中の人「おっ!目が覚めたか」上条「テメェ……」 > 01


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土御門サイド ―窓の無いビルの中―

 
十一月一日、学園都市にある窓の無いビルの中に金髪グラサン男の怒号が飛ぶ。

土御門「おい、アレイスター!上条当麻が行方不明ってのはどういうことだ!?」

アレイスター「言葉のままの意味だ。
君達が統括理事長の一人と遊んでいる間に、上条当麻は単身でロシアに乗り込んで行ったのだよ。
かの地で右方のフィアンマとかいうテロリストを撃破した後、大天使と相打ちになったところまでは、こちらでも確認が取れている」

土御門「そんなことはもう知っている!
上条当麻を前線に行かせた件について、言いたい事は山ほどあるが、それももういい。
どうせいつものプランとかいうヤツだろうからな。
だが、何故お前ほどの男が、上条当麻を見失ったのかと聞いているんだ!
お前なら探し出して連れ戻す手段をいくらでも持っているだろ?」
アレイスター「ふむ。空陸海、あらゆる手段を用いても、腕一本も見つからない。
生きてさえいればシスターズが張ったAIM拡散力場の網に、幻想殺しが引っかかるはずなのだが、未だ反応が無い。
加えて、上条当麻の固有の生命力に対して、魔術的アプローチからも探索をかけて見たが、成果が一向に出ないのが現状だ」

土御門「クソッ!(カミやん、すまん…………ん、ちょっと待て、今アイツ魔術と言ったか!?
アレイスター=クロウリーが魔術師である事を認めただと!?)」

アレイスター「狐につままれた様な顔をしているぞ、土御門元春。
私が魔術師である事は知っていたのだろう?」

土御門「……認めるのか?」

アレイスター「もう隠す必要が無いのだよ。すでに必要悪の教会からは見抜かれているのだから」
土御門「何だと……。それがどういう意味なのか分からないお前では無いだろ!」

アレイスター「時機に魔女狩りが始まる。
君の所属する必要悪の教会は、私を殺し、全てを奪いに来るだろう。
それこそ、いかなる手段を用いてもな」

土御門「俺はもうここで用済みという訳か……」

アレイスター「早まるな。君をここに呼び出したのは、[ピーーー]為ではない。
君は今まで通り仕事を果たしてくれればそれでいい」

土御門「それはどっちの仕事だ。暗部か?それともスパイの方か?」
アレイスター「もちろんその両方だ。心配するな。今世界のパワーバランスは大きく揺らいでいる。
第三次世界大戦で我々も多くの損失を出したが、魔術サイド程のダメージは受けていない。
むしろ戦争における軍事需要の増加によって、損失を上回る多くの利益を得ることができた。
クーデターと第三次世界大戦で軍備も経済も冷え込んでいるイギリスが、今すぐ戦争を始める事は無い。
第一、ローラ=スチュアートという女は搦め手を得意としている。昔からそういう女だった……。
しばらくは直接的な戦闘は起こらない。
表向き友好な関係を築いておきながら、平和条約や通商条約などを通してこちらの力を削ぎにくる。
裏では激しい情報戦になるだろう。その切り札として君は大いに役に立つ」

土御門「向こうもそう考えているだろうさ。俺が裏切るとは思わないのか?」

アレイスター「裏切る?私を、という意味か?フッフッフッフッフ、いつから君は私の”味方”になったというのだ。
私にとって君は単なる手駒に過ぎんよ。将棋を指したことはあるか?あれと同じだ。
将棋は討ち取った駒を自らの手駒とできるルールがあるだろう。
そのせいでチェスよりも若干複雑な思考ルーチンが必要になるのだが、用はそれだけの事だ。
その駒に守るだけの価値があるのか、どういう状況なら駒が奪われるのか。
奪われたなら、相手はその駒を基にどのような戦略を組んでくるのか。あるいはその駒に奪い返すだけの価値があるのか。
それらを踏まえて君という駒を動かすだけだ」

土御門「クソッたれが!」

アレイスター「安心したまえ。私は君を捨て駒になどしない」
土御門「信じられるものか!……チッ、それで、とりあえず俺は何をすればいいんだ。
それを話す為にこんな所に呼び出したんだろう?」

アレイスター「上条当麻の行方について調べて欲しい。
三通り程私の探索網を逃れる方法があるのだが、その内の一つについての調査だ」

土御門「上条当麻の探索だと?まだ生きているという確証があるのか?」

アレイスター「ある。というより、あれはあの程度の事で消えるような存在ではない。と言った方が正確か」

土御門「どういうことだ?」
アレイスター「君が知る必要の無い事だ。ともかく、力の有る魔術結社なり魔術師なりに囚われている可能性が有る。
よって、必要悪の教会のラインを使って、それらの組織を探れ。
隠れて行なう必要は無い。むしろ、教会権力も利用して貰った方が好都合だ」

土御門「上条当麻を見つけ出し連れ帰る事が今回の仕事という訳か」

アレイスター「そうだ。私のプランにとって上条当麻が重要な役割を担っている事は、ローラ=スチュアートも気が付いているだろうからな。
私のプランを知る手がかりとして、それこそ血眼になって探してくれるだろう。
しかし、あの女に囚われれば、上条当麻がどのような扱いを受けるか想像に難く無いだろう?
何せ、あの禁書目録を作った女だ」

土御門「秘密裏に拷問や加工をされる前に、学園都市に引き渡せと?
しかし、禁書目録はどうする?
彼女を置いて、上条当麻が帰国するはずが無い事はお前だって分かっているだろう」

アレイスター「それについては私が手を打っておく」
土御門「手荒なまねはするなよ。
上条当麻は彼女を傷つける人間に対しては容赦しない」

アレイスター「ふん。肝に銘じておこう」

土御門「もう一度聞くが、上条当麻は生きているんだな?」

アレイスター「“上条当麻”は生きているさ。……竜の心臓は二つあるのだからな」

 

