サーシャ「亡命します」 > 7


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ルチア「終わりましたね…まだ戦いますか?」


殲滅白書のシスター達「うっ……」


今度こそ本当に殲滅白書のシスター達は武器を捨て、完全に戦意は失われていた


アニェーゼ「最大主教に連絡は付きますか?処刑塔の方から人を呼んで、全員連行してもらいます。」


アニェーゼは気絶したヴェロニカの襟首を掴み、ズルズルと引きずっている

その光景を見てまだ抵抗しようと思える者は居ないだろう


五和「サーシャちゃんは、どうなるのでしょうか?」

アニェーゼ「それは上が判断する事です。それよりもッ!!」

五和「!?」


ダンッ!と地響きが起こる

だがそれは地震ではない、ミーシャが上空から黒曜石の様な翼で攻撃してきたのだ


巨大な黒曜石の様な翼の一部が離脱し、地上に雨の様に突き刺さる


五和「サーシャちゃん?」

ミーシャ「私見一、あなた方に再び生を与え、この戦いの勝利のためにあなた方は神の力を借りた。私見ニ、その代償を要求する。」

ルチア「だ、代償ですって!?」

アニェーゼ「やっぱ、みんな生き返ってハッピーエンドですなんてわけにはいかねえみたいですね。
一体何が望みなんです…?っていうか二人称を統一してください。」

ミーシャ「解一、生死の理を覆し、あなた方に生命を与えた。ならばそれに等しい代償を要求する。」

アンジェレネ「等しい代償って、誰かの命ですか!?」

ミーシャ「私見三、それも一つの選択。提案一、あなた方の敵の命でも構わない。」


その言葉を聞き、ルチアは殲滅白書のシスター達の方を見た

すると、彼女等は怯え、目を逸らし、或いは誰かの後ろに隠れるなどとにかく目立つ事を避けようとした
当然だ、誰だってこんなところで生贄にされて死にたくはない


アニェーゼ「命に等しい代償は、他には無いんですか?」

ミーシャ「解ニ、あると思うのならそれを示されよ」

五和「もしも代償を差し出さなければ?」

ミーシャ「解三、全ての命を理において本来あるべきところに戻す。サーシャ・クロイツェフはそのために使わせてもらいましょう。」


つまり、全員死ぬという事だろうか

 

 

ルチア「誰かが犠牲になれば、それを避ける事ができるのですか?」

ミーシャ「解四、それを代償とする事を認める。」


ならば誰が死ぬ?
誰が犠牲になる?

どう転んでも後味は悪くなるが、このまま全員死ぬのはごめんだ



ルチア「どうします?シスターアニェーゼ」

アニェーゼ「……」


アニェーゼはもう一度殲滅白書のシスター達を一瞥した

確かに彼女らには死ぬほど恨みがある。むしろ死んだのだから。


五和「ですが、彼女らのうち誰かを差し出して、私達が生き残るのも…」

アンジェレネ「……」


アニェーゼ「分かりました。死ぬのは一人でいいですか?」

ミーシャ「……」

アニェーゼ「だったら、アニェーゼ部隊の代表として私が犠牲になります!」
ルチア「アニェーゼ!」

アンジェレネ「そんな、シスターアニェーゼ!」

ミーシャ「承諾、あなたの申し出を受け入れましょう。では」


五和「待って下さい!」

ミーシャ「?」

五和「サーシャちゃんは私の友人です。ですから、サーシャちゃんを助けるためにも、ここは私が犠牲になるのが筋ってものでしょう。」

アニェーゼ「五和、何言ってやがんですか!サーシャだけじゃない、私の部隊全員の命も懸ってるんです。
ここは私が犠牲になるべきでしょう!」

ルチア「ならば、私がなりましょう。同じイギリス清教とは言えど、我々部隊の人間が助かるために
部外者の五和さんを犠牲にするわけにはいきません。五和さんがなるというのなら、私も犠牲になりましょう。」

アンジェレネ「じゃ、じゃあ私も!アニェーゼやルチアが犠牲になって死んだら、アニェーゼ部隊は終わりです!
私はそんなの嫌です!二人が居ない毎日なんて嫌です!だから!」

