美琴「私に勝てると思ったのか!?あぁ、第四位さんよぉ!?」


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・端的にレールガン勢とアイテム勢の入れ替わりです
・地の文形式を取っています
・「とある魔術の禁書目録」の根本に関する独自解釈とそれに準ずる独自設定があります
・原作との矛盾が出るかもしれません
・一応原作と漫画はある程度既読です
・キャラ崩壊があります
・特に佐天さんと美琴さんと麦野さんが酷いです
・オリキャラはいませんが青髪ピアスが実質そうなっているかもしれません
・グロ描写あります
・上条当麻が嫌いです
・時系列は記憶喪失直後辺りからです

 

 

 

 

 

 

 

 麦野沈利が夜遊びをすることは、もう何年も続いた習慣になっていた。
ふらちなニュアンスのある言葉だが、単にゲームセンターやファストフード、カラオケなどを一人渡り歩く、ただそれだけのことなのだが。
その全く無意味な行動は、暇潰しと言うよりは、自分への乱暴のようなものだが、彼女自身この行為に意味を覚えようとは思っていない
ただ単に何年も続いた習慣で、夜に他にすることなどないからであり、意義など求められる事ではないのだ。

そして、学園都市は広い。
そこには数多くの学区があり、学生が入れない町もあるのだけれど、科学や芸術、買い物やテーマパークなど、全てを知りつくすことが出来る学生はまずいない。
とはいえ麦野沈利という女子大生は、並大抵でない特権――授業免除、単位の自動修得など――を持っていたため、例外的に、学生が入れるところなら、その持てあました時間を通して、ほぼすべてを闊歩していた。

彼女の容貌は、時折現れる凶暴な表情の歪みを除くのであれば、美人の部類に入るものであり、彼女はそれを必然的に意識せざるをえない状況下にいた。
遊び呆ける美人を見て、絡みついてくる性質の人間は、いつの時代にも、どんな場所にも存在したからだ。

学園都市におけるその通称はスキルアウト、その名前の由来にも、彼ら自身にも、それ相応の理由がある。
しかしそれは、彼女にとっても、それ以外の多くの人々にとっても、どうでもいいことだった。
一般人達にとって、それは風紀に害なすものであり、治安を悪化させるという存在でしかなかった。

夏、学生たちの長期休暇という季節柄もあってか、麦野が八月になってからこういう輩に絡まれたのは、今回を含めて三回目である。

「よー、ねーちゃん、綺麗な顔してんじゃん」

「一人なの? ちょっくら付き合ってくれねーか?」

長身の長髪に、だらしないジャージを着たガタイのいい男と、頭一つ低い茶髪で目の細い、たらこ唇の男。
ニタニタとその性欲丸出しの下品な顔はどうにもならんのか、と内心ごちる。
麦野は、近寄ってきた彼らの顔を一瞥すると、大仰にため息をつき、

「ごめんなさいね、残念ながらこれから用事があるの」

と、その場凌ぎの言葉を投げかけて、とっとと通り過ぎようとする。
しかしその歩みは、どこから湧いたかまた一人、いまどきスキンヘッドの仲間に遮られてしまう。

「連れねーなねーちゃん、少しくらい遊んでくれたっていいんじゃねえの?」

どうしてこういうクソッタレたちは、こうもぞろぞろと増えていくのだろうかと、考えるだけで気分が悪くなる。
強引に腕を掴まれ、路地裏の方に無理やり連れられていくが、彼女は特に動じず、なすがままにされる。
顔に恐怖のような感情はなく、引っ張られながらもう一度、腹の底からため息をついた。

「いい美人拾ってきたじゃないか」

「こいつは上玉ってやつだな……」

路地裏で蛆虫のごと蠢いていたスキルアウト達は、麦野が見る限り10人は超えていないようだった。
その中に見たことがある顔が存在しないことに、もう一度ため息をつきたくなった。

もしこのうちの誰かが私を知っていれば、すぐにでも逃げ出すだろうに、と。

「すみません、帰ってもいいですか?」

麦野はあくまで優しく、常日頃とはかけ離れた口ぶりで彼らに聞いてみる。
すると、どうやら彼らのリーダー格のようである、大男が前に出て言う。

「おいおい、ここまで来たのに返す訳ねえだろ?」

返事は彼女の想像通りの否定。
だよねぇ、と心の内で嘆く。
周りに彼ら以外の人間が存在しないことを確認する。
とりあえずはコンクリートを壊す程度の威力で、周りの建物に被害が及ばない程度に。
下手に問題を起こす訳にはいかない。
右手をすっ、と前に伸ばし、演算を開始する。

