──10月──
佐天「ふんふふーんー♪」
初春「随分とご機嫌ですね佐天さん」
佐天「ふっふっふー、そうご機嫌なのだよ初春くーん」
初春「はぁ、あまり聞きたくないんですけど何かあったんですか?」
佐天「分からないのかね初春君!!」
初春「??」
佐天「こないだの侵入者騒ぎでッ!!中間試験がなくなったのだぞ!!これが嬉しくなくて何なのだー!!」
初春「は、はぁ……、でも佐天さん」
佐天「んー?」
初春「中間試験が無くなったって事は、期末試験で全ての成績が決まるから寧ろ喜ばしいことではないと思うのですが」
佐天「へ?」
初春「単純に考えて中間試験分の範囲も含まれての期末試験ですから……」
佐天「…………。」
初春「今からちょくちょく勉強しとかないと不味いんじゃないですかね」
佐天「は、はは……」
佐天「初春さん……いや初春様……」
初春「まぁ佐天さんが入院してた分のノートくらいは見せてあげますから安心してください」
佐天「初春ぅ~やっぱ持つべきは友よね!!さすが今日のパンツはクマちゃんなだけあるね!!」
初春「さ、佐天さんっ///……もういいです!!ノート見せてあげないっ!」
佐天「えぇ~!!そんなー初春んー謝るからーごめんねごめんねー、あははー」
──学生寮──
佐天「……、はぁ」
溜息をつく
幸せが逃げてしまうから溜息なんかしちゃダメですよと当麻さんに言ったのを思い出す。
あぁあれはもう2ヶ月前だっけ──
佐天「はぁ……流石にこれは溜息が漏れちゃうよね……」ピト
彼女の右手には毎朝お世話になっている目覚まし時計。
その目覚まし時計は一定の間隔で時刻を刻んでいく正常な時計だ。
その正常な時計こそ異常だった。
──佐天涙子の右手は対象の大きさ、複雑さにもよるがこの程度の時計なら1分ほど時間を静止させることが出来る。
佐天「やっぱ出来ない……。あの日以来能力が使えない──」
ヴェントが学園都市に攻め込んできた次の日能力を使おうとしたところ、何も起きなかった。
時間を遅くさせるどころか、時を止める及び範囲指定の時止めも使うことが出来ない。
少し前に右手の事に気付く直前に能力の使用が制限されていたことがあったが
それは入院による体力の低下が直接的な原因だったと思う、それに
あの時は制限されていたとはいえ、少しは能力が使えたのだから。
佐天「──無能力者、か……」
佐天「こんなことを誰に相談したら良いんだろう?」
佐天「あたしが時を止める能力を持っていたことを知っている人自体が少ないし……」
佐天「当麻さん……はダメか、当てにならない。だとすると御坂さんしか居ないよね」ピピピ
佐天「あ、もしもし御坂さんですか?夜分遅くに申し訳ないんですが……少し相談があるんです」
御坂『あー気にしなくていいわよそんな事ーで、何かあったの?』
佐天「ちょっとあたしの能力についてなんですが……」
御坂『……、そうねぇ……今から会えないかしら?』
佐天「え、今からですか?」
御坂『まぁ明日でもいいんだけど、まだ完全下校時刻になってないしね』
佐天「分かりました、じゃあいつものファミレスでお願いします」
御坂『オッケー、じゃあね』
佐天「っと……ちょっと厚着していこうかな」
さーて、何着て行こうかなー
この前セブンスミストで初春と一緒に買ったノルディック柄のニットワンピにー
デニムのショートパンツとーうーん……。
あ!そうそうブラックのナウシカブーツ買ったんだった♪
トットットッと学生寮をオニューの服で景気良く佐天涙子だが
佐天「ふー、無理に明るくしても……なぁー」
佐天「あれだけ憧れてた超能力者から一気に無能力者、か……」
佐天「──ん?あぁ……」
佐天涙子が見上げた先には飛行船が有り、ソコには毎日のニュースが流れている。
そこには世界中で反科学デモを行っているローマ正教徒達が映されていた。
佐天「──科学的超能力開発機関である世界最大の宗教団体ローマ正教ねぇ……」
魔術の存在を知っている自分だからこそ、あのニュースが嘘を言っているのだと理解できるが
果たして無能力者で魔術について全く知らない自分が居たら……、あれを信じでしまうのだろう。
??「そう、そのローマ正教についてお話があるのです」
いつの間にそこに居たのだろうか
スーツを着て柔和な笑みを浮かべた自分より少し年齢が上の少年が佐天涙子の後ろに立っていた。
佐天「!! あなたは一体?」
佐天「ていうか何時からソコに」
??「まぁ自分のことは特に気にしていただかなくて結構です」
??「そうですね、しいて言うなら統括理事会の関係者とでも言っておきましょうか」
佐天「統括理事会の関係者があたしみたいな中学生に一体何の用ですか?」
??「そう警戒しないで頂きたいものですが、まぁこの状況じゃ警戒するなってほうが無理な話ですよね」
佐天「それで、一体何の用なんですか?」
??「そうですね、初めにお話したローマ正教に関することで統括理事会長から貴女に依頼があるようです」
佐天「依頼って……?」
??「いま世界中でローマ正教徒達によるデモ活動が行われていることはご存知ですよね?」
佐天「はぁ……まぁこれだけニュースでやっていれば」
??「そこで騒ぎの中心点であるフランスに飛んで欲しいんです」
佐天「は?フランス??あたしパスポートとか持ってな──」
??「極秘裏に行って頂く形になりますのでパスポートは不要です」
佐天「いやいやいやいやいや、あたしなんかがデモ活動を止めるなんて──」
