とあるミサカと天草式十字凄教 > 03


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8月20日、天草式十字凄教のとある拠点


フルチューニングが天草式十字凄教に拾われて4日後。

その日もフルチューニングは、五和に魔術や十字教の知識を教わっていた。


「なるほど。つまり『聖人』と呼ばれる人は、肉体強化レベル4以上の強さを生まれながらに持っているということですか」

「えっと…『肉体強化レベル4』がどれぐらいか私には分かりませんが…」

「聖人であるうちの女教皇は、音速以上で走ったり、100分の1秒の領域に対応する反射神経を持っていますよ」

「どんな化け物ですかソレは…」


フルチューニングはベッタリと机に伏した。

『学習装置(テスタメント)』で入力された常識と、あまりにもかけ離れた魔術という世界。

いい加減カルチャーショックで頭がおかしくなりそうだった。

自分の知る理屈が通用しない『魔術』を初めて見せてもらった時は、衝撃でしばらく動けなかったぐらいだ。

もっとも、それは五和たち天草式十字凄教のメンバーも同じ事であった。

一切の術式や霊装を用いることなく、2億ボルトもの電気を放射された時は腰を抜かした人もいるほどだ。

そんな事を平気な顔して行えるフルチューニングは、五和たち魔術師にとってある意味『化け物』と言える。


((常識が通用しない…))


五和とフルチューニングは同時に溜息をつき、顔を見合わせて苦笑した。


「じゃあ、休憩にしてお茶でも淹れましょうか」


その言葉に、フルチューニングが目を輝かせた。


「ミサ…レイのお茶へのこだわりは、ハンパではありません!」

「分かってますよー。ちゃんと美味しいのを用意しますから。…緑茶で良いですよね?」

「もちろんです。昨日は紅茶でしたし」

一昨日、生まれて(?)初めてお茶を飲んだフルチューニングはその味にいたく感激した。

そのため、天草式十字凄教の中でも最もお茶の淹れ方がうまい五和にとても良く懐いている。


「はい。高いお茶っ葉だからそこまで温度は高くしてませんけど、ゆっくり飲むんですよ?」

「当然です。ミサ…レイはドジっ子キャラではありません」


ズズー…

言葉通りゆっくりと口に含んで味を楽しむフルチューニング。


「ムッ!…この温度は茶葉の渋みを抑え、甘くまろやかな味を楽しむのに最適です。グッジョブです!」

フルチューニングは思わずグッと親指を立てて賞賛する。

その喜びように、思わず五和も笑顔になってフルチューニングの頭をなでた。

「喜んでもらえると嬉しいですねー。あ、お茶菓子もどう?」

「ミサ…レイは甘いものが好きです!このお饅頭を戴きます」

「あーあ。慌てて食べるから、口の周りに餡子が…」


2人が和気あいあいとしていると、建宮がその場に笑顔で現れた。


「おー。美味しそうなもの食べているのよな」

「このお饅頭を狙うとは…ですがもし食べたければ、このミサ…レイを倒してからにしてもらいます!」

「その気はないのよ。ま、何にしろすっかり打ち解けたようで、なによりよな」


そう言って建宮は、お土産のみたらし団子をフルチューニングに渡した。


「おお…これがあのお団子ですか…」

「プ。ホント、レイちゃん見てると飽きませんね」


お団子に目を奪われるフルチューニングを見て、五和がクスクスと楽しそうに笑った。

その態度に若干不満げなフルチューニングだったが、結局お団子の魅力に勝てず笑顔で食べ始めた。

「モグモグ。ところで、建宮さんはどうしてここに?」

「そう言えば、あと2日は帰ってこれないってみんなから聞いてましたけど」

「いや、まだ仕事は途中なんだけどな」

「?」

「レイが遠出するって言うから、ちいと見送りに顔を出したのよ」


思わず団子を食べる口が止まるフルチューニング。

理由は良く分からないが、なんとなく胸が暖かくなって嬉しい気分になった。


「それほど距離はありませんが…」

「それでも、心配はするのよ」

「確かにそうですよね。…やっぱり私も付いて行きましょうか?」

「問題ありません。ちゃんとすぐに戻ってきますから」


フルチューニングが断言しても、2人はどこか心配そうな顔をしている。

それでも、彼女は自分の意思を変えようとしなかった。


「ミサ…レイはどうしても、確認してみたいのです」

「…分かった。気を付けて行くのよな」

「お守りも用意しましたよ」


五和手作りのお守りをギュッと握りしめ、フルチューニングはその方向へ目を向けた。


――彼女が悩んだ末、明日1人で出かけることにしている場所。

――自らを作りだした場所。世界で唯一『超能力』を開発している、学園都市へと。

 

 

 


