ーーー春休み、ある日の午後ーーー
上条「んんー......いい天気だなあぁ.......」
黒髪のツンツン頭の少年、上条当麻は久し振りに補修の無い一日を近所の公園で過ごしていた。
上条「大の高校生が昼間から公園でぼんやりとは痛々しいですなー。しかも一人とか笑えないっす......」
別に上条に友達が居ないわけでは無い。単純にお金がないのだ。
彼の家に居候していた暴食シスターは現在イギリスに里帰り中である。
しかし、常に不幸である上条のお財布事情がそこまで楽なわけでも無く、結果として遊びに行けず、ぼんやり休日を過ごしているのである。
公園の前の人通りを眺める上条の目に見知った顔が写り込んだ。
上条「あれ?御坂妹、何してんだ?」
そこに居たのは、学園都市が誇る7人のレベル5の第三位、超電磁砲こと御坂美琴の体細胞クローンである妹達の一人、検体番号10032号こと御坂妹であった。
上条「おおーい!御坂妹ー!」
御坂妹「!?ああ、丁度良かったです。とミサカは思わぬ遭遇に感謝いたします」
と、上条に気がついた御坂妹は、彼に歩みよりながらそう言った。
上条「感謝?まだ上条さんは君に何もしていないのですが?」
御坂妹「今から私が感謝することをしてもらいたいのです。」
上条「なーんか不幸の予間がするのですが……乗りかかった船だ、上条さんにできる事ならなんでも言いなさい!!」
御坂妹「それでは遠慮無く。今日から一週間ほどミサカをあなたの家に置いて欲しいのですが。とミサカはお願いを述べます」
一瞬、御坂妹の言葉の意味がよく理解できず、聞き返す。
上条「置いて欲しいって……要するに泊めろってことですか?」
御坂妹「ええ、そういうことになりますね」
上条の思考が停止寸前まで追い込まれる。しかし、残った部位をフル稼働させ御坂妹に質問を返す。
上条「え、えーとですね……ちょっと確認しても良いですかね?なんで上条さんの家に泊めて欲しいのでせうか?」
御坂妹「実は、ミサカが普段生活しているリアルゲコ太病院が改築することになりまして、ミサカの居場所が無くなってしまったのです。とミサカは理由を説明致します。」
寝耳に水の話だったが、一々話をぶった切らないように注意をしながら、上条は会話を進める。
上条「改築って、患者さんは?」
御坂妹「患者さんは、一旦別の病院に行ってもらい、改築が終わったら戻って来てもらうことになっています」
上条「へえ、でもあの病院お前以外にも後二人妹達いただろ?そいつらはどうすんだ?」
御坂妹「10039号と19090号なら調整の為に別の研究施設に行っていて、来週まで戻って来ません。とミサカはあなたの質問に答えます」
上条の頭に、何故お前は残ってるんだ、という疑問が浮かんだが、体調などの問題だろうと一人で納得する。
上条「それで、一人病院に残ってしまったお前は行き場がないので、上条さんの家に泊めて欲しいと」
御坂妹「そういうことです。とミサカは一連の説明を終えてスッキリした顔で言います」
上条「うーん、そういうことなら泊めてあげましょう。女の子が居候するのは上条さん慣れてますから」
御坂妹「ほほう、慣れているとはどういうことか聞かせてくれませんか?とミサカはドスの聞いた声で説明を要求します。」
上条「いっ、いやぁインデックスで慣れてるって意味だからさ......そんなに疑いの目線を上条さんに向けないでください......」
ー上条宅ー
上条「ただいまーっっと......誰もいないけど」
御坂妹「お邪魔します。とミサカは脱いだ靴を揃えてあなたの部屋に上がり込みます」
二人は先ほどの公園から上条の家に移動していた。
御坂妹「へえ、キチンと片付いていますね。と少々驚きの声を漏らします」
彼女の言うとおり、一人暮らしの男子学生の部屋にしては十分な程に整理整頓された部屋だ。
上条「まあ、上条さんの家事スキルはそこいらの男とは段違いですからねー」
と胸を張り、続ける
上条「んで、御坂妹にはベッドで寝てもらおうと思うんだけど、いいよな?」
部屋のすみに一つだけ置いてあるベッドを見た途端、御坂妹の頭の中にイケナイ妄想が駆け巡るーー
御坂妹(ベベベベベベッド一つしか無いじゃないですか!! もしかして一緒に......そんな事になったらミサは、ミサカはぁ......)
