上条「なんだこのカード」 > Season2 > 07


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突如入って来た少女により、場は一気に変化する

既に爆発しそうな感情を必死で押さえていた少女は、入ってきた佐天の顔を見て全く異なった方向に爆発した

心理定規という非常に扱いが難しく恐ろしいほど強い能力を持つも、所詮は1女子中学生である

思春期という重大な精神の成長過程にいる少女が、自分を何処までも追い込んでどんな攻撃も通じなかった最恐の相手に植えつけられた心理的精神的ダメージは根深い

佐天の顔を見た瞬間に脳内に死という概念が生まれ、恐怖が駆け巡る

定規「帝督……帝督帝督帝督帝督帝督帝督!! 」

銃を構える垣根に迫り、身の後ろに隠れる

他人の精神を操るという能力者が混乱した場合、周りの人間の影響が非常に大きい

佐天そっくりの少女に植えつけられた何も効かないという恐怖が佐天への能力使用を不可能にさせ、代わりに目の前の垣根の 精神を全力で書き換える

この場において垣根の最大の敵は無能力者である佐天となった

ボロボロのドレスの少女へ向けられていた拳銃が佐天へと向けられようとしている

だが、知り合いの部屋に来たら知らない男女が居て、我が身の危険という最悪な方向の雰囲気を察した少女の動きは速い

銃が完全にこちらに向く前に身を引き、玄関の扉を閉めにかかる

この、生死を左右するタイミングで的確な回避が出来たのも、そのタイミングをつい昨日に身をもって体験していたからであ り、即座に吸収する程度の能力はあったようだ

動いた佐天へ完全に標準を合わせることなく弾き出された銃弾が、玄関側の照明スイッチに直撃した

完全に扉を閉めて駆ける。階下へ逃げるべく、階段へ

佐天(あの女の人、あの場で倒れこんじゃった人だよね。なんでこんなトコにいるのさ!? とにかく逃げないと、殺される!!)

階段と浜面の部屋の丁度中間の辺りまで行ったところで、浜面の部屋の玄関が吹き飛んだ。同時に翼のようなものも見える

とんでもない破壊力を持っている能力者なのだろう。捕まると間違いなく死ぬ。自分が首を突っ込まされたのは、そういう世界だ

自分に喝を入れてとにかく走る、走る、走る

階段に入る為に直角に曲がった瞬間、自分の背後に白い翼が伸びてくる。そしてその直線状にあった壁に翼が触れ、大穴があいた

柔らかい羽毛などからは想像できない威力に身の毛が弥立つ

それでも何とか暴走しそうな呼吸を纏めて、階下の2階へ

二回まで降りて、このまま一階まで続けて下りようとすると、目の前に翼が現れた。上の階から天井を簡単にぶち抜いて

佐天(この階段は駄目、完全に狙われてる!た、確かあっちにも階段が)

冷静な思考力があれば、こういうときに反対側の階段へ逃げるというのは敵も読んでいて、足音だけでもフェイクを入れるなど撹乱策を考えられただろう

だが、生死の分かれ目という判断は学習して実行出来ていても、危機に策を使うことなど素人の女子中学生には出来ようはずがない

垣根からすれば、ケージの中で逃げまわるウサギに猟銃を構えているようなものである

それでも、中途半端な行動をして時間=生存確率を浪費するような事をせず、瞬時の判断で全力を出してブレないのはよっぽ どましである

全力を出し、駆ける。それを楽しみ、煽るかのようにして佐天が通った後の天井を的確に上階から翼でぶち抜く

遊んでいるのだ、未元物質は。心理定規が敵認識を最大にしたことによって、逆に淡々と殺しをする垣根では無くなってしまった。通常時の彼女なら能力対象の性格を考えて調節するので、このようなミスはしない

7部屋分の廊下を駆け抜けて、ようやく反対側の階段へ辿り着く

徐々に天井から翼が出てくる距離が縮まっていて、この時には佐天のすぐ後ろ、実際に長い髪がある程度巻き込まれる距離まで迫っていた

紙が巻き込まれ、強引に後ろに意識が取られながらも階段を駆け下りていたため、前から来る人間に気が付かず、ぶつかる

上条「前は見ながら下りような。この状況なら無理だろうけど」

裸足の、どこかで見たことのある男が、転げそうな佐天を支えていた

そしてその後ろからは、浜面も駆け上がってくる

浜面「なんでよりによって俺のマンションがこんなことになるんだよ!?」

麦野「日頃の行いが悪いからでしょうね。それよりいいの?アンタの知り合いだからってここまで幻想殺しを送ってk」

佐天「浜面さん!! 」

階段の踊り場という狭い空間で、麦野の目の前で浜面に少女が抱きついた

その身は震えていて小動物を連想させる。抱きつきながら浜面を見上げ、まとまらない言葉をつづけた。そしてその姿は麦野に続いて現れた滝壺らの目前でもある

佐天「は、浜面さんの部屋に背の高い男の人とあの時の女の人が居て、拳銃で狙われて、翼が飛んできて、それでそれで!!」

浜面「わかったよ。早い話、アイツに狙われてるってことだよな」

そう言って浜面が、上条が麦野が、その場にいた全員が見上げた先には、学園都市の第二位が全ての翼を大きく展開し、胸元に心理定規を抱いていた

胸元の少女の表情は現実味が無かった。少なくとも上条にはこんな顔をした人間は見たことが無い。だが、浜面にはある

スキルアウト、つまり社会のはみ出し者が逝きつく先は大体決まっている。その中でもとりわけ最悪なのが薬。典型的な中毒者の退廃的な表情がそこにあった

あまりにも強い佐天への恐怖と、身近で強さの表象であった垣根が向けた言葉と拳銃で、脳内のホルモンバランスが著しく偏ってしまったのだろう

浜面は、その少女の笑う顔に、今まで目にしてきた者たちの悲痛さに似たものを感じとった

そんな表情の胸に抱いた少女の事など一切気にかけず、垣根は翼を用いて佐天を的確に狙い抜く

翼が、羽が、空気が、光が佐天を狙う

翼を薙ぎ、羽を叩き落とし、空気の塊を分解し、光を捻じ曲げる

浅い。狭い空間ではあるが攻撃のレベルが、連携が甘い

直接戦ったわけではないが、諜報員の基礎を叩きこまれ、二つも最上級のAIを搭載し最先端の技術を思いのままに操る上条から幾度も姿を消した垣根の、あの真面目さが無い

どこまでも実直に痕跡を消し、常に自分を有利に運ぶという考えの下にまとめられた手堅さ

それを感じさせない、ただ享楽的なばかりの攻撃だった

能力者にとって一番気をつけなければならない事、それは暴走。自己を守るためにあるセーフティラインを超える行為。完全 にそれという訳ではないが、今の心理定規の精神状態はそれに近い

故に生じる能力にもブレや変則効果として現れる

上条(今ここに居る垣根は や ら れ ち ま っ た 。結局、アイツの言っていた通りの女だったのかよ?!)

最早垣根の意思は残っていない。あるのは恐怖という名に基づく狂気。心理定規の表情と垣根の表情が限りなく等しくなる

既に上条は、というより上条の気付かない内に、ここに居る心理定規の視界範囲全員を守るように幻想殺しを拡げていた

精神感応能力者の暴走によって起きる最悪の事態は、乗っ取った者の連鎖暴走

それがアイテム陣の牙を奪うことになろうと、最善の措置であろう。ここで原始崩しが暴走し莫大な不安定電子の大暴発が起き、窒素装甲が暴走し手当たり次第に可能範囲の窒素が強制固化し、異間取得が暴走し他次元的に定義された3次元のあらゆるものが放出され、AIMストーカーがそれらの相互補強として働くという最悪の悪夢は避けたい

目の前の垣根帝督だけで、暴走されれば大惨事は確定なのだから

男独特の低い声と、女子中学生独特の高い声の笑い声が、機械的に同じタイミングで始まり、ひとしきり鳴り響く中で上条はその攻撃を全て凌いでいた

突如として能力が使用不能に陥ったアイテム陣は、困惑しながらもその直線距離において20mも無い空間での攻防をただ見ていた

介入を許されない異質な戦い。垣根の繰り出す全てが無効化され、無傷の佐天がはっきりと心理定規の焦点にある

マタ無力ニモ地面ヲ這ウ事シカ出来ナイノカ

狂気に変質していた恐怖がさらに大きくなり、狂気が更に力を帯びる

そして悪夢は現実となった。悪夢とは言えないほど神々しい光景ではあったが

垣根の体が変質し、腕から生えた羽毛がまるで取りこむかのように胸元の少女を守り天へ舞い上がる。翼から振り落ちる羽根がそのまま大翼となり、

浜面の部屋が入っていた建築物は、上条達が居る階段を残して、周辺の建物を大量に巻き込んで無数の巨大な翼に包まれた

それが目指す最終的な形は、規模が大き過ぎて上条達が居る場所からの視点では全くわからない。今までは翼であったものが、巨大な翼を構成する一枚の羽根となっていく

僅かに黄色を帯びたその巨大な翼は、どこか優しさを感じさせるものであった

見る限りでも巨大な力がたった一人の無能力者へと向けられている。上条にはその理由がわからなかったが、状況と攻撃の指向性からそれは確実だった

巨大な翼の一つが突如分裂し、上条達が居る、元は階段の踊り場であった場所に何億とも言える羽根となって押し寄せる

もはや佐天だけを狙うレベルでは無い。右手だけの幻想殺しなら確実に守り切れなかった規模であるが、なんとか上条は守っていた

上条「今の位置から絶対に動くなよ!!!!」

今は範囲を変更する際に使用する演算量すら勿体ない

連続して鳴り響く消滅音と押し寄せる轟音が一つの途切れない音となっていたので、上条の叫びは伝わらない。だが、女達と男は上条の周りから動かなかった。否、動ける訳がなかった。経験したことがない現実に圧倒されたのだ

拡大された幻想殺し最大の欠点は、そのエネルギーを無視出来ない点にある。溜めこむか逃がすことで今までは乗り切ってきた

が、この規模は計算外である

禁書による自動書記の畳み掛けるような攻撃すら容易に霞む、高度に圧縮されたエネルギー体の連続消滅とその放出で、二つのAI達の演算能力はパンク寸前で何とかやり過ごしている。同時にどうしても放出できないエネルギーの塊が上条の体に蓄積されていく

周りの風景は、僅かばかりの階段のコンクリート色と翼の白。麦野達の目の前でその白が無数の光を発しながら消えては現れを繰り返す

この莫大なエネルギーは何なのか。なぜこんな規模の力を振るえるのか皆目見当が付かないが、この規模では行使者の体が持つハズが無い

そこまで考えて、上条は気付く。垣根の体が変質していた事に。つまりの所、この現実は人間のLV5としての垣根では無く、自らの能力に自らを変質させた結果であると

超能力者をその二つ名で呼ぶことはあるが、そうではない。垣根帝督自身が未元物質に変質を遂げたのだ。ここまで人間の制限を解除させる心理定規の暴走が底知れないともいえる

ならばこの規模で暴走し続けてもおかしくは無い。未元物質にはそう言った可能性もあるのだ。それは最初に解析した上条自身が一番理解している

個人の蓄積炉の出力を軽く超越したこの力量は、超能力が超能力を紡ぎ出す永久機関

つまり終わりは来ない。垣根の方では。ならばその原因である心理定規の方はどうか。恐らく垣根の圧倒的な暴走に逆に引きずられ、暴れ馬を制御できない哀れな乗り手となっているに違いない

上条(ってことは、いつか終わりが来るんだよな、これは!!それまでは耐える。耐えて見せる!! )

うおおおおおおおおおお、という雄たけびと共に、膨張していく上条の身体

遂にそれは限界を迎え、行き場を失ったエネルギーが塊となり上条の体表のいろいろな部分が徐々に膨らんでいく

腕が、脹脛が、腹部が、頸椎が。筋肉が、内臓が、骨格が、異様な形に変形し増加し巨大化していく

本格的な副作用が始まった。だが、それを調節するような暇が、余裕が無い。覆いきれなくなった皮膚が裂け、肉が露出する

目の前で人間とは思えない形に変形していく男に奇異の目を向ける面々の中で、浜面だけはなぜかそれを奇異とは思えなかった

そして唐突に白の光景が途切れる。天空の光の中心に大翼が吸収されていき、消えたかと思うと小さな何かが東北東の方向へ弾けるように飛んでいった

半径50mの巨大なクレーターの中央、何もない空間に唯一つ残った、一階から踊り場までの階段。そこに居る6人の人間と 1人の人間の形をしていた何か

3mばかりの背丈になり、頭部以外は完全に人間離れした筋肉量を備えたフォルム。有りえない凹凸と垂れ流れる血がまるで 物語に出てくる醜い化け物のようだ

そして化け物は前のめりに倒れた

浜面「ちょ、おい!! 」

抱きついていた佐天を引き離し、上条だったものへ抵抗なく駆け寄る。熱気と汗を異常に垂れ流し倒れている巨体を担ぎあげようとするが、重すぎる。容易には持ちあがらない

意識は既に無い。明らかに芳しくない。体の皮膚を内側から引き裂けて肉が見えているなんて尋常ではない

浜面「絹旗、持ちあげんの手伝ってくれ!でもって誰か包帯とか持ってないか?!」

現実感を完全に喪失して、まだ唖然としている女性陣に声をかける

我に返り、現実として状況を受け入れた

フレンダは応急処置の道具を取り出して滝壺と共に手当をし、佐天と絹旗は梃子を使って処置の為に体を動かす。麦野は下部の組織へ電話をして移動手段を手配する

「一体なにが起きたらこうなる訳よ?!」「とにかくうつ伏せでは呼吸も超よくないです!ひっくり返しましょう!」

「内臓が飛び出てない分、まだマシね。呼吸が続いてるなら大丈夫でしょうけど、いつまで保つかわっかんないわ」「きぬはた、地面に直接はよくないよ。何かシートを持ってない、フレンダ?」

「畜生!リンパと血液が皮膚の無い所から洩れてやがる。滝壺、こっちを先に止めてくれ」「浜面さん、梃子に使える棒とかその辺にないですか?背中を持ち上げて早く手当てしないと、シートと背中がくっ付きはじめてます! 」