8月21日(午後7時30分)、学園都市第11学区


「流石はミサ…レイですね。難なく侵入に成功しました」


自画自賛しているフルチューニングは、現在輸送用トラックの荷台の中にいた。

荷台の警報機は全て能力で無力化してあるので、のんびりどら焼きを食べている。

ガタガタと揺られながら、フルチューニングはここに来ようと思ったきっかけを思い出していた。


(あれは夢だったのでしょうか…)


天草式に拾われてから、いや、正確には培養器から出て覚醒してからずっと、妙な感覚がしていた。

どこか“チリチリ”とした感覚が、肌や頭を覆うように自分を包んでいる。

徐々にその違和感を無視できなくなり…ついにフルチューニングはある夢を見た。

(ミサ…レイ以外の“クローンが何者かと戦っている夢”…あれは妙にリアルでした)

(『量産型能力者計画』はすでに凍結されたというのに、この感覚は一体何なのでしょう)


その感覚の正体を確かめるため、フルチューニングは学園都市へ戻ってきたのだった。


やがて第7学区でトラックが止まった隙を見計らって、フルチューニングは荷台から飛び降りた。

そして10分ほど走り、『量産型能力者計画』の研究所跡地に到着。

正面ゲートは太い鎖と錠で完全に封鎖されていたため、裏口の電子ロックを解除して中に侵入する。


(施設は完全に封鎖されたまま…やはり研究は行われていない…)

(……)

フルチューニングは、そっと近くのコンピュータに触れた。

そして能力を使って起動させると、メモリの中から『量産型能力者計画』について調べ始める。

だが、そのデータは完全消去されていた。


(ここまで完璧に消えているのは妙ですね…)

(失敗した役立たずの実験計画を、ここまで入念に消す理由があるんでしょうか?)


嫌な予感を感じたフルチューニングは、研究所同士のネットワークに侵入してさらに痕跡を探す。

そして、ついに1つのデータを発見した。




「『量産異能者「妹達」の運用における超能力者「一方通行」の絶対能力への進化法』…?」

 

「…通称『絶対能力進化計画』」

「…学園都市第1位をレベル6へ進化させる方法」

「…超電磁砲を128回殺害することで、レベル6になれる」

「…だが当然128人も用意できないので、代わりに量産計画「妹達」を流用することにした」

「…2万通りの戦場を用意し、2万人の妹達を殺害することで目的は達成される…」


モニターには、妹達の“殺し方”が2万通り表示されていた。

そして一番最後には…



次回の開始時刻:8月21日午後8時30分(日本標準時間)

次回の絶対座標:X228561・Y568714

次回の使用検体:検体番号10032号

次回の状況設定:反射を適用できない戦闘における対処法


現在の進行状況:10031/20000




フルチューニングは、瞬きすら出来ずに画面を凝視していた。

 

 

 

8月21日(午後8時00分)、第7学区『量産型能力者計画』研究所跡地


想像もしていなかった事実を知ったフルチューニングは、しばらく呆然としていた。


(クローンが、このミサ…レイ以外に2万体も作られた…)

(『絶対能力進化計画』で殺されるためだけに)


フルチューニングは極めて混乱していたが、やがて研究所を飛び出した。

何故かは自分でも分からない。けれども、その足は次の実験場所へと向かっていた。

(行って何をしたいのかも分かりません)

(こんな感覚は初めてです)

(とにかく、その『一方通行』という人と話し合いを…)

(何故)

(何故)

(何故)

(何故、ミサ…レイはこんなに落ち着かないのか、自己分析が出来ません!)


そしてフルチューニングは、実験場所の第17学区操車場へ到着する。

 

8月21日(午後8時30分)、第17学区操車場


フルチューニングが実験場所へ到着したその時、楽しげな声が聞こえてきた。


「そろそろ死ンじまえよ。出来損ない乱造品」

「――これより第10032次実験を開始します」

(そんな…!)


フルチューニングの前に映るのは、楽しそうに両手を広げる白い『最強』。

そして、自分よりわずかに幼いが同じ顔をした『人形(クローン)』。

どちらもフルチューニングの存在に気づいてはいないようだ。


(実験が、始まった…)


思わず五和から貰ったお守りを握りしめる。


(精神状態に異常発生…状況判断が出来ません…)

(あああああああ!!!)


無計画のまま、2人の前に飛び出そうとして――


「学園都市のIDを持たない侵入者を発見しました、とミサカは報告します」

「『実験』の妨害を看過することはできません、とミサカも攻撃態勢に入ります」


タタタタタ、と足元に銃撃を受けて足止めされた。


(実験前の妹達がここを守っていたのですか…迂闊でした!)


