上条「二人で一緒に逃げよう」 美琴「………うん」 > 第二部 > 6


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美琴「『一方通行(アクセラレータ)』……っ!」




一方通行「おォ、久しぶりじゃねェか『超電磁砲(レールガン)』?」




美琴の幸せを破壊し尽くすべく突如現れた、学園都市最強の超能力者(レベル5)・『一方通行(アクセラレータ)』――。
久しぶりに見る強大な敵を前に、美琴は驚きにも、絶望にも似た声を上げる。

美琴「どうして、ここへっ!?」

そう、それが問題だった。何故今更、美琴の元へ学園都市の刺客が送り込まれるのか、と。

一方通行「あァ? 決まってンだろ? オマエの全てを破壊するためにだ」

美琴「!!!」

ニヤァと悪魔のような微笑を浮かべつつ一方通行は言う。

美琴「………学園都市の命令なの?」

一方通行「それ以外の理由で俺が動くとでも思ってンのか? お気楽なこった」

美琴「……………っ」

苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる美琴。
もう、全ては終わったと思っていた。1年以上何の音沙汰もなかった学園都市。だから学園都市も美琴の存在を諦めたと思っていた。が、しかし、彼女の期待を裏切るようにそれは訪れた。最悪の形となって。

美琴「(……ようやく………ようやく……幸せになれたと……思ってたのにっ……!)」ギリィ

麻琴「うあああああああああああああん!!!!」

美琴「!」

と、美琴の心中に呼応するかのように麻琴が再び泣き始めた。

一方通行「あンれェ?」

美琴「!!!」

一方通行「なァンだ、そりゃァ……」

麻琴「ああああああああああああああん!!!!!!」

その存在に気付いた一方通行が興味深そうに腰を折り、麻琴を注視する。

美琴「…………っ」

咄嗟に美琴は守るようにして麻琴を強く抱き締めた。

一方通行「なァるほど……上が言ってた『面白い副産物』ってのはこれのことかよ!」

美琴「………………」

一方通行「ひゃはっ! こいつァマジで面白ェ! まさか1年少し見ない間にあの三下野郎と子供をこさえてたなンてなァ!! 今じゃ立派な一児の母親ってかァ!? リアル14歳の母かよ!! あぎゃはっ!」

麻琴「ああああああああああああああん!!!」

一方通行「だからこそ潰し甲斐があるってもンだ」ギロッ

美琴「!!!!!!」

麻琴「…………っ」

一方通行が睨んだ途端、麻琴は息をするのも恐ろしいと言うようにピタッと泣き止んだ。

美琴「………………」

間違いない。一方通行は美琴だけでなく、麻琴までも狙っている。まだ、産まれて間もない麻琴をだ。

一方通行「ならママさンよォ、そンなに自分の子供が大事なら守ってみせろ!!!」

ゴアッ、と一方通行の手が美琴に伸ばされる。

美琴「(まずいっ!!)」

体勢を捻り、間一髪、一方通行の手から逃れる美琴。一方通行の腕が虚空を切る。

美琴「くっ……!」

ダッ!

ガチャッ!

その隙をつき、美琴は急いで立ち上がると玄関のドアを勢い良く開けそのまま外に出て行った。

一方通行「あらら……」

残された一方通行は、ユラユラと動くドアを見、首に巻かれたチョーカーのスイッチを押しながらボソッと呟く。

一方通行「まァ、鬼ごっこもいいかもしれねェなァ」ニヤァ…

美琴「ハァッ……! ハァッ!! ハァッ!!」

脇目も降らず、マンションの階段を駆け下りる美琴。

美琴「……何でっ……何であいつがっ……! こんな所にっ……!!」

ぶつけ所のない怒りが腹の底から湧き上がる。だがしかし、どちらかと言うと今は、怒りよりも不安の方が大きかった。

美琴「(……ただの非能力者ならなんとかなったかもしれない……っ! でも……あいつはそんな生易しい存在じゃないっ……!)」

そう、今美琴たちを殺そうとしているのは、学園都市230万の頂点に立つ最強の超能力者・一方通行だ。かつて美琴が電撃能力を有していた時でさえ全く歯が立たなかったと言うのに、能力を行使する力も失いただの女の子に成り果てた今の彼女に、一方通行に勝つ可能性などほとんどなかった。

美琴「(……何でよりによってあいつがっ……!)」

麻琴「うぅ~………」

美琴「!」チラッ

ふと、胸の中の麻琴を見る美琴。今はもう泣き叫んでいなかったが、目尻には涙を溜め不安だらけの表情を浮かべている。親子なので、もしかしたら一方通行に対する本能的な恐怖も引き継いでいるのかもしれない。

美琴「この子は……この子だけは守りきらないと……っ!」ギュッ

麻琴「あぁぅ……」

自然と、麻琴を抱く美琴の腕の力が強くなる。そんな状況下、1人の少年の顔を頭に思い浮かべ彼女は叫んだ。

美琴「……当麻っ! 今どこにいるのっ……!? 早く来て……っ!!」

美琴「ハァ……ハァ……」

息を切らしながらも、ようやく地上階まで降りてきた美琴。

美琴「ハァ……ハァ………」チラッ

後ろを振り返っても一方通行の姿はない。

美琴「………諦めた……か……」
美琴「……ハァ~……」

そう結論付け、美琴は大きく息を吐いた。




一方通行「いや? ここにいるけど?」




美琴「!!!!!!!!!!」

背後、それも耳に息が吹きかかるぐらいの距離から発せられた悪魔の囁き声。それを聞き、美琴は反射的に振り返った。

一方通行「諦めたとでも思ったか?」

邪悪な顔を浮かべた一方通行がそこに立っていた。

美琴「…………っ」

美琴がその姿を視認し、咄嗟に逃げようとした時だった。


ドッ!!!


と一方通行が足元のアスファルトを大きく踏みしめた。


ゴガッ!!!!


という音と共に地面から放たれるアスファルトの破片の雨。

美琴「あああああっ!!!!!!」

その直撃を食らった美琴は弧を描くように後ろに吹き飛ばされた。

ズザザザザザーーー!!!

背中が地面を擦る音が響き、数秒後、彼女の身体は止まった。

美琴「う……うう……」

麻琴「あああああああああああああん!!!!!!!!」

再び泣き始める麻琴。

一方通行「へェ……さすがは母親。何だかンだ言って子供は必死に守るのな」

美琴「くっ……」

麻琴「あああああああああああ!!!!!!」

この状況下でも、麻琴に怪我は1つもなかった。

一方通行「やろうと思えば直撃も避けられたろうに……。それほど愛娘が大事か。かーっ、母親の鏡だねェ……」

美琴「うくっ……」

身体を震わせながら、美琴は四つん這いの格好になると、重い足を地面につけ立ち上がろうとする。

一方通行「ったく、こっちはこっちで忙しいってンのに。なンでこンなガキどもに構わなきゃいけねェンだ」

美琴「………………」

一方通行「なァ、超電磁砲よォ……俺はこンな退屈でつまンねェことさっさと終わらせて学園都市に帰りたいンだわ」

一方通行の声を背後に、美琴は生傷だらけになった身体を無理にでも動かして、より遠くに逃げようと試みる。が、その動きは芋虫にさえ追い抜かれそうなほどノロノロとしていた。

一方通行「協力、してくれるよなァ!!!???」

美琴「!!!!!!」

ガシャッ!