そんなこんなの格闘の後、数分後にヘリが来た。300kgはあろうかという患者は普通のドクターヘリでは輸送できない為、軍事用の輸送ヘリが到着した

 

上条をヘリに渡し、ようやく一息

絹旗「すごかった、ですね」

階段に座り込み、周りを確認する。何度見てもこの階段部分を除いて半径50mに何もない。砂になるまで粉砕されたのだ。恐らく、たまたま学校を休んでいたりこの付近を移動していた人間も巻き込まれた事だろう

フレ「結局アレが第二位の本気だったってわけ?超能力者ってても規模が違い過ぎるワケよ」

麦野「……多分、暴走ね。私じゃあんな規模には到達しないでしょうけど。来る途中にあのドレス女について調べてみたけど、他人の精神を都合よくする能力のようね。あくまで仮説だけど、あのクソアマが何かによって暴走して、それに巻き込まれて連鎖的に第二位も暴走したのよ、きっと」

滝壺「能力が使えなかったから、あの翼が本当に第二位のものだったのか、分からなかった。でも、あの子、つらそうな顔してたよ」

浜面「能力者ってのはそう簡単に暴走したりしない様に自己の精神操作は十八番なんだろ?それでもああなっちまったってことは、よほど酷い事があったんだろーな」

浜面の発言で、佐天は黙り込む。あの場に自分が突っ込んでしまったから、こうなってしまったのかもしれないと思えたからだ

麦野「自分の制御なんて万人差があるわよ。でもあの心理定規は別格。他人の精神を弄る能力者であり、なおかつ暗部組織の一員だった以上、その精神力は本物なハズ」

麦野「でもま、酷さで言ったら浜面も結構なレベルよね。引っ越したばっかで建物ごと崩壊なんて滅多にないわ」

麦野に言われて、その現実に気が付く浜面

浜面「そういやそうじゃねえか!!ちょ、俺の安住の地が!!大切なモンたくさんあんのに!! 」

絹旗「どうせ思春期の男性がよく持ってる本とかでしょう?超どうでもいい物ですね」

滝壺「え、何を保管してたの、浜面?」

浜面「ちげーから!何言ってんだパンチラ中学生!!役所の書類とか偽造セットとか通帳とかだよ!!」

フレ「そんな物いくらでも再発行できるし。結局どうでもいいものしかなかったってワケね」

その再発行が元スキルアウツな俺には大変なんだよ!と喚く浜面を尻目に

麦野「それでお嬢さん、あなたは何?どこかで見た事あるような気がするんだけど」

と佐天に問いかける

佐天「ああその、えと、浜面さんの、知り合いで、その、た、たまたま近くを通ったんで久しぶりに挨拶でもしよっかなーなんて」

滝壺「……朝の浜面と同じ匂いがする」

しまった、と思う浜面と佐天

滝壺「……そして、あの白い敵と同じ感じがするけど、一体あなたは何?」

 

 

ドーバー海峡に火の手が上がった

英国海軍の誇るインビンシブル級軽空母インビンシブルが多数の艦載機と共に轟音を挙げて沈む。原因は敵ミサイルでも砲撃でもない。敵の遠距離魔術による光線である

原因と敵艦隊の配置転換から、間違い無く進軍を意味していた。英国海軍主力艦の集中している場所を避け、そこを挟むよう に二方向から仏海軍が攻撃と進行を開始する

魔術による先制攻撃が有ったのにもかかわらず、進軍してくる敵は一般軍事力。一般軍事力には一般軍事力をということで英国側も一般海軍を二手にに分けて応戦体制を整える

通常、このような戦いには先行して空軍の攻撃があるものだが、フランスの物なのかイギリスの物なのか(もちろんお互いが 敵によるものと考えているが)異常な干渉電波が両国をすっぽり覆うようにして展開されており、一般的な空軍は力を全く出せないでいた

ハリアーもラファールも現代戦闘機はその大半においてフライバイワイヤという名の機体電子制御システムを積んでおり、そのシステムも含めあらゆる既存電子機器に干渉するように妨害電波があっては飛ぶに飛べない。ミサイルもまともに発射できない

キャーリサ「いざとゆーときのバンカークラスターも完全に封じられてしまったの」

仏軍を迎え撃つために展開した残りの、中央に残る年代物の木造戦艦の上で軍事を司る英国第二王女は述べた

騎士団長「ご存知の通り、現代海軍の艦においては、第二大戦時に使われた戦艦のような巨大砲塔はありません。有るのは対空防衛用速射砲とハープンやトマホークに代表される対地対水上のミサイルがほとんどを占めます。これは我らの海軍もフランス海軍も同じ」

団長「故にこの妨害下では両軍の艦の武力を全く発揮できず、結果的に本土進攻を守らなければならない我々にとっては、逆に非 常に都合がよいかと」

キャ「今さら私にそのよーな常識的な事を聞かせたいのか、笑わせる。言われずとも気付いてる。この妨害電波は我らが味方の非公開によるものである事はの」

もし仮にこれがフランスによるものなら、敵はわざわざ自らの首を絞める事となる。故に有りえない。そして清教派も騎士派も王室派もこのような電波干渉について知らない。技術水準としてそれほどまでの科学技術が無いのだから

そんなことが可能でであるとして真っ先に思い浮かぶのは、学園都市だ。だがそれは有りえない。現時点でそのような動きは学園都市内の諜報員から欠片も上がっていないし、なによりもそんな事にかまけられるほどに学園都市上層部がまとまっていない

ならば可能性として挙げられるのは共同防衛にあたる米国しかあり得ない。技術水準も学園都市に次ぐレベルであり、世界を引っ張る存在として、一方的にどちらかの先進国が憂き目にあうということを避けたという成果によって、今後の先進国同士の争いについて主導権という手綱を得ることが出来る

特に毎度毎度事有る毎に小五月蠅いフランスを黙らせ味方につけたいならば、そのバランスは重要だ。英国側に付いて参戦したのも、英国が一方的に敗北するか、英国が一方的に仏国へ大被害を与えるのを防ぐ監視員としての意味も、勿論あるのだから

団長「この状況で、敵がなんとしても我々の領土内に侵攻するならば、間違い無く魔術に類する部隊での侵攻でしょう。そしてその攻撃方向はこの艦隊と艦隊の列に挟まれた間のみ」

フランスにとっても、米国はいざとなったときの、または英国劣勢時の早期講和の為のパイプとなることから、積極的に交戦したい相手では無い

その米国艦隊がイギリスを囲うように防衛線を形成している以上、そしてその防衛線の空白が、都合よく事実上の英国旗艦であるキャーリサの乗るこの木造戦艦を中央に挟んだ、英国海軍と仏国海軍がぶつかり合う2本の直線と英国領土と仏国領土に囲まれた空間のみであるなら、そこに秘蔵の魔術戦力を集中させるしか無い

つまり客観的に見れば、アメリカという存在によってこの戦いは戦力・戦域・戦法が大きく制限され、その手の平の上で戦っているのだ

それがキャーリサには気に食わない。自国防衛という国家最大の任務をまるでおままごとのように扱われているのだから。そしてそのおままごとで被害を被るのは英国で有り仏国であるのだから

キャ「全く、姉上もひじょーに面倒な同盟相手を連れて来てくれたの」

キャ(逆に言えば、手を 結 ば さ せ ら れ た のかもしれないが、)

キャ「フン、まあいいか。チェスだ、これは。規模が巨大なだけのな」

その言葉を聞いて、男は部下を引き連れて下がる

団長「それでは、クイーンが暴れやすいよう、ナイトが敵のビショップ(僧正)を撃ち払って参りましょう」

という言葉を残して

 

 

 

 

 

麦野「はぁ、つまり佐天、だっけ?アンタが一人で自分にそっくりな奴が戦ってるのを見知って、その現場に一人で行ったら浜面に救われたってことね? 」

佐天「そ、そうです。22学区の入浴施設に行っててそこでたまたま、ですね。ちょっと前に変な身体検診?みたいなのがあって気になってたんですよ」

浜面から聞いた情報と自分の記憶を頼りに、一番当たり障りが薄いだろうという言葉を選ぶ。ファミレスの一番通路側の席に座っている浜面に、滝壺と呼ばれる女性からの厳しい視線がずっと刺さっていたからの配慮だ

絹旗「超頭がおかしいとしか思えませんよ。あんな化け物相手に単独で進むなんて。何か能力でも有るんですか?」

佐天「あーいや、その。お恥ずかしながら、Lv0、です。アハハー」

フレ「ん?となるとあの白いのは何?無能力者?ありえない訳よ」

滝壺「でも、この人は間違いなく無能力者だよ。なんかモヤモヤした感じはするけど、この距離でなければ分からないほどに薄いし」

麦野「浜面、アイスコーヒー。何の能力も無いのに模する必要は有るのか確かに疑問だわ。他にもいくらでも強力な素体があるで しょうし」

麦野(仮にあの連中がこの子の能力強化クローンだとしたら、絶対能力進化に使われた欠陥電気って前提が崩れることになるわね。人工的に強力な能力者を作り出すことの難しさは彼女らを作った連中、学園都市は思い知っているはず。それがこの短期間で改善される事なんて、有り得るのかしら)

麦野に続いて他の女性面子が次々と欲しい飲み物を頼む

浜面「で、お前は?」

佐天「わ、私?自分で取りに行きますよ」

麦野「いいのよぉ。いつもの事だから」

ここで意固地になって取りに行くと言っても雰囲気に合わないし、何よりも浜面と一緒に取りに行く事となる。それは浜面にも悪いだろうと判断した

適当なドリンクを頼み、浜面が6本とか無理だろ!と言いながら取りに行く

フレ「それで、あの場所に居たってことは浜面の部屋を知ってたってワケよね?なんのよーじだったのさ」

浜面が居なくなって急に女性的な会話の雰囲気となる。絹旗や考えているようだった麦野も表情を変え、滝壺はさっきより真剣な顔でこっちを見ている気がする

佐天「いやいやいや!皆さんが思ってるようなんじゃないですから!!……ちょっと調べ物をしたら、出てきたんですよ、これが。だから知らせたくなって」

そう言って自らの携帯の中に入っているカード状の小さなデータ記憶媒体を取り出す

フレ「……!多分この辺にパソコンがあったはず―、っと」

どことなくノート型のパソコンを取り出し、佐天から受け取ったカードを刺し、簡単な操作でデータを開く。が、開けない

特殊な形式であるようだ

麦野「あら、珍しい。一昔前の形式ね。外では最新のものとして扱われてるけど」

貸してみなさい、と言ってどこかへログインし、何の装飾も成されてず文字ばかりの無機質な画面から何かをインストールした

暗部としての特権は仕事以外でも利用しなくちゃもったいないわ、と呟いていたので恐らく都市の裏側の住人用に用意された情報共有システムか何かなのだろう

佐天(流石、初春のパソコンだなー。何もしなくても開けたし。そういえば初春大丈夫かな。大丈夫だよね?)

絹旗「それで、これは?」

佐天「とりあえず見えるのが私の3次元DNAマップです。でこっちがそれを元に抽出した身体構成・能力予測値。はっきり言って何書いてあるか分かんないですけど、この予測値に修正があるんです。私が丁度検診を受けた日に」

佐天「無能力者の身体情報なんて誰もアクセスなんてしません。時間の無駄ですからね。でも、それで逆に目立つんですよ。管理者権限でトラッキングしたら、でました」

佐天「場所は、第一学区中央ビル地下。アクセス権限者はGENSEI KIHARA。この人は今アメリカが資金提供してるThe Institute of Advanced Technology for Mankindって所で研究所長やってて、その中央ビル地下で多重感応能力創造計画?って和訳になるプランを実行中です」

いつの間にか戻って来ていた浜面も話を聞いていた

麦野「つまりあの白いのはその計画の過程の副産物で、あなたが素体になってるってことね。で、その研究員が超ビッグネームの木原幻生。ほんと、よく調べてある。相当なハッキングスキルをもってるようね」

佐天「いえ、調べたのは私じゃありません。友人が、相当なレベルなので、ちょっと学校からくすねた薬を使って調べて も ら っ た ん で す よ」

精神構造が不安定な思春期における”自分だけの現実”形成はそう簡単に盤石なものが出来るわけではない。ともすれば、他の生徒を傷つけ兼ねない。それを防ぐために、各学校には非常措置として一定時間精神を強制的に安定化させ誘導に著しく従いやすくさせる薬を投与するという策が講じられている

恐らく目の前の少女はそれを使ったんだろう。大麻並みの低い依存可能性と効果時間内の軽い記憶障害しかもたらさないとはいえ、簡単に手に入る薬では無い。実質的に無能力者でありながらその行動力には恐れ入る

絹旗「ってことは、私達の目の前に再三現れたあの白いのは学園都市製のクローンな訳ですね 」

フレ「でも、研究資金は外国持ちなワケだから、結局はアメリカの指示ってことじゃない?」

絹旗「どうでしょう。第一学区の中央ビル地下にシェルターから研究所・工場までいろんな施設があるって噂ですけど、仮にも統括理事会の本部があるところです。引きこもり野郎ばかりの理事共があそこを使うことはまずないですが、その最大拠点が外国の影響下にあるとは考えにくいですよ」

麦野「無難な所では、資金提供の短期的見返りと発表として白いのを譲り渡してて、それが研究員・技術流出の手助けに流用されてるってとこでしょうけど」

滝壺「それで、この情報をはまづらに持って行って、あなたはどうする気だったの?」

佐天「私が地下研究所に潜入する為の暗部なりの方法を、教えて貰おうとしたんですよ」
死んだ自分が持っていたナイフを握り、佐天は答えた

佐天「私の手で、終止符を打ちに行きたいんです」

 

 

 

イギリス軍事上層の懸念は、下層にも伝わっていた

神裂「アメリカに魔術戦で片を付けろ、と言われているようなもの、ですね」

派手な衣装の女性が呟き、近くに居たシスター姿の少女がそれに答える

アニェーゼ「そのアメリカ様のお陰で、敵一般軍事戦力への配慮を少なくすることも、イギリス国内の混乱も、この機に乗じたIRAの過激化も防ぐ事が出来ましたがね。全力で向うの魔術戦力を相手にできるってもんですよ 」