上条「ん?どうした?おーい、御坂妹ー!」
御坂妹「はっ!申し訳ありません、少しぼーっとしていました。とミサカは謝罪します」
上条「もしかして布団の方が良かったりするか?」
御坂妹「い、いえそういう訳ではないのですが......もしミサカがベッドに寝たら、あなたは一体どこで寝るのですか?とミサカは気になる事を聞いてみます」
上条「まあ上条さんは風呂場に布団もってって寝ますかね」
御坂妹「そうですか......そんなにミサカと同じ空間で寝たく無いのですね......とミサカは落胆します」
上条「いえいえ、そんなことは全く無くてですね......なんか間違いがあったらどうしようかなーなんて......ははっ......」
御坂妹「あなたならそんなことはしないとミサカは信じています。とミサカは自信を持って断言します」
上条「そ、そうか......なら上条さんは布団で寝ますからね」
御坂妹「わかって頂けた様でなによりです。」
御坂妹(というか間違っても別にミサカは......)
上条「ん?御坂妹なんか言ったか?」
御坂妹「な、なんでもありませんよ、とミサカは否定の言葉を口にします」
上条「んー?ならいいや。おっともうこんな時間ですね。御坂妹お腹すいたろ?飯作るからちょっと待ってろよ」
上条はそう言って立ち上がり、キッチンへと歩いて行く。いわれてみて初めて自分が空腹であることに気がついた御坂妹が壁にかかっている時計を見ると、既に七時近い時間である。
御坂妹「ミサカも何かお手伝いしましょうか?」
上条「いやー、特に無いや。それより御坂妹なんか苦手なもんあるか?」
そうキッチンから顔だけ出してたずねる
御坂妹「いえ、特にありません。とミサカは自分の好みを報告します」
上条「そっかー、分かったー」
そういうとまた、上条の顔がキッチンへと戻って行った。
御坂妹(別にミサカはあなたの作ったものならなんでも美味しくいただけます......もちろん、あなただって......キャー)
そんなことをやっているうちに、出来上がった料理を持って上条がキッチンから帰還した
上条「今日は御坂妹が来て初日なので、奮発して生姜焼き定食にしてみたんだけど、どうだ? 」
御坂妹「とても美味しそうです。とミサカは率直な感想を述べます」
上条「おうおう、ありがとうな。そんじゃあ食べるか」
上条・御坂妹「いただきます」
御坂妹「美味しいですねこれ」
上条「ありがとな。そういえばまともに料理の感想もらったのは御坂妹が初めてだな」
御坂妹「っえ?!」
上条「いや、インデックスは食えればいい派の人だから、感想とかあんまり言わなかったんだよな」
御坂妹「そ、それは光栄です。とミサカは照れてみます。えへへっ......」
上条(ぐはっ‼ なんだ...これは...御坂妹可愛い......さっきはあんな事言ったけど、俺の理性耐えられるかなぁ......)
そんなこんなで夕飯も終わりーー
上条・御坂妹「ごちそうさまでした」
上条「さて、上条さんは洗い物をするので、御坂妹は先に風呂入ってくれ。もうじき汲めるだろうから」
御坂妹「それでは、一番風呂いただきます。とミサカは浴室へ向かいます」
そう言い置いて、御坂妹は浴室に向かった。
上条「さぁーてちゃっちゃと洗い物しますかねー」
上条のキッチンでの死闘が始まる......
