上条 「不運と幸運、不幸と…何だ?」③


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上条「この僅かな時間で、数日分の不幸が来たような気がする」

嫁「だいぶやつれていますが大丈夫ですか、とミサカはあなたの心配をします」

上条「ああ、大丈夫…もうそろそろ寝るか」

上条「俺は風呂場で寝るから、お前はベッドで寝ろよ」

嫁「…一緒に寝るのではないのですか」

上条「え?なんで?」

嫁「え?」

上条「え?」

嫁「家主が風呂場で寝るなんて有り得ないとミサカは言います。ミサカはそこまで厚顔無恥ではありません」

上条「いやー、けど上条さんも一応年頃の男の子でありましてね?同じベッドで寝るとなると、色々あるんですよ」

嫁「紳士である上条当麻なら大丈夫、とミサカは」

上条「俺は大丈夫じゃないんだが」
嫁「いいですか。このミサカは押しかけ世話女房で、あなたはさしずめ押しかけられ旦那です」

嫁「あなたの世話をしに来た私が、あなたの世話になるようなことがあっては世話女房の名が泣きます。私だけベッドに寝るなどというのは不公平です、とミサカは言います」

嫁「あなたが、ベッドが嫌いと言うならそれは別の話になりますが、…あなたは暖かい布団に包まれて寝たいとは思わないのですか。堅い床に薄い布、一枚の毛布。これだけであなたは満足して寝られるのですか?」

嫁「私はあなたにそんな空しい思いをしてほしくはないのです。どうしても一緒が嫌というのなら、ミサカが風呂場で寝ます。あなたはベッドで寝てください」

上条「待てよ!何でそうなるんだ!?俺は別にお前と一緒に寝るのが嫌なんじゃなくて…その、なんだ」

上条「……意識しちゃうから、その」

嫁「………」

上条「…確かにベッドで寝たいけど」ボソリ

嫁「なら始めからそうと言えばいいのに、とミサカはため息をつきます」

嫁「あなたはベッドで寝たい。私はあなたに風呂場で寝るようなことはしてほしくないし、逆にあなたもそれを私に望んでない」

嫁「なら、取るべき答えは一つです。とミサカは宣言します」

上条「はぁ」

嫁「元々あなたは、人の不幸を嫌い、幸せを望んでいますが。それに自分自身は含んでいるのですか?とミサカは問いかけます」

嫁「自分の身を省みずに他人ばかりを気にして、挙句の果てに怪我をして。たまには自分の幸せやら幸福を求めてはみませんか?暖かなベッドで寝たいでしょう?とミサカはあなたに決断を促します」

上条「……」

嫁「あなたも私も嫌な思いをせずに済む、そんな方法…」

嫁「答えは、明確なまでに示されています。とミサカは述べます」
上条「何だろう。ごまかされている気がする。」

嫁「きき気のせいです。とミサカはちょっと緊張していりゅいます」

上条「なぁ…やっぱ」

嫁「駄目です」

上条「いやまだ何も」

嫁「別々に寝るつもりはありません」

上条(何だこの気迫は…)

嫁「それにベッドで寝るのは久しぶりなのではないですか、とみsaカは」

上条「今度は声が裏返ったな一瞬」

嫁「……」

上条「……」

上条「よし。いい事思いついた」
嫁「??」

嫁(…まさか……今この場で、と何てことは無いだろうなとミサカは)

上条「逆さまになればいいんだ」

嫁「…………え?」

上条「いやだから、頭の向きを逆にすれば良いんだよ。そうしたら少しはましだろう、顔が近くにあって寝ずらいなんて事もない」

上条「そうだこうすれば良かったんだ…どっこいしょー」

嫁(上条当麻のすね毛がうっすらと見えます。どうしましょう)

嫁「…夜伽の誘いならなぁ、とミサカは呟きます」

上条「ん?何か言ったか?」

嫁「いえ何でも」

上条「そうか?…じゃあおやすみ。」

嫁「おやすみなさい……」



嫁「おやすみなさい、あなた。」

 

 

 

 

…嫁は、なかなか寝付けずにいた。
最初に彼と出会った時は馴れ馴れしく、いきなり顔を赤くしたり慌てだしたりと、かわった少年だと思っていた。

しかし「実験」を通じて彼女、いや彼女たちは彼に一つの感情を持つようになった。
仮初の体に仮初の心、自分たちを実験動物とさえ言いきっていた彼女たち。感情など、持つはずはなかったのに。

「…………、」

今、彼女とは反対になるように頭をおいて眠っている少年。彼と同じベッドで寝ている、ただそれだけで彼女の鼓動は高まり続け、収まる事を知らない。

彼女たちはもう実験動物ではない。上条当麻という男に思いを募らせるその姿は、一人の女の姿であった。

(彼はもう寝てしまったのでしょうか?とミサカは確認を取ろうと身を捩ります)
体を起して上条当麻に近寄る。
電気を消している状態の為、傍目からは分からないが、彼女の顔は真っ赤に染まっている。
無理を言って一緒に寝ているものの、やはり彼女も彼同様――同じベッドで寝るのが恥ずかしいのだ。
こんな真似はオリジナルの姉にはとてもできないだろうな、とふと思う。姉のように素直になれない女性にも惹かれる男性はいるようだが、自分に好意があると分かってないと相手には振り向いてもらえないのではないのか?

なかなか素直になれずもじもじしている姉は、傍から見ていても確かに可愛らしいが、しかしそれであの上条当麻が御坂美琴に気をむけるかというと…可能性は限りなく低い。
素直にならない限り、おそらく姉の美琴は自分の気持ちに気づいてもらえないだろう。
そんなことを思いながら顔を覗いてみると、彼は規則正しい寝息をたてていた。
どうやら完全に眠っているようだ。

「すっかり眠っていますね。これなら安心です、とミサカは小声で呟きます」
そう言いながら、嫁は彼を起こさないようにゆっくりと倒れこむ。覆いかぶさるような形だ。
布団からすっかり出てしまったため、今彼女は下着のほかはシャツしか身にまとってない。別に気温が低いわけではないから、風邪をひく事もないだろうが…万が一の為、と自分に言い聞かせながらモゾモゾと横から抱きつく形で彼の隣りに入りこむ。

目の前には、上条当麻の寝顔がある。

彼女の鼓動がドキッと高まった。

(人の寝顔は、ここまで純粋なのですね。とミサカは思わずときめいてしまいます)
打ち止めを保護している一方通行の寝顔はどうなんだろうか…というささやかな疑問が頭をよぎったが、それはすぐに消えた。正直にいって想像できないし、今目の前にいる彼と違って、珍しい物が見られたなぐらいの気持ちで終わるだろう。
(おやすみの後に言った言葉…彼には聞こえたのでしょうか)

思い返しただけで体が燃え上るようだった。直接胸に耳を当てている訳でもないのに、心臓の音が聞こえてくる。言わなければよかったかな、と嫁はちょっと後悔する。まぁ彼が聞いてなかったら杞憂に終わるのだが…

「…………」

そうして隣で羞恥に悶える嫁に気づきもせずに、上条当麻は依然静かに寝ている。
一通り悶え終えた彼女は安眠を貪る彼をみて、もうどうでもいいや。と急に恥ずかしがっていた自分に見限りをつけると、彼にぎゅうっと抱きつく。
どうやら開き直ったようだ。