神裂「それはそうですが、監視されている様で」

アニェ「奴らには、直接関わりのある魔術が少ないですからね。十字教も形式化した現代バプテスト系列が中心。本場十字教の力を確認したいって気も、わからんでもないです」

神裂「アメリカ本土のインディアン系統はとても強力な催眠系魔術を得意とすると聞いた事があります」

アニェ「その話、ローマ側に居た時に、私もその話を聞いたことが有るっちゃ有るんです。でも、文献の流出とか全く無いんですよね。インディアンは口頭伝承で絵ぐらいしか残ってないし、アメリカ入植が本格化した時が科学が史上最大の勢いで成長していた時ってのも関係有るんでしょうけど」

神裂「アメリカという不安定要素以外にも、直接的な脅威もあります。何が起きても冷静に対応しないと」

アニェーゼも、はい、と頷き、神裂と共に忌々しそうに天空に浮かぶ謎の魔術陣を見上げた。この戦の直接的な原因である、謎の陣

本土に侵攻されまいと、士気高く徹底防戦覚悟のイギリス

事実として一つの町が焼かれ、これ以上の被害を出すまいと、これまた士気高く徹底攻撃覚悟のフランス

どちらの根底にあるのも同じ、国家の、市民の防衛だ。つまりどちらも必死の覚悟で臨んでいる

それをあざ笑うかのような存在が、もし仮にいるならば、目的は何なのだろう

『フランス側からの干渉を確認!!彼らが来ます、警戒してください!!』

アニェーゼ部隊の修道女・アガターからの通信の直後、ドーヴァーの海が、フランス本土側から一気に固体化した。まるで海 全体が過冷却から解き放たれたかのように

フランスは歴史的に陸軍国家である。対するイギリスは海洋国家。魔術の歴史という面で見ても、狭いとはいえ海洋上ではイギリスに一日の長がある

侵攻する側が攻撃手段を決定できるのは、第二次世界大戦の日本陸軍とアメリカ空軍の戦闘機戦にも顕著に現れた通りだ。液冷エンジンで高高度性能が圧倒的に日本の戦闘機を凌駕していた米国戦闘機は、同じく高高度巡航可能なB-29を守るべく、高高度まで迎撃に来た日本の戦闘機を有利なフィールドで簡単に迎撃していたという

守る側は、相手の得意なフィールドで守らなければならない。その上後手に回りやすい

だが、このフランスの行動は読み通り。陸軍国なのだから、海は陸の方がいい。そんなことは対仏戦を想定していれば簡単に考えが行きつく

海に大量に含まれる塩分を水面で固形化し、陸にする。それは陸の延長。国土拡大の為に歴史的に海を埋め立ててきた歴史のある大陸側らしいもの

だが、イギリスには逆に全ての海を支配してきた歴史がある。海を統べる手段では3等海洋国に負けようはずもない

海面付近の塩分濃度は異様に高くなっている。当然そこには無理な力を加えて行っているのだから、その力をほんの少しだけ撹乱させてやればいい

そうすれば、表面に多少の水分が現れる。つまり

「奴ら、こっちの進軍方法を読んでやがったのか!?」「畜生、これじゃ完全に泥濘だ!速度が出ない!」

「泥濘に足を取られるのは奴らだって同じだ!!構わず進め!!集団白兵戦ならこっちが上d」

不完全に固形化された海は、広域な干潟となる。そして足を止められたフランスの魔術師達に待ち受けているのは過剰な放火

キャーリサ「ガウン=コンパス並びにセルキー=アクアリウム全艦、攻撃開始。グラストンベリ並びに海上各艦に居る、騎士・魔女・修道者も遠距離攻撃開始。出し惜しみぜず海を割る気で放て!!」

敵が個人戦で無く集団戦闘が得意ならば、数で劣るこちらはわざわざ相手の土俵に登る訳にはいかない。行動にキレを失ったところへ防ぎきれないレベルの高火力広範囲集中攻撃を繰り出せばよいのだ

こちらが消費するのは魔力だけ。あちらは被弾人数に加え、防御用に魔力も消費する

ガウン=コンパスから打ち出された高出力の魔術光線が、複数のセルキー=アクアリウムから打ち出される大量の黒い弾幕が、イギリス側の個人魔術による膨大な量の光線電撃火炎弾空気弾物質弾球体弾等の弾幕が、一帯を洗う

最初からまともに白兵戦をする予定など無かったイギリス側の読み通り、フランス側は半ばまで刺しこんだ戦線を維持できなくなり、防御に徹しきれなかった魔術師が消滅していく。集団戦闘において一番危険なのは、混乱する事。波状的二次関数的に広がる混乱は、まともな判断を鈍らせる

慌てて飛び上がった魔術師たちは、ロビンフッドを加えて精度を挙げたペテロ式の撃墜術式により簡単に撃ち落とされる

一方的な展開

騎士団長「ここからだろうな」

ロビンフッドで一人ずつ確実に敵を減らしながら、彼は呟いた

見た目はイギリスの圧倒的な優勢。士気も上がる。だが、数で押す主義のローマ正教の息がかかった大人数の魔術士部隊である。高々二千程度が散り散りとなったところでその被害は微々たるものと考えているだろう

そして何より、敵にはあの男が居るであろうから

騎士団長が考えていた通り、前線の後退が止まる。追加の人員が前線側へ移動したことにより、防衛の精度が上がったからである

だが、まだ決定的では無い。敵の進軍が止まっただけで、敵への一方的な火力攻撃は続く

キャ「こーまで一方的だとしらけるの。好敵手だと考えていたフランスの聖女サマの指揮がこのよーなレベルでは、フランスなどとっとと叩き潰して置くべきだったか」

戦況を見ながら、第二王女は喋りかける。周りの従者や兵に向かってでは無い

傾国の女『我々を舐めないで頂きたい。あなたが好敵手だと認めた私が、この程度だと思っているなら、逆に好敵手の資格が無い のはそちらでしょう』

キャ「戦場に出ることもできない女が何を言う。情けないものだ」

傾国『舐めないで、と言ったでしょう。私が出ないのは出る必要すら、こっちには無いからですよ』

音波が王女の耳に入った瞬間、弾幕が敵の前線の手前でその力を失った

派手に現れた巨大な水の壁が、砲火を飲みこんだのだ

御坂「そう。とりあえず無事なんだ。よかった」

美鈴「スイス、ってフランスとも国境面してるけど、ドイツよりの方に居るから、大丈夫よ。今まで電話出れなくてゴメンね、美琴ちゃん」

御坂「それで、いい年こいて放浪癖でもあるんじゃないってぐらい落ち着きのないあの父親はどうなの? 」

美鈴「宣戦時はロンドンに居たらしいけど、今はアメリカに居るわ。安心して」

母の言葉を聞いて、思わず、よかったぁと吐いてしまう

御坂「……じゃなくて、娘に今どこに居るかぐらいちゃんと連絡しなさいよ! 」

美鈴「パパは忙しいから許してあげて。きっとあなたにとっても意味のある事をしてるはずだから」

御坂「でもね、こっちは心配してt」

美鈴「あなたの言いたいことは分かるわ。だから、せめて今回の件が終わってから面と向かってはっきり言ってあげて」

御坂「わかった、そうする……って、今回の件って内容知ってんの? 」

美鈴「え、ああ、うん。知らないわ。あの人の行動全部把握するなんて出来っこないもの。そ、そういう美琴ちゃんこそ、当麻君とは少しはお話しできたのかなぁ? 」

御坂「えっ!あ、アイツの事なんでどうでもいいでしょ?!安全って分かったからもう切るね。こっちは夜だし!おやすみっ」

勢いで電源を切り、携帯を寮のベッドに投げつける。空気を読んだのか、たまたま外へ行っていた後輩が部屋に戻ってきた

白井「あら、お姉さまお話は終わったんですの?そのご様子だと、ご両親とも御健在だったようで」

御坂「顔に出てた?うん。大丈夫だったみたい。開戦したって聞いた時は驚いたけど」

白井「ええ、あの時のお姉さまは結構な取り乱し具合でしたから」

御坂「なんかそう言われるとちょっと恥ずかしいじゃない。別にいいでしょ、親なんだし」

白井「もちろん。私も同じ立場なら同じようになってしまいますわ。ですが、そんなお姉さまだったので言えなかった事がありますの」

御坂「何よ?また何かしたの?怒らないから言いなさい」

白井「いえ、そういうのではなくて。いや無い訳ではないんですけど。その、と、当麻さんが例の病院に運び込まれて、今だ手術中でして」

御坂「そ、それで、容体は?! 」

白井「詳しくはわかりません。その上面会も立ち会いも謝絶ですの。分かっているのは、今日の件の中心に居たことだけ。これも正規のルートから仕入れた情報ではありませんし」

御坂「その場所って、今日の爆発のやつ?あれって撮影機材が爆発したって聞いてたけど」

白井「現場を見てみれば、アレがそんな物じゃない事が分かります。半径50mが全部灰塵なんて、如何に学園都市の特撮と言えど、有りえません。有ってたまりますか」

取り出した端末に映し出された画像には、中央ポツンと階段らしきものが残った以外、綺麗な円形のクレーターがあった

御坂「……あれが特撮じゃないなら、今日のものすごくおっきな翼っぽいのとか、ここ一連の白い翼事件は何だったのってことにならない?」

白井「実は、特定のAIMの反応が計測されていたそうで。つまりのところ誰かの能力、規模的にはそれもお姉さまクラスかそれ以上のと考えられますね」

御坂「私レベルかそれ以上、ね。あんな翼、第一位のじゃない。4も5も7も違う。6は不明だけど、原石タイプじゃないか ら序列的にあり得ないし、考えられるのは」

白井「第二位。垣根帝督という名の男。この人は風紀委員のブラックリストに最近掲載されていました。この顔にピンときたら、っていう定番のアレですわ」

御坂「一体何があったらLV5が学園都市から指名手配されるのよ」

白井「罪状は、技術流出補助ですの。最近多いというのは先日述べた通り。しかしなにもわざわざ管理の目が厳しい時を選ばずとも…」

御坂「逆ね。それだけ急がなきゃならないのよ、きっと。外がレベル低いのを一番知ってんのは研究員の方でしょ?よほどの事があるのよ」

白井「何にしても、それに当麻さんは巻き込まれて病院送り。生きている事は幸運でしょうけど、不幸にも程がありますわ」

御坂(アイツの不幸は、確かに酷い。でもこういうのは不幸じゃない。自ら飛び込んで勝手に怪我する馬鹿なのよ、アイツは)

御坂「ま、心配だけどどーしようもないことはあるし。馬鹿親のお陰で身にしみた。お見舞い出来るようになるまでは祈るぐらいよ」

白井「意外ですわ。感情直結のお姉さまの事ですから、てっきり飛んでいくのかと思っていましたのに」

御坂「随分な言われようね。会えもしない、情報封鎖の真っただ中に居た、面会も立ち会いも謝絶。そんな中で友人に会いに行く方が馬鹿ってものよ」

白井「オトモダチでは無くコイビトでも、その反応は同じですの? 」

御坂「こ、恋人?!そ、そりゃあ飛んで行ってベッドに寄り添って泣くのが王道でしょうけど、追い返されるのがオチなんでしょうね。私だったらそんなことしないわよ」

白井「ではお姉さまならどうするんですの?」

御坂「私は恋人云々以外に恩ってか借り?があるから事情が変わってくる。そうね、アイツが何に巻き込まれたのか、飛び込んだのか、まずはそこからかな」

白井「その活動に風紀委員の情報があると楽になるとは思いませんこと? 」

御坂「珍しいわね。黒子からそう言ってくるなんて」

白井「あら、そんなこと有りませんわ。私も当麻さんに好意があるんですもの、何かしてあげたいと思うのは当然のことですの」

 

 

 

地殻変動で突然隆起した山のように現れた、巨大な海の、水の壁は間髪無く飛来する英国側の遠距離攻撃を能動的に防ぐ

泥濘となっていた海面の水分を強制的に空気中に吸い上げ、強制的に発生した気化熱現象により海面上の温度が引き下がり露点温度を迎えた

攻撃を能動的に守る水の壁に加えて、とんでも無い濃度の霧が発生し、地面は再度固形化する

騎士団長「来たか、旧友よ」

グラストンべリ上で役に立たなくなったロビンフットを投げ捨て男は呟いた

前線が一人の男の出現によって押し上げられ、その男周辺から後ろに濃霧と再度固形化した海面が、正面には飛来するものを片っ端から防ぐ水の壁が、仏国側を守る

光線が水の壁に当るたびにジュゥゥという、まるで熱せられた金属に水が触れたときの音をそのまま大きくしたような音が響 く。だが、如何なる攻撃を受けてもその壁は消え去ることは無い。ここは海なのだ。消えた水はいくらでも補充されていく

そしてそれは濃霧を更に深いものにしていく

霧の街・ロンドンに、雨の島イギリスに住まう彼らにとって、濃霧は本来自分たちの得意領域だ。にも拘らず、騎士団長は狙撃武器を捨て白兵戦用の武器を持って霧の中へ飛び込んだ

理由はもちろん、その霧は自然発生でないからだ。全ての攻撃を防いでしまう程の莫大な水量を操る事が出来る存在は神か天使か、それに類するほどの力を持った者。その存在が操る霧がロンドンで扱う霧のように活用出来ようはずも無い

騎士団長と呼ばれる男には同時にこんな真似をすることが出来得る存在を知っている。彼が知っていた頃のその存在にはここまでの力は無かったが、その力がより大きくなった事実は、これまでに嫌という程ローマ正教関連の情報に混じって伝わっている

フランスのイギリス侵攻の際にネックとなるのは間違いなく海上戦闘。それは明確。ならばその援護者は海に、水に強い人間を寄越してくることは簡単に想像が付く

3m程に長大化したロングソードを振り、霧を払う。一瞬だけ発生した隙間からその術者は立っていることが確認できた

5m程の大きさをした巨大なメイスを持って居る男。そこへ向かって即座に二の太刀を振りかざす。同じように振り回された巨大なメイスと巨大な剣の軌道がが強い金属音を立てて交る