ーー浴室ーー
御坂妹「ふぅ、いいお湯です。とミサカは丁度いい湯加減にうっとりとします」
御坂妹「しかし、今夜はあの人と二人っきりですか......」
御坂妹の脳裏に今キッチンで洗い物をしているであろう少年の顔が浮かぶ
御坂妹「寝てる間に、きっ、既成事実でも作っておけば......」
上条「おーい御坂妹」
御坂妹「はっ!はひっ!!」
突然浴室の扉越しに上条の声が聞こえてきた
上条「着替え、俺のやつだけどここに置いとくから」
御坂妹「はい、ありがとうございます。とミサカは感謝の意を述べます」
上条「おーう。のぼせんなよー」
そう言って上条の気配が遠のいて行った
御坂妹「さっきの独り言......もしや聞かれたかもしれないですね......とミサカは胸中の不安を吐露します」
そしてーー
御坂妹「いいお湯でした。とミサカはあなたに報告します」
上条「そうか、じゃあ冷めないうちに俺も入るわ」
そう言って上条は浴室へ行った。それを確認してから
御坂妹「今日は一日疲れました。とミサカはその原因であるあの人に聞こえない様に呟きます」
そして、ベッドでは無く布団に横たわり、
御坂妹「当麻の......鈍感野郎......少しはミサカの気持ちに気付いてくれたって......とミサカは......あの人に......愚痴を......言って......スゥスゥ」
上条「あぁーいい湯だったーってあれ?御坂妹寝ちまったのか」
風呂から上がってリビングに戻ってきた上条が見たのは、自分が寝るはずの布団に横たわって寝息を立てている御坂妹だった。
上条「まったく、しょうが無いお姫さまですこと」
そう言って上条は御坂妹を抱き上げると、本来の彼女の場所であるベッドへと運ぶ
上条「しかし、御坂妹の寝顔可愛いな......頬っぺたとか柔らかそう......はっ!上条さんは今不謹慎な発言をしましたね!危ない危ない......ってあれ?御坂妹?」
寝ている御坂妹が上条の寝巻きを手でがっちりと掴んでしまっているのだ
上条「あのー?御坂妹さん?放してくれないと上条さん寝られないんですが......」
御坂妹「スゥスゥ......」
上条「だあああ!完璧に熟睡されてるよこの人っ!」
御坂妹「......当麻......」
上条「ん?」
御坂妹「ミサカを......私を......守って......」
上条「ああ、約束する。どんな事があっても、俺はお前を守るよ。だから安心してお休み、御坂妹」
そう言って、上条は彼女の頭を優しく撫でる。
すると、がっちりと握られていた彼女の手が緩んだ。
上条「安心してもらえたみたいだな......さぁて上条さんも寝ますかねー」
と上条は部屋の電気を消した。
朝、それは誰にだって平等に訪れる
上条だって例外では無い。いつと同じかどうかは別として......
上条「んー......ふぁ......あぁー......朝か」
眠たそうな眼をしてこの家の主上条当麻は目を覚ます。彼が寝ている布団の隣、本来ならば彼が寝ているはずのベッドには可愛らしい少女、御坂妹が寝息を立てていた。
上条「しかし、ここまで幸せそうな寝顔を見ると起こすのに罪悪感があるな......」
彼が言うように、ベッドの上の少女は幸せ真っ只中の様な表情である。
上条「ん?こいつ御坂のクローンだったよな?そしたら御坂の寝顔もこんなんなのか。いつものビリビリとは大違いの顔だな......でも御坂と御坂妹はクローンとはいえ別人だから少しは違うんだろうけど......可愛い......」
上条はいつも自分に電撃をかましてくる御坂美琴を思い出しながらそう言った。しかし、いくら寝顔が可愛かろうと起こさなければいけないのも事実である。
上条「よし、後5分見てて起きなかったら起こすか」
そう決めた上条は、早速御坂妹の寝顔の観察に戻る。
上条「昨日も思ったけど、御坂妹頬っぺた柔らかそうだな......ちょっと突いてみたり」
そう言って御坂妹に覆いかぶさる様にして上条は手を伸ばし、御坂妹の頬に触れようとした。頬まで後数センチ......
御坂妹「......パチクリ」
上条「......」
御坂妹「......じー」
上条「......ごめんなさい」
ーーーーー
御坂妹「まったく何考えてるんですかあなたは!! とミサカは糾弾の声を上げます」
上条「すみませんでした......ほんの出来心なんです......」
着替えや洗面などを一通り終え、上条は御坂妹にお説教を食らっていた。
御坂妹「まったく、ミサカだったから良かったものの、他の人だったらどうするつもりだったんですか......とミサカは呆れ具合を隠し切れません」
上条「いや、いくら上条さんでも他の人にもこんな事はしませんよ?」
御坂妹「へー、なら何故ミサカにはしたんですか?とミサカは説明を要求します」
上条「いや......そのですね......」
御坂妹「ほらほらどうしたのですか?早く言ってごらんなさい。とミサカは挑発します」
本当はあまり本人に言いたくは無いのだが、真実を白状して楽になろうと上条は腹を括った。
上条「えと......御坂妹の寝顔が可愛いのと、頬っぺたが柔らかそうだったからです......」
上条(だぁー‼ 言ってしまったぁあああ‼ これは今後上条さんが変な人を見る様な目で見られるのは確実ですねチクショウ!!)
言った本人の上条はこんな事で頭を悩ませていたが、言われた側の御坂妹はそうではなかった。
御坂妹(へ?寝顔?可愛い?頬っぺた?柔らかそう?へ?この人は一体なのを言っているの?かっ、可愛い......?ミサカが?わ、私が可愛い?今ミサカの事可愛いっていいました?それってええええええええ!!
