佐天「きゅ、吸血殺しの紅十字ッ!」 > 第一部 > 6

―――第七学区、柵川中学校




キーンコーンカーンコーン♪

大圄「じゃあ今日はここまで。日直、号令ー」

「きりーつ、礼」

大圄「はい、さようなら。気をつけて帰れよ」

ガタガタッ、ザワザワッ

「帰りどっか寄ってく?」

「セブンスミスト行こうよ。一一一(ひとついはじめ)のアルバム買わなきゃ!」

「えー、そんなのDLすれば良くない?」

「何言っての! 特典のためにCDを最低十枚は買うのがファンのあるべき姿だよ!」

「どこの世界の話さ、それ?」

ザワザワッ
佐天「…………」



………………………………

……………………

…………

ステイル「魔術を使えば、君は…………死ぬ」

佐天「えッ……」

佐天「嘘でしょ、そんな……。嘘なんだよね? 私を諦めさせるための脅しだよね?」

ステイル「嘘でも脅しでもない。本当のことさ」

佐天「どういうことなの? 死ぬって……」

ステイル「能力者は魔術を使うことができないんだよ」

佐天「わ、私は能力なんて持っていないよ!」

ステイル「でも『能力開発』とかいうのを受けてるんだろ?
 僕も詳しくは知らないが、そいつは能力を得るために脳をいじったりするそうだね。
 魔術は異世界の法則を呼び出すものだが、それを使うのはあくまで『普通の人間』だ。
 何かの才能を持った『特別な人間』が使えば反動を受け、身体に大きな負荷がかかる。
 断言はできないが、能力を持っていない君にもそれが起きる可能性はある」

佐天「そんな……」

ステイル「僕も能力者が魔術を使うのを見たことが何度かあるよ。
 そいつは体の傷を治す能力を持っているらしいが
 能力を使うたびに血まみれになっている。
 そういう能力を持っている奴だってそんな有様なんだ。
 何の能力を持たない君が魔術を使って反動が来たらどうなるか、想像できるだろ?」

佐天「でも、それでも私は……!」

ステイル「それに君は魔術を知るということがどういうことか、分かっていない。
 魔術はこの世界を支える、裏側にある原理だ。
 それを知れば、君が今のままの生活を続けるのは困難になるだろうね。
 しかも魔術を教えるのが、汚れ役を進んで買っている組織の魔術師だ」

佐天「…………」
ステイル「君は今の平穏な生活を捨てる覚悟が、本当にあるのか?」

佐天「わ、私……私は……」ギュッ

ステイル「…………」

ステイル「……そう言えば、まだ改めてお礼を言ってもらっていなかったね」

佐天「は? お、お礼? それはそう、だけど……」

ステイル「明日の同じ時間、僕はこの場所に来る」

佐天「えッ?」

ステイル「明日までに、精精まともなお礼の言葉でも考えてきてくれ」クルッ

スタスタスタッ…

………………………………

……………………

…………
「……さん、……さん」

佐天(私は、どうしたらいいの?)

「佐天さん、聞いてます?」

佐天「えッ!?」ガバッ

初春「もぅ、何ボーッとしちゃってるんですか? また食べ物のことでも考えてたんですか?」

佐天「えッ? あ、そ、そんなことないよ、何言っての初春。
 ちょっと寝不足でボーッとしてただけだよー」

初春「…………」

初春「佐天さん、この後どうしますか?」

佐天「えッ、この後……?」

佐天(……どうするんだろう、私。ステイル君にもう一度会いに行く?
 それとも……)

