美琴「ちょっとアンタ!」 禁書「なぁに?」 > 02


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ウィーーン

自動ドアが開き、病院独特のツンとした薬品のにおいが鼻をつく。

時刻はAM10:00を少しまわったくらいだが、総合病院だからだろうか、院内には多くの人がいた。


禁書「みこと、とうまの病室は?」

美琴「208号室よ。しかも個室」

禁書「なんでとうまは個室ばっかりなんだろう?」

美琴「そういや不思議ね。あいつ貧乏なのに」


清潔感あふれる廊下を、他愛ない会話をしながらゆっくりと進む。

こんなに早い時間でもすれ違う人は様々で、点滴をかたわらに移動する人、見舞い帰りとおぼしき人、白衣の看護師、真っ白な肌が印象的な男、


美琴「ちょっと待ちなさいよっ!!」

禁書「ひゃっ!」ビクッ!

叫びが静寂を切り裂き、新たな静寂を作り出す。


??「?」クルッ

美琴「なんで…なんでアンタがここにいんのよ!!」バチバチ


帯電して威嚇しながら、地獄のような灼眼を睨みつける。


??「あァ、お前…」

一方「オリジナルか」

美琴「質問に答えなさ」
禁書「あー!あくせられーただー!」

美琴「えっ?」


突然の第三者の介入。

予想外の方向からのジャブに美琴の思考は少し停止した。


一方「うォっ!暴食シスター!」ギクッ


うろたえる学園都市最強。

目を輝かせ、よだれを垂らしながらにじり寄るちっちゃいの。

美琴の目の前でなんだかよくわからないまっしろ対決が繰り広げられていた。


美琴(……なんだこれ)

??「あ!お姉さまだーっ!」

美琴「は?」クルッ


後方からいきなり「お姉さま」と呼ばれて振り返ると、


??「ってミサカはミサカははしゃいでみたり!」ピョンピョン


今より少し、幼い頃の自分がいた。


??「お姉さまーっ!ってミサカはミサカは頬ずりしてみる!」ダキッ! スリスリスリス…

美琴(…状況が……)

美琴「こじれやがったぜ…」

一方「ちょっ!てめェやめろ!やめろー!」グギギギ…

禁書「奢って!奢って~!」グギギギ…

??「お姉さまいい匂い!ってミサカはミサカはもっと強くハグしてみる!」ギュッ!

美琴「………」

美琴「………」スタスタ

??「おおっ!お姉さま、あの人より力強い!ってミサカはミサカはあの人のもやしっぷりを情けなく思ってみたり!」ズルズル…

一方「いいかげンに離れろ!」グギギギ…

禁書「ご飯をくれるまで離れないんだよ!
」グギギギ…


ポン


一方「あァ?」グギギギ… クルッ


肩を叩かれた一方通行が振り返ると、そこには御坂美琴が立っていた。

腰に小さい自分を巻きつけて。


美琴「説明を…要求するわ」

一方「お…おゥ」グギギギ…


一方通行が見た美琴は、悟りを開いたような目をしていた。

 

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院内の談話室のすみの方に、妙な四人組がいる。

二人はそっくりで、もう二人はまっしろ。

しかもまっしろの片方は修道服、もう片方は妙な杖を持っている。

そのため、誰も寄せ付けない、もとい、寄り付きたくないようなオーラを放っていた。


美琴「で、」

一方通行「ハイ」

美琴「その子、だれ?」


目の前にいる少年を睨みながら、対角にいる妖気アンテナ娘を指差す。


??「ミサカはミサカだよってミサカはミサカはミサカがミサカであることを主張してみる!」

美琴「元気ね~。ちょっと黙ってようか」

??「むぅ…」

一方通行「コイツはまァ、あれだ、妹達だ」

美琴「それくらい見りゃ分かるわよ!」

??「結局お姉さまは何がききたいのってミサカはミサカはやっぱりレベル5はどこかしらおかしいって再確認」

一方通行「だァれがおかしいのかなァァ?」ギュウウウウ

??「ほっへたつねりゃなひへっへみひゃかはみひゃかは」ギュウウウウ

禁書「たぶんだけど、みことは打ち止めの名前が知りたいんだと思うよ」

打ち止め「ああ!そーゆーことか!」

打ち止め「はじめましてお姉さま!検体番号20001、打ち止め(ラストオーダー)ですってミサカはミサカは自己紹介」

一方通行「先に言われてンじゃねェか」

美琴「……」


『検体番号』ということは、やはりあの実験の…

しかも『20001』?

たしか『絶対能力進化計画』の内容は20000通りの状況、方法で20000人の妹達の殺害…よって彼女は一方通行に殺されない。

じゃあ、この子は何のために作られたの?


打ち止め「…お姉さま、どうしたの?ってミサカはミサカはちょっと心配」

美琴「ん…? ううん。何でもないわ」

一方通行(…)

一方通行「おィ、白いの」

禁書「インデックスなんだよ!それにそっちの方が白いんだよ!」

一方通行「お?なんだとコラ?」ガタッ

禁書「あれあれ?見た目だけじゃなくて頭の中もウサギさんなのかな?」ガタッ

一方通行「カカカカカカカカカカッ上ォォォォ等ォじゃねェか!表来いやァ!」

禁書「言われなくても言ってやるんだよ!
それと気持ち悪いからその笑い方やめてくれるかな!?」


ギャーギャー……………


美琴「…なにあれ?」

打ち止め「さぁ…ってミサカはミサカは呆然…」

美琴「…!」


そうだ。これはチャンスだ。

一方通行という足かせが無い今、この子の本心からの声が聞ける、千載一遇のチャンスだ。


美琴「あの、打ち止め?」

打ち止め「なぁにお姉さま?」

 

聞きたいことは全て聞き、彼女の話も聞いた。

打ち止めが全妹達を束ねる役目を担っているということ、

実験終了後に処分される予定だったこと、

一方通行が何度も命を賭して救ってくれたこと、

そのせいで演算補助無しでは歩くどころかしゃべることすら出来なくなってしまったこと。

彼女の口からつむぎ出される一言一言が衝撃的だで、なにも知らずにのうのうと生きてきた自分がほとほとイヤになった。

美琴「アンタたち…10031人もアイツに殺されてるのよ?憎くないの?」

打ち止め「憎いよ」


少女は柔和な笑みを浮かべたまま、即答した。


打ち止め「今でもね、時々再生されるの。実験中の映像が。」

美琴「……ッ」

打ち止め「ミサカ達は感情ってのはよく分からないんだけどさ、殺される直前のあの感じが『恐怖』ってやつなんだとおもう。」

美琴「だったら!だったらなんで…」

打ち止め「それはね、あの人が優しいからだよ」


信じられない言葉を聞いた。


美琴「優しい?」

打ち止め「うん!」


一万人以上を殺したヤツが?


打ち止め「あの人はね、感情が無い妹達に話しかけるのを、10032回行われた実験の中で一度も欠かさなかったんだ」

打ち止め「まるでミサカ達が感情を持つのを待ってるような、懇願するような、そんな感じで」

打ち止め「たぶんあの人はやめたかったんじゃないかな?妹達の方からやめたいって言ってくれるのを待ってたんじゃないかな?」

美琴「もし…もし誰かがやめたいって言ってたら…」

打ち止め「片っ端から関連施設を関係者共々潰してたと思う」

打ち止め「その証拠に、ピストルに撃ち抜かれてまでミサカを助けてくれた」

打ち止め「しょせんは作り物だって心のどこかで思ってるミサカ達の存在理由になってくれた」

打ち止め「だから…」


すうっと大きく息を吸う。

溢れる想いを乗せた声が、美琴に届くように。


打ち止め「だから、ミサカ達は、一方通行のことが大好きなんだよってミサカはミサカは大胆告白!」

最初は一方通行による思想統制を疑っていた。

が、打ち止めは無邪気な笑顔を浮かべてそれを優しく否定した。


美琴「…そっか」


あぁ、この子は本当に


打ち止め「うん!ってミサカはミサカは即答してみたり!」


一方通行のことが大好きなんだ。

 

 

美琴「ふぅ…」ギシッ

肩の荷がほんの少し降りた気がして、木製のイスに身体をゆだねた。

打ち止めの後ろにある大きな窓から見えている晩秋の晴れやかな空が、心に染み渡ってゆくような感じがした。


美琴「ありがとね、打ち止め」

打ち止め「どういたしましてってミサカはミサカはニッコリしてみる」ニコッ

打ち止め「あ、二人とも、そろそろ出てきていいよってミサカはミサカは鋭い女ぶってみる」

美琴「え?」

談話室の入り口の方に目をやる

すると照れ笑いを浮かべたインデックスがおずおずと出てきて、元の席に座った。


禁書「なんでわかったのか教えて欲しいかも」

打ち止め「なーんとなく、かな?ってミサカはミサカは第六感!それよりあの人は?」

禁書「あくせられーたなら今入り口の陰で泣いてるよ?」

美琴「」

打ち止め「もう、あの人ったら照れ屋さんなんだからってミサカはミサカは迎えに行ってみたり」ガタッ.タタタタッ…

オ.オイ!ヤメロ!

ハヤクデテキナサイッテミサカハミサカハヒッパッテミタリ!

コンナカオミセラレネェカラ!ゼッタイバカニサレルカラ!ヤメテクレエエエエエ!!

 

なんということでしょう。先ほどまでムスッとしていた悪人面が


一方通行「…グスッ」


今は止まっているものの、涙でぐっしょぐしょではありませんか。


一方通行「…あンだよ」グスッ

美琴「いや…アンタみたいなのでも泣くんだなぁって」

一方通行「泣いてねェよ。これは青春の汗だ」スズーッ

美琴「いや、泣いてるじゃん。目も真っ赤でほっぺたぐっしゃぐしゃじゃん。」

一方通行「泣いてねェって言ってんだろォが!これは…そう、青春の汗だ」

美琴「アンタの汗腺どうなってんのよ」

打ち止め「さすがに苦しいよってミサカはミサカは苦笑してみたり」

禁書「ところでさ、二人はなんでここにいるの?」

打ち止め「それはね、ミサカのちょうせモガッ」

一方通行「コイツの体調が悪かったンだよ」

打ち止め「ぷはぁ!いきなり口をおさえるなんてひどいってミサカはミサカは憤ってみたり!」

一方通行「それよりお前ら行かなくていいのか?」

打ち止め「あ!スルーしたってミサカはミサカはむきぃーっ!」ポカポカ

一方通行「やめろ、暴れンな」

美琴「行くって?」

一方通行「あ?三下の見舞いに来てんだろォ?」

美琴「え?」

一方通行「粉砕骨折とか、戦争が終わってもアイツはやっぱり不幸のままってなァ!」カカカッ!

