中の人「おっ!目が覚めたか」上条「テメェ……」 > 02

 

御坂&土御門サイド ―北極海上空―

 土御門からもたらされる情報を、御坂と白井は固唾を飲んで聞き入っていた。
 正直に言って信じられないような与太話ばかりだったが、土御門が嘘をつく理由が思い浮かばなかった。
自分達を騙して、利用しようというのであれば、もっとまともな嘘をつくはずだ。
魔術やら天使やらの非科学的な話ではなく。もっとリアリティーのある嘘を。
 それに土御門の言う天使とやらに心当たりがあった。
ロシアの大空を舞い、学園都市の最新鋭の戦闘機達を蹂躙した。あの白い化物。
 全てを信じるわけではないが、無視していい情報でもないと、御坂は結論づける。

御坂「それであの馬鹿は戦争のど真ん中にほいほい出ていったって訳?」

土御門「そうらしいにゃー。
イギリスの女王とどんな取引をしたかは分からないが、インデックスを助ける為にアイツはロシアに乗り込んだらしいぜよ」

御坂「あの子は無事なの?」

土御門「ああ。今はイギリスの聖ジョージ大聖堂でカミやんの帰りを待ってるはずだにゃー」
御坂「はぁー」

土御門「仕方ないぜよ。あれはカミやんの病気みたいなもんなんだから」

白井「それにしたって節操というものが無さ過ぎですの」

土御門「カミやんに思いを寄せる女の子としては、複雑な心境だろうにゃー。
アイツに命を救われた女なんて世界中にはいて棄てるほどいるからにゃー」

御坂「そ、そんなんじゃないわよ!!
……
でも、本当にそんなにたくさんいるの?」

土御門「俺が把握してるのは、シスターズを除いてもざっと四百人くらいかにゃー」

御坂「」

白井「四百人……」
土御門「その全部が積極的にカミやんを狙ってるわけじゃないけど。
カミやんの方から告白したら誰も断らないだろうにゃー。
王族から辺境の村娘までなんでも御座れって感じぜよ」

御坂「」

白井「積極的に狙っておられる方はどのくらいいらっしゃいますの?」

土御門「んー天草式の五和、ねーちん。シスターならアニェーゼ、オルソラ。
学園都市なら姫神なんかもあやしいぜよ。この前お弁当のおかず交換してたし。
あと未確認情報だが、イギリスのレッサーって娘もガンガンアタックしてるらしいにゃー」

白井「あらあら、まあまあ」

御坂(何やってんのよアイツは!!
……
レッサーってあのレッサーじゃないわよね?)

 その時、機内のスピーカーから短いアラームが鳴った。
目的地の到着を知らせる為のものだ。
土御門「と、まあ。無駄話はこれ位にして。今回の状況は把握できたな?」

御坂「大体はね」

白井「土御門さんはその魔術結社とやらに上条さんが捕まっていないか調査なさるおつもりなのですか?」

土御門「ああ。俺はイギリスの必要悪の教会に所属してるからな。
その線からあたってみるつもりだ」

白井「お姉様。わたくし達はどういたしましょう?」

御坂「私達も同行していいの?」

土御門「ああ、その事なんだけどな。
……
まあ直接見てもらったほうが早いか」

白井「?」

御坂「?」
土御門「二人とも俺について来い。見せたい物がある」

 そういって土御門は飛行機の後部にある貨物室へと案内した。

土御門「ここだ。入ってくれ」

 二人は言われるがままに、貨物室へと足を踏み入れた。
 薄暗い貨物室に入り、辺りを確認しようとした、その時。
二人の首筋に土御門の手刀が叩き込まれる。
瞬間的に意識が白濁する。辛うじて気絶はしなかったものの、二人はその場に倒れこんでしまった。

御坂「何を……」
土御門「はじめに言ったろ?俺は嘘つきなんだぜ」

 土御門の右手が後部ハッチを操作するボタンにかかる。
けたたましい警告音と共に後部ハッチが開き、猛烈な風が吹き荒れた。
 御坂は近くに居た白井を横抱きにして、磁力を操り床にへばりついた。
自分を吸い出そうと襲い来る暴風に、なんとか耐えることができた。

御坂「なんのつもりよ!!」

土御門「お前達にはここで降りてもらわなきゃ困るんだよ。
おっと電撃は無しだぜ。精密機器満載の飛行機で飛行中に電気を使ったらまずい事くらいわかるわな」

白井「わたくしが!」

土御門「テレポートか?音速で移動し不安定にゆれる機内でテレポートできるのか?
その力はそんなに万能なものじゃなかったよな?
そもそも今のお前に精密な演算が可能なのか?」