??「今起きているデモ活動が、とある人物によって起こされているとしたら?」
佐天「へ?」
??「【神の右席】である【左方のテッラ】という人物が今回の突如起こった世界中のデモ活動の犯人です」
佐天「!!──神の……右席……」
??「はい、先日の学園都市へ侵入したヴェントの仲間でありローマ正教の秘密兵器です」
??「自分も噂程度にしか聞いたことがないので相手がどういった【魔術】を使うのかは分かりませんが」
佐天「魔術ってあなたは──」
??「自分についての素性はとにかく明かせないのでその質問にはお答えしかねます」
佐天「……、それであたしはフランスに飛んでどうすればいいの」
??「現地に科学サイドではなく魔術サイドの人たちを用意させてますので、そこでお聞きください」
??「他に何か質問はありますか?」
佐天「あっ、もう一つだけあります──」
佐天「あたしこれから御坂さんとファミレスで合う予定だったんで、御坂さんにお断りの連絡を代わりにして置いてください」
登場からずっと柔和な笑みを崩さなかった男が、御坂という単語を聞いただけでその笑みが崩れる。
ていうか焦っている。
??「みみ、御坂さんですか……、はは……わかりました……い、いや待てよ……」ブツブツ
ただこちらとしては御坂さんにファミレスでの件を断る旨を伝えてくれさえすれば構わないのだが。
ブツブツ言いながら焦った表情の男は笑顔になったと思ったら急に焦った表情を浮かべたりと急がしそうである。
佐天「あ、あの……それでフランスにはいつ行くんですか?明日とかなら御坂さんに断りの件必要ないんだけど」
??「あっ、そ、そうですね!!フランスには【今から】行ってもらう事になってます」
??「車も準備してあるのでご安心ください」
男が指差す方向には停車しているいかにも、な黒塗りなワゴン車がとめてあった。
そのワゴン車に向かって歩き出そうと思ったが──。
??「あ、少し待ってください、ちょっとこちらの不手際で数分ほど待っていただかないと困るんです」
佐天「ん?すぐには行けないんですか?」
??「え、えぇ……あなたから頼まれた任務を遂行しなければならないので」キリッ
佐天「は?」
??「では少々お待ちください、飛行機までの案内人はサラシを撒いた女の人がくるのでそれを待っていてください」
そういって男は少し離れたところで携帯電話を取り出して誰かにかけ始める。
会話はあまり聞こえないが、先ほどの男は電話先の相手にかなり丁寧に頼み込んでいるようだ。
ていうか聞こえてくる会話にショタとか小学生の男の子とデートとかあるんですけど。
──数分後──
??「こんばんは紹介されてるとは思うけど私が案内人よ、さぁ行きましょうか」
佐天「あ、はい……(本当にサラシ撒いてる女の人キター)」
??「ま、といっても車にのって貰って空港まで案内するだけだから別に私じゃなくても良かったのだけれどね」
佐天「は、はぁ……」
??「頼まれちゃったししょうがなくね。さ、車に乗りましょ」
そういって車内へと移動する。
佐天「あ、お姉さんが運転するんじゃないんですね」
??「そうね、別に私が運転しても良いんだけれど」
佐天「というか今からフランスに行ったとして到着は何時になるんですか?」
??「えぇっとちょっと待ってね……今資料を見るわ」ガサゴソ
??「あら……?お嬢ちゃん残念ね──」
佐天「へ?何が残念なんですか?」
??「フランス到着はおおよそ一時間後よ、時速7000Kmでる飛行機で出発ですって」
??「乗り心地は多分最悪でしょうから今から物を食べるのはよしといたほうがいいわね」クスクス
佐天「な、な……7000Km……」
佐天「ふ、不幸だ……」
──学園都市・第二十三学区──
??「さぁ着いたわ、あそこにあるのがアナタが今から乗る時速7000Kmに到達する飛行機よ」
??「まぁもっともあれを飛行機と呼ぶのかは疑問なんだけれど」
佐天「……ゴクリ」
??「まぁ頑張ってね、それとえーっと何々?ふーん」
佐天「何ですか……?」
??「あったあった、これか。アナタ飛行機に乗ったらコレを着用してね」
佐天「リュック??何ですかこれ?」
??「ん?パラシュートじゃない?使い方は知らなくても勝手に開くようになってるから心配しなくてもいいわよ」
佐天「パ、パラシュートォォォォ!?」
??「ま、諦めてさっさと飛行機に乗った乗った」
佐天「第二十三学区かぁ、大覇星祭を思い出すなぁ」
佐天「オリアナさんどうなったんだろ──それにしても……」
佐天「乗客はあたし一人……言われるがままにパラシュートまでつけて……」
佐天「時速7000Km……一体どんな」ガタン
佐天「うおっと……滑走路へと動き出した──ん?」
佐天「ちょっと待って……、あたしって今右手の能力ないんじゃ──」
滑走路へ入り加速し始めた機内で佐天涙子はそれ以上の言葉を紡ぐことは出来なかった。
──一時間後のフランス──
??「お、ホントに降ってきたのよ」
??「親方空から女の子がーってか?」
??「まぁ何にせよ早めに回収してC文書の調査に戻らないといけないのよな」
佐天「イヤァァァァァァァァァ怖いィィィィィィ」
??「へいオーラーイ、オーラーイ」
佐天「どいてくださぁぁぁぁぁぁぁい」ゲシッ
??「ぎゃぁぁぁぁぁ」
ドサァァァァ
佐天「いてて……、着地できた……ん?」
佐天「足元に居るこのクワガタみたいなおじさんは誰だろう」
??「おじさんじゃないのよ……、天草式の建宮斎字っていうのよ」