禁書「ねぇ、あくせられーた…」

一方通行「あン?」

禁書「……なんで知ってるのかな?」


インデックスの的確な指摘は、打ち止めを除く3人の時間に足かせをはめる。

先ほどまで騒がしかった談話室が凍てつくような静寂に支配された感じがした。


打ち止め「どうしたの?みんななんか怖いよってミサカはミサカはなにやら不穏な空気を察知……」オドオド

一方通行「………」

美琴「………」


疑念が緊張を増幅させ、緊張が疑念を掘り下げる。

まさか一方通行が?

しかし、もしそうなのだとしたら、なぜ突然公園にトラックが突っ込んできたのか、簡単に説明がつく。

彼にかかればトラックを弾丸に変えることなどたやすいからだ。

だが、メリットは?

上条当麻を殺す]ことの利点は?

幻想殺しの抹殺?敗北への報復?それとも暗部がらみの?

しばし思考を逡巡させる。


一方通行「はン……」


張りつめた弦を最初に弾いたのは被告人、一方通行だった。

一方通行「看護師どものうわさ話をちょォっと小耳に挟んだだけですゥ」プイッ


そっぽを向き、目を細め、口を尖らせ主張する。

まるでいたずら好きの少年のようだ。


禁書「なぁんだ、それだけかぁ」ホッ


その様子に緊張から開放されたインデックスは、ヤレヤレというジェスチャーで安堵を示した。

が、


美琴(……)


灼眼のわずかなブレを、御坂美琴は見逃さなかった。

女のカンが告げている。

『コイツは何かを隠している。』と。


一方通行「さ、そろそろ帰ンぞォ」ガタッ

打ち止め「えーってミサカはミサカは別れを惜しむ」


小さな法廷からの脱出を試みる被告人。

引き止めて言及しなければ。


美琴「ち、ちょっと!」ガタッ

一方通行「…あン?」

打ち止め「?」

美琴「ア、アンタ…」


そう言ってフリーズする御坂美琴。

引き止めたまでは良いが、何を根拠に言及するか決めていなかったので、頭の中は絶賛雪景色だ。


美琴(落ち着けアタシ。最っ高にクールに真相を暴くために。)


何と言えば効果的なのか、頭の中でシュミレートする。


①『アンタの眼がブレた!だから何か知ってるでしょ!』

『はァ?頭おかしいンですかァ?』


②『看護師に聞いた?ウソね!』

『はァ?頭おかしいンですかァ?』


③『アンタがアイツを襲ったんでしょ!』

『はァ?頭おかしいンですかァ?』

 

 

………ダメだ。

自分の脳内ですら『頭おかしいンですかァ?』で一蹴された。


一方通行「おいおい、なァに固まってンだよ?」

打ち止め「お姉さまどうしたのってミサカはミサカは不審に思ってみる」


早く何か言わないと。早く何かを。

そう思えば思うほど、焦る気持ちは強くなっていく。


美琴「あーっと、あの、その、ええっとね、」ワタワタ


完全に混乱した。

ヤバイ。頭が回らない。


美琴「あの、ア、アンタ!」

一方通行「オォ?」ビクッ


この際仕方が無い。言ってしまおう。

大きく息を吸って呼吸を整えることもなく、思っていることをそのままアウトプットした。

 

美琴「アンタの服、ウルトラマンみたいね!」

一方通行「」


言ってやった。

なぜだろう。

何かに打ち勝ったような、晴れ晴れとした気分だ。


「くきゃ。くかかここここ…」


晴れ晴れとした気分を妨害するようなノイズが聞こえる。

どうやら発信源は目の前の白髪らしい。

何やら不穏な気配がする。


一方通行「くかかかききゃきゃきゃ!上ォォォォ等ォォォじゃねェか!」

一方通行「俺をこれだけ待たせて『ウルトラマンみたいね☆』だァ!?ケンカ売ってンですかァ!?」


首の拘束具に似たチョーカーに手を触れる一方通行。

次の瞬間、ゴウッ!っという空気が変わる音と共に、

 

一方通行「dsagvcrhzreqfvygdv」ドシャッ!!


いきなり地面に崩れ落ちる第一位。

笑い声しかり、意味不明な言語にしかり、なぜこんなに気持ち悪いのだろう。

顔は良いのに非常にもったいない。

地面で頭を強打し、ビクンビクンしている。


美琴(自分から頭ぶつけにいくとか、コイツ…マゾ?)


もしもそうなら、こんな壮大な一人エッチを可愛い妹とインデックスに見せるわけには行かない。


美琴「打ち止め!見ちゃダメ!オトナになるまでダメ!」ガバッ


警告しようと、地面に転がる一方通行から視線を上げ、打ち止めを見る。

すると、

打ち止め「ダメじゃない、一方通行。こんなところで能力使っちゃってミサカはミサカは教育的指導」


のたうちまわる一方通行を見て、打ち止めはニヤニヤ笑っていた。

ああそうか。もう手遅れか。

我が遺伝子を分けた妹は真性のサディストなのか。


打ち止め「はぁい。オシオキしゅ~りょ~ってミサカはミサカは演算補助をオンにする」


幼女から発せられた『オシオキ』という言葉に、少し戦慄した。

そもそも、オシオキとはなんだろう。


一方通行「打ち止めァァァ…」ムクリ


ゆらりと立ち上がるマゾ。

いまだにニヤニヤしている小悪魔的なサディスト。

なんだこれは。なんだオシオキとは。

 

一方通行「予告もなく演算補助切ってンじゃねェよ!」

打ち止め「あなたが病院で能力使おうとしたからでしょってミサカはミサカは指摘」


ああ、そうだったそうだった。

今、一方通行は演算補助を必要とする体だった。

それを切るとああなるのか。


一方通行「チッ…分かったよォ」スタスタ


うなだれるように出口へ進む、マゾヒストじゃなかった第一位。


打ち止め「お姉さま、インデックス、またね!ってミサカはミサカは手を振って別れの挨拶!」ブンブン


それについて行くサディスト幼女。

二人が出て行くと、嵐の後のように静かになった。

 

 

 

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打ち止め「ねぇ、」

一方通行「ン?」


談話室にどれほど居たのだろうか。

南中した晩秋の陽光が差し込む廊下を歩きながら、少女は白肌の少年を見上げている。


打ち止め「あなた、ミサカが調整してた時なにしてたの?ってミサカはミサカは質問してみる」


なにやら不機嫌そうな少女。

じとっとした目で少年を睨みつける。

一方通行「……なンでンなこと聞くんだァ?」

打ち止め「別に~ちょっと気になっただけだよってミサカはミサカはオトナの事情を考慮してみる」


一方通行「オイちょっと待て。なンですかァ『オトナの事情』って」

打ち止め「だってあなた来た時と感じが違うんだもん!ってミサカはミサカはむくれてみる!」プクー


『オトナの事情』というドロドロしたものに敏感なお年頃なのだろうか?

ふくれた頬は、まるでフグのようだ。


一方通行「『感じ』ってなンだよ。『女のカン』ってヤツですかァ?」


『くっだらねェ』と吐き捨て、エレベーターのボタンを押す。

打ち止め「むぅぅ~!」プクー

一方通行「はァ…」


思わずため息をつく。

とにかく今はこの姫君のお怒りを鎮めようと、左手で小さな頭をなでる。


一方通行「なンにもねェよ。ねェから心配すンな」ナデナデ


頭を撫でられてくすぐったそうに顔をほころばせる少女。

何も言わないが、機嫌は良くなったようだ。

打ち止め「えへへ……」ナデナデ

一方通行「…」


女性というのは本当に不思議だ。

隠しごとをしていても、『女のカン』という非科学的なダウンジングマシンでおおよその予想を立ててしまう。


一方通行(『女のカン』か…)


無機質なアナウンスが聞こえ、ドアが開いた。

 

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一方通行に結局何も聞けず仕舞いだった美琴は、足取りの軽いインデックスと共に上条当麻の病室に向かっていた。

お見舞いといえばフルーツバスケットなどの果物や造花が好まれるが、今は何も無い。

談話室にて、見舞い用のフルーツバスケットはただのバスケットと化したからだ。

元凶は言うまでもないと思うが、目の前でぴょこぴょこ歩くまっしろシスターだ。


美琴「インデックス…」

禁書「ん?なぁに?」


まっしろな修道服をはためかせ、くるっと振り向くシスター。

銀髪が流れるようになびき、輝いていた。

美琴「これ…どうする?」


木で編まれた長細い鍋のような入れ物をくるっとひっくり返し、空っぽであることをアピールする。


美琴「どうする?」

禁書「う……し、仕方なかったんだよ!もうお昼だよ?おなかだって悲鳴をあげる権利くらいもってるかも!」


わたわたと両手を振って弁解するシスター。

腹の虫が悲鳴を上げる権利ってなんだよ。

シスター=禁欲だと思っていたおとといまでの自分に、バカヤロウと言いたい気分だ。

美琴「どうする?買いに戻る?」


我ながらなかなか良い提案をしたと思うが、


禁書「めんどくさい」


即答された。

もしかしてこの子、とんだ地雷かもしれない。

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コンコン


「どうぞ」


病室に入る前というのは、誰の病室であっても例外無く緊張がつきまとうのはなぜだろう?

そんなことを考えながら軽いドアをスライドさせる。


美琴「よっ。元気?」

禁書「お見舞いにきたんだよ」


病室に差し込むキラキラとした光の中に、腕を固定し、足を吊った少年がいた。

キレイな景観の中にはめ込まれた少年の姿は、ものすごくミスマッチだ。


上条「よっ!」


爽やかな笑顔と共に、晩秋の風がカーテンを揺らした。

 

上条「お!インデックスも一緒に来てくれたのか」

美琴「アタシが連れて来たのよ」

禁書「違うよ!ちゃんと自発的に来たんだよ!」

上条「ハハハ……インデックス、ごめんな。昨日、メシ作ってやれなくて」

美琴「いや、それはアンタのせいじゃな」
禁書「…ホントだよ」

美琴「…インデックス?」

禁書「ホントだよ。とうまはいっつもそう!」

上条「あ~…だからゴメンって。どんだけ腹減ってたんだよ……」

禁書「違うもん…」

上条「ん?」

禁書「……とっても怖かった。…とっても寒かった、とっても暗かった、とってもとっても寂しかった!」


内なる不満をブチまけながらじりじりとにじり寄るインデックス。


上条「お、おい、インデックス、」

禁書「とうま!!」

上条「はいぃ!」ビクッ

美琴「あっ…」


御坂美琴は見た。

怪我人に飛びかかるシスターを。


上条「あっ…」


上条当麻は見た。

いつも通り、飛びかかってくるシスターを。


ドサッと身体に重みが加わる。

ああ、屠殺前のニワトリとは、こんな気持ちなのかと悟りはじめた。


上条(こいよインデックス…。お前が俺に噛み付くことでストレスが晴れるってんならいくらでもくれてやる)

上条(だけどそれで良いのかよ!イヤなことがあったら噛み付くだけでお前は良いのかよ!)