その余波で周囲の霧が吹き飛び、また再生していく。その余波は同時に男の後ろに立っていた数名の魔術部隊員が吹き飛ばす

巨大な金属と金属の塊の交差はそれだけでは終わらない。連続した金属音と一瞬だけ余波で消え去る霧の空間が中央よりフラン ス側に現れた

キャ「そう言えば、貴国の後ろにはああいう輩がいたのだったな。だがあの連中が居るということは、実質的にお前にはこの戦の軍事を動かす権利が無いのと同義だと思うがの」

傾国『好きに言って下さい。彼のお陰でそちらの攻撃は被害を与えることは無くなったという事実は揺らぎません。さぁ、今度はそっちがカードを切る番ですね』

キャ「フン。そーいう単騎高火力は本来こちらの得意とするところ。彼奴の水の壁を削ぐまで追い込むだけだろーに」

傾国『……フフ』

何かを思わせる含み笑いの後、声は消えた。侵攻ならまだしも、こちらは防衛側だ。敵の最高戦力が出てきたならば、それに見合う相手を付けて退ければいい。退いた結果、敵が攻撃を再開できないほどに戦力を衰退させてしまえば、この戦は勝ちなのだから

団長「貴様が神の右席に所属したという報告を受けてから、こうなることは予想が付いていた」

何度目かの鍔迫り合いの中で、男は喋りかけた

団長「だが、義や意を持たぬ戦いに、命令のままに参戦とは傭兵らしいものだな、ウィリアム」

打ち下ろしのタイミングをずらし、攻撃のリズムを変える。カーテナ=セカンドの力を供与された高次元の戦闘能力は間合いの中の大男に前進させる隙を与えない

アックア「同胞が住まう街を焼かれたというのは、義に値するのではないのか、我が友よ」

団長「あの攻撃がこちらの手による物でないと判断できない程、バチカンの程度が低いということは有るまい。いや、右手し か異能の力を持たぬ少年からも重要物を守ることが出来ないのが神の右席であったな」

横薙ぎに払われたメイスの巨大な一撃を受け流し、その力で騎士団長と言われる男は飛び上がった

アッ「彼の者の程度が低いのは認める。が、それだけ分かっていて尚且つこちらが戦力を裂いたという理由が有るぐらい予想が付きそうなものである。10年という時間は頭脳を風化させたか」

飛び上がった男を追うようにアックアも跳躍する

団長「どんな理由があれ、貴様らに国土を蹂躙される訳にはいかないのだ! 」

跳び上がって来た男を叩きつぶすかのような構えをする。それに対応するようにメイスを頭上で構えた

よほど濃い霧なのか衝撃を伴った打ち合いが続く中で、未だ晴れることは無い。その中をくぐるようにワイヤーが走る

アッ「騎士でありながら一人で戦うのは心細いようであるな」

霧は目に見えている分密度が濃い。その硬さを瞬時に操作し水柱を構成、表面だけを固形化させ片腕でそれを掴み、体をターンさせてつつメイスを持つ片腕でを迫るワイヤーを振り払う

アックアが意図的に残した斬撃が騎士団長の元へ伸びるが、予想された方向からの攻撃であるので弾くのは容易だ

団長「歴史的に騎士は集団戦を得意としている。だが、残念ながら私達に付いてこられるのは彼女だけなのだ」

前線面の中央で戦うアックア達を避けるようにして進むフランスの魔術師たちとそれを迎え撃つイギリスの魔術師と騎士たち。大規模攻撃を能動的に守る壁と濃霧が、展開の見えない白兵戦を招いていた

地上で対峙した騎士団長とアックアを丁度正三角で結ぶ位置に、必要悪の教会所属の大きな刀を持った女が立つ

団長「個人的な戦いで有れば決闘といきたいが、背後に守るべきものがある以上、確実な方法を取らせてもらう」

男が喋っている間にも金属と金属が弾きあう音と衝撃は止まらない。一際大きな金属音が鳴り響いた

神裂「唯閃を容易く弾き返すとは、やはり一筋縄ではいきませんね 」

一度間合いを取り、元の三角形のポジションへ戻る

アッ「今の攻撃、イギリスには極東の聖人が居ると聞いていたが、その聖人のようであるな。この二人が相手ならば、こちらもそれに答えるべき力で戦わせてもらうのである」

 

 

 

喉の渇きを感じて、垣根帝督は目が覚める

目の前には女の顔があった。落ちた化粧の合間から見える、年齢相応の幼さを備えた容貌。眠っているようで、一定のリズムでの呼吸音が聞こえる。どうやら膝の上に寝かされていたようだ。自分を覆っていた布を掃い、身を起こして周囲を確認する

見えている範囲は、砂漠地帯であった。砂ばかりの砂漠では無く、所々に僅かな草花や木が見える。ここも、小さな木の根元の日陰だ。近くに少し大きなクレーター状の窪みがあるが、とくに目立たない

そこでようやく自分の格好に気が付く。着ている物は穴だらけの下着のみ

先程起きた際に払い除けた布はどうやら自分が着ていた服だったようで、やはり穴だらけだった

垣根(一体何がどうなったらこんなところでこんなカッコで寝てるって状況になったんだ? )

記憶を思い返してみるがはっきりしない。断片的に思い出されるのは、とにかく白。何もかもが白い

とにかく、この少女の前でこの格好は不味い。女性の前に裸を晒した経験が無い訳ではないが、大自然の中自分だけほぼ全裸という訳にはいかない

試しに今まで自分が着ていただろう服を身につけてみるも、ボロボロ過ぎて話にならない。それでもとりあえずとして、下だけは着る

垣根(まずここは何処だ。見渡す限り砂漠地帯なんて場所は日本には無いハズだ。となるとここは国外ってか。面倒臭え、幻想殺しに電子機器全部壊されてそのままにして置いたのは失敗だったか)

そこまで考えて、記憶の中で目の前の少女が携帯端末を使っていたのを思い出す

未だに寝ているのを確認して、ボロボロのスカートをめくる。見たところドレスには収納できそうな場所は無いので太腿のホルダーだと思ったのだ

定規「一体何をしようとしてるのかしらね」

垣根「あー、携帯を使おうと思ってな。俺のは死んじまってて使えねぇんだ」

定規「残念ながらもってないわ。あと、一声かけてほしいわね。寝てる間に何かさせるのも嫌だし、ここには誰も居ないでしょうけど、そのカッコじゃ変質者よ」

垣根「全裸に翼よりは趣味がいいと思うぜ 」

定規「そうかもね。……貴方、なんでそんな服がボロボロなのか分かって無いの?」

垣根「知らねえよ。お前に銃を向けてからの記憶がハッキリしてないんでな」

銃を向けた、という発言で、目の前の少女の顔が曇る

垣根「ま、ここが学園都市の息がかかって無い場所ならお前もすぐに俺をどうこうできるわけじゃねーだろうし、何か不穏な動きを見せたらすぐに殺せばいいだけの事だ」

脅迫である。だが、心理定規には負い目があった。自分の能力に巻き込んだからこそ、垣根の衣類はああなっ てしまったのであり、こんな所に居るのであり、垣根自身を変質させてしまった

定規「帝督、翼を出してみて」

垣根「あぁ?なんでだよ?」

定規「いいから!」

軽めとは言え、脅したばかりの女からここまで強く言われるとは思っていなかったので、若干驚いた

相変わらず訳のわからん奴だと思いながら、言われた通り翼を展開しようとする。地面からここを特定するものや町が見えなくとも、高いところから見渡せば何か見えるかも知れないというのが具体的な理由である

いつもの感覚で、まるで体の一部を動かすように無意識に意識する

何かがおかしい。違和感に気が付いた時には、とりあえず身に付けた下半身の衣類が下着を突き破って更に大きな穴が開いていた

彼が作り出す翼は、体から出てくるものではない。翼で体を持ち上げるときには、全身へそのエネルギーが伝わるようになっているだけだ。故に、翼を展開したところで服が裂けたりしない

だが翼の中から羽根が生えてくるかのように、垣根自身の体の中から全身にわたって大小様々な翼のような物が生えてきた

感覚もおかしい。飛びあがる程度では6本全てを出す必要も無いので、体を支える程度の物を展開したつもりだった。しかし、背中から生えるように出てきたものは巨大な片翼のみ

もう一本を出そうと演算式を再確認する

垣根「なんだ、これは」

これまでの物とは全く異なった、最早自分の組み上げた物とは似ても似つかない物に変更されていた。意味が分からないハズの記号が脈絡なく浮いているというイメージだろうか

だが、最大の脅威はそこでは無い。それが垣根自身理解できる事が最大の謎だ。自らの定義が行為主体でありながら行為そのものとなっている

式は硬く複雑で何処を変更したらいいものか分からない。隙や矛盾も見当たらないのでそんなことをする必要すらないのだが

定規「私の能力は、人間以外に通用しないの。定義を書き換えて、何度も微調整を繰り返せば可能なんだけど、とにかく、今は人間用に設定されてて人間以外には使えない」

定規「逆にいえば人間 に は 効果を与えられる。防御を張っていても、それは明確な障害として確認できるの。でも貴方にはそれも無く能力を行使できない。つまり」

垣根「今の俺は人間じゃねぇ……ってことだな。そういう風に定義されてやがる。何があったらこうなるんだ。お前、何をしやがった」

少しの間をおいて、少女が話を始めた

定規「あの時入ってきた女を見て暴走した私が、貴方を乗っ取ったの」

あの女、というのは記憶の片隅に残っている黒髪の女なのだろう。確か自分はそいつへ向かって銃を

定規「今考えたら、急に逃げ出した時点であの白いのじゃないのにね。あの子があんまりにも似ていたから、おかしくなっちゃって」

定規「無抵抗なまま追い詰めて追い詰めてこの世から形すら残らない様に消すつもりだった。貴方を使ってね」

定規「でも最後の最後で幻想殺しが来て、貴方の攻撃を全て防いだ。私はますます暴走が深化して、最終的に貴方と精神を合一化したのよ」

定規「暴走していた私と貴方が重なって、貴方も暴走した。そして帝督、貴方は自らの制限を取り去った。貴方自身を未元物質に置き換えてしまうことで人間的な限界を超えた」

定規「そして今度は私の方がそれに巻き込まれた。あなたの能力を制限する事なんて平時でも不可能でしょうに、それがあんな形で暴走されてしまったら、耐えられるはずが無いわ」

定規「私の方が限界を迎えて、貴方は私から解き放たれた。そこから私も記憶が無いの。きっと、攻撃に使われていたエネルギーが行き場を無くして、私達をこんなところまで飛ばされたんでしょうね」

定規「目が覚めたら、貴方が私をかばってそこに倒れていたの。私の膝枕は、気持ちの良かった貴方の羽のお返しよ。安くな いんだから」

垣根「そいつはどうも。ま、何にせよお前の能力は効かなくなったんだな。代わりに能力使うたびに服が破れるセクシーな体に成っちまったが。都市のお目付け役のお前からしたら困ったものだろーけど」

定規「その事なんだけど、私の意見も言わせてくれないかしら。帝督、貴方誤解してるみたいだし」

 

 

 

霧は目であり、盾であり、武器であった

凝縮され矢じりとなった水が男女を襲う。全方位からの連続攻撃は他の騎士や魔術師ならとっくに致命傷を貰うか、天獄への階段を昇っていたであろう

単純故に逃げ場が無いような攻撃は、逆に単純ゆえに逃げ場を作り出すことが出来る

形成された氷の矢は彼らめがけて飛んでくるが、追跡するわけではない。故に回避先の方向と回避先めがけて飛んでくる反対方向の矢を叩き落としてやればいいのだ

元より優秀であり経験と研鑚を重ね、更にカーテナの加護がある騎士団長と聖人である神裂の身体能力・魔術技能ならばそれは難しいことではない

無論、巨大なメイスを持つ男もこの二人がこの程度の攻撃でやられるとは考えていない

本質なのは目暗まし。霧の中でも的確に自分を突いてくるレベルの人間が二人。自分にはイギリス本土へ行ってやらなければならない役目がある。こんな所で手負いになって立ち止まる訳には、いかないのである

自分にとって圧倒的に有利なフィールドで、確実に二人を沈黙させなければならない。そのためには卑怯と言われようと確実な策を選択する

挟撃は、どんな策より優れた策である。特に人数で勝っているならば、個々の能力で多少劣ろうともそのビハインドを覆せる

故に、少々効率が悪いが騎士団長と神裂は別方向へ別れて行動する

ワイヤーを使い一方の攻撃を防ぎつつ、同時にその軌跡で描いた魔術陣で生まれた炎がもう一方の攻撃を防ぐ

たった一瞬、注意を逸らしたその一瞬で、今まで辿っていたアックアの気配が消えた

やられた?!と神裂が思った瞬間。これまでの比では無い強い衝撃が当りの霧を散らせる。すこし後に聞こえる金属音。これまでの比では無い鈍い音だった

散った霧の間に見えた先には、膝を付く騎士団長と青く光る巨大なメイスを片手で易々と持つ男の姿があった

咄嗟にその男へ向けワイヤーを放ち、騎士団長とアックアの距離を押し広げさせようとする

逆方向からこれまでと同様の反応。散った霧からの攻撃か。ならば方向は全方位では無く背後方向からのみ

伸びきったワイヤーによらない、刀による迎撃を狙う

後ろへ振り向いた瞬間、視界の中に味方の騎士の姿があった

水の魔術の大きな特徴。屈折を利用した幻影魔術。魔術の基礎の一つである水のルーンを学んだ者ならば、瞬時に思い浮かべる。同じく霧の中にある、離れた所で戦っている騎士の姿を映し出したのだろう

神裂「姑息な…! 」

だが、幻想であれ、これがあのアックアが置いた物であるなら何かを狙っている可能性もある。幻影で覆い隠した攻撃魔術の塊であるかもしれない

いくらでも可能性はある。ここは彼にとって最も得意な場所であろうから。これまでに自らが構築した魔術も、絶対的な水量の前に幾度も止められている

だが、その対象が海と分かっているならば、付け入る隙がある。少なくとも、遠距離操作の魔術程度なら、同じく聖人の彼女 なら撹乱できるはずだ

背後の騎士団長も気になるが、彼は強い。先ほど自分が広げた一瞬の間合いがあれば、それだけで体勢を立て直す事なら出来よう

援護するならば、まずは自らの安全を確保しなければ。特にこの霧と海に囲まれた空間では命取りとなる要素が多過ぎる

斬撃の中に日本列島形成伝説から編み出した渦潮の魔術を込める。泥の海から島を作り出した際に発生した渦潮は、海と泥をかき分けた。転じてそれは不純物を取り外す働きを持つ