すぐ側の駐輪場に停めてあった1台の自転車に手を伸ばす一方通行。

一方通行「さっさと降参しやがれェ!!!!!!」

彼は、自転車の後輪を掴むと、そのまま横に並べてあった2台の自転車を巻き込むようにして腕を思いっきり振るった。

ドッ!!!!

美琴「ぐふっ!!!!」


ガシャーッ!! ガシャーン!!!


立ち上がろうとしていた美琴の背中に、一方通行によって投げられた自転車が直撃し、その重みによって彼女は地面に倒れ伏せた。更に、1秒の間も開けず、同じく空中に放り投げられた残り2台の自転車が僅かなタイムラグの後、1台目に重なるように順にのしかかっていった。

美琴「が……はっ……」

3台分の衝撃を背中で受け、美琴はまともに息をすることすら叶わなかった。

一方通行「コイツ………」

だが、それでも美琴は守っていた。

麻琴「ああああああああああん!!!!!!」

我が子を。愛娘を。自らの身を危険に晒してでも。

一方通行「………どンだけ自分のガキが大切なンだよ」

美琴「………っ」ギン!!


ダッ!!!


と、一方通行がほんの少し隙を見せた瞬間、美琴は地面を蹴り、走り出していた。

一方通行「!」

背中に乗っかかっていた3台の自転車を振りほどき、マンションのエリア外に向けて逃げる美琴。

一方通行「この俺から逃げられるとでも思ってンのか?」チラッ

振り返り、一方通行は1台の車に目をつける。車体の後部にスペアタイヤを装着した最新式の自動車だった。

美琴「ハァ……ハァ……っ!」

対し、美琴はより遠く、より早く一方通行の魔の手から逃れるため全力疾走する。
前方に見える、大きく開かれたマンションの出入り口。そこを抜けて曲がれば、1度、一方通行の視界から逃れることが出来るはずだった。

美琴「(そこを曲がれば……っ!)」

が、しかし………

ドゴォッ!!!!



美琴「か………はっ………!」

大きく目を見開き、弓がしなるように身体を曲げる美琴。

一方通行「俺から逃げれる場所なンてどこにもねェっつーの」

美琴「……………っ」

僅かに後ろを振り向くと、背中に自動車のタイヤらしきものが当たっているのが見えた。恐らくは、一方通行が投げてきたのだろう。道路もないのに空中で回転するタイヤは美琴の背中に容赦なく直撃していた。

美琴「………くっ……」

この間、2秒――。だが、美琴はそこで歩みを止めることなく走り続ける。そして彼女はマンションの出入り口を外に出、右に曲がると、一方通行の視界から消え失せていった。

一方通行「ふン………たりィなァ……」

至極、面倒臭そうに呟く一方通行。タイヤが地面をバウンドする音だけが静かにこだました。

美琴「ここまで……ハァ……来れば……っ……ゼェ……」

人気の無い小さな道を走る美琴。

美琴「……ひとまずは……っ」

やがて彼女は、ゆっくりと走る速度を落としていき、道の端で止まった。

麻琴「うぁぅ………」

胸の中で涙でクシャクシャになった顔をした麻琴が弱々しい声を上げる。

美琴「……怪我はない?」

麻琴「うぅ……」

元気の無い麻琴だったが、傷などは見受けられなかった。一方通行の奇襲を受け、何度も猛攻を加えられながらも、赤子の彼女がいまだ無事だったのは、全て母親である美琴のお陰と言っても過言でもなかった。

美琴「良かった……」ギュッ

自らの身を挺し、身体中に傷をつけボロボロになりながらも、ひたすら我が子を守る彼女の姿は、まさに真の母親そのものだった。
だがしかし、それで一方通行の攻撃が止んだと思うのはいささか甘い判断だった。



ヒュウウゥゥ………



ズズウウウウウウン!!!!!!!!



美琴「!!!!!!!!」

突如、空から何かの物体が飛来した。
その物体――もとい、人の形をしたそれは煙が巻き上がる中、ゆっくりと前に逸らしていた上体を起こしていった。




一方通行「言わなかったっけ? この俺から逃げれる場所なンてねェ、って」




美琴「一方通行……っ!」

三度、一方通行は美琴の前に現れた。

一方通行「いい加減、諦めてくれないかねェ……」

1歩、前に進む一方通行。

美琴「ふ、ふざけたことを言わないでっ!」

1歩、後ろに下がる美琴。

一方通行「こっちだってオマエらに長時間付き合ってやるほど暇じゃねェンだよ」

また1歩、前に進む一方通行。

美琴「なら……今すぐ帰りなさいよ!!」

また1歩、後ろに下がる美琴。

一方通行「そういう訳にもいかねェンだわ。上がうるせェし」

更に1歩、前に進む一方通行。

美琴「あんたは上が『やれ』って言われたら素直に何でもするわけ?」

更に1歩、後ろに下がる美琴。

一方通行「今回は色々と深い訳があるンだわ。でもまァ……」

美琴「!」

と、一方通行は不意にピタッと歩みを止める。

一方通行「オマエには関係ないだろ。だからとっとと………」

美琴「(来るっ!)」

両手を大きく広げる一方通行。攻撃の予兆を感じ取り、急いで踵を返す美琴。

一方通行「降参しやがれェ!!!!!!」

ドッ!!!!!!

と一方通行が地面を大きく殴りつけた。
直後、そこを起点とし、大地を割くように発生した亀裂が逃げる美琴の背中を追っていった。

美琴「くっ!!」

地面が盛り上がったと同時、美琴は飛び上がる。上手く亀裂の影響を免れた地面の一部分に着地すると、彼女は後ろを振り返ることなく再び走り始めた。

一方通行「だからァ、無駄だって言ってンだろうがァ!!!!!!」

ドンッ!!

と一方通行はすぐ側にあった家屋のブロック塀に左手で触れた。

ドドドドドドドドドド!!!!!!!!!!

何らかのベクトルを操られたのか、向こう十数mまで連なって伸びるブロック塀の壁は、一方通行が手で触れた部分からゆっくりと、お辞儀をするように地面に向かって傾いていった。

美琴「……………っ!」

道に沿うようにして、ブロック塀の崩壊がスムーズに進んでいく。

一方通行「ほらほら、追い着かれちまうぞ!!!」

美琴「……ハァ……ゼェッ……!」

まるで波のうねりが如く背後から迫るブロック塀の崩壊。巻き込まれれば、美琴も麻琴もただでは済まなかった。

ガッ!! ドッッ!!! ドシャッ!!!