上条(それでいいと思ってんならいいぜ!まずはーーその幻想を)

ズキリと痛みが走る。

ギプスをした左腕に。


上条(ぶち殺………あれ?)


気がつくと上条当麻は、


禁書「とうま…」

禁書「とってもとってもとっっても、心配したんだよ…」ギュッ


抱きしめられていた。

上条「イ、インデックスさん…?」

禁書「わたし…とうまの帰りが遅いから、てっきり魔術師に襲われたんじゃないかと思って…」グスッ

禁書「でもわたし一人じゃ助けになるようなこと何も出来なくて……待つことしか出来なくて…」

禁書「わたしの存在のせいで死んじゃったらって……また傷ついたらって…思ったら」

上条「バカヤロウ!」

禁書「ひっ」ビクッ

上条「俺が襲われるのに、お前は関係ない。だからもうそんなこと言うな」

禁書「でも、わたしの10万3000冊の魔道書のせいで」
上条「それが狙いなら、敵はまず寮に向かうだろ?」

禁書「でも、でも!……でも………」

上条「インデックス」

禁書「ヒグッ…グスッ…」

上条「俺個人が狙われる時はお前のせいじゃない。おそらくこのクソったれな右手のせいだ」

上条「だからもうそんなこと言うな。お前の存在のせいなんて言うな」

禁書「だって、」
上条「だってじゃない。お前にもしもそんなことを言うヤツがいたら、俺が右手でぶっ飛ばしてやるよ」ギュッ

禁書「ふぇ…ふぇぇぇぇん!とうま!とうまぁぁぁ!」

美琴「……」


少女を護る約束をする少年。

それを涙で受け止める少女。

ドラマのワンシーンのような世界を見ていた御坂美琴は


美琴(昼間っからサカってんじゃないわよ)


なにやらご機嫌ナナメだった。

 

 

美琴「お取り込み中だけどいいかしら?」

上条「おぉ、いたのか御坂」

禁書「やっほーみこと」

美琴「風穴開けるわよ?」

上条「冗談だよ冗談」

禁書「短気はダメだよ? みこと」

美琴「インデックス? 後でちょっと」

禁書「冗談なんだよ冗談」

禁書「昨日だよ」

上条「そうか、昨日御坂がメシ作ってくれたんだっけか」

美琴「ふふん。感謝しなさいよ?」

上条「ああ、マジで助かったわ」

禁書「みことね、案外料理上手なんだよ」

美琴「案外って何よ案外って」


他愛のない話は弾み、あっという間に時間は過ぎた。



上条「てか、お前らいつから名前で呼び合うようになったんだよ?」

 

 

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「じゃあね」と別れの挨拶をして病院を出た時には、真っ赤な斜陽が輝きかけていた。

午後4時近くの秋の暮れの空は、心なしかとても澄んでいるような感じがする。

清々しい気持ちのまま、二人でスーパーで食材を購入しそのまま寮に戻る。

土曜日夕方、穏やかな時間がそこにあった。


禁書「ただいま!」ガチャ

美琴「おかえり」

禁書「…」

美琴「?」

禁書「みこと」

美琴「なに?」

禁書「おかえり!」

美琴「ふふ。ただいま、インデックス」

 

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禁書「みことー、何か手伝おっか?」


カウンターからヒョコッと顔だけを出して問うインデックス。

背伸びをしているのか、心なしかぐらぐらして見える。


美琴「遠慮しとくわ。先にお風呂入って来なさい」

禁書「あー!遠慮しとくっていったね!?機械オンチだからってばかにしてるね!?」

美琴「今日はカレーよ」

禁書「わーい!」


先ほどまで腕をばたばたさせて猛抗議していたのに、『カレー』と聞くとあからさまに喜び勇んで風呂場に向かった。

銀髪少女の扱い方が、だんだんとわかってきた気がする。

単純…もとい、純粋な子なので、悪い人についていかないか心配だ。

美琴(ってアタシは母親かよ)


一人でツッコんで、一人で苦笑する。

どうやら私はやっぱり、あの子に母性を感じているのかもしれない。


美琴(アタシ何を悩んでたんだろ…バカじゃないの)フフッ


ふっきれたように笑うと、心に余裕ができた。

 

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禁書「むむむ…」


何か、釈然としない。

なぜだろう?

先ほどまでの会話の、どこかがおかしい。

焼き付けられ、録音された記憶を巻き戻す。


『あー!遠慮しとくっていったね!?機械オンチだからってばかにしてるね!?』

『今日はカレーよ』

『わーい!』


そうか。

ここで御坂美琴の超巧妙かつ不可避の心理トリックが発動したんだ。


禁書「……やられたんだよ」


脱衣所で、うなだれる少女が一人いた。

禁書「しょうがないからおとなしくお風呂に入るんだよ…」


脱衣所と直結している浴槽へ入る。

ひたひたと冷たく硬い感触が足裏から伝わってくる。

だから冬はキライだ。


シャワーのヘッドを下に向け、180°回るレバーで温度を調節、お湯を出す。

ふわっとした暖かい湯気に包まれた身体が、たまらなく心地良い。

禁書「♪」


『湯』というのは不思議だ。

浴びるだけでほっこりとした気持ちになれる。

もしかしてその昔日本人たちが編み出した『湯治』というのは、こういう精神的安息、リラックスによる心理療法なのではないだろうか。


しかし、不満が一つ。


禁書「……湯量が少ないかも」


おそらく台所で、美琴が湯を使っているのだろう。

シャワーだけなのに水勢が弱いと、なんだか余計に寒く感じる。

なんとかして暖かいバスライフを味わうことは出来ないだろうかと思案すると、


禁書「!」


案外簡単に解決策が見つかった。

膝下まできているぬるま湯に、身をつけてしまえばいい。

今よりは幾分かマシだろう。

じゃばっ


ぬるい湯に身を沈める。

いやぁしかしぬるい。

思ったとおり、先ほどよりは幾分かはマシだが。


禁書「………」


しかし、より良い環境を求めるのが人の常だ。

どうにかならないかと思っていると、急に水勢が強くなり、温かいお湯が勢いよく降り注いできた。

ザーーーーーーー


昨日も聞いた音。

その音に、否応無く記憶は叩き起こされた た。


ザーーーーーーー


『あの時はおかしかった』と結論付けた、あの記憶が、少女の目が、少女の身体が。


ザーーーーーーー


確かな熱を帯びた、確かな記憶として、不確かな感情に揺さぶりをかける。


ザーーーーーーー


私を押さえつける身体の熱。

私を射抜く瞳の熱。

私に向けられた激情の熱。

熱、熱、熱、熱、熱。

 

 


ザーーーーーーー

 

その熱は次第に強く大きなうねりとなって少女の心に、容赦なく侵入する。

そのひとつひとつを大切にしたくて、味わいたくて、聴きたくて、感じたくて抱きしめたくて。


恋しくて。


薄れゆく意識の中で、熱を帯びほてった身体が大きくふらついた。

 

 

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ばさっばさっ


冷たくて気持ちいい。


ばさっばさっ


肌が喜んでいるような気がする。


ばさっばさっ


ううん、ちょっと寒いかも…


ばさっばさっ


いや、寒い。寒い寒い寒い


禁書「寒いんだよ!」ガバッ


あまりの寒さに起き上がると、御坂美琴が窓を開けてタオルで自分を扇いでいた。

バスタオル一枚の自分を。

 

美琴「あ、気がついた?」


悪びれることなく言い放つ。

半裸の人間を冬の夜の外気にさらして扇ぐとは、新しいプレイか何かかな?

と言いたかったが、いかんせん、頭が回らない。

ふわふわと宙を漂うような、気持ちの悪い感じだ。

美琴「びっくりしたわよ、まったくもう。浴槽で『ぐで~』ってなって『ぷか~』って浮いてるんだもん」


『もうちょいでココがいわくつきになるところだったわよ』と、シャレにならなかったかもしれないことを言う。

ああそうか、わたしはのぼせてたんだ。


美琴「今日はこのまま寝なさい」


『ヤダヤダ!ごはんが食べたいんだよ!』なんて言える気分じゃない。

吐き気とめまいがしてそれどころではないので、今日はおとなしく寝る事にした。

 

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おでこの冷却シートがひんやりして気持ちいい。

なにか柑橘系の匂いがしていて、それが導眠の引きがねとなったのだろうか?

すんなりと眠れた私は、夢を見た。


寝ている自分の頬に、そっとキスをする御坂美琴。


妙に生々しく、リアリティのある、ただの夢。

脳が創り出した偶像であり虚像。

そのニセモノの体験が、自分と同じシャンプーの香りと共に記憶に焼き付いた。

 

------------

購入した大量の食材を洗っていると、お湯の出が悪くなった。

おそらくインデックスが入浴したのだろう。


美琴(……インデックス、寒いだろうな…)


こちらの水勢が弱いということは、シャワーの湯量が少ないということだ。

『インデックスが寒い思いをしている』。

そう思うとなぜかとてもそわそわしてきた。


美琴(うーん…)


気温のせいか少しためらい、


美琴(えいっ!)キュッ


お湯を冷たい水に切り替えた。

冷水で野菜を洗いながら考える。

なぜあの子はあんなにも他人の庇護欲をくすぐるのだろうか。

同い年くらいだとは思うのだが、どうにも世話をやきたくなる。

あの子に関わった何人かは、この気持ちを理解してくれるだろう。


美琴(よしっ。下ごしらえ終了)


色々と思考するうちに、ゴロゴロとしたジャガイモと大きな角切りニンジンが仕上がった。

油をしいた大きな鍋の底で肉を炒め、赤みがなくなったら野菜を入れる。

そして湯を張り、煮込んでからルーを投入。

さらに煮込めば完成だ。

スパイスや隠し味を何にしようかと考えている間に野菜も良い色になってきた。

料理の最中は本当に何か悪いものでも取り憑いたのかと思うほど、暇だ。

だから妄想や独り言が増えるのは必然である。

それがたとえお嬢様でも、レベル5であっても例外はない。


美琴(…)


鍋の底の肉、野菜をじーっと見つめる美琴。

 


美琴(ぐへへ、いい色してんじゃねえかジお姉ちゃんたち…)

美琴(いやっ!やめてお肉男爵!何するの!)

美琴(うるせぇ大人しくしやがれ!)


木べらでひょいっとカレー用角切り肉をジャガイモと絡ませる。


美琴(おねぇちゃぁん!ジャガイモおねぇちゃぁん!)