細めの『原子崩し』を一発、このリーダー格の足に向かって撃てばいい。
しばらくでかい穴が開くだろうが、自業自得だ。
他の輩も、もう一度撃つフリでもすれば、すぐにでも逃げ出すだろう。

彼女は演算を完了し、無慈悲な光線を、ボロボロのジーンズに向けて発射した。

はず、だった。

「!?」

麦野沈利は二つの事に驚いた。
一つはもちろん、周到に演算した能力が発動していない事。
もうひとつは――

「こっちこっち! 急いで!」

自分の左腕を掴んだ、ツンツン頭の少年が、勝手に彼女と逃避行を始めていた事だ。
(こいつらは、学園都市の危険人物の顔も知らないのか)

 

 

 

 

 

 

 

 

 幕間

麦野沈利は退廃的である。


彼女は学園都市と言う、名の通り学びの場にあり、その中でも著名な小学・中学・高校を出ている。
そこから進学した大学も、申し分なく優れてたところに在籍しているのだが、残念なことに彼女がその敷地に足を踏み入れるのは、せいぜい月に一度程度である。
高校まではまだ毎日通学したものの、大学における研究のような事には、彼女に興味はなかったのである。

正確には、研究行為そのものに、嫌気がさしていたのだが。

彼女は学園都市における、記念すべき一期生である。
まさに最初、学園都市という荒唐無稽な試みがある程度軌道に乗り、初めて生徒を受け入れるだけの体勢を整えられた時の生徒である。
とはいえ一期生とは名ばかりで、学校ではなくほとんど研究所、『生徒』という言葉は、モルモットとほぼ同義の言葉であった。
人数は200人にも満たず、そのうちのほとんどすべては孤児であり、あとはほんの少しだけ、広告塔のための、関係者の縁故による、数合わせだけの人間だった。

彼女はその数少ない、出資者の子供という、縁故による生徒である。
彼女が、半ば捨てられるように一期生となったのは、学園都市からの強い要望があったことが大きい。
要望する理由は、「あくまで」出資グループの家族の中で、適年齢の人物が彼女しかいないという理由だった。

一期生のころの技術では、能力開発が出来る年齢は八歳未満に限られていて、今となっても約十五歳以上の人物に対する能力開発は危険行為である。
これは主に『自分だけの現実』の開発が精神の過渡期に有効であることや、脳の成熟課程における投薬効果の有無などによるものが大きい。
未だに学園都市の能力者に、成人を迎えたものがいないのは、単に「そこまでの年齢に達した人間がいない」だけだ。

 

 

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学園都市はかつて『超常現象研究機関』という名を取っており、人間の観測による認識を誤認させることによる夢想事の個人組織であった。
しかし、その機関長として、名前「のみ」が知られている「アレイスター・クロウリー」の異様な人脈や、奇怪な研究から来る大量の副産物によって、技術の発展は類を見ないスピードで進んでいった。
とはいえ、超能力の開発を実際に『人体実験』に移せるまでに、社会的信用や土地、資本金を得ることに数十年の歳月がかかってしまったことは事実である。

ちなみに、人体実験が一部の研究者の実子に行われていたことは、あくまで噂でしかない。

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そして、彼女が『LEVEL5 原子崩し(メルトダウナー)』の能力を手に入れたのは、一期生の能力開発の時、彼女が六歳の時である。
六歳の演算能力というものは、ほとんどあてにならないものであり、複雑な能力は大抵暴走した。
暴走を止める技術は当時の学園都市には存在せず、一期生の一割は能力開発過程で死亡している。
その犠牲が暴走を防止するための方法を編み出し、急激に安全性を増し、入学者を増やしたこともあるのだが。

麦野沈利の能力は、非常に強力なものだったのだが、演算方法は比較的抑え込みやすいものだった。
電子を粒子でもなく、波形にもせず、『曖昧なまま』の状態を保ち、決して外部から動かすことは出来ない。
それを彼女が振るえば、『曖昧なまま』の電子は、存在する物体に対し圧倒的な攻撃翌力を誇る。

『曖昧なまま』保つということが彼女の能力であり、保つだけならば、演算はさほど必要なかった。
それを内部から動かそうとしないなら、それは彼女の手の中で幻想的な輝きを見せるだけの存在だった。

それを他者への攻撃に転用することが、そもそも能力の使用方法の外にあるものだったのだ。
そして、攻撃を目的とした実験の時、彼女の力は呆気なく暴走した。

 

 

 

 

 