佐天「あ、もしかして現地の案内人って言う」
建宮「そうなのよ、これから佐天さんには我々天草式の調査に手伝ってもらうのよ」
佐天「は、はぁ分かりました、でまず何をすればいいんですか?」
建宮「まず……どいて欲しいのよ……」
──────────────
佐天涙子が降ってきた場所では少々目立ちすぎるとの事なので
建宮に連れられ路地裏へと足を運ぶ。
建宮「さて、お嬢ちゃんが佐天涙子ちゃんなのよね?」
佐天「あ、はい」
建宮「わざわざフランスにまで来てもらった理由は分かるか?」
佐天「いえ、それが……なんとなく程度にしか……」
建宮「まぁそれは想定の範囲内なのよ、落ち込むことはない」
建宮「まず、世界各地で起こっている暴動は【C文書】という霊装による魔術によって引き起こされているのよ」
佐天「は、はぁ……」
建宮「その【C文書】って霊装を操ってる奴がここ、フランスのアビニョンにいるってことなのよ」
佐天「えっと……つまりその霊装を破壊するのが──」
建宮「そう、今回の目的でもある」
佐天「目的“でも”って事は他になにか?」
建宮「そのC文書を破壊するのには佐天さんの力を借りる訳だけれども」
建宮「その霊装を操ってる奴も懲らしめないといけないわけよ」
佐天「あっ、なるほど」
建宮「アビニョンに居るのは五和と俺の二人だけだから心もとないと思うが頼むのよ」
建宮「まぁ五和は他に仕事があるんでこっちに合流はできそうにないのよ」
佐天「わかりました、でもテッラの使う魔術とかって……そのC文書以外に何か分かるんですか?」
建宮「──なんだって?」
佐天「いえ、ですから【左方のテッラ】の使う魔術が知りたいなぁって」
建宮「テッラ?お嬢ちゃん一体何を言っているのよ」
佐天「あ、あの?今回の事件の首謀者であるテッラについてですけど……」
建宮「事件の首謀者……だと?お嬢ちゃん一体どこでそんな情報を?」
佐天「えっと、学園都市であたしをここまで誘導した男の人が言ってましたけど……」
建宮「──なるほど、お嬢ちゃん」
佐天「へ?何ですか?」
建宮「助かった、礼をいうのよ」
佐天「え?え?……良く分からないんですけど」
建宮「俺たちはこの世界各地で起こっている暴動はC文書という霊装によって起こされていると特定はしたのよ」
建宮「だが、そのC文書を操っている奴はまだ不明。テッラなんて──」
ぶわっ、という音と共に路地裏の壁が崩れる。
建宮を狙ったのか、路地裏の壁が何者かの攻撃によって崩れたようだ。
佐天「建宮さん!!」
建宮「大丈夫なのよ、心配ない」
??「うーんちゃちゃっと終わらせて次に向かいたいところなんですが」
建宮「誰なのよ、影からこそこそ狙うなんて。ローマ正教徒か?」
??「まぁ違いは有りませんがどうせなら先ほど貴方が仰った名前で呼んで欲しいものですがねー」
建宮「なに──?」
テッラ「どうも、今回の暴動の首謀者の神の右席、左方のテッラです」
建宮「──へぇ……、俺の行動を嗅ぎ付けて始末しに来たって訳か?」
テッラ「面白い冗談ですねー。貴方みたいな異教の猿を相手にするのは三下のすること。私の目的は一つですよ」
テッラ「そこの佐天涙子とかいう小賢しい小娘を殺害しに来ただけです」
佐天「!!」
建宮「させると思うか?」
テッラ「別に抵抗してもらって構わないのですが、いささか私も予定があるんですよ」
テッラ「この後ちょっとした暇潰しに出かけなければなりませんのでねー」
建宮「はっ、つまり俺たちは暇潰し以下の相手って事か?」
テッラ「貴方がそこの佐天涙子を庇うならお相手しますけどねー。しかしその娘に庇う価値などありませんよ?」
建宮「あ?何を──」
テッラ「そうでしょう?“何の力も持たない”佐天涙子さん?」
佐天「──ッ!!どうしてそれを!?」
テッラ「アックアに聞きましてねー、貴女の能力についてとその限界について」
佐天「限界ですって?」
テッラ「おやおや。何も知らないのですか?自身の能力がどのようなものなのか」
佐天「…………」
テッラ「元々ですねー貴女の右手に時を止める能力なんか目覚めるわけがないんですよ」
佐天「──は?」
テッラ「しかし厄介ですよねー、御使堕しというモノは」
佐天「御使堕し……?」
テッラ「そうですよ御使堕しの影響で貴女はその右手に“時を止める能力”が身についてしまった」
建宮「なんだって──?」
建宮「あの術によってそんな事が起こりえるなんてありえないのよ」
テッラ「まぁ貴方達に詳しく教える義理も必要もないんで──」
佐天「それで!!どうしたらあたしの能力は元に戻るんですか!!」
テッラ「教えるとでも思いますかー?思ったのなら相当なお馬鹿さんですねー」
建宮「チッ、嬢ちゃんは逃げろコイツは俺がやるのよ」
テッラ「ほぉ、楽しませてくれると嬉しいのですが」
建宮「ハッ言ってろォォォ!!」
どこに隠し持っていたのか建宮は波をうっている剣を取り出し
テッラに思い切り振り下ろす──
テッラ「優先する。──剣を下位に、空気を上位に」
建宮が振り下ろした剣はテッラに届くことなく空中で止まった。
まるで何かの壁に阻まれたように。
テッラ「まぁアニューゼ部隊を数十人で互角以上の戦いをしたとしても一人ではこの程度でしょうねー」
テッラ「しかしながら貴方達が何十人居ようと相手になりませんがね、この左方のテッラは」
佐天「建宮さん!!」
建宮「何してるのよ!!早く逃げろ!!」
テッラ「逃げても構いませんよ。できるものならばですけどねー」