 

 

 

 

 

 

インデックスサイド ―イギリス 聖ジョージ大聖堂―

 礼拝堂の最前列に跪き、磔にされた神の子に向かって、ロザリオを手に、一心に祈り続ける、純白のシスターの姿がそこにあった。
 がたんっという小さな音をたてて礼拝堂の入り口のドアが開く。
入って来たのは長身で赤い髪をした不良神父だ。
聖水で手を清め、神の子に向かって十字架を切ると、祈りを妨げぬように静かに彼女の横に移動する。
 丁度祈りが終わったのか彼女はゆっくりと面を上げた。

ステイル「またここに来ていたんだね。
いいかいインデックス。君の身体は万全ではないんだ、無理をしては駄目だ。
このままでは君が倒れてしまう」

インデックス「私は大丈夫なんだよ。
私なんかよりとうまの方がいっぱい苦しい思いしてる筈だもん。
これ位で音を上げてたら、がんばってるとうまに悪いんだよ」

ステイルの顔に暗い影が差す。何度目だろうか彼女にこの言葉を告げるのは。
ステイル「インデックス……。上条当麻は」
 ステイルの言葉を遮るようにインデックスがまくし立てた。

インデックス「とうまは必ず戻るって約束したもん!
約束守ったことなんてほとんど無いけど。
でも、どんなに傷ついても、どんなに遠くに行っても、いつだって絶対私の所に帰ってきてくれたんだよ。
今度はちょっと遅くなってるけど、そのうち帰ってくるもん」

インデックスの瞳は涙で滲んでいる。
ステイルの心は上条当麻への苛立ちと嫉妬と、彼女の望みを叶えられない自分の無力さからくる惨めな気持ちで、ぐちゃぐちゃに塗りつぶされる。
 でも、ここでこの感情を面に出すわけには行かない、例えどんなに苦しくとも、もう二度と彼女を傷つける訳にはいかない。
上条当麻が彼女を救ったあの夜から、後悔しなかった日は無かった。
自分の未熟さ故に、無知故に、自分かわいさから、彼女を傷つけ続けたあの日々を。
 繰り返してはいけない。
 ステイルは自分の中の黒い感情をグッとこらえて笑顔を作る、少し困ったような彼に似合わない笑顔を。

ステイル「……そうだね。帰って来たらきっちり説教してやろう。僕も手伝うよ」
インデックス「うん。身体中にいっぱい痣ができるくらい噛み付いてやるんだよ!」

ステイル「ああ、その意気だ。さあ、女子寮の食堂に行こう。
今日はオルソラが食事当番だから、食堂が混むって神裂が言っていた。
早めに行って場所をとっておこう」

インデックス「はっ!それは大変かも!」

 インデックスはステイルおいてトテトテと礼拝堂を出て行った。
 その背中を見送りながらステイルはつぶやく。

ステイル「まったく、あの男ときたら……この場に居なくても僕をイラつかせてくれる。
僕はまだ借りを返していないんだ。とっとと帰って来ないと魂まで焼き尽くしてやる」
ステイルが礼拝堂を出ると、聖ジョージ大聖堂の入り口に神裂火織が立っていた。
 第三次世界大戦が終結して間も無く、彼女はイギリスに呼び戻された。
 クーデターやフランスとの国土防衛戦、ロシア遠征と戦続きだった為、イギリスの戦力は疲弊し分散されていた。
 この機に乗じてよからぬことを企む国家や組織から国民を守るために、女王は主力部隊を速やかに本国に帰還させたのだ。
 その一人に聖人である神裂火織も含まれていた。

神裂「おつかれさまです」

ステイル「ん?君は彼女に会わなかったのか?
てっきり二人で女子寮に戻ったものと思っていたが」

神裂「私にはインデックスにかける言葉がありません。
私は彼と同じロシアの地に居ながら、彼を救う事ができませんでした。
彼がたった一人で大天使に立ち向かっている時、私は彼の側に近づく事さえ出来なかった。
まったく何の為の聖人の力なのやら……本当に自分が嫌になります」

ステイル「それは皆同じだろう。
新約聖書に載ってもおかしくない位の大事件の解決を、あんなド素人で一般人の子供一人に押し付けたんだ。
プロの魔術師”なんて恥ずかしくて名乗れなくなるレベルの失態だ。
君一人が感じている事じゃない」
神裂「しかし……」

ステイル「天草式は今も北極で捜索を続けてるのかい?」

神裂「はい。後一週間程は探索を続けるようです。
我らは上条当麻に返せない程の恩が有ります。
せめて遺体だけでも見つけなければ、申し訳が立たないのでしょう。
元々海戦に特化した宗派ですから、海中や海上の探索は得意分野なんですよ、皮肉な事に」

ステイル「やはり生きている可能性は無いか……」

神裂「ベツレヘムの星が落下した際、広範囲に高濃度のテレズマが拡散したのが痛手でした。
あれによって付近にいた魔術師の、霊装のほとんどが使用不可能になってしまった上に、
二次災害を防ぐ為に半日は魔術が使えなかった……。
科学サイドの潜水艦にしても、黄金の腕と直前に発生した津波の影響で大部分のソナーが不具合を起こしていたと聞きますし」
ステイル「初動の遅れが致命的か。
北極海に投げ出された状態で、生身の人間が半日以上生きている可能性なんて無いという訳だ。
それこそ科学サイドに秘密裏に回収されていない限りは」

神裂「その可能性も考え、今土御門に探りを入れてもらっています。
この件に関しては、彼もきちんとした調査をしてくれるでしょう。
上条当麻は彼の数少ない親友の一人の様ですから」

