第一学区。
あれから一夜明け、行政機関の集まる第一学区に到着した。
スネーク「高層ビルが多いな…」
オタコン「学園都市の政治を行う統括理事会の多くはここで生活しているからね」
結局、どんな場所でも権力者は同じという事か。
市民感情を意図的に揺さぶっている訳ではない。
無意識に配下の人間を見下しているだけだ。
スネーク「で、メタルギアの開発に彼らが噛んでいると?」
オタコン「多分ね。新型兵器の開発みたいな大きなプロジェクトを動かせるのは彼らぐらいだろう」
スネーク「で、メタルギアの開発に彼らが噛んでいると?」
オタコン「多分ね。新型兵器の開発みたいな大きなプロジェクトを動かせるのは彼らぐらいだろう」
スネーク「だが、十二人の内誰を調査すればいいんだ?手探りで探すのは危険だぞ」
オタコン「心配はいらない。統括理事会の中でも兵器開発を中心に行うメンバーがいる。潮岸と呼ばれる人物だ」
スネーク「そいつをとっ捕まえて情報を聞き出せばいいのか?」
オタコン「いや、彼は年中パワードスーツを着込んでいる。それに、人一倍警戒心が強いらしいから、おそらく遭遇することも出来ないだろう」
RPGで敵のボスと普通にエンカウントする事はない。
勇者は敵の親玉を倒す為に、洞窟や魔王の城へ乗り込む。
決して自分のことを勇者といっている訳ではないが。
スネーク「要するに、縄張りに忍び込めということか…」
オタコン「彼の縄張りはドーム型のシェルターになっている。軍事機密の塊のような場所さ」
スネーク「随分気楽に言ってくれるな…そんな場所にどうやって潜入するんだ?」
オタコン「この街は能力者達の街だ。セキュリティも大部分を対能力者用に割いているだろう」
大能力者や超能力者の力は、銃や爆発物といった『普通の戦力』に匹敵、またはそれらを凌駕する。
学園都市で一番恐ろしいのは、そういった能力者による襲撃だ。
スネーク「そのセキュリティこそが俺達にとってのセキュリティ・ホールだと?」
オタコン「その通り。コーデックに地図を送信した。一年振りのスニーキング・ミッションだけど気を抜かないようにね」
スネーク「どんなに気を配っても自信が無いんだが…」
オタコン「おや、この街の技術に怯えているのかい?『不可能を可能にする男』が?」
嘲笑うような色を含んだ声でそう言われた。
そう言われると少しムッと来る。
スネーク「そういう訳ではない。…必ず、メタルギアの情報を手に入れる」
オタコン「そう来なくちゃ、スネーク」
この男は自分では認めようとしないが、挑発に乗りやすい。
その性格のせいで、四年後には素性の知れない男からウイルスを注入されてしまうのだが。
コンビナートに似たような形の、ドーム型のシェルターが建ち並んでいる。
そこが『安泰』を求める軍需部門担当、潮岸の根城だった。
陰に身を潜めながら警備兵の動きを確認していたスネークだったが、
オタコン「…何かおかしい」
スネーク「どうした?」
オタコン「予想よりも警備兵が少ない…?警備ロボットが代わりに配置されているみたいだ」
見立てで、比率は八対二ぐらい。
スネーク「少し厄介だな…」
ロボットの感覚器官は人間のそれとは比べられない。
言葉の通じない人工知能は、CQBで組み伏せる前にスネークを通報するだろう。
警備兵が少ないといっても、一人で捌ききれる量ではない。
だが、オタコンはこう告げる。
オタコン「いや、逆に好都合だ。エリアの監視をロボットに丸投げしている可能性は低い。少人数で警備をローテーションしているようだ」
スネーク「ロボットを無効化すれば警戒網を抜けられると?」
オタコン「その通り。多分その警備ロボットの動力はあの鉄塔から出ている電磁波だ。それを破壊、もしくは停止させればロボットの活動を停止できるかもしれない」
スネーク「あのタワーの警備は二人と監視カメラが一台・・・随分手薄だな」
オタコン「潜入できるかい?」
スネーク「フン・・・軽く、ウォーミングアップといこうか」