美琴(逃げなさいニン子!早く!)

美琴(おおっと、逃がすかよぉ)


肉を木べらでニンジンへ突撃させる

 

美琴(きゃああ!)


ジュワッという肉の音と共に、ニンジンにも肉汁が絡み付いた。


美琴(やめて!その子には…その子にはっ!)

美琴(ごちゃごちゃうるせぇぞぉ!)


ジャガイモお姉ちゃんの悲痛な叫び。

それは木べらの一振りによってまんべんなく絡まる。


美琴(…)

美琴(何やってんだろアタシ…)


そこでカムバックした。

 

 

 

 

名役者の食材たちはそろいもそろってとても良い色になった。

そろそろお湯を入れようか。

と思ったが、最初食材を洗ってから20分ほどが経過している。

当然化粧などしていないインデックスは、もう風呂場から上がって夜風にあたっているはずだ。

が、カウンター越しに見えるベランダには、人影はない。

 

嫌な予感がする。

火を止め、エプロンを取り、風呂場へ急ぎ、ノックをする。

美琴「インデックス~?何してるの~?」コンコン


……返事はない。

嫌な予感は増幅された。


美琴「…インデックス?開けるわよ?」


鍵がかかっているが、レベル5の前ではそんなもの関係ない。

ホテルによくあるボタンロック式のチャチ戸は、力任せに回すとイヤな音で叫び、開いた。

美琴「インデックス!」ゴチャッ!


勢いよく戸を開けるとそこには、


美琴「きゃぁぁぁぁ!」

禁書「ふにゃ~…」


グルグルと目を回したインデックスが、クラゲのように浮いていた。

 

 

------------

のぼせた少女にバスタオルを巻き、フェイスタオルでばさばさと扇ぐ。

すると「寒いんだよ!」と言って覚醒した。

心底ホッとした。

ふらふらしていたので、今日は寝かせることにした。

明日の朝、この子は晩の分まで食べるだろう。

カレーを仕上げなくては。

体の熱を取るために、冷却シートを貼ってあげてから調理場に戻る。

カレーが完成した頃には、9時近くになっていた。


美琴(さて…)


風呂に入ろう。

のぼせないように、気をつけて。

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インデックスがのぼせてから開けっ放しだった浴室は、すでにひんやりとした大気に支配されていた。

冬はやはり、服を脱ぐのがおっくうになる。

素早く服を脱いでざぶんと湯船に飛び込むと、


美琴「ひゃあぁぁぁぁ!」サバッ!!


言うなれば、ほんの少しぬるい冷水。

気休め程度のぬるさは、冷水につかるよりもキツいものがある。

となりから『うるさいぜよ!』と土佐弁が聞こえた気がしたが、肌寒さゆえの幻聴だろう。

気にしない気にしない。

栓を抜き、温かいシャワーを浴びる。

冷えた身体が徐々にほんわかとしてきた。

不意に、『充満する湯気が、浴槽を現実から切り離した』。

そんな気がした。

 

ザーーーーーーー


湯気で視界が白み、脳が視覚よりも思考を優先する。

思考の中を歩き回っていると、昨日の私がぶつかってきた。


ザーーーーーーー


欲望を剥き出した、醜悪な顔の自我。

それが私の腕にすがりつき、思い出せとささやく。

昨日の私を。

情欲に駆られた獣の姿を。

友人の一糸まとわぬ姿を。

ザーーーーーーー


私は必死で振り払ったが、『ワタシ』は一向に離れない。

それどころか、『ワタシ』が私に絡み付いてくる。

すがる程度だった『ワタシ』は、両腕で胸のあたりを締めつける。


ザーーーーーーー


胸が痛い。

締めつけ、ささやかれるたびにジュクジュクとした膿が心に広がっていく。

その痛みは記憶を叩き起こし、私になだれ込んでくる。

インデックスの恥じらう顔。

インデックスの潤んだ瞳。

インデックスの白さ。

インデックスの赤らんだ頬の色。

息遣い。

肢体。

髪。

におい。

全てが暴力的な渦となって、私の理性を飲み込んでいく。

 

ザーーーーーーー


思い出す。

今朝の私を。

理性から『母性』だと言い聞かせた私を。

恐れから『ワタシ』を封じ込めた私を。

いつの間にか理性的な『私』は頭から喰われていたのだろうか。

今、私は今朝の私を殺してやりたい。


ザーーーーーーー


今の私は『ワタシ』だ。

今の『ワタシ』は私だ。

理性の欠如したひどく動物的な自我であり、銀髪のシスターに見惚れた罪深き囚人なのだ。


ザーーーーーーー


私は結論に至った。

認めてしまうことが恐かった、一つのホントウを抱きしめた。

御坂美琴はーー



ーーーインデックスに恋をしている。

 

------------

 

何も聞こえない。

何も見えない。

シャワーのレバーを回す音も、ドライヤーの音も。

居間に引き寄せられる。

歩くたびに世界がぐにゃりと歪んでいるような感じがする。

しばらくして視覚と聴覚が舞い戻ったとき、目の前には


--インデックスの寝顔があった。

 

昨日と同じ体勢。

私が上で、彼女が下。

少女の目が覚めても構わない。

真正面から見つめていたい。

でも、覚めて欲しくなかった。

嫌われたくないから。気持ち悪いと思われたくないから。

どっちつかずの気持ちが不安定で、崩れそうで、泣き出しそうで。

 

美琴「インデックス…」


少女の名を呼ぶ。

熱を持った吐息。

熱を持った眼差し。

鼓膜をやさしく揺さぶる寝息が私を狂わせる。

禁書「ぅん……」モゾッ

美琴「ッ!!」ドキッ


心臓が爆発しそうな声を上げる。

『目よ覚めるな』とカミサマに祈る。


禁書「……」スースー

美琴「……」ホッ

禁書「えへへ……」

美琴「!!!」


起きたのか?

嫌だ。嫌われたくない。嫌われたくない。嫌われたくな


禁書「…みことー……」

美琴「イ、インデックス…?」ヒソヒソ

声を潜め問いかける。

ぐちゃぐちゃの頭の中で、ぐちゃぐちゃの
言い訳を組み立てては壊す。

『これは違うの』と言いたいが、声が出ない。


美琴「ち、ちが……これは…」ボロボロ


涙がでてきた。

止まれ。惨めな獣に成り下がるな。

脳が何度命令しても、涙は止まらない。

禁書「……みことー…」

美琴「~~~ッ」ボロボロ

禁書「………だいすき」

美琴「へっ?」

禁書「ぅぅん…」ムニャムニャ


寝言。

名前の後に『だいすき』。


美琴「…」


惨めな涙は止まった。


美琴「インデッ…クスぅ」グスッ


そしてそっと、壊れてしまわぬように抱きしめ、


美琴「アタシも……だいすき」


やさしく頬にキスをした。

 

------------

禁書「んぅ…」モゾモゾ

禁書「……さむい」


右半身が冷えている。

体感温度は5℃前後といったところか。

毛布と布団はどこかに消え去っている。


禁書「…ん?」


眠気で回らない思考を無理やりに回す。

毛布と布団をかぶっていないのに、なぜ右半身だけが寒いのか。

そもそも毛布と布団はどこにいったのか。


その答えは、左半身にあった。

美琴「…」スースー


床を見ると御坂美琴が使っている、布団一式がある。

年季の入った、悪く言えば薄っぺらくてなんだか黄ばんだ上条当麻の布団。

その布団セットは暗闇の中でも分かるほど整然としていて、まるで使用感は無い。


禁書(……)スゥッ


息を吸うと、なんとも形容しがたい香りがする。

イヤなにおいではない。むしろいいにおいだ。

寒くないどころか、あたたかい左半身。

頭が回りはじめたので、現実を見よう。

禁書(…)


頭だけを左へ回す。

壁際に蹴っ飛ばされた毛布と布団が見える。

置き時計の午前五時を示した、蛍光色に光る長身と短針が見える。

そして、


美琴「くぅ…」スースー


左半身に密着している、御坂美琴が見える。

禁書(なんでみことがベッドに…?)


昨日は、のぼせて倒れてからすぐに寝た。

同時に、のぼせた理由は御坂美琴だという事実も思い出し、なんだが居づらくなった。


禁書(あの後、看護してくれてたのかな?)ペリペリ


おでこから得体の知れないカサカサで少し柑橘系の匂いがするベタベタを剥がしながら考える。

考えている内に、ふと思い出す。

昨日見た夢。

頬にかかるくすぐったい吐息。

柔らかい唇。

リアリティのあるフィクションに過ぎない、ただの夢。

ただの夢とわかっているのに、どうしてこんなにもドキドキするのか。

どうして、右半身もあたたかくなるのか。

 

禁書(わたし…)


御坂美琴を見る。


禁書(わたし、ほんとうに…)


長いまつげ、整った顔立ちに、良い匂い。

小さく、心臓が脈打つ。


禁書(わたし、ほんとうに………気持ち悪い)

 

欧米では同性愛に寛容らしいが、今のインデックスには微塵も理解できない。

同性愛なんてものは歪んだ性欲に歯止めが効かなくなった、一番醜い愛の形だ。

加えて、仮にも主に仕える身であるシスターが、同性に対して恋慕の情を抱くのはいかがなものだろうか。

そう考えると、御坂美琴と一緒にいる時の自分が、理解不能の感情が湧き出る自分が、たまらなく気持ち悪い。


禁書「………わかんないや…」


ベッドを出よう。

とりあえず、この人から距離を取るために。

自分の心に、距離を取らせるために。

 

そっとすり抜け、毛布と布団をかぶせてあげた。

時刻は午前5時5分前。

まだまだ、外は暗い。

 

 

------------

美琴「ん…」パチッ


あたたかい。

昨日とは比べものにならないほど、あたたかい。


美琴(何時…?)


頭の上に置いてあるはずの携帯電話をつかもうと、なかなかの速度で腕を持っていく。

と、

ゴッ!


美琴「ほぉぉぉぉぉん!」


中指と薬指が、勢いよく壁に激突した。

朝から、妙な声が出た。


美琴(なんで壁があんのよっ…!)

