が苦笑して声を掛けるが、オルソラは誰にも聞こえないように呟くだけだった。


「…どうして、天草式の皆様はここまで…?」

「ん?何か言ったか?」

「いえいえ。それで、この後はいかがされるおつもりですか?」


オルソラの問いに、建宮は難しそうな顔で答えた。


「そこよ。『縮図巡礼』で飛べればこっちの勝ちだが、多分そう簡単にはいかないわな」

「先ほど聞いた話によると、ローマ正教が派遣したのはアニェーゼ・サンクティス率いる修道女部隊」

「…有名な人なんですか?」

「良くも悪くもローマ正教のお手本のような人間よな」


いい加減慣れてきたのか、建宮はフルチューニングがするこの手の質問に淀みなく回答した。
「まだ10代前半の年齢でありながら、250人以上の部下を持つ優秀な人間だ」

「それは…すごいですね」

「頭も切れるし容赦も無い。そんな相手が敵だと、最悪術を使う前に全滅させられかねないってことなのよ」

「だから時間いっぱいまで隠れるしかないのだが…」


建宮の言葉を遮るように、レストランの扉がドガガ!と粉砕された。

そして土煙りの中、件のアニェーゼがゆっくりと姿を現した。


「いやー、やめてくださいよ。あんた方みたいな豚さんに褒められたとこで、気持ち悪いだけじゃないですか」

「ローマ正教…!」

「天草式、でしたっけ?…獣の分際で、十字教を名乗るなんて図々しいとは思いません?」

「さあ、そこのオルソラっていう『神の敵』を引き渡してもらいますよ」

「…悪いが、我らの仲間に『神の敵』なんて人間は誰1人いないのよな!」


教皇代理、建宮の言葉を合図に、レストランにいた天草式のメンバーが逃げ出し始めた。
「ち!逃がすと思ってんですか!?」


修道女部隊が周りに散開するも、地の利がある天草式はバラバラになって逃げてゆく。

建宮が通信術式を使って全員に指示を飛ばした。


『今あの連中と戦う意味は無い』

『時間いっぱいまで逃げ切れば勝ちだ』


フルチューニングも、オルソラを連れて急いで逃げだした。

そして途中で牛深にオルソラを預けて、地下水道へ駆け込む。


(あれが、ローマ正教…)

(一番頭のおかしい人種は科学者だと思っていましたが、修道女も負けず劣らずです!)

(…今は私も修道女でしたか?)

 

 

 

9月8日(午後5時30分)、とある地下道


緊急時以外は連絡をしないよう言い渡されていたため、フルチューニングは1人で逃げながら時間を待っていた。

そして途中何度か発見されそうになりながらも、ようやく日暮れまで時間がたった時、牛深から連絡が入ってきた。


『すまん!オルソラをあいつらに攫われた!』

「!」

『ポイントはどこ!?』


対馬が怒鳴りながら場所を訪ねる。


『○○通り2丁目、バスターミナル近くだ!』


そこは、今レイがいる地下道のほぼ真上だった。

反射的にフルチューニングは返事をする。


「レイは今そこの近くにいます!オルソラを取り戻します!」
『そんな、レイちゃん!?』


五和が驚いて止めようとするが、建宮がそれを遮った。


『いや、まだオルソラは敵の本隊に合流していない。今のうちに取り返さないと厄介だ』

『でも…』

『五和、レイも天草式の一員なのよ。…レイ、俺もすぐに行く。やれるな?』

「はい!」

『…分かりました。私もすぐ行くから、それまでレイちゃんお願い!』

「もちろんです!」


仲間の信頼が嬉しくて、フルチューニングの顔にわずかだが笑顔が浮かぶ。

そして、猛スピードで地上へ戻り、アニェーゼ部隊を追いかけた。
「天草式!?」

「オルソラさんを返してもらいます!」

「ここで叩いておきましょう」


フルチューニングが見たのは、オルソラを連れて行こうとする4人の修道女だった。

すぐに彼女たちは武器を取り出し、迎撃態勢を取る。


(最優先はオルソラさんを連れて逃げる事です)

(4人を足止めする程度なら、問題ありませ…)


ゴッ!!!!