背中越しに、倒れたブロック塀が地面に衝突する音が連続する。そしてその音が徐々に近付いて来るのが分かる。自然、美琴の足が速くなる。

ドドッ!!! ドドドドドドドドドドッ!!!!!!

美琴「くっ……!!」

一方通行「まだまだァ!!!!」

ブンッ!!!

足元に落ちていた1つのブロックを思いっきり投げる一方通行

ガンッ!!!

目にも止まらぬ速さで横一直線に飛んでいったそれは、走る美琴の数m先に立っていた電灯のポールをほぼど真ん中の位置でぶち抜いた。

バキッ!!! バキバキバキッ!!!!!!

折れたポールが美琴に向かって倒れてくる。

美琴「…………っ」

背後からは迫り来るブロック塀の倒壊。前方からは、刀で斬りかかるように倒れてくる電灯のポール。普通なら無事では済まなかった。
……が、

一方通行「!!!」

美琴はその小さな身体を一気に沈めると、まるで野球選手のように倒れてくるポールと地面の間をスライディングで通り抜けていった。

ズズゥゥン!!!!!!


重い音を響かせ、ポールが道を斜めに横断するように倒れ込む。ブロック塀の倒壊はその影響を受けてようやく止まった。

美琴「ハァ……ハァ……うっ!」

が、無茶な行動が仇となったのか、美琴の逃走はそこで終わりを迎えることになった。

美琴「あ、足が……」

スライディングをしたため、地面との摩擦で足に酷い擦り傷が出来ていたのだ。

美琴「でも、こんなの……大したこと……ないっ」

ズキズキと痛む足に顔をしかめながらも、美琴は何とか立ち上がろうとする。
しかし………




一方通行「はいそこまでェ」




美琴「!!!!!!」

ドゴッ!!!!

美琴「グフッ!!!」

頭上に、悪魔のような嘲笑を含んだ声が聞こえたかと思うと、直後、美琴は腹に鋭い衝撃を感じていた。

美琴「げほっ!! がはっ!!!!」

一方通行がその爪先で美琴の腹を蹴り飛ばしたのだ。
うつ伏せ状態となり苦しそうに顔を歪めながら唾を吐く美琴。

麻琴「ああぅ………」

美琴「!」

顔の前で両手で抱えていた麻琴がまるで心配するような声を上げた。

麻琴「ああ……うう……」

美琴「麻琴………」

麻琴「うう……」

口からよだれを垂らし、涙に揺れる視界の中、美琴は麻琴の顔を正面に捉える。

美琴「(……この子だけは………この子だけは………守ら………ないと)」

そう胸中に呟く美琴。だがしかし、そんな彼女の思いなど知ったことではないように、白い悪魔は拷問を再開する。

一方通行「さァて、まずはこのガキからだな」

美琴「!!!!!!!!!!」

麻琴「うあああああああああああああああ!!!!!!!!」

一方通行が無理矢理、美琴から麻琴を取り上げたのだ。

美琴「や、やめてぇっ!!! お願いそれだけはやめて!!!!」

一方通行「………………」

必死に叫ぶ美琴。無理も無い。一方通行はほんの少し手で触れただけで人間の血液を逆流させることも可能なのだ。

麻琴「あああああああああああん!!!!!!」

一方通行に抱えられた、抵抗すら出来ない赤ん坊が、1秒経ってもいまだ生きているのが信じられないほどだった。

一方通行「………うっせェガキだな……。さっさとやっちまうかァ」

美琴「やめて!!!! 本当にやめて!!!! その子は……っ!! 私の大事な子供なの!!!! 私にとって掛け替えのない娘なの!!!!! お願いだから!!!! やめて……っ!!!!」

地面に這いつくばったまま、美琴は涙を流し一方通行に懇願する。

一方通行「…………だからどうした? 必死過ぎだろオマエ……」

美琴「私は……っ!!! 私だけはどうなってもいいからっ!!!! その子の代わりに私は殺してくれていいから……っ!!! その子だけは……麻琴だけは見逃してっ!!!! お願い……っ!!!」

一方通行「オマエが悪いンだろ。身から出た錆だ。学園都市から逃げれただけでも奇跡ってもンだ」

美琴「お願いよぉ! ……やめてぇ……」

一方通行「………だが奇跡なンて抽象的なもンはそう何度も起こらねェ。要するに今回が潮時だったってわけだ。それとも今から学園都市に戻って1人1人の前で土下座でもしていくかァ? ぎゃはっ! まァ、アイツらが許してくれるとも思えねェけどなァ……」

美琴「そんなの……私は知らない!! 私は被害者よ!!!」

一方通行「この期に及んで自分に罪は無いってかァ……往生際が悪ィなァ……。……だがオマエは史上最悪の人間だ。それだけで存在が罪なンだよ。そンなオマエを前に全員豹変しちまうのも無理はねェ……だから………」

左手で麻琴を抱え直し、右手を構える一方通行。

美琴「ウソ……やめてっ……本気なの……? いや……やめて……!!」

一方通行「オマエの遺伝子を持ったこのガキも死刑決定だァ!!!!!!」

麻琴「あああああああああああああああああああん!!!!!!」

美琴「やめてえええええええええええええええええええ!!!!!!!!」






「させるかあああああああああああああ!!!!!!!!!!」






美琴「!!!!!!!!!!」

一方通行「!!!!!!!!!!」

突如、その場に響いた第三者の声。



ズッ………



と、振り向いた一方通行の左頬が唐突に歪む。

一方通行「!!!!????」




ドゴオオオオオオオオオオッ!!!!!!!!!!




何者かによって殴られる一方通行。
彼の左頬に突き刺さった拳は勢いを衰えることなく、寧ろ速度を増し………




ズゴオオオッ!!!!!!




そのまま一方通行の右顔面をブロック塀の壁に叩きつけた。

一方通行「どぶぉっ!!!!????」

と、同じくして一方通行の手からすっぽ抜けるように離れる麻琴。

美琴「麻琴!!!!」

痛む傷も無視し、美琴は飛び上がると、なるべく衝撃を与えないよう優しく麻琴の身体をキャッチした。

一方通行「……………っ」

信じられない、と言うような表情を浮かべた一方通行の顔は壁に沿ってズルズルと下がっていった。

美琴「来て………くれたのね………」

目尻に涙を浮かべ、その場に現れた人物を見つめる美琴。





上条「自分の娘が危ない目に遭ってるってのに、駆けつけない父親はいないだろ?」





そう、笑顔で上条当麻は答えた。

 

 

上条「助けに来たぜ、美琴、麻琴……」




恋人と娘のピンチに颯爽と現れた上条当麻。

美琴「もう……バカ」

そんな彼の顔を見、美琴は安心しきったように呟いた。

麻琴「あぁーう!!」

麻琴も、父親である上条が現れて喜んでいるようだった。

上条「さぁ、美琴、麻琴。今すぐここから逃げるんだ。いずれ学園都市の追っ手がまた来るかもしれない」

そう言って上条が美琴に近付こうとした時だった。

美琴「!!!!!!!」
美琴「危ない!!!!」

上条「!!!!????」

ガッ! と襟首が引っ張られたと思った瞬間、上条は後ろに飛ばされていた。

ドウッ!!!!

