フレンダ「麦野、愛してる」麦野「そうか、死ね」


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0.1 フレンダ ~1~


――
『アイテム』のメンバーとの距離感は未だに掴めていない。

 ただの表面上だけの事務的な繋がりでもなければ、もちろん女同士の仲良し集団等でもない。

 彼女が『アイテム』に加入した時、既に滝壺理后はメンバーにいた。

 初めて会った時の印象は、『良く分からない』であり、それは今でも大して変わっていないが、なんだかんだでそれ以来の付き合いの為、仲良くなった方だと思う。

 もう一人のメンバーは名前も顔も覚えていないが、会ったばかりの私に気さくに声を掛けてくれ、右も左も分からないただの足手まといを優しくサポートしてくれた。

 おかげで逃げ出し癖のある私は次の日も遅刻する事無く『アイテム』のアジトに足を運べた。

 以降も召集に対してサボる気も起きず足しげくアジトに顔を出せるようになった。

 たった一日しか会う事のなかった、あの人のおかげだ。

 会ったその日に、麦野に始末されたあの人のおかげだ。

「どうやら組織に内通者がいたようだったけど、安心して。たった今いなくなったわ」

 学園都市の頂点である七人の超能力者の第四位にして、『アイテム』のリーダー。

 麦野沈利の第一印象は、そんな感じだった。

 

 

 

 

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1.1
 other ~1~


「結局、なんだかんだで3年の付き合いな訳よ」

 金髪の少女、フレンダが溜め息を吐く。

「良くもまあこんなストレスの中で持ったものねー。普通だったら7回くらいは胃に穴が空いて入院しててもおかしくない訳」

 いつものファミレスでサバ缶をほじくり返しつつ、下っ端の少年に一方的な愚痴をぶつける少女。
 その下っ端の少年、浜面が大きなあくびをぶちかましているのもお構いなく、キンキン声を張り上げた。

「そりゃー麦野は美人だし? おっぱいは大きいし? ふわふわの髪からはいい匂いがしてクラクラするけど、もうちょっと私に優しくしてくれてもいいと思う訳よ。
 第一、撃破ボーナスという制度が問題なのよ。滝壺は攻撃能力無いし、絹旗は超強いけど接近戦特化だから麦野には敵わないし。そして私にいたっては地の利を活かせる時じゃないと他の二人より圧倒的に効率が悪いし!
 結局、あのルールってば麦野一人勝ちルールでしかない訳よ」

「ふーん……。あ、わり、ちょっとトイレ」

「大体昔っから麦野は意地悪なのよねー。ま、結局そこがまた萌える訳なんだけどね。
 あ、この鯖カレー美味しい! これは今度からレギュラー化するのも悪くないわ。
 そうそう、レギュラー化といえば麦野ってばシャケ弁ばかり食べてる訳だけど、あれも正直ないわーって思う訳よ。
 だってシャケよ? 塩分たっぷりよ? あんなの毎日食べてたら高血圧で死ぬっての。

「ほうほう、それで?」

「一度その事で心配してあげたらなんて言ったと思う? 『ふれんだぁ……アンタにはシャケの真の良さについて諭す必要があるわねぇ……』とかそんな事言ってその日は一晩中シャケの素晴らしさと文化と歴史うんちくその他諸々を延々と講義されちゃった訳。
 いや、講義なんでものじゃないわ。結局、アレはただの精神的拷問な訳よ。もっとも私にとっちゃ麦野と一夜を共に出来たって訳だから半分はご褒美なんだけどね」

「なるほど、そんな事思ってたんだ。知らなかったわ」

「まあねー。っていうか、あんな目やこんな目にあっても一途に麦野を思う私ってば、少しは報われるべきだと思う訳よ」

「報われる、ねぇ?」

「そうよ! 結局、麦野はもっとこんな健気な私の気持ちをしっかり受け止めるべきって訳なのよ!」

「そっかぁ、分かったわよフレンダちゃァん。いいからとっとと席立って奥入らせてくれないかなァ?」

「あ、ごめん麦野、話に夢中になってたわ……って。え? ……むぎ、の?」

「はぁーい。呼んだかしらフゥレンダちゃァァン?」

 

「…………」

 ギギギ、とフレンダが間接の錆びた機械のように首を巡らせる。ふわふわの長髪をたたえ、大人びた顔立ちの美人がフレンダの視界に入った。
 正面にはさっきまで居なかった人物が2名ほど座っている。

「おや、フレンダ。超顔色が真っ青ですけど、超どうしました?」

「…………」ボーッ

 広げたパンフごしに問いかけてくるショートボブの少女、絹旗と、相変わらず何を考えてるのか分からないピンクジャージの少女、滝壺だった。

「えーっと、てことはいつの間にか皆さんお揃いだったって訳、ね……」ダラダラ

「いいから、さっさと席立って道開けなっつってんだよフゥレンダちゃァん?」

「は、はひィッ!」

 フレンダがバネ人形のように素早く席を立つと、麦野は優雅な仕草で窓側の席にその身を収めた。
 恐る恐る、といった動作で元の席に座ったフレンダは、同じく恐る恐る、といった様子で隣の同僚に尋ねる。

「あ、あのー。麦野、さん?」

「ん。なに、フレンダ」ニコッ

「(ゴクリ……)ど、どこから……聞いて、ました?」

「……んーと」

 顎の辺りに人差し指を当てて首を傾げる麦野を、まるで死刑宣告を待つ被告人のような心境でフレンダは見つめ続けた。
 やがて、ふわふわ髪の裁判官が菩薩のような微笑を浮かべ、金髪の少女判決を言い渡す。
「そうそうフレンダ。今からでもその胃袋に原始崩しで穴開けてあげようか? 折角だから7つくらい」

「ひィィィッ!! ほとんど最初っからって訳なのね!?」

「何の事かなフゥレンダちゃァァん? 私さっぱり分からないから今晩じっくりお話聞かせてもらえないかなあァ? 久々に一夜を共にするのも悪くないと思わなァい?」

「ごめんなさい私調子ぶっこいてました本当にごめんなさい許してください許して麦野ぉぉぉお!!」

「ふっふーん、どうしよっかにゃあ~ん?」

「終わったァァァ! 結局、私の人生今日でジ・エンドって訳なのよォォォ!!」

「フレンダ超うるさいです。周りの超迷惑になるから超黙っててくれませんか?」

「大丈夫、フレンダ。そんなフレンダを私は応援してる」

「応援はいいから命を助けてぇぇぇぇ!!」

 その後、トイレから戻ってきた浜面が取り押さえるまで、フレンダの叫びは収まることは無かった。




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1.2
 フレンダ ~2~

「あーあ、ホント酷い目にあった訳よ……」

 あの後、軽いミーティング(と重いお仕置き)のみで開放され、無駄に時間が余った。
 体のあちこちが痛む中で人ごみを歩くのは辛いが、あれ以上あの場に残るほどの根性は持ち合わせていない。

「……こうして表向きには五体満足なのは幸運と思うべきなんだろうけど」

 思い出しかけてブルッ、と寒気が走った。
 向こう1~2週間はトラウマとして尾を引きそうな予感を覚えつつ、少しでもそれを緩和しようと行きつけのファンシーグッズ店へと足を向けた。

 思えば、あの名前も思い出せない一日限りの元同僚が紹介してくれ以来、何度その店の存在が私の心を癒してくれたことか。
 召集命令に遅れない事、麦野に逆らわない事など、一日限りとはいえあの同僚は色んなものを私にくれた。
 それらの”プレゼント”が、どれだけ今日の私を助けてきてくれた事か、計り知れないものがある。

「もっとも、感謝してもしきれないだとか足を向けて寝れないだとかそういう下らない感傷にひたろうとはちっとも思えない訳だけど。
 そもそも、戦場で死んだ人の事をしつこく思い出してると、そいつに足を掴まれて一緒に引きずり込まれるとか言うし、縁起でもない訳よ。
 って、戦場とか物騒な例えしちゃったけどこれがまた言いえて妙なのが何とも言えないよねぇー」

 ねー、と一人芝居、もとい独り言を呟いているとようやくお目当てのお店へ到着。
 カランコロン、と今時珍しいレトロな音を鳴らすドアを押し開けながら店内に入ると、そこはまるで夢の国だった。
 なーんて思えたのは来店何回目までだったっけ、等と笑えないジョークを脳裏に遊ばせつつ、いつものコースを巡る為に正面奥まで歩を進めた。

『今月のオススメコーナー』と手描きの文字が刻まれた黒板が目に入る。
 更にその内容に目を向けると、デコレーションされた文字と共に可愛らしいイラストが出迎えてくれた。

「さてさて、今月のオススメは……と」

 その黒板の文字を読み上げ、そして。

「え……嘘」

 店内に流れるポップなBGMが、一瞬の内に遠ざかったような錯覚を覚える。
 まるでそれは、ホラー映画の中で流れるヤケに明るいBGMのようで。


「あれ、フレンダじゃないですか。超奇遇ですね」

「あ、絹旗……か」

 店を出た途端、いきなり投げかけられた言葉に驚き、思わず身をすくめる。
 当然、ショートボブの少女に見咎められ、怪訝な顔をされてしまった。

「どうしましたフレンダ? 超挙動不審ですけど……。ひょっとして麦野の超お仕置きって超ヤバかったんですか?」

「え、ああううん、な、なんでもない訳よ!」

「……? そうですか。ならいいんですけど」

「あ、あはは……」

 明らかな失策。完全に不信感を与えてしまった。
 これだったら普通に肯定しておけば良かったかな、等と思ったが後の祭り。

「……今日のフレンダは何か調子悪そうですね。何かありましたか?」

 ほら来た。
 予想通りの反応に私は内心頭を抱える。
 絹旗は、自分に興味の無いことについては総スルーする現代っ子を装いつつ、実は『アイテム』の4人の中で一番空気が読める子だったりする。
 見てない風でしっかり相手の顔色を把握し、そっけない口ぶりで常に一定の距離を置いているようで常に他の3人――下手すると下っ端のメンバーにまで――気を配ってたりする。

 一言で言えば要領がいい子。悪く言えばスレたマセガキ。
 それが絹旗に抱いた私の第一印象で、付き合ううちに後者の印象は段々と薄れていった。
 何しろ彼女の性格はこういった環境で付き合う上で非常に楽だからだ。彼女なりの処世術なのかもしれない。

 もし『アイテム』がこの暗部という泥沼の中でいつか崩壊する時を迎えても、絹旗だけはしれっと生き残っているんじゃ無いかとさえ思う。
 まあ、麦野も超能力者<レベル5>の第四位だし、滝壺はああ見えて『アイテム』の核だから基本他の三人が連携して護りを固める事が暗黙の了解だ。

 あれ。

 じゃあ、もしかして。




 いきノこれナイのハ    ワタシだケ――?