修道女の1人が取り出した車輪が、突如爆発してフルチューニングに襲いかかった。

咄嗟に電撃を放ち、大きい破片を撃ち落とす。

だが、抑えきれない破片がフルチューニングの腕を幾つも切り刻んだ。
(あれはいったい何ですか!?)

(破片がこっちにだけ飛んでくる…指向性の爆弾…?)


「…罪ある者にこそ罰は下る――あなたに救いはありません」


謳うように修道女が断罪すると、辺りに散らばった破片が元の車輪の形に戻って行く。


(自動修復…ただの木材が形状記憶能力を持つなんて…!)

(やっぱり魔術は常識が通用しませんね)


それでも、フルチューニングは不敵に笑った。


「残念ですが、レイはあなたに救ってもらう気は全くありません」

「すでにレイは、みんなに救ってもらったのですから」
「世迷言を…天草式など、異教徒とさして変わらぬ異端の連中ではないですか」

「そんな判断しか出来ない心の狭い神様なんて、こっちから願い下げです」

「な!神を侮辱するのですか…!?」

「そもそも、レイは神様ではなく“人間”が作りだした試作品ですしね」


その言葉に、修道女――ルチアは怪訝そうな表情を浮かべた。


「あなたは一体何を言っているのです?」

「レイより長生きしているのというのに、あなたはお馬鹿さんですね」

「レイは、救われるためではなく――“救われぬ者に救いの手を差し伸べる”ためにここにいるのです!」


言葉と同時、操られた鋼糸が空中に広がり、4人の修道女に纏わりつく。


「バカな…これは何の術式ですか!?」

「ここで一々解説するのはお馬鹿さんである、と相場が決まっています」


そして、フルチューニングの流した強力な電流が、修道女の意識を刈り取った。
「オルソラさん、大丈夫でしたか?」

「…はい」

「おーおー、エゲツない攻撃をしたものよな」

「建宮さん!不意を突いての攻撃、大成功です」

「だが、喜んでばかりもいられない。本隊がこっちに向かっている。すぐに逃げるべきなのよ」

「分かりました!」


天草式とオルソラは、再び姿を消した。

それから数分後。倒れている4人を見つけたアニェーゼは、1人静かにクツクツと笑った。


「…天草式ね。随分引っかき回してくれるじゃないですか」


「逃げられる訳もねえのに。…このくそったれな世界からは、ね」


ローマ正教と天草式十字凄教の戦いは、未だ幕すら開いていなかった。

 