ルチア「アンジェレネ……」

アニェーゼ「ああもう、話がこじれてきたじゃないですか!」

五和「ですから、ここは私が!」

「小さなアンジェレネが勇気を出してんのに、私達がここで怖気づくわけにはいかないわ!私がなります!」

「だったら私だって!」

「いいえ、ここは私が!」

「じゃあ私がなります。」

「どうぞどうぞ」

「おい!」


もはや収集が付かなくなってしまっていた

殲滅白書のシスター達はポカーンとした顔で不思議なものでも見るかのような目で彼女らの様子を見ていた

それもそうだろう。なんで自分から進んで死にたがるのやら。

なんでアニェーゼ部隊の人間は、ここまで自分の命を犠牲にしようと思えるのやら
ミーシャ「……」


アニェーゼ「ここは私が犠牲になればいいんですよ!」

ルチア「あなただけに良い格好はさせませんよ!」

五和「私がなりますよ!確かにまだ上条さんにこ、こ、告白とかしてないのが悔やまれるけど…」

アンジェレネ「こ、こうなったら、ミーシャに決めてもらえばいいんじゃないですか!?」


アンジェレネの一言でその場の全員がミーシャの方に視線を集めた


全員「(じろっ)」

ミーシャ「(ビクッ!)」

アニェーゼ「神の力であるあなたの決定は、神の決定も同義。さあ、誰でも好きな娘を指名して下さい!」

五和「キャバクラじゃないんですから…」


ミーシャ「……」

アニェーゼ「……」

ミーシャ「……」

ミーシャ「…………………(くすっ)」


全員(鉄仮面が笑った…)



ミーシャ「私見、とても面白い解だった。あなた方の命は最期の審判まで預けておく」


そう言うと、ミーシャの黒曜石の様な翼がバラバラに砕け散り、遥か遠くの空へと消えていった

そして、翼を失ったサーシャが落下する


五和「!」


五和は誰よりも速く駆け出し、落下するサーシャを受け止めた


五和「サーシャちゃん!」

サーシャ「………い」

五和「サーシャちゃん!大丈夫ですか!?」

サーシャ「五和……無事…だったのです…ね…」


サーシャは安心した様な笑みを浮かべると、そのまま目を閉じた


五和「サーシャちゃん…?サーシャちゃん!サーシャちゃん!!!そんな、こんな結末なんて!サーシャちゃん!」(ぎゅっ!)

サーシャ「ぐえっ」

ルチア「あの、五和さん?キマってますよ?」

五和「サーシャちゃん!目を覚ましてください!」

サーシャ「ちょ、ギブ……ぐふっ」

五和「サーシャちゃあああああん!!!」

アニェーゼ「なるほど、犠牲はサーシャということですか」

 

 

【後日談】


サーシャ「第一の解答ですが、五和は本当に心配症ですね。」

五和「仕方ないじゃないですか、トラウマなんですから本当に。」

アニェーゼ「まあ良かったじゃねえですか。あれだけの戦いだったのに、こっちも相手も一人も死人が出なかったんですから。」

アンジェレネ「ほんと、奇跡ですよね。」

ルチア「生き返っただけでも主の復活レベルの奇跡なのですが。
結局、ミーシャは誰一人代償を取らずにどっか行ってしまいましたね。あれは一体何だったのでしょうか?」

オルソラ「その事でございますが、ガブリエルと言えば慈悲や受胎告知に見られる様な天啓、それから知恵の象徴でございます。
イメージ的には穏健な大天使ですが、一度だけ神罰として破壊を行った事がございますよね?」

ルチア「旧約聖書のソドムとゴモラですね。一夜にして都市も文明も全てを焼き尽くしてしまったと書いてありますが。」

オルソラ「ソドムとゴモラは背徳の街とされ、七つの大罪、主に色欲に溺れ、神様の怒りを買ってしまったのでございます。
そして、ガブリエルは神の意志を表す大天使ですから、神様の代わりに神罰を下したのでございます。」

ルチア「それと私達の例は、どうつながると?」

オルソラ「ガブリエルは復活を象徴する天使でもあり、また死を象徴する天使でもあります。
ですが、本来は最後の審判というものは、大天使のうち、まずはウリエルが冥界の門を開け、死者に審判を受けさせます。
そしてミカエルが魂の行き先に判決を下し、ガブリエルはその判決に従って終焉のラッパを吹き、死者を蘇らせ、神の国へ導くのです。」

オルソラ「ですから、私達の場合、正確には復活したとは言えないのではないでしょうか?
復活と言うよりは、蘇生という方が的確だと思うのでございます。」

ルチア「……?」

オルソラ「つまり私達の場合、ガブリエルは審判による判決無しに独断で復活させたという事になりますよね。
ですが、それはあり得ない事でございます。なぜなら、死者は冥界に送られ、冥界を司るウリエルの管轄になるのでございます。
そうなるとガブリエルは死者に対して干渉する事はできません。」