「――フレンダ!!」

 突然の怒声に今度こそ誰もが分かる規模で全身をビクリと震わせた。

「な、き、絹旗! いきなりそんな大声出されたら、び・びっくりする訳よ!」

「すいません。超迂闊でした」

 反射的な抗議にしかし絹旗はあっさりと謝罪を返してきた。
 まるで最初からそう言われるのが分かっていたかのように。
「い、いや、こちらこそ悪かったわ。結局、ボーッとしてた私が悪い訳よ。そ、それより」

「はい、超目立ってますし移動しましょうか」

 気が付けば集めていた周囲の注目を誤魔化す為、乾いた笑いを浮かべつつ絹旗を促すと、やはりというかこちらの意図が分かっているかのように私の後について歩き出す。
 移動を始めた私達に、目を向けていた周囲の通行人も興味を失い、やがて止めていた足を動かし始めた。やれやれ。

「それで、結局絹旗はこれから何をする予定だった訳よ?」

「私ですか? 私は超いつも通りめぼしいB級映画巡りを始めようとこの先の映画館へ向かう超途中でしたが」

「あー、そっか。絹旗お気に入りのみすぼらしい映画館、この辺だったっけ」

「みすぼらしいとは超デリカシーの無い言い方ですね。超風情のある超寂れた映画館と言って下さい」

「……それ、よけいに酷い呼び方になってる気がする訳よ」

 呆れて溜め息を吐くと、超何言ってるんですか、と絹旗が更に抵抗をしてきた。
 曰く、映画館にとって寂れる事は一種のステータスで、さりとて手入れ不足ではなく飽く迄経年による隠せない劣化こそが歴史の重みとオーナーの映画という文化に対するリスペクトがうんぬんかんぬん……。

 熱く語りだした絹旗は普段の空気読める子モードの欠片も見せず、こちらが聞き流してようが耳を塞いでようがお構いなしに講釈を延々と垂れ流し続ける。
 関係ないがリスペクトって本来のニュアンスでは一目置くとかそっち系だった気がするんだけど……でも突っ込んだら多分火に油だろうなぁ。
そのまま延々と講釈を聞かされながら何だかんだで映画館の前まで付き合って絹旗とはそこで別れた。
 別れ際に『本当に超大丈夫ですか?』と再度聞かれたが、今度はすんなりと大丈夫だと返せた。
 動揺はしていなかったとは言わないが、表面上には一切出さなかった、と思う。
 絹旗も一応は納得して映画館へと消えてくれたし。
 全く、本当に空気の読める子だ。

「……っよし!」

 なけなしの気合を入れなおし、来た道を引き返す事とする。
 先ほど迷った挙句買うのを辞めた『今月のオススメ』を、やっぱり買う事にした。
 商品名は、”3周年アニバーサリーウサビット 復刻版”と題された、ウサギのぬいぐるみ。

 3年前、”元同僚”に買ってもらった物と同じ型。

 あの人が私にくれた、最後のプレゼント。

「死者の事ばかり思い出してたら、死者に足引っ張られるとかって、結局迷信な訳よ」

 今日はヤケにあの”元同僚”の事を思い出す。
 その事で勝手に嫌な予感を抱いていた自分こそ、間抜けな道化師そのものではないか。
 道化師なら自分から率先して道化てなんぼ。
 玉乗りだろうと火の輪くぐりだろうと何でもやってやれない事はない!
 ……多分。


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2-1.
 麦野 ~1~

 私が超能力者<レベル5>として正式に認定された時、学園都市に超能力者は五人だった。
 その時与えられた位階は、『第四位』。
 下から二番目だとか上に三人もいるだとか、そんな事はどうでも良く、何と言うか、その称号はストンと胸の中に納まった。
 その後、超能力者は四人になったり六人になったり五人に戻ったりして、現在七人という数字でしばらくの安定を保っている。
 私の位階はその度に『第三位』~『第五位』の辺りをふらふらし、最終的に元の『第四位』に戻った。
 思えば、『第四位』という称号は、私が産まれた時から約束された一つの安息の地なのかもしれない。

「人でなし」「化け物」「悪魔」「人の形をした災厄」

 標的を殺す時、邪魔者を消す時、様々な罵言を投げかけられた。
 それらは全て正解で、全て不正解だ。
 私は私。
 麦野沈利。
 『アイテム』のリーダー。
 そして、『第四位』の超能力者だ。

 四。よん。し。シ。死。

 『第四位』、これほど私にぴったりな称号もない。
 ねえ、貴方もそう思うでしょう?


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2-2
 フレンダ ~3~


「『スクール』?」

「そう。以前からマークしてた組織の一つね」

「超能力者(レベル5)がいるとかいう噂の超胡散臭い組織じゃないですか。超気が進みませんね」

「うえー、それは出来れば勘弁願いたい訳よ」

「信憑性イマイチの情報だけどね。それに、どこが相手だって関係ないでしょ。ドジれば簡単に死ぬのは同じなんだから」

「……zzz」

 昼下がり、いつのもファミレス。
 思い思いの食事を済ませつつ、下らない雑談で時間を潰した後、仕事の話へと移る。
 私達『アイテム』のいつもの段取りだ。

「それで? 結局そいつらをどうすればいい訳? 全員ぶち殺し?」

「焦らないで。そいつらが計画してるとある計画を阻止しろってのが今回の仕事よ」

「とある計画?」

「どんな計画ですか。超説明を要求します」

「簡単に言うと要人の暗殺計画ね」
 学園都市統括理事会の一人、親船最中。
 学園都市を束ねる理事会の中でも、平和主義・理想主義で知られる異質な存在。

 しかし、異質は異質だが、実質的な力はほとんど持ち合わせていない事も事実。
 理想は掲げているものの、平和主義の為、実質的な実行力がない。
 簡単に言えば、甘ちゃんの権力者。裏で美味い汁を吸う連中からすれば目障りだが、目障りなだけの存在。
 親船最中とは、陰では日和見主義とまで言われるくらいには、軽視されていた。

「で、そんな親船サンをどうして超暗殺しようって事になったんですかね?」

「分からないわ。ただ、軽視されているだけに警護なども甘く、本人も平和主義をお題目にしてる分、暴力方面の備えはヌルいってのも事実ね」

「つまり、狙う側の障害は超低いって事ですね」

「結局、世の中は油断した方が命取りって訳なのよ」

「得意げに言うけどね、フレンダの油断で失敗しかけた任務が幾つあると思ってるのよ」

「うぐっ! そ、それは……」

 うう、全く反論の余地なし……。言葉を詰まらせる私を見て、麦野が溜め息を吐く。

「まあ奴らの狙いが何であっても、任務はそれを阻止すればいいだけよ。簡単ではないけど難しいってほどでも無いわ」

「? 超どういう意味ですか?」

「なるほどね、そう言う事なら滝壺の出番って訳なのよ!」

 麦野がチラ、とこちらを見て「ご名答」、と笑みを浮かべる。

「……? わたし?」

「そうよ。さっき渡した資料にもある通り、奴らの暗殺計画の肝は狙撃手よ。つまりは……」

 麦野が笑みを凄惨に深め、舌なめずりをする。

「皆殺しなんて面倒な事しなくても、ソイツさえ殺っちゃえばOKなのよ」

 

 

 

 

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2-3
 心理定規 ~1~


「目的地までの経路周辺に注意人物の存在確認できず。通常警戒体勢を継続します」

「ん、了解」

 無愛想な同僚の言葉に適当な答えを返しながら、ネイルの手入れを続ける。
 そのまま同僚は助手席に座る下部組織の男とこまめに情報を交換、別働の下っ端へ指示を飛ばしているようだ。
 彼女との移動は、こういった慌しさを我慢しなくてはならない事を除けば、勝手に安全を確保してくれるので、楽と言えば楽だな、などと思いつつ、満足な出来に仕上がった左手のネイルをのんびり眺めた。

――
『空間把握(スキャングラフ)』

 全く、便利な能力もあったものだと思う。
 透視能力(クレアボイヤンス)の派生系との事だが、視神経が感知出来る視覚情報以外に触覚情報をも取り込み、演算処理する事で視覚だけでは捉えきれない空間情報を異常なほど詳細に感知出来る能力。
 弱点は、学園都市に通常配備されている対透視能力素材の影響を余分に受ける事と、取得できる情報から必要な情報の取捨選択は、あくまで本人の判断能力に依存する事、だろうか。