9月8日(午後6時00分)、とある地下道


現在天草式は、そのほとんどが地下の下水道に集合していた。

アニェーゼ部隊と何度もオルソラをとり合ううちに、当のオルソラが姿を消してしまったのだ。

そこで建宮は、敵の指揮官アニェーゼに追跡術式を仕掛けて、彼女をこっそり追いかける事にした。

オルソラが捕まった場合、必ず彼女のもとに連れてこられるだろうと予測したからである。

暗い地下に、フルチューニングのささやき声が響く。


「それにしても、どうしてオルソラさんは天草式からも姿を消したんでしょうか?」

「…」


珍しい事に、建宮は返事をしなかった。
思わぬ反応に、フルチューニングは建宮の弱りきった顔をマジマジと見つめる。

その表情を見て、彼の中で予想は出来ているらしい、と判断してそれ以上は何も聞かなかった。

しばらく黙って追跡を続けると、やがてアニェーゼは誰かと会話を始めた。


『…お宅から『法の書』とオルソラ・アクィナスを拝借したっていう天草式だけど…』

『…数や武装ならこちらが上なんですけどね…』


会話相手である“赤髪の神父”を術式で確認した建宮が、好戦的な笑みを浮かべた。


「イギリス清教の『必要悪の教会』――本物の魔術師サマかよ」

「ねせさりうす?」

「イギリスが誇る、対魔術師用の魔術師集団です。私たちの女教皇も今はそこに所属しています」


五和の答えに、さらにフルチューニングは混乱した。

「…そのイギリスの魔術師が、何故ローマ正教と一緒にいるんですか?」

「恐らくローマ正教と協力して、『法の書』とオルソラ・アクィナスを取り戻す為に来たのよな」

「じゃあ、あの人も敵ってことですよね…」


新たな強敵の出現に、うんざりとするフルチューニング。

建宮も、頭をガシガシと掻いて一言吐き捨てた。


「まったく、こっちは只でさえ弱い少数勢力だって言うのにな」

「しかも相手は『必要悪の教会』…やる気が出ちまうじゃないの」


その言葉に、フルチューニングはゾクリと背筋を震わせた。

自分たちの教皇代理、建宮の本気を初めて目の当たりにしたからだ。

「建宮、あれは!」


野母崎が緊張を含んだ声をかけた。

なぜなら、新たな人影――ツンツン頭の少年が現れたからだ。

それもオルソラと一緒に。


「…ドンピシャなのよな」

「こちらに余裕はない。オルソラを奪還したら、一気に離脱する!」


教皇代理の号令に、天草式の全員が応!と武器を構えて返事をした。

それを見届けると、建宮は術式を通じてオルソラたちに話しかけ始める。


「そう簡単に引き渡されては困るよなぁ?」

「オルソラ・アクィナス。それはお前が一番良く分かっているはずよな」

「お前はローマ正教に戻るよりも、我らと共にあった方が有意義な暮らしを送る事ができるとよ」
アニェーゼたちがその言葉に意識を集中しているその瞬間。

ゾフ!!

建宮たちは、正確にオルソラを囲むように剣を下から突き出した。

そしてオルソラのいる地面を正三角形に切り取って、地下へ落下させる。


「天草式!!」


アニェーゼが慌てて手を伸ばそうとするが、その時には牛深がオルソラを抱えて走り出していた。

建宮は時間稼ぎをするため、さらに語り続ける。


「ローマ正教の指揮官さえ追っていれば、オルソラ・アクィナスはいずれここまで連れて来られると踏んでいたのよ」

「まったく地下を辿って待ち構えていた甲斐があったというものよなぁ!!」
「くそ!」


話しながら逃走準備をしていると、先ほどのツンツン頭の少年が悪態をついて地下へ飛び込もうとしてきた。

だが、鍛えられた天草式のメンバーによる殺気が、素人である彼の動きを封じ込める。

プロの魔術師であるステイルだけが、その横で殺気をものともせず行動した。


「我が手には炎、その形は剣、その役は断罪――ッ!」


彼が捨てた煙草の軌道から、紅蓮の炎が出現した。


(なんですかアレ!?炎剣!?)


フルチューニングが驚愕するのと同時、あらかじめ用意しておいた逃走魔術が発動した――。

 

 