指先からの刺激で、完全に覚醒した。

びりびりとしびれる指をもう片方の手で握りしめながら、昨日を振り返る。

ああそうか。あのままベッドで寝てしまったのか。

あのまま…


美琴(………)


また、自己嫌悪におちいった。

かってに頬にキスをして、かってに抱きしめて、かってに添い寝して。


美琴(…ハハッ。サイテーだわ、アタシ)


同性相手に向けるべきものではない感情。

同性相手にとるべきではない行動。

理解しているのに、わからない。

わかりたくない。

美琴(あれ?そういや、インデックスがいない…)


そう、故意ではないとはいえ、昨日は一緒に寝たのだ。

不思議に思って身体を起こすと、


美琴「ッ!」


インデックスが、床の布団で寝息をたてていた。


美琴「そう…よね。やっぱり…イヤ……だよね」ギュッ


はだけた布団と毛布を握り締める。

そりゃそうだ。

おとといは全裸で押し倒し、今回は添い寝だ。

気持ち悪くて当然だ。

こんな気持ちの悪い人間とは、別々に寝たいというのもうなずける。

美琴「なーにを考えてんだろアタシ。ホント…バカじゃないの」


自分を罵る。

溜まった涙が、こぼれて落ちない様に。

心が、崩れてしまわぬように。


美琴「ホント………バカだよ」ツゥ…


冷たい涙が流れたのを皮切りに、溜まった涙が流れておちる。

最近、泣いてばかりだ。

美琴「ひぐっ…ぐすっ……うぇぇ………」ボロボロ


下を向き、声を潜めて泣く。

あの子を見ていると、本当に自分を殺してしまいそうだから。

たった2日、それだけで、こんなにも苦しいのか。

などど思っていると、


禁書「…みこと?」

美琴「ふぇ…?」


一番見られたくない人に、一番見られたくないところを見られてしまった。

 

 

禁書「みこと…どうかしたの?」


布団からひょっこりと顔を出しているインデックスと目があった。

なんだか眠たそうに、布団からもぞもぞと這い出してくる。


美琴(やめて……)


身を切るような寒さで冷える涙。

パジャマの袖口で拭えどもども拭えども頬を切り裂く冷たい涙。


美琴(来ないで……)


インデックスが再びベッドに戻ってきた。

ベッドの中央で泣く美琴の横でちょこんと正座をしている。

禁書「大丈夫?どこか痛いの?」


優しい言葉をかけてくれるシスター。

だが、私の心の弱いところが、それは偽りの優しさだと言っている。

この子は私のことがキライなんだと言っている。


美琴「……」


どうせなら、どうせ嫌われているなら言ってしまおうか。

『お前のせいだ』と。

そして『大好きだ』と。

隣にいる少女を思いっきり抱きしめて、言ってしまおうか。

その刹那、ふわりと背中があたたかくなった。


禁書「みこと…」

美琴「…うん」

禁書「大丈夫?」

美琴「…うん」

禁書「どこも痛くない?」

美琴「…うん」


安心感から、すうっと涙が引いていく。

気がつくと私は、


禁書「みこと」

美琴「うん?」

禁書「…落ち着いた?」

美琴「………うん」


逆に抱きしめられていた。

禁書「よかった…」ギュッ

美琴「ありがと。ゴメンね、心配かけて」

禁書「いいんだよ。…で、どうしたの?」

美琴「………ちょっと…」

禁書「うん」

美琴「………怖い夢を見ただけよ」

美琴「それだけ」


今日一日が、ゆっくりとはじまった。

 

------------

禁書「おなかへった…」グデー


小さなテーブルでぐでっとうなだれる銀髪。

寒さもあってか、完全に電池切れしている。


禁書「誰だよぅ、『冬はつとめて(キリッ)』とか言ったおバカはぁ…」


枕草子の冬の一節を全力で否定する欧米人。

清少納言もさぞかしビックリしているだろう。


美琴「しょうがないわよ。あいつらブルジョアなんだし」


平安のブルジョア、貴族たちは、早朝の寒さに対して趣があるといったのではない。

クソ寒い中、せわしなく動き回るメイドさんに趣を感じているのだ。


などという説明しながら、カレーをインデックスの前に置く。

禁書「うわぁ!いただきまーす!」


水を得た魚のように生き返る少女。

ちなみに本人は気付いていないが、私が動き回り、インデックスが毛布にくるまって朝食を待ち焦がれる光景は、まがうことなき冬の一節だった。


美琴「てか、よく知ってたわね、『枕草子』。」

禁書「うん。とうまの教科書に書いてあったんだよ」モグモグ

美琴「…え?読めるの?」

禁書「バカにしないで欲しいかも」モグモグ

美琴「はぁー…外国人なのに、スゴイわね」

禁書「それくらい当然なんだよ」フフン


無い胸を張って誇らしげにする少女。

口の端には白米がついている。


美琴(……いとをかし)


『いとらうたし』でもいいかなと考えたが、話の流れからして『をかし』の方がいいだろう。

 

 

禁書「わたしは古文でも漢文でもアラビア文字なんでも読めるんだよ」フフン

美琴「ふぅん、そりゃすごいや」

禁書「……なんかバカにされてる気がするかも」

美琴「いやいやめっそうもない」

禁書「…………ホントは?」

美琴「教科書の注釈見たのかな~と」

禁書「むぅぅぅ!やっぱり信じてないかも!本当に読めるんだよ!」ブンブン

美琴「わかったわかった。だからスプーン振り回すのやめなさい」

禁書「むぅぅぅぅ」プクー

美琴「ほら、ふくれないの」グイッ

禁書「ひゃあ!ほっへたひっはららいへぇ!」バタバタ


おそらく、『ほっぺた引っ張らないで』と言いたいのだろう。

いやぁそれにしても…


美琴(かわいいなぁ…)ギュー

禁書「にゃがい!みひょと、にゃがい!(長い!みこと、長い!)」バタバタ

美琴「あっ、ごめん!」パッ

禁書「う~…じんじんするんだよ…」

美琴「いやぁちょっと考え事してて」

禁書「ふんだ!みことなんか嫌いなんだよ!」プイッ





美琴「え……えっ?」

禁書「えっ?」

美琴「えっ…………うえぇ…」グス

禁書「えっ!?えええええっ!?」

美琴「うぇ……ふぇぇぇ」グスグス

禁書「え!?ちょっとなんで泣いちゃうの!?冗談なんだよ!会話の流れの中の虚構なんだよ!」

美琴「………ほんと?」グスッ

禁書「当たり前なんだよ」

美琴「じゃあ……」

禁書「そりゃあもちろん………」

禁書(………ん?)


インデックスは考える。

このまま『好きだよ!』って言ってしまってもいいものか、と。

なにか、なにかが心にひっかかる。


禁書(わたしの気のせいかな?なんだかニュアンスがおかしかったような……)

美琴「答えてよぅぅ」グスッ

やばい、また泣く。


美琴「う、うぅぅ」グスグス


-ー-ちゃんと考えろよ!

まずスプーンを置け!

カレーなんて食ってる場合じゃねえ!

カレーなんてものにうつつをぬかしてる間にも目の前の女の子は泣き続けちまうんだろ!?

だったらもっと考えろよ!

お前だって望んでるんだろ!?

目の前のカレーよりもスパイスの効いた最高のレスポンスを!

含まれている可能性のあるニュアンスすべてに対応できる至極の返答を!

いいかげん言っちまおうぜ!

シスター!

禁書「み、みことはっ!」ガタン!

美琴「ふえっ?」

禁書「わたしの…」

美琴「わたしの…?」

禁書「……………た、」

美琴「た?」

禁書「大切な人なんだよっ!!」


美琴「…………」

禁書「…………」

美琴「……………えへ」

禁書「!」

美琴「えへへへ、そっか、『大切な人』か、えへへへへ」


ありがとう、脳内とうま!

やってやったんだよ、最高のレスポンスを!

ミッションコンプリートなんだよ!


美琴「えへへへへ」テレテレ

禁書「………ふぅ」


なんだか、ドッと疲れた。

 

 

----------

禁書「ごちそうさま!」

美琴「………」

禁書「みこと?」

美琴「へっ?あ、あぁ、うん、おそまつさまでした」

禁書「お水にお皿浸けてくるね」カチャカチャ

美琴「はーい……」


…言われてしまった。


美琴「『大切な人』…か」

美琴「~~~ッ」カァァァ


胸が苦しくて、身悶えする。

体の芯が、とてつもなく熱い。


美琴(『大切な人』って、『大切な人なんだよっ!!』って、~~~きゃー!)クネクネ


その様子をキッチンの陰から覗くインデックスは、


禁書「………」

禁書(一回、病院とかに連れて行こうかな……)


美琴の頭のほうを心配していた。

美琴「ふぅ…」

禁書(なんだか晴れやかな顔をしているんだよ…)

美琴「さっ!洗い物しちゃお!」ガタッ

禁書(うわっ!こっちにきたかも!)ビクッ

美琴「あれ?インデックス、まだいたの?」

禁書「あ、ええと、その…て、手伝おうと思って!」

美琴「いいのよぉぅ別に~、テレビでもみてなさい☆」キャピッ

なんだろう。

この得体の知れないハイテンションは。

なんだか気持ち悪い。

とにかく、今は離れよう。

なんだかこわい。


禁書「あ…わ、わかったんだよ」タタタッ

美琴「ふふん♪ふふふーふふふふーん♪」


キッチンからは、終始鼻歌が聞こえていた。

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キュッ


静かなキッチンに、蛇口を閉める音が響いた。

カウンター越しに見えるインデックスは、ぼーっとした目でテレビを見ている。

おじさんが名目上『国民のため』の政治論を建築し、その他のおじさんたちがそれを取り壊す番組。

勧善懲悪もなければ正解不正解もない、そんな無味乾燥な番組。

そんな番組がつまらないのか、少女は大あくびをしている。

そんな光景を見た後、私はそっと外へ出た。

音もたてずにドアを閉める。

冷たい外気に抱きしめられると、私が私になっていくような、そんな感じがする。


美琴「……」


眼下に広がるのは無人の駐輪場。

一直線の廊下にも、人の姿は見えない。

私一人の空間。

目新しいものなんて無い、私を中心にまわる世界。

そんな何もない世界にいると、人はいつもより自分自身を客観視することができる。


冬の空は、私にノスタルジーに似たものをを運んできた。

ここに来て3日目だが、いろいろなことがあった。

私が知らない自分。

わがままな私。

いじっぱりな私。

意外と料理ができる私。

ちょっと寂しがりやな私。

そして、甘えん坊な私。

美琴「………」


甘えん坊な私…

甘えん坊な…


『アタシのこと…………スキ?』


美琴「…………」


『インデックスぅ、アタシのこと…………スキぃ?』


美琴「………………」


『ねぇ~ん、アタシのことぉ………………スキ?』(笑)



美琴(うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!やっちゃったぁぁぁぁぁぁ!!)ガバッ


寒空の下、男子寮の廊下で、女の子が一人。


美琴(うわぁぁぁぁぁぁどうしよぉぉぉぉぉ)


頭を抱え、懊悩している。

まるでどこかの原住民に捕らえられたイモムシのように、うねうねうねうねうねう


??「…………御坂?」

美琴「へあっ!?」ビクッ!