テッラ「さてと、そろそろ死にますか?佐天涙子──」
PiPiPi
テッラ「む?……、はぁ……命拾いしましたね佐天涙子」
建宮「なに!?」
テッラ「思いのほか上条当麻がC文書のパイプラインの存在に気がつきましてねー」
テッラ「そちらのほうが厄介なので今回は見逃してあげますよ」
佐天「──ッ!!」
テッラ「幻想殺しと違って今の貴女は何の能力も持たぬただの小娘。いつでも殺せますしねー」
テッラ「では。またお会いしたときはよろしくお願いしますね」
言うが早いかテッラは足早に路地裏を去っていく。
しばらく剣を構えて警戒態勢をとっていた建宮だが、追撃がない事を確認し剣をおろす
建宮「──行ったみたいだな……」
佐天「そ、そのようですけど……」
建宮「で、アイツが言ってた能力が使えないってのは本当か?」
佐天「…………」
建宮「黙ってちゃ分からないのよ」
佐天「す、すいません!!…………」
建宮「いつから使えなくなったのよ?」
佐天「こないだ学園都市を襲撃したヴェントを撤退させた日以来……」
建宮「まっ、無いなら無いでいいのよ!元々天草式のメンバーと上条当麻で解決する予定の問題だったわけだし」ニカッ
佐天「で、でも今テッラが──」
建宮「魔術に疎い上条当麻だけなら多少危険かもしれないのよ」
建宮「でも今は魔術に詳しいさっき言った天草式の五和を付き人とさせてるのよ」
佐天「で、でも!!相手は訳の分からない魔術を使って──」
建宮「確かに危険ではある、だが俺たち天草式のメンバーは無理はしないのよ」
建宮「撤退するのが最善ならば撤退するし、勝ちに拘る阿呆ではないのよ」
建宮「それにアイツの魔術はある程度は分かったのよ」
佐天「あの時間だけで何か分かったんですか?」
建宮「あぁ、恐らく奴の魔術は物の優先順位を変更する魔術なのよ」
建宮「そんな魔術が使えるとはにわかには信じ難いが──」
??「おや、そこに居るのはブラザーではないですか。こんな所で何をしているのですか?とミサカは尋ねます」
佐天「えっ!?妹さん??どうしてここに──」
ミサカ「はぁ、それはこちらのセリフなんですけど……いいでしょう説明してあげます」
ミサカ「元々妹達は世界各地に調整のために散らばってますし、フランスにだって学園都市に協力している機関はあるわけで」
ミサカ「まぁその機関はフランスのアングレームに在るんですが、とミサカは補足説明をします」
ミサカ「あ、因みに検体番号は一三〇七二号です、とミサカはさらに補足説明をします」
佐天「あ、ある程度は分かったけど……それでもどうしてそのアングレームの機関からアビニョンのここに?」
ミサカ「あぁ単純な事です────」
──もうすぐこちらのアビニョン旧市街へ学園都市が侵攻を始めるからですよ。
佐天「なっ、学園都市が!?それでどうして妹さんが──」
ミサカ「そりゃ戦力としてでしょうね、とミサカは簡潔に答えます」
佐天「そんな……!!そんなこと──」
ミサカ「ですが先程も言ったようにミサカは治療中の身ですので実戦投下はまず無いでしょうが」
建宮「二人で話してるところ何やら悪いんだが、佐天涙子ちゃんこの娘は誰なのよ?」
佐天「あたしの友達です」
建宮「ということは、味方なのよな?」
ミサカ「……、まぁクワガタ頭の味方といえるのかは疑問ですが……味方です」
建宮「それで学園都市様はこのアビニョンを侵攻するってどういうことなのよ」
ミサカ「私には詳しく作戦が聞かされていないのでなんとも言えません、とミサカは少々落胆の色を見せながら答えます」
ミサカ「ですが、ここの宗教団体が国際法に触れる特別破壊兵器を生産してるとの事で私が呼び出されたと聞きました」
建宮「なるほどね……」
佐天「建宮さん!!あたし達も急がないと──」
建宮「そうだな、動くなら早いほうがいいのよ。行こうかお嬢ちゃん」
ミサカ「そうですね行きましょう」
佐天「へ?」
ミサカ「ん?とミサカは自分の行動に何か不思議な点があったのかとお尋ねします」
佐天「いやいやいやいや、妹さんは学園都市の機関で身柄を──」
ミサカ「心配要りません、ある程度の自由は保障されていますし」
ミサカ「それにブラザーがここに居るという事は何やら事情があるのでしょう?」
佐天「ま、まぁ……そうなんですけど」
ミサカ「なら戦力は多いほうがいいと思いませんか?」
佐天「──で、でも!!あたしは妹さんに傷ついて欲しくないし……それに治療中なんじゃ!!」
建宮「戦力は多いほうがいい、それには同意なのよ」
佐天「建宮さん!!どうして!!」
建宮「おい、そこのお嬢ちゃんは超能力が使えるのよね?」
ミサカ「はい、レベル3程度の電力使いです」
ミサカ「あと私はそこのお嬢ちゃんではなくミサカ一三〇七二号です、とミサカはクワガタ頭に突っかかります」
建宮「オーケーオーケー、了解なのよ。なら付いてくるのよ」
佐天「どうして!!いくら能力者だからといって──」
建宮「人数は多いほうがいいのよ、左方のテッラの魔術には穴があるのよ」
佐天「あ、穴?それは一体──……?」
建宮「それについては場所を移してから話すのよ。ここはもう直ぐ戦場になる」
建宮「移動しよう、今後について色々と考えなければならないのよ」
建宮「それでいいな?ミサカちゃんと佐天ちゃん?」
佐天「は、はぁ……」
ミサカ「イエッサーです、クワガタ頭」
──隠れ家的な喫茶店──
ミサカ「ほお……何やら物々しい雰囲気の喫茶店ですね、とミサカは辺りを見て言います」