背中から壁に衝突する上条。重い衝撃が全身を駆け巡る。

上条「ぐっ……」

美琴「当麻!!!!!!」

ユラリと、上条の眼前に立つ1つの白い影。




一方通行「ご無沙汰だなァ、三下ァ!!!!」




口元から血の筋を垂らし、不適に笑う一方通行の姿がそこにあった。

上条「一方通行……お前っ!」

ヨロヨロと、後ろの壁を支えに立ち上がる上条。

一方通行「娘のピンチにヒーローの如く現れる父親か……カッコいいじゃねェの!!!!」

ドゴォッ!!!!

上条「ぶおっ!!??」

上条の腹に一方通行のローキックが決まる。その衝撃で、上条の背後にあった壁に蜘蛛の巣状にヒビが入った。

美琴「当麻!!!!」

麻琴「あぁー!!」

心配し叫ぶ美琴。麻琴も自分の父親である上条の危機を何となく察しているのか、不安そうな声を上げた。

一方通行「……」チラッ

美琴「!」ビクッ

一瞬、美琴と麻琴に向けられる一方通行の視線。

一方通行「オマエはいつもそうだよなァ三下ァ……どンな訳の分からない状況に陥っても揺らぐことなく自分の信念を貫き………誰でもかれでも守ってみせる。俺とは大違いだ。だが………」

顔を戻し、彼は怒りを爆発させるように叫ぶ。

一方通行「それがイラつくンだよ!!!!!!」

ドゴオォッ!!!!!!

上条「ぐ……はっ!!!!」

一方通行の拳が上条の腹に深く突き刺さった。

一方通行「どォした三下ァ? 本気でやってたら今頃オマエの身体は破裂してるぞ」

上条「……っ……くっ……」

一方通行「このまま一家ともども俺に虐殺されるかァ!!!???」

ズガッ!!!!

今度は右脇腹に決まる一方通行の蹴り。数m吹き飛んだ上条は盛大に地面に倒れ込んだ。

一方通行「………さァて、そろそろトドメといくか……」

ザッ、と一方通行は仰向けに倒れていた上条に近付く。

美琴「一方通行!!! もうやめて!!!!」

上条「う……あっ…」

美琴「一方通行!!! お願いだからもうその人に手を出さないで!!!」

一方通行「………………」ググッ

美琴の必死の叫びも空しく、一方通行は上条の右手を強く踏み込む。

一方通行「俺がオマエに引導を渡してやるよ……クカカッ! オマエも本望だろォ?」

悪魔のように邪悪な笑みを作る一方通行。

美琴「やめてっ!!!! お願い!!!!」

上条「…………しろ」

一方通行「あン?」

と、そこで何事かボソッと上条が呟く。

上条「約束しろ……」

痛む右手に顔をしかめながらも、彼は言葉を紡ぐ。



上条「美琴と麻琴には絶対に手を出さないと……」



一方通行「…………!!」

そう、上条は真っ直ぐな瞳で一方通行を見据えながら言った。

美琴「当麻!!!! ……お願い一方通行、もうやめてっ!!!」

一方通行「………ふン」

上条「………………」

一方通行「残念だがその要望には答えられねェなァ……こちらも命令受けてる身なンでよ……。だが安心しろ三下……」

美琴「いや……やめて……」

目を見開き、一方通行は右手を構えて声高々に叫ぶ。

一方通行「あの世で3人仲良く暮らせるよう、後でオマエの恋人も娘も殺してやるからよォ!!!!!!!!」

ゴアッ!!!!!!

振り下ろされる一方通行の右手。

美琴「やめてえええええええええええ!!!!!!!!」

上条「……………っ」

一方通行「………」ニヤァ






バチバチバチバチバチバチッ!!!!!!!!!!






一方通行「!!!!!?????」

上条「!!!!!?????」

突如、何かが炸裂する音が鳴り響いた。

それに呼応するかのように、暗闇に包まれていた周囲が昼間のように明るくなった。





ズッ…オオオオオオオオオオオオオオオン!!!!!!!!





そして、1つの青白い光が天に昇る龍のように上空に向けて解き放たれた。

一方通行「…………っ」

刹那、自分の右手に違和感を覚える一方通行。

一方通行「(チョーカーに……異変がっ……!? 強い電磁波反応……っ!?)」

それは、全身から力が抜けていくような感覚だった。
振り返る一方通行。考えられる原因は1つだけ。

上条「美琴………っ」

上条もまた、目を大きく見開き光の発生源を驚愕の表情で凝視した。





美琴「当麻に………手を………出すなっ!!!!」バチバチッ!!





纏っていた。美琴が纏っていた。全身に。青白い紫電を。バチバチと、火花を飛ばすように。

美琴「手を……出すなっ……っ!!!」



上条「……………!」

一方通行「……………!」

呆然と美琴を見つめる上条と一方通行。が、どちらかと言うと見つめると言うよりかは言葉を失くしたようだった。
何故なら、そこに立っていたのは、かつて学園都市で『超電磁砲(レールガン)』と言う異名で恐れ、慕われていた、レベル5の超能力者・御坂美琴だったのだから。

上条「美琴………」

美琴「ハァ……ゼェ……」バチッ…!!

それの意味する所は、美琴の超能力者としての復活。1年以上前、学園都市で上条と逃亡していた時に『不安定な自分だけの現実(アンステイブル・パーソナル・リアリティ)』の発症によって失われていたはずの電撃能力が彼女の元に舞い戻ったのだ。

上条「能力が……戻ったのか!?」

一方通行「(三下のピンチを前にして、俺への怒りが……いや、三下への思いが能力を取り戻させたのか…っ!)」

が、しかし。1つだけ不可解な点があった。

麻琴「うああぅうーーーー!!!!!!」

一方通行「(何故……娘まで………)」

上条「(何で……麻琴まで………)」

上条一方通行「「(無事なんだ!!??)」」

全身から電気を発する美琴。彼女に抱きかかえられている麻琴は、いたって涼しい顔をしている。能力の影響を直に受けているにもかかわらず、だ。

麻琴「うぉぉー!!!」

寧ろ、美琴の電撃を見て喜んでいるようにも見えた。

一方通行「(何故娘は超電磁砲の電撃による干渉を受けない!!?? 本人が能力開発した訳じゃないンだぞ!!!! ……それとも、電撃使いである超電磁砲から生まれたあの娘は、唯一超電磁砲の行使する電撃に耐性があるとでも言うのか!!??)」

と、一方通行がもてるだけの頭脳で頭をフル回転させている時だった。

美琴「当麻!!!!!!」バチバチッ!!

