とあるミサカと天草式十字凄教 > 05


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9月7日(午前12時00分)、天草式十字凄教のとある拠点


フルチューニングが、正式に天草式十字凄教の一員となって2週間以上が経過した。

その期間には、『御使堕し』、一方通行と打ち止めの出会い、シェリー・クロムウェルの学園都市侵入など

様々な出来事があったのだが、天草式の面々とは基本的に無関係であった為ここでは省略。

そして今、フルチューニングは天草式の少年香焼と模擬戦をしていた。

フルチューニングは鋼糸を巻いた木刀を、香焼は短剣を持って戦っている。

優勢なのは香焼の方だった。
「く…!」

「簡単に気を取られるようじゃ、まだまだ甘いすよ!」


身軽な香焼が、そのスピードを生かして短剣を振るう。

それだけではない。香焼はわざと数枚の“ポケットティッシュ”を模様を描くように辺りに落とす。

そのティッシュをフルチューニングが踏むと、彼女の足は根が生えたかのように動かなくなった。


「これは!?」

「ふふん。こいつの象徴は“樹木の根”。隠した術式は『大地との一体化』って事すよ!」

まあ数秒しか持たないすけど、と言って香焼は余裕の表情を浮かべるが…


「まだまだ甘いですね」


フルチューニングは一瞬で木刀に巻き付けてあった鋼糸を展開し、“磁力”で操って香焼に襲いかからせる。

ギョッとして逃げようとする香焼だが、鋼糸の方が一瞬早く足を絡め捕り、あえなく全身を縛られてしまった。
「オリジナル(お姉さま)の様に地面の砂鉄を操る事は難しいですが、鋼糸程度なら問題ありません」

「ズルいすよ!卑怯だ!反則だ!」

「ふふん、負け犬の遠吠えですか」

「ちくしょう…俺の方が勝ってたのに!」


動きを封じられながら、ギャアギャアと抗議する香焼。

素知らぬ顔をするフルチューニングだったが、そこに五和が現れた。


「あ、レイちゃんに香焼君。そろそろお昼にするから、終わりにしてほしいって建宮さんが言ってましたよ」

「そう言えばもうこんな時間でしたね」

「五和ー!レイが卑怯な真似してくるっす!」

「ム!術式を使ってきたのは香焼が先です!」

「まあまあ、2人とも仲良くしてください。…それにしても、鋼糸を触らずに操れるって言うのは凄いですねー」

「そうなんですか?」

「そうですよー。これだけ自在に操れると、立派な主武器(メインウェポン)になるじゃないですか」
キョトンとした様子で、フルチューニングがミノムシ状態の香焼に目を向けた。