見られてしまった。

わたくし御坂美琴の人生でも最もドス黒く輝き続けるであろう歴史の片鱗を。


??「あー………」

美琴「えーと、えーと………………ね?」


何言ってんだ私。

脳みそフル回転で導き出した言葉が『ね?』って。


??「…………とりあえず、入るかー?」

美琴「…おじゃまします」クスン


間違いない。

今日は厄日だ。

 


舞夏「兄貴は仕事でいないから、ゆっくりしていけー」コトッ

美琴「アリガトウゴザイマス…」ズズッ


市販のものとは比べ物にならないほどおいしいカプチーノ。

だが今はそんなシロモノでさえも無味に感じる。

たくさんのトレーニング器具といかがわしいメイド系雑誌であふれかえっている部屋。

その部屋の中央のテーブル、私の対面に座るメイド少女、土御門舞夏は…


舞夏「ニヤニヤ」


二ヤケ顔で、私を見ている。

 

舞夏「で?」ニヤニヤ

美琴「…なにが」

舞夏「なんで部屋の前でうねうねしてたんだー?」

美琴「……直球で聞くわね」

舞夏「あんなの変質者くらいしかしないからなー。気になる」

美琴「はーい黙秘権ー。プライバシーの権利ー」
舞夏「あっ、こらー!耳をふさぐなー!」

美琴「答えなきゃ……だめ?」

舞夏「『だめ』って言ったらー?」

美琴「刺し違えてでも…」

舞夏「落ち着けー、変質者。」

美琴「変質者言うな!」


『姦しい』という言葉は女性が三人集まるとぎゃあぎゃあと騒がしいというのが由来らしいが、二人でも十分騒がしい。

間延びした声が、優秀なペースメーカーとしての役割りをしているのだろうか?


舞夏「で?」

美琴「今度は何よ…」

舞夏「なんで3日前から隣に住んでるんだー?」

美琴「あれ?よく3日前からってわかったわね?」

舞夏「実はそこに穴が空いているのですー」

美琴「それホント?本当なら今粛清しちゃうけど」バチバチィ!

舞夏「キレやすい若者はダメだぞー。冗談に決まってるだろー?」

美琴「じゃあなんで知ってるのよ?」

舞夏「だってお前ら、うるさいからー」

美琴「…そんなにうるさい?」

舞夏「うるさいぞー。うるさすぎて兄貴と
イチャつけないんだぞー」

美琴「えっ」

舞夏「ん?」

美琴「いや、アンタの兄貴って確かアイツと同い年じゃ…」

舞夏「そんなことより、」

美琴「露骨だけどすごくキレイなスルーね」

舞夏「御坂ー、なんか悩んでないかー?」

美琴「………え?」

舞夏「どうなんだー?」

美琴「……いや、悩みなんて何も…」

舞夏「あーウソついたー」

美琴「ホ、ホントよ!ウソじゃないもん!」

舞夏「………メイドさんはなー、」

美琴「ん?」

舞夏「ご主人様の身のまわりのお世話だけじゃ無くて、表情から気分や体調、その他もろもろを察せなきゃいけないんだぞー?」

美琴「………」カチャ‥

冷えたカプチーノを口に含む。

空気を介して侵入してくるマイルドな香り。

食道を通過した冷たい液体が、噴門を通り、するりと胃に落ちる。


舞夏「で、御坂自身はどうありたいんだー?」


すべてを見透かしたような目を向ける少女。

このまま、すべてを話してしまおうか。

シスターではなく、メイドに。

ぶちまけるように、懺悔してしまおうか。

美琴「アタシは…」


無意識に、ギュッと服を握りしめる。

私は、インデックスのことが好きだ。大好きだ。

あの子を見るたび話すたび、好きな気持ちが膨らんで、張り裂けそうで、苦しくて。

でも、私は、私はまだ、


上条当麻のことも、大好きだ。

 

今朝の情緒不安定な行動。

それは優柔不断な情けない私が、心の奥から這い上がってきたものなのではないだろうか。

そもそも、アイツとインデックスを同じ天秤に乗せる勇気が、私にあるのだろうか。


私は、『どうありたい』のだろうか。


美琴「アタシは…」

 

美琴「アタシは…」


臆病で優柔不断な私の、小さな決断はまだ、


美琴「姫で、いたい」


秘めていたい。

 

舞夏「…そうかー」

舞夏「じゃ、これ以上は詮索しないわー」

美琴「………あの」

舞夏「んー?」

美琴「今日は……ありがとね」

舞夏「どういたしましてー」


心の奥に、想いの炎をそっと隠した。

優柔不断なお姫様の、ささやかな秘めごと。

私は、上条当麻が大好きだ。

でも、

 

泣いた顔。

笑った顔。

怒った顔。

眠そうな顔。

不安そうな顔。

空腹の顔。

満腹の顔。

私と同じ髪の匂い。

触れていたい体温。

かわいらしい仕草。

 

 

そのすべてが臆病者の私を勇敢にしてくれた。

守って、護って、目ってあげたい。

たとえ彼女が私のことを好いていても、嫌っていても。

全力であの子を笑顔にしてあげたい。

この想いがばれないように、姫でありながら。


美琴「じゃあ、そろそろ行くね」


優柔不断な私の心よ。

もう今朝のように迷うことはないだろう。

今の私には選択肢が一つしか無いんだから。


---私は、インデックスを愛してしまったんだから

 

舞夏「おー。気をつけてなー」

美琴「気をつけてって、すぐ隣じゃない」クスッ

舞夏「…御坂ー」

美琴「ん?」

舞夏「選んだ道は、けわしいぞー」

美琴「……メイドさんってのは、みんな読心能力者か何かなの?」

舞夏「さぁなー。ま、一応応援するぞー」

美琴「ありがとね。一応でも、うれしいわ」

舞夏「じゃ、暴食シスターによろしくー」ヒラヒラ


ひらひらと手を降るメイド少女を後ろにその部屋を出ると、冬の朝の清々しい風が私を迎えた。

 

 

----------

まぶたに光を感じる。

朝の冷たい空気。

深い眠りからゆっくりと、しかし確実に覚醒へと向かう脳。

階段を一歩一歩登るような感覚。

毎朝の楽しみの一つだ。

この階段を登り切った後、いつものように俺は


??「あなたー!!」ピョーン


一杯のブラックコー…ドスン!!


??「うが…ァァァァァァ……!」

とんだ思い違いをしていた。

今まで階段だと思い込んでいた段差は、クソったれなエスカレーターだったらしい。


??「ふぐゥゥゥゥゥ…うァァァァァ…」ゴロンゴロン


打ち止め「あれ?もしかして入っちゃった?ってミサカはミサカはもやしっ子なあなたを心配してみたり」


10歳くらいの女児一人の体重を30㎏弱だと考えよう。

人体におけるの弱点一つであるみぞおち。

そこに10歳前後の女児が突っ込んでくるというのは、先のとがった米俵をみぞおちにぶつけられたのとほぼ同義なのだ。

悶絶、どころの騒ぎでは無い。


一方通行「死ンだ……俺今絶対死ンだァァァ………」


たとえ、学園都市トップの男であってもだ。

打ち止め「大丈夫!生きてるよってミサカはミサかは体を丸めてるあなたに全力エール!」フレーフレー


ああもう最高に黙らせたい。

ガムテープでもはってやろうか。


一方通行「こンのォ…………アホガキがァァァァ!!」ガバッ

打ち止め「あ、起きた!」

一方通行「『起きた!』じゃねェよクッソガキィィィ! お前やっていいことと悪いことの」

打ち止め「おはよう!あなた!」ニコッ

一方通行「……………おゥ」

その後すぐにタタタッと部屋を出て行ってしまった。

怒鳴った時は恐がっているそぶりを見せなかったが、やっぱり、恐かったのだろうか。

正直、少しもの寂しい。

方法はどうであれ、起こしてくれたことにはかわりない。

なにも怒鳴ることなんて無かっ


打ち止め「ヨミカワ隊長! ねぼすけウサギを起こしてきました!」ビシッ

黄泉川「よくやった! 打ち止め一等兵!」ビシッ

打ち止め「ありがとうごさいます! あいかわらずのモヤシでした!」フンス


よし、シバく。

 

打ち止め「う~~~、痛い~ってミサカはミサカは非難がましい目であなたをギロリ」

一方通行「ほォう、まァーだチョップされてェのかァ?」

打ち止め「う~~~! あなたのいじわるっ!ってミサかはミサかはポカポカ!」ポカポカ

一方通行「反し…」カチ

打ち止め「えいっ」ビリッ

一方通行「sdffgvdjsefyvdjb!!!」ボフッ

打ち止め「えへへへへーってミサカはミサカはソファーでもぞもぞしてるあなたに頬ずりしてみる」スリスリ

一方通行「ぶっはァ! てンめェェェェェ! まァた予告無しに」

黄泉川「うるさいじゃん!」カッ!!

一方通行「……………ハィ」

芳川「ふふ…朝からアツいわね」ズズズ‥

一方通行「コーヒーだよな? そのコーヒーのことなンだよな?」

芳川「あら、あなたが一番よくわかってるんじゃないかしら?」

一方通行「ニートこじらせて頭おかしくなったンですかァ?」

芳川「………ロリコン」ボソッ

一方通行「今なンて言ったコラもういっぺン言ってみろやニートコラァァァ!」ガタッ!

