佐天「あ、あの!お名前をっ!」上条「名乗る程の者じゃないよ」③


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―――――土曜日、13:50―――――

 

「うわ、早いな!」

上条さんがやって来た。

私服を着ているので、何だか新鮮だ。

うん、やっぱり格好いい!

「遅いですよ~。女の子を待たせるなんて、デリカシーに欠けます!」

お昼の二時、セブンスミストの前に集合。

昨日の夜、メールで取り決めた内容。

映画は夕方の部なので、それまで上条さんに買い物に付き合って貰う事にしていた。

「10分前に来とけば問題ないと思ったのに……お前いつからここにいたんだ?」

「あはは、どうでもいいじゃないですかそんな事~」

まあ、上条さんが私を待たせないためには、あと50分は早く来る必要があったんだけどね。

ずっと座ってたから腰が痛い……

「それじゃ、そろそろ行きましょ!時間は待ってくれませんよ!」

上条さんの手を取って走り出す。

「そうだな。お、おい、引っ張るなよ」

こうして、私達の初めてのデートは始まった。

 

………………………………

「わぁ~、あれ、可愛くないですか?」

小さな熊のぬいぐるみを指差す私。

「どれだ?……あのぬいぐるみか?うん……うん、そうだよな。女の子って普通、ああいうのが好きなんだよな。カエルとかないよな」

何故か突然上条さんが頷きだした。

「?……どうしたんですか?カエル?」

「いや、知り合いにな、カエルに妙な執着を持ってる奴がいるんだよ」

良く分からないけど、知り合いの女の子の趣味のことかな?

「上条さん!」

私は、ちょっと怒った声を出す。

「は、はい?」

上条さんがビックリしてこっちを見てくる。

「デート中に、他の女の子の話題を出すのは御法度ですよ?」

私は人差し指だけ伸ばした手を前に出し、片目を瞑ってそう言った。

「あ、す、すまん。……ていうか、え?これってデートなのか?」

今度は私がビックリする番だった。

「デートじゃなかったら何なんですか!?」

「いや、薄々感付いてはいたんだけど……」

まったく、これだから上条さんは。

「もう。あ、今度はあっち行ってみましょう!」

「わ、だから引っ張るなって!」

女友達と来るときと違って、ずっとドキドキしてる。

上条さんが隣に居るのを見る度に、にやけが止まらなくなる。

あぁ、やっぱり私、上条さんのことが好きなんだな~、と再確認した。

 

………………………………

「ふぅ~、沢山買っちゃいました!」

楽しい時間はあっという間に過ぎ去ってしまうもので、時刻は既に四時をまわっている。

「上条さんはもうヘトヘトですよ」

上条さんは肩をぐるぐる回しながら向かいの席に座った。

荷物全部持って貰っちゃったし、ちょっと酷使しすぎたかも。

私達は今、映画館前の喫茶店に休憩がてら立ち寄っている。

紅茶を飲みながら一服していると、ふいに上条さんが、あ、そうだ、と言って、袋をガサガサと探り出した。

「ほら、これ」

「え、これって……」

目の前にポンッ、と置かれたのは、私が可愛いと言っていた、熊のぬいぐるみだった。

私は一瞬何のことか分からずに、それと上条さんの間に目線をさまよわせる。

すると、上条さんが照れ臭そうに、

「お前それ、可愛いって言ってただろ?だからまぁ、何というか、プレゼントだ。いや、いらないならいいんだけど」

と、言った。

「ほ、本当ですか!?すっっごく嬉しいです!!私、一生の宝物にしますね!」

思わず私は人目もはばからず、小躍りを始めていた。

そしてこの時、私の頭の中は完全に上条さん一色に、染まってしまった。

大好き!上条さん!

