中の人「おっ!目が覚めたか」上条「テメェ……」 > 03


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 これまでのまとめ

 元祖上条当麻(竜神さん):アメリカ
→中の人と外の人が入れ替わってしまった。黒幕(アレイスター)を探るため、科学、魔術、両サイドの目から逃れ、第三勢力を探す旅に出る。期限は一週間。

 土御門元春:イギリス
→アレイスターから上条当麻探査の命をうけ、命令を実行するかたわら。上条勢力を影から操り、上条さんを安全に保護しようと画策する。

 御坂美琴:北極海
→北極海で白井黒子と共に天草式の一団と遭遇。魔術と科学の連合軍結成か?

 インデックス:イギリス
→聖ジョージ大聖堂で上条の帰りを待つ。

 海原光貴:学園都市
→学園都市と必要悪の教会との戦争に巻き込まれないように、ショチトル達と学園都市を脱出する予定。

 結標淡希:学園都市
→無職の居候ニートになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

上条サイド  ―アメリカ ラスベガス―

 竜神当麻はネオンなどの電飾で派手に彩られた、大通りを歩いていた。
 ここはアメリカ。冷戦に気を取られているうちに、科学技術においても、
魔術においても、世界に置いてけぼりにされた負け犬の国。
 街に使われている電飾の技術ですら、学園都市で使われているものに遠く及ばない。
学園都市の繁華街を見慣れている上条からすれば。
この街の風景は、映画の中の世界に迷い込んだか、過去にタイムトリップしたかの様な錯覚すら覚える。

上条『そういやお前、姿を変えるとか言ってたけど。本当にそんな事できるのか?』

竜神『何言ってんだ?もう変わってるだろ?』

上条『は?』

 竜神は、上条に理解させるため、近くにあった衣料店のショーウィンドゥに向かって手を振って見せた。
衣料店は、すでに閉店していたようで、照明が落としてあったが、
店員が中で作業をしているらしく、シャッターが落とされていなかった。
 ガラスに映った人影がこちらを向いて、にこやかに手を振っている。
その姿は……。

上条『う、海原光貴?』

 上条のリアクションを確認して、竜神は再び歩き始める。
ガラスの向こう側にいた女性店員が怪訝そうな顔でこちらを見ていた。

竜神『そう。正確には、海原光貴の皮を被ったアステカの魔術師の姿だな。
覚えてるだろ?お前がぶん殴ったアイツだ』

上条『ああ。そうか。あの時確かに俺はアイツの変身を打ち消した……。
アイツが使ってた魔術をお前が使ってるのか?
でも、あれって確か、護符だか何だかが必要なんじゃなかったっけ?』

竜神『そうらしいな。でも、俺には関係ねえんだ。
大雑把に言うと、魔術ってのは、魔力って名のインクを、霊装って名の筆記用具に移して空間に絵(幻想)を描く様なものなんだ。
俺達の幻想殺しは、絵(幻想)そのものの構成を完全に読み取れるから、その再現も簡単にできる。
お前の右手がスキャナーで俺の右手がプリンターだな。
お前はスキャニングした絵(幻想)を反転させて相手の絵(幻想)にぶつけてるから、見た目上無かった事にできるわけだ。
相手が使った霊装(筆記用具)が、鉛筆だろうが筆だろうが最新鋭のプリンターだろうが関係ない』

上条『ますますチートだな』

竜神『それでも。利用できるもんは、利用するべきだろ』

上条『そりゃそうだけどよ。
あれ?でも、俺の幻想殺しって霊装も壊せたよな』

竜神『霊装を作るのにも魔力は必要なのさ。
例えるなら、指にインクをつけて直接、キャンバスに絵を描くようなもんかな。
指で触れただけで魔力が発生するって話は大覇星祭の時に聞いただろ?
インクの染み込んだ紙から無理やりインクを剥したら、後に残るのはボロボロになった紙だけだ。
だからこそ逆に、魔力の通ってない物は壊せない。
アドリア海の女王の護衛艦隊は壊せなかったろ?』

上条『ああ、なるほど』

竜神『理解できたな?じゃあ行くぞ』

上条『行くってどこに?』

竜神『ここさ』

そう言って竜神が見上げた先に、とある大きな建造物があった。
 数々の電飾に彩られ、まるで昼間のように輝いているそれは、上条当麻にとってはまるで縁のない施設だった。
 不幸の塊である彼は決して近づこうとも思わない。
 大人の娯楽が詰まった天国であり、同時に地獄でもあるその施設の名は……。

上条『カジノ!?ちょっと待て!何する気だテメェ!』

竜神『んー。何がいいと思う?ポーカーかな?いや、対人じゃない方がいいか。
だとするとスロット辺りが妥当かな?』
上条『不幸の申し子上条さんがギャンブルなんかやったら、あっという間に身包み剥されちゃうでしょ!
何考えてんのこの子!?』

竜神『そう思うだろ?でも違うんだな、これが』

上条『は?…………はっ!まさかテメェ!?』

竜神『ふっふっふっふっふっ。聞いて驚け!
今の竜神さんは不幸ではないのだ!』

上条『何……だと……。
ってかお前、上条さんがこれまで打ち消してきた幸運とか神のご加護とかも』

竜神『そう、複製できちゃうんだな、これが』

上条『嘘だろ?』

竜神『嘘じゃない。
しかも何と、今現在の竜神さんの幸運は、神の右座であり聖人でもある、
あの後方のアックアと同じレベルなのだ!』

上条『何だってー!!はっ。
そういえば、俺、確かにアイツに触った事あるわ……』

竜神『何をするにしても、先立つ物は必要だろ?
今日、ここで軍資金を荒稼ぎしてから旅に出る』

上条『マジか!?』

竜神『マジだ。さあ行くぞ!これまでの不幸のツケを、一気に返してもらおうじゃないか!』

上条『お、おうー!』

 こうして竜神当麻は、欲望渦巻く、賭場へと足を踏み入れていった。

 