初春「そうだ! 一緒にどこか行きましょうよ!!」

佐天「どこかって、昨日もみんなで行ったばっかじゃん」

初春「え、えっと……そうだ! 昨日は結局ゲームセンターには行けなかったですからね!
 一緒に行きましょうよ!!」
佐天「えッ、でも……」

初春「そ、それじゃあカラオケなんてどうです!
 最近ストレスが溜まってるから、シャウトしたい気分なんですよ!!」

佐天「う、初春どうしたの? 今日はやけに積極的に……」

初春「佐天さん。今日は一緒にいましょうよ。ね?
 佐天さんが行きたいところがあればついていきますから。だから……」

佐天「初春……」

大圄「おーい、初春。ちょっと職員室まで来て、明日配るプリント準備するの手伝ってくれないか?」

初春「えッ? 今日は……」

大圄「すぐ終わるから。パソコン関係で少し教えてほしいことがあるんだよ」

初春「で、でも……」
佐天「初春、行ってあげなよ」

初春「えッ?」

佐天「今日は、私も用事があるから。先帰るね」

佐天「…………」

佐天「じゃあ」

初春「佐天さんッ!!」

タッタッタッ…

大圄「どうした? 佐天と喧嘩でもしたのか?」

初春「…………」

………………………………

……………………

…………
タッタッタッ…

佐天「ハァ、ハァ、ハァ……」

佐天(どうしよう……。私どうしたらいいの? 死んじゃうのは嫌だ。
 初春や御坂さんや白井さん、みんなと別れるのも……)

タッタッタッ…

佐天(どうすればいいのッ!!)

「佐天さんッ!!」

佐天「ッ!?」

御坂「どうしたの? そんなに急いで」

佐天「み、御坂さん……。 何でここに?」

御坂「な、何で……それは人探しというか、追いかけてたら見失ってしまったというか……」

佐天「へ?」

御坂「あッ!? な、なんでもないッ!! なんでも。アハッ、アハハハッ……」

佐天「は、はあ……」

御坂「そ、それより佐天さんはどうしたの? 今、学校の帰り?」

佐天「はい、そうですけど……」

佐天「…………」

御坂「…………」

御坂「佐天さん、今ちょっとだけ時間ある?」

佐天「はい?」

―――第七学区、とある公園




御坂  ジリッ

御坂「ふぅ……」

御坂「チェイサーーーッ!!!」ブンッ

ドゴッ!!

ガコガコッ、ゴンッ!

御坂「お、ちょうど二つ出てきた。ラッキー♪」

御坂「はい、佐天さん、どうぞ」スッ

佐天「あの、御坂さん、これって犯罪じゃあ……」

御坂「細かいこと気にしない! はい!」

佐天「細かいことですか? しかもスープカレー……」プシュ

御坂「いやー、やっぱりいちごおでんはこの胸焼けしそうな甘ったるさがいいわね」ぷはー

佐天「こっちは限りになくカレーですよ。どこまで行ってもカレーって感じです」ぐびッ
佐天「それにしてもどうしたんですか、突然?」

御坂「別に。ただの思い付きよ。今の佐天さんには必要なんじゃないかと思って」

佐天「必要?」

御坂「心を落ち着かせる飲み物や、誰かと話す時間が」

佐天「あッ……」

御坂  ぐびッ、ぐびッ

佐天「心を落ち着かせる飲み物が、スープカレーなのはどうかと思います」クスッ

御坂「むぅ。せっかく奢ってあげたのに」

佐天「御坂さん一円もお金出してないじゃないですか」

御坂「そう言えばそうだったわね」アハハハ

佐天「…………」ギュッ

佐天「御坂さん、聞いてもいいですか?」

御坂「ん? 何?」

佐天「御坂さんは、何のために戦ってるんですか?」
御坂  ブッ!!

御坂「た、戦うッ!? な、何言ってるの? 私はそんな危ないことなんか……」

佐天「白井さんがよく愚痴ってますよ。御坂さんが一人で戦ってるみたいだけど
 自分に話してくれないから心配だって」

御坂「えッ、あの、それは、その……!」あせあせ

佐天「御坂さんにも色々と事情があると思いますし
 詳しいことを無理やり聞こうとは思いませんけど」

御坂「うッ……」

佐天「でもその理由くらいは教えてくれませんか?」

御坂「…………」

御坂「仮によ。仮に、もし私が何か理由があって戦っているとしたら……。
 間違ったことが起こっているのを知ってしまったり
 それが自分と無関係じゃないって気付いたとしら」

佐天「仮に、ですね」

御坂「それは……何のためって一言で言うのは難しいけど
 戦うのは、やっぱり自分のためだと思うな」

佐天「自分のため、ですか?」

御坂「もしここで立ち上がらなかったら、知らん振りをして元の生活に戻ったりしたら
 きっとそれまでみたいに、自分らしく前に進めないって思う」

佐天「自分、らしく……」

御坂「後悔して、情けなくて、『何であのとき何もしなかったんだろう』って
 いつまで考え続けると思う。そうなったら私は立ち止まる。
 なら危険だったとしても、私は戦うわ」