 息を切らしてどこともわからぬ狭い路地道を右へ左へ。
後ろから飛んでくる怒号に合わせて、眼前の男は「不幸だー!」と叫んでいた。

彼女はそれに続いたが、そんなことよりも、先ほどの現象の不可解さに頭を悩ましていた。


麦野沈利の能力は、確かに乱雑な演算をすれば空砲と化したり、あるいは明後日の方向へ飛んでいったりはする。
しかし、先ほどは確実に、あの屑の足を貫く為に、入念に演算をしていたし、出す必要のない腕を伸ばして、その精度をさらに高めたはずだ。


(……あれは、演算ミスというより、能力の発生を阻害されたような)


ツンツン頭の男の足は、行き止まりに向かうようなことはなく、どんどん後ろの輩を突き放していく。

(……セーフティも解除して、手に発生した私の『原子崩し』は形を取って、前方に照射されるはずだった)

はたと気付けばそこはどこぞの公園で、男と共に近くの垣根の裏に滑り込んだ。

(あの段階になったら、演算はするというよりは、むしろやめることで発射されるはず……)

彼が息を荒らげながら後方を確認して、誰も追ってこないことを確認したらしい。
少し息の荒い麦野の顔を見て、ほっとしたような笑顔で語りかける。

「大丈夫でしたか?」

「え? ああ、ありがとう」

端から彼女は上の空だった。
理解不能な事項が目の前に現れたのだから、当たり前とも言えなくはないが、これほど頭を動かしたのは半年ぶりだろうか。

昔から、麦野という女性は、一度決めたらそれを貫き通す性癖であった。
そして、今回現れた疑問は、何年も続いているこの、何の起伏もない生活の中では、彼女の中で燻っていた好奇心を燃やすにはあまりに都合がよすぎた、ということだろう。

(なら、外的条件? 別に特別変なものがあるわけでもなかったし、そもそもあんなへんぴな所に、レベル5の能力を阻止できるようなものがあるわけもない)

「いえ、俺はたまたま補修の帰りがけに見かけただけで、でもこんな時間に一人だと危ないですよ?」

(……だとすると、他の要因は――)

隣に座っている、男子学生の顔を見つめながら、一つの考えを浮かべる。
あまり確証はないが、聞いてみる価値はある。

「……お前」

だいぶ呼吸を整えながらも、疲れ切ったような表情を浮かべた彼は、

「へ?」

口調を変え、すっと立ち上がった彼女に対し、間抜けのような声を出した。

「レベルは、いくつだ?」

少し声を低くして、明らかに脅している口ぶりで話す。

「え、あの、上条さんは、はい、レベル0ですけど……」

 怯えたように話される言葉を聞いて、なら違うな。と別の思考を巡らす。

(なら周辺で、何らかの抗争があった? ……いや、いくら周囲に電子を操作する能力者がいたとしても、発射できないなんてことは……)

しかし、彼は、そのまま言葉をつづけていた。

「強いて言うなら、右手に『幻想殺し』っていうのがあるくらいで……」


「今なんて言った!?」

彼のつぶやきに反応した彼女の叫びは、ビクゥと彼の体を震えさせる。

「い、『幻想殺し』……です」

彼女はもちろんそんな能力名を聞いたことはない。
いくら勉学に関してサボタージュしている麦野とはいえ、能力関係の学識ならば、LEVEL5にふさわしい知識を持っている。
そして、そんな名前の付く能力など聞いたことはないし、そもそも個人特有の能力名が付属するのは例外を除いて、最低でもLEVEL4以上である。

「イマジンブレイカー、というと?」

「……異能の力なら、なんでも打ち消せるっていう代物です」

異能の力、彼が不幸そうに呟いたその表現に、彼女は酷く違和感を覚えた。

何故彼は今、この町で最もポピュラーな『超能力』という言葉を使わなかったのか?
そして、もしLEVEL5の能力を阻害出来るだけの能力があるのなら、どうしてLEVEL0判定を受けるのか?

この二つの事項を、少し上手く組み合わせてみると、考えたこともない仮定が生まれる。

(その右手は『超能力』ではなく、何か別の『異能』とでも――?)