オルソラ「そして、ミカエルの審判は神の国へ行ける者と地獄へ堕ちるものを分けるのでございます。
しかし、私達の魂はあくまでも現世に蘇ったのでございますよね?」

ルチア「そうなりますね。」

オルソラ「と言う事はつまりです。ガブリエルは冥界へ行くはずだった私達の魂を、
その摂理に反して再び私達の肉体に戻したという事になるのでしょう。
ですから、復活ではなく蘇生と言った方が正しいのではないでしょうか?
ガブリエルは死を司る天使でもありますから、そのくらいの事は独断で出来るのでしょう。」
ルチア「アニェーゼやアンジェレネは炎で灰になりましたし、五和さんは心臓一突きでしたよ?」

オルソラ「おそらく大天使にとっての死とは、冥界に魂が送られたか、或いはまだ現世に魂が残っているかが判断基準となるのでしょう。
体が木っ端みじんになっても、魂さえそこにあれば彼らにとってはまだ生きているも同然なのだと思いますよ。」

ルチア「なんか無茶苦茶ですね。まあ仮にそうだとして、ガブリエルは私達に復活…いえ蘇生の代償を求めてきましたよね?」

オルソラ「あれはおそらく嘘でしょう。私達は大天使にからかわれたのでございます。」

ルチア「what!?」

オルソラ「考えてもみてください。本来、代償を要求するのは天使ではなく悪魔でございます。
私達人間ごときが大天使に対して払える代償などありましょうか?
大天使に対して偉そうに代償などと呼べるものなど、私達は持ち合わせてはいないのでございます。」

ルチア「よく考えてみれば、確かにそうかもしれませんね。じゃあ私達は本当にからかわれただけだと?」
オルソラ「正確には試されていたのでございましょう。先程のソドムとゴモラの例を思い出して下さい。
二つの都市と文明は、背徳によって滅ぼされました。それと同じように、私達の徳というものを試されていたのではないでしょうか?」

ルチア「つまり、私達が本当に神の摂理を覆してまで蘇生させるほどの価値があるかどうかということですか」

オルソラ「はい。要するに最後の審判の模擬テストで、問題作成者と試験官はガブリエルと言う事でございます。
もしもあの時、殲滅白書の誰かを差し出すから私達の命は助けてくれと答えていたら……」

ルチア「ソドムとゴモラの様に、イギリスの地図からロンドンが消えていた可能性もあるということですね……(ゾクッ)」

オルソラ「うふふ、大惨事でございますね♪まあ流石にそこまではしないと思いますが」

ルチア「笑い事じゃないですよ…」

サーシャ「それともう一つ、第一の質問ですが、なぜ再びガブリエルは私に宿ったのでしょうか?
エンゼルフォールの時は、魔術の影響で天界から人間界に堕天してしまったので、元の天界に帰るために私に憑依し、
術者を殺そうとしたと聞きました。」


サーシャ「しかし、今回はわざわざ自分から人間界に降りて私に憑依しましたよね?」

オルソラ「そうでございますね。これも四大元素の歪みが原因なのでございましょう。
結局は天界に帰っても歪みはそのままなのですよ。例えるなら、普通の幸福な家庭だったはずなのに、
今は父親は酒飲みの暴力亭主、母は家に他の男を家に連れ込んで、姉はヤンキー、兄は暴走族、弟は引きこもり、
ペットの犬にすら警戒されてるという状態で、家に帰っても居辛いという状況なのでございます。」

五和「もう少しマシな例えは無いんですか……?」

オルソラ「サーシャさんは、この四大元素の歪みを元に戻すための鍵の一人としてガブリエルに目を付けられたのではないでしょうか?」

サーシャ「第一の解答ですが、人のいや天使の家庭事情を私にどうしろと?」

オルソラ「これも運命なのでございますよ。」

アニェーゼ「まあ何と言うか、頑張ってください。」

 

 

【処刑塔】


ステイル「おや、来たかい。中に居るから。」


処刑塔の尋問部屋

そこは石造りの部屋で、イメージで言うと岩窟王モンテクリスト伯の独房の様な部屋である。

明かりは壁に設置された燭台のみ
部屋の中央には簡素な木の机が一つある

そしてサーシャから見て机を挟んだ向こう側に今回の事件の首謀者
殲滅白書のヴェロニカが居た

尋問による目立った外傷は無いが、顔は憔悴しきっており、白くて綺麗な肌も端正な顔立ちも、もはや見る影も無い
ステイルの話によると、役70時間近く一睡もしないままロープで椅子に縛り付けられているとか