上条「!!!!!!」




美琴「今よ」




麻琴「ああぅー!!!!」

一言、叫ぶ美琴。だが、それだけで十分だった。

一方通行「(まずいっ!!)」

我に返り、再び右手を構える一方通行。だが………

一方通行「(クソッ……!! 能力が上手く……)」

美琴の電撃による干渉をチョーカーが受けたためか、能力が上手く発動しなかった。
と、そんな隙を見せた一方通行の頬に………

上条「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!」



ズッ……



一方通行「!!!!!!!!!!」




ドゴオオオオォッ!!!!!!!!!!




上条の渾身の右ストレートが突き刺さった。

一方通行「ぐぶっ!!??」

ドッ!!!!

吹き飛ばされた一方通行は背中から壁に衝突すると、やがてズルズルと崩れていった。

一方通行「…………がっ……」

上条「ハァ……ゼェ……ハァ……」

動かなくなった一方通行を、息を切らし、警戒しながら見つめる上条。

美琴「当麻!!!!!!」

上条「美琴!」

と、そこへ麻琴を抱えた美琴が駆け寄ってきた。

上条「大丈夫か!? 怪我はなかったか!?」

美琴「うん……私は大丈夫」

上条「麻琴は!?」

美琴「無事よ、ほら……」

麻琴「ああぅー!!」

久しぶりに上条を間近で見て安心したのか、麻琴に笑顔が戻った。

上条「良かった……。本当に良かった……」

美琴「でも……まさか一方通行が来るとは思ってなかったわ。もう、学園都市も私のこと諦めたと思ってたのに……」

上条「うん……」

と、その時である。




一方通行「だァれが諦めた、って……?」




上条美琴「!!!!!!!!」

咄嗟に、声がした方を振り返る上条と美琴。

一方通行「クソが………やってくれたなァ……」

一方通行はまだ、意識を保っていた。そればりか、ここで終わったわけではない、と言いたげにフラつく身体を無理にでも立ち上がらせようとしている。

美琴「こいつ……まだっ……!」バチッ!!

それを見た美琴が再び紫電を纏う。

上条「……………………」

一方通行「ここらで終わる俺じゃねェンだよ……ゼッ……ハッ……」

威勢はいいが、明らかに一方通行の身体は大ダメージを受けているように見える。

美琴「あんたの弱点は心得ているわ。私が能力を最大限に行使すれば、そのチョーカーもたたじゃすまないわよ?」

一方通行「けっ……まさかこんなところで超電磁砲の能力が復活するとは思わなかったぜ。だがなァ……俺の力がそれだけだとでも思ってンのか……?」

美琴「え?」

言葉に含みを持たせ、一方通行が完全に立ち上がろうとする。
が、しかし………

上条「もうやめろ一方通行」

一方通行「!!!???」

美琴「!!!」

一方通行のこれ以上の行動を止めるように、上条が言った。

一方通行「何が『もうやめろ』だ三下ァ……。オマエにそんな権限があるとでも?」





上条「お前、『弧絶術式』に掛かってないだろ」





美琴「………………え?」

 

 

初め、美琴は上条のその言葉が理解出来なかった。

一方通行「ハァ? なンだよそりゃァ……一体何の話を……」

2人の反応を気にせず、上条は続ける。

上条「学園都市の住人は全員美琴のことを憎み、殺意を抱いている。だが、お前はそいつらと違って美琴には殺意も敵意も抱いていない。寧ろ、美琴や麻琴を殺すことに抵抗すらあるんじゃないのか?」

一方通行「!!!!!!!!」

上条「………違うか?」

一方通行「………………」

上条に訊ねられ、僅かに顔を俯け黙り込む一方通行。

美琴「な、何言ってるの当麻? こいつはさっきまで私と麻琴を殺そうとしてたのよ? なのに『弧絶術式』に掛かってないですって? そ、そんなことあるわけが………」チラッ

一方通行「………………」

当然の疑問を上条にぶつける美琴。
だが、一方通行は何故か否定をしようとしない。

一方通行「……………………」

美琴「…………まさか、本当なの?」

恐る恐る、美琴は一方通行に訊ねた。

上条「考えてもみろ。俺がここに辿り着くまで、ある程度の時間、美琴たちは一方通行に追いかけられていたはずだぞ。殺せる機会なんて何度もあったはず」

美琴「…………で、でも……」

が、確かに思い返してみれば、一方通行にはいくらでも美琴と麻琴を瞬殺出来るチャンスがあったはずだ。なのに彼は、美琴の体力を奪ったり、逃げ道を塞いだりと、どちらかと言えばちまちました攻撃を繰り返すだけだった。

上条「最盛期の力を失っているとはいえ、こいつの能力はいまだ絶大。対して美琴はついさっきまで能力を全く使えず、赤ん坊の麻琴も連れていたんだ。本気を出せば腹を空かせたライオンが弱ったシマウマの子供を仕留めるぐらい簡単に殺せたと言うのに……いまだ美琴と麻琴が無事なのは色々と不自然すぎる」

一方通行「……………………」

上条「今まで美琴を見て本性を露にした奴らは即座に、ただ美琴を殺すためだけに全力を尽くしてきた。そう考えると、こいつの行動には疑問点がいくつか浮かんでくるんだよ」

美琴「…………そんな……」

上条「ロシアでは新しい力も手に入れたと聞いてるしな。美琴の電撃で一時的に能力行使に不具合が出たとは言え、その新しい力を発揮しないのもおかしい」

美琴「………そう言えば、一方通行は学園都市で私を追いかけてきた連中とは何か雰囲気が違ったわ。やけに『降参しろ』って何度も言ってたのも違和感があったし……」

美琴は一方通行を窺いつつ、これまでの推移を振り返る。

上条「それに、こいつは拳銃の扱いに長けているらしいけど、その拳銃を一丁すら持っている気配がない。拳銃を使えば、チョーカーの貴重なバッテリーを消費する必要も無いのに……」

一方通行「………………」

上条「極めつけはさっき。俺がここに来た頃……麻琴を殺そうとしていた一方通行が言った『そンなオマエを前に全員豹変しちまうのも無理はねェ』っていう台詞……」

美琴「!」

上条「こんな言葉、『弧絶術式』の影響を受け美琴を殺そうとした連中を客観的に見てなきゃ出てこない台詞だ。まるで自分は他の奴らとは違う、って言ってるようなもんじゃないか」