佐天「それは、御坂さんがレベル5の能力者だからですか? そんな風に強くいられるのは」

御坂「どうなんだろ? 以前は、もしかしたらそうだったのかも知れない。
 私だってレベル5が人と比べてどの程度強い能力かってことは分かってるし
 だからこそ、『力を持つ者の責任』とか感じてたかも知れない。
 でも……」

佐天「…………」

御坂「大した能力があるわけじゃないのに、拳一つで立ち向かうのを見たから……。
 このレベル5の能力がなくなったとしても、私は戦う。
 戦う力なんて、自分次第でどうとでもなるもんだと思うし。
 そういうのを、教えられた気がする」ギュッ
佐天「……つまり御坂さんの話を総合すると、その『拳一つで立ち向かった人』に
 御坂さんは惚れてしまったということですね」

御坂「そうそう、私はあいつにほ……ほ、ほほほほ、惚れぇぇぇぇ!!
 そそ、そんなわけないじゃないッ!! なんで私があいつなんかに……///」

佐天「いやぁ、『アノルイジンエンガー!!』ツッコミが入らないと
 御坂さんから話を聞き出すのも楽でいいですね」ニヤニヤ

御坂「ちち、違うって!! それにこの話は『もしも』!!
 フィクションであり、実在の人物、団体とは一切関係ないんだからッ!!」

佐天「ソウイエバソウデシタネ」

御坂「なんで棒読みッ!? くぅ……」ギリギリ

佐天「でもありがとうございました。御坂さんの話、聞けてよかったです」

御坂「そ、そう? ならいいんだけど」

御坂「……じゃあ佐天さん、私からも一つ聞いていい?」

佐天「なんですか?」

御坂「佐天さん、何か私たちに隠してること、ない?」

佐天「…………」

御坂「…………」

佐天「ありませんよ、何も」ニコッ

御坂「そう、分かった。ならよかった」ニコッ

佐天「じゃあ、そろそろ私行きます」

御坂「なにか用事?」

佐天「はい。大切な、用事が」

御坂「なら私も帰るわ。せいやッ!」ヒュッ

カコン!

御坂「うん! 我ながらナイスコントロール! じゃあまたね、佐天さん」

佐天「……はい、また」

スタスタスタッ…

佐天「……よし」

 

 

 

 

―――聖ジョージ大聖堂、ローラ=スチュアートの私室




ローラ「――つまり、彼らの目的は分かり得なかったということ?」

ステイル『申し訳ありません』

ローラ「まあ良いわ。その誘拐を阻止できただけでも良きことをしましょう。
 かように小さき魔術結社に、大それたことができるとも思えぬしね」

ステイル『しかし大した実力ではなかったとは言え、事前情報よりも構成員はいたようでした』

ローラ「勢力が増していたということ? 熱心にも勧誘活動をしておったのやも知れぬわね。
 此度の学園都市侵入も人員獲得のためのパフォーマンスだったのやも』

ステイル『結果的には人員は減ったようですがね』

ローラ「あのような人間たちの考えることなど分からぬわ。
 私たちには理解できぬ重要な意味でもあるのではない?」

ステイル『……貴女なら何か掴んでいるのではないですか?』

ローラ「私が何から何まで知りたると思ったら大間違いなのよ、ステイル。
 はて、日本ではこのような時『何でもは知らないわよ、知ってることだけ』
 と言いたるのが流行っているのではなかったかしら?」

ステイル『タイムラグがありますね。どうせ土御門にでも聞いたんだと思いますが』
ローラ  ギシィ…

ローラ「しかし一つだけ、耳に入りしことがあらんわ」

ローラ「どうやら件の魔術結社、他国と繋がっているようなのよ」

ステイル『他国? 『ローマ正教』ですか?』

ローラ「さあ? どこかははっきり分かっておらぬのよ」

ステイル『しかしその某国が『科学の子』のスポンサーになっている可能性がある、ということですね』

ローラ「そういうことね。今のところ、イギリスには実害はないのだし
 静観したるのが賢しき者のしたることよ。
 ステイル、それ以外に何かなかりしなの?」

ステイル『いえ、特には……』

ステイル『…………』

ローラ「何かあったと言外に語ろうておるわよ。まるで乙女の如き所作ね」

ステイル『なッ……!?』
ローラ「で、何かありたるの? どーーんとお姉さんに話してみなさい」フンッ

ステイル『誰がお姉さんなんですか……。その、大したことではないのですが……』

………………………………

……………………

…………



ローラ「―――魔術を、ね……」

ステイル『申し訳ありません。科学側の人間をこちらに巻き込み過ぎました』

ローラ「過ぎたることは良いわ。しかし貴方は何を迷うておるの?
 自身が言ったとおり、学園都市の学生であるその娘に魔術は使えぬはず。
 それでも魔術を使って痛い目をみたれば、諦めるのでないの?」