唯一トイレの時のみ解放されるが、それ以外はずっと手足も動かせない状態で座ったまま尋問を受けるというのも
考えただけでゾッとする話だ
ヴェロニカ「……」

サーシャ「第一の解答ですが、ロシア成教側は今回の事件をあなたの独断であるという認識を示しています。
あなたの身勝手なテロ行為という扱いになっていますね。」

ヴェロニカ「……」

サーシャ「第一の質問ですが、なぜあなたは今回この仕事を引き受けたのですか?
ちなみに今は記録官は居ないので、あなたの発言は全て記録に残りません。」


ヴェロニカ「……あの人のためよ」

サーシャ「……あの人とは?」

ヴェロニカ「言わなくても分かるでしょ?私も元は彼女の部下だったんだから。」

サーシャ「……ワシリーザは元気ですか?」

ヴェロニカ「元気だったらこんな仕事してないわよ。」

サーシャ「そうですか…」

ヴェロニカ「ねえサーシャ、お願いだから戻ってきてくれない?もうあの人が悩んでるのを見るのは耐えられないわ。」

サーシャ「……」

ヴェロニカ「あなたの気持ちは分かるけど、でもあなただって、あの人が嫌いなわけじゃないでしょ?」

サーシャ「私は……」


がちゃっ


ステイル「まだ話の途中かい?」

サーシャ「いえ」

ステイル「そうか。サーシャ、君に話がある。最大主教からの大事な話だ。良いかな?」

サーシャ「……はい」
その夜



サーシャ「……」


サーシャは寮の最上階のテラスに居た

季節は10月の中ごろ
イギリスは基本的に日本よりも気温が低い。
9月の中旬を過ぎれば朝晩の冷え込みも強くなり、天気の良い日中でも薄手のコートが必要になる


サーシャは薄手のカーデガンを羽織り、ブランデーの大量に入った紅茶を両手で包む様に持ちながら月を眺めていた




例えどんなに離れていても、見ている月は同じたった一つの物
同じ気持ちで同じ月を見る事ができるなら、どんなに距離が離れていても、その人を近くに感じる事ができるのではないだろうか




などと、誰かに聞かれたら鼻で笑われそうであり、「時差があるから無理だろ」と冷静にツッコミを入れられそうな事を考えていた・

たぶん普段の自分なら同じような事を言いそうだ。

なのに、今になって何でこんな可笑しな話が自分の心を惹きつけるのだろう。

なぜこんなにも魅力的な話に聞こえてしまうのだろう。

夜風がサーシャの髪を軽く揺らす

前髪から時折垣間見える彼女の赤い瞳には、ぼんやりとした光を纏う月が映っている

ただそれだけで魅力的な絵になりそうなほどの神秘的な瞳だ


軽く髪を揺らす程度の風なのだが、それでもこの時季の屋上の夜風は、肌に纏わりつく冷気がある

こんなとこを誰かに見られたら、「こんな寒いのに、そんなとこで何をしてるのですか?」
と問われそうだ。差し詰めその答えは「月を見てるのです」くらいしか思い浮かばないが、
実際にそう答えたらどう思われるだろうか?風流な人間と思われるか、或いは変人と思われるか。



ルチア「寒くないのですか?」


早速来たようだ
なぜいつもこの人なのか?と疑問に思うが、実験してみようか


ルチア「涼むにしては少し寒すぎる気もしますが。」

サーシャ「第一の解答ですが、月を見ているのです。」

ルチア「月を?………そうですか。ご一緒しても良いですか?」

サーシャ「寒いですよ?」

ルチア「その時はサーシャに抱きついて暖を取りますよ。」

サーシャ「その答えは了承しかねますが、どうぞ。」


実験の結果は不明だが、どうやらこれで彼女も自分と同類と言う事になりそうだ

その晩、ルチアは寮の戸締りをしていた
一応、グループで分担しているのであり、屋上のテラスに来たのは戸締りを確認しに来たのであって偶然ではない。
まあ戸締りなどしなくとも、戦闘力のある修道女達の寮に忍び込んで狼藉を働く様な度胸のある人間が存在するのかどうかは甚だ疑問ではあるが、殲滅白書との戦いがあったのだから、その考えは戒めねばならないだろう。