黄泉川「一方通行…?」ニコッ

一方通行「…………ゴメンナサイ」

黄泉川「桔梗も煽らないじゃん」

芳川「うふふ。自宅警備員に説教は効かないのよ」ズズズ‥

黄泉川「もう、桔梗もさっさと職探したらどうじゃん?」

芳川「間に合ってるわ」ズズ‥

黄泉川「何が間に合ってんじゃん…」

芳川「………愛穂」

黄泉川「なんじゃん?」

芳川「そんな小言ばっかり言うなら、もうよがらせてあげないわよん」ウィンク☆

黄泉川「なっ……///」カァァァ

一方通行「」

芳川「ま、それでも探せっていうならしょうがないわね」

黄泉川「あ! いや、その…なんじゃん…ゴニョゴニョ///」

芳川「んー?なぁに聞ーこーえーなーいー」

黄泉川「そ、そんなこと…言わないで欲しい…じゃん………///」

芳川「うふふ、しょうがないわねぇ愛穂は」

黄泉川「///」


打ち止め「ねぇあなたー、ヨガラセルってなぁに?ってミサカはミサカは好奇心をあらわにしてみる」

一方通行「ダルシムのことだよ。ヨガを極めたすごいやつだよ」

打ち止め「そうなんだ!ってミサカはミサカはまた一つ賢くなったぜイェイ!」



黄泉川家の朝はあわただしく過ぎてゆく。

 

----------

 

芳川・黄泉川「ごちそうさま」

打ち止め「ごちそうさまってミサカはミサカは何も言わないあなたをじ~~~っ」ジロジロ

一方通行「…………ごちそうさま」ボソッ

芳川「よくできました一方通行」

黄泉川「エライじゃん一方通行」

打ち止め「やればできるじゃん一方通行ってミサカはミサカはヨミカワの口調をまねてみる」

一方通行「おまえらバカにしてンだろ」

芳川「ええ」

一方通行「……クソレズニート」

芳川「レズじゃないわよ。ただ可愛い人が好きなだけよ」

芳川「打ち止めは今日どうするの?」

打ち止め「今日は服を買いに行くのってミサカはミサカは漠然としたプランをさらしてみたり」

一方通行「ほォう、誰と?」

打ち止め「あなたに決まってるでしょってミサカはミサカはまたまた不満!」

一方通行「ハッ、お出かけは夢ン中だけで十分だろォが」

打ち止め「えー!そんなのヤダヤダってミサカはミサカは足をバタバタして猛抗議!」バタバタ

一方通行「バタバタしてもダメなもンは
ダァメですゥー」

打ち止め「ヤダヤダヤダヤダ!」バタバタ

黄泉川「一方通行、いじわるしないで連れてってやるじゃん」

一方通行「……チッ、しゃァねェなァ…連れてってやるよォ」

打ち止め「ホント!?やったー!ってミサカはミサカは感謝感激!」


黄泉川(最初から連れてってやるつもりだったクセに…素直じゃないじゃん)クスッ

芳川「最初から連れて行ってあげるつもりだったクセに…素直じゃないわねぇ」

黄泉川「なんで言っちゃうじゃん…」

打ち止め「そうだったの?ってミサカはミサカはあなたの顔をのぞき込んでみる」

一方通行「バッ…! ン、ンなワケねェだろォが! 思い上がンな!」

打ち止め「……そうだよねってミサカはミサカは意気消沈…」

芳川「あーあ。やっちゃった。あーあ!」

黄泉川「桔梗…いつもよりなんかかがやいてるじゃん…」

一方通行「だァァ! もォうっせェ! オマエも早く着替えてこいクソガキ!」

打ち止め「! うん!ってミサカはミサカはあなたの優しさを再確認!」タタタタタッ!

一方通行「優しさ、ねェ…」

芳川「……一方通行」

一方通行「あン? まァたなンか嫌味ですかァ?」

芳川「違うわよ。あなた、気づいていないの?」

一方通行「はァ?」

芳川「いや、気づいていないフリをしてるのかしら?」

一方通行「はン。なンのことだかサッパリだぜェ」

芳川「あの頃のあなたと今のあなたが、ぜんぜん違うってことよ」

一方通行「……ハッ、意味わかっンねェな」

芳川「結論から言わせてもらうと、あなた、そうとう人間らしくなったわ」

一方通行「俺が…?」

芳川「あなた以外に誰がいるのよ」

一方通行「俺が…人間らしくなっただァ?」

芳川「ええ」

一方通行「………くきゃ…くきゃくかかかかかか!」

一方通行「この汚れた手のクソッタレなクズヤローが人間らしいだァ?」

一方通行「笑わせンじゃねェよ!」

一方通行「俺は…俺は汚れてなきゃいけねェンだよ…キレイじゃダメなヤツなンだよ!」

黄泉川「一方通行、それはちが」

芳川「それは違うわ」

一方通行「!」

芳川「一方通行、あなたが鏡に映った自分を汚らしいと思おうが思うまいが、正直どっちでもいいわ」

芳川「でもね、打ち止めと出会って、打ち止めと一緒にいて、打ち止めを護って、何か変わったと思えるものが心のどこかにあるんじゃないかしら?」

一方通行「…っ」

芳川「一方通行、あなたはもっと胸をはって、堂々と生きるべきよ。」

一方通行「…でも、俺なンかにそンな資格は」

芳川「資格って何よ。生き方に資格が必要なら、日本全国のニートはみんな死んでるわよ」

芳川「もう一度言うわ。もっと胸をはって生きなさい、一方通行。そうでなきゃ打ち止めにも失礼だわ。」


芳川「あなたは昔より、ずっとずっと優しくなったんだから」

一方通行「芳川…」

黄泉川「桔梗…」グスッ


芳川「幼女だけには、ね」


一方通行「芳川ァ………!」

黄泉川「台無しじゃん…」

ガチャ!

打ち止め「おまたせーってミサカはミサカは……ってあれ? どうしたの?」

黄泉川「なんでもないじゃん……」

打ち止め「ふーん? それよりあなた!早く早く!ってミサカはミサカはあなたをエスコート!」

一方通行「チッ…エスコートの意味わかってンのか………よっと」グイッ


黄泉川「///」ボンッ

打ち止め「ヨミカワ!ヨシカワ!行ってきますってミサカはミサカは元気にあいさつ!」

一方通行「じゃ、行ってくる」カツ.カツ.

芳川「うふふ…いってらっしゃい」

黄泉川「車に気をつけるじゃん」

一方通行「…………芳川ァ」

芳川「ん?」

一方通行「その……ありがとな」ボソッ

芳川「さぁ、なんのことかしら」

一方通行「…….ケッ」


カッ.カッ.カッ...バタン!




芳川「……さて、愛穂」

黄泉川「は、はい!」ビクッ

芳川「私たちは私たちで……楽しみましょうか」グイッ

黄泉川「ひゃ、ひゃあい……///」

芳川「うふふ…」

 

 

 

----------

ガチャ


鋭く冷えた金属のドアを、私はためらい無く開けた。

嗅ぎ慣れた甘い匂いが、鼻腔から全神経を占領していく。

大好きな匂い。

いつの間にかカレーの匂いはどこかに消えてしまったようだ。


美琴「ただいま」


外出が悟られないよう小さな声で、かつ帰宅を知らせるよう大きな声で。

二つの背反した目的がぶつかって、最終的には不自然な大きさの変な声が出た。

がやがやとしたテレビの音。

その波に混じって「おかえり」という帰宅を歓迎する言葉は聞こえない。

「おかえりは?」という風に必要以上に耳をすましてしまうあたり、私はまだまだ小さいようだ。


生活スペースまで一直線に伸びる冷たい廊下。

その先にいるであろう少女は、どんな顔で、どんな目で、どんな体勢で私を迎えるのだろうか。

玄関で少し立ち止まって考る。

もしもイヤそうな、「来ないで下さい」という空気で迎えられたら、私はどうなってしまうのか、と。

おじさん達の保守的な政論をBGMとした、静かな部屋。

私はためらいながらも、凍るようなフローリングに降り立つ。

一歩、また一歩と進むたびに悪魔が囁く。


『お前のことがキライだから、「おかえり」と言ってくれないんだ』

『同性愛者かもしれない人間に、優しくしたら何をされるかわからないだろう?』


臓物を直接犯されたような吐き気が、突然襲ってきた。

自分の弱いところを圧迫されて、水鳥みたいにキーキーもがく。

足取りは、重い。

こんなにも、こんなにも自分が弱いとは思わなかった。

パジャマを着た、小さな背中が見えた。

ドクン、と鳴くチキンハート。

あいかわらず退屈そうな感じで、テレビのある方向を向いている。

打ち立てた被害妄想。

さっき私が悪魔の囁きと言い換えた、脆弱な自分の心。

それがより現実味を帯びて、私にのしかかってきた。

もう一度、『さっきのは何かの間違いかも知れないから』と言い聞かせ、


美琴「………ただいま」


すがるように、言葉を発する。

 

返事はない。

キッチンカウンター越しに見えるインデックスの背中。

机に身を預けているので、柱に顔が隠れて見えない。

一歩進めば、目が合うだろう。

さっさとそうすればいいのに。

そうすれば全部、全部悟ることができるのに。

私の足は鉄球を付けた囚人のように、動くことを拒んだ。


美琴(やっぱり…か)


ハハッと乾いた笑いがでた。

諦めの混じった、卑屈な笑い。

返事は、ない。



打ち止め「ねーねーあなた、レズってなぁにってミサカはミサ」

一方通行「気にすンな。おまえには一生縁のねェもンだ」

打ち止め「むぅってミサカはミサカはちょっぴり不満」

パジャマの少女の背中は動かない。

息をするたびに、膨らみ、しぼむ。

ただそれだけ。


美琴(………ん?)


何かがおかしい。

カウンター越しに見える背中は、とても覚醒状態にある人間のものとは思えない。

打ち立てられる一つの仮定。

それの最も簡単な証明方法は、一歩前へ進むこと。


美琴(もしかして…)


仮定にすがりつく形で一歩、前へと進む。

するとそこには、


美琴(やっぱり)クスッ


天使のような顔をした、ねぼすけがいた。

ーー真実は時に人を殺し、時に蘇生する。


どこかで聞いた格言を簡略化したものだが、その通りだと思った。

さっきまで私の中であぐらをかいていた悪魔はもういない。

弱い心が、少し強くなったような気がした。



くぅくぅと寝息を立てるインデックス。

がやがやと騒がしいおじさん達の怒号。

机に上半身をあずけ、すやすや眠る少女。

それはまるで彼女だけがどこか別の場所から切り取られ、貼り付けられたような異質さを漂わせていた。

美琴「もう。こんなところで寝てちゃ、風邪ひくわよ」


母親のようなことを言い、近寄る。

すると机には、


美琴「うおっ!」ビクッ


世界地図が、具体的に言うとユーラシア大陸が、唾液で描かれていた。

----------

湯で温めたタオルで顔を拭いてあげる。

少女は『いやいや』をしたが、「構うものか」と強引に、だが優しく肌を滑らせる。


美琴「ほら、だらしないことしないの!」フキフキ

禁書「う~~~!」イヤイヤ


「ベッドで寝なさい」とたしなめ、テレビを消すためにテレビに近寄る。

カチッというプラスチック的な音と共にテレビの電源が落ちた。

「まったくもう」と言って振り返ると、


禁書「うゆ……」フラ~

美琴「うおおおおい!」キャッチ!


また、粘液の海にダイブしようとしていた。

その頭を必死でキャッチする。
美琴「はぁ…」


ため息をつく美琴。

その顔はどこか嬉しそうで、ニヤニヤとしていた。


美琴「まったくもう…よいしょ」グイッ


本日二度目の『まったくもう』の後、俗称:『お姫様抱っこ』でベッドまで運ぶ。


禁書「ふふ…」スリスリ


『思ったより軽いな』などと思っていると、胸に頬ずりをして甘えてきた。


美琴「あ~もう、猫かお前は」


本来ならばそのまま抱きしめて頬ずりをしたいほど愛らしいが、もし起きてしまった時を想定して、悪態をつく。

終始、二ヤケながら。

 

----------

禁書「ぅん…ん?」パチ


ありのままに起こったことを話そう。

『私はテレビを見ていたのに、いつの間にかベッドで寝ていた。』

何を言ってるかわからないと思うが、私にもわからない。


禁書「………」


くだらないことがスラスラと出てくるあたり、私の脳はきちんと覚醒しているようだ。

ムクリと起き上がり、辺りを見回す。

が、御坂美琴の姿は無い。


禁書「………みことー…」


…返事がない。

出かけているのだろうか?