 とはいえ、下部組織を利用した偵察や情報処理のサポートさえあれば、その能力の有用性は文句なしと言えるだろう。
 そして、何より本人のその能力と併用されるとある”銃器”を扱う技術を思えば、戦力としての価値は跳ね上がる。
 すなわち、空間把握――彼女の役割は、『狙撃手』である。

(もっとも、その特技の性質上、それこそ暗部(こちら側)でしか価値は評価されにくいとも言えるけどね)

 例えば警備員を目指せば、彼女の能力を振るう機会も得られるだろうが、それとて滅多に起こりうる事は無い。
 それに、彼女はその力を……一方的に殺戮するという行為をこの上なく愛していた。
 こうして、暗部に堕ちて来るのも当然と言える位には狂っているのだ。

(まあ、私も人の事言えた義理じゃないんだけど)
 ネイルの手入れを終え、ふと窓の外に目をやると、三人連れの少女がアイスを食べながらじゃれあっているのが目に入る。
 金髪に帽子、ニット生地のワンピース、ピンクのジャージと不揃いなファッションに身を包む少女達は、その格好の不揃いさとは裏腹に、一緒に居るのが当然かのように映った。

(なんというか、友達というより、姉妹……? いや、そこまでは行かない、かな)

 能力を使えばその”心の距離”も計れたろうが、走行中の車内から、且つ離れた距離への使用は範疇外だ。

(それに、必要以外の時に”覗く”のも”弄る”のも趣味じゃないのよね)

 ポーチから鏡を取り出し、髪の手入れを始めると、彼女が振り返り声を掛けてきた。

「心理定規、あと五分程度で到着します。準備怠りないようお願いします」

「はいはい、今終わったわよ」

 おざなりに返事をし、鏡とブラシをポーチに仕舞う。
 ふと窓の外に目をやると、先ほどの三人組が遠くに見えた。その内の一人、ピンクジャージの少女と目が合う。
「…………?」

 微かな違和感と、肌の表面をなぞるような奇妙な感覚を覚えた。
 思わず少女の顔を見直すと、既に視線は外れ、供の少女に穏やかに微笑みかけている姿が目に入る。

(…………まさかね)

「どうしました、心理定規?」

「…………。いえ、なんでもないわ」

 カモフラージュされているとはいえ繁華街でのワンボックスカーは少々目立つ。少女と目が合ったのも偶然だろうと気にしない事にした。
 この世界、無警戒なのも寿命を縮めるが、神経質なのもまた同様。細かい事にいちいち気を払ってられるほどの余裕もないのだ。

 そう思いつつも、先ほどの少女の目を思い出すと背筋に冷たい物を感じずには居られない。

(まあ、何とかなるでしょうけどね)

 それでも余裕を崩さないのは、自身の能力のせいではなく、自らの立ち回りと作り出した状況があるからだ。
 それは、能力だけでなく、元々備わっていた技術というべきか。生来、人との距離や関係性を適度な”距離”に調整する事を得意としている。

(他の誰が死のうとも、私だけは生き残る。そういう物なのよ)

 思わず浮かびかける笑みをさりげなく殺し、忙しなく動き回る同僚を眺める。

(そう、この臆病者どもがどうなろうと、知ったこっちゃない。私は上手くやって見せるわ)


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2-4
 other ~2~


「滝壺、どう?」

「……うん、大丈夫。4人分、記憶したよ」

「超お疲れ様です。情報通りですね」

「じゃ、後は例の場所へ移動って訳ね。体調は大丈夫?」

「平気だよ。短時間の使用だし」

「じゃあ早速麦野に超報告しますね。超お待ち下さい」

 姦しくアイスの食べ比べをしながら、表情とはちぐはぐな会話を交わし、少女達の一人が携帯を取り出した。

「あ、麦野ですか? はい、無事終わりました。はい――」

「ここまでは順調だね。とはいえ、結局、問題は次な訳なんだけど」

「私、がんばるよ」

 携帯で連絡を始めた少女をよそに、残り二人の少女が会話を続ける。

「結局、安全確実な方法となるとどうしても滝壺頼りになる訳よ。まあ、私らも頑張ってなるべく負担減らすからね」

「ありがと、ふれんだ。でも心配しないで」

「や、心配っていうか……まあ、いっか」

 金髪の少女が困ったように頬を掻く。
「ふれんだ」

「なに?」

「ふれんだ、前に言ってくれたよね。『他にも居場所が出来たらいいのにね』って」

「……言ったっけ?」

 コクリ、とピンクジャージの少女、滝壺がいつになく力強く頷いた。その真剣な目線に、思わずたじろぐ金髪の少女、フレンダ。

「その時ふれんだにそう言われて、思ったの。『アイテム』という居場所にしがみつくんじゃなくって、もっと前向きに生きてみようって。
 ううん、実際はそんなに大袈裟な事は考えてない。ただ、大切にしようって思った」

 いつになく饒舌に語る滝壺に、フレンダは思わずドキリとした。

「『アイテム』じゃなくって、そこにいる大好きな仲間を。
 むぎのを、きぬはたを、そしてふれんだ。貴方の事を」

「滝壺……」

「だからね、ふれんだ」

 無表情な顔に微かな笑みを浮かべながら、滝壺が言う。


「私は、そんなふれんだをいつでも応援してるよ」

「はぅ……っ!」


ズキューン、という謎の擬音がフレンダの脳裏を突き抜けた。



(ヤバイ、滝壺可愛い。麦野一筋の私が全力で揺れ動いてしまうくらいに……!)

 それだけ、その滝壺らしい、純粋で無垢でどこか弱々しい微笑みは高威力だった。フレンダが持ってる指向性爆薬でもここまでの威力はないのではないか。ほーほえーみのばくぅぅーだん! とかいう良くわからないフレーズが思い出されたけど今は関係ない。

「? ふれんだ、どうしたの?」

「や、な、なんでもない訳よ! うん!」

 あはは、と誤魔化すように笑いながらも、フレンダは背中にだらだらと大量の汗が流れるのを感じた。
 と、そこに携帯での連絡を終えたニットワンピースの少女、絹旗が割り込む。

「終わりました。予定通り例の場所で30分後、だそうです」

「あ、そ、そう? ばっちりしゃっきりくっきり了解って訳よ!」

 思わず裏返る声に、フレンダは自らの背中に流れる汗が倍増するのを感じる。
 ドツボという奴だ。
「……ふれんだ?」

「なんですかその超変なテンション。超大丈夫ですか?」

「うんうん、全然大丈夫! あはははは!」

 内心、ヤバイ、全然誤魔化せてないー! と思いつつフレンダが笑い声を上げる。そんな彼女のおかしな様子に頭を捻る他二名だったが、フレンダが勝手にテンパる事などいつもの事か、と顔を見合わせてスルー決定。引き続き普通の少女のフリをしつつ繁華街を歩き始めた。

 日頃の行いが悪い事が功を奏するレアなケースである。

「それより、滝壺さんの超チョコミント、もう一口貰っても超いいですか?」

「うん、いいよ。はい」

「あ、じゃあ私は絹旗のキャラメルリボンを一口食べたい訳よ!」

「えー。超嫌です」

「なんでっ!? 酷くない今の!?」

「大丈夫、そんなハブられるフレンダを私は応援してる」

「ハブられてるの!? そう断定される方が心にグサッと来る訳なんだけど!」


 きゃいきゃいと騒ぎながら少女達が繁華街の喧騒へと消えて行く。
 その姿を見て、闇の世界の、その深く深くに染まりきった住人であると分かる者はいない。
 眩しい光に慣れた目が、暗闇では何も見通せないのと同じように。

 

 

 

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3-1 フレンダ ~4~


 麦野がただの恐怖の対象から恋慕の対象に変わったのはいつの頃からだろう。

 任務を忠実にこなした時に頭撫でて貰った時?
 麦野お気に入りのシャケ弁を一口分けてもらった時?
 絹旗の誘いで皆で映画を見て一緒に大爆笑した時?
 滝壺が熟睡しちゃって起こすのが可哀想だからってアジトまで背負って運ぶのを見た時?

 どれも違うようで、どれも合っている気がする。


――結局、いつ好きになったとかは、どうでもいい訳だ。

 麦野の肌。通った鼻筋。細い顎。切れ長で、でも笑う時細めると愛嬌のある目。しなやかな指先。手入れを欠かさない爪。
 いつも濡れたように光る唇。きゅっとくびれた足首。ふわふわの髪の毛。長い睫毛。ぷにぷにほっぺた。鎖骨。うなじ。谷間。二の腕。脇の下。腰。ふくらはぎ。膝裏。おヘソ。背中。耳裏。太もも。おっぱい。お尻。そしてそして――

 何より、本気でブチ切れた時の、あの冷たいゾッとするような空気。

 私はレズじゃない。けど麦野が相手だと話は別。
 私はマゾじゃない。けど麦野が相手だと話は別。
 麦野が相手なら、オールオーケー。なんでもバッチ来いって訳よ。

 でも、麦野は私自身になんか興味ないんだろうな。『アイテム』なんて、麦野の露払いで、チェスの駒みたいな物で。役に立たなくなったらすぐにポイされちゃう。
 そう思うと目の前が真っ暗になって頭がクラクラして来ちゃう。悲しくなって涙がジワリと滲み出てきそう。それもまたゾクゾクして堪んない感覚。癖になりそう……。


 私は麦野が好き。麦野のいる『アイテム』が好き。麦野のいるココが好き。
 麦野と一緒に居たい。麦野に褒められたい。麦野の役に立ちたい。たまに麦野の足を引っ張って叱られたい。

 でも、お仕置きはもうちょっと軽めがいいな。


 