とくんとくん、と音が聞こえた。

おやすみなさい。そう囁くと彼の頬に口づけをする。

「………今はここで我慢します。しかし、いつかはこれ以上を、」
今度はあなたから、と…そう心の中で言うと、嫁の意識は静かに薄れていった
ふと違和感を感じた。自分は今、一人のはずだ。
あの風呂場で寝ているはずなのに、なぜか床が柔らかい。さらにいうと体のお腹の辺りからの半身が妙に暖かい。なぜだろう?と寝ぼけた頭で考えながら、違和感を感じた己の半身へ目を向ける。
そこには御坂美琴がいた。
「…………!?!?」
思わず声にならない悲鳴を上げそうになったが、すんでの所で抑える。時計を見れば、とうに日付はかわり深夜の時間帯だった。今ここで大声を出して騒ぎを起こせば面倒なことになる。もしあのサングラスの隣人からクラスメートに、上条当麻は女の子と一夜を過ごしたというような情報がもたらされたら……問答無用の魔女裁判が始まる事だろう。
そうなってしまってはたまらない。
(…ていうか、なんでコイツがここで寝ている!?今日は一体何が…)
なにがあった、と頭の中で問いかけるより早く答えは浮かびあがっていた。
今日あの大喰らいのシスターはこの家に居なくて、その代わりにミサカ妹がきて、一緒に晩御飯を食べて耳掃除をして、…
色々あってそしていい具合に言い包められて、今この状況に、ミサカ妹が横で寝ているような事になっている……
(せっかく頭を別方向にしたのに…)
(げ、しっかりと腕が回されてる。これじゃ引き剥がせないな…)
そして嫁は、しっかりと上条当麻に抱きついていた。その顔はとても安らかで、普段身につけているゴーグルがないと美琴とは区別がつきにくい。ということは、あのとき暴力の嵐を自分にお見舞いしたあの少女の寝顔もこんなふうに素直な表情なのだろうか?
「もったいないな、アイツ。寝顔がこれなら、…普段ビリビリしてなかったら可愛いと思うのですが」
思わず口にしていた。姉の方とは違って、どうやらこの少女は自分を嫌っては無いらしい。しかし…かといってこうも無防備に一緒に居られるのは、少し複雑な心境だった。
上条当麻という人物を男として見ていないからなのか、それとも信用の証なのか。思春期真っ最中の一人の男として、何の用心も無しにこうして隣にいられると、思うところが沢山あるのだ。
買い物の時や、晩御飯、お風呂に…耳掃除。彼女は事あるごとに赤面するような言動をとっていたが……

(まさか、この上条さんの事が好きとか?)
いやそれはないだろ、とツッコミを入れる。自分はそこまでいい男ではないし、他に良い奴はいるだろう、と。
もっとも彼の知り合いにはそんなに男性が居ない為、具体的にどんな人物像を挙げればいいのか、上条当麻は分からないのだが。少なくとも、教師の説教目当てにわざと課題を忘れたり進路希望にメイドの国に行きたいと書いたりする男性は当てはまらないはずだ。
「……はぁ」
知らないうちに小さいため息をついていた。今はこの複雑な心境は置いといて、寝る事に専念しよう。ミサカ妹の起きる時間は分からないが、朝ごはんを作る時間を考えると、遅く起きるような事はあってはならない。
そう思考を纏めると、一気に睡魔が襲ってきた。はっきりしない意識の中で上条当麻は、横で静かに寝息をたてている嫁の寝顔を見て再び眠りに入ろうとした。

その時。
台所から、タン。と一滴の水が落ちるような音がした。
「………!」
思わぬ音にビクッと反応する。ここは学園都市。お化けといった非科学的なモノは信じられない傾向にあるし、そもそも超能力を育成する街だから超常現象にも慣れている。が、こんな深夜に、しかも真っ暗の状態でいきなり音が鳴るのは…あまり心臓に良い物ではない。
そして、さっきまで確かに募っていた眠気は、たった一瞬の音に完全に刈り取られていた。

(ち…ちくしょう…何でこんなタイミングでこんなこと…寝れなくなったじゃねぇか!)

すっかり目覚めた上条当麻は、一人眠れぬ夜を過ごした。



 

翌朝

上条当麻がもぞもぞと身をよじって時計をみると、もうすぐ6時に差し掛かろうかという時間だった。
(…二度寝コースだな。いや、こうも時間が経過した場合は二度寝に含まれるのかな?)

まぁいいか、と上条は呟く。まだ外はうっすらと暗く、かすかにではあるがちゅんちゅん、と小鳥の声も聞こえる。時間帯とその他の事を除けば何てこともない朝だ。
暴食シスターが居ないことと彼がベッドで寝ている事、さらに彼の隣で押しかけ世話女房――嫁が寝ている事を除いて。

上条は寝がえりをうった。病院以外の場所のベッドで寝るなど久しぶりだ。己のベッドの寝心地を満喫すべく手足を伸ばしたり、或いは丸まったりして、パジャマ越しに布団の柔らかな感触や、各所の温度差…例えば自分が寝ている箇所と、端の方…人の体温によって温められていない箇所との温度差を味わう。

今の彼にとって、そんな些細な事でさえ新鮮であった。
何度か嫁に手足が当たってしまったが、スースーと寝息を立てている。上条から顔を背けるような形になっている為、寝顔を見る事は出来ない。
「はふぃー…気持ちよくて眠気が急上昇ですよチクショウ」
最後の言葉は欠伸とともに放たれた。

上条が布団の中でもぞもぞ活動を終えた時、いつの間にか嫁のホールドは解除されていた。
布団の起伏具合を見るに、今彼女は、ダンゴ虫のように丸まっている。さながら小動物を連想してしまう光景だった。
(小動物…猫耳?)
いや土御門じゃあるまいし、と上条は頭をぶんぶん振って頭の中の想像をかき消す。猫耳を装備した嫁のメイド姿を描き上げたところだった。

もぞり、と嫁が寝がえりをうつ。

ちょうど嫁の顔が、少し下に見える構図になった。
さっきの想像が妄想に変わる。上目づかいでこちらを見上げてくる、猫耳メイドな嫁の姿だ。
(……土御門に頼んだら用意してくれるかな…)
膝をついて、猫が顔の手入れをする時のように構えながら「にゃー、ご主人様。とミサカはご主人様にじゃれつきます…にゃあ」そんな嫁の姿を想像し、上条がこれはどうかと本気で悩んでいた。

嫁をちらりと見る。
彼女には少し大きいワイシャツ。…そのせいだろうか?シャツがはだけていた。
はだけているといっても、正面からはほんの僅かに胸元が見える程度でしかない。しかしそれもこの至近距離だと大きな刺激だ。
加えて今、上条の顔は嫁のよりも上の方向にある。


そんな様々な外因もあって……全部ではないが、その母性の膨らみを垣間見てしまった。
(………!!!!!)
とたんに顔が真っ赤になる。
嫁のものは実際、大きいとは言えない。むしろ慎ましいサイズだ。
しかし片鱗とはいえそれを生で見るとつい意識してしまう。上条も男の子だ。
落ちつけ上条当麻、とブツブツと呟く。
しかし嫁はそんな上条に時間を与えまいとするかのように、さらなる動きを見せる。

もぞっと動いたかと思うと、上条に腕を伸ばす。そこからさらに引き寄せるような形で抱きつく。嫁の腕力では上条を引き寄せる事は出来ないので、実際は嫁から抱きつきにいったようなものだ。
つまり上条は、つい数時間前と同じ状況に戻った事になる。

嫁の体温が暖かく体に沁みる。慎ましい感触とともに鼓動を感じる。

(だぁあぁぁチクショウ!!何だこの状態、すごく恥ずかしい!!)