白井「くっ!」
土御門は自由の利く左手をズボンのポケットにつっこんだ。

土御門「さて、問題です。俺の左手には今何があるでしょう?」

御坂「!?」

土御門「ヒントその一。この部屋には高性能なスピーカーが完備されています。
ヒントその二。学園都市には音波だけで能力を暴走させる凶悪な対能力者兵器が存在します」

御坂「キャパシティーダウン!?」

土御門「大正解。どうする?
大切な後輩ちゃんを丸焼きにする覚悟で俺と相打ちになってみるか?
言っとくが。俺はカミやんより強いぜ」

御坂「クソッ!」
土御門「あまり時間が無い。
あと五秒でこのスイッチを入れる。
5、4、3、2」

 御坂はしぶしぶ磁力を解除した。
 支えのなくなった二人の体はあっという間に機の外へと吐き出される。


吹き飛ばされる直前、御坂が見たものは、左ポケットから“のど飴”を取り出し口の中に放り込む土御門のにやけ面だった。

 御坂の脳裏に土御門の言葉がリフレインされる
はじめに言ったろ?俺は嘘つきなんだぜ”

御坂「クッソ馬鹿野郎がぁぁぁ!!今度会ったら黒焦げにしてやる!舞夏の兄だろうが関係ない。絶ー対ぶちのめしてやるぅぅぅぅぅ!」

白井「お、お姉様!で、電撃がビリビリ漏れていますの!
このままでは演算が……あっ、でもいい。
久しぶりのお姉様の電撃。あぁしびれますの」
御坂「アンタ!なにトリップしてんのよ!?
このままだと二人とも墜落死するわよ!!」

白井「ああ、はい。……しっかり掴まっていて下さいまし」

 しばらく集中を高めた後、白井はテレポートを開始する。
白井のテレポートは運動エネルギーを無視できない。故にそれを利用することにした。
目的地は下方80メートル地点。その場所に上下180度反転した状態でテレポートする。
そうする事によって下向きにかかっていた落下のエネルギーを上向きに変換し重力で相殺できる。
いったん無重力状態を作り出せば、後は連続でテレポートするだけで、安全に着地することができるというわけである。


レベル5とレベル4の超能力者ならこれ位どうということはない。そう思っていた。


 しかし、高度2000メートル。厚い雲を抜けた辺りで二人は驚愕の事実を知った。
白井「ま、まずいですわ。お姉様!!」シュン!

御坂「ええ、まずいわね……」シュン!

白井「周りに海しかありませんの!っていうかここどこですの!?」シュン!

御坂「あー。たぶん北極ね。ほらあっちに流氷の塊が見えるもの」シュン!

白井「NOー!!死にますの!北極海に着水したら五分と待たずに凍死しますの!!」シュン!

御坂「がんばるのよ黒子!せめてあの流氷まで行けば活路を見出せるわ!!」シュン!

白井「分かりましたわお姉様!
この黒子の勇姿。しっかりその瞳に焼き付けてくださいまし!!」シュン!
 飛行機から落とされて二十分後、息も絶え絶えに海抜5メートル付近をふらふらとテレポートする二人の姿があった。
あれから黒子は三桁を超える連続テレポートを繰り返し、満身創痍といった感じだ。
限界などとっくに超えていた。

白井「ぜぃぜぃぜぃ。流氷はまだですの」シュン!

御坂「もうちょっと。あと一キロよ」シュン!

白井「い、一キロ……」シュン!

御坂「あと11回飛べば終わりだから。がんばって!」シュン!

白井「じゅう……。もう…むりです……の」ズルッ

御坂「ひゃあぁ!く、黒子ぉぉ!!」

 白井の頑張り空しく、二人は極寒の冬の北極海にダイビングする事となった。

 

 

 

 

 

 

上条サイド ―アメリカ ラスベガス―

 日が落ちかかった頃、竜神当麻はラスベガスの街へと繰り出していた。

上条「これからどうするんだ?ってか戦争はどうなったんだよ」

竜神「ロシアが終戦宣言を出した。第三次世界大戦は終わったよ」

上条「そうか……よかった」

竜神「ってか、テレビでニュースやってただろ?見て無かったのか?」

上条「あれ英語じゃん。ずるしてる竜神さんと違って上条さんは英語が読めないんですよ」

竜神「いや。なんとなくニュアンスくらいは掴めるだろ?」
上条「どうせ上条さんはお馬鹿ですよーだ。
ってか元祖上条さんがまじめに勉強してれば、今頃俺だって英語ぺらぺらだったんじゃね?」