フルチューニングは後悔するが、その間にも妹達が四方を包囲してしまう。

そして月明かりがフルチューニングの姿を照らすと、銃を向けていた4人のミサカが混乱しだした。


「あなたは…『妹達』?とミサカは驚きます」

「いいえ、ミサカネットワークへの接続を確認できません、とミサカは事実を突きつけます」

「可能性があるとすれば、第1次製造計画では?とミサカは推理します」

「ミサカ達が作られることになった最初の理由、『量産型能力者計画』ですね、とミサカは納得します」


4人は無表情ながらも、フルチューニングの正体を予測して頷きあった。


「…あなたたちも、その、御坂美琴のクローンなんですね?」

「その通りです。そして現在このエリアは実験の為使用中です、とミサカは驚きを隠しながら警告します」

「そもそも、どうして廃棄されたはずの試作型がここに居るのですか、とミサカは問いかけます」


容赦なく突き刺さる妹達の言葉が、フルチューニングの思考を促した。


(どうして?)

(ミサ…レイは、自分の行動に合理的な理由を見つけられません…)

(この子たちも、今『一方通行』と戦っている子も、全て指示通りの事をしています)

(クローンとして、製造目的通りの事を行っています)

(だと言うのに…)


わずか数日前のフルチューニングなら、この光景を見ても何も感じなかったはずだ。

でも、彼女はたった数日を天草式十字凄教の仲間と過ごしたことで変わってしまっていた。


――そんなの、間違ってますよ!

――どうしてあなたは怒らないんですか!?

――これはお前さんがクローンだなんだ、っていう話とは無関係なのよ!

――助けたいのは、クローンじゃなくてここにいるお前さんという1人の人間なのよな

――レイ、で良いと思うのよな



(どうして、どうしてこんなにもこの実験が“ムカつく”のでしょう)

 

「レイがここに居る理由は、自分でもまだ分かりません」

「?」


疑問の表情を浮かべる妹達に、フルチューニングは今までとは明らかに違う表情を見せた。

それはまるで、人間のような――


「ですが、それでもハッキリ分かった事があります」

「今レイがやるべき事は――“救われぬ者に救いの手を差し伸べる”ことです!」


そしてフルチューニングの体から、白く光る電流が迸った。


「そこを通してもらいます!あそこで殺されてしまうミサカを、助けなくてはいけません!」

「…仕方ありません。強制排除を実行します、とミサカは号令をかけます」


その言葉に従って、4人の妹達が一斉に武器を構える。

銃口が向けられても、フルチューニングは目を逸らさずに不敵に告げた。


「…試作型が量産型より強いのは、昔から物語のセオリーです!」

「能力レベルが少し高い程度では、このミサカ達の相手になりません、とミサカは嘲笑します」


フルチューニングが、雷光を纏って突撃するが…それはあまりにも無謀な戦いだった。

四方八方から飛んでくる銃弾を避け、避けきれないものは電撃で撃ち落とす。

だが、一瞬目を逸らした隙にミサカの1人がフルチューニングの腹部を蹴り上げる。


「グ…ゴホッ」


思わず咳き込むフルチューニングを、今度は別のミサカが強襲。

避けようとするが、そこにさらに別のミサカが待ち構えていて逃がさない。

ミサカネットワークで完璧な連携を可能にした妹達に、あっという間に体中をボロボロにされる。

なんとか抵抗しようと放電するも、あっさりとかわされて反撃をくらう。

同じ顔をしている4人が、やはり同じ顔をしている1人を叩きのめす光景は、酷く凄惨なものだった。

「う…」


5分後には、ボロ雑巾のようになったフルチューニングが倒れていた。

もっとも、この結果は当然のことではある。

フルチューニングは、レベル5を目指して作られたので「能力」は他の妹達よりも高い。

だが、そもそも能力者と言うのは戦闘目的で開発されるものではない。

あくまでその発生原理とメカニズムを探るためのものだ。

言ってしまえば、フルチューニングは戦闘などしたこともない素人の女の子でしかない。

それに引き換え、妹達は初めから『対一方通行用戦闘モデル』として製造されている。

すでに学習装置によって、銃器の扱い方を含む戦闘情報をインストールされている兵士なのだ。

フルチューニングは致命傷こそ無いものの、すでに戦闘続行は不可能なレベルにまで追い込まれている。


「あ…あ…」

「これまでですね、とミサカは状況を確認します」

「う…レイ、は…」


戦闘の余波で吹き飛んだお守りに、フルチューニングが手を伸ばした。


(何故、レイはあの人達のように誰かを救えないのですか…?)

(何が違うと言うのですか…?)


圧倒的な無気力感が、フルチューニングの全身を襲う。


「未熟さというのは辛いのよな」


だが、ぼんやりとした頭に聞きなれた声がかすかに届いた。


「けど、だからこそ助けあえる仲間っつーのがいるのよ」


その言葉に何人かが笑顔で頷く気配。

包みこまれるような感覚を最後に、フルチューニングは意識を失った。

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