 

 

 御坂サイド ―北極海―

 天草式十字凄教の上下船の船内で、ささやかな晩餐会が行なわれていた。
上座には教皇代理の建宮斎字が陣取り、続いて、ゲストである御坂美琴と白井黒子が乙女座りをしている。
五和を除いた天草式の面々も一緒だ。

建宮「二人の回復を祝って、かんぱーい」

一同「かんぱーい」

 建宮はナミナミと注がれた日本酒を口に含むと、御坂達に向き直り、話しかけた。

建宮「いやー。本当に無事でよかったのよな。
女教皇様から”空から女の子が二人降って来るので、急いで回収して下さい”
なんて、訳の分からん要請があった時は、空いた口が塞がらんかったけどよー」

御坂「この度は助けていただいて、ありがとう御座います」

白井「感謝いたしますの」

建宮「いいってことよ。
我等の教義は”救われぬ者に救いの手を”だからよ。
女教皇様の教えに従ったまでよな」

御坂「いえ。お陰で命拾いしました」

建宮「お前さん方のくれた情報に比べれば、これ位安いもんよ。
こちらが感謝したいくらいなのよな」

御坂「建宮さん達はアイツの、上条当麻のお知り合いなんですよね」

建宮「知り合いなんてもんじゃねえのよ。
時に命より大事なものを救われ、時に命を互いに託して共に戦った。そういう仲なのよな」

御坂「そうなんですか……」

建宮「上条当麻が生きていて本当によかった。
我等はアイツに返しきれんほどの恩があるのよな。我等がこの海に留まっていたもの、その為。
せめてアイツの遺体だけでも見つけて両親のもとに返してやりたい。その一心で必死に海をさらっておったのよ。
五和なんてぐしゃぐしゃに泣きながらも、手を休める事をしなかったくらいなのよな……」

白井「…………」

建宮「しかし、生きていると分かった以上、こんな所で油を売ってる暇は無いのよな。
とっとと、その魔術結社をあぶりだして、上条当麻を保護するだけのことよ!」

 建宮は、盛り付けられていた豚ばら肉の串焼きを掴むと、豪快にがぶりとかぶりつき、笑みを浮かべた。
まるで肉食獣が笑ったかのような獰猛な笑みを。

御坂「私達も一緒に行かせてください。
私達は学園都市の超能力者です。きっと力になれます」

建宮「……本来なら、魔術師同士の争いに学園都市が介入するのはご法度なのよな。
でも、第三次世界大戦の影響でその縛りがゆるくなってる。
しかも、今回は学園都市の住人である上条当麻の救出が目的。学園都市には介入する権利があるのよな。
……うん、いいだろう。我等に助力してくれるか?」

御坂「はい!」

白井「承知いたしました」

建宮「にしても、五和のヤツはどこいったのよ?一番喜んどったのはアイツだろうに」

 下座の末席にいた少年が返事を返す。

香焼「五和なら部屋に篭ったっきりです」

建宮「何してんのよ?」

香焼「何か、”こんな顔、上条さんに見せたら幻滅されちゃう!”とか言って化粧品とか漁ってました。
部屋の中で、回復魔術とお化粧を繰り返してるみたいです」

建宮「ぶっー!何やっとんのよアイツは……」

 建宮は口に含んだ日本酒を豪快に噴出しかけた。女性陣の冷たい目線が突き刺さる。
 どうやら五和は、泣きはらしてしまって、真っ赤に腫れた目元が気になってしょうがないらしい。

香焼「僕が呼びに行きましょうか?」

対馬「ほっときなさい。そういう年頃なのよ」

香焼「でも、もうすぐミネラルウォーターのストックが切れそうなんすけど……」

建宮「ちょっと待て!あんだけあったストックがもう無くなったのか!?
一体どれだけ回復魔術を繰り返してんのよ!」

香焼「やっぱり、呼んできましょうか?」

対馬「……私も一緒に行くわ」

 香焼と対馬に羽交い絞めにされた五和が合流したのは、それから五分後の事だった。
酒の席であったのもあり、一同は大いに盛り上がり、何度も乾杯を交わした。
 上条当麻が無事であるように。
この旅が実りあるものであるように。
科学と魔術の出会いが互いの幸せに繋がるように。
何度も何度も願いを込めて。
 目指すは北アメリカ大陸。現在上条当麻が踏みしめているのと、同じ大地だ。

 

 

 

ローラサイド ―イギリス 聖ジョージ大聖堂―

 ローラ=スチュアートはモニター越しに獲物である男と対峙していた。
 不敵な笑みをつくり、相手の呼びかけに応える。

ローラ「それで、こんな夜更けに何の用件がありけるの?
睡眠不足は乙女の大敵たりけるというのに」

アレイスター「ふむ。時差をわきまえるならば、本来このような時間帯に通信するべきではなかったのだが。
用件が用件であった為に、仕方なくこうして連絡を入れたのだ。
急を要する上に、そちらの了承を得ずに進められるものでもなかったのでな。
不興をかったのならお詫びする」