美琴「じゃ、じゃあ……」

大きく頷き、上条は一方通行を見据えながら断言した。

上条「一方通行は『弧絶術式』に掛かっていない。寧ろ、学園都市の住人たちが美琴に殺意や敵意を抱いていることに疑問を感じているはずなんだ」

美琴「………っ」

上条「今、この瞬間もな………」

一方通行「………………」

そう締めくくる上条。彼の言葉が一方通行に降りかかる。

一方通行「……………………」

上条「……………………」

美琴「……………………」

訪れる沈黙。しばしの間、その場は静寂に包まれた。

一方通行「……………」ボソッ

上条美琴「「!」」

が、やがて………





一方通行「………やっぱり……俺じゃなくて……周りがおかしかったのか………」


一言、一方通行はゆっくりと呟いた。

 

 

上条「………………」

美琴「………やっぱりってどういうことなの? ……まさか本当にあんた『弧絶術式』に掛かってなかったの!?」

一方通行の言葉を聞くやいなや、質問をぶつける美琴。それに答えるように、一方通行は語り始めた。

一方通行「………俺は……『弧絶術式』が何なのかは知らねェ……。……だが、三下の言った通り、超電磁砲に殺意を抱いてなければ、本当を言うとオマエら一家を皆殺しにするつもりがなかったのも事実だ………」

上条美琴「「………………」」

上条と美琴は無言で顔を見合わせる。

上条「………何があったんだ?」

一方通行「………1年ぐらい前か……打ち止めや学園都市にいた妹達の超電磁砲に対する態度がガラリと変わりやがった」

美琴「………………」

ボソボソと、これまで誰にも喋らず、ずっと心の中に閉まっていたであろう記憶を打ち明ける一方通行。

一方通行「………その昨日だったか……打ち止めと10032号が超電磁砲と出かけてたらしくてなァ。だからちょっと聞いてみたンだよ。『超電磁砲は相変わらず元気にしてたか?』ってな……。したら、打ち止め、何て答えたと思う?」

美琴「……………?」

一方通行「『あんな最悪な女のことは口にしないで。思い出すだけでも嫌になる』って言いやがったンだよ」

美琴「……………、」

一方通行「最初は少し早い反抗期なのかと思った。だが、その後、長々と超電磁砲に対する汚ねェ愚痴を零し続けるから叱ってやったンだよ。……が、今思えば、それが全ての始まりだったな……」

上条「………………」

一方通行「何故か打ち止めを叱った俺が黄泉川や芳川に怒られるわ、学園都市にいた妹達に叱責されるわで、最初は訳が分からなかった。それどころか、ドイツもコイツもまるで超電磁砲に恨みがあるかのように陰口を叩きやがる……」

順に、自分の身に何があったのか語る一方通行。

一方通行「超電磁砲に好意を寄せていたはずの海原も『何故僕はあんな最低な女を好きだったのか、人生の汚点です』なンて言いやがるし……」

美琴「………………」

一方通行「街で出会った超電磁砲の後輩のジャッジメントのガキも……ひたすら超電磁砲の悪口を叩いていやがった……」

上条「……………それで?」

続きを促す上条。誰かに聞いてほしかったのか、一方通行は拒否することも話を止めることもしない。

一方通行「何度も周りに訊ねたよ。『どうしてそこまで超電磁砲を悪く言うのか』、『超電磁砲が何か悪いことをしでかしたのか』ってな……。だが、そう訊ねる度に全員決まって『理由は無い。あの女が最低なのが悪い』とかメチャクチャなことほざきやがる……。あまつさえ、超電磁砲に殺意がない俺が白い目で見られるようになっちまってた………」

 

淡々と一方通行は話しているが、彼も彼で辛い目に遭っていたのは上条と美琴にも何となく理解出来た。

一方通行「おまけに超電磁砲は指名手配されるわ、ニュースで三下と超電磁砲がアンチスキルに追跡されてるって報道されるわ……訳が分からなかった……。まるで、自分の周りの世界が変わったように思えてなァ……」

美琴「………一方通行……」

ある意味、一方通行もこの1年間、美琴と似たような孤独感を学園都市で味わっていたのかもしれない。美琴は彼の話に深く聞き入る。

一方通行「………だから、俺も周囲に迎合するよう決めたンだ……。このことは胸に閉まっておこう、ってな。……ぶっちゃけ気味が悪かったが……」

美琴「そんなことが……あったのね……」

一方通行「ああ。だがつい一昨日のことだったか。学園都市の上層部から命令が直々に下ってなァ……『御坂美琴および上条当麻、加え1名を抹殺せよ』ってなァ………」

美琴「………………」

一方通行「その時だ。オマエらの存在を思い出したのは」

上条「………それで、命令を受けたんだな?」

確認するように上条は訊ねる。

一方通行「当然初めは拒否したがな。何しろオマエらを殺す理由がどこにもねェ……。それに今更、ヤツらの命令を聞くなんざまっぴらごめんだった……。だが、アイツら、打ち止めの名前を出して暗に俺を脅してきやがった……」

美琴「………そんなことが」

一方通行「俺はオマエらを殺したくない。だが、命令を受けなければ打ち止めに危険が迫る可能性がある。そして当の打ち止めは、お姉さま(オリジナル)であるオマエに殺意を抱いてる。こンなふざけた状況で、俺が拒否出来ると思うかァ? 結局おかしいのは俺だけなンだよ。だから………」

上条「俺たちを殺しにここまで来たんだな?」

一方通行の代わりに、上条はその先を口にした。

一方通行「………そういうこった」

肯定するように、一方通行は小さく頷いた。

美琴「結局、学園都市は私の存在を諦めてなかった、ってことね」

上条「やはり、か。こいつは身のフリを考え直さないといけないかもな」

美琴「でも、何で一方通行は『弧絶術式』に掛からなかったんだろう?」

上条「……さあな。たまたま『弧絶術式』が発動した時に、能力を使ってたのか、もしくは『外』にいたのか……」

一方通行「すまねェ……」

美琴「え?」

と、上条と美琴が推測していると、不意に一方通行が呟いた。

一方通行「俺は……もう……無実の人間を殺めないって決めたのに……!」

上条「!!」

と、急に彼は上条の胸倉を掴むように叫んでいた。

一方通行「……三下ァ! 俺を殴れ!! 気が済むまで俺を殴れっ……!! 打ち止めも、妹達も、説得出来ず……周りに流されて……挙句には学園都市のゲスどもの命令に従って……オマエら一家を皆殺しようとした俺を殴れ……っ! 何されたって構わねェ!!!」

上条「………………」

そう、必死に訴える一方通行。本来の彼とは考えられないほど取り乱していることを鑑みると、それほど自責の念に囚われていたのかもしれない。

一方通行「どうしたよ三下ァ!! 何故殴らねェ!!?? 俺はオマエらの幸せを踏み潰そうとしただけでなく、生まれたばかりの赤子を殺そうとしたンだぞ!!!! 何されたって文句は言えねェはずだ!! だから殴れよ!!!!」