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3-2 other ~3~


「で、首尾の程はどんなもん?」

「ばっちり4人分記憶完了、って訳よ。ね、滝壺?」

「うん、強めの能力者2人と、多分無能力者が2人。全部覚えたよ」

「OK。じゃあ、次の段階に移るわよ」

 滝壺達の返答に満足そうに頷き、麦野は優雅な微笑を浮かべた。

 

滝壺の能力は『能力追跡(AIMストーカー)』。対象の能力者のAIM拡散力場を記憶し、記憶した人物は例え地球の裏側であろうと彼女の能力により位置情報を寸分違わず捉えられる。
 気付かれる事無く強制的に発信機を付けられるような物だ。

 ただ、能力使用の為に『体晶』と呼ばれる薬物を使用する必要があり、使用には本人の身体に大きな負担を強いる事が難点。
 しかしながら、使用制限があるとは言え、その能力の有用性は、彼女が『大能力者(レベル4)』であるにも関わらず、リーダーであり、『超能力者(レベル5)』である麦野沈利を差し置いて、『アイテム』の核と呼ばれる事からも明らかである。
 今回の作戦でも当然その滝壺の能力が肝となった。

 裏ルートより『スクール』の構成員の移動ルートを入手。
 構成員の内、”狙撃手”と思われる人物の移動ルートを絞込み、ルートの内、一区画を丸ごと無人化。代わりに『アイテム』の下部組織から人員を徴集し、一般人として配置。
 後は滝壺を含む『アイテム』メンバーを通行人として配置して”目標”が通り過ぎるのを見計らい、車内の人物のAIM拡散力場を記憶した。
 遮蔽物越しの記憶となる為、人物とAIM拡散力場の紐付けが曖昧となるのがネックだが、それを一区画内全て『アイテム』の息の掛かった人物のみとする事により確実化。
 かくして、相手に認知されずこちら側だけ相手の位置情報を得られるという圧倒的な優位を手にしたのだ。

 その後、記憶した4人の動向を追い、狙撃手を特定する事にも成功。
 後は”隙”を見つけ出し、手早く”消す”のみである。


   

「で、問題はいつそれを実行するかなんだけど……」

「ここの所『スクール』の連中は超毎日何らかの動きを見せてますね。例の計画があるから当然でしょうけど」

「結局、『スクール』の実態がおぼろげにしか掴めてない以上、今私たちが持っている優位を最大限に活かすにはもう少し情報が必要って訳ね!」

「まあそう言う事。でも悠長に構えてる時間も無いから、情報の集まりが悪かったらすっぱり諦めて強硬策に出ざるを得ないけどね」

 『スクール』は暗部では特に要注意と目される組織である。
 麦野達『アイテム』が、学園都市統括理事会を含めた学園都市上層部や暗部組織の監視や暴走の阻止という役割を与えられているのに対し、『スクール』には明確な役割はなく、主に暗部に存在する他組織の手に余ると判断された時の加勢・代行や、担当組織の手が塞がっている時の代行を担当している。

 一見して、補欠的役割のようだが、これはつまり”暗部内に存在する他のどの組織よりも有能でどの組織の役割に対しても実行能力がある”という見方も出来る。

 実際、その実績は決して軽いものではなく、その分『アイテム』に取っても最もマークすべき組織としてリストアップされている。それゆえ構成員の情報はおぼろげにだが『アイテム』に伝わっている。
 回りくどい手続きを取ってでも”狙撃手”一人をターゲットとして動くのは、勿論計り知れない『スクール』との真っ向対決を避ける意味合いもあるが、『スクール』という組織が学園都市上層部に取って重要な位置づけをされているのもあっての事だ。

  「ま、たとえそんな事態になっても、結局麦野が居れば楽勝って訳よ」

「……麦野には失礼ですが、超そうとは限らないんじゃないでしょうか」

「そうね、絹旗の言うとおりよ。『スクール』がその程度の相手なら今頃とっくに他の適当な暗部組織にぶっ潰されてるわよ」

「で、でも麦野が負けるわけ……」

「――フレンダ」

 麦野の声のトーンが低く響き、フレンダの身体を硬直させた。室内の温度が2~3度下がった錯覚をその場に麦野以外が感じる。

「そうやって、舐めてかかって何度痛い目見たか。もう一度しっかり思い出しなさい」

「う、うん……ごめん、麦野」

「分かればいいのよ」

 麦野が微笑んだ事で部屋の温度と威圧感が緩み、他3名は気付かれぬよう心の奥でほっと息をついた。

   「じゃ、本題に移るわね。まず明日からの動きについてだけど、まz――」

 麦野がぐっと言葉に力を込めるように言ったその時、バタン! と無粋な音を立てて扉が開いた。

「い、言われたとおり買って来た、ぞ……」ゼェゼェ

 扉が開くと共に上がり込んで来たのは『アイテム』の下っ端、浜面仕上その人である。


「はぁ、はぁ……麦野がシャケ弁、で、滝壺がカップ麺、絹旗がポテチ、んでフレンダが……ん? どうした呆けた顔して?」

 ごとごとと買い物袋からリクエスト品を並べ立てる浜面は、ふと自分へ向けられた4つの視線に気付き手を止めた。

「……なんだよ、その目? お、遅くなったのは悪かったけどよ。ほら、ちゃんとリクエスト通りの物全部買って来ただろ? あ、ほらフレンダの鯖缶はしっかり鯖カレー買って来たんだぞ? これさー、コンビニには無いからわざわざ2ブロック向こうのスーパーまで足を伸ばしてだな……って、オイなんだよ溜め息なんか吐いて? なんか俺おかしな事言ったか?」

 謎のプレッシャーに冷や汗をかきながらオロオロと言い訳じみた説明をしている浜面に、流石の麦野も毒気を抜かれて首を左右に振る。
 「いいからその臭い口塞いでとっととそのキモい面引っ込めな、浜面。あとこのシャケ弁シャケ小さ過ぎ」

「それはともかくこのポテチ超のりしお味じゃないですか。私は超うすしお味を希望した筈ですが。万一うすしおが無くてものりしおじゃ歯に超海苔が付いて超ウザいのでせめて超コンソメを買ってくるべきです」

「大丈夫、はまづら。私が注文したのはとんこつ系なのに味噌系を買って来るようなはまづらでも、私は応援してる」

「結局、私のリクエストだけ注文通りとかどういう訳? ひょっとして浜面はこのセクシー☆ラブリー☆フレンダちゃんにぞっこんって訳?」


 散々な言われように流石の元スキルアウト集団リーダーの目にも涙がにじむ。
 うわーん覚えてろー! と言いつつアジトを飛び出した浜面は、何故か律儀にもクレームのついた商品を全部買い直してきたのだが、その頃にはそのクレームがついた商品が綺麗さっぱり消費されており、「あ、もう満足したからそれいいわ。全部浜面が食べて?」とおざなりにあしらわれてまた泣く羽目になるのだった。

 

 ---
3-3 心理定規 ~2~


 暗殺作戦阻止の動きがある事には勘付いていた。
 具体的にどこがどう動いているかまでは分からない。が、表で裏で妨害の動きがあることは確かで、数日前には直接上層部から”中止せよ、さもなくば痛い目を見る事になる”との通達さえ来ている。
 当然、無視した。

 表立っての警告は以降も届くが、その時に比べると圧力を感じない。というか形だけの警告に過ぎないのだろう。
 つまり本命は裏での動き、直接的な妨害行動に移ったのだろう。

 そう判断し、『スクール』のリーダーである垣根帝督は主要メンバーの4人を2チームに分け、常にチーム単位で動くように指示を下した。
 チーム分け戦力バランスから垣根と心理定規、念動力使いと空間把握の組に分けられたのだが、2日で空間把握がクレームを出した事により、垣根と念動力使い、心理定規と空間把握という男同士・女同士のチームへ変更となった。

 なんでも、念動力使いが、男だったら女を体を張って守るべきだと誰かに吹き込まれ、色々と頑張ろうと空回りして空間把握に嫌われてしまったらしい。
 その誰かとは垣根の事なのだが。

「後であの男、しばき倒しておくべきかしらね」

 と、その時は100%冗談気分で下らない呟きを漏らしたものだったが。
 そのチーム変更が失策だった事に気付いた時にはクソ忌々しい『アイテム』の罠に嵌った後だった。

 

 ――――――――

――――

――

「……、」

 アジトの一つである寂れた安ホテルの玄関ホール前で、空間把握がふと足を止めた。
 構わず足を踏み出そうとすると左腕を伸ばし静止して来る。一瞬の目配せで意図を読み取り、周囲へを顔を巡らせた。

「外は問題なし、中に反応があります」

 短い言葉で告げる空間把握。脅威は中にしか存在しないという意味だろうか。彼女が言うのならかなりの信頼を置ける情報だが、それでも警戒を解く真似はしない。私にとって信用できるのは私自身の判断だけだから。

「少なくとも……1人。構造上他に潜めるとは思えませんが、何があるか分かりません」

「ふぅん。狙いは何かしらね?」

「不明です。中に居る下部組織の人員は……恐らく全滅。体の一部が吹き飛んだり焼け焦げた者が多いので、爆薬の類を使用する相手と推測されます」

「踏み込むのは止した方が良さそうね。即刻他へ回るべきじゃない?」

「……ですね。早速迎えの車を手配しましょう」

「あ、待って……」

 言うが否や、ヘッドセット型の通信端末を起動し空間把握が近くに待機中の車に指示を出す。状況からすると敵影を捉えている空間把握には最大限警戒をしてもらったまま、自分が連絡をした方が良かったが、思い立ったら即行動の彼女を止める事が出来ず。