香焼は大きく頷いて、恨みがましく説明を始める。


「普通、鋼糸って言うのは“あらかじめ”張って用意しておく迎撃型の武器なんすよ」

「または、戦闘中にこっそりと準備していざという時の“補助”として使うのが主流ですね」

五和も楽しそうに説明に参加する。


「なるほど。言われてみれば、鋼糸だけで戦う人は誰もいませんでしたね」

「そもそも鋼糸はトラップ用に作られたものですから…レイちゃんみたいに能力が無いと無理ですよ」

「魔術で操る事は出来ないのですか?」

「うーん、出来なくはないですけど…術式の手間ばかりかかって、割に合わないと思います」

「?」


魔術に関する理解が未だ不十分なフルチューニングは、良く分からない、という感じで首をかしげた。
だが五和が解説を続ける前に、香焼が拗ねたようにポツリと呟いた。


「…だからと言って、すぐ能力使うのは卑怯者すよ」

「えい」

バリバリバリ!と音を立てた電流が、鋼糸を通じて香焼に流れ込んだ。


「ギャアアア!!!」

「れ、レイちゃーん…?」


恐る恐る五和が、プリプリ怒っているフルチューニングに声を掛ける。

そのフルチューニングは大人しくなった香焼を一瞥し、あっさりと返事した。


「これがレイの編み出した必殺技、『ミノムシ殺し』です」

「絶対今適当に考えたすよね!?」


黒焦げ状態の香焼が思わずつっこむものの、フルチューニングは出来ない口笛を吹いて誤魔化した。
「お前さんたち、いつまで待たせる気なのよ?」

「あ、建宮さん。今レイは必殺技を編み出したところです」


なかなか来ない3人を、教皇代理の建宮が迎えに来た。

その建宮に、フルチューニングが笑顔で今日の特訓の成果を報告するが…


「ん?レイ、その黒ミノムシは?」

「建宮さん!俺っすよ!」

「…げ、お前さんは香焼!?」

「いいえ建宮さん。レイを卑怯者呼ばわりする負け犬です」

「ちっくしょー!次は絶対勝ってやるからな!っていうか早く外せよー!」

「五和、これは一体何があった…?」

「えーと、その、いつもと同じ喧嘩、ですかね」


その日の午前は、普段と変わらぬ賑やかな特訓の風景だった。
9月7日(午後2時00分)、とある大通り


建宮とフルチューニングは、仲間の買い出しの為2人で出かけていた。

その帰り道、フルチューニングはローマ正教の教会を発見したので、建宮に質問した。


「そう言えば、天草式十字凄教には教会は無いのですか?」

「ああいう立派な建物は、我らには分不相応っていうヤツなのよ」

「?」

「そもそも、迫害から逃れる隠れキリシタンが我ら天草式の始まりだ」

「その本質は偽装。故に我らは力が無くても生き延びてきたのよな」

「目立つ拠点を持つと、狙われやすいということですか?」

「まあ、そんなとこよなー。元々我らはローマ正教やイギリス清教とは格が違いすぎるのよ」

「そういうものですか」
宗教事情については詳しく教えていなかったな、と建宮が考えていると、ある事を思い出した。


「あ、そういや近くの博物館で、ローマ正教が国際展示会を開催していたのよな」

「ああ、確かチラシが入っていましたね。歴史的な美術品なんかも取り寄せた、とか」

「ちょうど良い機会なのよな、勉強にもなるだろうし後で一緒に行くか?」

「はい!」


2人がのんきな会話をしていると、後ろから声を掛けてくるものがいた。


「あの…少しお話を聞いていたのですが…」

「ん?どなたさんなのよ?」

「あなた方は天草式十字凄教の方なのですか?」


修道服を着た外国人の女性が、やけに真剣な表情で話し続ける。

建宮は思わず警戒心を高めて、聞き返した。


「そうだが…それでお前さんは?見たとこローマ正教の修道女さんのようだが…」

「はい。私は、 オルソラ・アクィナスと言います」


そしてオルソラと名乗った女性は、迷いを振り切るようにこう言った。


「お願いでございます――どうか、助けてくださいまし」
9月7日(午後2時30分)、天草式十字凄教のとある拠点


オルソラの言葉に顔色を変えた建宮は、とりあえず拠点に戻って詳しい話を聞くことにした。

ちなみにフルチューニングは、お出かけの約束が中止になったので微妙に不機嫌そうである。


「『法の書』の解読法が分かった、だと…!?」

「はい…」


オルソラの言葉に驚愕する建宮たちであったが、1人フルチューニングだけが理解できずに首を傾げた。


「建宮さん。『法の書』って一体なんですか?」

「恐ろしい力を持つ魔道書の1つで、解読不可能と言われた本のことよな」

「…オルソラさん、解読不可能な本を解読しちゃったんですか?」
フルチューニングが素直に驚くが、オルソラはゆっくり首を振った。


「いえ…解読法が分かっただけで、まだ実際に読んでいないのです」

「モノを読まずに、どうやって解読法を見つけたのよ?」

「私は『法の書』の目次と序文の写本を持っておりまして、そこから導き出したのでございます」

「そんなことが出来るなんて…」


五和も目を大きく開いて驚いている。


「で、お前さんは自分がその事で狙われていると気づいて、この日本に逃げてきた、と」

「かなりマズいんじゃないの、それって…」


対馬が、珍しく冷や汗をかいて怯える素振りを見せた。
事情が分からないフルチューニングが、困惑気味に尋ねる。


「そもそも、どうして解読法を見つけたオルソラさんが仲間に狙われるんですか?」

「その『法の書』の内容が問題なのよな」


建宮が青ざめた表情で説明する。