ローラ「別にかまわぬのよ。こちらも戦後処理に追われておりしところなのだから」

アレイスター「お気遣い感謝する。では用件なのだが。
上条当麻の特別捜索本部を学園都市に設置する事に決定した」

ローラ「一学生の為にそれは大げさではならぬの?
戦争による行方不明者など数多く居るというのに」

アレイスター「そうでもない。周知の通り、かの少年は第三次世界大戦終結の立役者だ。
事実を公にするわけにはいかないにしても、かの少年が英雄であるという事実は変わるまい」

 言うまでの無く。学園都市、必要悪の教会双方がすでに上条当麻探索を開始している。
これは、今まで水面下で行なわれていたものを、公に行なうという宣言に過ぎない。

ローラ「ふんふん。それで?その報告だけ、という訳ではなきけるのであろう?」

アレイスター「特別捜索本部の設置にあたって、禁書目録をはじめとした必要悪の教会の部隊をこちらに派遣していただきたい」

ローラ「…………」

アレイスター「別にそちらの領分に踏み込むつもりは無い。
ただ、かの少年が置かれている状況によっては、こちらの科学捜査だけでは見つけられない場合がある。
そちら側のテロリストなどに囚われていた場合など特にだ。
故に、必要悪の教会にも協力を依頼したいのだが、どうだろうか?」

ローラ「捜索だけであらば、イギリスでも出来ようものなのに、何故学園都市まで足を運ばねばならぬの?
他の魔術組織の反発を招く恐れがありけるのでは?」

アレイスター「なに、本部を一つにまとめた方が、情報のやり取りがスムーズになり、より効率的に事が進む。
それだけの事だよ。
そちらとこちらの通信形式が異なる以上、直接口頭で情報を伝達した方が、齟齬が少なくてすむ。
それに、今十字教のパワーバランスは大きく崩れている。
最大勢力たるイギリス清教に反発するものなど、そうはいないだろう。いたとしても無視できるレベルだ」

 アレイスターには二つの目的がある。一つは禁書目録。上条当麻を学園都市に繋げ止めておく為の首輪だ。
 二つ目は、意図的にイギリス清教と接近する事によって、魔術世界においてイギリス清教を孤立させるのが狙いだ。
 戦勝国であるイギリスが敗戦国であるローマ、ロシアに疎まれるのは当然の成り行きであり。
そのイギリスがさも当然のように魔術世界を取り仕切るようになれば、両者の溝はさらに深まる。
 加えて、経済的に圧倒的に優位に立っている学園都市が、
戦後復興支援という形でローマ正教とロシア成教との経済的結びつきを強くすれば、イギリス清教は完全に孤立してしまう。
 魔女狩りという逆転の一手が、ローラの持つジョーカーであるなら。
いや、ジョーカーであるがこそ、そのカードをきるタイミングは慎重にならざるを得ない。
 これは、イギリスを囲い込み、カードをきるタイミングを失わせる為の布石なのだ。

もちろん、ローラはその事を十分に理解している。
 その上で、この条件に乗ることで得られる利益とリスクを天秤に掛ける。
 禁書目録を貸し出すだけならば、問題ない。遠隔制御霊装は、今ローラの手にある。
あれさえ奪われなければ、禁書目録を奪われる心配はほとんどない。
 送り出された部隊は、ある意味人質としての価値を持つのだろうが、アニェーゼ部隊などの末端の少数宗派を使えばリスクは軽減されるはず。
 政治的な問題については、すでに手を打ってある。致命的な状況の悪化は避けられるはずだ。
 そして、アレイスターの提示した条件には、それらのリスクを加味した上で、それを無視できるほどのうまみがある。

ローラ(”学園都市に自由に行き来する”そのための大義名分ができる。
これを逃すのは惜しいのよ。そう甘くはないのだろうけど、うまくいきけば学園都市攻略の糸口が掴める。
ふふふっ。それほどまでに、幻想殺しの少年を手放したくないと言いけるの?)

 ローラは唇をゆがめ、歪んだ笑みをつくる。獲物の首はもうすぐそこだ。

 

 

 

 上条サイド ―アメリカ ラスベガス―

上条『うおぉぉぉぉぉ!すっげぇぇぇー!コインがザクザク出てくるよ!』

 カジノの一番端の台で、竜神当麻はひたすらスロットを打ち続けていた。

竜神『まあ、こんなもんだろうな。
大天使が使用してた、第六感の情報を操作する術式を使えば対人のゲームも楽勝なんだけどな。
あまり目立ちたくないし、これでいいだろ?』

上条『俺がギャンブルで勝てる日が来るなんて、考えもしなかったぞ!
一回だけ福引が当たった事あったけど、イタリア旅行なんてまともに出来なかったしな』

竜神『ああ、あれか?どうせあれも出来レースだと思うぞ』

上条『出来レース?』

竜神『お前をアドリア海の女王にぶつける為の、統括理事会からのささやかな贈り物ってとこだろ?』

上条『あっ……。なるほどな。
学園都市がやったんなら、コンピューター制御の抽選結果をいじるのも、簡単なわけか……』

竜神『そう言う事。
目的地まで連れていけば、上条さんの不幸が勝手に巻き込んでくれるだろうからな。
……さて、このへんで切り上げるか』

上条『えっ。なんでだよ?まだまだ勝てそうじゃね?』

竜神『勝てるだろうさ。それこそ、このカジノを破産させるくらいな。
でも、俺達の目的は当面の軍資金を稼ぐことだ。これ位が潮時だろ?』

上条『ああー。確かにそうだな』

竜神『それに、お前に体が戻ったら。
今日稼いだ金はどうせ全部なくなっちまうよ。
どっかに落っことしたり、盗まれたりしてな』

上条『不幸だ……。こんな大金を前にして、ただ見ている事しか出来ないなんて……。
俺の金なのにぃぃぃ!』

竜神『俺の金だ』

上条『当分のインデックスの食費がこれでまかなえると思ったのにな……』

竜神『あれか?インデックスに日本の文化に慣れ親しんで貰おうって言うお前の策略か?』

上条『そう!アイツ、食に対する好奇心だけは人一倍だからさ。
色んな日本食食わせてやろうと思ってんだけど……。
金が足りないんだよ。
いっつも、もやしばっか食卓に並んでるからな』

