上条「・・・・・・六軒島?」2

――打ち止めは"魔女の手紙"を読み上げる。いつもの子供らしい雰囲気は何処にもなく、はっきりと澱みなく。そう…まるで魔女の様に。
 その普通でない雰囲気に誰もが口を閉ざし、静寂が部屋を支配した。


全テヲ回収スル、右代宮家顧問錬金術師、黄金ノ魔女・ベアトリーチェ、碑文ノ謎……


頭に引っ掛かる。
何に?どうして?
そうだ、私は聞いたんだ。



【魔女伝説連続殺人事件】



初春さんがさっき言ってた話。
もしかすると……。

 

 

 

紗音「あ、あの…!それは何処でいただいたものですか……?」


打止「…バラ庭園だよってミサカはミサカは答えてみる。傘とね、一緒に貰ったの。みんなが揃ったら読み上げなさいって…あれ?これさっきも言ったかもってミサカはミサカは首を傾げてみたり。」


――その言葉を皮切りに、皆は話を始める。問答が始まる。



麦野「…ねぇ、最終信号。そのベアトリーチェって誰?ここの使用人の名前?」

打止「違うよってミサカはミサカは否定する。この部屋の扉を開けるとね、肖像画があるでしょ?あれが"ベアトリーチェ"。」

麦野「………源次さん、その蝋印は本物?」

源次「……はい。確かにその封筒の蝋印は"右代宮家当主の指輪"によるものでございます。」

麦野「そう。ありがとう。」

土御門「じゃあ、良いタイミングだからそのまま質問責めだにゃー。……まず一つ、その指輪"家督を受け継いだことを示す"もの、"回収の手始め"って言ってたけど価値はあるモノなのかにゃー?指輪が二つある可能性は?レプリカ存在の可能性は?」

源次「ございません。指輪は一つきりでございます。」

土御門「…なるほど。」

海原「……では僕も。その指輪は"金蔵さんにとって"、価値あるものだったと思われますか?」

紗音「も…勿論です。お館様は常日頃から指輪を付けていらっしゃいましたし、他人に貸すなんてことは一度もありませんでした…。」

海原「わかりました。」

上条「あ…、あのさ、指輪の話の前に聞いておきたいんだけどその前回"って書いてあったと思うんだけど、それは何のことだ?」

御坂「………!」

初春「………。」

打止「………。」

一方「…それは俺も気になった。それか、その手紙自体がハッタリののオンパレードかァ?」

垣根「もしハッタリじゃないってなら昔、この島で"惨劇"と呼ばれるような事件があったって考えるのが普通だな。」

滝壺「……かもしれない。それなら"回収"っていう言葉にも納得がいくから。」

絹旗「それはそうかもしれませんね…。」

麦野「……で、さっきからあんた達は何糞マジメに議論してんの?……議論なんて意味ないわ。仮定もifも。事実と真実さえ分かれば良いのよ。それだけが謎を解く鍵になるんだから。」

雲川「それには同感だけど。まあ一番早いのはそこにいる使用人に聞くことだろうがな。」

姫神「それも。そう。」



上条「ということなんだけど何か知ってますか?紗音さん、源次さん。」



源次「申し訳ございません。お答えできかねます。当主より禁じられておりますので。」

紗音「一つ申し上げますと、私達は何も知りません。知らない事は、お答えできませんので…。」




――"何も知らない"わけがない。何も知らないのなら、どうして手紙に動揺しない?知らないのであれば、動揺する。だから必ず。この島では連続殺人はあったのだ。


雲川「どうやら本当に、その手紙はお前達の予想外だったみたいだけど。何も思わないか?」

源次「………。」

一方「そンな事よりよォ…このクソガキに傘と手紙を渡したのは誰だ?……面倒な事にならない内に名乗り出ろ。さっさとしねェと殺すぞ。」

上条「…ア、一方通行!」

一方「…大体よォ、さっきから何なんですかァ!?嫌々連れて来られたら、雨の中歩き回るハメになって、次は魔女だの黄金だの!!!」

御坂「こ、子供の冗談じゃない…打ち止めだって悪気が…」

一方「悪気なンざどうでも良いンだよ!!!!この俺に碑文の謎を解けだのオマエ等は何様だコラ。俺は寝る。謎解き遊びはオマエ達三下共だけでやってろ!クソったれが!!」

打止「ま、待ってってミサカはミサカは!お、怒ったならちゃんとミサカ謝るから……!」

一方「来ンな!……打ち止め今日は三下の部屋で寝ろ。じゃあな。」

 