ああああああああくぁwせdrftgyふじこlp)
とまあこの様に上条がしでかした事など頭から吹っ飛んでいたのだった。そうとは知らず上条は
上条「おーい御坂妹?どうしたー?」
と御坂妹の目の前で手を降っている。それで我に帰った御坂妹は
御坂妹「そ、そそそうですか、ならし、仕方ありませんね許してあげます。とミサカは自分の心の広さに感動します」
上条「はぁ......ありがとうございます......」
上条(良かった......許してもらえたみたいだな......)
上条「おお、じゃあ俺飯作るわ。この時間だと朝昼兼用でいいよな?」
そう言って指さした時計は午前11時を指していた。
御坂妹「ええ、お願いします。とミサカはまたしてもあなたはの料理の腕前に期待します」
上条「おう、任せとけ」
そう言って少年は戦場(キッチン)へ向かう......
ーーーーー
上条「はい、お待たせ。上条さん特製"あっさり野菜とキノコのパスタ"ですよ」
御坂妹「......あなたのイメージとこのパスタとのギャップに納得がいきません......とミサカは頭の中のあなたの情報を更新します」
確かに上条の雰囲気からは考えられない様な料理である。
上条「失礼な、上条さんだってパスタくらい食べますよ。確かに似合わないって自覚はしてるけどさ......」
御坂妹「い、いやそんな事は無いですよ。十分予想の範疇です。とミサカは遅めのフォローを入れてみます」
上条「おお......ありがとう」
御坂妹「さっ、冷めちゃうと美味しく無いですから食べましょう。とミサカはあなたに促します」
上条「そうだな、食うか」
上条・御坂妹「「いただきます」」
御坂妹「昨日と変わらず美味しいですね」
上条「一応昨日より時間かかってんですよ」
ムグムグ
上条・御坂妹「「ごちそうさまでした」」
上条「さて御坂妹よ、出かけるぞ」
御坂妹「一体何所へ行くのですか? とミサカは詳しい説明を要求します」
上条「いや、いつもその常盤台中学の制服着てるわけにもいかないから、御坂妹の寝間着と部屋着、後日用品買いに行こうと思って」
確かに御坂妹だって上条の服を毎日借りるわけにはいくまい。
御坂妹「それは......とてもありがたいのですが、お金は大丈夫なのですか?とミサカはあなたのお財布事情を心配します」
昨日だってお金が無いから公園にいたのに、今日になって御坂妹の為に買い物に行くなどと言い出すのだ。心配するなというのが無理だろう。
上条「大丈夫、大丈夫。今日が奨学金の入金日だからさ。それに今まで色々働いた分のボーナスも入ってるはずだから」
上条は自信満々にそう言うと、御坂妹の手をとって外に連れ出した。
ーーーーー
上条「まずは部屋着だよなー」
御坂妹「そうですね。あまりこの服を汚したくは無いですし」
二人は地下街のショッピングモールに来ていた。
休暇中の昼間という事で、学生達が多勢来ている。
そして、上条と御坂妹の手は堅く握られていた。
別に恋人とかを意識しているわけでは無く、上条が
上条「上条さんはご存知の通りの不幸体質なので、こんな人混みに入るとすぐに離れ離れになってしまうんですよ」
と言ったので御坂妹が
御坂妹「じゃ、じゃあ手をつなげばいいんじゃないでしょうか? とミサカは解決法を提案してみます」
上条「いや、そこまでしなくても......」
御坂妹「そうですか......そんなにミサカと手を繋ぐのが嫌なのですか......とミサカはこれ見よがしにがっかりします」
上条「ちょっ!分かった、分かったからそんな寂しそうな顔すんなって」
そう言って上条は御坂妹の手を握る。
上条が家から御坂妹を連れ出した時、既に二人は手を繋いでいたのだが、それは無かった事になっているらしい。
御坂妹「それで? 一体どんなのを買うつもりなのですか? とミサカは気になっていた事を質問します」
上条「うーん......正直上条さん、女物の服分かんないんですよ......なので、御坂妹が欲しいものを買ってもらおうという事で」
さらに上条は続ける
上条「さあ御坂妹、気にいったのがあったら上条に言いたまへ」
御坂妹「太っ腹ですね......とミサカは普段のあなたとの違いに驚嘆します」
そう言いつつも御坂妹は一件目の洋服店に入って行くーー
ーー
御坂妹「こんなのもどうでしょうか?」
上条「上条さんは良いと思いますよ」
御坂妹「もうっ! さっきから同じ様な事しか言ってないじゃないですか! とミサカはあなたの相槌に文句を言います」
もうかれこれ5件目の事だった。
御坂妹「ミサカがどうですか?