「ま、いっか……」

「至急、ポイント165へ。何分で来れますか?」

『はいはーい、2分もあれば到着可能って訳よ!』

「事態は火急を要する。ふざけている暇があったらすぐ行動なさい」

『う、了解……。すぐに向かいま~す!』

「やれやれ……。まったく、教育のなってない輩も居たものです」

「……、……そうね」

              「それはともかく、中の不審人物はどう? 動きは無いの?」

 若干の違和感を覚えつつも、今は直面している危険を優先すべきと判断し、確認を促す。

「ご安心を。何やら奥の部屋でうろうろと不規則に歩き回っているようです。しきりに周囲を見回しているようですし、部屋を物色している段階ではないでしょうか」

「……そう。何か不審な動きをしたら知らせてね」

「心得てます」

 応え、ヘッドセットで下部組織とせわしなく通信を始める空間把握。車が到着するまでの周辺の安全確認を行っているようだ。
 アジト内部の人員は全滅してるので、近場の予備を呼び寄せ、バックアップに使うつもりのようだ。

(どこか他組織による、計画に対する警告……もしくは本気で潰しに来ているのか)


 ふと、携帯電話が鳴っている事に気付き、液晶画面に目をやる。『垣根帝督』の表示に眉をひそめつつ、空間把握へそれを示しつつ着信ボタンを押した。

「どうしたの、貴方が直接かけてくるなんて?」

「いや、そっちがやられてるって聞いてな。その様子だとまだお前はドンパチに巻き込まれて無いようだな」

「ええ、でもいつ巻き込まれるか分からないから、手短にね。貴方がかけてくるからには何か分かったのよね?」

「ああ。俺たちを狙ってる組織が特定出来た。『アイテム』だ」

「やっぱり」

「恐らく、そっちのもその『アイテム』の仕業だ。充分警戒しとけ、一筋縄じゃ行かない相手だぞ」

「了解、肝に銘じるわ」

 通話が切れるのを確認し、携帯をしまうと、得られた情報を空間把握と共有する。
 軽く頷きヘッドセットへ指示を出す彼女を眺めつつ、必要ないと思いつつ自らも周囲を見回し警戒。
 たとえ彼女の見える範囲に大きく劣る肉眼視であれ、気持ちの問題と言うのもあるのだ。

 

 暗部組織の情報は基本的に最高機密として扱われ、その存在が仄めかされた所で組織名も実態も掴めないのが普通だ。
 しかし、『スクール』とて、何の情報も集めず闇雲に反逆を企てているわけでもない。

 特に今回の一連の計画に置いて、当然差し向けられるであろう上層部からの妨害工作に関して言えばリスクを覚悟で徹底的に調べ上げた。
 それこそ自分の能力も存分に駆使した。
 その結果、得られた組織名が幾つか。

 その中でも『スクール』の計画に反応するであろう組織は『メンバー』と、『アイテム』。

 当然、両組織については特別調べ上げたが、どちらも『スクール』同様に少数精鋭で構成された組織である事、それと精々一部の名前、性別が分かった事くらいだ。
 名前が分かった所でそれを元に調べても出てくる情報は偽装されたもの程度、性別なんて分かった所で何の意味もない。
 『アイテム』の構成員が全員女だと分かったからといって、女だけの集まりなんて街のそこらじゅうに溢れていて女の集団を見ていちいち疑って掛かるのも馬鹿馬鹿しいではないか。


「妙ですね……」

「ん、何かあったの?」

 空間把握が小さく呟きを漏らし、こちらに視線をチラリと向けてきた。

「いえ……心なしか、建物内にいる男、どうにも素人臭いというか。こういう場に慣れてないというほどではないのですが、どうにも」

「つまり、何が言いたいのよ?」

「……あくまで私の考えなのですが。どうにも動きが洗練されてないというか……少なくとも、この建物内に詰めていた人員を全滅させるだけの実力を持っているようには思えません」

「他に潜んでいる気配は無い、と言ったわよね」

「それは間違いありません。先ほど予備の人員を使い周囲の情報も確認しましたが、区画内には危険と思われる人物や物はありませんでした」

 はっきりと断言するからには相当念入りに確認をしたのだろう。神経質気味の彼女が言うのだから信用に足りるとは思うが。

「建物内に人影は他に居ない、と言ったわね」

「はい。後は先ほども言ったように死体や瓦礫ばかりで、隅々まで目視しましたが人が隠れるスペースはありません」

「人以外は? 相手は爆薬使いなんでしょ? 人が入りそうに無い隙間でも爆薬なら仕込めるわよね?」

「……否定できません。一応その可能性も考えて確認しましたが、再確認します」

「悪いけど、お願いね」

 すっかり彼女の能力に頼りっきりだが、仕方ない。彼女と違い、自分の能力は対人に特化しており、今回のようなケースでは対処方が限られてくる。
 一応最低限銃火器の扱いには慣れているものの、能力者や戦闘のプロが溢れる暗部(ここ)では気休めに過ぎない。

(だからこその当初のチーム分けなんだけどなぁ……)

 恨めしげに空間把握を見やるも、意味のない事と分かっているのですぐに視線を周囲の警戒へと戻す。


(しかし、中にいる敵? らしき男は本命じゃない……のかな。そいつは囮役に過ぎなくて、実行犯は別に? だとしてもこのアジト到着の5分前までは異常なしの報告を受けていたのに。そうなると、その男が囮だという思い込みさえ罠……?)

 じっと目の前の地面を見つめている自分に気付く。
 思考に没頭すると視線を落としてしまう自分の悪癖だ。
 誰が悲しくて何の変哲のないマンホールの蓋と睨めっこをしなくてはならないのか、等とふざけた冗談を脳裏に巡らせていると、空間把握がこちらに声を掛けてきた。

「心理定規、爆薬らしきものを発見しました」

「詳細を」

「照合中です。が、小型の指向性爆薬の類と思われます。設置箇所は1階食堂奥、リビングの戸棚、2階用具室、第2客間、書庫、それと2階最奥にいる男が着ている上着の右ポケット。
 ……今データ照合出来ました。C233-HS-G型、有効範囲5メートル程度ですが、範囲内であれば最新型の対爆撃装甲であっても吹き飛ばす威力を持つ、精密破壊用の爆薬ですね。仕掛けられた位置も巧妙です」

「……中の男が仕掛けたの?」

「不明です。ただ、男のポケット内には8発の該当爆薬が収められています」

「……、建物から離れるべきかしら?」

「狙撃の可能性を考えると、この位置から動くのは得策ではないかと。それに、もう迎えの車が来ました」

 彼女の言葉が終わるか終わらないかの内に、曇りガラスのワンボックスカーが目の前に到着した。

「お待たせ~! ……じゃない、お待たせしました!」

(女の運転手? 珍しいわね……まあ関係ない、か――)

「時間通りですね。ではすぐに離れましょう」

 言って、空間把握が後部座席のドアに手を掛ける。と同時、運転席の女が素早く車を降りた。

(――待て、女? ……そういえば、『アイテム』のメンバーは、皆女性……)

 踊るように道路に着地した女が、深く被っていたキャップを外す。
 口元に、笑みを浮かべながら。

(待て、建物内の人物は男。……って、事はこっちが本命!?)

「待ちなさい、それに乗っては……!」

 目の前の彼女を止めようと叫ぶと同時、アジトから爆音が響いた。
 空間把握が驚愕の表情を浮かべ、慌てて車へ乗り込み、そして。

 女が優雅な仕草でキャップを脱ぎつつ、運転席のドアを勢い良く閉めた。その瞬間。



「……、ッ!!」


 咄嗟に伏せた体を、意識を、爆風が根こそぎ吹き飛ばした――

 数秒、或いは数分?
 消失していた意識を強引に取り戻す。視界の端に後部座席部分を丸ごと焼失したワンボックスカーが佇んでいた。
 そのワンボックスカーのフロントガラスに左手をつき、得意気な笑みで車内を覗き込む金髪の少女。

(……、気付いて、無い?)

 吹き飛ばされた方向が良かったのか、積み上がった瓦礫の影になり、向こうからこちらの姿は目に入りにくいようだ。
 体のあちこちが痛むが、幸いにも動かせない程ではない。
 少女から目を離さないまま、そっと姿勢を低く保ったまま身を起こす。爆発の余韻のせいで、多少の物音は聞かれる恐れは無いのも幸運と言えよう。
 一瞬、能力を目の前の少女相手に使う事も考えたが、痛みのせいか演算に集中できないしやめておく。

(1対1ならともかく……少なくともこの場にはもう1人いるしね)

 そろり、そろりと建物の外周に沿って裏を目指す。中途半端な姿勢のまま動かなくてはならない為、痛む体が辛い。

(全く気付く様子は無いようね……っていうかあの金髪、どっかで見た気がするわ。なんかムカつく顔付きしてるし)

 どこか記憶の端っこに引っ掛かったまま出てこないが、そもそも今それを悠長に思い出してる場面ではない。

(とにかくこの場を逃れてからね。大丈夫よ、私は生き残れる。今までだってそうだった)

 念じるように心で呟き、一歩ずつ慎重に足を動かす。


(ほら、後3歩で届く。あの金髪は、まだ気付いて無……、……ッ!)

 もう少しで建物の影に逃げ込める、との思いが気の緩みを生み出したのだろうか、金髪にばかり意識が向いてたせいか。
 慎重に動かしてたつもりの足先に何かが触れる感覚。
 ギクリとして視線を向けると、積み上がった瓦礫の一部に足が触れ、大きくバランスを崩すのが見えて――

(――しまッ、……た!)