竜神「俺のせいなのか?
でも、それをいうならお前だって英語の学習アプリ、レベル4で挫折してたじゃねえか」

上条「うっ!……いや、竜神さんのせいだね。
語学能力は幼少期の経験が大きく影響するって小萌先生も言ってたし」

竜神「”でも、努力しだいでどうとでもなるのが語学のいいところなのですよ。
だから上条ちゃん!ガンバなのです”っても言ってたな」

上条「ぐはっ!そういえばそんな事も言ってた気がする……。
いや、そんな事より、これからどうするんだよ?」

竜神「強引に話を戻したな。まあいいや。
……
とりあえずは、姿を隠しながら方々を回ろうと思う」
上条「姿を隠す?どうしてだ?お前だって両親とかインデックスに会いたいだろ?
俺達が入れ替わってられる時間もそう長くないんだよな?」

竜神「ああ、あと一週間もすればお前の魂は完全に回復すると思う。
……
姿を隠す理由も一応あるんだ。
お前さ、おかしいと思わなかったか?
この三ヶ月で何度も魔術がらみの事件に巻き込まれた事について」

上条「それは、俺の右手が幸運を打ち消してるからだろ?」

竜神「確かに俺達は不幸だよ。
でも、この三ヶ月は異常だ。記憶がある俺には分かる。
お前にとっては日常になってしまっていたんだろうが。
上条当麻”にとっても、あれは行き過ぎた不幸だ」

上条「そうなのか?よくわかんねえけど」

竜神「お前が経験した不幸は絶対誰かが意図的に巻き込んだものだ。
まあ、そういう誰かに目をつけられる事も含めて俺達の”不幸”なのかもしれないけどな」
上条「……何が目的なんだ」

竜神「さあな。楽観的な見方をするなら、俺達に事件を解決して欲しかっただけかもしれない」

上条「それは……まあ、善いヤツなの、か?」

竜神「頼みごとがしたいなら、直接口で言えって話だけどな」

上条「悲観的な見方をしたらどうなんだ?」

竜神「俺達の力を利用しようと思ってる輩がいるってことだな。
世界を滅ぼしかねない力だ。それを利用しようなんて、まともなヤツの考えることじゃない。
前に言ったけど、お前は器としてまだ未熟なんだ。
何らかの手段で俺に力を使わせようと考えているヤツがいるとしたら。まず、そこがネックになる。
様々なケースの戦場を用意して、実戦を通して被験者のレベルアップをはかる。そんな考え方をする連中に心当たりがないか?」
上条「……学園都市。絶対能力者計画か!?」

竜神「ご名答。そこに必要悪の教会もからんでるのか。あるいは統括理事長の独断なのか。
その辺は分からないけど。その正体だけでも掴んでおきたい」

上条「なるほどな」

竜神「不幸に巻き込まれる事は、お前にとってある意味”幸せ”なのかもしれない。
そうでなければ”救えなかったやつら”がいる限りはな。
でも、不幸を生み出そうって輩がいるのなら。そうなる前に叩くべきだと俺は思うわけよ」

上条「そうだな。……でもそれは今やらなきゃいけないのか?
インデックスは今でも俺の帰りを待ってると思うんだ。
それに俺はアイツにお前を合わせてやりたい」

竜神「ああ。今じゃなきゃ駄目なんだ。今しかできない。
俺はこの世界に存在しないはずの人間なんだ。今まで表に出ていた魂と違う魂が活動してるからな。
姿が一緒でも中身が違う」

上条「それは分かるぞ」
竜神「生命力や生み出す魔翌力の質まで違う。
魔術的な意味合いにおいて俺はこの世界の人間に認知されている上条当麻ではないんだ。
だから、魔術世界から逃れられる」