***
潮岸の本拠地は、先日の「グループ」の襲撃で警備を全滅させられている。(厳密に言うと内部からの崩壊だが)
今は、残り少ない警備兵と間に合わせの警備ロボットが巡回しているだけだ。
とはいっても彼らに見つかってしまえば、他の場所から応援が来るかもしれないが。
要するに、全体的に警備が手薄なのだ。
警備兵A「しっかし呑気なものだな。つい先日襲撃を受けたばかりだと聞いたが…」
警備兵B「その襲撃のダメージがデカ過ぎたのさ。シェルターは半壊し、警備兵は皆殺しされた」
警備兵A「だったら尚更、警備を強化しないといけないんじゃ?」
警備兵B「大方、この要塞を護るエリートの選抜中ってとこなんだろ。もう数日したらいかつい駆動鎧の連中がゾロゾロやってくるぜ」
警備兵A「笑えないジョークだな。俺達はお役御免って訳かよ…」
***
そんな後ろ向きな話題を、スネークは数m離れて聞いていた。
スネーク(まず警備兵を片付けるか…物音を立てて一人ずつおびき寄せよう)
上を見上げると、荷物を移動させる大きなクレーンがあった。
「先日の襲撃」の余波か、コンテナを吊り下げるための電磁石を支えるロープが今にも千切れそうだ。
スネーク(とんだ御都合主義だな)
懐のホルスターから麻酔銃を引き抜き、かろうじて電磁石を支えているロープを撃ち抜く。
ゴドン!と思ったよりも大きな音が地面を通して響いた。
***
警備兵A・B「!!!」
襲撃を受けたと思い銃を構えるが、そうではなかったようだ。
警備兵B「…何があったのか見てきてくれないか」
警備兵A「…分かった」
念のため銃の安全装置を外して音源の方向へ進む。
すぐ近くまでたどり着き、銃を構えて角を回り込んだ。
だが不審者めいた人物はおらず、何があったか示すように鉄の塊みたいな物が落ちていた。
無線に手を伸ばし、待機しているもう一人に報告する。
警備兵A「クレーンの先の電磁石が落下しただけのようだ。配置に戻る」
安堵したような溜息を吐いたあと、了解。と返事が来た。無線をしまって帰ろうとしたが、
突然抱えていたライフルを後ろから掴まれた。
照準機が喉に食い込み叫び声すらあげることも出来ない。
どこに隠れていたのか。何者なのか。
その答えを頭が導き出す前に、目の前が真っ暗になった。
***
警備兵が抵抗を止めたのを確認して、スネークは手を放した。
スネーク「一丁あがりだ」
呼吸は荒いが、脈はある。
まだ死んでないのを確認して、その辺りに放り投げておいた。
もう一人を片付けるのは簡単だ。
監視カメラの死角まで移動したのを見計らって眠らせてあげた。
スネーク(後はカメラか…)
一定のタイミングで回転するカメラの死角を見つけるのも、スネークにとっては簡単なことだった。
鉄塔内に潜入し、カメラの位置に気を配りながら最上階を目指す。
百数段の階段を上って、最上階にたどり着いた。
スネーク(急ごしらえとは思えないな、この鉄塔)
スネーク「オタコン、最上階の管制ルームにたどり着いた」
オタコン「流石だね。そのパネルの近くに外部機器入力用のジャックがあるはずだ。そこにコーデックのコネクタを差し込んでくれ」
ヘッドホンのコードの様にコネクタを引き出し、ジャックに接続する。
しばらくして、部屋の中のカメラが一斉に動きを止めた。
スネーク「? カメラが動きを止めたぞ」
オタコン「警備ロボットと監視カメラをリンクさせてたのかな。とにかくロボットと監視カメラは停止させた。急いで潜入してくれ。スネーク」
何人かの警備兵が異常を察知して鉄塔へ向かって行ったが、上手く身を隠しながら本拠地へと忍び込んだ。
多くのカメラやトラップも停止していて、簡単に多くの情報が収められているコンピュータールームに侵入することができた。
スネーク「心配した程ではなかったな」
これが普段の警備体制なら、敷地に入り込んだ時点で警報が鳴り響き、蜂の巣にされるか、警備員に連行されていただろう。