あぁぁぁ、と上条は身をくねらせる。こんな状況でも、嫁を気遣って小さく叫んでいるあたり、まだ彼には余裕があるようだ。
そうしている間にも嫁は顔をうずめたりぎゅうっと力を強めたりしている。
こいつ、実は起きているんじゃないのか…?と上条は疑問に思う。

身を捩らせて再び時計を見る。針は630分に差し掛かろうとしていた。
もうそろそろ起きてもいいか…そう思った上条は、嫁の腕を振りほどく事から始める。

 

 

嫁が起きた切っ掛けは、上条が何やらごそごそ動いていた事だった。
眠りから覚めた時には、がっしりとホールドしていた腕もすっかりほどけていた為、突然の行動(布団満喫)が始まっても、時々手足が当たる程度で済んだ。もっとも、それは隣で寝ている人がいたので、少し自重していたという結果だが。
もしこれがあのシスターであったら、嫁は怒りながら起き上っただろう。
はふぃー、という間抜けな声とともに不審行動(嫁視点)を終えた上条を前に、嫁はちょっと悪戯をしてやろう、と頭の中で算段を始める。
あらかた考え終え、嫁は静かにボタンをひとつ外す。
そして寝ぞうを装って片腕を上条の胸付近に腕を回し、もう片方を上条の腕に絡める。
そして抱きよせるように近づく。
自分の鼓動が速くなっているのが分かる。そして、上条の鼓動も速まっているのも分かった。あぁぁぁ、とかすかな悲鳴をあげて身をくねくねさせる上条。
(何か可愛い、とミサカはやや興奮します…)
まるで低反発枕のような感触のうえ、程よく暖かい。その心地よさに嫁はある時は顔をうずめ、ある時は抱きしめたり頬ずりをする。

すると突然、ガシッと手を掴まれた。
嫁の体がピクリと反応する。
「…お前、起きてねぇか?」
「……」
ハイ起きてます、なんていうわけがない。嫁はここで狸寝入りを決め込んだ。
「………」
「…………」
ツン、と嫁の脇を突っつく。ピクッと嫁の体が動く。
ツンツン、と脇を突く。ピクピクと嫁の体が反応する。
「…」
ふぅ、と息を整え、上条は浣腸の時の手で嫁の脇をブスーっと刺す。

すると、

「ぴぃっ!!」

かん高い声とともに嫁が起き上った。
「おぉ、起きた」
「おぉ、起きた、ではありません。とミサカはこの仕打ちに不満を隠せません」
いやだって少し面白かったし、と上条が言うと、嫁はさらに不満な顔になった。

「でも意外な声だったなー、今の。結構可愛い声だったと上条さんは思いますよ?」
「私としても不本意でした。せっかく寝ていたのに何故あんな起し方なのですか、とミサカは改めて問い詰めます」

「…いきなり抱きついてきたり、手を掴んだらピクリとしたり。寝ていたとは思えなかったのですが」
「気のせいでしょう。とミサカは適当に答えます。そういえば朝ごはんは何にしましょうか?」

何気なく目をそらし話題をすりかえる嫁。

「…米は予約タイマーでもう出来上がってる。後は卵焼きかな」
上条はあっさりと言及を止めた。詰問よりも朝ごはんの方が優先なのだろう。

欠伸を噛みしめながら台所へ向かう上条。時計を見ると時間は10分程しか経ってなかったようだ。

 

 

 

「ごちそうさま」
「ごちそうさまでした」
パンパンと手を合わせて食事を終了させる。学園都市でインデックスを除いた人と朝ごはんを食べるのは初めてかもしれない。
「食器を洗ってきますね」
「おぉ、頼んだ」
じゃあ俺は布団でも干すか、と上条は布団を丸めてベランダへ向かう。日はすっかり登っている。よく晴れた、晴天だった。
「あー…いい天気だ。絶好の洗濯日和だな」

ただ惜しむらくは、洗濯物は嫁が来る前日に済ませていたということだ。少しでもお金を節約したい当麻は、量がそれなりに溜るまでは洗濯を控えている。何回かに分けて洗うより一度に洗った方がマシ、という事だ。もっともこのアイデアが、家計に潤いをもたらすほど効果を挙げている訳ではない。塵も積もれば山になる――お金に関して彼は結構うるさい。

「けどたった2日分、じゃあまだ足りないなぁ」
当麻は、ぼーっと空を眺める。雲ひとつなく、一日中部屋の中に居るのはなんだかもったいない気がした。
みゃぁ、と三毛猫の声が聞こえた。
皿洗いを終えた嫁と猫がじゃれついている。普段は表情の変化の乏しい嫁だが、今は顔からパァァァァっと幸せオーラが放たれているのが分かる。
しばらく放っておくか…部屋に戻りながらそう思った上条当麻はテレビに意識を向けた。
「…………んん?」

気づいたら見慣れた天井が目に入る。自分は、テレビを見ていたんじゃなかったっけ?そこまで思った所で、ふと頭に違和感を覚える。なんか暖かい……

「おや起きましたか。もうお昼の時間ですよ、とミサカは時報をします。お昼はどうします?」

違和感の正体は嫁だった。彼女は昨晩の耳掃除の時と同じような形で膝枕をしている。一体どれだけの間、こうしていたのだろうか。

「俺、どのくらい寝てた?」
「正確には分かりませんが、3時間か4時間程でしょうか。ミサカも少し前に気づいたので、とミサカは付け加えます」
という事はそこまで長い時間このままでいた、という訳ではないらしい。そうか、と当麻は胸をなでおろす。起きたら夕方でした、なんて事態にはならなかったようだ。一日を何もせずに過ごす事になっては、時間を無駄にしたようで申し訳が立たない。
「なら昼飯は有り物で適当に済ませて、どっか行くか。いい天気だし」
よいしょ、と当麻が腰を上げる。確か肉が少し余っていたはず…なら野菜炒めでも作るか、と思いながら台所へ向かう。
嫁はとことこ、と着いて来る。今回も何か手伝いでもするつもりなのだろうか?
「あー…今回は野菜炒めだし…別に毎回手伝わなくても大丈夫だぞ?」

なにやら嫁は昨日の夕食の時から積極的に家事の手伝いを申し出ている。
今朝もご飯を作るのを手伝うと言っていたが、おかずは片手間でできるような簡素なモノが中心だった為、嫁には居間で待っていてもらっていたのだ。
家事を手伝うという奉仕精神は素直に嬉しいが…全部が全部、手伝いを要すようなものかというと、別にそうでもない。
彼女の顔を見ると、若干不服そうな気がする。
むぅ、と頭を掻く。

「よし、じゃあこうしよう。俺はご飯を作るのと食器洗いをする。お前は食器の用意と食後の回収、水のふき取り。風呂掃除は昨日して貰ったから今日は俺がする。洗濯物を干すのと回収折りたたみは、…一緒にするか」
これでどうだ…?と嫁を見る。どうやら納得はしたようだ。
インデックスとは正反対だなぁ、と当麻は思う。嫁とインデックスを足して2で割ったぐらいがちょうど良いかも知れない。
(向こうで迷惑かけてないよなぁ…特に食事的な意味で)
もっともあの神父なら、インデックスの食費には金を惜しまないかもしれないが…