上条「ん、うん」

竜神「後は、魔術で姿を変えてしまえば、科学世界の衛星を使った監視からも逃れられるはずだ」

上条「姿が変えられるのか?っていうか変える必要があるのか?」

竜神「上条さんは馬鹿だなー。
……
やべっ、自分で言ってて悲しくなってきた」

上条「なんだよ。もったいつけねえで教えてくれよ」

竜神「いいか。俺がやろうとしている事はある意味学園都市への反逆だ。
ばれないほうがいいに決まってるだろ?」

上条「ああそうか!」
竜神「今だけは科学サイドからも魔術サイドからも監視されてないんだ。
お前が上条当麻として学園都市に戻ってからじゃ遅いんだよ。
学園理事会に監視されて身動きが取れなくなるからな。
魔術サイドに見つかっても駄目だ。必要悪の教会がこの件にどれだけからんでるか分からないからな。
だから、まだインデックスに会うわけにはいかない」

上条「……そうか。でも、当てはあるのか?
その俺達を不幸に巻き込む計画とやらを実行しているのが、学園都市だとしたら。一学生が挑んでいい相手じゃないぞ。
しかも相手にばれないように、正体の分からない連中と戦うなんてできるのか?」

竜神「できるさ。学園都市は強い。
だからこそ、多くの敵も存在するんだよ。学園都市と主義主張の異なる者、利害関係において対立している者、その他いろいろな。
そういった連中は、学園都市に対抗する為にできるだけ多くの情報を集めようとする。
科学技術でも資金面でも負けてる連中が、学園都市に対抗するには情報をうまく使うしかないからな」

上条「あーなんか分かる気がする。学園都市の中にはスパイも結構いるって土御門が言ってたし」
竜神「そういった連中と接触して情報を引き出して、学園都市の動きを掴む。
どんな事に金を使ってるのか。
危機回避の手順に不自然なところがないか。
人員の配置に偏りがないか。
細々としたことかもしれないが、その辺を調べていけば段々学園都市の計画の全体像が見えてくるはずだ」

上条「そんなの一週間でできるのか?」

竜神「できないかもしれない」

上条「だめじゃんか!」

竜神「俺達でできないなら、他のヤツに頼ればいい。
世界は広い。必死に探し回れば学園都市の抑止力になってくれる組織はきっとあるはずだ。
そいつらに俺達が持ってる情報を渡して協力してもらう」

上条「それは……」
竜神「嫌か?自分の不幸に他人を巻き込むことが?
自分以外の人間が傷つくことが?」

上条「当たり前だ!!そんなの誰だって嫌に決まってんだろ!?」

竜神「うぬぼれてんじゃねえよ!テメェ一人で何でも解決できるとでも思ってんのか?
確かにテメェは今まで色んなヤツを救ってきた。それは俺も誇りに思ってる!
……
でもな。それは全部お前一人でやったことじゃないだろ?
その場に居合わせた誰かが、お前の意見に賛同したり、自分達の大切なモノを守る為に、
一緒に戦ってくれたから、お前はここまで生きてこれたんだ」

上条「…………」
竜神「俺はこれから、俺達と一緒に戦ってくれる仲間を探しに行くんだ。
それについてお前に文句は言わせねえ。
今までみたいに行き当たりばったりで、目の前で困ってるヤツを助ける為に一人で突っ走ってるだけじゃ、
お前はいつか全てを失っちまう。
お前はもっと人を頼るべきなんだよ」

上条「……分かったよ。
でも、一つだけ約束してくれ」

竜神「なんだよ?」

上条「もし、黒幕の正体が分かったら。
そいつとは俺がサシで話をつける。言って聞かなきゃ俺がぶん殴る!」

竜神「初めからそのつもりだ」
上条「ならいい。どうせ今、その体はお前の物なんだ。好きにすりゃあいいさ」

竜神「ああ。そうさせてもらう」

竜神(……なーんてな。俺も人の事偉そうに言えた義理じゃねえんだけどな……。
インデックスにお前を合わせてやりたい”か……。会える訳ねえだろ。
インデックスにとって俺は、自分が殺した男の幽霊みたいなもんだぞ。
今更会ってどうしろってんだよ。余計にアイツを傷つけるだけじゃねえか。
……
とにかく、俺は”上条当麻”とインデックスを守ってみせる。
他の何を利用しようとも、俺自身のエゴでコイツ等を守る。
それでいいんだ。俺は偽善使いだからな)

 

 

 

 

 

 

御坂サイド ―北極海― 海中

 薄暗い上下船の船室で御坂美琴は目を覚ました。
朦朧とする意識の中で、気を失う前の事を思い出してみる。
 身を切るような冷たい北極海に墜落した後、疲労で意識を失った白井を掴み、海面に浮上しようと、必死にもがいた。
その努力も空しく、御坂の体温は急激に失われていき、水上に顔を出す前に意識が遠くなっていくのを感じた。
 最後に見たのは、鯨のような大きな物体が、その口を開き自分達を飲み込む光景だった。
 そうだ、黒子はどうなったのだろう?