建宮「まぁここは暴動に巻き込まれた人たちの治療所も兼ねているのよ」
建宮「多少アレな雰囲気は我慢して欲しいのよ」
佐天「……、それでテッラの魔術の穴って一体何なんですか?」
建宮「恐らくアイツの魔術は【光の処刑】だ、物の優先順位を選択できる魔術なのよ」
佐天「それはさっき分かりましたけど──」
建宮「そこで、だ。アイツは複数の物を選択できるのかって疑問なのよ」
佐天「あ……」
建宮「答えは恐らく出来ない。アイツには物量作戦が有効だろうのよ」
ミサカ「あ、あの魔術とか何言ってるんですか?頭沸いてるのですか?と、ミサカはクワガタ頭に冷めた目線を投げかけます」
建宮「──、そこでこのお嬢ちゃんなのよ。電力使いということなら攻撃パターンも複数あるだろうしな」
ミサカ「お嬢ちゃんじゃ──」
建宮「ははっ、すまんなミサカちゃん。つまりミサカちゃんと俺でテッラを追い詰める」
佐天「で、でもテッラは今何処に──」
建宮「恐らく教皇庁宮殿だろう。あそこにC文書があることは分かってるのよ」
建宮「今は暴動の所為で教皇庁宮殿に近づくのは難しいが、学園都市が侵攻を開始した混乱に乗じて行くのよ」
佐天「な、なるほど……そ、それであたしは何をすれば──」
建宮「能力が使えないってのなら戦場に連れて行ったら死ぬだけなのよ。だからここで待ってて欲しいのよ」
佐天「──そ、そんな!!あたしはテッラにまだ聞きたいことがっ……」
建宮「厳しいことを言うかもしれないが、お嬢ちゃんがテッラと戦うとなったら何ができるのよ?」
佐天「ッ!!それは……」
建宮「そういうことなのよ……フランスまで来てもらって何も出来ないのはこっちとしても心苦しいのよ」
建宮「けどわかって欲しいのよ、テッラから聞きたいことは身柄を拘束してからでも遅くは無いのよ」
ミサカ「少々良いでしょうか?とミサカはクワガタ頭に問いかけます」
建宮「何なのよ?」
ミサカ「学園都市の侵攻の混乱に乗じるなら急がないと行けませんね」
建宮「──ッ!?まさかもう直ぐ始まるってか!?」
ミサカ「はい、まもなくというか後8秒後ですけど」
言うが早いか、遠くのほうで銃声が聞こえ始めた。
暴徒達による銃声でないと確信できるのは
暴徒達が銃を所持してはいないという情報があるからだ。
建宮「クッ!!始まったのか、早いのよ……」
建宮「行くのよミサカちゃん!!作戦は向かいながら話すのよ!!」
ミサカ「最終確認ですブラザー、とミサカはブラザーへ向かって質問を投げかけます」
佐天「ッ!何ですか?妹さん」
ミサカ「このクワガタ頭のことは信用してもいいんでしょうか?」
佐天「大丈夫……あたしが保障する……」
ミサカ「了解しました。ブラザーはそこで待っていてください、すぐに暴動を止めてきますから」ダッ
喫茶店から勢い良く出て行く建宮と妹達のミサカ一三〇七二号の二人。
彼らはこの後教皇庁宮殿へ向かい、テッラと対決するのだろう。
あたしは…………。
何の能力を持たないあたしは唯の中学生。
能力を持つ前の中学生活はどうだったんだっけ──……。
毎日の暮らしの中では他の中学生と変わらない。
授業で寝ていれば怒られて、悪戯をすれば叱られて、良い事をすれば褒められる。
学校へ行き勉強したり、友達と一緒にショッピングしたり、ゲームセンターで遊んだりする、そんな中学生。
一日は早く、夜の眠りは平和で暖かい。
時を止める能力も、右手の事もまだ知らなかったから──。
今も友達の初春とどこかで遊んでいたのだろうか。
でも知ってしまった。右手の能力も。
今世界で起こっている暴動がテッラによって起こされていることも!!
──いいのか?こんな所で無力を嘆いていて!!
佐天「──そんなのっ!!わかん、ないよ!!」グスッ
佐天「行ってもあたしには何も出来ないんだから……」
佐天「お願い!!お願いだから──今だけでもいいから!!」
佐天涙子はテーブルにおいてあったコップの中の水を右手へと垂らす。
佐天「お願いします……神様どうか……あたしに力を──」
泣きながらお願いしても……、
右手へ垂らした水はそのまま右手をつたって床に落ちるばかり。
それを見て更に涙が出てくるばかり。
右手に能力は──ない。
佐天「うぅ……どうしてっ!!どうして……」
佐天「どうして……」
涙する日本人を見て喫茶店の人はどう思っているのだろうか。
暴動が怖くて泣いている中学生にしか見られていないのだろうな、と心のどこかでそう思う。
しかし泣いている小娘のあたしに流暢な日本語で話しかけてくる男が居た。
??「どうして泣いてるんだい?お嬢ちゃん……怖いのか?」
あまりに流暢な日本語だったため吃驚して話しかけてきた男をちらりと見る。
どうやら日本人のようだ、パッっと見た感じはワイルドという言葉がぴったりな風貌の男だった。
佐天「グスッ……おじさんは一体……」
??「まぁ俺は旅するコンサルタントだそんな気にすることは無い」
??「ただ俺は世界に足りないものを示すだけだ」
??「そんなわけでふと立ち寄った喫茶店で泣いてる日本人中学生が居たら話しかけるしかないだろう」
??「それで、どうして泣いていたんだ?」
??「よけりゃ俺に教えちゃくれないか」
佐天涙子は走っていた。
先ほどの喫茶店を飛び出し、一つの目的の為に。
さっきの男に諭された訳ではないだろうが、きっかけには、決意には、決断するきっかけにはなった。
──力なんか関係ない。したいことを決断することが大事なんだよ、お嬢ちゃん今君はどうしたいんだ?