顎に手を付き考え込んでいる彼女を見て、彼は一縷の望みをかけたように彼女に声をかける。

「あの! か、帰っていいですか?」

「待て」

哀れな嘆きを一蹴して、もう少し考えを進める。

 だが、彼女にこれ以上の考えは浮かばなかった。
何にしろ、その考え方は、あまりにありえない、荒唐無稽な戯言であることだからだ。
しかし、現に彼女の原子崩しは発動をやめており、燃え上がった好奇心は思考力さえ奪う。

「右手出してみろ」


「え? ……はい」


上条がすくっと立ち上がり、軽く右手を前に出したのを確認するやいなや、

キィィィィィ……


彼女は左腕から、『LEVEL5』『全力』の『原子崩し』を彼の『幻想殺し』とやらに接射した。

 

 

 

 

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がちゃり
という、ドアの開く音で浜面仕上は目を覚ました。

「んぁ……」

少し眠いし、まだ夏期休暇だしと、朝日が窓辺から差し込んでいるのを薄目で見て、二度寝をしようと目をつぶる。
しかし、がしゃんと何かが床に落ちる音を聞いて、気だるそうに右手を付いて上半身を持ち上げようとする。


が、右手が何か柔らかいものに触れた。
一気に体中に流れている血潮が凍りつき、目を見開いて、首がゆっくりと右下のそれを見ようと動く。

「……んん……」

滝壺理后と言う名の、彼が現在居候させてもらっている女性が、同じベッドで寝ている。

その時ようやく、昨日飲み潰れ、なんとかここに帰ってきたところまでを思い出す。

そして、肌を擦れるシーツの感触から、自分が全裸であることに気づく

顔をゆっくり、前方に向ける。

女性の部屋とも思えない、殺風景な部屋のドアが空き放たれた先にある廊下につっ立っていたのは、
下半身が主にきわどいワンピースを着た、浜面のまた良く知る、そして滝壺の親友である、明らかに外見が中学生なのに高校生1年生である、同じ寮に住んでいて、この部屋の鍵を持つ三人の一人である、絹旗最愛がいた。

コンビニで買ったと思われる、缶コーヒーやペットボトル、菓子パンの入ったビニール袋が、廊下の上で無残に潰れている。

「……あ、おはよう、はまづら」

滝壺が、目をこすりながら起き上がる。

ドアの前の少女が、名状しがたい表情を浮かべながら、こちらを睨みつけていることに気づかない。

「昨日は酔ってあばれて、びっくりしちゃった」

いつものような表情の薄い顔で、明らかに顔の青さを増し、明後日の方向を向いている浜面に、淡々と会話をしている。

「未成年なんだから、お酒はあんまり飲まないほうがいいよ」

浜面は他方の絹旗の表情を、読みとれるだけの精神状態ではなかった。「でも……、……、きゃ」

わざとらしく、しかし顔を赤らめながら、しなをつくって両手で頬を触れ、甘い声を出す。

そして、その言葉とほぼ同時に、

バキィッッ!!!

という、破裂音と共に、絹旗は自らの能力である、周囲の窒素を操作する『窒素装甲』をこれ以上なく利用し、廊下を強くへこませて玄関に向かって飛び出し、

バッキャァァ!!!

玄関もまたぶち破り、僚の手すりをもひん曲げ、その早朝の清澄な空気を弄び、四階から目の前の道路に着地して、朝日に向かって駆け出した。

「浜面の、超、超、超、超バカヤロー!!!」

絶叫を伴いながら、彼女はどこぞへ駆けていく。

 

 

 

 幕間二

麦野沈利が対象物の破壊実験を行った時、能力の暴走によって三人が目の前で吹き飛ばされ、一人が首を刎ねられ、一人は左腕を残して蒸発した。

彼女がその時使用させられていた薬物は、意識を集中するためのもので、能力が暴走しながらも、自らが人を殺めていく様は、はっきりと彼女の目に映り込んでいた。
当時の彼女の精神を揺り動かしたことは想像に難くない。
幸か不幸か、その力を重くみた政府は、学園都市側からの働き掛けも受けて、超法規的措置として、その事件を不問とし、彼女に何ら不都合なことは起こらなかった。

彼女はそれまでの間、特に『挫折』というものを経験していなかったし、それからもほとんど経験していない。
この経験も、『挫折』という経験とはいくばくか違う物なのであったが、彼女はこれを『挫折』と捉えた。

人の命とは呆気ないものであり、全ては天運が左右してしまうのだと。
全てが順調に続いていたからこそ、強くそう思った。
彼女はその圧倒的な能や生まれの財を使い尽くして、さらなる上の何かを掴むだけの才はなかったが、その脳や財を使い果たして、破滅していくほど愚かでもなかった。
それゆえ、麦野沈利と言う女性は、常に自らを一定までは律してはいても、それ以上の事はしなかったのである。

 自分だっていつ、学園都市から捨てられるかもわからない。
いくら財があろうとも、いくら力があろうとも、あまりに自分は惑わされる側で、操られる側であり、いつ殺されるかもわかったものでもない。
彼女が少女の時に受けつづけた実験の余波は、彼女の思考を支配し続けた。