水においては格上の相手ではあろうと、海との相性も良いこの魔術ならば少なくとも目の前のものに対してその本領を発揮することは避けられるだろう

一気に距離を詰めて、その幻影に向かって斬撃を加える。結論だけ言うならば、海に集中し過ぎたのだ

それは幻覚などでは無かった

霧に囲まれたこの空間は、アックアや神裂・騎士団長以外にも騎士と魔術師たちが入り乱れた戦いとなっている

その中から一人二人が消えたところで一体誰が気にするだろうか

意識が無くなった者を霧を使って操り、そこに立たせていたのだ

そこまでして唯の騎士を神裂視界に入れた理由。有能な魔術師である事を、海に対する警戒が高まっていた事を利用する為

七天七刀によって切り裂かれた味方の体から当然のように噴き出す液体。人間であれば間違いなく体内に数リットルは含まれる液体

最初から狙いはそこだったのだ。血を媒介とした魔術は数限りなく存在し、直接的に死や傷を想定させるそれは、液体の中で最も脅威である。生命の源である海とは対照的な存在

神裂「血!!だとっ!? 」

瞬間的に血から起因する数多の攻撃魔術に対する防衛魔術を複数展開する

だが、それもまた罠だった

海だと思えば血を使われる。血を見た瞬間に血から思い起こされる魔術に対してカウンターを入れるのは優秀な魔術師ならばすぐに考えが及ぶ。神裂程の魔術師であるならば、その聖人という特性もあり、血による魔術はそう簡単にその力を発揮させることは無いだろう

神裂の身にその魔術の効果が発揮された時に、ようやく自分が罠にはまったことに気が付いた

アックア「如何な聖人と言えど3段構えの策を全て見破ることはできなかったようであるな」

身の背後から最も聞きたくない男の声が聞こえる

だが、身の守りへスムーズに移行できない。使われたのは痺れを作り出す魔術。水毒という症状があるように、水と言うのはあらゆる病に直結する。そして歴史上最も多くの毒の溶媒となってきている。それに対応した魔術が無いはずもない

それゆえに基本的であり、予想もつかなかった。騎士の血ではなく、血に多く含まれる水を直接的な媒介としたのだ。海にも霧にも血にも対策をした。だが、血に含まれる水という限定は見落としていた

聖人である神裂にはその効果はある程度軽減される。だが、術者はアックアであり、ホンの0.01秒でも行動が遅れようものなら致命傷だ

それでも何とか、神裂は魔神の如きメイスを必死に捌く

メイスを振り回しつつ、男はある言葉を淡々と述べ続けていた。それが神裂の耳に意味として聞き取れたときには巨大なメイ スが光を帯びていた

「時に、神の理へ直訴するこの力、慈悲に包まれ天へと昇れ!!」

言葉の終わりと共に、今までの比では無い勢いでメイスが振り下ろされた

丁度、裁き切れないように、手を抜いていた鈍器の扱いを更にレベルさせた中で、雷のように打ち下ろされた巨大な鈍器を防ぐ手段は神裂には無かった

 

 

 

蛙医師「入院の多い患者だとは思っていたけど、多分今までで一番酷かったよ、今回は」

思う処があって深夜に一人で見舞に来た浜面に蛙顔の医師は漏らした

蛙「四肢が無くなったり、臓器が漏れたりとかは僕だって今までにたくさん何とかしてきたよ。医師としてね」

蛙「でもね、あそこまでの組織の異常成長ってのは初めてだった。常識的でないって言うなら、君の体にも驚かされたものだけど」

蛙「連日こんな風に驚かされたんじゃ、いつか心不全でも起きてしまいそうだよ」

医師なりのジョークなのだろうが、笑えない。年齢的にはおかしくないし、長時間の手術を終えた今はその危険性も上がる

浜面「それで、アイツの状況はどうなんスか」

蛙「驚いたものだよ。術中に患者から指示を受けながら手術したのは僕ぐらいだと思うね」

蛙「彼の、いや、彼らの知識と僕の知識と経験を総動員した。明日中には復活してるんじゃないかな」

そう言った後に手術室から大量の肉片が運び出された

浜面「うぇ、アレ全部、切除した奴……?」

蛙「そうだよ。豚二頭分はあるんじゃないかな。一応暗部の君は会う権限があるし、休んでいるところを見ればいい。もう病室で寝ているはずだからね。前に君たちが寝ていた部屋だよ」

あい、と返事をして足を向けた浜面

蛙「あ、あとまだ彼は手足はおろか内臓も十分じゃないから触らないで欲しいね。十分じゃないってのは機能的な意味じゃなくて質量的な意味だからね」

質量的、と言われてピンとこないという顔をする

蛙「ま、早い話手足と消化器系統が全て失われている状態と言えばいいかな」

浜面「ちょ、それが明日には治るってんですか?!」

蛙「うん。そうだよ。ま、多分だけどね。驚くことは無いだろう。君だって同じようなものじゃないか」

自分も同じ、と言われて疑問の表情を浮かべた

蛙「流石に彼ほど能動的じゃないだろうけどね、君の体は全身トカゲのしっぽだよ。自然治癒力も、消化器によらない分解能力も有るはずだ。少なくとも、解析されたDNAにはそんな要素が散見されたけども」

そう言われて、ここ最近の記憶をたどる

手榴弾を背中に食らい、右腕にはナイフが刺さった。だが気が付いたらそんな傷は無く、背中の異物は取り去ってすらいない。腕の傷は一生モノのハズだ

蛙「寝ているかもしれないけど、彼に会った後には僕の所に来てくれ。君の方の変化を見ておきたいのでね」

浜面「あ、はい。ってか、先生は何時寝るんスか?」

蛙「そりゃ勿論、患者が居ない時だよ」

そう言って蛙顔の医師は暗い廊下の奥へ進んで行く

冗談じゃ無く、過労で死ぬぞ。まさか自分の死すら冥土返ししてんのか?と思いつつ、浜面は上条が居る部屋の下へ向かった

面会謝絶の張り紙を無視して扉に手をかけるとやはり開かない。その為に鍵を借りてきたのだが、中から声がする

使用される頻度が高いのか、蹴られたりして変な力でも加わったのか、若干歪んだ扉の隙間から中を覗き込む

暗闇の部屋に立っている男があった。窓から少し差し込んだ光でその髪色が青を帯びているのが分かるが、窓に背を向けているので顔は分からない

浜面(誰だ、アイツは。何してんだ?)

窓際に立っている男から、ベッドの方へ視線を移す。寝ているようだ。あの異常な体付きは無くなっており、ベッドの盛り上がりはまるで小さな子供のそれだ

またな、という声が聞こえた。窓際に視線を移すと先程の男の姿は無かった

鍵を開けて中に入る。部屋の主は寝ていた。先程の男は会話をしていたようだったが、この眠りの度合いからして上条は起きていなかったはずだ

浜面「そりゃ、こうなるまで手術したんなら全身麻酔だよな。夜も深いし起きているはずもないか……」

布団をめくると、その見た目に思わず声が出た。体中何か特殊な布で覆われているが、四肢は無く本来臓器のある位置は窪み凹んでいる

浜面達を守ったときの心強さを感じさせない、その脆そうな体が明日には復活するというのが浜面には信じられなかったが、考えてみれば目の前であれだけ膨張したのだ、ありえない事では無い

恐らく莫大なエネルギーを体内に溜め込んでそれを使ってとかそんなもんだろう。なら自分の体の傷が消えるのはどういう理由か

布団を戻し部屋を後にする

暗く長い廊下で、物音がした。意図的に足音を消しているような感覚

思い起こされるのは先程の青髪の男。だが、またなと言って消えた男がこちらに、上条の部屋の方へ来るかのように、気配を消して来るだろうか

その可能性を排除して考えられるのは、自分の敵または上条の敵。確かに今自分は強い味方に守られているわけではない。医師が言うには自分もそう簡単に死ぬことは無いだろうが、取り換えの利く自分を狙う理由が無い

上条の動きは、昼間に見た。自分が前に彼にやられた時とは次元の異なる動きをしていた。第二位の巨大な白い羽根の濁流のような攻撃を全て防ぐこともできた。間違い無く彼は強い。だが今は確実に弱っている。彼を狙うものがあれば今が一番のチャンスのはずだ

そして確実に殺すならば、彼の部屋にロケット弾でも外から打ち込めばいい。それをしないということは、暗殺だろう。可能性がある以上、自分はそれを防いでやるぐらいの恩返しはするべきだ

スキルアウト時代の友人に気配を消して移動するのが非常に得意な者が居た。そいつの動きが思い出されるが、それに比べれば動きがぬるい。まるで素人が見よう見まねでついてきているような

浜面(複数いるなぁ、こいつは)

身近な病室に入って、耳を研ぎ澄ませる。音はゆっくりだが静かに上条の病室の方向へ進んでいるようだ

少々の物音ならば、浜面が複数の患者が寝息を立てるこの部屋に入った時のように、入院している患者は起きたりしない。夜中に トイレに行く者もあれば、喉が渇いて飲料水を買う者だっている

思いついた。事を荒立てない様に暗殺という方法を採っているのなら、入院患者を殺したり害を加えたりはしたくないだろう

羽織っていた上着をその場に脱ぎ捨て、寝ている患者のベッドの側にある如何にも入院患者が着ているという感じの衣類を身にまとう

昼間だったり消灯時間前まででないならば、強引に羽織っているゴワゴワした感じが見る者に違和感を与えるだろうが、この暗闇ではそこまで見通せないハズだ

複数の足音が部屋を通過した。そのタイミングで自然に浜面は部屋の引き戸をスライドさせる

驚いたのは侵入者の方だ。素人の集団は、考えられた事にも関わらず、あからさまに驚いている

だが、一人一番先頭に居た者だけはその後の判断が早かった。仲間が浮足立ち浜面に殴りかかりに行く一方で、一気に上条の部屋まで駆けていく

浜面にとっては浮足立って殴りかかってくるのは考えられていた事なので、迷った拳へ冷静にカウンターを当てて行く

一人が一瞬で崩れ落ちた事で、駆けだした一人を除いたもう二人はますます行動判断が鈍る。その隙を見逃さず蹴散らして、上条 の部屋の前で鍵を開こうとしている男へ迫る

屈んだ体へ足を振るが簡単に受け止められ、逆に体勢を崩される

倒れる際に抵抗して振り回した手が部屋のネームプレートに触れ、金具ごと地面に叩きつけた

ガキーン、という薄い金属が叩きつけられた音が鳴り、静かな院内に響く

崩された浜面の上に馬乗りで体を抑える男。足元の非常灯によってその男の視界にはっきりと浜面の顔が浮かんだ

?「お前、浜面ッ?! 」

男の声が聞こえた。浜面の視界からは、男が顔を覆っていた事もあり、その男の顔は分からなかった。だが、声には聞き覚えがある

「どうかなさいましたかー? 」

廊下の奥から見周りの看護師の声が響く。もうしばらくすればここまで来るであろう。上条の部屋の扉も開いていない。つまり、暗殺は失敗だ

馬乗りになった浜面の上から離れ、浜面が伸した仲間の下へ。ドタドタドタッという余裕の無いけたたましい足音を立てて走り去って行った

残された浜面は逆方向から駆けてきた看護師に、暗くてぶつかってこけてしまいましたアハハハ、と適当に都合を合わせる言い訳をして服を拝借した部屋へ戻る

少し汚れてしまった衣類に申し訳なさを感じながら、もとに有った場所に服を戻し、自分が来ていた上着を羽織る。そのまま来いと言われた医師のもとへ足を向けた

浜面(あの声がアイツのものなら、あの微妙に素人臭い動きをしていたのは)

浜面(だがなぜ上条を狙うんだ?理由が分からない。弱ってる上条を狙うのは暗殺以外にない。脅しなんて回復しちまえば逆に恨まれる理由にだってなるんだ。殺し以外意味が無い)

浜面(殺しだと?なんでだ?なんでそんなことをやるようになったんだ?)