竜神『なんだかんだで、アイツは幸せそうだけどな。
俺と初めて会った時なんか、腐りかけの野菜で作った野菜炒めをめちゃくちゃうまそうに食ってたぞ』

上条『はあ?んな物食わせんなよ!!
……いや、確かにアイツなら何でもうまそうに食うんだろうな。はぁー』

竜神『無理しなくても、お前の出来る範囲でいいんじゃねえか?
アイツの為に心を込めて作ったご飯なら、なんだって喜ぶさ』

上条『そうなのかもしれねえけどさ……』

 そうこうしている内に、竜神はコインの換金を済ませていた。
日本円にしておよそ三百万円分のドル紙幣の束を無造作にポケットにつっ込む。

上条『無用心じゃないか?』

竜神『仕方ないだろ?バックとかアタッシュケースとか持ってないんだから。
財布に入りきるような量じゃねえし』

上条『んー、それもそうか』

竜神『じゃあ。祝杯といきますか。
今夜はモーテルに戻って寝るだけだし』

 竜神の視線が近くにあったバーへと向かう。

上条『テメェ!未成年はアルコール飲んじゃ駄目って小萌先生が言ってたろ!!』

竜神『そうだっけか?ってかお前小学生かよ。
まっ、俺はたまに土御門と飲んでたけどな』

上条『まじか……』

竜神『最近アイツも忙しいみたいだし、お前は誘われる事が無かったみたいだけどな』

上条『だとしてもだ!上条さんの体で悪い事するのは許しません!!』

竜神『はいはい。お前に免じて、今日はノンアルコールにしておくよ』

 竜神は空いていたカウンターの椅子に腰掛けた。
 カジノの中もそうなのだが、全体的にセレブな感じで、平凡な家庭の庶民である上条当麻は少し気後れしてしまいそうな雰囲気だ。

竜神『んー。ノンアルコールの飲み物ってなにがあるっけな?
適当にビールとか頼んだ方が無難なんだけどな』

上条『未成年の飲酒ダメ絶対!!」

竜神『はいはい』

竜神「じゃあ、ヴァージン・マリーを」

 竜神はやってきたバーテンダーに英語でオーダーを出す。

上条『ヴァージン何だって?」

竜神『ヴァージン・マリー。
ブラッディー・マリーがウォッカとトマトジュースをベースにしたカクテルで。
ブラッディー・マリーのウォッカ抜きがヴァージン・マリー。
ようするにただの野菜ジュースだ』

上条『へー』

竜神『っつかそれくらい記憶にあるはずなんだけどな。
普段使わない記憶領域だからもう忘れてんのかな』

上条『俺が知るわけないだろ?』

「処女の血をお望みかぁ?少年」

 カウンターの左隣の席に座っていた酔っ払いの男が日本語で話しかけてきた。
横目でその姿を確認してみる。
高級ブランドのスーツを着崩していて、いわゆるちょい悪親父といった感じだ。
だらしなくカウンターにもたれかかり、顔だけこちらを向けている。

上条『おい!上条さんの不幸センサーがビンビン反応してるぞ』

竜神『ああ俺もだ。でも、無視すると、この手の手合いはさらにアグレッシブになるぞ』

上条『……頑張れ!!竜神当麻!』

竜神『はぁー』

 竜神は男の方に向き直り、相手をしてみる。

竜神「よく俺が日本人だって分かったな。おっさん」

「そんなのは、見ればわかるさ。
これでも人を見る目はあるんでな」

竜神「そっか。おっさんも日本人だよな?」

「ああ。そうだ。俺はミサカ、御坂旅掛つーれっきとした日本人だー」

竜神「御坂……」

旅掛「まったく、こっちの人間は俺の顔みるとすぐ中国人だなんだとか勘違いしやがるんだ……。
日本人全員が愛想笑い浮かべてる訳ねーだろってんだ!
大体、移民街の治安を良くしてくださいって言われたってさー。
その移民を受け入れてんのはお前の国だろ。
移民だってご飯食ってくために希望をもってテメェらの国にやってきてんだよ。
そいつらを、安い給料で働かせる事で儲けてんのはお前の国のお偉いさん達でしょうが。
だったら、移民を受け入れないで国を回す制度か、
移民が教育と給料のいい仕事が受けられるような制度を考えてみせろってんだよ、ちくしょーう!!」

上条『このおっさん何でキレてんだ?」

竜神『さあ?大方こっちのアメリカ人に中国人と間違われたんだろ?
こっちの人間にはアジアンなんてどれも一緒に見えるだろうからな。
”愛想笑いを浮かべてたら日本人”みたいな適当な見分け方しか出来ないんだよ』