どこかのお姫様が塔の頂上で外の世界を夢想し、自らの境遇を憂いているその真下で、哀れな乞食が餓えて死に行く事を、とかく過剰に意識していた。

麦野沈利は退廃的である。

この後、彼女はそれなりの友好関係を、それなりの人々と、それなりの回数築いていたが、ほとんどが彼女の退廃的な性格を変えることはなかった。
多くは彼女の人脈、才能などを求めるだけであり、彼女自身、別段上っ面以上の事を求めたこともなかったが、それらの人々はすぐに失望の表情と共に去っていった。

彼女は孤独だったが、別にそれを苦にしようとは思っていないし、一度それから解放されても、また孤独に慣れることが出来た。
麦野沈利は仲間を作り続けるほど強くはなかったが、一人で居られる程度には強かったのだ。

 

 

 しかし、今までで二つだけ、予期せず、彼女が幸せであると感じられた集団が、仲間たちがいた。



彼女が『LEVEL5共鳴計画』の名の元に、当時第一位『一方通行(アクセラレータ)』、当時第二位『未現物質(ダークマター)』、当時第四位『超常念力(サイコキネシスト)』と過ごした三年間の生活。



もうひとつは現在まで続いている、『暗闇の五月計画』の時の知り合いで、その後偶然打ち解けたレベル4三人組との、どちらかというとボランティアグループのような、下らない集まりである。

 

 

 学園都市の内部における盛衰は、やはり激しいものであり、運良く抽選に当たって学区内に店舗を構えることに成功した会社は少なからず、多くの負債と仕舞屋を残して立ち去っている。
窓は閉め切り、電気もガスも通っておらず、埃が被った備品が散らばるばかりである。
そんな暗い闇の中で、それ相応の暗い闇が蠢いていた。

一室に、三人の女子生徒と、一人の成年男性がいた。

暗い部屋を照らすのは、天井に『埋められた』小型ライトだけだ。
誰かが動くたび、床の埃が舞い、ライトの光を揺らめかせる。


女子生徒の来ている制服は、どこか曖昧な形で、セーラー服ではあるものの、酷く抽象的で何の特徴もない。
学園都市のあらゆる学校の制服とも違うが、ひと目で制服だとわかる服ではある。

 

 

「……わたくし、野郎の口なんか割らせる気ないですわよ?」

「はいはい、御坂様一筋の黒子さんの為に、わたくしめがお手を汚しましょうよ」

ツインテールの女子生徒が怠惰そうに呟き、壁に寄り添っているのを見て、ロングヘアーの一人が肩をすくめ、大げさに返事をする。

残る、過剰な花の髪飾りをつけているショートボブの一人は、床に座って携帯端末をいじくっているばかりで、二人の会話を気にしていることもない。
携帯端末の照明を受けた顔に表情はない。

「どうせ女の子だって好みじゃなけりゃ、壁にでも埋め込んどく癖に……」


そこでようやく、全裸で、口が『なく』、両手足が床に『埋め込まれて』四つん這いにされている男性の所に歩き、顔に触れる。

口が『開き』、唇が『現れ』、大きくむせる音ばかりが響く。

「さーて、口を割るなら、今が一番オススメですよ?」

笑顔でもなく、無表情でもなく、たまたまコンビニで好きだった商品が、なくなっていたような時の顔つきで、そう宣告する。

「……暗部にいるんだ、死んでも口は割らん」

男は吐き捨てるように言ってのけるが、携帯端末を弄っていた少女が口を挟む。

「なら、今頃舌噛んで死んでていいはずなんですがねー」

「舌も噛めないような輩が、口を割らないわけがない、ってね」

 軽く言ってのけた彼女は制服のポケットから、小さいファイルを取り出し、パラパラとめくり始める。

「うーん、どれにしよっか」

「……お前らの中に、読心能力者はいないのか?」

その様子を見て、男が呟く。

「んー、『ブレーカー』にはそういう、雑用に使える直轄の下部組織がないのよ、今回の件、あなた達の情報横流し計画を阻止するだけが目的の筈だったの」

ファイルを幾つか取って、見比べながら返事をする。

「何故だか知らないけど、その組織の解体まで依頼されちゃって、われらの電撃姫はそっちに行っちゃってね」

 これでいいか、と一枚の紙を選ぶと、残りの紙を制服に戻す。

「元々は情報関係の裏仕事をするだけの筈なのに、最近戦闘力が評価でもされちゃったのか知らないけど、こういう依頼が増えて困っちゃうよ」

左手に持った紙を読みながら、がっ、と男の頭を掴む。

「わざわざ他の組織から借りるなりするほどでもないし、あなたが口を割らないなら割らないでそれでもいいしね」

紙を読み切ると、それを軽く放り投げると、左手も顔を掴む。

「なっ……何を……」

彼女の顔は、先ほどのような自然な顔つきでなく、赤く頬を染め、酷く艶めかしく、荒い息をして、男を見つめていた。

「だって君、私たちに弄ばれるためだけにここにいるんだけど?」

 