ステイル『いえ、それが、彼女は魔術が使える可能性があるんです』

ローラ「どういうこと?」

ステイル『誘拐される前、彼女に魔術を打ち消す術式のルーンを渡しました。
 そのルーンには一回発動する量の魔力しか込めていなかったにも関わらず
 何度も術式が発動したそうです』
ローラ「それはつまり、術式が発動したるに必要な魔力を、自ら生み出したということ?」

ステイル『そうではないかと考えています』

ローラ「……ふむ。それが本当ならげに面白きことね。
 その娘には『才能』があるやも知れぬわ」

ステイル『『才能』? 魔術に『才能』は関係ないのでは?』

ローラ「ンフフ。本当にかようなお題目を信じておるの? 貴方もまだお子ね」

ステイル『どういう、ことですか?』

ローラ「確かに魔術は『才能の無い人間がそれでも才能ある人間と対等になる為の技術』に
 違いはなきものだし、手順を正しく踏めば誰にでも使えるものではあるわ」

ローラ「しかし何時まで経っても容易な術式も使えぬ者がいる一方
 幼き身にて特定の魔術体系を完全に会得し、さらに新しき領域をも開拓したる者がいるのは何故?
 それは魔術という『才能』に打ち勝つために生み出された技術も
 『才能』と無縁にはいられぬという証左に他ならぬわ」

ステイル『…………』

ローラ「しかし皮肉なりけるものね。『才能』の壁から逃げるために辿りつきし先が新たな『才能』とは。
 その娘も、魔術そのものも」
ステイル『……最大主教は、彼女が魔術を使えるとお思いになりますか?』

ローラ「分からぬわ。その娘の言が真実かどうかも定かではなし
 確かなことは言えぬわね。しかし、本当に使えたら、面白きことだわ。
 ステイル、今日その娘が魔術を使うのでしょう?」

ステイル『はい、そうですが……』

ローラ「では本当にその娘が魔術を使いたれば、貴方と一緒にイギリスに連れてきなさい」

ステイル『は!? 正気ですか!!』

ローラ「相も変わらず失礼ないい口ね。本気も本気、なりけるのよ」

ステイル『しかし……!』

ローラ「本当に魔術が使えるとしたら、生半可な知識で魔術を使うのを防がねばならぬわ。
 宗教防壁なしに魔術を使い続ければ、本当に死に至るものね。
 この場合、正しき魔術の知識を与えることと、私たちの戦列に加わってもらうことは
 同義だと思いけるのだけど」

ステイル『彼女を『イギリス清教』に、『必要悪の教会』に引き込むおつもりですか!!
 彼女は学園都市の学生です。
 私たちの一存で彼女をイギリスに連れてくることなどできません!』
ローラ「向こうの統括理事長に言えばどうにでもなりたるわ。
 その娘は能力を持たぬのでしょう? 学園都市がその娘に拘る理由はなきなりなのではない」

ステイル『そうかも知れませんが……』

ローラ「貴方は、この結果を心の底でさにあれと望んでいた。違う?」

ステイル「それは……」

ローラ「『危険性がある』という言い方も、また今日会うということも
 私の耳には僅かながらその娘に希望を残したるようにしか聞こえぬわ」

ローラ「魔道書図書館のため、己が身を犠牲にしてまで強き魔術を身に付けたる自分と
 劣等感に苛まれ、科学側にとってはオカルトにしか思えぬ魔術を欲したその娘が
 重なって見えたるのではない?」

ステイル「……では最大主教が彼女を『イギリス清教』に引き入れようとする理由は
 学園都市の事情に精通し、場合によってはスパイとしても使える人間が欲しかったからですか?
 土御門とは違い裏の顔のない、純粋で、魔術を教えたという恩義が通用するような人間が」