――何事もなく昼飯を終え、外に出た。
朝と変わらず、空は晴れ渡っている。

さて、…どこへ行こうか?
「なぁ、どこか行きたい所あるか?」
「…これといった場所は特にありません」
外に出たのはいいが、行先は全く考えていない。いきなりどん詰まりである。
どこへ行くかはとりあえず歩きながら考えようか、と結論を出した当麻は、歩きだす。
……
すると嫁が腕を組んできた。
「…あのミサカさん?何故腕を組むのでしょうか?」
「駄目ですか?」
目を微かに潤めて見上げる。
いや駄目じゃないけど、恥ずかしいんだけど、と言い淀む。

「昨日腕を組んだから良いじゃないですか。お姉様にも見られましたし、それにミサカネットワークで全ミサカに実況済みですから、とミサカは衝撃の事実をさらりと告げます」

「…え?」
「つまりあなたはざっと一万人の人間に目撃されている様なものなのです。いまさら何人に見られようが大して問題ありません、大人しくしてやがれ。とミサカはグイッと歩きだします」

顔を赤くしてぐいぐいっと腕を引っ張る嫁。その強引さは美琴に通じるところがある。
人は育った環境によって性格が変わる事もあるらしいが…短気な所なんかはDNAレベルでそっくりだ。
「おい、どこへ行くんだ?」
「とりあえず何処かへです」



……
沈黙の時間が流れる。
嫁も当麻も黙ったまま歩き続けている。
何か話題は無いのか、もしくは行先は、と当麻は頭をフルに稼働させる。
女の子に受けやすいものと言えば…買い物、とすると…服とか良いかもしれない。彼女には以前、アクセサリーを買った事がある。そこまで高くなければ一着ぐらいは何とかなるかな?そう考えていた所で、嫁がクイクイと腕を引っ張った。

「ん?どした?」
嫁の視線の先には、昨日のクレープ屋。
美琴の出現で、結局食わず終いになっていたのだ。
「よしそうだな…クレープ食うか」
「はい、行きましょうそうしましょうとミサカは足を速めます」
よほど食べたいらしく、嫁の足運びが一気に変わる。
ズンズンと歩くその様は美琴そのままだ。
「へぇ、いろいろと種類あるんだな…何か違うのもある気がするが」
店頭のメニューで当麻が目にしたのは納豆パフェ。学園都市には試作品という形で個性的な食べ物や飲み物が多くある。しかし、こんな作るにも食べるにもチャレンジ精神溢れるモノを選ぶ奴が居るのだろうか…?と疑問に思う。
「私はもう決めましたが、あなたはもう決めましたか?」
「え?あぁ…じゃあこの苺のやつを一つ」
「よりどりフルーツクレープオールミックスで」


「…うまいか、それ」
当麻は隣でもぐもぐとクレープを頬張っている嫁に尋ねる。
彼女のクレープは店にある様々な種類のフルーツを一つに凝縮したものだ。それらの一つ一つは確かに美味しいものだろうが、多く混ぜすぎると風味を損ねる事になるのではないか?
嫁は黙ったままこくりと頷く。どうやらおかしな味にはなってないらしい。
(少なくとも食べられる味ってことか…何か食べてみたくなってきた)
恐る恐る聞いてみる。
「なぁ、一口食べていいか?俺のも少しやるからさ」
スッと自分のクレープを差し出す当麻。
嫁は一瞬考えたかに見えると、うっすらと顔を赤くしながらクレープを遠慮がちに頬張る。
まるで小鳥が餌をついばむような感じだ。
「それで足りるのか?もう少し食べても大丈夫だぞ?」
ずいっと催促する。
「私は大丈夫です。ミサカの分もどうぞ、とミサカはあなたにあーんをします」
あーん、と声に出しながら当麻の口元へクレープを運ぶ嫁。
(あーん、てちょっとなぁ…)
思わず意識してしまい、嫁に負けず劣らず小さくひとかじりする当麻。
「…これはいわゆる間接キスというものでしょうか。とミサカはボソリと言います」
言いだしたのは自分なのに、なんだか恥ずかしくなってきた。ただ食べ比べるだけのつもりだったのに何でこんなふうになっているんだ?
黙々と食べる二人。そろって顔を赤くしている様は、傍から見ると何とも微笑ましい光景だろう。
何気なく辺りを見回す当麻。なんとも元気な子供の声が聞こえた。
ふとそちらの方へ視線を向ける。10歳くらいの少女が、顔は見えないが杖をついた白髪の少年に何かを訴えているようだ。
「はァ?さっき昼飯くったばかりだろ。てめェの腹に入りきンのかァ?さっさと帰るぞガキ」
「女の子は甘いものは別腹なの!!だからまだ食べられるし大丈夫ー!!ってミサカはミサカはまだ食べられる事をアピールしてみる!!」
「何言ってやがンですかァ!?さっきもそう言ってデザートを2つも注文して、挙句食いきれずに俺が残りを処理した事はもう忘れちまったのかよ!?」
白髪の少年は見るからに不機嫌だ。
というか声色からもそれが伺える。
そして当麻はその声の主に、嫌と言うほど心当たりがある。
早くここから離れよう。そう思ったその時、白髪の少年の肩に飛びかかっていた少女とばっちり目が合ってしまった。
「あー!!上条当麻に10032号だー!!てミサカはミサカは猛ダッシュ!!」

途端、凄まじい速度で接近してくる打ち止め。
あン?と打ち止めの方へ眼を向ける一方通行。
「……」
「………」
「…え、と…ご機嫌麗しゅう?」
「………まさかこんな所で会えるとはな…」
一瞬目を大きく見開いたかと思うと、次の瞬間にはグチャリと歪んだ笑みへと変わる。
首の電極のスイッチを入れ、体の重心を低くして構える一方通行。やる気満々な彼を前に、当麻の全身をダラダラと冷や汗が流れる。
「いやあの一方通行さん!?こんな所でですね…」
「こりゃあちょうどイイ…あの時の借り、たっぷりと返してやるぜ、三下ァ!!」
ダン、と地面を蹴る一方通行。
ベクトル操作によって彼の体は、一瞬の間に当麻の懐へ入りこむ。
はずだった。
「…」
「……?」
だが実際には、一歩踏み出しただけだった。
そのまま硬直する二人。
二人はもちろん、何事かと見ていた周囲の人間も含んだ辺り一帯に気まずい時間が流れる。

当麻には何があったのかは分からなかったが、一方通行には心当たりがあったようだ。
「…ッ!打ち止め!!お前ェ何しやがるッ!!」
早足で打ち止めと呼ばれた少女のもとへ向かう一方通行。周囲の視線に耐えられないのか,顔どころか耳元まで真っ赤っかだ。
「喧嘩はダメって何回も言ってるよね?そんなことの為に演算補助してるんじゃないもん!!ってミサカはミサカは怒ってみる!」
「生意気言ってんじゃねェぞクソガキ!人がぼろぼろの状態で徹夜までしてさァ休もうって時に、そっちの都合で演算補助ぶった切った奴に言われたかねェよ!」