って聞いても"いいんじゃない"とか、"似合うよ"しか言わ無いじゃないですか!とミサカはあなたのやる気の無さに怒りを覚えます」
流石に御坂妹の堪忍袋の尾がヤバイと感じ取ったのか上条はその口を開く。
上条「いや......上条さんには御坂妹が着てるのは何でも似合うと思うんだよ」
御坂妹「それはどういう理由ですか? とミサカは追及します」
上条「いや、だって着る御坂妹が可愛いんだから別に何着てたってよくないか? 」
御坂妹「かっ可愛い? ですか......」
上条「あっ......いや、そのだな......」
御坂妹(今回はハッキリと聞きました!! あの人がミサカの事を可愛いって言いました!! もうこれで思い残す事は......沢山あるわああああああ!!)
御坂妹「へへっ......そうですか......ミサカは可愛いですか? とミサカは照れながら聞いてみます」
上条「......はい、可愛いと思います......」
御坂妹「そうですかーなら可愛いミサカと一緒にお出かけできてあなたのは嬉しいですか? とミサカはおちょくってみます」
上条「ああっ!! 嬉しいですよ!! これで満足して早く帰ろうぜ」
御坂妹「はいはい、とミサカはあなたの照れ隠しを受け流して買い物を続けます」
ーー
??「こちら10039号、ターゲット確認できず。更に捜索を続行しますか? とミサカは指示を仰ぎます」
??『いや、今日はもういいよ。そろそろ雨が降り出すらしいから帰っておいで』
??「了解しました。帰投します。......雨ですか......」
ーー
上条「ああー、降ってきたな」
御坂妹「降ってきてしまいましたね。とミサカは少し面倒に思います」
二人が買い物を終えて、帰ろうとした矢先に雨が降ってきた。出てきた時は快晴だったので、当然傘など持っているはずも無い。
上条「どうすっか......一応、走れば帰れなくは無い距離だけど......」
そう言っている間に雨脚はドンドン強くなって行くーー
御坂妹「困りましたね、これでは折角買った服が着る前からびしょ濡れになってしまいます......とミサカはため息をつきます」
上条「そうだ!! はい、御坂妹。これお前に渡しとくからタクシーで先に家帰ってろ」
そう言って上条は御坂妹に家の鍵と財布を渡した。
御坂妹「それではあなたはどうするのですか? とミサカは嫌な予感を口にします」
上条「俺は走って帰るわ」
そう言うが早いか、上条は雨の中へ走り出したーー
御坂妹「えっ!?ちょっと待ってくださいってミサカは......行ってしまいましたか......仕方が無いので、言われた通りタクシーで帰りましょう......」
ーーーーー
御坂妹「しかし、あの人遅いですね......とミサカは心配します」
御坂妹が言われた通りタクシーで帰宅してから既に1時間が経過している。いくら走りだとはいえ、あの地下街からここまで1時間もかかりはしない。ましてや体力のある上条の足ならば尚更である。
御坂妹「一体どうしたのでしょうか? とミサカは不安に駆られます」
丁度その時、玄関の扉が開き、上条が帰ってきた。
御坂妹「お帰りなさ......大丈夫ですかっ‼」
そう言って御坂妹は上条に駆け寄る。帰ってきた上条は案の定びしょ濡れで、唇が真っ青だった。
上条「ちょっと人助けしてたら......帰るの遅くなっちったな......」
御坂妹「そんな事はいいから、早く体を温めてください‼ とミサカはあなたの服を脱がしにかかります」
上条「うわー......御坂妹痴女ー......」
御坂妹「ふざけたこと言わないでくださいっ!!ミサカがどれだけ心配してると思ってるんですかっ!! とミサカはちっとも危機感を覚えないあなたに怒鳴ります」
上条「大丈夫だろ......御坂妹いてくれるし......」
御坂妹「っ!!」
そう言って上条は糸が切れた様に床に倒れ伏したーー
上条「ん......」
上条が目を覚ますとそこは布団の上だった。
上条「そうか、濡れて帰ってきて挙句の果てにぶっ倒れたんだっけ......」
そこまで思い出したところで、彼は全身を覆うけだるさと、腹部への圧力を感じた。
軋む体を起き上がらせて見ると、御坂妹が自分に覆いかぶさる様に寝ている。
上条「そっか......ずっとついててくれたのか......」