偶然なのは、ここでサーシャを見かけた事であった

まず最初に思い浮かんだ言葉は「寒くないのか?」だ

ルチアは迷わずその問いを口にした

返ってきた言葉は「月を見ている」だった

普段なら、変り者ですね。そんなに月が好きなのですか?とまあそんな感想が浮かんでくるところだろう

だが、今回はちょっと違った
人工的な明かりの無いその部屋は、唯一月の光だけが差し込み、暗く青く神秘的な空間を形成している

まるであの時、そうサーシャいやミーシャが現れた時に似ている



月の光を受けたサーシャの髪は、淡く金色の光を帯びていた

こちらを向いた時に、僅かに前髪から覗く物憂げな赤い瞳

彼女の美しい金色の髪と同様に、
月の薄化粧に飾られた、青い夜の闇に浮かぶ白く透き通った肌


いっその事、背中に白い翼でも付いていた方が自然なんじゃないかと思えてしまう


西洋では月は人を惑わし狂気を誘う魔性があるとされており、太陽と同じく神秘的な意味を付加されているのだが
それをこれほど実感させられた事は今まで無かったかもしれない


月とは、これほど人を神秘的に魅せてしまうものなのかと、ルチアは改めて月に対する見方を変えさせられた

そう考えれば、こんな寒い夜でも月を眺めてみるのは良い事なのかもしれないなどと思えてしまうくらいに
ルチア「今夜の月はどうですか?」

サーシャ「第一の解答ですが、素晴らしい満月だと思います。」

ルチア「確かに生まれてからほぼ毎日見ているのに、この美しさはなぜか飽きが来ませんね。」


ルチアはサーシャの方を見た

何とも物憂げな表情で月を見上げるその顔は、
風流で満月を楽しむと言うよりも、かぐや姫の様に月という故郷に思いを馳せている様に見える


ルチア「シスターサーシャ、最近のあなたは、柔らかくなりましたね。」

サーシャ「第一の質問ですが、それは太ったという事ですか?」

ルチア「いえ、表情の話です。ここに来たばかりの時は、まるで仮面を被っている様でした。
無理をして自分の感情を隠しているみたいに。ですが、今のあなたは表情が豊かになったと感じています。」

サーシャ「第二の解答ですが、それはここにいる事が楽しいからでしょう。みなさんのおかげです。」

ルチア「いえ、あなたが溶け込もうとした努力の結果です。」

サーシャ「第三の解答ですが、皆さんが私を受け入れてくれたから努力できたのです。」

ルチア「じゃあ両方とも頑張ったという事にしておきましょう。」

サーシャ「そうですね。」


わざわざ平行線な議論をする様な話でも無い
ルチア「ところでシスターサーシャ、以前あなたに訪ねた事がありましたよね?」

サーシャ「そうでしたか?」

ルチア「ええ。ここに来て、ロシア成教を捨てた事を後悔していないかと」

サーシャ「……」


そう言われてみればそんな事もあったなと、今になって思い出した


ルチア「答えは見つかりましたか?」

サーシャ「……第一の解答ですが、はい…今なら答えられそうです。」


サーシャ「第二の解答ですが、ここに来た事に対する後悔はありません。この答えは変わらないでしょう。
ロシア成教を捨てた事への後悔も、たぶん無いと思います。どこに居ても、どんな形でも自分の信仰を貫けば良いのですから。」

ルチア「そうですか…では、これからも」

サーシャ「ですが、第三の解答ですが、ある人を苦しめてしまった事は後悔しています。」

ルチア「……」

サーシャ「あんなふざけた服を着せてセクハラしてくる様な変態馬鹿上司でしたが、それでも私はあの人が、
ワシリーサが大切な上司だったと思います。いえ、ただの上司じゃなくて、
皆さんと同じように心から信頼できる大切な人だったと思います。」

ルチア「………答えを見つけられたという事は、やはりあなたは変ったという事ですね。」

サーシャ「第一の質問ですが、私はいい方向に変れたのでしょうか?」

ルチア「ええ、私もサーシャを見習わなければなりません。」


そう言いながら微笑むルチア

しかし、どこか寂しそうな頬笑みだった…
サーシャ「第一の質問ですが……ルチア、少し寒くないですか?」

ルチア「寒いのは最初から覚悟の上でしょう」

サーシャ「急に寒くなってきたのです。」


そういうと、サーシャはルチアに寄り添い、体を預けた
ルチアは何も言わず、サーシャの細い肩を抱いた


とても温かかった

あの日と同じように、不安な心がやすらいでいく

普段は厳しいルチアだが、アンジェレネもきっとこの温かさががあるからルチアに懐くのだろう

五和は妹が欲しかったと言っていたが、サーシャはどちらかと言えば姉が欲しいと思った



サーシャ「一つ聞いても良いですか?」

ルチア「何ですか?」

サーシャ「第一の質問ですが、例えどんなに離れていても、見ている月は同じたった一つの物です。
同じ気持ちで同じ月を見る事ができるなら、どんなに距離が離れていても、その人を近くに感じる事はできると思いますか?」