だってだってー!!と口論を続ける二人。
当麻の事はすっかりと眼中から消えているようだ。
(もしかしてあの人って、一方通行の事だったのか…)
「…なぁ、あの子も妹達の一人だったよな?何で一方通行と一緒に居るんだ?」
気づけば口に出していた。
彼女の方も説明する必要があると思ったのだろう。
「話せば少し長くなりますが…よろしいですか」
嫁はゆっくりと話し始めた。
「……そんな事があったのか」
実験の時に抱いていた印象とはまるで正反対だった。
ちょっと意外だったが、打ち止めと呼ばれている少女があの人の事を話していた時のあの笑顔は、本物だ。

なら大丈夫か、と思い直す上条。
二人の口論はまだ続いている。
そのせいですっかりと蚊帳の外状態になった嫁と当麻は、今のうちにこの場から立ち去ろうとした。
「さて、次は何処に――」

「ジャッジメントですの!通報があって参りました。幼気な少女を叱りとばしている情けない殿方は何処ですの?…ってあら。あなた
はお姉様の…」

そして次の瞬間、嫁は当麻の背後に素早く身を隠していた。
どうやら昨日の一件で、黒子は危険人物だと判断されたらしい。
しかし黒子はそんな事は夢にも思っていない。
「まぁまぁ!もう一人のお姉様ではありませんの!こんなところでこの殿方といらっしゃるより、黒子と一緒にきませんかお姉様!?」
嫁の格好は、常盤台の制服にゴーグルとネックレス。美琴は軍用ゴーグルを持ってないので、恐らくゴーグルの有無で判断したのだろう。
「おい白井。お前、ジャッジメントの仕事で来たんだろ」
今まさに飛びかからんとする黒子を、絶妙なタイミングで制止する当麻。
「……ちっ。分かっておりますわよ…」
そう言いながらも当麻をジロリと睨みつける。
やれやれ、といった仕草で黒子は通報にあったと思しき二人組を見つける。
杖をついた白髪の男。彼がそうですわね…黒子はそう呟くと二人の元へ向かう。
ちょうど男が少女と黒子の間に立っているので、姿はよく見えない。つまりそれくらいには歳が離れているということか。
(まったく。年下相手に、何をそんなにぎゃあぎゃあと騒ぐんですの…)

「…止めなくても良いのですか?とミサカは尋ねます」
「夫婦喧嘩は犬も食わないって言うだろ?さすがの上条さんも、あの二人の間に割って入る勇気がありませんよ」
「要するに知らんぷりということですね、とミサカはあの二人の痴話喧嘩に耳を傾けます」
「ジャッジメントですの!!通報があって…参……」
黒子の目がぐばぁ!!と開く。
背後から投げかけられた言葉に、白髪の男がめんどくさそうに振り返った。
その悪人面に驚いたのではない。驚いたのは、その男の向こうにいた少女にだ。
さらにいうと、黒子が愛してやまないお姉様――御坂美琴を小さくしたような外見をした少女にである。
「なンですかァ?生憎と間に合ってますンで。結構ですゥ」
ため息交じりに話す一方通行。だが黒子はそんな言葉は聞いていない。
「ち…ちち…さい…お姉様??」
わなわなと震えながら打ち止めと一方通行を見る黒子。
まるで信じられないものを見るかのような目をしている。
「…?」
一方通行が違和感に気づく。何か様子が変だ。何か起こったのか、と思ったその時、

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!お姉様!!お姉様!!黒子にっ…黒子に内緒でこんなチンピラな殿方と子供を作っていたなんて……」
ガンッ!ガンッ!と地面に頭を打ちつけ始めた黒子。
予想のはるか斜め上をゆく黒子の奇行に、一方通行と打ち止めの思考がフリーズする。
「アーっと、……なンだコイツ」
「私に言われても、ってミサカは…ミサカは…」
困惑した顔で顔を見合わせる二人。大声をあげて地面に頭を打ち付けている風紀委員の奇行に、多くの通行人が足を止めて見ている。
(とりあえずここから離れるぞ。ここに居るのは面倒くせェ)
黒子には聞こえない程度の声で話しかける。打ち止めも賛成のようだ。
ゆっくりと黒子に背を向けて静かに歩きだす二人だったが、血を流し頭を打ち付けていながらも、黒子はそれを見逃しはしなかった。
「まちやがれですの!!どうやってお姉様を落としたんですの!?どうやってお姉様とゴールインしたんですのー!?お姉様から誘ったのですの!?それとも無理やりか!?無理やりなのか――!!」
叫ぶように捲し立てながら、鬼の形相で迫る黒子。血まみれなだけに迫力満点だ。
「……ッツ!!なンだよあのババア!!訳わかンねェ頭逝かれてンじゃねェか!?」
「な、なんか怖いよ、ってミサカはミサカは恐怖で全身に寒気が…」
ダッと走り出す二人。しかし黒子の前には意味は無かった。
「おのれ…逃がしはしませんのー!!お姉様を陥落させた方法を聞きだすまではー!!」
「わわ、あの人テレポーターだよ、ってミサカはミサカは…」
「うるせェ黙ってろガキ!」




………
騒がしい三人が遠ざかっていく。
それと同時に、平穏がこの空間に戻ってきた。
ヤジ馬たちも、それぞれの用事を思い出したのだろう。いつの間にか人だかりは消え、いつもの景色が目の前に広がる。
「……」
「……」
「後で美琴に知らせておくか」
「ですね」
今夜にでも、目を真っ赤にした白井に迫られるであろう美琴を想像する。
アイツも苦労してるんだな…そう思う当麻だった。

 

 

 

 

 

 

 

インデックスは今、多大なる空腹感に襲われていた。
様々な事情もあって、イギリス清教からの仕事を終えるのに思った以上に時間がかかってしまったのだ。今の時間は午後9時をまわっている。
「…お腹空いたお腹減って力が出ないお腹空いたんだよご飯食べたいんだよねぇとりあえず何か食べようよ何でまだご飯にありつけないの?」

仕事を仕上げる事は出来たものの、お昼を済ませてからかなりの時間が経過していた。
その時間は彼女にとっては耐えがたいものなのだろう、先ほどから同じ事を延々と言っている。さながら壊れたスピーカーだ。

「今ステイルが最大主教に報告をしています。時間がかかっているという事は…まぁいつもの事です、気にしないでください」
インデックスからの抗議を一身に受けていた女性――神裂火織は、インデックスと同じように繰り返し答える。もう何回同じことを言ったのだろうか…

インデックスが苦情を言っている横で耳をすませると、騒がしい音が建物の中から聞こえてくる。最大教主のどこか呑気な悲鳴と、ステイルの怒号、物が派手に壊れる音。
今日は何時になく長いな…そう思っていた神裂は、傍から見るとただの苦労人でしかない。
彼女の眼は、何処か遠くを見ていた。
「もうしばらく掛かるかも知れませんが…寮の方でご飯の余りでも戴きましょうか?少しくらいはあると思いますが」
抗議の声が小さくなっていよいよ心配し始めた神裂がそう提案する。インデックスには及ばないが、アンジェレネのような食いしん坊シスターもいるから、或いは余りがあるかもしれない。

一方、その一言を聞いたインデックスは、グバァッ!と目を開くと、
「行く行く!行くんだよご飯が私を待っているんだよ!!」
先ほどまでの様子が嘘のように元気を取り戻し、神裂の腕をぐいぐいと引っ張る。
ご飯にありつけると分かった彼女の瞳は、キラキラと音が聞こえて来そうなほどに輝いている。
ステイルには悪いが、先に食べさせてもらおう。少し申し訳なかったが、インデックスがお腹を空かせているからしょうがない。そう心の中で言い訳をすると、神裂はインデックスと一緒に寮に向かった。