ローラ「『主の掟に従って貧しい人を助けよ。その人が困っているとき、空手で帰すな』よ、ステイル」

ステイル『くッ……』
ローラ「その娘の結果、楽しみにしておるわ」

ステイル『はい……』

ローラ「では、貧しき人に福音があらんことを」

ピッ

ローラ「ふぅ……」

ローラ「誰か、誰かおらんの?」

「はい、如何いたしましたか?」

ローラ  スッ

ローラ「このテレビ電話、どうやったら学園都市の統括理事長に繋がるのだったかしら?」

 

 

―――第七学区、とある廃ビル




カツン、カツン…

ステイル「……来たか」

佐天「うん……」

ステイル「それで、お礼を言うためにどんな美辞麗句を用意してきたんだ?」

佐天「び、ビジーレイク? 何、イギリスの湖の名前?」

ステイル「『美辞麗句』だ。このくらいの熟語も知らないのか」

佐天「イギリス人に言われてしまった……。私日本人なのに……」ガクッ

ステイル「下らないコントはいいよ。それで?」

佐天「…………」

佐天「ステイル君、ありがとう。色々と助けてくれて」

ステイル「…………」
佐天「それと…………ごめんなさい。私、やっぱり魔術を教えて欲しい」

ステイル  ギリッ…

ステイル「本当に分かっているのか? 魔術を使った反動で君は危険にさらされるんだぞ。
 それにもし魔術を使えたとしても、君はもう、今の生活を続けることはできない!」

佐天「分かってる。真剣に考えたし、覚悟も、した……。
 でもこれが私の答えなんだ」ニコッ

ステイル「……そうか。とても残念だよ、僕は」

佐天「本当にごめんね。でもステイル君は優しいねぇ」

ステイル「は?」

佐天「私には魔術のことなんて分からないから、『選ばれた人間にしか使えないんだぁ!!』
 とか言っちゃえば、わざわざこんな面倒なことにならなかったのに。
 私にチャンスをくれるなんて」

ステイル「べ、別に君のためにじゃない!!
 僕は『イギリス清教』の一員として、真実に反することを言いたくなかっただけで……!」

佐天「……まさか、ステイル君はツンデレさん?」

ステイル「積ん出れん? どうにも手の打ちようがない状況を指し示す慣用句かい?」

佐天「……ううん、何でもない。日本語も常に変化し続けてるってことだよ」
佐天「それで、私はどうすればいいの? 魔術を使うって言っても
 どうすれいいか見当もつかないんだけど」

ステイル「一から術式を構成して、発動させるというのは素人の君には不可能だ。
 僕が術式を構成するから、君には自ら魔力を生成して術式を発動させてもらう」

佐天「魔力を、生成!? そんなこと、私でもできるの?」

ステイル「正しい手順を踏みさえすれば、不可能じゃない。
 この場合に使う魔力は誰もが持っている生命力を元にしたものだからね」

ステイル「君の場合、それはすでにできるようだし」ボソッ

佐天「ん、何?」

ステイル「何でもない。じゃあ今から手順を教えるから、そのとおりにやるんだ」

………………………………

……………………

…………



ステイル「―――おおよそのところは分かったね?
 ルーン文字とラテン語の対応関係は端折ったけど
 今使うルーンの意味さえ理解出来ていれば問題ないはずだよ」
佐天「うん、なんとか……」

佐天(不思議な感じ。初めて聞く話なのに、何となく理解できたような気がする……)

ステイル「手順は言ったとおりだ。それじゃあ、このルーンを」スッ

佐天「うん……」

ステイル「本当にいいのか? 魔術が発動してもしなくても、君は後悔するんじゃないか?
 今ならまだ引き返せる。このままそのルーンを僕に返して、ここ数日間のことを忘れれば
 今までどおりの生活を送ることができるんだよ?」

佐天「…………」

佐天「何もせず、このまま帰ったほうが後悔するよ。きっと。
 私はもう、決めたんだ」

ステイル「そうか……」

ステイル「なら僕はもう何も言わない。もし魔術の反動が起こっても、僕が最小限に押さえる。
 『イギリス清教』の魔術師として、一般人の被害はなるべく出したくないからね」

佐天「……ステイル君は、やっぱりツンデレだよ」クスッ

佐天「よし。じゃあ、いきます!!」ギュッ
佐天「うッ……!」

ステイル「思い描くんだ。十字教にとって『炎』とは敵を打ち払う力の象徴だ。
 君が今から顕現させる炎は、君の前に立ちはだかる障害をすべて焼き払う」

佐天(お願い! もう私は、護られるだけの私じゃ、いたくない!!)