浜面「なぁ、なんでなんだよ、半蔵」

階段の窓から見える月に向かって訴えるも、返答は無かった

 

 

 

 

「君は、天使を信じるかい? 」

深夜の病院内の一個室で、浜面はそんなことを尋ねられた

なぜ天使なのか。神を信じるかではなく、一般的にその使いである天使なのか

浜面「神とか天使とかのことは、わかんねーです」

蛙医師「そうだね。僕も宗教家じゃないし、わからないよ」

何が言いたいんだこの蛙は、という表情をする浜面を見て医師は続ける

蛙「君が言いたいことは分かるよ。それが何に関係してるんだと言いたいんだろう」

机の上に立ててあった封筒を取り出し中から書類を取りだす

蛙「これは僕が随分前に助けた患者が某国から取り寄せてくれた物なんだけどね」

蛙「どうもアッチ側は天使というものに理解があるようで、最近収容された人間の遺体が天使に近かった、という結論を出しているんだよ」

蛙「それが言えるということは、天使の定義を知っているということになる。その定義とその遺体の一部を送ってもらったんだ。ほんの爪垢ほどの肉片だけどね」

蛙「彼ら曰く、天使というものは現代科学、というか現代文明的に理解できないものらしい。でも、人間が天使になるのなら、そこからの過程はDNAにも現れるかもしれない」

蛙「そう考えて調べてみたら、ビンゴとまではいかなかったけど少し見えてきたものがあるんだよ」

蛙「さて、また質問してもいいかな。天使は何処から来るんもんだい? 」

浜面「どこからって、そりゃ天国……?」

蛙「天国ってどこかな」

浜面「そりゃ、ええと、空の上かな?」

蛙「そう。空の上。宗教や神話が出来たばかりの時代には宇宙を知る術が無いハズだ。空の上という存在の概念や定義はあってもね」

蛙「そしてその定義をもとにすると神の空間から、すなわち宇宙から天使が来る。ということは天使は宇宙空間における適性を持っていなければならないことになる」

浜面「はぁ…」

蛙「ま、言ってしまえば天使云々の件はきっかけに過ぎないんだけどね」

浜面「ええと、つまり?」

蛙「すまないね。老人は長く話をするのが好きなもんなんだよ。心は若いつもりだけど。手短には話せなくなるんだ、これが」

十分に若いよアンタはと思いながら浜面は話を促す

蛙「君の体細胞、単独で真空空間でも細胞分裂をつづけたんだ。強い放射線下でも活発な活動が見受けられた。α・β・γ・X・Nから各種の宇宙線と呼ばれるものまでね」

蛙「早い話、君、多分単独で宇宙空間に出る事が出来るよ。そういう意味では天使だね。奇跡を起こせるか分からないけど」

 

 

 

 

視覚外から伸びたワイヤーによって押し広げられた一瞬の間合いを利用して、騎士団長と呼ばれる男は危機局面から逃れる事が出来た

複数に仕組まれた罠自体は、彼の長い現場の経験から寸での所で回避した。だが、意識はどうしても戦闘から削がれる。能力的に補強されて且つ経験豊富な騎士であった為、聖人かつ神の右腕である人物となんとか渡り合う事が出来ていた。それゆえこの隙は大きかった

アックアの全身全霊の叩きつけに対し、効果的な迎撃体勢をもって迎えることが出来なかったのだ

彼は王家の魔術・霊装以外の攻撃性を無にする魔術を持っている。しかしこの王家の魔術・霊装の根源は天使長の力を模したものであり、神の力という同質の特性を持つアックアに通ずるのかという疑問があった

それを頼りに危機時に使って効果が無かった場合、致命的な被害を被ることになる。それゆえ使うのをためらっていた。だが、この状況ではそれを使うしかなかった。そのちょっとした疑問という引っ掛かりが災いしたのかもしれない

結果は、使う使わないの段階では無かった。メイスが、攻撃を完全に把握する前に、途方も無い力を溜め込んで突進してきたアックアによって、振り下ろされてしまったのである

騎士団長「ぐ、な………ッ!!!!?!?!」

受け止めた、と言えば聞こえはいいが、現実は厳しい。これで地面が通常の土やコンクリートなどの物で有れば、その衝撃は地面の崩壊という形で逃がすことで緩和される

だが下はアックアの力によって強化を受けた硬化した塩の大地である。つまり、強度も逃げる衝撃も彼の支配下なのだ

叩きつけられた莫大な衝撃は地面からの莫大な反作用をもたらす。簡単に言えば、アックアの全力のメイスとメイスに挟まれたようなものだ

それでも騎士団長は、彼の今までの経験は、返しを忘れない。浅くなった力をカバーする為に反動を気にせず大剣を振り払った

アックアとしてもそのレベルの反撃は、まさか膝を付いた状態で無理やりに繰り出して来るとは思っていなかったので、予想外の反撃として彼を少し退けた

アックア「まだそれだけの余力を見せ付けるとは、流石である」

彼らの間に空いた10年という時間はアックアを強くしたと同時に、その相対者も強くなるに十分な時間である。アックアからしたら、想像以上に騎士団長が強くなっていたとすると、間合いを取って様子を見るのは当然の反応といえる

その瞬間に意をしない方向からのワイヤーによる攻撃反応。仮に騎士団長が強くなっていたとしても、自分の全力は見た目の上では被害を与えていた

ならば弱っている内にもう一人の聖人を倒してしまうべきである。自分の霧やそこから繰り出す攻撃は彼らにとっては子供騙しで、いつまでも優位には立ち続 けることが出来ないのだから

取り残された騎士団長は、アックアからのダメージに加えて無理をしたことによって悲鳴を上げる体を癒すと同時に、例の全方位攻撃に対処していた

消えたアックアの狙いは分かっている。神裂である

恐らく自分が騙されたものとは違う形の策を使われているだろう

騎士団長(聖人であり、必要悪の教会所属の魔術師として一線で戦ってきた彼女だが……18という年齢ではウィリアムとの経験の差はとても埋められまい)

騎士団長(早く手助けしなければ。二手に分かれたのは愚策だった。奴の力量を見誤っていたか、この私が)

口内の血が、舌打ちすら満足にさせてくれない

霞みを掴むようにして、神裂のもとへギリギリの体で跳ぼうとする中で、衝撃と音を感じる。彼女の持つ長刀とメイスが交る音が潰えた瞬間に、人体を金属 バットで殴ったような鈍い音が、鳴った

衝撃で吹き飛ばされた霧の合間に、力なく倒れた女とそれを見下ろす男の姿があった

そして、その男は騎士団長と視線を一瞬だけ合わせ、英国領土側へ

キャーリサ「馬鹿な!!あの二人を下したとでも言うの?!」

 

押さえていた前線が、崩れた

戦域が一気に突出し、霧は一瞬で英国側へ達した。今までのように打ち合いの衝撃を伴わず、滑るように拡がっていく霧と塩の大地

『魔術艦の沈降を確認!!これは潜水ではありません、撃沈です!! 』

アックアに沈められた艦の報告通信と同時にキャーリサの前に騎士や魔術師が現れる。無論、彼女を守るためだ

傾国『少々予見が甘かった様ですね。それでは、講和条約会見のときにでも会いましょう』

整った顔を歪ませ、怒りを露わにする第二王女

傾国の女からの通信の根源を突き止めそれを破壊し、王家の剣を持って船の最前へ出ようとする

キャ「私の事などどーでもいい!!フランスが堰を切って雪崩れ込んでくるぞ!!全力で押さえよ!!! 」

彼女を止めようとした部下を怒鳴り付け、改めて戦域を確認する 霧の中を何かが大陸側から押し寄せてくるような錯覚があった

実際には全く変わらなくドーバーの海を部分的に覆っているのであるが、勢い付いたフランスの魔術師がその中を巨体を持つバイソンの群の如く突進しているのだ

集団戦の強みは、こういう場で本領を発揮する。少数の弱みもまた然り

傾いた士気戦力を前線で、肌身で感じたのは最前線の騎士団長達である

団長(これではとてもではないがウィリアムを追いかける余裕など……ッ!!)

意識の無い神裂を守る様にして、一人また一人とやられる味方戦力を覆う様にボロボロの体で剣を振るう

が、明らかに敵は強大化している。先ほどまで善戦していた有力な騎士達がやられ始めているのだ

団長(この耐久力、士気を強度に変換する魔術でも使っているというのか)

百年戦争時、イギリス側からすれば最大の魔女でありフランス側からすれば最大の聖女であるジャンヌ・ダルクの存在はフランス軍の士気を大きく高揚させ、快進撃を進める最大の要因となった

財政が安定化し、戦争に集中できるようになった事や戦線の伸びによる極所的戦力の低下や諸侯の結束力など諸要因はあるが、また彼女は祭り上げられた表象でしかないと言った説もあるが、その存在が士気を大きく高揚させ、イギリスを大陸から追い出すことに成功した事は確かだ

一人の英雄によって劣勢からの逆転という歴史的形式をなぞることで、その原動力となった士気をそのまま強壮化させる大規模術式がローマ正教にでは無くフランス側にあってもおかしくは無い

とにかく、騎士団長にできることは神裂を守り、一人でも多く敵を止めることだ

まともに回復魔術に専念することもできず、体に鞭を打つ

それでも少しずつ前線とイギリス領土との距離は縮んでいく

三分の二のラインまで後退する戦線

一方で敵に完全に囲まれてしまった騎士団長と逃げ寄ってきた部下数名、それに今だ意識の帰らない神裂。フランスの勢いを引き下げない限り、この絶望は止まらない

 

 

 

空気が薄く寒い高度まで飛び上がった半裸の垣根の視界の片隅に、飛行する旅客機が入った

巡航高度では無いことから、あの飛行機の有った周辺には必ず空港があることに気が付き、地面へ戻る

定規「しかし気持ち悪いわね、今の貴方。下りてきたのが天使かと思えばほぼ全裸の帝督なんて」

下りてきた垣根に対して悪態をつくが表情は先程の暗い物では無い

垣根「お前のせいだろーに、これでもコントロールしてるんだぜ?」

定規「はいはい、わかりました第二位様。まぁいいトレーニングになるでしょ。それで、ここどこか分かった? 」

垣根「ん、西方向に旅客機が見えた。高度も低いし、近くに空港があるはずだ」

定規「そう。規模にもよるけど、服売ってる店位は近くにあるでしょ。着いたらまず私が一人で貴方の服を買ってきてあげるわ」

垣根「助かるが、そのドレスみたいな趣味は止めろよ?」

定規「あら、天使様には似合うと思うわよ」

垣根「あぁ?まー好きにしろ。気に食わなければ俺が自分で買えばいいしな。つーか待ってる間俺は何をしていればいいんだ?」

定規「人気の少ない街なら隠れていてもいいでしょーけど、大都市なら、そうね。貴方、大道芸人でもしてたら?銅像みたいになって動かないヤツ」

垣根「おい、マジで言ってんのかよ? 」

定規「私はいいアイデアだと思うけど。猥褻物陳列罪にならなければいいわ。大丈夫よ。しょっ引かれてもちゃんと面会には行ってあげる」

垣根「分かった分かった。第二位サマのすげぇヤツをここの連中に拝ませてやるよ。で、金は?ないだろ?」

定規「あら、私のお小遣い稼ぎの仕方、知ってるでしょ?それに能力使えば和洋中全てのオジサマをパトロンに出来るのよ」

へーへーさすがでごぜーますね、と言いつつ、翼を大きく広げ、両腕を開く

垣根「それじゃ、お姫サン、いきましょーぜ」

定規「天使様の送迎なんて恐れ多いわね」

定規(少し角が取れたみたい。学園都市じゃなく、最初からもっと自由な場所にいたら私も付くことがなかったのに、可哀相な人)

まるで定位置であるかのように垣根の胸に抱かれ、二人は街へと飛んで行った

 

 

 

立場の真意が何であれ、米国第6艦隊はイギリスの味方である

攻勢ならなまだしも劣勢に陥り、イギリス国土にフランスが迫る状況下では何よりも優先して守らなければならない国際的立場だ

イギリスとしては不安定要素であるアメリカには極力戦闘に参加させず独力で戦いたい。戦後処理にしゃしゃり出てくるのは阻止したいのが実情だ

もし仮に戦闘参加するにしてもイギリス側から頼んだとういう形式ではなく、あくまでアメリカの戦闘参加意思による形式の方が良い

無論そのあたりは白兵戦闘参加中のキャーリサも分かっている事であり、姉のリメエアにも念を押された事であった

だが、アメリカは魔術後進国であり、最先端の学園都市を先進国とするなら、科学後進国でもあった

魔術もなければ超能力も無い、唯の一般軍事大国にこの戦いに介入できるほどの力はあるだろうか

キャ(有る訳が無いし。出てきても、肉壁か統率を乱す程度が関の山。だけど)

キャ(それでも構わない。この敵の高揚した士気を少しでも削ぐきっかけにさえなるならの)

ハーフラインで立ち往生しているはずの騎士団長の帰還の報告も無い

四分の一に引いた最終ライン付近まで前線が押し込められ、遂に銃弾が魔術師同士の戦いに介入する

どこからとなく、機関銃の掃射音が響く

アメリカ海軍遠征打撃群は陸上戦を想定した任務群である。規定された陸軍でもなければ海兵隊でもない海軍の陸上制圧戦闘想定部隊に加え、艦載の海兵隊も伴う

海軍という本筋から逸れた部隊である為、人数は他軍部に比べ圧倒的に少ないこの少数部隊を、こんな所で損壊させたくないというアメリカの意思を表見させる登場だった

キャ(ようやくのご登場だし。遅すぎるっての。他国の都合に付き合わされる立場は辛すぎる)

急に現れた勢力からの機関銃掃射に、しかし、フランス魔術師たちは一瞬だけ怯む

致命傷とまではいかなくとも、既定・想定されていない銃撃に一部の霊装は破壊されるなどの被害を受けた

無論、流れ弾は白兵戦を強いられたイギリス側の戦闘員を後ろから狙い撃ちすることにもなったが、致命傷にはならない

結局のところ、急襲的な銃撃弾幕であってもその程度の被害しか出せないのだ。一般的な軍事力は

そして魔術に比べ、初速の慣性で弾丸を飛ばすだけという簡易で安易な攻撃は一瞬で対応され、その効果は悲しくも無に近くなる

それでも、イギリス側は損壊した霊装を突くなどして一応は効果を表し、応戦の幅は拡がる

キャ(分かっていたが、第二大戦からのM2ではこの程度が限度。せめて劣化ウラン弾クラスの威力が無ければ敵を怯ませられない。けども、あんな代物をこんな近海で使われる訳には絶対にいかないし)

鎧に向けて石を投げつけているレベルまで攻撃能力が低下した米軍が居るであろう方向へ失望の目を向け、正面に迫る魔術師へカーテナと呼ばれる剣を持って

突き進む そして目標にした集団へ、本来ならば君主でない彼女が持っているはずのないカーテナ=セカンドを振るう

セカンドのもたらす絶大な威力を含んだ斬撃が小集団を襲う。当然のように弾け飛ぶ小集団。だがその飛びようは思っていた程度を下回り、再度立ち上がる魔術師

キャ「貴様らはゾンビかっての!!」

キャ(敵の勢いを止めることすら出来ない後方援護射撃のみとは。役に立たん!!役に立たんの、アメリカ!!)