9月8日(午後7時00分)、パラレルスウィーツパーク


『渦』に到着した天草式約50人は、あっという間に一般客に紛れ込んだ。

そしてローマ正教の魔力探査を防ぐため、ゆっくりと何気ない仕草だけで『縮図巡礼』の準備をしている。

その儀式に参加していない建宮とフルチューニングは、現在2人で話し合いをしていた。


「つまりあの炎剣はルーン魔術で作り上げた、と」

「その高熱は3000度を超えるらしい。いやー、恐ろしい術なのよな」

「あと一歩遅ければ、みんな黒焦げになるところじゃないですか…」


フルチューニングが改めて魔術の恐ろしさを実感していると、対馬が建宮に話しかけてきた。
「建宮。もうすぐ閉園時間よ」

「そんな時間か。仕方ない、一旦姿を隠すぞ。準備の続きは警備の人間が消えた11時から行うべきよな」

「分かった。けど…その間にローマ正教はここに気づくかもしれない」

「…どっちみち、0時までは術の発動は不可能なのよな」


一瞬不安そうな表情を浮かべた対馬に、建宮は肩を叩いて安心させる。


「仮にココに気づかれても、向こうは大部隊。人員の再編成や道具の準備に数時間はかかる」

「しばらくはお前さんも休むと良い」

「…そうね。そうさせてもらうわ」


手をひらひらと振って、対馬はお土産ショップへ姿を消した。

「そういえば、オルソラさんは?」

「今は、動かないように捕縛術式を掛けて見張りを付けている」

あんまり得意な術式じゃないけど、この場合仕方ないのよなー、と建宮がぼやいた。


「…説得しないんですか?」

「恐らく、今は言葉では何も伝わらんのよ」

「…」

「ならばこそ、実際に助け出すという行動で示すしかない」

「…」

「せっかくイギリスの人間も来ていることだし、我らが女教皇に見せてやるのよ」

「…」

「天草式十字凄教の今の姿をな」

「…はい」


その会話を最後に、フルチューニングは建宮と別れて姿を隠した。


(…顔も知らない女教皇)

(あなたの生き方は、建宮さんたちが受け継いでいます)

(……)

(どんな人なんでしょうか…レイも一度会ってみたいですね)

そして午後11時27分。

静寂に包まれたパラレルスウィーツパークを、アニェーゼ部隊が強襲した。

 

9月8日(午後11時30分)、パラレルスウィーツパーク


『縮図巡礼』のタイムリミットまで残りわずか30分。

ローマ正教が誇るアニェーゼ部隊が、怒涛の勢いで天草式に襲いかかった。


「超怖いですマジやばいですあいつら完全に目がイッちゃってます」

「逃げるな神の敵!」

「修道女のくせに!平和に話し合いとかしないんですか!?」

「異端者は神の名のもとに粛清されるべきです」

「ダメだこいつら話にならない」
当然フルチューニングも修道女部隊と戦闘中である。

だが、鋼糸を取り出す間もなく7人の修道女が魔術をバカスカ撃ってくるので、ひたすら逃げ惑うだけだった。


(ここで逃げ回ってるだけでは、やられるのは時間の問題です…!)


追いかけ回されたフルチューニングは、その7人を引き連れて室内アトラクション『巨大迷路』の中へ逃げ込んだ。


(確かこの先に…あ…)

「…行き止まり、ですね」


迷路に入ってすぐ、フルチューニングは行き止まりへ突き当たった。

立ち止まったフルチューニングを見て、7人の修道女は嗜虐的な笑みを浮かべる。
「さあ、懺悔をなさい」

「あなたが鋼糸を操る前に、体をバラバラにしてあげましょう」

「心安らかに、自分の罪を悔い改めれば…」

「逃亡など無意味でしたね」


次々と修道女が放つ勝利宣言を聞いて、フルチューニングは溜息をついた。


「…逃亡ではありません」

「レイは、計画通り目的地への誘導を達成しました」

「!」


言葉と同時、“あらかじめ”張って用意しておいた鋼糸が蛇のように襲いかかった。

手に持っている霊装ご「そんな…!」

「卑怯者!」

「どうやって術式を欺いたのですか!?」


混乱している様子を見て、フルチューニングは得意げに告げた。


「そもそも、鋼糸は罠として発明された迎撃用の武器ですよ?」

「ありえない…ただの鋼糸を、私たちが探知出来ないはずはありません!」

「早くシスター・ルチアに連絡を…」

「えい」


バリバリバリ!!

魔術的防御を完全に無視して、フルチューニングの電撃(ノウリョク)が修道女を沈黙させた。

全員が意識を失った事を確認すると、ようやくフルチューニングはほっと一息ついた。
と縛り上げられた修道女たちは、ほとんど抵抗も出来ないまま悔しそうにしている。

(ふふん。この鋼糸の張り方が示すのは“蛇の狡猾さ”。隠した術式は『探査術式のかく乱』です)

(魔術に頼らず、しっかりと自分の目で見れば、あるいは気づけたかも知れませんでしたが)

(ともかく、この魔術を対馬さんに教わっておいて正解でした)