ルチア「素敵な話だとは思いますが、時差と言う物がありますし、位置によって月の見え方も変ってくるでしょうから。
どうなんでしょうね?」

サーシャ「そうですよね…」


ルチア「ですが、想いは離れていても通じるものはあると思いますよ。」

サーシャ「…?」

ルチア「私達十字教徒は、世界中色んな所へ布教し、教えを広めてきました。
上の人間は勢力拡大の意図もあったのでしょうが、実際に現地で布教活動を行う宣教師やシスター達は、
純粋に自分達の信じる物、矜持、或いは想いというものを遠く離れた国の人達とも共有したかったのだと思います。」
ルチア「離れていても想いは繋がる。祈る事でそれは紡がれる。だから私達十字教は教えを広める事ができたのですから。」


サーシャ「その想いは、いつか消えてしまう事はないのですか?」

ルチア「自分が消そうとしなければ、いつまで消える事はありません。だから2000年もの時を超えて十字教は今も信仰されているのです。」

サーシャ「そうですか…参考になります…」


そう言うと、サーシャはさらに距離を縮めてルチアに身を寄せた

いつまでも消えない様に、初めてここに来た時の心細さや不安から救ってくれた温かさを忘れない様に




きっとこれが最後になるかもしれないから…



五和「いやー今日も良い天気ですねー。」

サーシャ「第一の解答ですが、今日は運よく温かいみたいですね。
10月以降はサマータイムが終わるのでかなり寒くなるのですが、俺の二次創作に常識は通用しねえって奴ですね。」

五和「はい?」

サーシャ「第二の解答ですが、これが最後のメタ発言です。」


二人は例の時計塔の秘密の部屋に来ていた

あんな悲劇があった後で、実は別の部屋にはまだ大量のサーシャの血痕が残っているのだが、
それでもまたこうして二人で時計塔最上階から素晴らしい景色を見られる事が嬉しかった。


サーシャ「第一の解答ですが五和、膝枕してください。」

五和「え?あ、はい。良いですよ。」


そう言うと、五和は長椅子に腰かけ、膝をぽんぽんと叩いた

サーシャは椅子の上で横になり、五和の柔らかい膝に頭を乗せる

サーシャ「第二の解答ですが、やはり五和の膝枕は良いですね。五和は膝枕の天才です。」

五和「うれしい様なうれしくない様な…」

サーシャ「一家に一つは欲しい枕です。」

五和「私の体は一つしかありませんけどね。」

サーシャ「第三の解答ですが、膝だけで良いですよ。」

五和「私って膝以外に魅力無いんですか……ショックです……」

サーシャ「第四の解答ですが、五和の魅力を知ってるのは私だけで良いのですよ。」

五和「サーシャちゃん、何カワイイ事言ってくれてるんですかー?(ぷにぷに)」

サーシャ「つつかないでください」

五和「赤ちゃんみたいなもち肌ですね。どんなお手入れをしたらこんな肌になるんですか?」

サーシャ「第五の解答ですが、手入れなんて面倒な事してませんよ。」

五和「世の女性を敵に回しそうな発言ですね。悔しいのでもっとつついちゃいます(ぷにぷにぷに)」

サーシャ「うぐ……」

しっとりしたマシュマロの様な感覚を堪能する五和

集中攻撃を受けた部分の肌だけ、まるで蚊に刺された後の様に赤くなっている
五和「そう言えば、あの後連行された殲滅白書の人達ってどうなったんでしょうかね?」

サーシャ「気になりますか?」

五和「それはまあ自分も直接関わった事ですから。」

サーシャ「第一の解答ですが、彼女等は処刑塔と送られました。ですから、文字通り全員処刑」

五和「えっ!?」

サーシャ「と言う事にはならなかったのですが」

五和「紛らわしい言い方しないでください!」

サーシャ「全員ロシアへ返還される事になりました。」

五和「そうなんですか。でもよく無条件で返還なんてできましたね。内部から不満の声は無かったのでしょうか?」

サーシャ「第二の解答ですが、無条件で返還されるわけではありません。
返還の見返りとして、ロシアとイギリスの間で不戦条約が結ばれる事になりました。」


サーシャ「ローマ及びロシアと学園都市の間で戦争が始まろうとしている状況で、
イギリスは学園都市との間に協力関係がありますよね?公にはされていませんが、
それがあってかイギリスは今現在戦争における立ち場を示さねばならない状況になっています。
戦争が始まれば、イギリスはロシア、ローマ、フランスと敵対する事になるでしょう。
その可能性を一つでも排除しておくために、ロシアとの間で不可侵条約が締結されるという事です。」