上条『へー。まあ俺も外国人の顔の違いなんて分かんないからな』

旅掛「ところで、お前さん。何者だ?原石……じゃないよな」

竜神「…………」

旅掛「あれー。だんまりか?」

竜神「さあな?なんなんだろうな?」

注文の品が運ばれてきた。野菜スティックの添えられた真っ赤な液体だ。
竜神は適当にチップを払う。
 バーテンダーの白人男性が、”すみませんね”とでもいいたげに愛想笑いを浮かべてから、立ち去っていった。
 竜神はセロリのスティックをつまみながら、旅掛の様子を窺ってみる。
旅掛は頭を抱えて悩んでいるようだった。

旅掛「おっかしいなー。飲みすぎたかな。
今まで外した事はなかったのに」

竜神「凄い特技だなそれ」

旅掛「言ったろ。人を見る目はある」

竜神「仕事でアメリカに来たのか?」

旅掛「ああ、そうだ。俺の仕事はな。
世界に足りないものを示す事だ」

竜神「具体的には何してんだ?」

旅掛「なんでもさ。国にゴミが溢れてるなら。
ゴミがなくなる仕組みを作る。
そういったアイディアを与える統合コンサルタントってところか」

竜神「そんな仕事があるんだな。面白そうだ」

旅掛「楽しくなけりゃやってけねえさ。妻と娘にもほとんど会えないしな」

竜神「娘さんがいるのか?そりゃ大変だな」

 竜神は適当に質問しながら、グラスの中身に口をつけた。

旅掛「いるぞ。可愛いー娘が。美琴ってんだけどな」

竜神「ぶっ!」

 思わず口の中のものを噴出してしまった。慌ててナプキンでふき取る。

竜神「すまん。……アンタの娘って御坂美琴か?学園都市第三位のビリビリ」

旅掛「おっ!知ってんのか?美琴も有名人だな」

上条『このおっさん、美琴の親父さんかよ!
母親があれで、父親がこれか……」

竜神・上条『美琴には絶対酒飲ませないようにしよう!うん!』

 娘を知っている人間に会えた事がよっぽど嬉しかったのか、旅掛はすっかりご機嫌だ。

旅掛「見てくれよ、これ。かっわいーだろ?」

 そう言って携帯を差し出してきた。
待ちうけ画面に美琴と美鈴さんの姿が写しだされている。
美琴が体操服であるところを見ると、どうやら大覇星祭の時に撮った写真らしい。

竜神「そうだな」
旅掛「やらないからな」

竜神「(それは写真をって意味なのか?それとも嫁にって意味なのか?)
大事な娘なんだな」

旅掛「当たり前だ。それこそ目に入れても痛くないな」

 旅掛はおもむろにカウンターの上にあるバッファロー・ウィング(鶏手羽)に手を伸ばす。
 どうやら、旅掛のオーダーではなく。その向こうに座っているガタイのいい黒人男性のおつまみのようだ。
 黒人男性は、その左隣に座っている、これまたガタイの良い白人男性との会話に夢中らしく。
自分のおつまみが盗まれていることに気がついていない。

竜神「娘さんとは連絡取れてんのか?」

 上条と竜神の脳裏に、ロシアでの情景が思い出される。
VTOL機に乗り、ベツレヘムの星に現れたシスターズ。
その内の一人は御坂美琴ではなかったのか?
もしそうなら、あの後彼女達はどうなったのだろうか?
そもそも、彼女達は何故あの場に居たのか?
 様々な疑問が不安に変わっていく。
 美琴は無事なのだろうか?

旅掛「そういやー最近電話してないな。
でもなー。学園都市に掛けると国際料金になっちまうんだよなー」

上条『御坂ん家って金持ちじゃなかったけ?
電話料金くらいどうとでもなりそうなもんだけどな……」

竜神『お小遣いが少ないんじゃね。美鈴さんに財布の紐を握られてんだろ?
うちの親父も似たようなもんだし』

上条『ああー。お父さんって大変なんだな』

 旅掛はしばらく携帯とにらめっこした後、意を決して、携帯を操作し始めた。
どうやら御坂に掛けるつもりらしい。

旅掛「おっ!美琴ちゃん?―――そうですよー。パパですよー」

 どうやら美琴は自由に電話に出られる環境にあるらしい。
 ほっと胸をなでおろしたのも、束の間。旅掛が二本目となるバッファロー・ウィングに手を伸ばした。

上条『おい!やばいんじゃねえか?』

竜神『ああ。気付かれたな』

 自分のおつまみが盗まれている事に気がついた厳つい黒人男性が、旅掛の方を睨みつけている。
 とうの旅掛の方は、それに気付かず、久し振りの我が子との会話を暢気に楽しんでいた。
 その態度が、さらに黒人男性の癇に障ったらしく。立ち上がり旅掛に対し罵声を浴びせ始めた。
二メートルはあろうかという巨体が、酔いどれ親父の前に威圧的に立ちはだかる。
 連れと思しき白人男性は、その後ろで囃したてている。
この場を穏便に収める気は微塵もないらしい。

上条『英語の分からない上条さんでも分かりますよ。やばいって!
さっきから放送禁止用語連発してるよ!あの兄ちゃん!!』

竜神『さすがにファックとかキルとかは分かるよな……。
にしても、おっさんは暢気だな。まだしゃべってるよ』

上条『いや!早く助けねえと』

竜神『わかってる』

 その時、黒人男性が、左手で旅掛の肩に掴みかかり。右腕を振り上げた。
竜神は咄嗟に旅掛の前に躍り出る。

竜神『天草式対衝撃翌用術式、展開!』

 旅掛の顔面にきまる筈だった男性の拳は、間に入った竜神の右手によってあっさりと止められた。

竜神「悪いのはこのおっさんかもしんねーけどさ。ちょっと気が短すぎんじゃね?」

 男性の目が、驚きで見開かれる。
渾身の一撃が、こんなにもあっさりと、
しかも、見るからに喧嘩慣れしていない優男に止められるとは思っていなかったのだ。
 酔いで赤らんでいた男性の顔が、怒りでさらに真っ赤に変わっていく。