息を切らしながらも教皇庁宮殿へ向かう佐天涙子の手には金属バットが握られている。
佐天「はっはっ、うー、真っ直ぐ教皇庁宮殿へ向かおうにもーぐうー」
無理も無い、今のアビニョンは学園都市の駆動鎧が暴徒達を抑えるためにそこら中にいるのだ。
彼らの目に留まれば佐天涙子も暴徒達の例に違わず銃で撃たれて気絶させられるだろう。
それに混乱している暴徒達にも気をつけないといけなかった。
日本人であるというだけで、彼らは襲い掛かってくるのだから。
佐天「何とか──何とか路地裏を使ったりで向かってるけど!!」
佐天「くそぅ……距離的にはそうでもないのに……!!」
佐天涙子の見つめる先には教皇庁宮殿がある──。
それはゴッ!!という轟音と共に爆発した。
──────────────────────────────
ゴッ!!という音と共に教皇庁宮殿が爆発したようだ。
こちらにまで衝撃が伝わってくる。
建宮「あれは!?そうか学園都市の攻撃か!!」
ミサカ「話には聞いたことがありますが、恐らくアレは大陸切断用ブレードでしょうね」
建宮「そうか……。もう一度作戦を言うのよ!!」
建宮「俺が前衛として剣を使ってさっき教えた特徴のテッラと言う男に切りかかるのよ」
建宮「それにミサカは俺の剣に電気を帯びさせて欲しい!!」
建宮「時には直接電撃や電撃の槍もしくは周りの建物を壊して牽制してもらってもいいのよ!!」
ミサカ「何回も確認するような作戦ではありません。一度で十分です、とミサカは自身の記憶能力の高さをアピールします」
建宮「そりゃ、いい。ははは……来たぞアイツがテッラだ」
テッラ「チッ、C文書をクソ猿に壊された後にまたクソ猿ですか面倒ですねー」
建宮「おいおい、随分とボロボロじゃないのよ、どうしたのよその顔の痣は」
建宮「上条当麻にやられた後か?なら一気に行かせて貰うのよ!!」
テッラ「ドイツもコイツも舐めてくれますね!!異教のクソ猿共がぁぁぁぁ!!」
ブワッとテッラから白い粉末の小麦粉が舞い、それはギロチンの形を成した。
そしてそのギロチンを容赦なく建宮へ横に薙ぐ。
だが建宮はコレをジャンプして避け、波をうっている剣をテッラに振り下ろす。
テッラ「無駄なんですよぉ!!」
テッラ「優先する。剣を下位に、人肌を上位に──」
余裕を持ってテッラは対応する。
剣はテッラに傷一つつけることが出来ずに止まる、が。
テッラ「ぐ、がぁぁぁぁ!!な、何を!?」パチパチ
テッラ「こ、これは……電気!?そんなものでこの私を攻略した気になっちゃ困りますよ!!」
建宮「はっ、そう言ってられるかな?行くのよ!!左方のテッラ!!」
テッラ「そんな小細工が!!通用するほど神の右席は甘くないんですよ!!」
先ほどと同じように、建宮は剣を振り下ろす。
テッラ「優先する。──剣を下位に、外壁を上位に」
テッラ「ふん、電撃の魔法を帯びた剣をわざわざ受けなくても──」
テッラはそれ以上の言葉を発することが出来なかった。
正確にテッラ自身の体に容赦なく銃撃による攻撃が来たからだ。
テッラ「ぐっ……(何ぃ?この辺にあの学園都市の駆動鎧は居ないはずですし、それにこれは──)」
テッラ「(ゴム弾?誰が──)」
建宮と対峙した時を思い出す。
傍に佐天涙子じゃなく、他の小娘が居なかったか?
テッラ「がぁぁぁぁぁぁ!!舐めるなよクソ猿がぁぁぁぁあぁ!!」
テッラ「(そうか、この電気はあいつの魔術じゃなく──)」
テッラ「(居た、あの小娘の魔術によるものですね?何故マシンガンを持っているのは疑問ですが)」
─────────────────────────
目指していた教皇庁宮殿が爆発した。
あれは一体全体どういうことなのだろう?