直観的とも言うべきか、ここまでカーテナ=セカンドでも及ばない事から彼女は理解した。敵の援護術式は恐らく戦争の歴史とも言っていい大陸内の戦争歴史から逆転戦だけを抽出し、それらをモチーフとしてフランス国家のジャンヌ・ダルク伝説にまとめ上げたものであると

そんな膨大な知識量と技術量は当然、ローマ正教と言ったところだが、それをまとめあげ形にするのはとんでもない技量が必要だ

いわば必勝の魔術とも言えるその性能を発揮するには、それだけ高度な技量がいる。劣勢を逆転した歴史上の戦いのは、一つ一つに近しい物は有るだろうが全く同じではない。そんな物を纏めるには天才と呼ばれる魔術師がいくら束になっても無理だろう

教皇ですら無理であろう。技量があり、且つ人間離れした、それこそ天使のような能力を持つ者

キャ(神の右席、姿の見えない指導者。情報どーりの人間なら、有り得るし。開戦前にアレを見つけておいて良かったの)

立ち上がった小隊に止めの一撃を与え、生命を刈り取る。が、本当に死なす事が出来たかも不明だ

霧の中から、次の敵が現れる。有限なのだろうが、その数と霧の空間が、敵を無限大に感じさせる。相手の士気でも刈り取る効果もあるというのか

術式がこのままであるなら、押し切られる。だからと言って恐らく最後方で展開している術を止める術は無い。ならば前提である逆転術式に対して再逆転するしかない

キャ(馬鹿を言うな、そんな方法があるものか。あったら今ここで苦戦などしていないし!! )

彼女の脳内は戦闘と状況判断を両立させる。が、策は思い浮かばない。このまま奮戦して侵攻する敵を少しでも減らすことぐらいしかないか、と

その彼女の両サイドを極音速の電光が走った。電光は光。音速の比では無い。つまりこれは何かの物体が電光を帯びて高速で通過したのだ

そこまで彼女が気が付いた時、戦況にさらなる変化が訪れようとしていた

 

 

天使の名を冠したロサンゼルスの街を歩く少女があった

ボロボロのドレスを捨て、一般的には派手と言えるレベルだが彼女にすれば幾分も派手さのグレードを落とした衣類を身に纏い、片腕には今頃大道芸人の仲間入りを果たしているだろう男の為の衣類を持っている

学園都市の探査能力の程は高い。いくら外とは言えど、ロサンゼルス程の大都市ならば密偵が居てもおかしくは無い。派手にならないよう行動するならば、周りに溶け込む程度でなければならない

彼女にとってそれは若干不満だったが、とりあえずはほぼ全裸の天使に衣類を渡さなければ

物思いをしつつ歩いていると、行き交う人々、特にアメリカ特有の横にでかい人に当ってしまい、バランスを崩す

たまたま通りがかった紳士風の男性に受け止められ、転倒は防いだ

「すまねぇな、嬢ちゃん」「気にしないで、大丈夫よ」と流暢な英語の遣り取りで横にでかい男性の進行を促し、抱きとめてくれた紳士の方を向く

定規「ありがとうございます?」

?「気にしないでいい。良くあることだし、おじさんとしては嬉しいイベントさ」

定規「あら、良くあるだなんて言い方、子供相手にナンパです?」

?「いや、本当に良くあることなんでね。他意は無いよ。見たところ東洋人の様だけど、日本人かい?」

日本人か、と問われて、日本語で返答する

定規「良く分かるわね。おのぼりさんに見える?」

?「いや、こなれた感じはするよ。スラング混じりの英語もうまいし、街に良く溶け込んでいるんじゃないかな」

何か評価するような男の言い方に、思わず笑みをこぼす

定規「へぇ、公安の人みたいな事言い方をするのね」

?「ほぉ、スパイとかって言い方じゃなくて公安とはね。君はそういう仕事をしてるのかい」

定規「違うわ。パパの一人がそうなのよ。というか、まだ20にもなってないのよ。そんな仕事、出来ないと思うけど?」

?「いやいや、10を超えれば少年兵だっているんだ、子供という見た目を利用するのは特段珍しい事では無いよ。裏取引の運び人なんかは小遣い欲しさの子供が良く使われる。とある都市では警察組織の一員を学生がしているようだしね」

定規「偉く物知りなのね。でもお話がちょっと硬いわ」

?「あぁ、すまない。余計な話をしてしまったようだ。それじゃ、次は転ばないようにね。はやく服を持って行ってあげなさい」

最後の方はよく聞き取れなかったが、紳士的な日本人は一瞬で人ごみに紛れ、姿を消した

語尾の言葉に違和感を覚えつつ、少女は垣根の元へ歩む

電光を帯びた何か放ったのは、英国の騎士でも魔術師でもなかった

キャーリサが振り向いた先に有ったのは、米国旗のマークが胸元にある何か。極音速の銃弾によって裂かれた霧に垣間見えた米国軍の何かは思った以上に軽装で、大型のライフルしか残っていなかった

キャ(違う。これは軽装じゃ、ない。比率がそう見えさせるだけだ)

一見すれば巨人の群であった

学園都市の軍勢がアヴィニョンを襲ったときに使用された駆動鎧についての報告は、もちろん彼女に上がっていた

情報露出となるため使われたのは最新式の物では無いだろうが、学園都市内で外部向けに開かれる公開展示で見られるグレードダウンしたそれよりは、確実にスペックを上回ったものが使われていた様だった

そのフォルムは限りなく無骨で、高速機動をするようには見えないが、高機動・高火力・高耐性を兼ねている

だが、今キャーリサの視界にあるそれは、格段にシャープで、且つ大型だった

駆動鎧なら、学園都市の現行モデルより更に上を行く見た目のそれは、右手に巨大なライフルを持ち、左手に玩具のようなM2ブローニングを装備している

人間の首から上を切り落としたかのような機械の巨人は、右手のライフルから電光を帯びた極音速弾を的確にフランス側の魔術師へ向け発射していく。単発式だが、狙いは的確だ

しかし、カーテナ=セカンドの力を持ってしても一撃で昏倒させることは難しい程の耐久力を得ている仏魔術師達はそう簡単に沈黙したりしない

回避は不可能であっても、カーテナ同様、吹き飛ばされても立ち上がる

だがソレは飛び道具である。数回行って立ち上がる魔術師部隊を見て、吹き飛ばされ立ち上がる前に次の一撃を加える。酷い時にはまだ衝撃で飛ばされている体へ追加の弾丸を当てるという芸当を為した

圧倒的とは言えないまでも、集団戦闘をかき乱す程度の働きが可能な、つまり異常に強化された魔術師に対して対抗できる駆動鎧が、視界内に溢れる

飛び交っていた爆音や怒号・悲鳴が大量に打ち出される極音速弾の音でかき消される

無論、やられている側も簡単には引き下がらない。数と絶大な防御力で押していたフランス魔術師たちは、新たに現れた脅威へも攻撃を向ける

現れた機械の巨人は強化されたフランス側の魔術師達やカーテナによって強化されたイギリス騎士たちと遜色ないほどの機動性を持っているが、万能ではなく、しかしイギリス側が思っていた程にも弱くない

強力な援軍としての効果は有った

力関係という面ではローマ正教の部隊をも引きつれているフランス側の方が優勢であったが、現場に出ていたフランスの指揮官は胸元の米国マークを見て、怯む

「……各人に次ぐ、あの機械巨人には攻撃するな!!」「敵は攻撃してきているんだぞ?!反撃するなと言うのか!?」

「この術式下にあれば、死ぬことはまず無い!!イギリスの連中だけを狙うんだ!!」「冗談じゃない!!俺たちローマ組は勝手にやらせてもらうぞ!!」

「 現場の指揮権はこちらにある!!指示に従え!!」「電磁波だ!!あのデカブツに高レベルの電磁波攻撃!!連携を削ぐくらいは出来るはずだ!!」

丁度半々程の勢力で構成されていたフランス・ローマ正教混成軍の目標はそれぞれ異なっていた。フランス側は報復、ローマ正教側は従わないイギリス勢打倒

一見して良く似ている目標は、少し視点を変えると全く異なる物となる。アメリカの扱いについてだ

フランスからすれば、戦火を対アメリカにまで拡げれば、有利な形での戦争講和は取りにくくなり、国内アメリカ資本の総撤退を招く。そんなことになれば唯でさえ移民問題に端を発する雇用問題が、経済悪化で深刻化するのは目に見えている

ローマ正教からすれば、根本的に新教・旧教の長い対立問題もあるに加え、信仰の力を衰退させた科学のトップであったアメリカは、その自由主義という根本的に旧教に相容れない事もあって、究極的には打破目標である。そんな連中から攻撃されて反撃が出来ないというのは、納得できようはずもない

前線で、強力なアメリカ部隊という全くのイリーガルな壁にぶち当たったフランス・ローマ混成部隊は、連携が取れなくなる

そして何より彼らの強力なバックグラウンドで有った術式に、亀裂が入ることとなる

主体となった百年戦争の終端、実はフランス勝利の裏に危険なバランス問題があったことは有名だ。かなり簡潔にいえば、敗色が濃くなったイギリス は土壇場までフランスのとある有力諸侯に引き抜き工作をしていた。結局その諸侯が拒否したため、イギリスは挽回出来なかったが、歴史のifがあれば、フランスは内部崩壊に陥っていた可能性は否定できない

有力諸侯=ローマ正教魔術師部隊として置き換えれば、それは裏切ではないが、統一意志から逸れたことによって術式からの力供給は不安定化した

イギリス側は知ることは無いが、ジャンヌダルク伝説でありレコンキスタ成功であり十字軍の系譜でもあったその必勝の術式は、効果が非常に強かった反面、内部崩壊に非常に弱い性質を持っているのである

言ってしまえば、魔術戦には介入できないアメリカ軍という前提で成立していたのだ

そして、また状況は一変した

敵前線の後退である。押されっぱなしであったイギリス騎士団が、魔術師が、米軍機兵部隊の援護の元、反攻

連携もうまくとれず、力の供給が下がり、個々の力も下がった混成部隊は多くの死傷者を出し、前線が後退を始める

一時期はイギリス国土にも及ぶのではないかと思われていた前線は、戦域中央で立ち往生していた騎士団長の元まで後退した

既に彼と足元に倒れる神裂のみとなり、体の随所に夥しい出血・骨折・矢傷・etcを負いながらも奮戦し、傷よりも遥かに多い斃れた敵の山を築いていた彼の元へ複数の騎士と米機兵が到着

団長「……助かった。彼女を、頼む!」

敵から飛来する複数の杭のようなものを迎撃しつつ、彼は部下に命令する。その体には血の赤が滲んでいた。返り血だけではないだろう

「団長もお下がりください!このからは我々が引き継ぎます!!」

団長「私の体を気遣ってのセリフだろうが、まだお前たちには劣らん。敵が国土へ逃げ帰り、二度と我々に反抗する気が無くなるまで戦い抜くつもりだ!」

「しかし……!!」

米機兵が神裂の体を抱えて高速で下がるのを見て、3mの大剣を構えて敵陣へ飛び込む彼を部下は止める術を持たない

団長「安心しろ。この程度の敵に後れは取らせん」

一太刀のもとに複数の人間の上半身と下半身が永久にお別れすることになり、その太刀筋は止まることなく敵を刻み、フルンティングは切れ味を増していく

ボロボロの団長に遅れまいと、他の騎士も続く。士気も完全に逆転した

 

 

 

 

最初に言っておくけど、立場上直接支援は出来ないわよ、と述べて、夕方に麦野達は佐天にアドバイスをした

準備に時間をかけ過ぎてはいけないという事

次の行動に出るときは間髪いれずに動く事

常に相手を騙すように考えて行動する事

そして自分の立場を最大限有効活用する事

具体的な手段や手口は教えてもらえなかった。彼女たちの立場を考えれば、当然であろう

暗部として活動できるということは、それだけの力を都市側に認められているという事。逆に言えば、それだけ脅威として映っている訳である

監視下にあるのだ。彼女たちが気軽なファミレスなどを利用するのはそう言ったものから目を隠す為の行為の一つなのだろう。4つのアドバイスも、恋愛相談という形で佐天には伝えられた

ただ、一つだけ有益な情報を教えてもらった。それは、都市の上層部が勢力争いで入り乱れ状態になっているという事

私達もあの白いのには手を焼いたから、消えてくれるならありがたい。ただ高確率で死ぬことになる、本当にするなら覚悟しておけ、と言い残した彼女らと別れた

そして完全下校時間がとっくに過ぎた深夜に、彼女は電車の最終便で第一学区まで走った

制服では目立つと思い、私服で肩掛けの少し大きめな鞄を持って深夜を歩く。急に路地裏に入ったり、適当な人物をわざと追いかけてみたり

何がしたいのか分からない行動であるが、これには意図があった

爆発現場の中央に居て、更には長々と暗部の連中とファミレスで話し合った。この立場を利用したのだ

佐天(今のアタシには、監視が付いてるはず。持ってる手掛かりが中央タワーの地下なら、そこまでたどり着く為に、それを利用するしかない)

わざと大きな鞄を持って深夜の第一学区を歩けば、その怪しさは滲み出る

あらかじめ調べた裏路地を遠回りする様に歩き、中央ビルへ

しかし、直接向かう訳ではない。わざと撒くかのように、途中まで確実にビルに向かうかのように歩いておいて違う急に方向へ向かうのを繰り返す

そして途中で陰に隠れ、完全に動かない

この辺りにはカメラも無く、まともに路地に入って探さないと見つけられない場所だ

どういう形であれ、ここで消えたなら、直接探す必要があるハズだ

佐天(ここまでやって誰も来なかったら唯の変質者だよね。ま、駄目だったら駄目で次を考えるしかないかなぁ)

鞄と体の密着面に隠したナイフに手をかけて、待つ

何かの音が聞こえた

僅かだが、間違いなく。心臓の鼓動の方が良く聞こえるのではないだろうかというレベルだが、この静かで暗い空間で確実に聞こえた

ピタ、ピタ、という擬音が正しいだろうか、これだけ小さな音が聞こえるのだから、間違いなく近くに居る

ここにきて、緊張状態の中で、当然10代前半の少女はパニックになりそうになる

猫とかだったら良いのにと、思う一方で、考えてきたパターンが使えるように、心を必死で押さえつける

良く分からなかったが、男性のようなフォルムが通り過ぎた

佐天(どうしよう。このまま飛び出してナイフで脅しても、相手が強ければ意味無い。堂々と、見つかるまでここに居よう)