サーシャ「第三の解答ですが、不可侵条約とは言っても、一方的にロシアの方がイギリスに対して攻撃できないというものですけどね。」

五和「ロシアの方もよくその条件を呑みましたね。」

サーシャ「……」

五和「……サーシャちゃん?」

サーシャ「第四の解答ですが、実は、ロシアがその条件を呑んだのには理由があるのです…」

五和「何ですか?」


サーシャ「殲滅白書ヴェロニカ部隊の返還。そして同時にサーシャ・クロイツェフの身柄をロシアに引き渡すことです…」

五和「え……?」


耳を疑った
まるで悪い冗談でも聞いてるかのようだ


サーシャ「第五の解答ですが、どうやら今回の件も含め、大天使の力を身に宿した私を手放したく無いようです。
ロシアだけではありません。ローマも私の身柄に興味があるみたいで、事はローマとロシアの同盟関係の存続にまで発展しているのです。」

五和「そんな…何で……」


理不尽だった

サーシャの言葉は、自分との別れを意味する

しかし、それが政治的な理由である事が納得できなかった

どうしてそんな事に巻き込まれなくちゃならないのかと


サーシャ「第六の解答ですが、イギリス清教にとってもこうせざるを得ないのです。」

サーシャ「残念ですが、お別れしなければならないみたいです…」



五和「そうですか…」

サーシャ「五和…?」

五和「もちろん残念ですし、悲しいですよ。でも、例えサーシャちゃんが遠くへ行ってしまったとしても、
私達が友達である事には変り無いじゃないですか。」

サーシャ「……」

五和「もう、そんな顔しないでください。私達は、あの戦いで生き残ったんですよ?
生きている限り、また会えるチャンスはいくらでもあるじゃないですか♪」

サーシャ「……そうですね、あなたの言う通りです。」

五和「ふふ、さあ!これからどこへ行きますか?最後ですから思い出作りのために思いっきり遊びましょう!」

サーシャ「第一の解答ですが、安心しました。五和、やはりあなたは明るい方が似合ってますね。」

五和「当然じゃないですか。さ、時間がもったいないですよ?早く行きましょう!」


お別れは辛い
勿論出来る事なら離れ離れになんてなりたくない


でも、これはもう決まった事だ


泣いたって仕方無い。だから、せめて最後くらいは笑顔でいよう。


最高の思い出作りには、湿っぽい涙なんて邪魔になるから

五和「サーシャちゃん!早く早く!」


サーシャをせかす五和

さあ、これからどこへ行こうか?

どこでも良い。どこだってサーシャとなら良い思い出が作れる気がするから……












やっぱり無理だ










サーシャ「五和……?」


五和は突然立ち止まると、振り向き、サーシャの方へ駆け寄って来た

そして、力いっぱいサーシャは抱きしめた


五和「ごめん…やっぱ無理です…」


いつもの様に可愛さから思わず抱きしめてしまうのとは違う

まるで、駄々をこねる子供の様に

どこかへ行ってしまいそうなサーシャを引き留めようとするかの様に


五和「無理ですよ…!こんなの!こんな別れ方……嫌に決まってるじゃないですか……!!」


抱きつきながら泣きじゃくる五和


そう言えば、あの時もそうだった


サーシャ「また……泣かせてしまいましたね……約束したのに…ごめんなさい…」

五和「なんでサーシャちゃんが謝るんですか!謝るくらいならどこにも行かないでください!!」



サーシャ「五和……以前も言いましたが、やはりあなたの友人になれて良かったです…」


サーシャはそう言うと、自分のために泣いてくれる親友を抱きしめ反した





どんなに泣いても

どんなに足掻いても

これはもう決まった事なのだ……

 

 

【それから】



まさか、またこの服に身を通す事になるとは思わなかった

全ての元凶である拘束衣

だが、この拘束衣のおかげでみんなに出会えたのだ
その点については、この拘束衣に感謝しよう






なんて思えるわけは無いのだが






神裂
あなたの洗濯機に対する友情と信頼は忘れません。色々とお世話になりました。
でもあの梅干しは正直私の口には合いません。

オルソラ
いつも笑顔で天然でしたね。私もよく天然だと言われますが、あなたには敵いません。
料理は凄く美味しかったです。でもオリーブオイルで作ったガムを食べさせられた時は
、本当に死ぬかと思いました。


アンジェレネ
ルチアの言う事をしっかり聞いて、立派なシスターになってください。あなたならきっとなれます。
でも、甘いものは控えた方が良いですよ?私も人の事は言えませんが。
あと、覚えがないのですが、キスって何の話ですか?