ステイル「そっちに期待する事にしよう。このままだとインデックスがもたない。
思えば、彼女は今回初めて身近な人間の死に直面する事になるんだ。
あの男が生きているならそれでいいが、死んでいるなら、なるべく早く彼女に現実と向き合ってもらわなければならない。
身近な人間の死の乗り越え方は人それぞれだろうが、何時までも待ち続けようとする、今の彼女の在り方は長くは続かない。
いつか彼女が壊れてしまう」

神裂「そうですね……」

 ステイルは苦虫を噛み潰したような表情で、短くなったタバコを灰皿に押し付けた。

 

 

 

 

 

 

土御門サイド ―学園都市 某カラオケボックス―

 第七学区に存在する、とあるカラオケボックスその一室に一組の男女がいた。
歌声のない無音の密室に二人っきり、っというとあらぬ想像を掻き立てられてしましそうだが、そうではない。
 L字型のソファーの両端に陣取り、それぞれ無言でウーロン茶と野菜ジュースの入ったグラスを傾けているのは、海原光貴と結標淡希だ。
 海原は黙々と黒曜石の槍の手入れをしながら、結標はファッション雑誌をつまらなさそうにめくりながらそれぞれの時を過ごす。
 不意に海原が口を開いた。

海原「遅いですね、土御門さん」

結標「そうね」
海原「粛清されてないといいですが」

結標「どうかしらね……」

海原「…………」

結標「…………」


気まずい沈黙が再びその場を支配する。
重い空気に耐えられなかったのか、結標が口火を切った。

 

結標「……貴方何か歌わないの?」

海原「すみません。今までこのような機会が無かったものですから、日本の歌を良く知らないのです」

結標「そう」

海原「結標さんは歌われないのですか?」

結標「何?私の歌が聴きたいの?」

海原「興味はあります」

結標「何それ。……まあ、私はパスね。そんな気分じゃないもの」

海原「そうですよね」

 

 

 

二人はそれぞれ、自分の世界に没頭し始める。
 お互いに話したい事は、色々とあった。潮岸を追い詰めた際、自分達が突然失神したのは何故だったのか。
 一方通行だけが何故、ロシアにいるのか。
 第三次世界大戦が終わったこのタイミングで、リーダーの土御門が統括理事長に呼び出されたその意味についてだとか。
 悲観的な見方をするのであれば、自分達はもう用済みなのであろうことを二人は理解していた。
 戦争が終わった今、反逆者である自分達を生かしておく理由が無い。
 ドラゴンについての情報を得ることができたのなら、交渉の余地もあったかもしれないが、それにも失敗してしまった。現在は親船の手腕によって辛うじて、首が繋がっている状態だ。
 もちろん希望はある、一方通行がもしドラゴンについての情報を持っているのなら。
 その情報を基に動いた結果、単独でロシアに向かったというのなら、話は変わってくる。
 しかし、現状では一方通行が自分達の味方なのかすら分からない。何も言わずに行ってしまったからだ。
 一方通行の”裏切り”その可能性と、自分達の身の安全に対する不安が、二人の口を重くしていた。
 彼らには守るべきものがある。今はそれが失われるか否かの分岐点なのだ。
 突然、ドンッという音と共に入り口のドアが勢い良く開け放たれ、一人の人影が飛び込んで来た。
 二人は敵襲に備え咄嗟に身構える。

土御門「盛り上がってるかにゃー!ご両人!!」



両手を上げて飛び込んできた。にやけ面の馬鹿がそこに居た。




海原「…………」

結標「…………」

土御門「どうしたぜよ?なんなのかにゃー、このお通夜ムードは?」

結標「……ねえ、海原。こいつの身体に五発くらいコルクぶち込んでいい?」

海原「いいんじゃないですか」

土御門「ま、待った、待った!!コルクは勘弁して欲しいぜよ!
大体なんで二人ともそんなにぴりぴりしてるのかにゃー!?
せっかく気を利かせてカラオケで待ち合わせしたのに、歌いもしないなんて……
はっ!まさかテメェ海原!密室に二人きりなのをいいことに淡希に襲い掛かったのか!?」

海原「結標さん、二十発くらい打ち込んでください。僕も同じくらい殴りますんで」

結標「分かったわ」

土御門「ストップ!!ってかお前達なんでそんなに意気投合してるぜよ!?
まさか本当にヤッちまったのか!?海原!!テメェはロリコン仲間じゃなかったのかにゃってっごぉ」

土御門の顔面に海原の右ストレートがきれいにきまった。

 

 

 

 

……十分後、身体中いたる所に青あざを作り、ソファーとテーブルで押しつぶされた土御門だったものが、部屋の片隅に転がっていた。

結標「で、統括理事長の用件ってなんだったのよ?」

 土御門は自分の上にあった家具を押しのけながら、答える。

土御門「グループへのお咎めは無しって話だ」

海原「あれだけの事をしたのにですか?」

土御門「統括理事長にとって、学園理事の一人や二人どうでもいいってことだろうな。
少し不自然だが、その辺は一方通行の動きと関係があると見ていいんじゃないか」

結標「一方通行がドラゴンの存在を交渉材料にして、圧力をかけてるってこと?」

土御門「ああ。情報が錯綜してるが、一部では暗部開放に向けての動きすらあるらしい」

海原「そうですか……」
土御門「それに、今は細々したことにかまけている場合ではないんだろうな」

結標「戦争に勝ったのに?」

土御門「別の問題が起ちあがったんだ。
……
おそらく、そう遠くないうちに、必要悪の教会の査察が入る」

結標「?」

海原「そんな、何故です!?
確かに人工天使など、問題のある所はありますが。この街は表向き科学の街だ。
イギリスとの関係も良好のはず。わざわざその関係を崩してまで、査察を入れるなんて常軌を逸している!」
土御門「人工天使だけではないんだ、この街のオカルトはな。
いずれ分かることだから言っておく。……この街の統括理事長はアレイスター=クロウリーなんだ」