―――御坂「それは……何のためって一言で言うのは難しいけど
     戦うのは、やっぱり自分のためだと思うな」

    佐天「自分のため、ですか?」



    御坂「後悔して、情けなくて、『何であのとき何もしなかったんだろう』って
     いつまで考え続けると思う。そうなったら私は立ち止まる。
     なら危険だったとしても、私は戦うわ」



佐天「原初の炎、その意味は光、優しき温もりを守り厳しき裁きを与える剣をッ!!」ギュッ

佐天(来てッ、私の力!!!)

ボゥッ…

ゴオオオオォォォォォォ―――!!!
佐天  「ッ!!」
ステイル「ッ!!」

佐天「すごい、本当にできた……。炎の剣だ……」ボーッ

ステイル「本当に、発動させた……」

佐天「こ、これを……私が……」

ゴオオォォォ…!

ステイル「それより大丈夫か! 反動は!?」

佐天「ない、と思う。でも、何だか体から力が……」フラッ…

ゴオオォォォ…!  シュン…

佐天  バタンッ

ステイル「!?」

ステイル「おいッ!! 大丈夫か!? しっかりしろ!! おいッ……」

佐天(私、できたんだ……。これで私も、みんなを……)

………………………………

……………………

…………

 

 

 

―――第二十三学区、国際空港ロビー




ザワザワッ…

『ロンドン、ヒースロー空港行き、一二時三〇分発の三一〇便にご搭乗のお客様は……』

―――♪狙い定めた 指先がさす 運命は絶望? それとも希望?

佐天「~~~♪」

トントン

佐天「ん?」

ステイル「そろそろ搭乗時間だ。行こう」

佐天「うん。分かった」カチャッ

ステイル「体の方は大丈夫か?」

佐天「平気平気♪ 昨日は安心してちょっとフラっとしちゃったけど、今はなんともないよ」

ステイル「魔力は生命力を使うからね、そのせいもあるだろう。
 できることなら一日くらい休ませてあげたいところだが」
佐天「でも驚いたなぁ。次の日にはいきなりイギリスに行くことになるんだもん」

ステイル「僕もここに長居できるほど暇じゃないからね。
 君の学校へはイギリへの留学する手続きがすでに行われているはずだ。
 君の部屋にある荷物も、追ってロンドンへ送られてくる」

佐天「でもあの電話で話した変な喋り方の人は、なんで私にここまでしてくれるのかな」

ステイル「仮にも今から君の上司になる方だぞ。もう少し敬意を持て。
 まあ、あの人のやってることはただの気まぐれだ。君はそう考えていればいい」

佐天「そうなんだ。ふーん」

ステイル「…………」

ステイル「本当にいいのか?」

佐天「何が?」

ステイル「僕と一緒に来ることだよ。君は―――」

佐天「ステイル君しつこいぞぉ! 私はもう決めたんだから、もう何も言いっこなし!!」フンッ
佐天「それにしても楽しみだなぁ。イギリスなんて行ったことないよ。どこ行こっかなぁ♪」

ステイル「観光気分か。それよりあっちで生活するんだから、少しくらい英語はできるんだろうね?」

佐天「ッ!!」

佐天「そうだ、イギリスって英語なんだった……。まずい、私英語なんてできないよ……」ずぅぅん

ステイル「日本の義務教育でも英語は教えられてるんだろ?
 まったくできないなんてないんじゃないか。
 Tell me about yourself(自己紹介してみてくれないか)」

佐天「…………」ゴクッ

佐天「つ、ツーハンバーガー、プリーズ!!」

ステイル「……魔術を学ぶより、まず先に英語を勉強する必要があるな」

佐天「うぅ……。日本の中学生なんてみんなこんなもんだよ!
 御坂さんや白井さんなら、出来るかも知れないけど」

佐天「…………」

ステイル「どうかしたのか?」
佐天「い、いや、別に……! ただ、みんなにお別れ言えてなかったな、と思って……」

ステイル「あっちに行けば当分ここには戻って来れなくなる。
 メールくらい送ってあげればどうだい?」

佐天「私もそう思ったけど、どう言えばいいのか分からなくて……」

ステイル「そうか……」

佐天「も、もうそんな湿っぽいことはなしなしッ!
 あっちで落ち着いたらみんなに連絡するから!! 今は輝かしい明日に思いを馳せようじゃないかッ!!
 そう言えば、イギリスってご飯があんまり美味しくないって聞いたけど、あれってホント?」