アニェーゼ
殲滅白書との戦争では美味しいとこを持ってかれました。
いつもセクハラされていた覚えがありますが、たまに見せるあなたの強さには尊敬しています。
あなたのおかげで信頼とは何かを理解することができました。
別れ際に無理矢理253人目のアニェーゼ部隊に加入させられてしまいましたけど、雑用係とか性的な役割とかそういうのはやめてくださいね。


ルチア
結局最後までお姉様とは呼ばせてくれませんでしたね。
でも、私にとっては今でも頼りになる姉の様な存在です。あなたを見るとつい甘えたくなってしまうくらいです。
あと、キスって何の話ですか?


シェリー
結局、失敗作と言いつつも壊さないでおいてくれましたね。
正直うれしかったです。ミルクティーも良いものだと思いますよ?


五和
今でもあなたは私の大切な友達です

ずっとずっと何があっても友達です


だから、あなたがピンチの時は、例えどんなに遠くに居てもあなたの元に駆けつけますから


今度こそ、もうあなたを悲しませたりはしないと約束します






サーシャはイギリス清教での思い出を胸にしまい、扉を開けた

ワシリーサの執務室だ

全ての始まりの場所であり、そして新たな始まりの場所
サーシャ「第一の解答ですが、ただいま戻りました。勝手にあなたの下を去った事を謝罪します。
つきましては、不服ではありますがどんな懲罰も受ける覚悟はできています。」

ワシリーサ「……」

サーシャ「あの…ワシリーサ?」

ワシリーサ「……あはッ…♪」








ワシリーサ「いひゃはははははははははははははははッッッ!!ダメだ、もォ抑えらんねェよ!
サーシャたんの写真や抱き枕だけじゃ止まンねェんだよォ! ぎゃはははは!全部ぶっ壊してェ!
片っ端からなぎ払いてェ!こんなモンで私が満足すると思ってるよォな連中も、サーシャたんを囲って「幸せ」っつーモンを
手に入れている連中も!一人残さず!一人残さずゥ!ぎゃはははははははははははははははははははは!!!!!!!!」

サーシャ「おい」(ゴンッ!)

ワシリーサ「おゴッ!…この……この懐かしい金槌の感触は…」

サーシャ「繰り返しますが、ただいま戻r」

ワシリーザ「サーシャちゃん…サーシャちゃんサーシャちゃあああああああああああん!!!!!!!!」(ドスッ!)
抱きつくと言うよりはタックルに近い


サーシャ「[ピーーー]気か」(ゴン!)

ワシリーサ「ああこの感触が懐かしい!会いたかったよサーシャちゃん!ごめんねサーシャちゃん!もう絶対に離さないんだからね!」


相変わらずな上司の反応
だが、どこか懐かしくも感じる


サーシャ「まったく、あなたは私が居ないとダメですね……」


離れてこそ分かる大切さというものもあるのだなとサーシャは思った

もしもそれが正しいとすれば、イギリス清教の仲間達は自分の事を忘れたりはしないだろうし、
自分もいつまでも彼女達の事を大切に思えるだろう。


遠く離れていても、同じ想いで繋がれるのだから。


サーシャは子供みたいに泣きつく上司の頭を、やれやれとため息を吐きながら優しく撫でた



サーシャ「亡命します」【完】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【おまけ】




サーシャ「第一の解答ですが、今まで離脱していた分を取り戻すために頑張らないとなりませんね」

ワシリーサ「ああ、えーっとね、実はその事についてなんだけど……」


ワシリーサは一枚の紙をサーシャに見せた


ウォ○ト・ディ○ニーカンパニーより
○○教会宛て

あなた方が当社のマスコットキャラクターである
ミッ○ーマ○スを無断で使用した事を確認しました
よって、知的財産の使用許諾料及び無断使用による
知的財産権への侵害に対する損害賠償として
10000000000ドルを請求します

ミ○キー「ハハッ!愉快に素敵に払いやがれってンだよォ!」


サーシャ「……」

ワシリーサ「というわけで、実は殲滅白書の存続自体が崖っぷちなのでした!テヘッ☆」

サーシャ「……」

ワシリーサ「あれー?サーシャちゃんどうしたの?どうしてそんなに眉間に皺が寄ってるの?
青筋がたってるよ?ほら、スマイルスマイル♪かわいいお顔が台無しよ?」

サーシャ「……亡命します」

ワシリーサ「え?」

サーシャ「亡命します」

ワシリーサ「え!?ちょっ!サーシャちゃああああああああん!!!」


【つづく?】

 

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