結標「?そんなの誰だって知ってるわよ」

海原「まさか!!あのアレイスターなのですか!?」

土御門「そうだ」

海原「……あれが、生きていたのですね。」

結標「あのーさっきから話がまったく見えないんだけど」

土御門「ああ、すまん。
簡単に言うと、うちの統括理事長様が半世紀以上前から世界中で指名手配されている伝説的な大犯罪者で、それを捕まえる為に、また戦争が起こるかもしれないって話だ」
海原「貴方は知っていたんですか?」

土御門「知っていた。
姿形も魔翌力どころか根幹の生命力にいたるまですべて偽造されていたから、
証明する手段が無く、どうしようも無かったがな。
詳しいことは分からないが、どうやら必要悪の教会はその証明に成功したらしい。
アイツは今すぐ戦争が始まることは無いと踏んでいるようだが、時間の問題だ」

海原「…………」

土御門「だから海原、お前は妹達を連れてこの都市を出ろ。
原典を二つも所有するお前がやつらに見つかれば、問答無用で拷問、処刑されてもおかしくない」

海原「しかし、それはこの街を出ても同じことでは?」

土御門「最悪、俺達のような学園都市子飼いの魔術師を口実にして攻め込まれる可能性がある。
学園都市が匿っている魔術師を差し出せ、説明を求めたいから統括理事長は出頭せよってな具合にな。
学園都市攻略の糸口を持った魔導師と、ただの流れの魔導師では重要度がまるで違う」
海原「……分かりました。二人の容態が安定し次第この都市を出ましょう。
御坂さんが心配ですが、自分が戦争の引き金になっては、本末転倒ですからね」

結標「グループは解散ってこと?」

土御門「事実上そういうことになるな。
一方通行は何してるか分からないし、俺も単独の任務でしばらくこの都市を離れる。
暗部自体が無くなる訳じゃないだろうが、組織の再編成もうまくいってないようだし。
確定ではないが、『電話の声』の何人かが最近のごたごたで死んだって話だ。
当分はお呼びがかからないかもしれないな」

結標「いい気味ね」

土御門「この機に今後の身の振り方を考えてみるといい。
いつまでも小萌先生のところにいるわけにはいないだろ?」

結標「……余計なお世話よ」

海原「単独の任務とはなんですか?」

土御門「上条当麻の探索だ」

 

 

 

 

 

 

御坂サイド ―常盤台中学女子寮―

 御坂美琴は自室のベットの上で膝を抱え不貞寝していた。
 手にもった、ファンシーなマスコットキャラのついたストラップを見つめ物思いにふける。
 ロシアの漁港で拾ったそれだ。
 助けられなかった。レベル5の力を持ってしても、人一人救うことができなかった。
 今までの困難にぶち当たることは何度もあった。その度に、彼女はそれを乗り越え、この力を手に入れてきた。
 でも、その力でさえ何の役にも立たなかった。今や彼女のパーソナルリアリティーは崩壊寸前とさえ言えた。
 ストラップを拾った直後、どこからとも無く現れた、奇妙な仮面をつけた部隊に拘束された御坂は、学園都市へと強制送還された。
 抵抗はしなかった、する気力さえ出なかった。
 犯した罪の大きさから考えて、最悪その場で射殺されるかとも思ったが、なぜかまったくお咎めがなかった。
 第七学区の病院で簡単な健康診断と放射能チェックを受けたことを踏まえると、御坂の動きは完全に学園都市に捕捉されていたことが窺える。
 一学生が輸送機をハイジャックし、勝手に他国の軍事施設に対し破壊工作を行なったのだ。ただで済むはずが無い。
 しかし、実際には事情聴取すら行なわれずあっさり開放された。受けた罰則は寮の無断外出に対するものだけだ。
 一体どうなっているのだろう。
 気が付くとベットの側に白井黒子が立っていた。テレポートでも使ったのだろうか。

白井「お姉様、ご気分はいかがですか?」

御坂「…………」
白井「お姉様の身に何があったのかは存じ上げませんし、聞きません。
ですが、わたくしはお姉様の味方ですの。
これだけは覚えておいてくださいまし。」

御坂「うん」

 事実白井は何も知らない。
突然居なくなり、心身ともに衰弱して返ってきた御坂を不信に思い、独自に調査をしてみたのだが、結局なにも掴めなかった。
分かっている事は、御坂が出かける数日前から、あのツンツン頭の少年が行方不明になっているという事だけである。

白井「この部屋に篭って居られても身体を悪くするだけですの。
よろしければわたくしとお散歩でもいたしませんか?」

御坂「……ありがとう黒子。ごめんね」

白井「かまいませんの。
それにお姉様は常盤台中学が誇るレベル5の電撃姫なのですから、しゃきっとしていただかなければ困りますもの」

御坂「レベル5か……。私……。
うんん、ごめん。散歩だったわね。行きましょうか」

白井「はい」

 

 

 

 

 

―学園都市 某公園―

 御坂美琴は公園のベンチに腰掛けていた。
 先ほどまで共にいた白井黒子は、ジュースを買ってくるといって公園の外に走っていってしまった。
 その様子を木陰から観察する者がいた。魔術師の海原光貴だ。

海原(やはり相当衰弱しているようですね。まあ無理もありません。
しかし、あの人は何を考えているのやら……。確かに貴方は世界を救ったかもしれませんが、約束を果たせていないではないですか。
御坂さんの世界に貴方は必要不可欠だというのに)