 

 

 

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幕間三の一

麦野沈利が高校生になった頃、通称『LEVEL5共鳴計画』は行われた。

その実験は年単位で、かなり長期化するらしいことは知っていたが、彼女がこの実験を受けた理由はそれにあった。
実験は学園都市統括理事会の直轄のもので、この実験を受けている間は他の実験を受ける必要はない、という契約があったからだった。
実験に対する拒否権を大手を振って行使出来るのは、こんな機会しかないと思ったからである。

そして、彼女はその為の実験場の中心、ソファーに座り込み、隅の自販機で買ったコーンソーダを飲んでいる。


ただ白い壁、隅の辺りにドアが幾つか付いているだけで、あとは家具などがぽつんぽつんと置き散らかされている、立方体のただ広い部屋である。
トイレや風呂、台所などは別の部屋だが、それ以外は全てここで生活しろということなのだろうか。
煌々と照明がやや遠い天井から、部屋の全てを照らしている。

ちなみに彼女には、その純白の壁に見覚えがある。
数ヶ月前の実験で、彼女の原子崩しを受けても焦げ付きさえ起こさなかった、採算度外視の新素材らしい。

「今回の実験は本気、ってことか……てっきり、ギャグみたいな計画だと思ってたんだけど……」

よくもまあこんな不味いジュースを思いつくと、半分ほど残った缶を後ろに投げ捨てる。
清掃ロボットが数台置かれていたことは、確認済みだったからだ。


不運だったことは、二つ。


一つは、背後からやってきた男性が、『仕事』上、足音を消す技に長けていて、無意識にそれを行っていたこと。


もう一つは、彼が書類を読みながら歩いていて、前方から迫ったそれに気づくことが遅れたことである。

 結果、投げ飛ばされた缶は頭にジャストミート、黄色いべとべととした液体は、彼の顔と体をびちょびちょに濡らした。、

彼女は缶の落ちる音に違和感を感じ、ふいと振り向いた。

「……御挨拶だな、原子崩しさんよぉ」

研究者の証明であろう白衣を着ながら、右顔面に入れ墨を入れた金髪の、明らかに悪人相の男が、顔を歪めてこちらを睨みつけていた。

「……えーと、ここは実験室であって、どっかの犯罪者が来るようなところじゃないはずなんだけど」

確かに監獄には似てるけどさ。と麦野が付け加えると、彼女はその男に見覚えがあることに気付く。


木原数多、今回の実験の保護者役、兼担当研究者。

麦野自身、被験者に保護者役を兼ねていたため、実験の概要は伝えられていた。
そして、この男の経歴も知らされている。

学園都市暗部において、異常なまでの体術を駆使し、唯一LEVEL5を虐殺出来るとまで言われる、まさにプロフェッショナルである。
確かに父親はこの学園都市では権威のある学者らしいが、白衣があまりにも似合わない。

麦野は暗部の事をあまり知らない。
片鱗を垣間見たことは幾度となくあるから、その恐ろしさは体感していたところではあるが。

(威勢は張れたけど、とてもこんな輩にちょっかいは出せないわ……)

しかし実際にこの男を見ると、なるほど確かに尋常ではない。

見せられた顔写真からは解らない、邪悪な顔だ。

「確かに監獄には似ているな、これからお前異常のバケモノを閉じ込めておくんだからだから、当然といえば当然なんだが」

そんな彼女を知ってか知らずか、少し離れた所にあったカラーボックスに近づいて、中にあるタオルを引っ張り出して頭をごしごしと吹くと、それを乱雑に放り捨てる。

ピーとつまらない音と共に、清掃ロボットがそれを片づけるのを、彼はぼんやり見つめていた。

木原数多は『ガキ』を殺す気にはならない。
そこらにいるクズしか殺さないというわけでもないが、彼はあまり『ガキ』に手を出さない。

彼自身、この感情は理解できていない。
『ガキ』の前で親を殺すようなことに躊躇いは持たないし、殺しにかかってきたのなら半身不随程度にして放置する。
その後勝手に死んでいるかもしれないし、そちらの方がむしろ残酷だということも知っている。

ただ、彼はあまり『ガキ』に関連したことが好きではない事だけは、認めている。

(まさか、あの糞親父に碌な事されなかったから、なんて月並みな理由じゃあねえだろうけど)