 まるでスローモーションのようにサッカーボール大の瓦礫が倒れるのを呆然と見送りそうになり、二重のミスに気付いて慌てて全力で駆け出そうとした足がもつれた。
 最悪の3ミス。流石にこれは諦めの気持ちが首をもたげた。

 瓦礫はゆっくりと崩れ落ち、遂に地面に触れて重く音を響かせ――


――ッゴォォゥン!!


「…………ッ!?」

 突如響き渡る爆発音に心臓が大きく跳ねた。見ると、建物2階の窓から濁った煙が吹き出ている。

(……新手? ……にしては、2階だし。垣根、のわけも無いし……)

 思考を巡らせつつも、金髪を見やるとビックリした顔で同じ煙を見上げていた。
 と、建物の中から男が飛び出し、再度ビビり顔を浮かべる少女。

(……、なんというか。下らないオチが付きそうな予感)

 そのまま呆然と見てると、一見して冴えないチンピラ顔の男がペコペコと頭を下げ、金髪が履いてたヒールでチンピラの頭を思い切りぶっ叩いた。
 痛みにのた打ち回るチンピラを金髪が何度も何度も踏み付けるのを見て、大きく溜め息を吐き出した。
 やっぱりというかなんというか……。

(ハハ、馬鹿らしい。ただの誤爆とは、ね……)

 脱力してへたり込みそうになる体に鞭を打ち、素早く建物の影に周り込む。
 人影は無いが、何が潜んでるか分からない薄暗い中を、しかし躊躇する事無く駆け出した。

(ほら見なさい、やっぱり私は生き残った)

 心の中で余裕を装うも、いつ路地から奴らの仲間が飛び出すか、不安でいっぱいだ。

 潜んでる敵を根こそぎあぶりだせる空間把握は居ない。偵察兼囮に使える下っ端を呼び出す余裕も無い。
 頼れるのはこの心理定規(チカラ)と懐の拳銃のみ。安全圏まではまだ遠い。

(屈辱よ。こんな屈辱は久々だわ)

 金髪とチンピラの会話の中、奴らの名前は覚えた。”フレンダ”という名前を深く刻み、心の中に暗い火をそっと灯す。


(『アイテム』の一人、フレンダ。良く覚えておいてあげる。
 貴方はこの私にどうしようもない屈辱を味あわせてくれたわね。


――――覚悟なさい?


 貴方にはむごたらしい、みじめで、孤独な死を与えてあげるわ。
 この、私が。『心理定規(メジャーハート)』が、直々に、ね……!)

 

 

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3-4 麦野 ~2~


『ハイハーイ、ってな訳で今回の撃破ボーナスは、このフレンダさんがゲットって訳よ!』

「あーはいはいおめでとさん」

『アッハッハッハッハ! もっと褒めてくれてもいい訳よ? 結局、この私にかかれば”狙撃手”なんて武器を構える余裕さえも与えずに木っ端微塵な……』

「んで? もう1人は?」

『は? もう1人?』

「……、……」

『……、えーと』

「んー、フレンダちゃ~ん? どうしたのかにゃ~ん?」

『え、その……に、逃がした、と思います。多分』

「多分?」

『……その、そ、そうそう! 浜面がね、アジトに仕掛けた爆薬を1つ誤爆させてね! 辺りが煙だらけになっちゃって、気付いたら、その逃げちゃってた訳よ!』

「ふーん、浜面がねぇ……」

『そうなのよ! あーもう、結局浜面の奴、ただの足手まといでしかない訳よ! なので私は全く悪く無――』

『おいこらフレンダてめぇ俺のせいにしやがったな! そもそもお前が”狙撃手”を仕留めた後に悠長に爆破跡を得意気に眺めてたのがいけないんだろうが! 俺は2階からそれを見てて、もう1人が逃げ出そうとしてるのを見つけたから慌てて知らせようとしたら間違えt』

『わー! コラ浜面勝手に大声で割り込むな! 麦野に聞こえたらどうする訳よ!?』

「うーん残念、丸聞こえだわフレンダ」

『……、……』

「そもそも今私アンタ達の割りと近くまで来てるし? 電話越しじゃなくてもそんな大声だったら全部聞こえちゃうんだけど」


『わ、わ、わ……私が悪かったのよ麦野ォ! ただ私は”狙撃手”を確実に仕留めようとちょこ~っと火薬の量を間違えちゃっただけで……! そしたら爆破の衝撃と煙が思ったよりも凄くて、その、つまり……』

「つまり何?」

『……ぶっちゃけ、自分もちょいと意識飛ばしちゃってました☆』

「ハイお仕置き決定ー」

『わああああんっ! 麦野、どうかご慈悲を! ご慈悲をおおおおおおッ!?』

「慈悲はなし。じゃあね~ん♪」

 しつこく電話の向こうでわめくのが鬱陶しかったので通話を切断する。
「わあああああんっ! お仕置きやだあああああっ! 助けて浜面あああああっ!!」

「てめえっ、さっき人の事生け贄にしようとしておいて泣き付こうだなんて虫がいいにも程があるぞコラァァッ!」

「うわああああああんっ! うわあああああああんっ!」

「ええいクソやかましいいいいいっ!」



「……通話切っても煩いわねぇ。回収するのやめようかしら」

 割りと本気でそう思いつつも、そうしたらそうしたで街中にやかましい小娘一人放置する事になり面倒くさい事になる。

「この分、お仕置き追加だからね、フレンダ」

 小さく呟く私に、絹旗と滝壺が胡乱な目を向けている気がしたが、全て無視。
 ともあれ、任務完了。次はどんなクソな依頼かしらね。


 とりあえず今は、足役の浜面のケツと蹴り飛ばし、フレンダにお灸を据えに行きましょうか――

 

 

――そして、その数日後。
 終わったと思った任務に追加情報が舞い込む。


 あのクソ『スクール』の連中が、代役の”狙撃手”を雇い、暗殺計画を実行に移したという、笑えない情報が。

 

 

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4-1 フレンダ ~5~

 ここは科学の頂点、学園都市の底の底にある、ゴミと血と膿と糞便の溜まる場所。
 様々な者の思惑が渦巻き、得体の知れない巨大な力にいつ押し潰されるか分からない、誰もが避けて通るべき場所。

 でも、そこが。そここそが今自分がいる場所であり。
 全てを失い、堕ちに堕ちた私にとって、僅かに残された大切なものがある場所で。
 そこが、私の何気ない日常を過ごす場所だ。

――『アイテム』
 学園都市の裏側。この街の、負の感情の吹き溜まりを糧にして、お情けで住まわせてもらっているような、そんなちっぽけな組織だけど。
 
 今の私の全ては、そこにある。そこにしかない。
 永遠には続かない、泥と血と死にまみれたこの学園都市の暗部という場所の片隅にある、私の、私達の居場所。
 今日もそのみすぼらしい、大海に漂う一枚の板切れのような場所にしがみついて、流されるように生きている。

 そこに、仲間が、麦野がいるから。
 今の私には、それしか、無いから。

 

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4-2 other ~3~


 第18学区、霧ヶ丘素粒子工学研究所。
 その施設の奥深く、薄暗いLED灯に照らされた無機質な通路を、二人の少年が息を潜めて歩いていた。

「妙だな」

 茶髪の少年、垣根帝督が漏らした呟きに、ヘッドギアの少年、念動力使い(テレキネシスト)が無言の眼差しを向ける。

「ん、ああ。想定したより警備が手薄なんだよ。確かにあの騒動を引き起こしたのはその為だが、それ以上に警備員が居ねぇ」

「となると……」

「多分、バレてるな」

 垣根の言葉に頷くと、念動力使いが腰の装置のスイッチを一つ切り替えた。
 少年の頭の周りをぐるっと一周するように囲んでいる土星の輪のようなヘッドギアからは数本のプラグが伸び、腰の装置へと繋がっている。それらは、能力は強力なものの、制御に難のある彼の出力調整の役割を担っている。
 今、少年はそのスイッチを通常モードから戦闘モードに切り替えた。その事により腰の機械から僅かに振動音が漏れ始める。施設へ潜入中の身では僅かな雑音もシャットアウトして置きたかったが、既にその潜入がバレているなら無意味だと判断したのだ。
通路はそのまま右に大きく折れ、しばらくして厳重な金庫にも似た大きな扉へと突き当たった。
 周囲の表示や電子ロック、認証機械や物理的な錠全てをチェックし、目的の物との完全一致を確認。
 予め用意した器具や入手した暗号、物理的な封印は一部能力も使い強引に突破する。
 その扉の向こうに更に何重もの封印(ゲート)が存在したが、それらも難なく通過すると、広いスペースへと出た。

 広大なスペースのあちこちに柱が立ち、その柱の間を繋ぐように作業用通路が走っている。
 奥には巨大な演算装置が幾つも並べ立てられ、柱で区切られた区画の幾つかには、機材が積まれていたり、実験用の装置が置かれていて、実際の見た目よりも更に広いスペースである事が伺える。

 そのスペースの一角、様々な計測器具やコードに繋がれ、サーバーラックを2~3台繋げたような巨大な装置が鎮座していた。
 それこそ彼ら『スクール』の目的である、『ピンセット』と呼ばれる装置だ。