御坂「く、黒子!」

白井「お姉様ぁぁぁぁー!は、激しすぎますのおおおぉぉぉぉぉお!!」

御坂「…………」
 慌てて体を起こすと、隣で白井が御坂に寄り添うように眠っていた。
 幸せそうな顔で、涎まで垂らしながら身をよじっている。
 どんな夢を見ているのかについては考えないようにした。

五和「お目覚めになりましたか?」

 御坂が寝ていた布団の横に、二重まぶたが印象的な少女がいた。
 かつて、学園都市で見たことの有る少女だ。
 女から見てもかわいい顔立ちをしているのだが、今はそれが台無しになっている。
 目がはれぼったく、まるで一晩中泣きはらしたようなやつれた顔をしているのだ。

御坂「アンタは……」

五和「あっ。無理に起き上がらないでください。
危ないところだったんですから。
一応回復魔術は施してありますが。体力の回復には時間がかかります」
御坂「私達は助かったのね」

五和「はい。もう大丈夫ですから。安心してください」

白井「ぐへへっ。おねーさまぁぁぁー」

 突然、大きな寝言をつぶやいた白井の方を一瞥しながら五和が言葉を続ける。

五和「そちらの方も大丈夫です。しばらく安静にしていれば問題ありません。
それにしてもお姉様って誰なんでしょうね。本当に幸せそう」

御坂「あはははっ。本当誰なんでしょうね?」

 御坂は力なく限りなく棒読みで答えた。
 段々自分の置かれている状況が分かってきた。
 どうやら自分達はこの人に助けられたようだ。
御坂「ここはどこなの?」

五和「私達、天草式十字凄教の所有する上下船の船室です。
貴女達は空から降ってきたんですけど。覚えてますか?」

御坂「……そうよ!あのクソ馬鹿野郎に飛行機から突き落とされたのよ!
あーもう!思い出しただけで腹が立ってきたわ」

五和「……ツチミカドさんですか?」

御坂「そう!アンタ、アイツの知り合い?」

五和「知り合いというほどのものではないんですが……」

御坂「ですが?」
五和「いえ。前にも同じような事があったなー。と思いまして」

御坂「どういうこと?」

五和「以前、仕事でフランスのアヴィニョンという街に行った事があったんですけど。
その時も、空から人が降ってきたんです。上条当麻っていう、私達の大切な恩人なんですけど。
その人も河に墜落して溺れかけてて、助けるなり、”ツチミカドに飛行機から突き落とされた”みたいな事を口走って」

御坂「ちょっと待って!上条当麻って言った?」

五和「はい」

御坂「アイツもなんだ……アヴィニョン……そうか、あの時か」
五和「もしかして上条さんのお知り合いなんですか?」

御坂「そうよ。あっ、自己紹介がまだだったわね。
私の名前は御坂美琴。こっちが後輩の白井黒子」

五和「五和といいます」

御坂「よろしくね。それと、助けてくれてありがとう」

五和「こちらこそよろしくおねがいします。
御坂さんはどうして北極までいらしたんですか?」

御坂「アイツを。上条当麻を探すためよ」
五和「そうですか……。でも、上条さんは」

御坂「アイツは生きてるわ」

五和「えっ!」

御坂「私はアイツが生きてるって情報を掴んだからここまでやって来たの」

五和「ほ、本当ですか!?」

御坂「ええ。確証は無いけど。でも、あきらめるのはまだ早いわ!」

 御坂は五和の目を見据え、力強く言い切った。

 

 

 

 

 

 

 

土御門サイド ―イギリス 聖ジョージ大聖堂―

 神裂火織は彼方遠く、北極海からくる魔術の通信を受け取っていた。
あくまで事務的に会話を続けていく。

神裂「そうですか。―――――――ええ。お願いします。それでは」

 通信を終えると、半ばあきれ果てたような顔で目の前にいる金髪グラサン男に報告する。

神裂「貴方が北極海に突き落とした女の子達は無事保護されたそうです。
貴方が報告していた予想地点より10キロはなれた海域で発見されたそうですよ」

土御門「おー。あのテレポーターのお嬢ちゃんが頑張ったのかにゃー?」
神裂「まったく。何を考えているんですか?
彼女達は学園都市からの大事なゲストではないのですか?」