 

――椅子を蹴って立ち上がり、部屋を出る。
 怒りが込み上げてくる。全部面倒臭い。ガキにあたるなんてみっともない。…分かってる。だがここに来てからクソガキの様子がおかしい。魔女なんざいるワケがないん。
 1986年の事件とやらは、ただの右代宮家の醜い遺産相続問題の成れの果てだ。
 学園都市の…曲がりなりにも能力者の癖にコイツ等は何を信じてやがる。オカルトなんざ存在しない。そんなものは、ただの都合の良い恐怖の幻影だ。
 碑文が解けなかったら"全てを回収する"?使用人は黙秘の連続。当主とやらは姿を見せる気はねぇし、碑文の謎を解かせる気が無いとしか思えない。
 なら、何の為に俺達をここに呼んだ?安くはない金まで払って。碑文通りの殺人事件をもう一度ってか?
 やってみやがれ。……出来るもんならな。……本当にどうでも良い話だ。




ゲストハウスの部屋に戻る…部屋のテーブルにはコインが置いてある。俺はこんな物知らない。クソガキの物だ。蠍の絵が描かれたコイン…。またオカルトか、今度は魔術か?無性に腹が立ち、コインを引っ掴んで投げる。カラカラと床を転がる音が聞こえる。
 何故だか眠い。例えるなら身体が鉛のようだ。…もう、寝よう。

 

 

 

 

―――

 

結標「…あいつは何に怒ってたのかしらね?」

土御門「さぁな。日頃の鬱憤ってやつじゃないか?」

海原「鬱憤…ですか」

土御門「基本的にアイツは我慢に慣れてないからな」

結標「ま、そりゃそうね。学園都市序列第一位様は我慢なんてする必要も機会もなかっただろうしね」

海原「良い機会なんではないですか?一方通行さんには」

土御門「かもな。まあそんな事はどうでも良い。話を続けよう」


上条(この三人は一方通行とどういう関係なんだ……?)

源次「…お話しようと考えいたことの全ては、打ち止め様が読み上げた手紙の通りでございます。ここにいらっしゃってから一度は皆様、屋敷を回られたかと思いますが、ここで碑文を解くにあたっての注意事項をご説明させて頂きます」

紗音「一つ、六軒島内は自由に動いていただいて構いません。但し、私たち使用人は六軒島内の地理についてお教えすることは出来ません」

源次「一つ、島内の鍵の掛かった場所には"原則"立ち入り不可です」

紗音「一つ、本館と渡来庵、通称ゲストハウスは各部屋ご自由にお立ち入りしていただいて構いません。但し、お館様のお部屋と【魔女の貴賓室】は立ち入り厳禁となります」

源次「……後は、皆様のお泊りになられるお部屋の鍵は皆様がお持ちになられている一部屋につき一本の他には我々の持つマスターキーしかございませんので、くれぐれも紛失なさらないようお願い申し上げます」

紗音「…何かご質問はございますか?お答えできるものであれば、お答えさせていただきますが…」

麦野「質問なら皆、山ほどあるわよ。少なくともあんた達が寝る時間もなくなる程にはね。まあでもここは公平に一人一つずつってのはどう?ゲームのルールみたいで面白い趣向でしょ」