時計を見ると、既に翌朝の9時近くである。彼女は昨日から付きっ切りで上条の看病をしてくれていたのだろう。そんな御坂妹を起こさないよう起きようとすると、きゅうにフラついて布団に逆戻りしてしまった。
上条「マジか......結構重いな」
そんなことをしていると、さっきの物音で気がついたのか御坂妹が目を覚まし
御坂妹「っ‼ 目が覚めたのですか、安心しました。とミサカは......心から......喜び......ます......」
御坂妹の瞳からは涙が流れ落ちていた。
上条「何も泣くほどじゃあ......」
御坂妹「ミサカがどれだけ心配したか知らないからそんなことが言えるんです‼ とミサカはあなたの無責任さにイラっときます」
上条「ごめん......」
御坂妹「本当です。とミサカはズバッと切り捨てます」
上条「でも、ずっと付いててくれたんだろ? ありがとな」
御坂妹「っ‼ そっ、それはですね......どういたしまして......とミサカは恩にきせてみます」
上条「ははっ......じゃあ、今日はもうついてなくていいからな」
御坂妹「ダメです。あなたは今日一日安静です。とミサカはあなたの行動にストップをかけます」
そう言うと、御坂妹は上条を布団へ寝かしつけた。
上条「おっ、おい......」
御坂妹「それでは、ミサカは朝食を作ってきますので、大人しくしていて下さいね。とミサカは釘を刺しておきます」
言うと、御坂妹はキッチンへ向かって行った。
ーー
御坂妹「お味の方はどうでしょうか? とミサカは恐る恐る尋ねます」
上条「んっ、美味しい美味しい」
現在上条は御坂妹が作ったお粥を食べていた。
御坂妹「お口にあったようで何よりです。とミサカはホッとします」
上条「いやー、風邪って引いていいことってあるんだな」
御坂妹「?」
上条「いや、俺んところ男子寮だろ? 風邪引いて可愛い女の子が看病来てくれるとか無い訳よ」
御坂妹「そうなのですか? 女たらしのあなたなら看病に来る女性位居そうなものですが。とミサカはさり気ない疑問を口にします」
上条「上条さんは女たらしでは有りません‼ ってかどーなってんだ俺のイメージ......」
御坂妹「まあまあ。とミサカはフォローを入れてみます」
上条「そんな訳で風邪引くと寂しく一人で寝てるわけですけど、今回ばかりは感謝しなきゃな」
御坂妹「どうしてですか? 」
上条「だって御坂妹にずっといてもらえるだろ? 」
御坂妹「っ‼」
上条「いや、誰かにずっとついてて貰えるなんてすごい嬉しいことなんだよな」
御坂妹「そっ、そうなんですか。あ、終わったらこの薬を飲んで下さいね。とミサカは看護士顔負けの看護をっぷりを発揮します」
そう言って御坂妹は上条に数錠の錠剤と水の入ったコップを手渡す。そして、受け取った上条はすぐに飲み込む。するとすぐさま眠気が彼を襲って来た。それに逆らわず、上条は眠りにつく。
それを見届けた御坂妹は呟く
御坂妹「望むならミサカは何時までもあなたについているのに......」
今日も雨が降っていた。
上条「んで、こうなる訳ね」
御坂妹「面目ないです......とミサカは己の不甲斐なさを認めます」
そう言って御坂妹は鼻をかんだ。あの後、夜には上条の容態は回復して、かなり良くなった。そして今朝には全快したのだが
上条「お前が具合悪くしたら元も子もないだろうが」
御坂妹「ごねんなさい......とミサカは素直に自分の非を認めます......」
代わりに御坂妹が風邪を引いてしまったのだ。上条の看護疲が出てしまったのであろう。
上条「まあ、半分俺の為いのようなもんだからな......よしっ、わかった。俺も付きっきりでお前の事を看病してやるよ」
御坂妹「いいのですか? とミサカは一応あなたに気を使ってみます」
上条「任せとけって。一瞬たりともお前から目を離さないからさ」
御坂妹「そうですか......それは頼もしいですね......とミサカは......ゴホッゴホッ」
上条「あー、あんま無理しないで大人しく寝てろって。いま朝飯作ってくっから」
そう言って上条はキッチンへ向かった。そして10分ほどでお粥を持って帰って来た。
上条「中華粥もどきの完成ですよ」
御坂妹「随分と早かったですね......とミサカは驚きを隠し切れません」
上条「やはり冷凍ご飯が物をいったなー。味は保障するから食べてみろって」