そうならなかったのはスネーク自身の実力もあったが、やはり大きいのは『グループ』による襲撃のせいだ。
しかし、次の施設も都合良く襲撃されているはずはない。
スネーク(今回たまたま運が良かっただけ、か)
自分自身に言い聞かせるように、口の中でその言葉を反芻する。
どんなに熟練しても己の実力を過信してはいけない。
過去の任務で思い知らされていた。
ザンジバーランドでキオ・マルフを失った時、
自分の目の前でグレイ・フォックスを踏み潰された時、
オタコンの義妹エマ・エメリッヒを守れなかった時。
もしも、自分が完璧だったら、
本当に『伝説の傭兵』だったら、
『不可能を可能にする男』だったなら。
あんな悲劇は必要無かった。
オタコン「…ネーク、スネーク!」
守るべき友人の声を聞いて我に還る。
スネーク「…すまない。少し考え事をしていた」
ここで感傷的になる必要はない。
まず目の前にある任務を片付けることに決めた。
オタコン「学園都市のメタルギアの情報が判明した」
オタコンの説明によると、
学園都市で開発されているメタルギアはオタコンの開発したREXのアップデート版である事、
例のレールガンは核弾頭のみならず、BC兵器からクラスター爆弾まで、多様な弾頭を射出可能である事、
REXの様なレーダーだけでなく、カメラからソナーまで多数の感覚器官を備えている事、
歩兵が携行可能な対戦車兵器に対するアクティブ防御システムが搭載されている事。
はぁ、と呆れたように溜息をつく音が聞こえた。
オタコン「まったく、可愛げのない兵器だ。兵器は弱点があるからいいというのに…」
スネーク「しかし、学園都市の連中はこれを何に使うつもりなんだ?」
オタコン「大方、戦争の切り札ってとこじゃないかな。憲法九条の存在も無視出来ないはずだけどね」
スネーク「待った。…戦争だと?」
オタコン「あれ、知らなかったのかい?学園都市とロシアで近々戦争が起こるかもしれないって話」
スネーク「そういえば聞いた事あるな。連中、ロシアに核弾頭を本気で撃ち込むつもりなのか?日本が世紀末になっても構わないのか」
現在世界に存在する何万もの核弾頭があれば、地球を二度破壊できると言われる。
ロシアの戦略核を持ってすれば、日本は核の炎で包まれるだろう。
オタコン「牽制のためかも知れないが…弾道ミサイルを全て撃墜する自信があるのかもね」
そんなことが出来るものなのか。
スネークは一抹の不安を感じたが、それを止めるために活動している。
スネーク「どちらにせよ、俺のする事は変わらない」
オタコン「ああ。もうこれ以上の情報はここには無さそうだ。足がつく前に移動しよう」
スネーク「分かった。次は第十一学区にでも向かうか…」
オタコン「物資の搬入が多い学区だね。搬入リストを参照すれば何か分かるかもしれないな」
スネーク「だが、今日はもう遅い。あの少年の寮に帰るとするか」
スネーク「…留守のようだ。」
オタコン「どこかで夜遊びでもしているのかな。鍵は開いているのかい?」
スネーク「いや、オートロックされているようだ。…仕方ない、窓から入るか」
オタコン「…まるで泥棒だな。警報装置は鳴らさない気をつけてくれ」
寮の裏にまわって、他人のベランダを足掛かりに、パイプをよじ登って音を立てずに部屋に入ることができた。
スネーク(玄関から入って来れなくても、窓の鍵が開いていては意味がないな)
部屋にはあの少年はいなかった。
昨日は無かった「コタツ」とその上にーーーー書き置きがあった。
「急用が出来たので数日間家を開けます。部屋は自由に使っていいですが、食料は自分で調達して下さい。by上条」
スネーク「あの少年の置き手紙のようだ。数日間家を開けるらしい」
オタコン「食料は用意して来た携帯食料を食べてくれ。マズイかもしれないが、コンビニで顔を晒すのは危険かもしれない」
スネーク「分かっているさ」
***
その頃の上条当麻(幻想殺し)
上条「熱膨張って知ってるか?」