垣根「良い案だな。一方通行の分はどうする?」

麦野「いないやつは無視よ。無視。大体、もうあいつ解く気無いでしょ」

土御門「だにゃー」

垣根「順番は?」

絹旗「最初は超言い出しっぺの麦野からどうぞ。そこからは時計周りで超よろしいですか?」

海原「麦野さんの次が僕で、最後が絹旗さんという訳ですか。構いませんよ」

麦野「答えられないものは"黙秘"でも構わないわ。じゃあ一つ目、黄金はこの島に存在するの?」

紗音「…黄金は、"黄金郷"に確かにございます、麦野様」

麦野「……」



海原「次は僕ですか。……では二つ目、魔女はニンゲンですか?」
源次「魔女は魔女にございます」


結標「碑文の謎を解けば、ベアトリーチェに会える。その解釈で良いのかしら?」

紗音「黄金郷へと招かれれば、ベアトリーチェ様はきっとあなた様に祝福をもたらしてくださいます」


土御門「俺はパスぜよ。さっき質問したからな。それで一つだ」

姫神「じゃあ。私。あの碑文は誰が作ったの?」

源次「右代宮金蔵様にございます。肖像画と共にお作りになられました」



雲川「ふぅん。じゃあ、それは"何の為"に?」

紗音「……お答えできません」

雲川「"答えられない"理由は?」

紗音「…!それも同じくです…」



打止「ミサカはパスだよって言ってみる。みんな難しいことばっかり言ってて、ミサカはミサカはよく分からなかったり…」



御坂「あ…じゃあ、さ、殺人事件っていうのは…どうして起こった…の?」

紗音「お答えできません…」



上条「俺の番か。うーん…じゃあ、その黄金ってのはいったいどれくらいあるんだ?」

源次「約10tだとお聞きしております」

上条「じゅ…10t!?」

初春「私はないのでパスです」



垣根「俺は…そうだな。確認だ。学園都市に依頼を出して六軒島に俺達を呼んだ提案者は誰だ?」

紗音「…お館様でございます」

垣根「なるほど」



滝壺「私達は、……碑文はいつまでに解けばいいの…?」

源次「…碑文通りでございます」



絹旗「では…1986年の事件について超一つ。犯人は逮捕、もしくは超特定されていますか?私はその時の事件というのを知りませんので」

紗音「………」

 

 

6月20日23:04


麦野「さ、これで一周したわね。あとはもう各自でってことで良いかしら?」



――麦野さんのその言葉でこの場は一旦解散となった。源次さんと紗音さんはお茶を入れ直すと言って、キッチンの方に戻って行った。
 そういえば、さっき気付いたけど紗音さん、薬指に指輪をしていた。あれはダイヤかな。その話を御坂にすると、なぜか顔を真っ赤にして私も貰ってみたいって言ってたから、海原にでも頼めばくれるんじゃないかって言うと電撃を飛ばされた……不幸だ。



打止「うー、ミサカもう眠いかも…」

垣根「そろそろ部屋に戻るか、打ち止め?」

打止「そうしたいかも…夜更かしはあんまり慣れてないのってミサカはミサカは…くたりー」

垣根「ここで寝ちまうつもりか…」

 

――上条!と俺を呼ぶ声が聞こえた。どうやら打ち止めが寝てしまいそうだから部屋に連れ帰るそうだ。俺は鍵を渡して一緒に戻ろうかと尋ねると、垣根は首を横に振った。



土御門「垣根。部屋に戻るのか?」

垣根「ああ。打ち止めがもう眠いんだと」

土御門「そうか。俺達今から推理大会なるものをしようかと思うんだが、お前もどうだ?」



――"推理大会"とはようするに碑文の謎解きってことなんだろう。……それにしても、どうして土御門達はあんなに謎解きに必死なんだろうか?まさか本当に黄金があるとでも思っているのだろうか?



垣根「あー、そうだな…今日はもう遠慮しとく。またゲストハウスから雨の中こっちに来るのは面倒だしな」

 


――そう垣根は苦笑しながら言うと打ち止めを抱きかかえる。なんというか親子のようだ。こんな事を垣根に言ったら笑うのだろうけど。するとそれに続くかのように何人か立ち上がる。



麦野「私らは帰るわ。今日は珍しく早くから起きて来たから、もう限界」

絹旗「私も超参加したかったです。また明日もやるならぜひ参加超させていただきます」

滝壺「うん…私も、二人を部屋の鍵開けてもらう為だけに起こすのも何だし、帰るね」

土御門「そうか。じゃあまた明日」

御坂「おやすみなさい。麦野さん、絹旗さん、滝壺さん、垣根さん、打ち止め」

――手を振りながら彼ら5人は食堂を後にした。



土御門「さて、カミやん達はどうするにゃー?人が多い方が、俺達としては助かるんだけど」

上条「俺か?そうだな…今抜けるのも何だし、たぶん聞くだけになるとは思うけど参加しようかな…御坂達はどうする?」

初春「私は参加させていただきますねー。面白そうですし」

御坂「………じゃあ、私も少しだけ…」


土御門「歓迎ぜよ、お嬢さん方。向こうのお二人さんはどうするにゃー?」

姫神「私も。参加させてもらう。先輩は?」

雲川「私の意見は聞いても無駄だと思うけど。お前達じゃ理解できんよ」

土御門「余裕発言だにゃー、雲川先輩。もう碑文の謎は解けたとでも言うつもりかにゃー?」

雲川「まさか。ただの国語力の問題だけど。じゃあ一つだけヒントをやろうか。暗号っていうのは何でもそうだ。"最初さえ見付けられたら"誰にだって解けるんだけど。ヒントが合っても解けない問題っていうのは、そのヒントが"途中経過を示している"から約に立たない。…言ってることは、理解できているか?」