竜神『術式解除。天罰術式発動』

 突然、黒人男性が白目をむき倒れこんだ。
怪我をしないように、竜神はその男性を受止める。
意識を失った男の体の重みが、ずっしりと竜神の体にかかった。

上条『おい!天罰って!』

 天罰。9月30日、前方のヴェントが使用した、大規模制圧用に天使の術式だ。
使った対象に対して敵意を抱いている者を問答無用で昏倒、仮死状態へと追い込む脅威の術式。

竜神『安心しろ。もう解除してあるから、その内目覚める。
それに俺の存在を知ってるやつなんて、この世にほとんどいないからな。
今ので倒れたのはこの男だけだよ』

 連れが突然倒れた事に驚いていた白人男性が、我に返ったのか怒りの声を上げた。
今にも竜神に殴りかかりそうな雰囲気だ。

竜神「飲みすぎだ。介抱してやってくれ」

 竜神はそう英語で告げると、黒人男性の体を突き飛ばし、連れの白人男性に押し付ける。
100キロはあろうかという重みに耐え切れず。白人男性は後ろによろけた。
 竜神はその隙に、後ろに座っている旅掛に向き直る。

竜神「おい!おっさん!行くぞ!」

 唖然としていた旅掛の手を取り。
竜神は入り口に向かって走りだした。
バーを出て、カジノ内の人ごみを掻き分けながら、突き進む。
視界の端に、黒服サングラスのSPらしき男達が耳にあてたイヤホンを通して、なにやら通信しているのが写った。
上条『あのー。さっきから黒服きた男の人達が、すっげーこっちを見てるんですが……』

竜神『だな。大方、俺達がカジノを出たところで、取り押さえる算段なんだろうさ』

上条『それってやっぱりマフィアとか、そんな感じの人達のところに連れてかれるんだよな』

竜神『どうなんだろうな。とにかく、この場は逃げ切るぞ!』

上条『逃げるってどうやって!酔っ払いのおっさん連れて逃げられんのか!?』

竜神『こんな時はこれだ!表裏の騒静(サイレントコイン)』

 

 

 

表裏の騒静(サイレントコイン)かつてオリアナ=トムソンが使っていた術式だ、
使用者を追いかけようとする者の”追いかけようという意思”そのものを失わせる。人払いを応用し構成した魔術。
 カジノを出た二人は、あえて大通りを直走る。
通りを歩いている通行人達に紛れ、出来るだけ追っ手が見失いやすい環境を作るのが目的だ。
 目の前に回りこまれそうになる前に強引に進路を変え、追っ手を撒いていく。
表裏の騒静(サイレントコイン)の効果は自分の背に位置する人間すべてに及ぶ。
故に、たとえ遠回りでも、前方を取られなければ掴まることはないのだ。
 十分ほど走ったところで、二人は足を止めた。
 追っ手を完全に振り切れた保障はなかったが、何せ酔っ払いも一緒だ。
急激な運動で、急性アルコール中毒にでもなられたら困る。

 

 

竜神「はぁはぁはぁ、おっさん大丈夫か?」

旅掛「ゲホッ。ああ。大丈夫だ」

 そういいながら旅掛は地面に座り込んでしまった。
酔いはすっかり醒めてしまっているらしい。

竜神「そうか」

旅掛「しかし、こんなに走ったのは久し振りだ。俺も歳かな」

竜神「酒飲んでてそこまで走れりゃ十分だろ?」

旅掛「はっはっはっは。礼を言うよ少年。
あの男を昏倒させたのも、追っ手を振り切ったのも、君がやったんだろ?」

竜神「わかるのか?」

旅掛「わかるさ。具体的に何をしかたまでは理解できないけどな」

竜神「へー。さすがは美琴の親父さんだな」

旅掛「ん?君はうちの娘の知り合いか?」

竜神「ああ、友達だ」

旅掛「そうか……。でも、何で学園都市の学生がここにいる?……それに原石は全て回収されたはず……」

竜神「ちょっと訳ありでな。学園都市から逃げてる最中なんだ」

旅掛「何か問題でも起したのか?」

竜神「これから起すんだ」

旅掛「…………」

竜神「じゃあな、おっさん。気を付けて帰れよ」

 竜神は旅掛に手を振り、その場をあとにしようとした。
旅掛「待ってくれ。礼がしたい。俺が泊まってるホテルで飲みなおさないか?」

竜神「んー。相棒に酒は止められてんだ。コーラなら付き合うぜ」

旅掛「なんでも奢ってやる。改めまして、俺は御坂旅掛だ」

竜神「俺は竜神当麻だ。よろしく」

 地面に座ったままの状態の旅掛と握手を交わし、そのまま助け起こした。
 立ち上がった旅掛は、竜神の顔を見据えつぶやく。

旅掛「さぁて、君に足りないものは何かな?」

 

 

 御坂サイド ―北極海―

 竜神がスロットに興じている頃。
御坂美琴は五和と共に船の甲板で涼んでいた。宴会ムードの船内の熱気で、体が火照っていたからだ。
白井黒子は連続テレポートの疲れから、再び眠りについてしまった。今は寝室で休んでいる。
 木造の船が冷たい海を突き進む。
ちょっとした高速船くらいの速度が出ているにも関わらず、船上の揺れは大した事がない。
ひょっとしたらこれも魔術というものの効果なのかもしれない、と御坂は分析していた。