 

「ご飯が……無い!?!?」
インデックスはガクッと膝をつきうな垂れている。
ようやくご飯にありつけると期待していただけに、いたたまれない程の落ち込みようだ。
「今日の当番はオルソラでしたか。うっかり忘れていましたね…」
神裂は目を細めた。
彼女が当番の時だけは食堂に全員が揃ってしまうほどの腕前である。
これはその事を加味せずに提案した自分の落ち度ではなかろうか…

だがご飯は無くても、幸いにも材料だけならあった。
(仕方がありません。ここは私が作るとしましょうか)
エプロンを身につけ、相変わらずうなだれているインデックスに自分が晩御飯を作る旨を告げると、とたんに目に輝きが蘇る。

「さて…彼女は特に好き嫌いは無かったはず。お腹も限界でしょうし、米を炊いてサラダを間に出して、後は…とにかく手早く作れるものを出しましょうか」

ブツブツと呟きながらも手際よく料理を作っていく神裂。
インデックスの食事スピードはとても早い。つまみ食いを防止するためには出来るだけ早く大量の食事を用意しなくてはならない。
そこで複数の料理を同時に進行させ、その間に野菜を切るだけで済むサラダを時間稼ぎに使う。
勿論、サラダだけでは完全な時間稼ぎにはならない。若干のタイムラグは起こるだろうが、神裂の計算では彼女が料理を全部出す頃には、ご飯は炊けているはずだ。そのまま出すなりおにぎりにするなりしたら、一応は間に合うはず…

そう考えていた神裂火織だったが、彼女はまだ、インデックスの力を侮っていた。
「おかわり」

何気ないその一言。
しかしその一言が神裂を凍りつかせる。インデックスに出したサラダは、聖人の身体能力にモノを言わせてこれでもかという程に山盛りにしたものだ。
公園の砂場で子供が1時間かけても作れないであろう程の高さの野菜の山。そんな大量のサラダを、このシスターは数分もしない内に平らげたというのか…?

ゆっくりと振り返る神裂。
あれほどあったサラダがきれいさっぱり無くなっている。信じられない光景だった。
しかし、そんな彼女の心境には気づかずに、そのシスターは静かに問う。
「おかわりはまだ?って聞いているんだよ?」
「いえ、もうちょっと待って欲しいと言うか…」
「ひょいぱくっ」
あっ、と声を上げる間もなくつまみ食いを開始するシスター。
みるみると量が減っていく。
――2
分後

作りかけの料理は全滅していた。
インデックスの方は落ち着きはしたもののまだ足りないらしく、フォークやスプーンを手に食堂で待機している。

「…………………………」

一方、先ほどのインデックスの襲撃で料理を全滅された神裂は、気を取り直して調理を再開していた。
(材料が一部足りないものがある…炒めものにして誤魔化しますか)
そう考えた神裂は今ある材料を見渡している。肉に野菜に麺、調味料も種類は把握してある。
「野菜炒めが一番無難ですか……ん?これは…」
彼女が見つけたのは麺類として纏められている一群。その中にパスタの物とは違う麺があった。
「これはオルソラが用意していたのでしょうか?」
彼女が手に取ったのは中華用の麺。そこでふとひらめく。
(焼きそば、も悪くはないですね)

今回はインデックスの乱入は無かった。
炒めものはスピードが重要、とオルソラが言っていた。オルソラの言葉を反復しながらフライパンを温め、野菜と肉、ほぐした麺を入れ、醤油などを使って間に合わせのソースで具を炒める。

じゅうっ、と醤油の匂いが広まる。その匂いをかいでいると、自分もお腹が減っている事を思い出す。インデックス用として多めに作っているから、自分用に少し失敬しておこうか…神裂はそう思った。

インデックスの方を見ると、待ちきれないのだろう、かなりウズウズしている。
その様子を見て、思わず笑みが浮かんだ。
「ねー、ものすごい良い匂いがするんだよ。まだなの?」
「あとちょっとですよ。我慢してくださいね」
ニッコリとしながら答える。
麺は、程よい茶色になっていた。
それを二つの皿に分ける。大き目の皿に山盛りで積まれたのと、一回りほど小さいサイズに一人分だけ盛られた皿。
「もしこれで足りなかったら、炊飯器に米を炊いてあるので。そちらを食べてください」

そう言いつつ、皿と水の入ったコップをインデックスの前に置く。口からだらーっと涎が出ている。
「…食べないのですか?」
神裂が不思議そうに尋ねる。インデックスの事を知る者なら、空腹の彼女がこの状況でご飯に飛びかからない事に疑問を抱くだろう。

「かおりも食べるんでしょ?だったら一緒にいただきます、しようよ」

だがそのシスターは、神裂の目を見つめながらも意外な返事をした。
そこはやはりシスターなのか、それともつまみ食いで少しは余裕があったのか。
ちょっと意外な一言だった。
「……」
「何で、きょとんとしてるの?早く食べようよねーねー」

いいえ何でもありませんとインデックスの声で我に返った神裂はインデックスと向かい合う形で席に着く。

「「いただきます」」

同時に、凄まじい速さで箸を進めるインデックス。そんな彼女を見た神裂も箸をつけた。

「誰だ――!!こんな時間に美味しそうなもの食ってる奴は――!!!」
突然の声と同時に慌ただしい足音が聞こえてきた。それは徐々に増え、確実にこっちに向かってくる。
(これは……デジャヴ!?)

サ―っと顔から血の気が消える。あのときは一人分しか用意してなかったし、台所にいたからぎりぎり間に合ったが、今回は違う。

中華麺の数はインデックス用に大半を使った為、残りは少ない。
となると…
(今ある分…私たちの分が危ない!!)
この間の思考時間、3秒。
覚悟を決めると、まだ熱い焼きそばを一気に口に放り込む。ごくりと水で無理矢理腹に流し込むと、刀を掴んで臨戦状態に入る。
同時に、勢いよくドアが開き、食いしん坊シスター・アンジェレネを筆頭に数人のシスター達が入ってきた。

 

「か神裂さん!!今ここに美味しい食べ物――見つけたぁ!!」

クンクンと犬みたいに鼻を動かしていたアンジェレネ。流石と言うべきか、全てを言いきる前に匂いの元を見つけ出す。

「――て、あなたはいつぞやのシスター!あの時はよくも私の食べ物に手を出しましたね!食べ物の恨みは恐ろしいって思い知らせてあげます!!」

「ダメなんだよ!!これはわたしのものだから分ける事はできないんだよ!」

「シスター・アンジェレネ。彼女はさっきまで仕事をしていたのです。お腹が空いているのだから我慢してやってください」

「何を言うのですか神裂さん!!この食べ物を前に、私がそう簡単に引き下がると思っているのですか!」

「お腹が空いたのなら、ちょうど炊飯器で米を炊いておきましたので…おにぎりでも作るのでそっちで我慢してください」

わいわいと騒がしくなる食堂。
出来れば、インデックスと二人で話でもしたかったのだけど…とため息をつく。
そうして、アンジェレネの要望に従っておにぎりを握っているとインデックスがやってきた。
どうやらまだ食べられるようだ。

イギリス清教女子寮の夜はまだ続く。




「さすがに…待ってはくれなかったようだね。……まぁいいけど」
時を同じくして。とある神父は、一人煙草を吸いながら夜空を見上げていた。

「ご飯は……コンビニにでも行くか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん…あぁ、もう朝か」
上条と10032号が共に暮らしてから、1週間になった。
最初こそ中々寝付けなかったが、今は少し慣れてしまった自分が居る。
「慣れ」とは凄いものだ、と彼は一人頷く。あの日から彼女とは一緒に寝ている。インデックスが戻った時になんと言おうかと考えていた上条だが、黒子暴走の後にそのインデックスからもう少しイギリスに居る、という連絡があった。電話の内容から鑑みるに食欲につられたからだと考えられる。
(……まあ向こうにはステイルとか神裂がいるし。問題無いか?)