そんなことを考えて、これからの実験内容を思うと、少し気が遠のく。

つかつかと麦野の所に歩いていく。

「それで、役割としては父と母ってか?」

そして向かいのソファーに座ると、麦野を見据えながら、塗れた書類をテーブルに置いた。

「父親ごっこなんて出来る自信はねえぞ? 教育者だって割に合わん」

麦野は塗れた書類を遠目に眺める。

「いくら第一位と第二位が能力を使いこなせてないとはいえ、私が保護者役なんて務まるの?」

「そんなこと言ったら俺はどーすんだよ。たかだかガキ、そう恐れることはねえよ」

自信に溢れるその言葉を聞くと、麦野は少しだけ安心していた。

それだけの説得力がある、それだけの説得力を持たせた経験があるのだろう、と。

 

 

 

 

 

 佐天涙子は、三つの顔を持っている。

一つはLEVEL0である彼女本来の顔、一つはセブンスミストの店員の顔、そして、LEVEL4の男子学生、『千変自在(シェイプシフティング)』の顔である。

彼女が三つの顔を持つのは、ただ『仕事上』必要なことである。
この三つの顔は、あくまで学園都市内で固定して使われているだけであり、必要であれば、幾人もの顔を貼りつけることができる。

非常に稀な能力であり、代えが効かぬ能力者である。

彼女の能力は、学園都市でもたった三人しか持ちえない『肉体変化 (メタモルフォーゼ)』系の、しかも最も高位の能力であり、またLEVEL5に最も近い『八人目』として数えられている一人でもある。

特に彼女は、残る二人の『肉体変化』とは、一線を画しているものがある。

男の悲鳴が狭い部屋を占め続けている。

「あのー、佐天さん? 御坂さんのほうで裏が取れたので、もう拷問とか必要ないんですが……」

「うふふふ、気持ち悪い? 変な感覚でしょ?
違っているでしょ? 違うんだよぉ!!」
「あっはははははは!! もう何にもかも違うんだよぉぉ!?」

佐天の顔は歓喜に震え、声は高らかに狭い部屋に響いていく。

「初春、あの状況の彼女に何を言っても無駄ですのよ…… それにしても今回はなんですの?
今までは酷くても、動物のキメラが限界でしたのに、また無駄に能力が成長したんですの?」

「佐天さんが言うには、全く見たこともない生命体を創ってみたかったらしいです」

携帯端末を、どこにでもある学生バッグに戻した初春は、その惨劇をなんとなしに眺めてそう言った。

「だからって、ただでさえいつも理解できないのに、あれでは生きるグロ画像ですの」

うえー、と口を押さえる手真似を見せて、軽くおどける黒子に、初春は顔を顰める。

「脳の中に鉄芯埋め込んで、目玉くるくる回して遊んでる黒子さんが言えたことじゃないと思います」

「あれは見る人が見れは、あくまでサディズムの一環と理解してくれますのよ」

黒子が飄々と言ってのけると、初春は早く御坂さんに帰ってきてほしいと心から願った。

男、という言葉はもはや語弊があるかもしれない。
既に男性生殖器は存在しないし、生殖機能は奪われている。
そもそも、人であることが間違いであるのだが、少なくとも一時間前まではホモサピエンスだった。

それは既に床の戒めの中にいない。

その生物の手足は形を残さず、骨も消滅して数十本の赤色の触手となり果てている。
体は大きく縮み、顔と体が一体化していて、目は単眼となり、口は大きく裂けている。
皮膚は大きく爛れながら黄土色になり、ほんの少し硬化している。

「ギッ ギ  ギッ ガッ!」

三又の舌が奇妙なリズムと共に跳ね、ぐにょぐにょと蠢く歯がそれと連動するように陰鬱に輝く。

声帯は人間の言葉を発生できるようには創られておらず、その呻きは単なる呼吸音の延長でしかない。


画す一線は、他者に干渉出来ること。
時間をより掛け、資料さえ手元にあり、丁寧に演算を行うことが出来るなら、彼女の前で『遺伝子』など、何の意味も持たない。

老若男女は彼女の前では意味をなさない。
人間などという括りをも、酷く脆くさせる。

しかし、彼女の能力には欠点もある。

相手の思考や能力に干渉できないことや、空間能力以上に繊細な演算が必要になるため、戦闘には非常に不向きなこと。
生物は生物にしかできないこと、非生物には干渉できないこと。