五和「やっぱり、外は冷えますね」

御坂「うん。でも少し気持ち良い」

五和「そうですね」

御坂「ここの人は皆良い人ばっかりね」

五和「ええ。私の自慢の仲間です」

御坂「そっか。……上条当麻は天草式の恩人って言ってたわよね?」

五和「はい」

御坂「……私もね。アイツに、頼みもしないのに命を救われたクチなのよ」

五和「上条さんにですか?」

御坂「そう。私と私の妹達を助ける為に、ボロボロになりながら学園都市最強の能力者と戦ってくれたの……。
普通さ。そんな大事件に巻き込まれる事なんて、人生に一度あるかないかってとこじゃない。
だからかな。私はアイツにとって少しは、その、と、特別な存在じゃないかって、思ってたの」

 御坂は船のふちに寄りかかり、うつ向き気味に海を眺める。
五和「…………」

御坂「でも、違った。アイツは今まで何度も、
いろんな人や国を助けて、いろんな人の人生を叩いて直してたんだよね……。
私の思い上がりだったのかな……」

五和「それは違うと思いますよ」

御坂「へ?」

五和「御坂さんと上条さんがどういう関係か知りませんが。
上条さんにとっては特別な人の筈です。
というより、上条さんには特別な存在が多すぎるんですよ。みんなそうなんです」

御坂「どういう事?」

五和「私が上条さんと一緒に過ごした時間は短かかったですけど、はっきり分かった事があります。
上条さんにとって、派閥とか国とか世界がどうとかって話は、どうでもいい些細な事なんです。
ただ、自分の周りにいる人達が笑顔でいられる事が何より大切なんですよ。
その為なら、上条さんは命を掛けて戦います。
今までそういう所を何度も見てきましたから、断言できます。
上条さんはあなたの笑顔がみたいから戦ったんだと思いますよ。
それって十分特別って事だと思うんですけど。違いますか?」

 ”だからさ、お前は笑ってていいんだよ”。
御坂は、あの日病室で、去り際に上条からかけられたその言葉を思い出す。
 自分の中の胸のつかえを、きれいに取り除いてくれた。暖かい言葉を。

御坂「そうなのかな……」

五和「きっとそうです」

御坂「そうね。ありがと」

五和「いいえ。どういたしまして。
……それで、つかぬ事をお聞きしますが。
御坂さんは上条さんとはどういったご関係なんですか?」

御坂「えっ!私!?ってかアンタはどうなのよ!!?」

甲板の二人がガールズトークを繰り広げているかたわらで、船内の野郎共もまた静かにヒートアップしていた。
 壁にコップを当てて、聞き耳をたてていた建宮斎字が小声で呼びかける。

建宮「おー!!ついに御坂嬢と上条当麻との関係が暴露されそうなのよな!!」

 その言葉に、一同の”おぉぉー!!”という反応が小声で返ってくる。
 部屋の奥で、夕飯の食器の片付けをしていた対馬が「片付け手伝え馬鹿共!」と小言を投げかけた。
男達のこういった行動に対して、若干あきらめの様なものが混じった声色だった。

建宮「いやいや。今は片付けよりもこっちが優先なのよな。
なにせ女教皇様に続き二人目のライバルの登場やもしれんのよ!!」

 男達はそれぞれ”そうだ!そうだ!”と頷いている。
 夕食の後だというのに、もうポテトチップスを広げて、つまみ始めている香焼が、建宮に質問を投げかけた。

香焼「もしライバルが増えたらどうするんすか?
やっぱり僕達は五和を応援するんすよね?」

 チッチッチッと人差し指を振りながら、建宮は応える。

建宮「我等は少女達を応援する。ただそれだけよな」

野母崎「しかし、具体的にはどうやって応援するんだ?
見たところ御坂嬢には五和や女教皇様のような武器は備わっていないように思えるが……」

建宮「フッフッフッフッフ、抜かりはないのよな。
実は先日、件のデザイナーが、御坂嬢にぴったりの新作を発表してんのよ!
これを見よ!!」

 建宮はノートパソコンを広げ。某デザイナーのホームページを一同に見せ付ける。

一同「これは!ビリビリ雷様メイドだと!?」

 その画面には、どう見てもトラ柄のビキニ水着にしか見えない、エセメイド服が映っていた。
ポイントは角のついたカチューシャらしい。
著作権とかいろいろ大丈夫なのだろうかと思わなくもない。

建宮「そう。エレクトロマスターの彼女が着るにふさわしい最高の嫁入り衣装なのよな。
体の起伏など、この露出の多さがきっちりカバーしてくれるはず!!」

 

「お待ち下さいまし!!」

 

 

一同が声のした方を見ると、そこには先ほど寝入ったはずの白井黒子が立っていた。
別室で寝ていた彼女がこの部屋にいるという事は、テレポートを使ったのだろうか。
 白井は険しい顔で建宮達のほうを睨んでいた。

白井「話は聞かせていただきましたの」

建宮「いや、これは……」

 建宮達の背中に嫌な汗が流れる。

白井「甘いですわ!!既成品などで、お姉様を彩ろうなどと。
そこはオートクチュールで攻めるべきですの!!
大体、それでは露出が少なすぎますし、エレガントさにかけていますの!」

建宮「……はぁ」

 白井の気迫と意外性に、思わず建宮達はたじろぐ。それにもかまわず、白井は一方的に自分の要求をたたきつけた。

白井「幸い、そのデザイナーを懇意にしている者が、学友におりますので。
その者を通して早急にオートクチュールのビリビリ雷様メイド服お姉様カスタムを作らせますの!!」