土御門「……というと、あの碑文だったら【故郷を貫く鮎の川】ってところが重要ってことか?」

雲川「さぁな。それが"暗号の始まり"だったらの話だけど。私は一人で思考しているから、勝手にお前だけで考えていれば良いけど」

土御門「相変わらずぜよ。もうヒントはいただけないんですかにゃー?雲川先輩」

雲川「これ以上は言ったところでお前達じゃ到底、理解に及ばないけど。余計な混乱を招くだけになりそうだから、止めておいた方が良い」

土御門「…そうか。じゃあお好きにどうぞだにゃー」

雲川「私の事は気にしなくて良いけど。いないものと思ってくれれば構わない」

 

 

―――

6月20日23:37


――「いないものと思ってくれれば構わない」という言葉通り先輩は、源次さんと熊沢さんの持ってきた紅茶を啜り、少しすると姫神に鍵を借りてゲストハウス帰っていった。


土御門「……あの人がいるとどうも上手く話せなくなる…」

結標「…あの人は何者なのかしら?あなたがあそこまで下手に出ているのは初めて見たわ」

海原「頭の良い方という印象は受けましたけどね」

初春「たしかに…」

土御門「あの人は"頭が良い"とかいう程度じゃないにゃー…」

上条「まさに"天才"ってやつなんだろうな…俺が言うのも何だけど、どうして同じ高校なのか理解できない…」

姫神「校内テストは全て満点。あの人は恐ろしく頭が切れる。ただ勉強ができるのではなくて。理論的。思考力があると言った方が適切なのかも」

上条「超能力者ってのも、もちろん天才の集まりだけど、先輩はまた違った天才だな。自分でも"考えることが仕事だ"とか言ってたし」

御坂「へぇ……。天才ねぇ。でもどうして雲川さんはここに呼ばれたのかしらね?頭が良いのは分かったけど…」

土御門「それはそれは"恐ろしく頭の切れるブレイン"だからだにゃー。」

結標「ああ、なるほどね」

御坂「?」

 

――議論は終わらない。
 

先輩が言うように大切なのは碑文の"開始点"なんだろうけど、そんな偏った思考ができるのはあの人だけだ。議論すらも必要ないと抜かすような人間だ。違う意味でヒントにもならない。
 結局、ほとんど何も分からない。明日島内を調べてみるのがいいという結論だ。いや、結論という言い方は悪いな。俺達は最後まで居たワケではなかったんだから。


6月21日0:21

御坂「ふわぁ…。んん、ちょっと眠くなってきたかも」

上条「12時過ぎたし、そろそろ戻るか、御坂?」

御坂「そうね、あんまり私達はいても意味なさそうだし」

結標「そんなことはないわよ、超電磁砲?あなたも紛れも無く230万人の頂点、レベル5なんですもの」

御坂「ま、レベル5が全員頭良いってワケじゃないけどね」

結標「削板みたいなのもいるからそれはそうね。あいつは間違いなく馬鹿だわ」

御坂「結標さん、あの人と知り合いなのね…」

結標「…顔見知り程度だけどね」

上条「じゃ、上条さん達はそろそろ戻ることにするな。初春さんはまだ残るんだよな?」

初春「はい。今ちょうどお話も面白いところなのでもう少しだけ」

上条「そっか」

御坂「戻る時は気をつけてね、初春さん」

初春「はいー」

上条「姫神もな」

姫神「うん。ありがとう」

土御門「俺は一度戻って部屋の内線、外部にも繋げるみたいだから舞夏に連絡をとってくるにゃー。六軒島内、携帯は圏外みたいだしな」

上条「外から学園都市に普通の電話は繋がるのか?情報の漏洩を防ぐとか、何やらいろいろ厳しかったと思うんだけど」

御坂「なんなら初春さんパソコン持ってたし、それを媒体にして私が能力で電波飛ばして繋ごうか?」

土御門「あー…問題ないぜよ。たぶん録音されるけどにゃー」

御坂「そっか。なら良いんだけどね」

上条「ん?でも初春さんのパソコン、ネットには繋がるのか?」

初春「…回線が引かれてるみたいです。携帯が圏外なのは島の人が使わないから整備されてないんですかねー」

御坂「…携帯が繋がったら、黒子からの着信がずっと鳴り続けることが分かりきってるから、逆に良かったかもだわ」

上条「ははっ、それはありえるな…」

 

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最終更新:2010年11月07日 20:07
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