 電磁波のレーダーに引っ掛かったのか、御坂が振り向き、海原の方を凝視している。

御坂「誰?」

海原「さすがですね。もう気付かれてしまいましたか」
御坂「アンタ、海原光貴……じゃないわね」

海原「はい。夏休み最後の日にお会いした者です」

御坂「私に何の用?」

海原「少し御耳に入れておきたい情報が有りまして。隣よろしいですか?」

 御坂は無言で海原を観察している。
 拒絶はされなかったので、海原は少し距離を開けて御坂の隣に腰掛けた。

御坂「情報っていうのは?」
海原「上条当麻に関する情報です。
彼が現在行方不明になっているということはご存知ですね?」

御坂「それがどうかしたの?」

海原「自分の情報スジによると、彼、どこかで生きているそうなんですよ」

御坂「へ?」

海原「どこで何をしているのか、何故姿を現さないのかは不明ですが。
生存はしているということです」

御坂「目撃者がいるって事?」

海原「さあ?詳しい事は自分にも分かりません。学園暗部の最重要機密のようですから。
それこそシスターズより二つも三つも上のランクの情報です」

 



 御坂の頭にいくつもの疑念がよぎる。
何故この男は妹達について知っているのか、
何故この男はそんなに高いランクの情報を知りえているのか、
そして何故その情報を自分に明かすのか。
 冷静に考えれば罠である可能性が高い。
 もっともらしい事を言って誘い出し、学園都市のレベル5を手に入れるための罠。
 そもそも素顔を明かさない時点で信用はできない人物なのだ。
 それでも、上条当麻が生きているという情報は魅力的だった。
 少しでも可能性があるのならすがりつきたいほどに。

御坂「それで、その情報を私に渡してどうしようっていうの?」

 海原は胸ポケットから小さなメモを一枚取り出し、御坂に手渡した。
 そこには飛行機の発着場の番号と飛行機の型番が書かれている。

海原「上条当麻探索の密命を受けたエージェントが今から一時間後にその機で飛び立ちます。
自分の仲間であり、上条当麻の友人である男です。詳しい情報はその男に訊いて下さい。
この情報をどう利用するかは貴女にお任せします。
あと、そのメモはすぐに燃やしておいてください」

 海原が言い終わる前に、御坂はメモを電撃でバチッっと灰にする。

御坂「だから、それを私に言う事でアンタに何のメリットがあるのかって訊いてんのよ!」

海原「……しいて言うなら、自分が貴女のファンだからですよ。
それに上条当麻にはいくつか借りがありますしね」
御坂「暗部の情報を一般人に漏らすなんて命が幾つあっても足りないことだって事くらい、
アンタわかってんでしょ?そんなのが理由になると本気で思ってんの?」

海原「はい。思っています」

 海原は御坂の瞳を見つめながらそう言い切った。

御坂「はぁー。分かったわ。一応信じてあげる」

海原「ありがとうございます。では、自分はこれで失礼します。くれぐれもお気を付けて」

海原は御坂の顔を名残惜しそうに見つめた後、立ち上がり、公園から去った。
 入れ替わる様に缶ジュースを両手に持った白井黒子が、深刻な表情で近づいてくる。

白井「お姉様……」

御坂「黒子?」
白井「行かれるのですか?」

御坂「聞いてたのね……。行くだけ行ってみるわ。
アイツはいまいち信用できないけど、せっかくの情報だからね」

白井「なら、わたくしも連れて行ってくださいまし。
必ずお役に立って見せますの」

御坂「アンタ分かってんの?
下手したら学園都市自体を敵にまわすことになるかもしれないのよ」

白井「詳しい事情は存じませんが、お姉様は学園都市の暗部を敵にまわすおつもりなのでしょう?
ならばそれは風紀委員の領分ですの」

御坂「同じことよ。暗部と敵対するってことは統括理事会に敵対するってことなのよ!」

白井「それでも構いません。わたくしはわたくしの正義に準じるだけですの。
それにあの殿方にはわたくしも借りがあります」

御坂「後悔しないのね?」

白井「するはずがございません。言ったではございませんか。
わたくしは何があろうとお姉様の味方です」

御坂「しょうがないわね……。でも覚悟しなさい。
ここから先はレベル5でも太刀打ちできないくらいの戦いになるかもしれないんだから。
……
ロシアに行って思い知らされた。
アイツがいる世界はそういう化物やら現象やらがぽんぽんでてくる次元なんだって」

白井「はい。どこまでもお供します」

 

 

 

 

 

 

―公園そばの路地―

 御坂と別れた後、海原はショチトル達の待つ第七学区の病院へと向かった。
 途中、大通りから外れた、薄暗く細い路地を歩いていると、通りの途中に土御門が居た。
 壁に背を預け、腕組した状態で立っている。

土御門「よかったのか?恋敵に塩を送るようなまねをして?
大体、お前はあの娘を守る為に戦ってたんじゃなかったのか?」

海原「あれでいいんですよ。
自分は鳥を籠に入れて飼うような趣味はありません。鳥は大空を羽ばたいてこそ美しいものです」

土御門「くっそー。歯が浮くぐらい臭い台詞なのに、面がイケメンなせいで妙に似合ってるのが腹立つにゃー!」

海原「それで、自分への制裁は貴方が?」

土御門「いや、今回に限り制裁は無しだ。お前の行動は統括理事会の思惑とも一致している。
あいつ等もロシアの一件で超電磁砲の扱いを学んだんだろ。
情報を小出しにして泳がせる事で、行動を制限する腹積もりらしい。
毎度毎度バンクに進入されて暴れ回られてたんじゃセキュリティーにかける予算がオーバーしちまうだろうからな。
先日、部隊一つを壊滅させられたばっかりだ。
学園都市の広告塔をむやみに始末するわけにもいかんだろうし」