この気持はもう、抑えきれそうもない。

(絶対に今日、告白しよう)

私は再び、そう決意した。

そして、丁度良い時間になったのを見計らい、私達は映画館へと向かった。

 

―――――映画館―――――

「わぁ、夕方なのに、人、一杯いますね」

「そうだな、結構有名な映画らしいし、仕方ないんじゃないか?」

「チケットあって良かったです」

空いている席に座って、映画が始まるのを待っていると、前の席に私と同い年くらいの娘と、上条さんより少し年上くらいの男性がやって来た。

「何で私がA級映画なんて超見なくちゃならないんですか!私はC級映画を超見に来たんですよ!?」

「だからお前はもっと素晴らしい映画を見るべきなんだよ!C級映画ばっか見て笑ってるからそんなひねくれた性格になるんだ!」

「超うっさいです!」

「おぐっ」

うわぁ、女の子のパンチが男の人のお腹にめり込んだ。

何だかケンカしてるみたい。

もう少し静かにして欲しいなぁ。

前の二人のケンカを眺めている内に、映画の予告が始まった。

上条さん、この映画を選んだ意味、分かってくれるかな。

前の二人は、映画が始まったらずっと静かにしていた。

どうやらマナーはきちんと守るみたいだ。

 

 

――――――――――――

映画が終わって、私達は映画館を出た。

思った以上に感動出来る内容で、まわりの殆どの人が涙している。

かく言う私も、涙を堪えるので精一杯だ。

上条さんも興奮気味に、感動した所、良かった所をしきりに列挙していた。

でも、肝心の部分には気付かなかったみたい。

途中まで、私達と同じなんだよ?

まぁ、もう分かってるんだけどね。

上条さんには、ちゃんと口で言わなきゃ伝わらない、って事。



帰り道で、全部話そう。



何で私がこの映画を選んだのかを。

何で私があなたと一緒に見たかったのかを。

そして、こんなにもあなたのことが好きなんだ、ってこと。

 

 

 

 

 

 

でも、それは叶わなかった。

 

 

 

 

 

 

後ろから聞こえて来た言葉に、頭が真っ白になってしまったから。

彼女に悪気があった訳ではないだろうけれど。

私にはそれが、

「まったく、超つまんなかったです。どうせあいつら超すぐに別れますよ」

上条さんと私の事を言われているように、聞こえたから。

気付いたら私は、後ろの娘に怒鳴っていた。


「そんなことない!!」


って。

端から見たら、たかが映画に熱くなってる痛い奴に見えただろうけど。


私にはその言葉が、許せなかったから。


上条さんとの出会いを、否定されたように感じたから。


見ず知らずの娘は、ビックリしてこちらを見ている。

「ご、ごめんなさい」

私はそう言って、当てもなく走り出した。


何故だか涙が、とめどなく溢れ出してきた。

 

 

――――――――――――

デートだと気付いたのは途中からだったけど、デートは概ね成功したと言える。


噴水の前に座っていた、大人っぽく着飾った佐天の姿を見てドキッとして。


十分前に来たというのに、デリカシーがないと言われ。


他の女の子の話をしてしまい、怒られたりもして。


可愛いと言っていたぬいぐるみを買ってあげたら、凄く喜んでくれて。


映画を見て、凄く感動した。


そう、概ね、である。

 

………………………………

余りにいきなりの出来事に、俺は完全に呆けていた。

突然、佐天が後ろの娘を怒鳴りつけて、今にも泣き出しそうな顔で走り去ってしまったからだ。

訳も分からず、俺は立ち尽くしていた。

後ろの娘はビックリしながら俺に謝っている。

「な、何かわかんないですけど、超、すいません」

いや、俺にも何が何だか分からない。

二人してオロオロしていると、女の子の隣の男が話しかけてきた。

「なぁ、あの娘の怒り方、尋常じゃなかったぞ?何か映画に思い入れでもあったのか?」


映画に?いや、そんな話は聞いた事がない。


「じゃあ、さっきのやつの内容、とか?」


内容?


確か不良に絡まれた女の子と、それを助けた男の子の話。


「なぁ、お前らが出会ったのって、もしかして……」

俺と佐天の出会い?


ファミレスでの自己紹介?


いや、違う。


その前に…………っっっ!!!


そこに思い至った瞬間、俺は佐天を追って走り出していた。



俺は、バカだ。
全てが繋がった。


土御門の言葉。


佐天がこの映画を選んだ理由。


佐天が俺と来たがっていた理由。


佐天が怒った理由。

そして、疑問が確信へと変わっていく。


しきりに俺に彼女がいるか聞いてきた。


何故?


毎朝、毎晩、メールを送って来た。


何故?


わざわざ学校まで、俺を迎えに来た。


何故?