考えていてもしょうがないので佐天涙子は走っていたが。
その時視界の端で青白い閃光が見えた気がした。
佐天「!?妹さんの電撃!?あっちか──」
先ほどの路地裏から少し離れた少し広めの道路にテッラと建宮は居た。
テッラたちは佐天涙子に気付いてはいない様だ。
それから車の陰からマシンガンを構えたミサカが少し見えている。
テッラ「先ずはそこの面倒な小娘を攻略するとしましょう!!」
テッラ「優先する。──車を下位に、小麦粉を上位に」
ミサカが身を隠していた車がバラバラに吹き飛ぶ。
ミサカは吹き飛んだ車を確認後、直ぐにその場を離れようとするが、小麦粉のギロチンが迫り──。
ミサカは一瞬だけ、走馬灯と呼ばれるものを見た気がした。
実験のこと、佐天涙子との出会い、上条当麻との出会い。
他の中学生と比べたらはるかに少ない人生経験。
その走馬灯を見ている視界のなかで────
────確認したのは、切り離されて舞い上がった、自分の右腕。
テッラと呼ばれた男が笑っている。
男の武器であると思われる、白いギロチンのような武器が崩れゆく自身に迫ってくる。
その視界の端
──あぁ、どうして
どうして貴女がここに居るのですかブラザー
そう言葉を発しようとしたが崩れいく体ではその言葉を発せず、認識するだけで精一杯だった。
テッラ「ふん、止めです──」
建宮「うおおぉぉぉォォォ!!」
ミサカの右腕が切り飛ばされるのを確認後、建宮はテッラに飛び掛る。
矢のような速度でテッラに駆け、波打つ剣をテッラへと振り下ろすが
テッラ「まったく、アナタは次に始末してあげるというのに、死に急ぐとは笑えますねー」ドカッ
建宮「がっ、ハッ──」
振り下ろされる剣を体をひねり軽く避け、建宮へ踵落としの要領で蹴りをかます。
建宮はその蹴りを受け、二、三度地面をバウンドし、沈黙する。
テッラ「所詮はクソ猿の悪知恵といったところですか、私には遠く及びませんよ」
テッラ「では、死んでください────」
カラン
テッラ「!?」バッ
──感じたのは違和感、それも建宮やミサカのいる前方からではなく、後方から
振り向けば、自分が殺害しようとしていた上条当麻ではないほうの標的である
佐天涙子が立っていた。
ブラックのナウシカブーツに、デニムのショートパンツそしてノルディック柄のニットワンピを着ている彼女が立っている。
彼女の足元には金属バットが落ちているが、どうみても佐天涙子、彼女だ。
だが──
テッラ「な、何なんですか貴女は!!」
佐天「────────。」
テッラ「だから何だと聞いているのですよ!!貴女のその【左腕】と【頭上の輪】は──!!」
異様。
その言葉に尽きるだろう。
先の服装に、長いストレートの黒髪。
ここまではテッラの知る彼女と同じ。
しかし
彼女の双眸からは真っ赤に輝く涙がとめどなく流れ落ち、地面に触れると同時に消えていく。
彼女の頭上には半透明の……言われなければ気づかない程度ではあるが、半透明な輪が存在し──
──そして彼女の左腕は
鈍い灰色の光を放つ、羽根に覆われていた──
テッラ「(何だ、何なんですかコレは──!!これではまるで──)」
テッラ「(報告にあった学園都市の天使のようでは──!!)」
テッラ「ば、馬鹿な!!貴女の右手の能力はただ単純に 御使堕しによって神の力が流れてしまっただけの筈!!」
テッラ「こんな結果になる訳が──!!」
佐天「────────」フラァ
テッラ「(来る──!!)」
テッラ「なっ……?」
確かに彼女はこちらへ向かって一歩を踏み出したはず。
しかしその一歩目
その足が地面に触れる寸前に彼女が消えた。
テッラ「一体何ですかこれは────!!」
テッラ「(目は離していなかった。しかし佐天涙子は消えた?まさか……まさか……)」
テッラは恐る恐る後ろを振り返る。
そこには血の海が広がっているはず。
テッラ自身がその光の処刑により切り落とした少女の右腕が転がっているはずなのに──
佐天「────────」フラァ……
テッラ「あ……、そんな──こんな馬鹿な事が……」
佐天涙子はテッラの後ろで倒れているミサカの傍に立っていた。
血溜まりに沈むミサカの傷口に【左手】で触れる。
血が、ミサカの傷口へと戻っていく。
奇妙な光景だった。
まるでビデオの逆再生のような出来事が目の前で起こる。
辺りに飛び散った血は床に付着していたはずの血も残さずミサカへと逆流していき
──そして最後には
切り飛ばされた、ミサカの右腕が、先の血のように傷口へと──
テッラ「優先する。──佐天涙子を下位に、小麦粉を上位に」
ズバァ!!と佐天涙子目掛け小麦粉のギロチンを振るうテッラだが
小麦粉の攻撃により佐天涙子が傷つくことは、なかった。
佐天「────────?」
首を傾げる仕草をする彼女を見て奇妙な感覚に襲われる。
人に限りなく近い外見のロボットが気味が悪いように
目の前の彼女はどこか奇妙だ。
まるでナニかが人間の真似をしているような──。
先ほどから口は動いているのだが、言葉だけが聞こえてこない。
確かに喋っているような口の動きなのにも関わらず──
この奇妙な感覚が恐怖と呼ばれる感情だとテッラは気付けなかった。
佐天「────────」ユラァ…
テッラ「(来るッ!!)うおおおおおォォォ!!」
テッラ「優先する!!──人体を上位に、佐天涙子を下位に!!」
ピタリ、と羽根を纏う左腕は止まる。
テッラの体に傷一つ無い。
テッラ「防いだ……?ふ、ふふふ……ククク……やはり私の光の処刑は──」タラァ
テッラ「な、何ですか……?ま、まさか──」ダラ
テッラの頬に伝うこの赤い液体は──
この液体は……!!