建宮「お、おう!」

 ”これより露出少ないって、ただの紐じゃね”とか”あの娘ってそっち系なのか?”
などと男性陣がこそこそ話していると、香焼が”あっ”っと間の抜けた声を上げた。

一同が香焼の視線を追うと、そこには前髪にビリビリと電気を走らせた雷様と、その後ろで真っ赤になってもじもじしている五和が立っていた。

御坂「アンタ等は!何やってんのよ!!」

 広範囲に電撃の槍が降り注ぐ。天草式の面々はちりぢりになって一目散に逃げようとしたが、入り口に御坂が立っているので逃げられない。
 アイコンタクトで対馬に助けを求めてみるも、いい気味だとばかりに無視された。

白井「お、お姉様!お待ち下さいまし。黒子はお姉様の為を思って……」

御坂「こんな服を私に着せんのの、どこが私の為だ!!」

 御坂は白井にピンポイントで電撃を浴びせる。

白井「あぁぁぁぁ。そんなぁぁご無体なぁぁぁぁぁぁぁ」

 白井は床に転がり、身を捩じらせながらヒクヒクしている。
流石に見かねた五和が恐る恐る止めに入る事にした。

五和「み、御坂さん。それくらいにしないと白井さん死んじゃいますよ」

御坂「大丈夫よ。これ位いつもの事なんだ・か・ら!!」

五和「はわぁ。どうしよう。……あっ!御坂さん携帯!携帯電話が着信してるみたいですよ!!」

 白井の断末魔と電撃の音で判りづらくなっていたが、音が止むと御坂の携帯から着信音が聞こえてきた。

 御坂は、はぁーと溜息をつき、気を落ち着かせると。
カエルを模した形の携帯電話を手にする。

御坂「あっ!父からだ。ごめんちょっと話してくるわね。
あと、黒子には後でじっくり話しがあるから待ってなさいよ!」

 そう言い残して、御坂は再び甲板へと戻っていった。船内にいた皆が安堵の溜息を漏らす。

建宮「ある意味女教皇様より恐ろしいのよな」

諫早「恐妻あるいは鬼嫁といった感じじゃったな」

野母崎「攻める路線を間違えたのでは?」

建宮「うむ。改めて計画を練り直す必要がありそうなのよな」

 甲板に出た御坂は、携帯を見つめていた。父からの電話は久しぶりだ。
もしかしたら学園都市を飛び出してきた事を、どこからか聞きつけてきた可能性もある。
 覚悟を決めて通話ボタンをプッシュする。

旅掛「おっ!美琴ちゃん?」

美琴「お父さん?」

旅掛「そうですよー。パパですよー」

美琴「今どこにいるの?」

旅掛「ん?アメリカのラスベガス。カジノの中だな」

 なんだかろれつが回ってない上に、スピーカーから周りの雑音が響いてくる。
カジノ内の酒場からでも掛けているのだろうかと、御坂は推測した。

美琴「アンタもしかして酔っ払ってる?」

旅掛「ん?ちょっと飲んだかなー」

美琴「はぁー。この前お酒止めるっていってなかってけ?」

旅掛「そうだっけ?」

美琴「まあいいわ。で?どうしたの?」

旅掛「いや、特に用があるわけじゃないんだけどな。娘の声が聞きたかっただけ」

美琴「なんだ」

旅掛「なんだとは酷いな。あれ?もしかして心配事とか抱えてるのか?」

 妙に鋭い父の言葉に、うろたえそうになる。動揺を表に出さないように気を払いながら答えた。

美琴「そんなもん、あるわけないじゃない」

旅掛「ならいいんだけどな」

 さっきからスピーカーの雑音に混じって、男性の声が聴こえてくる。
興奮した感じの英語でまくし立てている。要約すると”クソJAPがぶっ殺すぞ!!聞いてんのかコラ!?”といった感じだろうか。
 待て、この場合のJAPとはうちの親父の事ではないのか?そう不安になってきた。

美琴「ちょっと。さっきからそっち、騒がしくない?」

旅掛「そうか?あっ――――――――――――[悪いのはこのおっさんかもしんねーけどさ。ちょっと気が短すぎんじゃね?]―――――――――[おい!おっさん!行くぞ!]」

 突然通話が切れ。スピーカーからツーツーという発信音だけが流れてきた。

慌てて掛け直そうとするが、繋がらない。携帯をよく見ると圏外になっている。
 洋上を航海する船の上では仕方のないことかもしれないが、今はそんな事を考えている余裕が無かった。
 父がカジノでトラブルに巻き込まれたかもしれない。しかも、電話口から聞こえてきた日本語の声に聞き覚えがあった。口調が変わっていたものの、あの声の主は……。

美琴「…………海原光貴?」

 訳がわからなかった。
本物の海原光貴は今も学園都市にいるはずだ。
そもそもカジノに入り浸るような性格ではない。
 だとすると、学園都市を離れる前に接触してきたあの男という事になる。
何故あの男が父の側にいるのか……。
それとも、自分の聞き間違えなのだろうか……。
 確かめなければならない。できるだけ早く父と連絡をとらなければ、手遅れになるかもしれない。
 幸い、今この船はアメリカに向かっている。
飛行機をチャーターすれば、すぐにラスベガスまでは辿り着くはずだ。

美琴「あぁぁーもう!次から次へと問題ばっかりぃ!一体どうなってんのよ!!」


                                                            

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