海原「そうですか……。上の思惑どうりなのは気に食いませんが、助かりました」
土御門「しかし、本当によかったのか?
上条当麻がいない以上、影で超電磁砲を守れる人間はほとんどいないんだぞ?
俺だって付きっ切りというわけにはいかないからな」

海原「貴方はもともとあてにしてませんよ。
上条当麻は生きているのでしょう?なら、きっと彼女は大丈夫です。
それに、仕方がないじゃありませんか。
彼女のああゆう行動的なところに惹かれてしまったんですから」

土御門「ああ、はいはい。
その愛情をもうちょっと妹達に分けてやれば言う事ないんだけどにゃー」

海原「彼女達は妹ではないと、何度も言っているでしょう!
自分は、ロリコンでシスコンの貴方とは違うんです」

土御門「だっ、誰がシスコンぜよ!」

海原「ロリコンの方も否定してくださいよ!
……
はぁー。そろそろ時間でしょう?空港に行ったほうがいいんじゃないですか?」
土御門「なんなのかにゃー。その”もうめんどくさいんで早く行ってくれませんかね”みたいな態度は。
これが今生の別れになるかもしれんのに、冷たい男ぜよ」

海原「騒ぎが収まれば、この都市に戻ってくるつもりですし。
そうでなくともいずれ何処かで出会えるでしょう。
自分が魔導師で、貴方が必要悪の教会の人間である限りは」

土御門「そうかもしれないにゃー」

海原「次ぎ会う時に、敵同士で無い事を祈ってますよ」

土御門「ああ。じゃあ行ってくるぜよ」

 二人は互いを見送る事も無く、それぞれ違う道へ進み、人ごみの中に消えていった。

 

 

 

 

御坂&土御門サイド ―エアターミナル―

 御坂美琴と白井黒子は、付近の銀行で持てる限りの現金を引き落とした後、空港へ向かった。
 統括理事会と敵対してしまった場合、預金口座が止められてしまう恐れがある上に、
旅支度を整える時間が無かったからだ。必要な物は現地でそろえなければならない。
 御坂美琴は少し困惑していた。
 出たとこ勝負で空港まで来て見たものの、これからどうするべきか分からない。
 海原光貴はこの場所にエイジェントが現れると言っていたが、当然二人はその人物の顔を知らない。
 この広い空港で、どうやって目的の人物を見つけ出すのか。その手段が思い浮かばない。
 その時遠くから御坂を呼ぶ声か聴こえた。

土御門「おーい。こっちだにゃー」

 あまりに警戒心の無い、気の抜けた声だった。
 それでもこれが罠である可能性は否めない。
 御坂と白井は恐る恐る、声を掛けて来た金髪グラサン男に近づいた。
土御門「いやー。よく来てくれたぜよ。
後輩ちゃんまで一緒なのは予想外だが、まあ構わないにゃー」

白井「お姉様。この男ものすごく胡散臭いですの」

御坂「アンタが、アイツが言ってたエージェントってヤツ?」

土御門「そうだにゃー。まあ時間も無いし、話は飛行機の中でしようぜよ」

御坂「はぁ?私達パスポート持って無いし。
大体、なんで飛行機に乗る必要があるのよ」

上条当麻を探す為に、国外に出る必要があるのは分かっていたが、敵が用意した飛行機に素直に乗ることはためらわれた。
 いざとなれば、前回のようにハイジャックすればいいだけの話だが、今回は白井黒子も一緒だ。
 できるだけ無茶はしたくない。

土御門「俺が今からするのは、国際的に認められてない非合法な工作活動ぜよ。
パスポートなんて使うわけ無いぜよ。それに上条当麻を探す為にここまで来たんだろ?
だったらどの道この都市からは出ないといけないぜよ。“機内での”身の安全は俺が保障する。黙ってついてこい」


御坂は白井と目配せすると、意を決して土御門に従うことにした。




―機内―

 広い旅客機のファーストクラス。その真ん中に三人は陣取っていた。
御坂達以外の客は搭乗する気配が無い。

御坂「これってまさか貸しきりなの?」

土御門「そうだにゃー。俺達を運ぶ為に親船が用意してくれた特別便ぜよ。
それより自己紹介がまだだったにゃー。
俺は土御門元春。カミやんのクラスメイトであり、学園暗部のエージェントであり、各国の様々な組織に属する多重スパイだにゃー」

白井「多重スパイって……胡散臭さの塊みたいな男ですの」

御坂「ん?土御門って……」

土御門「ああ。土御門舞夏の義理の兄ぜよ。義理ってとこがポイントだにゃー。
いつも舞夏がお世話になってるぜよ」

御坂「うそでしょ?」

土御門「俺は嘘つきだけど、これは本当のことだにゃー。
まあ舞夏には黙っておいてもらえると助かるぜよ」

御坂「……まあいいわ。それで、アイツが生きてるって本当なの?」

土御門「本当らしい。統括理事長がそう断言してる。まず間違いないと思っていい」

御坂「根拠は?私はあの要塞にアイツが一人で残ってたのを知ってるのよ。
いくらあの変な力を持ってたとしてもあの状況から生きて脱出するなんて不可能よ」

土御門「俺もそう思うぜ。でも、統括理事長はカミやんを回収する為に色々と手を打ってる。
まあアイツの身体なら死体でも利用価値があるんだろうが、どうも違うらしい。
上は、上条当麻が生きた状態で他の勢力に囚われるのを、酷く警戒している」

御坂「回収って、第二位みたいな事をするんじゃないでしょうね!!」

土御門「場合によってはそれもありうる。
他の勢力に囚われていた場合も似たような状態になる可能性が高い。
そうなる前に俺達が見つけ出して連れ帰らなきゃならない。わかるな?」