佐天「──────、守」
一歩、テッラへと踏み出す。
テッラ「血ですか……?な、何故……」ザッ
後退の、一歩目は警戒
佐天「──妹───、fgt」
二歩目
テッラ「佐天涙子は攻撃を止めたのではなく攻撃をしていた──!?」ザッ
二歩目は忌避
佐天「──傷、許──。」
三歩目の敵意
テッラ「いや、まさか“時”を──」ザ
三歩目は恐──
──ガァン!!という音と共に現れたのは……。
アックア「流石に事情が変わったのである、撤退するぞテッラ」
テッラ「アックア!!貴方がいればこの化物を──」
アックア「撤退すると言っているのである。これは右方のフィアンマの命令でもある」
テッラ「ぐ、でも私達二人がかりなら──」
アックア「…………」
テッラ「アックア!」
アックア「佐天涙子、であったか」
佐天「────────」ピク
アックア「此度の事は謝るのである。だから今回は見逃して欲しいのである」
テッラ「アックア!!何を……ッ!!異教のクソ猿に頭を下げるなんて」
佐天「──み、の──が、す?」スゥ
アックア「貴様の友人には手は出さないのである」
佐天「──!!」
アックア「……、では」ダッ
言うが早いかアックアはテッラを乱暴に抱え、その場を去る。
取り残されたのは、傷が全て無くなった意識の無いミサカと、一部始終をぼやけた視界で見ていた建宮と
佐天涙子だけだった。
佐天涙子の頭上にあった輪は溶け、真っ赤な涙もいつの間にか消え
柔らかな鈍色の光を放っていた左腕の羽根も消えて──。
そして佐天涙子は意識を失ったのかその場に倒れる。
──窓のないビル──
アレイスター「…………」
??「ふふ、君がそのような表情をするのはいつぶりだろうなアレイスター」
アレイスター「貴方かエイワス」
エイワス「覗き見か?どうやらhg黒shytの現出が知覚できたので着てみればおやおや」
エイワス「成る程。上条当麻や一方通行のdqmnytか。だが発現させるには少々早すぎだな」
アレイスター「長年こういった計画をしていると、イレギュラーこそが娯楽になるのですよ」
エイワス「ふ、まぁどうでもいいがな……」
エイワス「佐天涙子、か……中々興味深い。あの状況下でdqmnytするとは」
エイワス「しかし不完全すぎる、それで良いのか?」
アレイスター「計画なら何個もある。所詮アレは使い捨てのようなものですよ」
エイワス「ふっ、そうか……(アレイスターめ今回も焦っているな)」
──────────────────────────────────
──バチカン、聖ピエトロ大聖堂──
テッラ「何故あの場で撤退を?」
アックア「アレと戦うには準備も情報も何もかもが乏しすぎなのである」
テッラ「私達二人なら──」
アックア「これを見るのである」
テッラ「アックア?その指……どうしたんですか?」
アックア「……、佐天涙子がお前へ攻撃をしただろう」
アックア「あの一撃の軌道を替えるために支払った犠牲なのである」
テッラ「(あのアックアが攻撃を逸らして指を骨折……?)」
テッラ「……、分かりました。あの撤退については納得しました」
テッラ「アックアは何故ここへ?」
アックア「貴様に少し話があってな」テッラ「何ですか?」
アックア「何、簡単なことだ。貴様にしか使えない光の処刑。その照準調整のための報告についてだ」
テッラ「あぁ……観光客とローマ近辺の子供達を使ってますね。取り立てて騒ぐことですか?」
テッラは饒舌にペラペラと異教徒は人間ではないだとか大層な平等を唱えている。
アックアの目が細くなっていることに気付かずに。
アックア「そうか……その術式を携えた頃より調整を行っていたということだな?」
テッラ「えぇそうです。さぁそこをどいてください、やるべき事が山積みですよ」
テッラ「先ずはあの佐天涙子の対策から。幻想殺しについては少々後回しでもいいでしょうし──」
アックア「いや、その前にやっておく事がある」
轟ッ!!
──────────────────────────────────────────────────
十月九日といえば学園都市の独立記念日である。
この日は学園都市は祝日となる。
つまり学校はお休みってだけのお話です。
──とある病院──
佐天「……っ!────ここは?」
佐天「あたしは確かアビニョンにいた筈……」
時間は深夜だろうか、辺りは暗い。
照明の明かりは無いが、ここは病院。
そこは分かるが──しかし……。
佐天「ここは学園都市か──」
医者「うん、そうだね。つい先ほど君をこの学園都市に移させて貰ったんだね」
佐天「あなたは確か──」
医者「ここの病院の医者さ。それ以上でも以下でもない」
佐天「……、鏡」
医者「うん?鏡……?」
佐天「鏡、ありますか? 無いなら今のあたしの姿はお医者さんにどう写ってますか?」
医者「──、普通の女の子に見えるけどね。それでは納得しないかもしれないから鏡を用意しよう」
佐天「お願いします」
──フランスでの出来事は事細かに覚えている。
テッラの事、妹さんの事、あたしの事。
佐天「あと、ミサカさん……いえ──ミサカ一三〇七二号さんはいらっしゃいますか?」
医者「──あぁ……彼女も君と一緒にこの病院へ移されている」
医者「怪我は無いし、意識もハッキリしている。後で会いに行ってあげるといい」
佐天「ありがとうございます……」
チラリ、と佐天涙子は自分の左腕を患者服をまくって眺める。
そこには何の変哲の無い普通の左腕。
あの時の左腕ではない。
それに自分が学園都市に搬送されていることについても不思議とは思わない。
何故なら書庫上では無能力者とはいえ、学園都市のカリキュラムを受けた身なのだから。
ただ──
佐天「ただ、あたしが無能力者では無いって事は学園都市は気づいてる」
スゥ──と自分の左手で夜風に揺れるカーテンに触れると
それは揺れていたその時のまま静止している。
佐天「左手、か──」 コンコン
医者「手鏡ならあったけれど、もっと大きな鏡がいいのならトイレに行くといいね」
佐天「いえ、十分です。ありがとうございます」
自分の目で確認できない部位といえば多々あるが、この場合は──
佐天「(顔も、頭上も異変なし。つまりあたしは人間って事よね)」
佐天「ありがとうございました。この鏡お返ししますね」
医者「あぁ、どういたしまして」
佐天「今は夜ですけれど、退院してもいいですか?」
医者「──、夜は危ないから明日にでも退院したらどうかな?」
佐天「明日ですか……学校の準備が──」
医者「明日は十月九日、学園都市の独立記念日だから祝日だね」
佐天「成る程!なら今晩はここの病院に居ますかねー」
医者「そうするといい。あの子達も喜ぶ」
佐天「妹さん達と会うのに今とかは無理ですかね?」
医者「もう深夜だ。明日にしてくれると助かるね」
佐天「分かりました、では明日……」
医者「あぁ。そうするといい、今夜はゆっくり休むといいね」
先ほどまで意識は無かったのにも関わらず
ベッドに寝転がり目を閉じると次第に眠気が襲ってきた。
佐天「(──これから……)」
これからのこと、学園都市の狙いを考えたり
自分の体に起こった事を思い出したり当麻さんの事を思ったり
様々な事を思いながらも佐天涙子は夢の世界へと旅立ち始める。
──自分の左手の新たな能力を確信しつつ。