土御門「ああ。そうだにゃー。
でも、こっちに連れてくる訳にはいかなったぜよ」

神裂「それが学園都市の命令ですか」

土御門「さあ。どうだろうな」

神裂「はあ。まあいいです。それより、上条当麻が生存しているというのは確かなのですか?
しかも、魔術結社に囚われている可能性があるとか」

土御門「どうなんだろうな。
ただ、学園都市、必要悪の教会、両陣営のボスの顔つきを見る限り希望は有るみたいだぜ」

神裂「……そうですか」
土御門「しかし、ねーちゃん。どうするぜよ?」

神裂「なにがですか?」

土御門「なにが、じゃないぜよ。
もしカミやんが生きて返ったら、どうやってお詫びするのかってきいてんさ。
もう恩返しがどうとかいう次元じゃないぜよ」

神裂「そ、そんな事は言われなくても分かっています……。
しかし、どうしろと言うのです。私にできる事など、限られています」

土御門「だ・か・ら!何度も言わせんなよ。
なんの為にその母性の塊はついてるのかって……いや、いい。
そっち方面から攻めるのはもう止めよう」
神裂「攻めるとはどういう事です」

 土御門は神裂の言葉を無視して、話を進める。

土御門「あのな、ねーちん。カミやんの切実な願い。何なのか知ってるか?」

神裂「願いですか?」

土御門「戦争に行く前、カミやんは言ってた”彼女が欲しい”ってな」

神裂「わ、私に上条当麻の女になれと言うのですか!?」

土御門「そうぜよ
(ここで、他の女を紹介するっとは言わず。
あくまで、自分がカミやんの女になるって発想がでるあたり、相当脈ありぜよ)」
神裂「私は天草式十字凄教の」

土御門「”元”女教皇だろ?今は必要悪の教会の魔術師だ」

神裂「しかし」

土御門「しかしも、だってもないぜよ。
それに、このままじゃ出遅れちまうぜ」

神裂「出遅れる?」

土御門「そうだにゃー。上条当麻に惚れている女が世界にどれだけいると思う。
アイツは今や第三次世界大戦を止めた英雄ぜよ。
事実を知ってる人間は少ないにしても。引く手あまたに決まってるぜよ。
数少ない。いや、唯一の恩返しのチャンスを棒に振るつもりか?」
神裂「そんな……そんな理由で生涯の伴侶をきめる訳にはいきません!!」

土御門「(もう結婚するところまで考えてんのかよ!)
きっかけなんて、何だっていいぜよ。
要は誰が最初にカミやんに唾をつけるかって話だ。
カミやんはあれで純情な男だからなー。
一度付き合い始めたら、絶対最後まで責任持つタイプだぜ、ありゃ」

神裂「そ、そんな事私の知ったことではありません。
とにかく、恩返しの内容は後々、上条当麻が帰還してから考えます」

土御門「それじゃ遅いんじゃないか?
五和なんか自分の方から探しに行ってるくらいだし」

神裂「なぜそこで五和がでてくるのですか」
土御門「五和がカミやんに気があるのは知ってるだろ?
もし五和がカミやんを探し出したら、速攻でモノにしようとするだろうさ。
カミやんの株が第三次世界大戦でストップ高なのは周知の事実だろうからな。
他の女に取られる隙なんか見せるもんかよ」

神裂「あの子はそんな子じゃありません!!
……
私は用がありますので。これで失礼します」

 神裂は音も立てずに、目にも留まらぬ速さで立ち去った。

土御門(ま、これだけ煽っとけば大丈夫だろ。
これで、イギリス国内と周辺の魔術結社はねーちんが調べてくれる。
国内の危険因子がどれだけ潰されるか見物だにゃー。
…………
しかし、思った以上に面倒だな。
学園都市勢力に発見されれば、第二位みたいな悲劇が起こりかねない。
魔術師勢力に発見されれば、秘密裏に加工される可能性がある。
カミやんを安全に保護するには、上条勢力を動かす必要があるんだが。
上条勢力って勢力範囲がやけに限定的なんだよな……。世界中くまなく探すには、何かと理由をつけて分散させる必要がある。
まあ、人材の質と量は相当だから、そこだけが救いだな。
この調子で一つにつき聖人一人分の戦力を維持した部隊を、世界に送り出していくとしますかね。
……
あとは、騎士派と接触して情報操作しておくか)

 

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最終更新:2011年03月09日 17:25
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