ナイフを直ぐに振れるように少しだけ鞘から取り出す。だが誤って指で刃を押さえてしまう。切れ味の良いそれは、簡単に少女の指肌を裂き、血をにじませる

仕方なくその指を口元に持って行き、なめとる

唇の一部とその下の肌に鮮やかな紅が残るが、少女には分からない

痛さが、血の味が、彼女を冷静にさせた。同時に自分が殺した自分の血の味で有るかのような気がして、その記憶を蘇らせる

引き返して来た男が、建物と建物の間の僅かな空間に身を隠した佐天の方を向く

暗黒という程暗くないその空間に、ボヤリと浮かんだ少女の覚醒しきっていないような表情と、唇周りに付着した紅色が、その男をゾクリとさせる

その男の方をゆっくりと見上げる

佐天「ようやく来たんですね。さんざん待たされましたよ。ま、良いです。本題に入ります。外部からのお届け物があるんですが」

「わざわざ接触を狙った理由はそれか。すまんが俺は下っ端なんだ。外部と言われてもな」

佐天「……そうですか。誘った人を間違えたみたいです。まぁ、いいですよ。雇い主が東の大陸方なんで、あなた方とは多分対立してるハズですし」

東の大陸、という言葉を聞き、男は僅かに表情を変えた。その変化を見落とさない

佐天「あぁ、すみません、口が滑りました。私は唯の運び屋なんで、外人連中と直接的な関わりは無いんです。使えないなら、他の手を使いますので、それでは」

「ちょい待ちな。わざわざ外部の人間と都市内部の人間の密取引のバイパス経路を目の前にして逃がすと思うか? 」

男を背に、笑みを浮かべ、そして元の表情で振り返る

佐天「んじゃぁ、捕まえます?こういうのは複数ルートを作って、大体はダミーなのが常識でしょう。これがダミーならアタシは唯の価値の無い無能力者ですよ?」

昔見た映画の内容から引っ張ってきた事を言ったが、あながち間違いではないだろうと適当を言った

「ずっと手で刃物か何かを握ってるやつの言う事かよ」

佐天「だから唯の無能力者と言ったでしょう。こういうものちらつかせれば大体のスキルアウトの連中は逃げますからね。用心ですよ」

「それじゃ、ここで俺が逃げたらその辺のスキルアウトと変わらねえな。ちょっと待ってろ、上と掛け合ってやるよ」

離れた所へ行き、男は電話をかける

つまりの所、彼女は利用したのだ。管理側とすれば、性質上外部との裏取引は見逃せない。だが、ここで佐天なんぞを捉えても得るものが無い可能性が高いのだ

ならば、彼女を泳がせて標的からあぶり出した方が得るものが大きい。そう考えて彼女は利用した

この状況のもう一つの要因として、彼女が出したアメリカを意味させる言葉がそれに当る

少女にとっては思いの外であるが、この学園都市版公安とも言える管理組織のトップを牛耳っている統括理事員は反アメリカ派なのだ

そして良く考えれば不自然である彼女の発言も中学生らしい軽率さと判断してしまった、この追手の男が手柄欲に踊った結果だ

つまり彼女は幸運だったのだ

佐天(第一段階は、クリア。でもこんなところで浮かれる訳にはいかない)

今度は刃物で自らの皮膚を傷つけ、血を舐めとる。血の味がまるで死者の静かな怒りと憎しみを伝えているようで、彼女を冷静にさせる

電話を終えて、男が戻ってきた

「出来る限り協力してやることになった。必要な物があれば言ってくれ」

佐天「ありがとうございます。それじゃ、何か武器とか有りますかね。ナイフ一本じゃ、すこし心細くて」

「 拳銃程度なら幾らか用意できるぞ。ただ、ここには無いからちょっと機材を取りに行かなきゃならん」

佐天「それじゃ、まずはそれを貰っていいですかね」

「拳銃と言っても大きいからな。隠し持つためのホルダーなんかも用意していいか」

佐天「この上着の下に隠せるようなら、是非是非」

なんとなく、そのホルダーを持たせたいという理由が分かった

恐らく、発信器の類を装備させたいのだ

佐天(映画とかなら、アタシが標的に接触したときに襲撃とかするんだろうな。ついでにアタシも口封じで殺されたり)

佐天(この人らも馬鹿だよね。そんな簡単に殺される訳にはいかないから、銃なんて欲しがるのになぁ)

馬鹿とは言えど、そういう組織に所属している目の前の男の動きを観察する

カメラの位置を把握して、無駄なく目立たず動く。それに黙ってついていき、異常な集中力をもって技量を盗もうとする。無論、その原動力は自らに流れる血だ

 

 

米機兵を伴ったイギリス側が戦況を好転させ、逆にフランス側を追い詰めようと三分の一ラインまで来たところで、戦争の原因となった空中の陣が光を纏いだした

その光景を、英仏両軍とも驚いた様子で見ていた

今度は一体、何処へその刃を向け、どこの町を焼くのか。フランスは吠えた

騎士団長と共に前線で戦う第二王女もその光景を霧で霞む海の上でそれを見上げた

キャ(あれがまたフランスの国土を焼けば、フランスもなりふり構わなくなる。そーなればこの戦況もまた一転しかねない)

今でこそ優勢だが、自らの周りで奮闘する自国勢の姿はどれも所々に傷を負っている

前線から下がる部下も増えた。今一度逆転されると最早再逆転する目算は立たない

キャ(私ほどもあろー者が、神頼みとはな。情けないの)

キャ(自国側に被害が出た方が良いと願うのは、これっきりにしてほしいし)

陣を覆う雲が、眩い光と共に中心から裂けた。光線が、射出される

方向は英国側、だが

キャ「あの方向は……まさか?!」

思わず、攻撃の手を止め、ワンテンポ遅れて轟いた音に耳を傾ける

恐らく入るであろう連絡の為に前線から下がった

少し前線から離れた所で、予想通り通信が入る。耳に下げたイヤリングが振動して聞こえるこのラインは王家内のものだ

リメエア『貴女にも見えたでしょうけど、あの陣からの攻撃があったわ』

キャーリサ「こっちからも見えた。それで姉上、どこへ落ちたの? 」

リメ『米国海軍第6艦隊旗艦マウント・ホイットニー及びその周辺に展開していた駆逐艦、計7隻」

キャ「ということは、この戦いは」

リメ『つい今しがた母上と米仏大統領間で無条件停戦と講和についての会談が始まったわ』

キャ「無条件、だと!?ふざけるな!!あと少しでフランスの国土まで届くと言うのに、ここで退いては戦った意味が無いし!!」

リメ『良く戦況をごらんなさい。既に米機兵団は撤退を開始してるのではなくて?』

熱くなった自分を押さえて今一度前線に上る。一時的に霧をはらうと、確かに米の駆動鎧部隊は前線から消えていた

こうなってくると不利なのはこちらだ。態勢を立て直されて、また敵が強力になってはこちらの総崩れもおかしくない

キャ「……了解した。後は姉上のフィールドに任せる」

リメ『もちろん。それが私の役目なのだから』

そして王女は全イギリス騎兵・魔術師並びに海軍へ音声を飛ばす。この霧では撤退信号など見える訳も無い

キャ「ここまで押せば十分だ!!奴らも我々の恐ろしさを理解しただろう!!全軍撤退せよ!! 」

英国軍が退く。防衛戦で攻勢という状況下での撤退は、形式的には勝利だ

怖いのは追撃だが、同時にフランス軍にも撤退のサインが出たのだろう、フランス側も後退を始める

そうなると争う理由も消滅する為、ローマ正教隊も引き上げる

終わり方としては両者とも地上拠点を制圧し、有利条件下で講和・明け渡しと言う形式が最上だったが、こうなっては仕方が無い

本国を守りきった英国の勝利・侵攻に失敗したフランスの敗北だ だが、アメリカ主導の無条件講和という事で両国の面子は立つ。勝利したが得る物は無いイギリスと敗北したが失うものは無いフランス。両国魔術戦力が大きな痛手を負っただけの痛み分けだ。アメリカも失うものがあったので、三者全員の痛み分けもある

表向きには、ミサイルを用いない艦隊戦という訳のわからない状態は戦ったとは言えないので、両海軍の極端な接近による睨み合いと簡易な砲撃戦

つまり小競り合いという結果で終わることになる

この結果は、資金干上りで早期に終結を願っていたローマ正教側諸国にとっても受け入れられるものであった

だが、大きく評価の変わった国がある。アメリカだ

一般的な軍事力しか持たず、大規模な魔術戦では戦いにならないと思われていたところに、学園都市製とは異なる駆動鎧部隊で英国の勝利を導いたとして核以外の超戦力として認められた

科学側である駆動鎧の良いところは万民に隠す必要が無いことだ。魔術は間違い無く混乱を導くので公開は出来ないが、科学進歩のはての技術ならば問題無く万民が受け入れることが出来る

古き超大国の保有する強力な一般戦力の告知は、さらにローマ正教の相対的戦力低下を招いた

 

 

 

まだ日が昇るにはまだ時間がある時刻に、第一学区の行政トップである中央タワーの前で少女は車を降りた

腰にはナイフ、左腋にはホルダーに入った銃を装備して、警備員用の出入り口から借りたカードキーを使って中に入る

目的地は一般に公開されている地下変電施設の更に下

エレベーターを使えばすぐだろうが、直通の経路は無いかもしれない。複数の経路の可能性を感じさせる程度にこのビルは大きいのだ

佐天(まずはアテを見つけないと、迷った挙句見つかるだけだよね )

あらかじめ部屋のパソコンで調べてきたマップを思い出しつつ、エレベーターへ向かう

夜になり、一定の施設を除いて真っ暗で人気を感じさせない屋内は嫌に無機質だった

施設中央に走るエレベーターまで夜間警備に当たる人は見えなかった

佐天(ここまで来て誰も居ないってことは、警備のおじさんとか無しでカメラなんかで死角無に監視してるってことか)

佐天(だとすると、誰も何もアタシの前に現れないってことは夜間にこう言う感じに人が来るってのは珍しい事じゃないのかな)

エレベーターに借りているカードを差し込み、行ける範囲で最下層に向かう

行ける先はやはり変電施設が止めだった

しかし規模が大きい。地下の巨大な空間に、巨大な発電施設が丸ごと入っているようだった

近寄って良く見ると映画や漫画で良く見る核のマークが描かれていた

佐天(変電に核って必要なのかな?ここで発電してるって言ってもおかしくないなぁ、これ)

コンコンと音を立てて核のマークが描かれていた場所を叩く。意味も無く音が響いた

時間は有限だ。いつまでもここに居ていい訳じゃない。仕方なく周りの壁にそって歩き、怪しいところは無いか調べる

時間を削って調べた結果は、何もおかしなところが無い、というものだった

佐天(おかしいな。もしこれが変電施設じゃ無く発電施設なら、工場や研究所があってもおかしくないのに)

佐天(いや、ちょっと待ってよ?研究にせよ工場にせよ、必要な物は電気だけじゃない。大量の資材が必要)

佐天(となると、いくら大きいとはいえ、中央エレベーターだけで必要物資が供給出来るわけがないよ)

佐天(思い出せ、佐天涙子。この建物の近くに資材を運び入れるのに十分な大きさが合りそうで、且つ地下へ大きな口をあけている場所……)

佐天(資材の搬入って言ったらトラックと列車。トラックって言えば、うーん、車?車なら搬入路。いや車って言えばここの職員だって使うよね)

佐天(職員が車で乗り入れるなら駐車場が必要……駐車場だ!!停車所から直で資材を運ぶラインがあった方が、いや工場ならそれが普通でしょ)

佐天(確かここの周り……じゃない、この辺一帯の施設の為の巨大な地下駐車場がまとまって北にあるじゃん。そこだよ、そこから搬入してるんだ!! うわぁ、かなり時間を無駄にしたっ)

 

 

 

ほぼ全裸で、本人曰く昇天する天使のポーズとして、片足で立って両腕を僅かに開いて首を少し上に傾け両目をつぶった、自称天使の人間銅像を全力で演じていた垣根を手に入れたプリペイド式の携帯端末で隠し撮りした後、心理定規の能力を持つ少女はその男の元へ駆けよった

定規「へぇ、まぁボチボチってとこなんじゃない?」

垣根の前の箱に溜まった幾らかのドルを持って、少女は垣根の体を引っ叩く

垣根「お、よーやく帰って来やがったか。やっぱり駄目だな。股間周りを隠す為に羽根を集め過ぎて、キワドイ派手さに欠けたか」

定規「なにもそこまでしなくても、適当でいいじゃない。そーゆー趣味に目覚めたの?」

垣根「周りの同業者の完成度に合わせないと逆に目立つだろ?ここの奴らはヤベェクオリティをしてるからな」

定規「そ。まぁどうでも良いわ。とりあえずこれを着なさいな」

垣根「サンキュ、って随分と良いところで買って来たんだな」

定規「お金なんていくらでも手に入るからね」

垣根「汚れた金なんてすぐに使うに限る。って、案外普通の趣味じゃん。悪くないぜ、こーいうの」

少女は、殆ど着終わった垣根を少しもったいなく思った視線を向ける

定規「ホントはね、もっと私の趣味に合わせたのも買ってこようと思ったんだけど、変なオジサマに会っちゃって」

垣根「お前が会ってるオジサマなんつーのは、俺に言わせりゃ大概変人だがな」

定規「貴方の中身は一般人と遜色ないからそう思うんでしょうけど、その変人連中とは少し違う意味で変なんでしょうね」

垣根「おー?まさか惚れたか?お前ぐらいの歳の餓鬼ってなぜかオッサン趣味の気が強いんだよな」

定規「そんなんじゃないわ。ま、確かに変な魅力はあった。でもそういうのを抜きにしてよ。もしかしたら、私の上司と関係があるのかもしれない」

私の上司、という言葉で垣根の眼が変わる

垣根「なんだと?」

定規「厳密には分からないわ。話を若干振ってみたけど、かわされた。話を終える動きを見せたら向うから終わらせたし」

思う処があったのか、垣根は服の入っていた袋をひっくり返す。一枚のメモを取り出した

垣根「そいつは、俺の事を言わなかったか?今全裸だとか銅像してるとか服を着ていないとか」

定規「そういえば、最後に服を何とかとか言っていた気がするわ。女の私がブランドの男性側の袋を持ってたってのも有るんでしょうけど」

垣根「……やられたな。もう監視が付いてやがる」

小さなメモを少女に見せる。そこには時刻と英数字の羅列が書いてあった

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