禁書「むぅ…またわたしを放ったらかしに…」


そこまで言って思い出す。

あの変な御坂美琴を。

トチ狂ったテンションの、絡むとめんどくさいランキング上位に君臨しそうな御坂美琴を。

私の優れた記憶力は、瞬時にフィードバックさせた。


禁書「何だったんだろ…アレ」


この時ばかりは、『夢だった』で片付けられる人間が羨ましい。

私の優れた記憶力は、夢オチを許さない。

うんうんと考えていると、


美琴「ただいまー」ガチャ


ドアの音が聞こえた。

ベッドから跳ね起き、裸足でペタペタと玄関までかけて行く。


禁書「お、おかえり!」


「また変なみことだったら変装を疑おう」と、アステカ辺りの原典を脳内で開く。

見た感じ魔翌力は無いな、と思っていたら、


美琴「あ、起きたの」

美琴「ただいま、インデックス」ニコッ


そこには


禁書「う、うん」ドキッ


いつもの、御坂美琴がいた。

美琴「『コンビニ行って来ます』って書き置きして行けばよかったわね。寂しかった?」

禁書「むっ!子供扱いしないで欲しいかも!」プクー


ここに来て何度も見た仕草。

この子は気に入らないことがあった時、
頬を膨らませるクセがあるようだ。


美琴「そうよね。インデックスはオトナだもんね」

禁書「そうだよ。 わかればいいんだよ、わかれば」フフン


腕を組んで胸を張り、仁王立ちをする銀髪の少女。

しかし私の知っている仁王様はこんなにちんちくりんではない。


美琴「じゃあこの……」ガサゴソ

禁書「?」



美琴「子供に大人気のホイップクリームプリンはいらないわね」

禁書「………」ジ~ッ


何だかギラギラとした視線がホイップクリームプリンを持つ右手に突き刺さる。

まるで『おあずけ』をくらった犬のような表情だ。


禁書「ま…まぁ、今日くらいはお子様気分を味わってあげてもいいかななんて思ったりしちゃったりするんだよ」

美琴「なに錯乱してんのよ。 そんな無理しくても、アタシが食べるからいいわよ」

禁書「で、でもでも! いつまでも若々しい気持ちを保つにはこういうのも必要だって、主様が言ってたり言わなかったりしてたんだよ!」

美琴「カミサマはそんなこと言わないわよ。 それ以前に今のはシスターとしてどうなのよ」

禁書「でもでもでも! そのホイップクリームプリンはわたしの胃袋に入ることを望んで止まない感じかも!」

美琴「どんだけマゾなのよこのプリン。そんな危なっかしいものならアタシが食べてあげるわよ」

禁書「むむむむむ……!」

美琴「もう終わり?」ニヤニヤ

禁書「む~~~!」ジワッ

美琴「へ!? いやいやプリンくらいで泣かないでよ!」

禁書「罪悪感に…ヒグッさいなまれると…いいんだよっ……!」ウルウル

美琴「なに小者っぽいセリフ吐いてんてよ! わかったから! わかったから泣き止んで! ね?」

禁書「ほんと……?」ウルウル

美琴「ホントホント。ほら、居間に行きなさい」

禁書「…わかった」ゴシゴシ

美琴「ほんとにお子様ね…」クスッ

禁書「違!…わないけど違う…ことも無いっていうか…」ゴニョゴニョ

美琴「もうイジメないから素直に『違う!』って言いなさいよ」

 

----------

テーブルを挟んで対面する二人。

ベッド側にはインデックス、テレビ側には美琴が座っている。

先程からインデックスは落ち着きが無い。


禁書「さぁみこと………さぁ!」バッ!


片ヒザを立て両手を広げ、キラキラした目でプリンを迎えようとする。

なんだか、テンションがおかしい。


美琴「わかったから、ちょっと落ち着きなさい」ガサゴソ

禁書「わくわく」

美琴「はい」トン


テーブルの真ん中に、赤いパッケージで長方形のおかしが置かれた。


禁書「…………へ?」


そう、


美琴「おいしいわよ?」


ジャパニーズ・トラディショナル・スイーツの代表、『都こんぶ』である。

禁書「」ズゥーン


突然鉛のように沈んだインデックス。

まるで地球が終わるかのような表情をしている。


美琴「そ、そんなに沈まないでよ。 はい。 」コトッ


今度はちゃんとプリンを置いた。

すると、


禁書「はぁぁぁぁ」キラキラ


花が咲いたように元気になった。

この子はとてもからかい甲斐がある。


禁書「みこと! ありがとう!」ニコッ

美琴「ふふっ、どういたしまして」


さっきまでイジメていた人間に、懐いてきた。

この子がDV野郎に引っかからないか、とても心配だ。

 

----------

禁書「~♪」モチャモチャ

美琴「……それ、そんなにおいしい?」

禁書「うん!」モッチャモッチャ

美琴「そ、そうなんだ」

禁書「なんていうのかな、この味付けがたまらないよね! 」モッチャモッチャモッチャ

美琴「…うん」

禁書「これがエキゾチックジャパンなんだね! ううん、そうに違いないかも!」モッチャモッチャモッチャモッチャ


どうやら、いたく気に入ったようだ。


禁書「ごちそうさま! もう無いの?」ズイッ

美琴「寄るな。 酢昆布くさい」


嫌がらせのために購入した、『みやここんぶー』を。

禁書「えー! なんでもっと買わなかったの? 『みやここんぶー』!」

美琴「そんなにおいしかったの?」

禁書「うん! なんていうのかな、あのビネガーの」

美琴「わかった。 わかったから『都こんぶ』に『ビネガー』なんて小ジャレた言葉を使わないで」

禁書「あー! 『みやここんぶー』をバカにしちゃダメなんだよ! カミサマの天罰が下るかも!」

美琴「力の使い所を間違えたクソくらえな神様ね」

禁書「はぁ…これだからニッポン文化を知らない人は」ヤレヤレ

美琴「アタシ日本人。 あなた外国人。 OK?」

美琴「だいたい何よ、『みやここんぶー』って。『ぶー』って何よ?」

禁書「『みやここんぶー』は『みやここんぶー』なんだよ」

美琴「とろろ昆布は?」

禁書「とろろ昆布だよ」

美琴「なんだかややっこしいわね」

禁書「えへへー」

美琴「褒めてないわよ?」

禁書「むぅ…」

禁書「とにかく、『みやここんぶー』は『みやここんぶー』であって、それは『みやここんぶー』以外の何者でもないっていう『みやここんぶー』が創り出した『みやここんぶー』独自の『みやここんぶー』」

美琴「あーもう、ぶーぶーうるさい!」

禁書「ぶぅ」プクー

美琴「てかなんで都こんぶだけ『みやここんぶー』になるのよ…」

禁書「それだけじゃないよ。 『けいたいでんわー』もあるよ」

美琴「………へ? 携帯電話?」

禁書「うん。けいたいでんわー」

美琴「持ってるの?」

禁書「うん。 なんと! ぴかぴか光るんだよ!」フフン!

美琴「残念ね。 アタシのも光るわ」

禁書「むぅぅ」ムスッ

美琴「ていうかさ、そういうのは先に言いなさいよ。今どこにあるの?」

禁書「………行方不明なんだよ」

美琴「携帯電話を携帯しない人って、ダメだと思うの」

禁書「う~~~! だって! わたしのけーたいでんわーはブルブル震えるんだよ!
ぴかぴか光って、大きな音が出るんだよ! 明らかに怪しいでしょ!?」

美琴「残念ね。アタシのもブルブル震えてぴかぴか光って大きな音が出るわ」

禁書「まねっこ無しなんだよ!」

美琴「そういうモンなのよ」

禁書「なんだ。そういうものなんだ」

美琴「ちょっと待って、すぐ探すから」

禁書「? どうやって?」

美琴「こうやって」バチッ!




美琴「ベッドの下辺りから不自然な電波が出てるわね……」

禁書「えーっと」ゴソゴソ

禁書「あ! 何かあるんだよ!」グイッ

美琴「お!見つかった?」


ばさっ!


『週刊:オトコの世界 ~今月はノンケ祭り~』


禁書「……………」

美琴「……………」

禁書「で、電波が…」

美琴「出てないから早く戻しときなさい」

禁書「うん………」

禁書「あ! これっぽいかも!」ゴソゴソ

美琴「あなたの切り替えの早いところ、好きよ」

禁書「あった!あったよみこと!」

美琴「よかったわね。じゃ、赤外線で交換しよっか」

禁書「せきがいせん? なんだか強そうかも!」

美琴「残念ながら強く無いわ。 たとえ強かったとしても不可視光だから見えないのよ」

禁書「不可思考? 考えちゃダメってこと?」

美琴「誤認して漢文にシフトしちゃったか。 まぁいいわ、貸して」

禁書「…………大切に、してあげてね」

美琴「数十秒で返すわよ」

ピッピッピ……ピロリン♪


美琴「はい。登録しといたから」

禁書「ありがとう! おかえり、けーたいでんわー!」

美琴「もうなくしちゃダメよ?」

禁書「うん!」

美琴「…………それよりさ、」

禁書「?」

美琴「あの本……インデックスの本?」

禁書「『月刊:オトコの世界 ~今月はノンケ祭り~』のこと?」

美琴「素晴らしい記憶力ね。うん、それ」

禁書「そんなわけないんだよ。わたしは腐女子じゃないし」

美琴「赤外線知らないのになんで腐女子は
知ってんのよ。どんだけかたよった知識よ」

禁書「まいかに教えてもらったんだよ」

美琴「あのメイドは一回オシオキしないといけないみたいね」

美琴「ん?」


ということは、あの本は必然的に上条当麻の所有物ということになる。

アイツが?アイツがあんなの買うの?

いやいやそんなワケない。

こんなに可愛らしい白人ロリシスターがいるのに、あんな色々とゴツい雑誌買うワケない。

おおかた、あの友達たちにもらったんだろう。

そうだ、そうに違いない。


禁書「おーい、みことー?」

美琴「ふえっ?」

禁書「話聞いてたー?」ムスッ

美琴「あー、ごめん。ぼーっとしてた」

禁書「もう。もう一回言うから、聞き逃しちゃダメなんだよ。今日、どこか行かない?」

美琴「ああ、そんなことか。いいわよ。どこ行きたい?」


無理やりに自己解決して、早々に忘れ去ることにした。

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