ステイル「確かに日本人の口には合わないものが多いかもね。
 特に何でも手に入る学園都市で生活していたのなら、なおさらだろう」

佐天「うーん、そっか。私も少しは自炊とかできるけど
 これは本格的に料理を勉強するべきかな。ステイル君は―――」

「佐天さんッ!!!」

佐天「えッ?」
タッタッタッ

初春「ハァ、ハァ……佐天、さん……!」

佐天「う、初春!? どうしてここに?」

初春「ハァ、私、は……」

佐天「そ、そっか! 学校で私のことを聞いて、見送りに―――」

初春「くッ……!」

初春「佐天涙子さん、風紀委員として、貴女をこの場で拘束します!!」

佐天「こ、拘束ッ!! どういうことなの、初春!!」

初春「学園都市から不当に物や情報を持ち出すことは禁止されています。
 それは学園都市で生活している佐天さんにも言えることです」

佐天「ち、違うよ初春! 私はイギリスに留学するんだから―――」

初春「そんなの嘘ですッ!! 先生も事前に何も聞いてなかったって言ってましたし
 こんな突然の留学はおかしいですよ!!」

佐天「そ、それは……」
ステイル「…………」

ザワザワッ…

ナニアレ?  サッキジャッジメントダッテイッテタゾ  ナニカジケンデモアッタノカシラ?

初春「佐天さんは、操られてるんですよね? この前の誘拐事件のときみたいに!
 そこの人、貴方が佐天さんに何かしたんですかッ!!」

佐天「違うよ、初春。これは私の意志だよ。操られてもいない」

初春「じゃ、じゃあ佐天さんは騙されているんですよ!!」

佐天「騙されても、いないよ」

初春  ギリッ…

初春「行かせませんッ!! 佐天さんを行かせはしません!!
 さっきも言ったとおり、許可無く学園都市の外に出ることはできないんです!!」

佐天「私の留学は正式なものだよ。初春なら、もうそんなこと調べてるんじゃないの?」

初春「うぅ……!」

佐天「初春、お願い。行かせて」

初春「駄目ですッ!! 絶対に駄目です!!!」
佐天「初春ッ!!」

初春「なんでなんですか……。私には、佐天さんの考えてること、分かりません……。
 今のままでいいじゃないですか!! 白井さんや御坂さんがいて
 みんなと一緒にいれば、それでいいじゃないですかッ!!!」

佐天「初春……」

ツカッ、ツカッ

佐天「……私も、それでいいと思ってた。能力なんてなくても
 みんなと楽しくいられたら、それでいいって」

ツカッ、ツカッ

初春「そうですよッ!! だから、私と一緒に―――」

佐天「でも気付いたんだ。私だって変わりたいって思ってる。それを止めるなんてできない。
 だから……」

佐天  ギュッ

佐天「私、行くよ。ごめんね、初春」
初春「嫌ですッ!! 行かないでくださいッ!! お別れするなんて、嫌ですよッ!!」ギュッ

佐天「別に一生会えないわけじゃないよ。いつかまた、絶対に会いに来るから……」

初春「佐天さん……!!」

佐天  ぱッ

佐天「……それじゃ、私、行くね」

初春「待ってくださいッ!! 佐天さんッ!!!」

佐天「行こ、ステイル君」

ステイル「ああ……」

初春「佐天さんッ!!! 佐天さんッ!!!」

佐天「…………」

タッタッタッ…

スタッ、スタッ

佐天「…………」

ステイル「良かったのかい? 本当に」

佐天「…………」

佐天  ピタッ

ステイル「出発時間が迫っているから、急がないと―――」

ガシッ!

ステイル「な、何だ!?」

―――♪大切なもの 守るため 「力」はあると信じてる

ステイル「うるさッ!! イヤホンッ!? 突然何を―――」

佐天  ドンッ  ギュッ

ステイル「ッ!?」

佐天「―――ッ!! ――――――ッ!! ―――、―――ッ!!!」ブルッ

―――♪Saving our future 一緒に 明日の空 開いた空へ飛び立とう

ステイル「…………」

佐天「――――――ッ!!!」ギュッ

ステイル「不幸だよ、まったく……」




飛行機  キイィィィィィンンン

御坂「…………」ギュッ

御坂「佐天さん、なんで……!」

 

 

第一部 完

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最終更新:2011年03月09日 17:12
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