上条「………………」

一方通行「簡単だろ!! オマエの右手で俺の頬をどつくだけじゃねェか!!!!」

美琴「………………」

上条「………………」

が、上条は右手を握るどころか身体を動かそうともしない。全ての事情を知った以上、彼にとって一方通行は既に敵ではなくなっていたのだ。

一方通行「なぐ………れ……よ」

やがて一方通行は、顔を深く俯かせ、上条の胸倉を掴んだままゆっくりとその身体を地面に沈めていった。

一方通行「…………時々、オマエが羨ましく映るンだよ………その完璧なまでにヒーローのように振る舞える……オマエがなァ……」

上条「……………………」

白く染まった頭だけを見せ、顔を下に向けたままボソボソと言葉を紡ぐ一方通行。そんな彼の肩に、上条は優しく手を置いた。

上条「一方通行」ポンッ

一方通行「!」

突然の行動に、一方通行は顔を上げる。

上条「もう、誰もお前のことを怒っちゃいないよ」

一方通行「………………」

美琴「ええ。事情があったんなら仕方がないわ。それに、一方通行もずっと学園都市で私みたいな孤独に苛まれてたみたいだしね……。もう、責める理由がないわ」

上条が、次いで美琴が一方通行に慰めの言葉を掛ける。

一方通行「オマエら………」

美琴「それにほら、麻琴ももう気にしてないって」

麻琴「あぁー!」

美琴の胸に抱えられていた麻琴が笑顔で叫んだ。

一方通行「……………っ!」

その笑顔は、一方通行にとって衝撃的すぎるほど明るく、光り輝いていた。

上条「一方通行、もう俺たちのことは心配しなくていい。また追っ手がやって来たところで何とか上手くするさ」

一方通行「三下……」

美琴「ええ。だから貴方は今すぐ学園都市に帰って打ち止めを守ってちょうだい。それが、あの子の姉としての貴方への一番の願いよ」

一方通行「だが……打ち止めは……オマエのことをボロクソに言ったンだぞ?」

美琴「関係ないわよ。元々そうなったのは『弧絶術式』っていう魔術のせいだし………」

一方通行「『魔術』……」

確かめるように、一方通行はその言葉を口中で反芻した。

上条「まあその魔術も俺の右手ではもうどうでにもならねぇんだけどな……。だから俺たちは二度と学園都市に帰れない。……こっちの世界で3人で暮らしていくしかないんだよ」

一方通行「…………、」

上条「だけど、もし困ったことがあったらすぐ俺に頼ってくれ。土御門に頼めば俺とのパイプ役になってくれるだろうし。そう、だから………」

美琴「打ち止めと妹達のことを守ってあげてね」

上条「学園都市は、お前に頼んだぜ」

麻琴「だぁー!」

一方通行「……………!」

3人揃って微笑みながら、上条たちはそう言った。まるで、自分たちが学園都市でやりたかったことを一方通行に託すように。そしてそれは、一方通行という人間を、存在を、心から信じていなければ出来ないことだった。

上条「な!」

一方通行「………まねェ……」

後悔するように顔をクシャクシャと歪めながら、ゆっくりと地面に崩れていく一方通行。

一方通行「………すまねェ………」

そんな彼の背中に、同じように腰を沈めて両側から優しく手を置く上条と美琴。

上条「気にすんな。お前も、俺たちと同じ『弧絶術式』の被害者なんだ……」

美琴「ええ。これからも辛いと思うけど、私のことはもういいから。貴方は打ち止めたちを守ってちょうだい」

一方通行「………すまねェ………!」

ひたすら、謝罪の言葉だけを紡ぐ一方通行。
その後もしばらく、彼が顔を上げることはなかった。

 

 

 

それからしばらくの後。
上条一家はマンションへの帰路に着いていた。

美琴「一方通行、これから大変でしょうね……」

上条「ああ、でもあいつならやってくれるさ」

2人は一方通行のことを思い浮かべる。

美琴「……そうね」

結局、一方通行は学園都市に帰っていった。



   ―― 一方通行「学園都市のことは俺に任せろ。オマエたちは何があってもその子供を守りきれ』――



と言う言葉を1つだけ残して。

美琴「……また、追っ手が来るのかな?」

上条「かもしれないな……」

隣に並び歩きながら、上条と美琴はこれからのことを考える。

美琴「今までみたいに、やっていけるかな……」

不安そうに呟く美琴。

上条「……………………」

そんな彼女を横目で見た上条は、ゆっくりと口を開いた。

上条「美琴……お前に受け取ってほしいものがあるんだ」

美琴「え?」

思わず顔を向ける美琴。見ると、上条が道の真ん中で立ち止まってポケットの中をゴソゴソと漁っていた。

美琴「何? どうしたの?」

自然と、美琴も立ち止まった。

上条「お前に渡したいものがある」

美琴「私に……?」

不思議そうな表情を浮かべる美琴。
一体何だろう、と彼女が首を傾げていると、上条はポケットから1つの小さな箱を取り出した。

美琴「?」

上条「これだよ……」

待ちきれず、と言ったように上条は箱を開ける。

美琴「え……これって……」

その中身を見た瞬間、美琴は衝撃を受けたように目を大きく見開いた。

上条「ああ……」

彼女が驚くほどの箱の中身。それは………





上条「結婚指輪だ」





美琴「……………!!」

そこに収められていたのは、銀の輪っかの形をした1つのエンゲージリングだった。

 

美琴「え……ちょっ……あ……ま、待って……ええっ!?」

どう反応していいのか分からないのか、美琴はしどろもどろしてしまう。

上条「ここ最近、仕事の時間を増やしてたのもこれを買うためだったんだ……。時折ボーッとしてたのもお前との将来のことや、指輪をどこで買うかとか、どんなのがいいか、とか考えてたからでな……」

美琴「えっ!? あ……その……へ、へぇ!」

落ち着いた上条とは対称に、美琴は突然の事態にうろたえているようだった。

上条「………今日も、デパート行った時、宝石店があるフロアをボーッと眺めててさ……お前に怒られたっけ、はは」

美琴「そ、そうだったんだ……! ふ、ふーん!!」

上条「美琴」

美琴「ひゃ、ひゃい!!!」

上条に名前を呼ばれ、頓狂な声を出してしまう美琴。

上条「聞いてくれ……」

美琴「……………う、うん」ドキドキ

上条の雰囲気に呑まれたのか、ようやく美琴も落ち着いたようだった。

上条「俺、上条当麻は御坂美琴のことが好きだ……」

美琴「………………うん//////」ドキドキ

上条「一生をかけてでも、美琴もそして麻琴も守り抜きたいと思ってる……」

美琴「………………うん//////」ドキドキ

麻琴「おぉー!」

上条「だから………」





上条「俺と結婚してくれ」

 