御坂「……そう、それで?
こうやって国外に出た以上、アイツがどこにいるか目星がついてるんでしょうね?」

土御門「いいや、まったく。
大規模な魔術結社に捕まってる可能性があるとだけ聞いているが、まだ情報が少なすぎて話にならない。
俺は一度イギリスに渡って情報収集を始めるつもりだ」

白井「魔術結社?」

土御門「ああそうか。お嬢ちゃん達は魔術について何も知らないんだったな。
……
何から話そうか。そうだ、禁書目録を知ってるか?」

 少しずつ土御門は語り始める、魔術サイドと科学サイドの争いについて。
この三ヶ月間で上条当麻を襲った不幸にまつわる、長い長い物語を。










上条サイド ―アメリカ ラスベガス―

 とある古いモーテルの一室で”上条当麻”は目を覚ました。
 体が重い、思うように動かせない……違う。体が、自分の意思とは関係なく動いている。
 視界はまるで額縁を通した様な感じで妙な違和感を覚える。
 他人の視界で物を見るとこんな感じになるのだろうかと、まだうまく働かない頭で考えてみる。

???「おっ。ようやく目を覚がさめたか」

 突然、頭の中に声が響いてきた。聞き覚えのある声だった。

上条「……テメェ。フィアンマと戦ってる時に話かけてきたヤツか?」


???「今回はちゃんと記憶があるみたいだな。よかった」

上条「俺に何をした。ここはどこなんだ!?」

???「お前がいるのは、お前の体の中だ。お前の意思じゃ指一本動かせないだろ?
こういう言い方はあまり好きじゃねえんだけど。
分かりやすく言えば、俺がお前の体を乗っ取ったんだ」

上条「何…だと……」

???「悪く思わないでくれ。仕方なかったんだ。
大天使との戦闘でお前の体と魂が限界を向かえていた。
お前を助ける為にはこうするしかなかった」

上条「俺を助けてくれたのか?」

???「お前が死ねば、俺も顕在できなくなるからな。
もう少しお前と一緒に生きてみたかったんだ。
要は、すべては俺の為にやったことだ。気にすんな」

上条「お前何者なんだ?」

???「上条当麻だ」

上条「はあ?」

???「お前と俺は本来二つで一つの存在なんだ。
一つの体に二つの違う魂が入った存在って感じかな。
記憶、感覚、感情、深層心理にいたるまで、俺達は繋がってた。
魂を二つ持った一人の人間だったんだ。
三ヶ月前まではな」

上条「三ヶ月前……記憶喪失か!」

???「そうだ。さすがはインデックスだよな。
少ない情報の中で俺達の弱点を見抜いて、お前と俺の魂をつなぐラインを切断しようとした。
『神よ、何故私を見捨てたのですか』の術式はその威力で幻想殺しを破壊しようとしただけではなく、
迂回した呪いの効果で俺達の魂をずたずたに切り裂いた。
結果的に俺達は記憶を司るラインを失った。
それさえなければ、お前の脳がどんなに損傷しようと、俺の記憶がバックアップできたんだけどな。
……
まあ今さらどうしようもない話だ」

上条「よくわかんねえけど。お前には三ヶ月以上前の俺の記憶がある俺ってことか?つまりお前は元祖上条当麻か!?」

???「元祖って何だよ!?でもまあそんな感じの理解でいいと思うぞ。
同じ名前だと紛らわしいから、そうだな……俺のことは竜神当麻って呼んでくれ」

 詳しい事情はよく理解できなかったが、どうやらコイツは元祖上条当麻と同じ存在らしい。
今までずっと自分の中に眠っていたのだろうか……。
竜神という苗字にも心当たりがあった。

上条「竜神って母さんの旧姓か?
なんか親が離婚したみたいで嫌だな」

竜神「縁起でも無い事言うなよ。あの二人は離婚なんてありえないだろうけどな」

上条「ああ、そうかもな。
この前海に行ったときなんか、弟か妹ができるところだったしな。
なんだかんだであの二人仲いい夫婦だよなー」

竜神「だな」

 上条の脳裏に両親の顔が思い浮かぶ。
ベツレヘムの星に居るとき、地上で戦っていた仲間達。
学園都市にいるであろう人々の顔が次々と浮かんでは消えていった。

上条「…………」

竜神「…………」

竜神「…………お前さ、体、返して欲しくないのか?
普通もっと抵抗するもんだろ?」

上条「返して欲しいな。
そりゃ俺だってやり残した事いっぱいあるしな……
でも、お前は元祖上条当麻なんだろ?
それなら今まで体を乗っ取ってたのは俺の方って事になるじゃねえか。
そんな居直り強盗みたいな真似できるかよ……」

竜神「この体は紛れも無く、お前の物だよ。
俺が保障する。
それにお前の言う元祖上条当麻は三ヶ月前に死んだんだ。
くっだらない気使ってる暇があったら、新しい人生を楽しめよ」

上条「でも……」

竜神「でももヘチマもねえよ。
どうせお前の事だから、インデックスに気兼ねしてんだろ?
アイツの笑顔は俺に向けられたものじゃないんだ、とかなんとか。
だったらそれはお前の思い込みだ。なんなら直接聞いてみろ!
アイツはそんなに器の小さな女じゃない。勝手に人を値踏みしてんじゃねえよ!!」

上条「……そうだな。でも、俺に体が戻ったらお前はどうなるんだ?」

竜神「お前が今いる場所に戻るだけさ。今までと同じようにな。
どの道、お前の魂が回復し次第、体はお前に戻るんだ。気にするな」

上条「そうなのか?もうお前とは話せなくなるのか?」

竜神「いや、お前がお前自身の力をコントロールできるようになれば、話したり入れ替わったりもできるようになると思うぞ」

上条「俺の力って幻想殺しの事か?」

竜神「幻想殺しは俺の力とお前の力が干渉してできた副産物みたいなものだから、ちょっと違うな……。
お前の本来の力は俺を封印する為の力なんだ」

上条「封印?」

竜神「うまくいえねえけど、俺は魂を持った天使みたいな存在なんだ。
いわゆる竜だな。
お前はそれを生まれた時から身の内に宿してたから、
その力を押さえ込む為の封印装置というか制御装置みたいな機構が自然に身についてしまってるんだ。
お前自身はそういう力をもった原石なんだよ。
オカルトである天使と科学である原石が混ざった、実にファンタジーな体だろ?」