「情報より一回り大きいな……こりゃ、大き目のワゴン持ってきて正解だったな」

「……これが通るだけの通路が無い」

「無けりゃ作りゃいい」


 軽口のような会話を交わしつつも、二人はスペースの入り口から一歩も動かず目の前を睨んでいた。
 そちらには目的の装置は無い。一人の少女が佇んでいるだけだ。

「……よお。『アイテム』のリーダーってのはお前だったのか、『原始崩し(メルトダウナー)』」

「気安く呼ぶんじゃねぇよ『未元物質(ダークマター)』。ケツの穴の横に新しい排泄口ブチ空けて欲しいのか?」

「はは、相変わらず口を開くと残念な美人だなお前は。少しはお淑やかになってりゃ可愛げもあるのに」

「テメェこそ相変わらず見てるだけでムカムカきやがるツラしやがって。今日こそ軽薄なそれを綺麗な火傷跡だらけにして少しは見れるようにしてやるからなぁ!」

「おいおい、いつもなら問答無用で原始崩し放ってくる癖に何無駄な口上垂れ流してやがる。もしかして第4位さんよ」

 垣根はククッ、と抑えきれない笑いを漏らし、言った。

「お前、怖くてビビッちゃってんのか? この、第2位の俺様の力にゃあ、かないっこねぇってなぁ!」


 垣根の言葉に少女が完全にブチ切れる。実質、それが開戦の合図となった。

「……ッ! 死ねこのクソ垣根ェ!!」

「ハッ! 図星突かれてあっさりキレてんじゃねぇぞ麦野ォ!!」



 全ての能力者達の頂点、超能力者(レベル5)同士の殺し合いが、始まる。

 化物同士の対決に巻き込まれまいと、慌てて念動力使いの少年は二人の近くからスペースの端を目指して走り出す。

「チョロチョロ逃げ回ってんじゃねぇぞ鼠がァッ!」

 その動きにいち早く反応した麦野が電子の光線を放ってきた。慌てて体を前に投げ出して回避。そのまま転がりつつ素早く立ち上がると目の前の壁に対して力を開放した。


――ぐしゃ


 拍子抜けするような音に反し、その一角の壁は大きくひしゃげ、崩れ去る。崩れた向こう側から大量のケーブルと鉄骨がぶら下がって視界を遮るが、それごと更に念動力で捻り潰し強引に道を切り開いていく。

(まず最優先されるのは、目的のブツの確保……)

 腰の装置のスイッチを更に3箇所切り替え、出力を最大近くまで上げると、スペースの一角にある『ピンセット』へ向け力を開放、こじ開けた穴の向こうへ放り込むように一気に持ち上げた。


「なるほど、それが超目的のブツですか」

「――ッ!」

 ブォン、と空気ごと切り裂くような蹴りが少年に襲い掛かる。が、少年の側頭部を狙ったそれはその10センチ程手前で見えない壁に引っ掛かるように止まり、即座に引き戻された。

「……念動力系ですか。超苦手なタイプです」

「引くなら、手を出さない」

 抑揚の無い声で呟く少年に、パーカー姿の少女、絹旗が気味悪げな視線を送る。こんな状況で何を言ってるんだ、とでも言いたげだ。
 もっとも、まさかこの少年が自分達のリーダーに言われた『女の子は大切に扱え』という助言を真に受けたままだとは流石に想像も付かないだろう。

「冗談言わないで下さい。そう超簡単に引き下がれるもんですか……と、言いたい所ですが」

「…………?」

「手札はこっちの方が揃ってますからね、安全策を取らせていただきます」


 言いながら少女が大きく跳び下がると同時――――金属が軋む大きな音と共に、頭上の鉄骨が幾つもの破片と化して崩れ落ちてきた。

「オラオラ『未元物質(ダークマター)』さんよォ! ガキの遊びじゃねぇんだぞ!?

 麦野の頭上から、右肩の横から、胸の前から、幾本もの青白い光線が迸り、超高速で垣根の脇や足元へと降り注ぐ。しかし学園都市第二位の超能力者は、それら全てを暖簾でも避けるかのような気軽さでのらりくらりとかわしていた。

「逃げ回ってるだけじゃなくてちったぁ根性見せやがれチ○ポ付いてんだろがァ!! それとも遊び過ぎてどっかの売女にでも食いちぎられたか、アァ!?」

「ほんっとお前って下品だよな。殺り合ってる時くらいもうちょい静かにしてくれりゃあいいのによ」

「うるッせぇんだよ似非ホスト野郎ォ! テメェ見てっとイライライライラして仕方ねぇんだ、お望み通り黙って欲しけりゃア、フラフラフラフラ避けてねぇで大人しく喰らっとけコラァァ!!」

「あっそ、じゃあそうしてやっかな」

「――ハァ?」

 途端にピタリ、と動きを止めた垣根に、原始崩しの光線が次々と命中する。

 そのまま垣根の顔や胸、脛を貫通すると思われた光線は、しかし垣根に当たる直前で僅かな白煙を残し、煙草を水につけたようなジュッという音と共に霧散した。


「な、ァ……ッ!?」

「お、いいねぇその顔。小汚い罵倒も止まったし、かなりそそる表情だぜ『原始崩し(メルトダウナー)』。彼女にしてやってもいいくらいだ」

「て、メェ……キメェ事言ってんじゃねぇぞ……!」

「ハハッ、自覚してる。で、まあ……そろそろ、こっちから行くぜ?」

 押し寄せるように見えない何かの重圧を肌に感じ取り、思わず麦野が大きく跳び退った、直後。鈍く重い音が響き、先ほどまで麦野が立っていた床が大きくひしゃげる。

(なん、だこれは……!)

「オイオイ、お前も少しは知ってるだろ、俺の能力?」

「……チッ、不可視の超重量気体でも作ったのかよ?」

「正解。単純だけど厄介だろ、これ。射程の調整が難しいんだけどよ」

 垣根の背中から3対の翼のようなものが生え、ゆらゆらと蜃気楼のように揺らめいている。
 彼の能力、『未元物質』を一定以上の強度で使用する時、その象徴とも言うべき翼が出現する事を麦野は知っていた。

 しかしながら、彼の能力の大まかな内容以外、その出力限界や持続時間・弱点等の細かい情報はほとんど知らない。
 麦野にとって、垣根は既知の相手だが、未知の脅威なのだ。

(こっちの攻撃はどうやって防いでるのか知らねぇが……)

 開いた右手に青白い光の塊を漂わせ、慎重に隙を狙う――フリをして両肩口から白い光線が3本ずつ放たれる。

(……効かないなら、効かないなりにやらせて頂くまでよォッ!!)


「無駄だよ、『それ』の解析は終わっている」

 垣根の上半身を集中して狙ったそれらは、先ほどと同じく白煙とともに消え去った――直後、垣根の足元に極太の光線が突き刺さる。

「……ッ! っと、こりゃまた子供騙……、ぐっ!」

 垣根の意識が足元に逸れたその刹那、その側頭部を麦野のハイキックが襲った。
 間一髪でガードをするが、その時には麦野の手のひらで渦巻く青白い光が垣根の顔面に迫っていた。

「――それも、無駄だッ!」

 翼を打ち振るうように動かし、垣根が上半身を仰け反らせると同時、麦野の右手から放たれた光線は翼の一枚によって受け止められる。
 そのまま残りの翼が麦野の体を左右から襲うが、白光線を放ち翼の動きを食い止めつつ、大きく跳び退る事で難を逃れた。

「ひゅー、おっかねえなぁ。お前、肉弾戦もイケるクチなのね」

「そっちこそヒョロ男の風体で反応いいじゃねぇか。そのクソ忌々しいメルヘン羽根がなきゃ膝の2~3発は入れられたのによォ」

「おー、怖い怖い。どうやら余裕かましてる場合じゃ無さそうだな。こっちにゃ時間制限があるんだしよ」

「警備員や私設警備の連中がいつ嗅ぎ付けるか分からねぇもんなぁ」

「お? そっちからは連絡してねぇの?」

「冗談、自分の手で始末してなんぼだろ?」

「アハハハ! それで返り討ちにあってりゃ世話ねえよ、なぁッ!!」

 再び不可視の超重量気体を放つと、垣根が翼を広げて大きく跳躍した。
 光線を放つ事で放たれた気体を打ち払う、と同時に近くの柱の影に転がり込む。

(クソッ、見かけだけじゃなく、飛べやがるのかよ! クソのように厄介だなメルヘンがァッ!)

 心で毒づきつつ、麦野は上着のポケットから板状のツールを取り出し、一枚を頭上に放り投げる。
 その板に向けて光線を放つと、三角形に細かく分割された窓が光線を分割し、広範囲へと分散した光の帯が上空の垣根に襲い掛かった。

――『拡散支援半導体(シリコンバーン)』。

 麦野の能力、原始崩しでの光線攻撃はどうしても直線状になるので、その弱点を補強するツールだ。

 麦野は更に3枚程それを放り投げると、光線を乱射する。
 視界を青白い光が覆い尽くし、広い部屋の壁や天井には次々と穴が穿たれていった。


「オイオイ、ド派手にやってくれんじゃねぇの。ここの施設まるごとぶっ壊す気か?」

 壁や天井が崩れる音に紛れ、軽薄な声が聞こえてくるが、無視して光線の弾幕を放ち続けた。
 これだけの光線を放ち続けているにも関わらず、垣根には傷一つ付けられない、そんな気もする。
 が、今はそれでもいい。
 麦野はそう思ってまた板状のツールをポケットから取り出し、放り投げた。


「おい『原始崩し』。まさかと思うが」

 無視。放り投げた『拡散支援半導体』に向けて


 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・  ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
「この程度で足止め出来るとか、思ってないよな?」


 思わず光線を放つ演算を止めた。
 カラン、と空しく乾いた音が響くと同時、膨大な暴風が吹き荒れ、凄まじい音が麦野の耳朶を叩く――

 念動力使いの少年は、一瞬の躊躇をした。
 自身の能力の一部は巨大な装置を運ぶのに使用し、残りは襲撃者への迎撃に割いていて余裕が無い中、巨大な瓦礫と化した鉄の塊が無数に降り注いできたのだ。