御坂妹「いままで最初以外にミサカがあなたの料理の味を疑った事がありましたか? とミサカはあなたの記憶に呼びかけてみます」
上条「そういえばそうだな......余計な事言って悪かった。」
御坂妹「分かればいいのです。とミサカは心の広さを見せつけつつ、あなたの料理を頬張ります」
そう言いながらも順調にお粥を食べていき、すぐに完食した。
御坂妹「ごちそうさまでした。とミサカは両手を合わせます」
上条「はい、お粗末様でした。じゃあこれ飲んどけ。上条さんは洗い物して来るからさ」
そう言って上条は御坂妹に昨日自分が飲んだ錠剤と白湯の入ったコップを渡し、キッチンへと戻って行った。
大人しく薬を飲んだ御坂妹は横になって上条が帰ってくるのを待つ。ほど無くして、洗い物を終えた上条がキッチンから戻ってきた。
上条「ただいまっと。所で御坂妹、なんか欲しいもんあるか? あるならちょっと行って買って来るけど、アイスとか冷いもんとか。なんかあるか?」
御坂妹「欲しい物ですか......それって何でもいいですか? とミサカは重要な質問をぶつけます」
上条「なんでもって訳にはいかないけど、俺が買える範囲の物ならなんでも良いよ」
御坂妹「そうですか......ならーー」
御坂妹(こんな時ぐらいワガママ言っても良いですよね......)
御坂妹「ミサカはあなたが欲しいです。とミサカは大胆発言をしてみます」
上条「えーっと......御坂妹さん?」
上条は戸惑っていた。それも当然であろう。何か買出しに行こうかと聞いたら、自分が欲しいと返ってきたのである。戸惑わない方が難しいだろう。しかし、
御坂妹「だめ......ですか?」
ほんのり熱で上気して赤くなってる頬と、風邪のせいで涙目になってる瞳、さらには上目遣いという三重攻撃に上条が勝てるはずが無く
上条「分かったよ......んで、何して欲しいんだお嬢様?」
御坂妹「ふふっ、よろしい。とミサカはお嬢さま気分全快です」
御坂妹「とりあえず、アイス食べたいので買ってきてください。とミサカは最初の指令を下します」
上条「これってていの良いパシリじゃねーの? まあ行ってきますけど。」
そう言って上条は家を出て行き、数分で帰って来た。その手にはコンビニのビニールがさがっている。
上条「はい、お待たせしましたお嬢様」
彼が買ってきたのは普通のカップアイスだ。
御坂妹「じゃあ、それをミサカに食べさせて下さい。とミサカは第二の指令を下します」
上条「食べさせろって......はいはい分かったからそんな悲しそうな目でこっち見ない」
そう言うと上条はアイスの蓋を開け、スプーンでアイスを掬って御坂妹の口元まで持っていき
上条「......あーん」
御坂妹「っ‼」
御坂妹(食べさせて欲しいとは言いましたが、あーんとはっ......かなり効くっ......)
上条「ほらほらどうしたのかな御坂妹お嬢様? 食べさせて欲しいんじゃ無かったんですか?」
御坂妹「うっ......あ、あーん......」
上条「はい、良く出来ました」
そう言って御坂妹の口にスプーンを入れる。
御坂妹「はっ恥ずかしいです......とミサカはちょっと文句を言います」
上条「大丈夫だって。誰も見てないから......はい、あーん」
御坂妹「あ、あーん......」
こんなやりとりが少し続いてーー
上条「はい、完食ですよー」
御坂妹「アイス食べるだけなのに凄く精神力を使った気がします......とミサカは先程の事を振り返ります」
上条「そんな疲れたんなら寝とけって。そうすれば早く治るしな」
御坂妹「言われた通りに大人しく寝る事にします。とミサカは素直にいう事を聞きます」
そう言ってからすぐに御坂妹は寝息を立て始めた。
ーーーーー
御坂妹は真っ白な空間に立っていた。彼女以外に人影は無い。とりあえず御坂妹は前に歩き出した。しばらく歩いて止まる。その繰り返しの中で、彼女はある感覚を覚え始めていた。
御坂妹「誰かに見られていますね......とミサカはこの感覚の正体を分析します」
そう見られているのだ。この空間には彼女以外の人影は無い。さっきからそうなのだ。しかし、どこかの誰かから視線を浴びている。
御坂妹「とりあえず、移動した方が良さそうですね。とミサカは今後の行動方針を決定します」