少し寂しさもあるが…ホッとしている部分もあった。彼女の食費は、上条の家計を大いに圧迫していた。インデックスがいない間――もうしばらくは、お金に余裕ができるという事だ。
そして、インデックスと入れ違いとなる形で上条家の居候(押しかけ世話女房)となった嫁は、既に今朝ごはんを作り終えていた。
けして豪華なものではないが、それでもかつてと比べれば健康的で良い。
(朝起きたらご飯が作られている…これって結構恵まれてる?)
などと考えていると、ご飯を作り終えた嫁がやってきた。
手際良く皿を並べるその様からは、これが日常と言わんとするような雰囲気がある。
エプロンを身に付けたその姿。「主婦の貫録」ともとれる、目に見えないものも、彼女はこの短期間で身につけつつある。
「そのエプロン姿も板についてきたというか…何処かの嫁さんみたいだな」
いただきます、と手を合わせて箸をのばす。さすが女の子というか、料理の腕はうなぎ登りである。上条も決して料理が出来ない部類ではない。だがその腕は玄人の域でもない。この数日で明らかに上がり続ける嫁の料理の腕を前に、今度小萌先生にでも教えてもらおうか…少しそう考えていた。

「どうもありがとうございます。ミサカもここ最近で少し自信がつきました。とミサカは答えます…ところで」
「何だ?」
「今日は少々、遅れて起きて来ましたが。この調子でいくと余裕をもっての登校が難しいのでは?」
話しながらも箸は止めない嫁。もぐもぐと口に含んでいた朝食をごっくんと飲み込みながら指をさす。嫁が指差す先には、時間を表示したテレビ画面。
先の考え事は、思っていたより時間を費やしていたそうだ。
「あー…まだギリギリ大丈夫だ。走っていけば」
いつもはこの時間では、登校の準備をしているころだが…
急げば始業のチャイムには間に合うだろう。
食べ終わり皿を流し場に置き、歯磨きをしながら鞄に荷物を放り込む。
「んじゃ、行って来るから。留守よろしくなー」
いってらっしゃい、という嫁の声を背に上条は家を出発した。
上条が学校へ行った後は、嫁はあまりする事がない。洗濯物や掃除などの家事は毎日する訳ではない。よって、この時間帯は結構暇だったりする。スフィンクスの相手ぐらいしか午前中の「日課」といえるものは無い。
そしてその猫は、嫁の目の前であぐらをかいている。
「………」
嫁は猫の遊び相手になると思いきや、そうでもなく。先ほどから猫の一人遊びをじーっと見ている。
みゃー。と高い声で鳴きながらごろん、と何度も寝がえりをうっている。
これで何度目だろうか?…そして一人遊びにも飽きたのだろう、ひょいっと嫁の膝に飛び乗ると、みぁ、と嫁の顔を見てくる。
嫁にはそれが「あそんで?」と言っているように見えた。
反応が無かったせいか。嫁の膝の上でしっぽを振りながらもう一度、みゃあ。と鳴く。
「あそんでくれないの…?」
次の瞬間、嫁は小さな愛玩動物を腕の中にしっかりと抱き抱えていた。
この猫にねだられる。
嫁の密かなる日課である。その顔は、幸せオーラで大いに緩んでいる事だろう。
「かみやん、最近弁当なんやねー。ついにそこまでお金に困るようになったん?」
お昼休み。嫁が作ってくれた弁当を広げていると、青髪ピアスがそんな事を言ってきた。
「いや、そうでもないぞ。金に余裕がないのはあまり変わらんが」
「にゃー。バイトでも始めたらどうかにゃー?ってもかみやんじゃ不幸なトラブルが勃発して余計に金に困りかねないぜぃ」
「…おい」
「そやねぇ。かみやんの不幸体質は神懸ってるからなぁ。もっとも女運も神懸かってるけど」
「そのとおりだぜよ。もはや不幸とワンセットになってると言っても過言じゃないぜい」
「不幸に巻き込まれた過程で女の子と仲良くなるのか、女の子と知り合って不幸になるのか?」
「自身が不幸になってもなお、女子を求めるとは…さすがはかみやん」
「持ち前のフラグ体質を持って、今日もせっせとフラグ建設というわけかぁ。うらやましいなぁかみやん」
「にゃー。そのせいで一体どれだけの女の子が涙してきた事か…」
「…、……………」
何やら話が膨らみ続けている。自分が不幸体質なのは理解しているが、なぜそこで女の子の話に移るのか。その辺りがよく分からないが、今はとりあえず飯が優先だ。
隣でわいわい言っている二人を無視して、上条は箸を進める。
「にゃー!!つまりかみやんにとって女の子はそんなものだったのかにゃー!!
「数多の子を引っ掛けては取り換え…かみやんの眼鏡に合わなかった子の末路はいかに…!?
「こうして何でもないふりをしておいて、実は既に誰かとつきあったり突きあったりしているに決まってるんだぜい…」
「な、なん…だと…?」

「…さっきから聞いていれば、お前ら…」
がたっと席を立つと、暴走を続ける二人の前に立つ。呆れたような顔をしているが、目元がピクピクと痙攣している。もはや言うまでもなく、怒り心頭である。
「あれ、かみやん?ひょっとして怒ってる?」
青ピが冗談交じりの口調で聞く。普段はこのくらいで本気で怒ったりはしないから大丈夫だと思っているのだが…
「にゃー。これで怒るようでは、かみやんもまだまだだぜぃ」
似たような事を土御門が言う。

ここでちょっとした乱闘でも起こるかと思いきや、上条はため息とともに席に着く。
「その幻想をぶち壊すー!!」という感じの展開を予想していた二人は、思わぬ肩透かしに目をキョトンとさせた。
(あれー?なんかかみやん、ちょっと変なんちゃう?)
(いつもならここでかかってくると思うんだぜよ)
何かある、これまでの付き合いからそう意見を一致させた二人ではあるが、挑発を重ねてもそれはあかせぬままであった。



「……という訳で、かみやんを尾行するんだぜよ」
――
放課後。
土御門の元には、青ピともう一人、姫神がいた。
学校に居る間はついに分からぬままであったが、ならば話は簡単で、ちょっと後をつけて何かないか調べてみよう――そういう事であった。

そして今。
彼らは上条の後ろにぴったりと張り付いている。
自分たちとすれ違う生徒たちが目を向けているが、土御門を除く二人はそんな事に気づいていない。
「いやー、まさか姫神ちゃんが同行してくれるだなんて。ホンマに意外やわ」
「たまには。登場しておかないと空気になるから」
周りの視線にも気付かず、さっきから青ピと姫神は会話を続けている。
先ほどの姫神の言葉は、果たして誰に向けて言ったものなのか…