上条「でも、原石ならAIM拡散力場が出てないとおかしいだろ?
システムスキャンだと上条さんは毎回レベル0判定ですよ」

竜神「そういう力場やらテレズマやらを打ち消すのが本来のお前の力なんだよ。
右腕限定の幻想殺しと違って、オールレンジで使える力だ。
普段、体の内部。つまり俺に向かって使われてる」

上条「原石って超能力が目覚める環境が偶然そろったときに産まれる天然の超能力者だよな。
なんで俺なんだ?天使が体に宿って無くたって、この世界には異能の力で溢れてるはずだ。
その理論だと、それこそ聖人のアックアとかフィアンマとかだって同じ力に目覚める可能性があったって事にならないか?」

竜神「原石はこの世界のバランサーであり、特異点なんだ。
世界に吸血鬼が溢れ過えらない為に姫神が吸血殺しを得たように、
過度な異能の力を打ち消す為にお前が力を得たんだ。
プラスにマイナスを、マイナスにプラスをぶつけるようにな。
ぶっちゃけ俺が持つ力に比べたら、世界に広がる異能の力なんて誤差の範疇なんだよ」

上条「じゃあ幻想殺しはなんなんだ?」

竜神「魔術的な意味合いにおいて、殺すっていうのは食らうってことと同意義なんだ。
戦士は倒した相手を食らう事で敵の力を得る事ができる。
竜の返り血を浴びたことで、不死の肉体を手に入れたジークフリートなんかは有名だな」

上条「ゲームなんかでよくみる名前だけど、それがどうしたんだ?」

竜神「つまり、幻想殺しは、殺した幻想を食らう為の機構なんだよ。
お前が殺した幻想を俺が使えるようになる」

上条「はあー?」

竜神「まあ、ちょっと見てろって」

 そういって竜神は洗面所の鏡の前に立ち、右手を前髪の辺りに当てる。
すると、前髪から右手にかけてバチバチッとスパークが発生した。
上条当麻はこの光景を見たことがある。
 そう、学園都市レベル5の第三位御坂美琴の電撃だ。

上条「ってビリビリ!?」

竜神「そうビリビリ。アイツの電撃はしこたま食らってるからな。
一時的には発電所一つ分くらいの電撃を生み出せるぞ」

上条「あのー。つかぬ事をお聞きしますが。
俺が記憶を失う前ってアイツそんなにビリビリしてたのか?」

竜神「そうだな。”勝負しろ!勝負!”とかいいながら一晩中電撃翌浴びせられたり、
至近距離でレールガンぶっ放されたり、砂鉄の剣で切りかかられたりしたな」

上条「不幸だ……」

竜神「安心しろって、昔にくらべりゃ今はかわいいもんだって。
お前に放つ電撃なんてほとんどアイツの照れ隠しじゃねえか」

上条「て、照れ隠しー!?あれが?」

竜神「お前は当事者だからわかんねえかもしれねえけど。
客観的にみたら微笑ましいくらいだぞ」

上条「なんか、納得いかねーな」

竜神「この体になったせいで、客観的に周りを見るようになっちまったからな。
同じ物を見ていても、捉え方が変わってきて当然だろ」

上条「てゆーかさ。なんか竜神さんは上条さんより若干頭が良い気がするんですが気のせいでせうか?」

竜神「あーそれな。実は、俺自身が自身の存在について自覚したせいで、天使としての知識みたいのも頭に流れ込んでくるんだわ。
基本的なスペックはお前と変わらないはずなんだけどな」

上条「どういうことだ?」

竜神「んー。異界に有るサーバーから常に知識をダウンロードできる状態っていえば分かるか?
演算能力もそっちに任せられるしな」

上条「何だそれチートじゃん!?カンニングし放題じゃねえか!
俺、てっきり俺が勉強さぼったせいで元祖上条当麻よりお馬鹿さんになっちまったのかと責任感じてたんだぞ!」

竜神「悪いな。確かにそうだ。自分でもかなりズルしてると思う。
でも、これ含めて俺の力だしな」

上条「お前の力って、やっぱ天使の力なのか?ミーシャみたいな」

竜神「あんな次元じゃねえな」

上条「そこまで強くないのか?」

竜神「逆だ。指ふるだけで、この銀河系が無かった事にできるレベルだ」

上条「…………は?」

竜神「でも、今は使えないぞ。俺とお前は二つで一つの存在だからな。
俺が力を振るうには器になるお前が未熟すぎるんだ。振るう気も無いしな」

上条「……ええっと」

竜神「実感はないだろうな」

上条「あるわけないだろ!?」

竜神「でも本当の事だ」

上条「使うなよ!絶対使うなよ!」

竜神「使わねえよ。俺が信じられないか?」

上条「……いや。信じるよ。上条当麻ってのは、力を振りかざして、好き放題して満足するような、そんな小さな男じゃないはずだ」

竜神「ありがとな」

上条「でも、俺って本当に不幸だよな……」

竜神「インデックスも俺と出会った時に言ってたな。
そんな右手を持って産まれてきた事自体が不幸だ”って」

上条「久々に叫んでいいですか?」

竜神「いいんじゃね。どうせ俺にしか聞こえねえんだし」

上条・竜神「不幸だー!!」

 二人の男の魂の叫びが響き渡る。誰にも届かない声が。

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