美琴「……………………」

美琴の顔を見据え、上条は静かにその言葉を発した。

美琴「……………………」

上条「……………………」

美琴「//////////////」ボンッ

と、数秒の時差があり、美琴の顔が成熟したりんごのように真っ赤になった。

上条「………どうかな?」

美琴「……………せて」

上条「ん?」

ボソッと、何事か呟く美琴。

美琴「………指輪、嵌めて?//////」

照れくさく顔を俯かせ、視線を逸らしながら美琴はお願いする。

上条「じゃあ!」

美琴「……………うん」





美琴「こちらこそ……宜しくお願いします////////」





本当に、心から嬉しそうな表情で美琴は答えていた。

 

 

上条「良かった……」ホッ

美琴「……………////////」

上条「それじゃ、左手出してくれるか?」

美琴「…………………うん//////」

麻琴「うゆ?」

麻琴を抱え直し、美琴はゆっくりと左手を上条に差し出す。

美琴「……………//////」ドキドキドキ

上条「……………………」スッ…

それに応えるように、上条は美琴の左手の薬指にゆっくりと指輪を嵌めてあげた。白く、細い美琴の薬指に、銀色に光り輝くリングが映える。

美琴「……………綺麗……」

うっとりとしながら、自分の左手に嵌められた指輪を見て呟く美琴。

上条「今はまだ、俺もお前も結婚出来る歳じゃないけど……1年後か2年後……2人が18歳と16歳になった時には……」

美琴「…………うん、分かってる。それぐらいはちゃんと待てるから……」

上条「………美琴、これから先、爺さんになるまで頼むな」

美琴「………当麻も……私がお婆さんになるまで宜しくね」

笑みを浮かべ合う2人。

上条「………………」スッ

美琴「………………」スッ

やがて彼らは互いの唇を近付け………



上条美琴「「――――――――――」」



永遠の約束を誓い合うように、キスを交わした。

上条「………………」フッ

美琴「…………えへへ//////」

顔を離し、照れくさそうにする上条と美琴。
と、そんな時である。

麻琴「ブゥーーーーーー!!!」

上条美琴「「!」」

自分を仲間外れにして、イチャついている父親と母親が気に入らなかったのか、美琴の胸に抱かれていた麻琴が抗議の声を上げた。

美琴「あはは、ごめん麻琴」

麻琴「むぅー!!」

美琴「あらら、ふくれちゃってるわこの子」

フグのように頬を膨らませる麻琴。

美琴「でも、心配しないでいいのよ? 何たって………」

上条「ああ、麻琴も俺たちの家族だからな!」

麻琴「あぁーーーい!!!」

その言葉を理解したのかどうかは分からなかったが、麻琴は嬉しそうに笑った。

上条「辛いこともあるだろうけど、これからは………」

グイッ!

と上条は美琴の肩を引き寄せる。

上条「親子3人、3人4脚で頑張っていこう!」

美琴「うん!」

麻琴「だぁーーーーーー!!!」

互いの身を寄せ合い、家路に着く上条と美琴と麻琴。その光景はどこから見ても実際の家族そのものだった。
今、上条一家は厳しくも、幸せな道程を歩き始める――。

 

 

翌日・学園都市――。

窓の無いビルにて。
ここ、学園都市の全てを司る統括理事長の本丸に訪れた1人の男がいた。




土御門「幻想殺しと超電磁砲、そしてその子供の抹殺命令を取り消したようだな?」




金髪にアロハシャツ、顔にサングラスを掛けたその男の名は、土御門元春だった。

土御門「何故抹殺命令を取り消した?」

彼の問いに対し、巨大なビーカーのような生命維持漕に逆さまに浮かんでいた人物がゆっくりと、口を開いた。





「そもそも抹殺命令を下したのは統括理事会の連中だ。私の意ではない」





男にも女にも、子供にも老人にも、聖人にも囚人にも見える『人間』――アレイスター・クロウリーは至極退屈そうに答えた。

土御門「このままだと幻想殺しが手元から離れることになるぞ。お前にとっては不都合なんじゃないのか?」

アレイスター「プランなど幾らでも変更が聞く。幻想殺しが死なない限り、問題はない」

土御門「超電磁砲の抹殺命令を取り消したのはその為か? 彼女がいなければ幻想殺しは生きていけないからな」

アレイスター「………………」

土御門の質問に、アレイスターは肯定も否定もしない。

土御門「ふん。まあ貴様の考えてることなどどうでもいい。だが1つだけ覚えておけ」

アレイスター「何だ?」

土御門「あの3人に少しでも手を出してみろ。俺がすぐさま貴様の寝首を掻き切ってやる」

ギロリ、と土御門は殺気を孕んだ目をアレイスターに向けた。

アレイスター「……なるほど、覚えておこう」

土御門「………ペテン師が」

言って土御門は踵を返す。これ以上ここにいても意味はないと思ったからだ。

土御門「………………」ピタッ

が、2、3歩ほど歩いた後、彼はふと立ち止まった。

アレイスター「まだ何かあるのか?」

その問いに応じるように土御門は顔だけ後ろに振り向かせ、1つ訊ねた。





土御門「アレイスター……お前、本当は『弧絶術式』に掛かってないんじゃないのか?」





アレイスター「………………」

土御門「………………」

永遠にも思えるような沈黙が続く。
やがてアレイスターは静かに、飄々とした感じで、表情を変えることもせず答えていた。

アレイスター「はて……『弧絶術式』……何のことだかサッパリ分からんな……」

土御門「……………………」

アレイスター「……………………」

土御門「………まあ、今更お前のことなどうでもいい」

それだけ吐き捨て、今度こそその場を離れていく土御門。

アレイスター「…………………………」

が、この時土御門は知る由もなかった。一瞬、アレイスターの口元が僅かに歪んだことを――。

 

 

 

 

東京。

賃貸マンションの一室。そこに、一方通行の襲撃によって荒れた部屋を片付ける上条一家の姿があった。

上条「これはこっちに移動して、と………」

麻琴「あああああああん!!!!!!」

美琴「はいはい、どうしたのかなー? んん? おっぱい? ……ってこれはっ!」

上条「お、おい何か臭うぞ! まさか!」

美琴「せいか~い。レベル5の『超脱糞砲(シットガン)』でしたー」

上条「ああ、もうただでさえ片付かないと言うのにおまけに悪臭まで……不幸だ」

美琴「ふふ、でも満更でもないくせにー」

上条「それはお前だって同じだろ?」

美琴「えへへ、もちろん!」

上条「っておい、麻琴のやつ、おしっこも漏らしてるぞ!」

美琴「ええっ!? あら、本当だわ!」

上条「勘弁してくれよ~」

美琴「あはは、さすが私の子。やるわね」

麻琴「あぁ~うぅー!!」

上条「笑い事じゃないだろ」

美琴「ごめん! でもおかしくて………ふふふ」

楽しげに会話する親子3人。
これから彼らにどんなことが訪れるのか。それはまだ分からない。が、それでも美琴は、その日常を楽しむように、幸せそうに笑みを浮かべていた。左手の薬指に、銀色に輝くリングをつけながら――。

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