それはつまり。


「佐天は……俺の事が」


気付いたら、笑ってしまうほど簡単な事だった。


というより、何故今まで気付かなかったのか。

 

やっと全てを理解した俺の中で、彼女への思いがどんどん膨らんで行く。


「佐天」


彼女の事が、とても愛しく思えた。


「佐天!」


ぬいぐるみを渡した時のあの屈託のない笑顔が、また見たいと思った。


「佐天っ!!どこだ!?」


もう彼女の姿は見えない。


だけど、今もまだどこかで泣いているであろう彼女の事を考えると、俺には足を止めることなど出来るはずもなかった。

――――――――――――

「……超、悪いことしちゃいました」

「まったくだ。目当ての物が見えなかったからって」

「超反省してますって……」

「嫌味は俺だけに聞こえるように言えよな」

「……超うるさいです、バカ面。元はと言えば、バカ面が、こっちを、見ようとか、超、言い出さ、なければ、こんな、ことには、超、ならなかった、んですっ」

「俺のせいかよ!?」

「……あー、……ハァ、ほら、涙拭け」

「じりまぜん」

 

 

………………………………

公園のベンチで、ぬいぐるみを抱えて丸くなっている佐天を見つけたのは、それから30分後の事だ。

既に俺の足はパンパンになっており、もはや気力だけで走り続けていた。

荒く息をし、足を引き摺りながら近付いていく俺。

佐天はその音に気付いたのか、ピク、と体を動かし、顔を上げる。

その顔は、泣き腫らしてグシャグシャになっていた。

俺を見据え、力無くニコ、と笑い、震える口で、話しかけてくる。

 


「ごめんなさい、ぬいぐるみ、ぐちゃぐちゃになっちゃいました」




そんなもの、また幾らでも買ってやる。




「あはは、私、気持ち悪いですよね。只の映画にあんなに熱くなっちゃって」




そんなこと、思うはずがない。


もう俺には全部、分かっているから。




「せっかくのデートだったのに、私、台無しにしちゃってっ……でも、私っ、悔しくて、悲しくてっ……うぅ……」




だから、もう、泣かないでくれ。

気付いたら俺は、佐天を抱きしめていた。


「わああああああん」


俺の胸で、佐天はまた、大声で泣き出す。


その華奢な体は、夜の風に吹かれ、冷たくなっていた。


その体を暖めるように、優しく、優しく、抱きしめる。




彼女の全てを包み込むように、優しく。

 

 

――――――――――――

彼女が泣き出してからどれくらいたっただろうか。

ようやく落ち着いた佐天の隣に、俺は腰かけた。

「ごめんな、気付いてやれなくて」

「ううん、上条さんは、悪くないです」

いや、どう考えてもまったく気付かなかった俺が悪いと思うんだが。

「だって上条さんって、そういう人ですもん」

何だと?

ニカ、と笑いこちらを振り向く佐天。

うん、いつもの佐天に戻って来た。


元気で、年下のくせに憎たらしくて、だけど可愛い、俺の好きな女の子に。



あはははは、と二人の笑い声が夜の公園にこだまする。

………………………………

「もう、遅くなっちゃいましたね」

時刻は既に、八時をまわっていた。

「そろそろ、帰りましょうか。私、何だか疲れちゃった」

まだ赤みの残る瞳を擦りながら、佐天は言った。

「そうだな、……家まで送ってくよ」

「大丈夫です。私、そこのアパートに住んでるんで」

「それでも、だ」


そう言って、上条と佐天は立ち上がる。


そして、どちらからともなく手を繋いだ。




二人とも、決してこの人を離すまい、と、心に誓いながら。

 

――――――――――――

「それじゃ、おやすみなさい」

玄関に着いた所で私は、ぱっ、と手を離し、言った。

これ以上手を繋いでたら、ずっと一緒にいたくなっちゃいそうだったから。

「ああ、おやすみ……っと、そうだ。これ」

上条さんが取り出したのは、最近オープンした遊園地のチケットだった。

 


「今日の映画は佐天に誘って貰ったし、そのお返しってことで」

二枚のうちの一枚を、私に差し出してくる。


私に少しだけ、イタズラ心が芽生えた。


「私なんかとより、友達と行った方が楽しいんじゃないですか?」


フフッ、と私は笑う。


上条さんは、一瞬呆気に取られたような顔をしたけれど、



「お前と一緒に、行きたいんだ」



って、言ってくれた。

こうして、上条さんと私の心がグッと近付いた初めてのデートは、笑顔と共に、幕を閉じたのだった。

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