 慌てて迎撃用の能力を頭上の瓦礫に向けようとした時、先ほど跳び退った少女が、視界の端で大きく前傾姿勢になるのが目に入る。
 少女の体はまるで限界まで引き絞られた弓の弦のようで、次の瞬間には少年の懐までその拳を届かせるだろう。
 それだけに、彼の一瞬の躊躇は致命的な隙となった。

 その少女の足が大きく床を蹴った時、少年は、死ぬ。

 そして、その時は、今――




「――伏せろッ!!」


「ッ!!」


 少年はその声に瞬時に反応し、ほとんど倒れこむように地に伏せた。
 その刹那、巨大な質量を持った空気が吹き荒れ、鉄骨と、少年に向かって放たれた少女の体を薙ぎ払った。


「……う、ぐッ!!」

 それは地に伏せた少年にも少なからずの衝撃を与えたが、咄嗟に念動力をバリア状に展開した為、なんとか吹き飛ばされずに耐え切る。

「よお、悪ぃ。ちょっと加減を間違えた」

「いや、助かった。感謝する」

「そんなんはいいよ。それより、おあつらえ向きに大穴が空いたからさっさと目的のブツを運び出せ」

「了解した」

 見回すと、垣根が放った気体により大きく吹き飛ばされたパーカー少女と、先ほどまで大量のビームを撒き散らしていた女が別々の離れた位置で倒れ伏していた。
 とはいえ、意識はあるようで、それぞれが既に起き上がろうと動き出している。

 念動力使いは能力を全開にし、『ピンセット』と自らの体を崩れた天井の一部へと引き上げた。
 その間垣根は少女と女へ牽制の攻撃を放ち、また相手の攻撃をいなして念動力使いを援護する。

 おかげで攻撃の余波を受ける事もなく、まずは装置を外へ運び出す事に成功。
 続いて自らも天井近くの通路――の残骸に両手を掛けた。

首を巡らせると外の様子が一部目に入る。
 丁度、下部組織の人員が手際よくステーションワゴンを乗り付け、先に運び出した装置を運び込もうとしていた。
 ほっ、と心の中で一息つき、通路に掛けた手で体を引き上げ、足を付く。

 能力を限界近くまで連続使用し、少年は体と脳に多少のダルさを覚えていた。
 少しでも緩和しようと腰の装置に手を伸ばし、スイッチを2つほど切り替え。






――ぽとり、と念動力使いの足元に何かが落ちてきた。

 それは、この凄惨な光景には酷く不釣合いな、愛らしい犬のぬいぐるみで。


「……?」


 彼がそのぬいぐるみに視線を落とすと、それが大量の光と共に膨れ上がるのが目に入り、そして――――爆音が弾けた。

 大量の光と共に膨れ上がる爆発の熱を、咄嗟に能力で作り上げた壁で防ぎきる。
 が、その衝撃までは全て殺しきれず、後ろに大きく吹き飛ばされるのを感じた。

 直後に襲い来る浮遊感。
 高さ凡そ20メートルからの自由落下。

 慌てて腰の装置に手を回し、スイッチを全て全開。
 落下の勢いを念動力で受け止めようと能力を起動し、しかし全てを殺しきる前に少年の背中を強い衝撃が襲った。


「ゲホッ! ……ぐ、ぐぐ……が、は……ッ!」

 身をよじり、転がる少年の体は、すぐに何かに突き当たって止まった。
 フラ付く頭を振りつつ、それにすがって何とか起き上がろうとする。

 手に当たったものは、予想と違って弾力と温かみを持っていて、その感触に思わず顔を上げると。



「……おや。飛んで火に入る、何とやらだなオイ」


 超能力者、麦野沈利が冷たい笑みを浮かべ、少年のゴーグルを両手で掴んだ。

「いやっほーう! 結局、油断するからまんまとフレンダ様の罠にかかるって訳よ! ふふ~ん♪」

 麦野達が戦闘していた部屋とは大きく離れた建物の影で、フレンダは小型端末に表示された監視カメラの映像を注視していた。
 その端末を操作する度、画面には複数表示された映像が次々と切り替わり、また遠隔操作で各種トラップが起動する。

 麦野と絹旗が迎撃、フレンダが遠隔でトラップを操作し支援。
 滝壺は更に安全な場所で待機し、『スクール』所属の能力者のAIM拡散力場を記録、状況に応じて無線でサポート。
 これこそ、彼女達『アイテム』の総力をあげた、万全の迎撃体制だ。


 そして今、『スクール』の能力者の一人、怪しい土星の輪っかのようなヘッドギアを着けた念動能力者を撃破に成功。
 フレンダが上機嫌に鼻歌を歌うのも無理は無い。

「ねえねえ麦野ー、今のはナイスBOMB! だったわよねー? ボーナスある? ある?」

 ……実際に撃破(ブチコロ)したのは麦野だが、そのナイスアシストをした自分にも相応のボーナスが入るだろう、等と楽観的に思い、フレンダは無線に向かって嬉々として声を張り上げる。

 が、返ってきたのはお褒めの言葉とは程遠い、怒声だった。

「ッザケんなフレンダ! 向こうさんにまんまと目的のブツ持ってかれてんぞ! さっさと妨害に移りやがれェッ!!」

「は、ハヒィッ!? りょ、了解しましたァッ!」

 ビックゥ!! と全身を硬直させつつ、フレンダは慌てて映像を切り替える。
 すると、今まさに巨大装置を積み込まれんとされている一台のステーションワゴンの映像が映った。

「おっとぉ、ここなら確かポイントD-08とE-112の仕掛けの有効範囲ねー。よーし、ポチっとな!」

 フレンダの操作と共に、ぷしゅるると煙を上げてロケット弾が数発。
 それから数秒遅れてステーションワゴンの下方から細長い火柱が上がる――筈だった。


「……んお?」

 しかし、ロケット弾はワゴンに向かうどころか明後日の方向に飛び去り空中で爆発。
 火柱にいたってはうんともすんとも言わず、代わりにひょろ長い白煙がぷしゅるると僅かに吹き上がるのみだった。

「あれー? 不発? でも両方ともだなんてそんな馬鹿な……」

 ぽちぽちと端末を弄るも反応はなし。
 仕方ないので近場の他の仕掛けを弄ってみるも、遠隔で動かせる固定銃座も、広範囲を巻き込むぬいぐるみに仕込んだ爆薬も、虎の子の対戦車ミサイル弾さえ不発に終わった。

「ぐ、ぐぬぬ……。け、結局こうなったらこのフレンダ様が直接やらざるを得ないわね……!」

 パタン、と端末をたたむと、スカートの中や懐、帽子の中から各種ツールを取り出し、少女が移動を開始した。

――――――――
――――
――


「う、やば。もうほとんど積み込み終わってる訳よ……!」

 ようやく目標のワゴンが目に入った時、装置の積み込み作業は8割方終わっていた。
 相当運び難そうな装置だが、数人掛かりで何とか持ち上げているらしい。

「い、急がなきゃ……また麦野にお仕置き喰らっちゃう……」

 隠密と迅速、両立求められる難しい事態だが、文句も言ってられない。
 前回、『スクール』の構成員をもう一人始末するチャンスを不意にしたし、ここで取り返さないと今度はどれだけの仕打ちが待っている事か。

「でも、焦らず、慎重に……。結局、焦りが失敗を産むんだし」

 姿勢を低くして移動しつつ、呼吸を深く深く沈める。常に周りに意識を配り、隠れている相手が居ないかをチェック。
 問題ない事を確認したら、後はワゴン周辺からは死角となる位置を確保しつつ近付くのみだ。

 このペースならば後20秒ほどで射程範囲に入る。
 そうすれば、手持ちのツールでワゴン一つくらい木っ端微塵に――



 バサリ、と。背後に何かが降り立った。

「よお、ようやく姿を現したか、爆弾娘(ボマー)ちゃんよ」

 掛けられた声に、フレンダの全身から大量の汗が流れるのを感じ、慌てて手持ちの炸薬を瞬間で8発投げ付ける。

「無駄だよ、その手の爆発物が全部無意味になるように、この辺りを俺の『未元物質』で弄っちまってる。諦めな」

 炸薬はその人物に触れる前に砂のように結合力を失い霧散。
 灰色の煙が視界を覆い、そのシルエットを隠した。

「……『アイテム』ってな、女だらけの組織とは聞いてたけどよ。子供(ガキ)ばかりじゃねぇか。女の子仲良しグループみたいなもんなんか?」

 寒くも無いのにやたらぶるぶると体が震える。それを押さえ込みつつ、フレンダは煙が晴れるまで目の前の人影を凝視し続ける。

 そしてそこには、背中からやたら巨大な翼を生やした、軽薄なメルヘン野郎――垣根帝督が、立っていた。

「初めまして、フレンダちゃん。『スクール』のリーダーやってるもんだ」

 軽薄な顔に軽薄な笑みを浮かべながら、つかつかとそいつは歩み寄ってきた。

「こっちも1人やられてるからな。これでおアイコって事になるかね?」

「わ、私、を……」

「ん?」

 フレンダが震える声を搾り出すと、メルヘン野郎、垣根は歩みを止めた。

「私を……殺す、訳?」

「さあね。どうしようかなぁ~、うん?」

 垣根が笑みを深くして、翼の一枚をバサリと伸ばし、フレンダの頬を撫で上げた。

「……、ヒッ!?」

「まあ、それはお前さん次第、だな……」

 ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべ、学園都市第二位の超能力者が、少女を見下ろす。

「なあ、言ってる意味、分かるよな――お嬢ちゃん?」


 フレンダは、ただ震えることしか出来なかった。

                                                            つづく

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