それゆえ、彼女はLEVEL5に固執する。
もし自らが、LEVEL5の域に入れるほどの進化を手に入れられたなら、きっと生れて初めて『満足』出来ると信じていたから。

もし普通だったなら、恋愛によって呆気なく満足することが出来ることなのだ。
ただ、彼女は恋が出来なかった。
普通とかけ離れた趣向を共とするものもいなかったし、それゆえ恋が発展する愛を手に入れることもできない。
無償の愛を与えてくれる父母など、そもそもいない。

きっとこの欲求に導かれるままにしていれば満足できるだろうと、信じる心はまさに恋する乙女なのだが。
眼前には、彼女の『たまたま』冒涜的な欲求が突き進むが為の、憐れな犠牲者が横たわっている。

佐天涙子が手を離し、バッグからカメラを取り出そうとした時だった。

「佐天さん、まーた変なことやってるの……?」

冷たいドアが開き、茶色のショートヘアの、また同じ制服を着た女子が現れた。
ほんの少し幼さの残る顔だというのに、右手にはいびつな拳銃が握られている。
銃にしては正方形に近い形のそれは、彼女が軽く振るたびにかちかちと音を立てる。

「あ、御坂さん! グッドタイミングですよ! ちょうど「黒子」「了解ですの」ああああっ!!」

てかてかした笑顔の佐天を見事にスルーした黒子は、その奇怪な生物を適当なところにぶっ飛ばしたようだった。

「何するんですかー! これから多臓器不全で死んで、あの姿が固定したんですよー!」

いじけるように頬を膨らませて、平気で黒子さえ引くような事を口にする佐天を見て、御坂美琴はうすら寒さを感じた。

別に、佐天涙子が悪いわけではないのだと言うことを知っている。
彼女自身、その行動が如何に悪魔の所業かを理解していることを知っている。

しかし、この真っ暗闇の暗い世界で、ある程度自らの事を許容してくれる人々に、特に隠す必要がないことが酷く嬉しいのだ。
本来達成しえない生まれつきの欲求を、自らの能力と今の環境が可能としてくれることが、あまりに嬉しすぎるのだ。

今までの彼女の世界は、男という存在がないのに、身を焦がす性欲を覚え続けたようなものだったのだから。

美琴はそんなことを考え、憐れなその様に、ほんの少し同情した。

 

 気分を変えて、肩を竦めて軽く言う。

「なーんで、この部隊は変人しかいないわけ?」

「御姉様! わたくしはただ御姉様と一緒にいられないから、代わりに自らを慰め「ちぇいさー」ぐふぉ!」

回し蹴りが見事に黒子の鳩尾に入り、床に転がる様を見て、黒子のがやっかいだと、心もとなげに思った。

初春はただ、その様に頭を抱えている。

佐天は唯一、その御坂美琴の顔に、何か違和感を感じ取った。 御坂美琴は学園都市二百三十万人の中で第三位、『超電磁砲(レールガン)』の名を与えられている。
『電撃使い』、そして、唯一LEVEL1からLEVEL5にのし上がった人物でもある。

その道は、それ相応のものである。
度重なる実験、薬物投与、手術、勉学、訓練。

あらゆる時間は能力のために費やされ、それ以外の事は何一つ考えていなかった。
そのためなら、資金のためにDNAマップを売ることも厭わなかったし、特例奨学金と言う名の借金さえも、幾度となく重ねた。

そしてようやく手に入れた座が、第三位のものだった。
彼女はさすがに一位になることまでは願っていなかったし、第三位という結末は、彼女にとって大成功と呼べるものだった。

そのために、内臓の幾つかは壊れ、骨格の幾つかは金属で補強された。

特に、子宮はその役割を果たすことはなかった。

一部の薬物が脳にダメージを与え、9才の時に記憶の欠落を起こしていた。
だから、どうしてそこまで力を求めていたのか、今となっては彼女自身にさえ解らない。

薬物により縛られた都合のいい体と、莫大な借金によって、彼女は暗部に堕ちていったが、それさえ特にどうということでもなかった。

いつも何かが欠けていて、それを探すことも、特に望んでいなかった。
目的を達成してから、彼女はずっと抜殻だったし、中に何も入ることはなかった。

ただ、暗部に堕ち、それなりな生活を過ごし始めた今になって、彼女が例え学園都市に逆らってでも、彼女にとって消さねばならない存在が、つい先ほど、出現していた。

彼女が今回の依頼で、たまたま入手したデータに、その存在が記されている。

 

 

 その名は『滝壺理后』。

能力は『LEVEL4 能力追跡(AIMストーカー)』。

『八人目』の一人で、もしも成長しすれば、『学園都市(PRクリエイター)』の能力名を与えられ、LEVEL5の序列どころか、能力の存在そのものを崩壊させるであろう人物である。

                                                                つづく

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