7人を念入りに縛りあげて、フルチューニングは仲間の加勢に向かった。


フルチューニングが園内を走っていると、フランベルジェを振りまわす建宮と出会った。


「建宮さん!」

「おお、怪我はしてないな」

「当然です」

「よしよし。俺は今からあのイギリス神父サマとやり合ってくる」

「あの炎剣使いですか…」
最初から強烈な印象を残したルーンの魔術師。

彼が操る炎剣は、普通の方法では太刀打ちできない代物だ。

確かに、天草式のメンバーであの魔術師と一対一で勝負できるのは建宮ぐらいだろう。

フルチューニングは、そう言い聞かせて不安がる自分を納得させた。


「レイは浦上たちの援護に向かって欲しいのよ」

「分かりました」

「…いいな、無茶はするなよ」

「建宮さんこそ、気を付けてください」


その言葉を最後に、フルチューニングは迷いを振り切るように駆け出した。

そして、援護に向かった彼女が見たものは――


「遅っせえ!!」


天草式の仲間である浦上が、ツンツン頭の少年によって地面に叩きつけられたシーンだった。
衝撃的な瞬間を目撃し、フルチューニングは頭が真っ白になった。

そして何が起きたかようやく事態を把握すると、怒りのままに突進する。


「あなたは!レイの仲間になにするんですか!」

激怒したフルチューニングが、強力な雷撃の槍を少年に向けて放つ。


「新手かよ!」

だが、少年が咄嗟に右手を伸ばして雷撃に触れると、跡形も無く消滅してしまった。


(…能力の無効化!?)

(なら、これで!)


自分の能力が通用しない事に驚きながらも、フルチューニングは冷静に戦闘を続行する。

手持ちの鋼糸を操って、少年を縛り上げようと目論むが…


「無駄だ!」

「そんな…」


信じられない事に、少年が右手で鋼糸を掴むと、突然操る事が出来なくなった。

鋼糸を通じて電流を流しても、少年にはまるで効果が無い。

「それでも…負ける訳にはいきません!」

「まだやるのかよ!」


能力が通用しない以上、フルチューニングは只の女の子と変わらない。

それでも、今は天草式十字凄教の一員。逃げる選択肢など持っていなかった。


(相手は男、肉弾戦では勝ち目なしですが…)

(ここで引き下がるわけにはいかないんです!)


一気に距離を詰め、ハイキックをしようとする――ヒラリ、と簡単に避けられた。

急いでもう一度攻撃しようとするが、その前に少年が体当たりをしてきた為、フルチューニングは地面に倒れ込んだ。


「うう…」

「テメェ、いい加減にしやがれ!」

「ここで諦めるはずがありません!」
怒鳴りつけてきた少年に、フルチューニングも反射的に怒鳴り返す。

さらに少年が何かを言おうとして…ピタリと固まった。

先ほどまで浮かべていた怒りの表情と違い、戸惑うような顔をしている。


「…お前、御坂!?…いや、ビリビリより背が高い…」


そして少年――上条当麻は、何か信じられないものを見たかのように問いかけた。


「まさか、お前は『妹達』なのか…?」


上条が口にした言葉に、フルチューニングも動きを止める。


「何故、あなたがオリジナルや『妹達』の存在を知っているのですか…?」

「ってことは、やっぱりお前も妹達なんだな?」

「…今は、関係無い話です」
動揺を悟られぬよう、フルチューニングは淡白な口調で言い返した。

ところが、上条が続けて吐き捨てた言葉を聞いて、フルチューニングから冷静さは失われることになる。


「なんだって妹達が、あんな連中と一緒に行動してるんだよ!」


(何ですって…!)

「…撤回してください」

「え?」

「レイを救ってくれた仲間を、“あんな連中”呼ばわりした事を撤回しなさい!」


作られて間もない、未熟なフルチューニングの唯一譲れない一線。

それなのに、目の前の男はその一線を土足で踏みにじった。

「目を覚ませよ!あいつらは、武器を持って女をさらうような凶人達だぞ!」


上条も必死で説得しようとするが、フルチューニングには届かない。


「どこまでもレイの仲間を、天草式を侮辱しますか!」


フルチューニングが、目に涙を浮かべて上条に電撃を放つ。


「くそ!後でお前の事情は聞いてやる。だがな、オルソラを渡す訳にはいかねぇんだ!」


電撃を無効化した右手が、そのままフルチューニングの腹部を強打し…


(あ…レイは…また…助け…られない…?)


強制的に意識を奪われたフルチューニングが、頬を濡らしたまま地面に崩れ落ちた。

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