「無駄口たたいてないで行くぞ。じゃないと見失っちまうぜぃ」
唯一真面目に尾行している土御門が二人の会話を遮る。
上条とはギリギリの距離を空けている。ばれるかばれないかの境目だ。
今は人通りの多い場所に居るとはいえ、ばれない可能性は0ではない。
念の為にもう少し離れた場所から様子を見よう。雑踏の中だから無いとは思うが、声を聞かれたりしたら目論見が崩れてしまう。
物陰に隠れつつそんな打算をしていた土御門は、とりあえず二人に注意を促す。
「二人とも真面目にする気あるのかにゃー?俺たちの声が聞かれたらばれちまう可能性もあるんだぜぃ?」
「確かにそうやけど…」
「元々。ストーカー行為は犯罪」
「…だったら何で一緒に後をつけてるんだにゃー?」
「だって面白そうやし」
「出番が。欲しくて」
「……言動が矛盾してる気がするけど…まぁいい、見失う前に再開するにゃー」

そうこうしている間に少し距離が空いた。これならばれる心配はないだろう。

数十分後。
「着いてしまったなぁ」
「ここ。上条当麻の家」
何処にも寄り道もせず、上条は真っすぐ帰宅していた。
今回は収穫なしと言う事だ。
駐輪場の端っこで井戸端会議を開いていた青ピと姫神は、クルリと土御門の方へ体を向ける。

「これからどうするん?」
「…どうするかにゃー」
「また。後日決行というのは」
それはそれでありだが、このままじゃあ終わりますかと言うのも何だか気が収まらない。
家に突撃して家宅捜査も考えたが…それでは面白みに欠ける。
どうしたものか?
「…このまま突っ立ってるのもなんやし、とりあえず場所を変えへん?」
「ハンバーガーのクーポンの。余りがまだちょっとある」
じゃあその店に行って今後の話でもするか、と三人はその場を後にする。
もう少しその場に残っていれば、嫁とともに現れる上条の姿を目にできただろうとも知らず。
「ただいまー」
後ろからつけられていたとは夢にも思っていない上条はなんとも気楽な声を出す。
今日は美琴に遭遇する事も無く、珍しく平和な日だった。
そんなささやかな幸せを噛みしめつつ、その辺りに荷物を置くと、ぼふっとベッドにダイブする。

「そんな所に鞄を置くと踏んでしまうかもしれませんよ」
嫁がやってくるなり口を開く。
腕の中には三毛猫がいる。ここ数日ですっかり慣れてしまったようだ。
最初はこんなに近づこうともしなかったのに、嫁の料理を口にしてから徐々に変わっていった気がする。…これは慣れた結果懐いたというより、餌付けの結果懐いた、という感じだ。過程はともかく、結果として仲良くなったのなら別に気にするまでもないか?
食は偉大なんだな、と思った所で上条は一つ思いだす。
「そういや今日はスーパーで安売りがあったよな。確かまだ時間あったと思うけど」
鞄を持ち上げ、決まった場所に置いたところで尋ねる。
家事分担をしてから、嫁もそういった所に気を配ったりしているのだ。

「はい。今から出れば十分間に合うと思いますが」
スフィンクスを降ろし、嫁はチラシを取りだすと、上条に差し出した。
「じゃあ今から行くか。早く行くに越したことは無いし」
受け取った紙を見終えると、上条は玄関に向かい、嫁もそれに続く。
みぁ、と三毛猫が遅れてやってきた。どうやら戦果を期待しての見送りのようだ。
わざわざやってきた猫を、嫁が子供をあやすかのように頭を撫でている。

「行くぞー」
上条が声をかけると、嫁は撫でるのを止める。そして玄関を空けるのと同時に、ピシィッ!!と猫が背を正した。
(…まるで敬礼だな)
そんな事を思いながら二人はスーパーへ向かった。
「…あんた」
突然声をかけられたと思ったら、見慣れた顔があった。
顔が全く同じというだけなので、この場合は見慣れたというよりも、知った顔というべきなのだろうか。

「げ。美琴か」
美琴と呼ばれた少女、妹達のオリジナルである女の子は、上条の反応に眉をひそめる。
どうやら気に障ってしまったらしい。
「で、この子も一緒に居る訳ね。この前は押しかけたとか言ってたけど…もしかしてずっと泊まってたの?」
美琴の視線は上条から嫁へと移っている。
一週間前。彼女はひょんな事で夜分に上条家に突撃した事がある。
その時は勘違いと言う事で収まったのだが、…一度落ち着いても、やはり色々と思う事があるのだろう。怒った顔は、一気に複雑そうな顔へと変わる。
「そうです。今日スーパーの安売りがあるので、今それに向かっているところです。とミサカは答えます」
「安売り、ね…あんたの口からそんな言葉が出てくるなんて思ってなかったわ」
美琴はふう、とため息をつく。
「で、そのスーパーは何処にあるのよ。私も暇だし、……この子も世話になってるからお金ぐらいは出すわよ」
「いやいや、別にそこまでしなくてもいいぞ。それにそこまでお金に困ってる訳じゃないし」
無論、嘘である。
ただ、年下の女の子にお代を出してもらうのを、上条が個人的に嫌っているだけだ。

「だーかーら、私がお金出すって言ってんのよ。もし黒子だったら卒倒物よ?あんたも二人分の食費とかシャレになんないでしょ。それにほら……こないだの事もあるし」
最後の方は小声になっていた。
美琴も気にしているのだろう。もっとも、上条はもうそんなに気にしてないし、大食シスターに比べたら、(食費的な意味で)嫁など可愛いものだ。
「いやだけど、」
「あーもう、あんたが気にしなくても私が気にするのよ!こんな時くらい人の好意を受け取りなさい!ほら行くわよ!」

むんず、と首根っこを掴まれる上条。有無を言わさぬ力で引っ張られ、嫁に誘導されながら、引きずられながらスーパーの安売りへと赴く。
「…つまりツンデレとは、普段のツンとしたつれない態度と、デレた時とのギャップが魅力なわけなんよ」
ここはとあるハンバーガー店。
上条を尾行したはいいものの、結局何の収穫も無しに、とりあえず場所を移した結果ここにきたのだ。
「補足説明しとくと、ツン:デレ=73が理想やで。姫神ちゃんの場合はクーデレとかいいかもなあ」
「クーデレとは。何?」
「クーデレってのは…そうやなぁ。ちょっとドライな子が、……」
今姫神は青ピから個性の有る女性、という事について講義を受けている。
果たしてこの人間に聞く事が最良の選択なのかどうか、という疑問は置いておこう。

「つまりツンデレとの違いは、ツンデレが自分の好意を素直に出せないのに対し、ク―デレは元々感情の起伏が乏しい子が、自分の好意を前面に押し出すことがポイントなんや。普段は大人しい子が、例えばいきなりキスしたりとか真正面から好きです、て言ったりとか。どちらも普段とデレた時とのギャップに萌えるモンなんやけど、二つの違いは素直かそうでないか、やね。ツンデレは素直になれないから、自分の好意を表に出したくないからそっけなくなるんやけど、クーデレは別にそういう意図があるわけやない。それがデフォルトなんや。そんなクールであまり感情的やない人の精一杯の愛情表現がまたツボでな………」
青ピの抗議は延々と続く。それを真面目に聞いているのは、姫神ぐらいのものだろう。

土御門はそれを聞き流しつつ、窓ガラスから表の通りを眺めている。
ここに来てからゆうに一時間は経っている。
そろそろ解散しようか、そんな事を考えていると、ふと視界にあるものが入ってきた。

 

ツールボックス

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