「『法の書』が読まれた瞬間に、十字教の時代は終わりを告げる」

「?」

「つまりローマ正教にとっては、是が非でも“読まれる訳にはいかない”魔道書なのよ」

「読まれる訳にはいかない…?」

「それこそ、万一解読できる人がいたら殺すぐらいにはな」

「…」

あっさりと不穏な事を口にする建宮に、フルチューニングは無言で固まった。
「私はただ、誰も幸せにしない魔道書を壊したかっただけなのでございます…」

「それを信じてくれるほど、世の中は甘くないってことよな」

ましてあれだけ大きい組織ならなおさらな、と建宮は天を仰いだ。


それから10分。

天草式のメンバーが無言で悩んでいるのを見て、オルソラがそっと立ちあがった。


「申し訳ありません。どうか今までの話は全てお忘れください」

「…どういう意味よ?」

「良く考えれば、いえ考えなくても分かることでありましたが…」

「何の関係も無い皆様を、私の問題に巻き込む訳にはいきません」


諦観して、とつとつと言葉を紡ぐオルソラ。
「先ほどは混乱していた為か、酔狂にも助けを願い求めてしまいました」

「ですが、ローマ正教のお相手など“誰も”出来るはずはございません」

「ただ…1つ許されるのでしたら、私を見た事を黙っていただければ幸いでございます」


それだけ言って立ち去ろうとするオルソラの背中に、建宮が声をかけた。


「お前さん、何か勘違いしているようなのよな」

「え…?」

「我らが悩んでいるのは、どうやって助けるか、という1点のみよ」


その言葉に、天草式全員が頷いた。

フルチューニングも自然に頷く事が出来た。


「ですが、皆様では、とてもローマ正教と戦う事など…」

「いやいや、戦う必要もないわな」


建宮は静かに断言した。
「オルソラ・アクィナス、お前さんを天草式十字凄教に迎え入れる」

「我らの本拠地は仲間以外には誰も知らないし、『縮図巡礼』っちゅートッテオキもあるからな」

「ほとぼりが冷めるまで、我らが匿う」


――救われぬ者に、救いの手を。

みんなの変わらないその意思の強さに、フルチューニングは嬉しくなる。

だが、フルチューニングと異なりローマ正教で長年を過ごしたオルソラは、戸惑いを隠せない。

端的にいえば、そんな“夢物語”を素直に信じる事は出来なかった。


「あ、え、何故…?」

「“理由なんてねえのよ”」

「そうです。レイも、理由も無いのにみんなに助けてもらいましたから!」

「そうですか…分かりました、ありがとうございます」


オルソラが一瞬浮かべた表情に、天草式は最後まで気づく事が出来なかった。

 

 

9月8日(午前8時00分)、天草式十字凄教のとある拠点


翌朝。オルソラが客室でまだ休んでいる中、天草式は会議をしていた。


「昨日の夜も言ったが、やはりここは四国辺りに移った方が良いと思うのよな」

「ですが、2週間単位で拠点を変えるとなると、最初は群馬の方陣起点から始めるべきでは?」


フルチューニングが分かる事は少ないが、それでも大規模な引っ越しをするというのは理解できる。


(流浪の民みたいで、刺激的な感じです)

(レイも運転技術を学ぶべきでしょうか?)


…ローマ正教を知らないフルチューニングは、少しばかりのんきに考えていた。

慌てた諫早が、最悪の知らせを持ってくるまでは。
「建宮、不味い事になったぞ」

「どうしたのよ?」

「ローマ正教が動いた」

「そんな!幾らなんでも、早すぎですよ!」


五和が吃驚して大声を上げるが、建宮は無言で続きを促した。


「タイミングが悪すぎたようじゃ。…今『法の書』は、日本にある」

「なんだと!?」

「『ローマ正教の国際展示会』で展示するため、運搬されていたようでな」

「…『されていた』?」

「左様。非公式ながらもローマ正教は、『法の書』がすでに盗まれたと発表した」

「まさか」

「犯人は『天草式十字凄教』であり、解読の為オルソラまで誘拐したと断定されておる」

「クソったれ!」


建宮が怒りのあまり壁を殴った。
その様子を見て、フルチューニングも事情を把握する。


(どうやらオルソラを捕まえるため、天草式を悪人にしたらしいですね)

(…なんだかとっても“ムカつきます”)

(今のレイは、天草式十字凄教の一員ですから)


建宮は、全員の顔を見渡して宣言した。


「…女教皇の為にも、我らはオルソラを守りきらなきゃならんのよ」

「そうでなくては、あの方の居場所に相応しくないからな!」


(…!)

(まだ、レイは顔を見たことも無い女教皇…神裂火織…)

(建宮さんは、レイには詳しい事を話しませんでしたが)

(一体、どのような人なのでしょう?)

(こんなに大切に思われているのに、戻ってこないなんて…)

(…あれ?…今、レイは何故不快感を感じたのですか?)
フルチューニングの軽い混乱をよそに、話は続いて行く。


「どうするよ教皇代理。すでに連中は数百人以上の討伐隊を派遣したそうだが?」

「…仕方ない。今夜中に『縮図巡礼』で飛ぶしかないのよな」

「えー、後16時間もあるすよ?」

「そうする以外ないのよ。『パラレルスウィーツパーク』で準備をするぞ」

「とりあえず、レイはオルソラを呼んできます」


まだ“ねむねむ状態”のオルソラを連れて、天草式が移動を開始する。

彼ら天草式にとって、長い1日の始まりだった。

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