そう決めた御坂妹は先程より速度を上げて歩き始めた。すると今度は視線に加えて背後に気配も感じてきた。しかし、御坂妹は振り返らない。脳のどこか、恐らく一番本能的な部分で、振り返ってはいけない。そう指令を下しているのだ。
御坂妹「ッハ......ハァハァッ」
何時の間にか御坂妹は走り出していた。それでも気配は背後から消える事は無い。むしろ近づいてきている。
御坂妹「ハァッ......ハッハッハッ......」
ついに耐えきれなくなり、御坂妹は後ろを振り返ってしまった。そこに有ったのはーー
黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒黒
この世の全てを飲み込んで押しつぶしてしまいそうな程に、わずかな光さえも発しない、この世に存在するべきではない、そんな黒がそこには居た。人の形を借り受け、そこに存在していたのだ。
御坂妹「っ!!」
再び御坂妹は走り出す。そして黒は追って来る。先程よりも数倍の速さで。まるで御坂妹を取り込むかのように。
御坂妹「いっ......嫌っ!! 嫌だっ!! 助けて......助けてっ!! 当麻っっ!!」
そうして少女は手を突き出したーー
御坂妹「ハァッ......ハァハァ......」
上条「大丈夫か御坂妹? 凄いうなされてたぞ」
目が覚めると、御坂妹が突き出した手は上条の両手によって優しく包まれていた。
御坂妹「少し......怖い夢を見ました
......とミサカは報告します」
上条「そっか。でももう大丈夫だな。」
御坂妹「?」
上条「言っただろ。一瞬たりとも目を離さないって。だから、もう安心していいからな」
御坂妹「そうでしたね......ならもう心配する事も無いですね。とミサカはホっとします」
そして御坂妹は、さっきかいた寝汗でしっとり湿っている寝巻きをつまんで一言
御坂妹「体を拭いてさっぱりしたいです。とミサカは要望を伝えます」
上条「おお、じゃあお湯とタオル持って来るわ」
そう言ってから上条は風呂場からお湯の入った桶と、タオルを持ってきた。
上条「じゃあ、上条さんはあっち行ってるので、終わったら声かけろな」
とその場を立ち去ろうとする上条に対して、御坂妹は言った。
御坂妹「あなたが拭いてください......とミサカはまたしても大胆発言をしてみます......」
上条「御坂妹......? ご自分で何言ってるか分かってますか......?」
御坂妹「そっ、そんなの分かっています......だから、何回も言わせないでください......とミサカはあなたに文句を言います」
上条「......分かったよ」
そう言うと上条は御坂妹の後ろに膝立ちになった。
上条「後ろからでいいよな......?」
御坂妹「ええ......構いませんとミサカは承諾の意を表明します」
そう言うとミサカは寝巻きの上着を脱いだ。彼女の白い肌が露わになる。
御坂妹「あ、あんまりじろじろ見ないでくださいね......とミサカは精一杯のお願いをします」
上条「はいはい、分かった分かった」
そう言って、上条は彼女の汗ばんだ肌を、優しくタオルで拭ってゆく。
御坂妹「ひゃっ......んぁ......あぅ......」
上条「変な声出すなっ!! 上条さんの心のバロメーターが崩れるでしょうが!!」
御坂妹「だって......ひぁっ......あなたが......んふぅ......へ、変なとこ......はぁ......触るから......んぁっ」
上条「触ってませんよー、上条はいたって変な事してませんよー」
そして後は黙々と御坂妹身体を拭っていったーー
上条「御坂妹の肌って綺麗だよなーすべすべだし」
御坂妹「そうですか?確かにミサカは生まれて1年程しかたっていないので、余り紫外線に素肌を晒していませんし……とミサカは仮説を述べてみます」
上条「そうだよなーお前達最近外に出たばっかりだしなー。しかも、ほとんど病院にいるしな」
と言う会話をしながら上条は御坂妹の肌を温かいタオルで拭っていく。
上条「なぁ……御坂妹よ」
後ろから衝撃が来た。少女1人分の重さとともに。
後ろから回された手が、上条の腰あたりで組まれている。
そして背中一杯には柔らかい感触。鼻孔には仄かな女の子のの香りが
御坂妹「……バカ」
上条「えっ……⁉」
御坂妹「ミサカはバカと貴方を罵ったのです、とミサカは説明してやります。このバカ」
そうして御坂妹は腕に入れる力を強める
御坂妹「どうして気づいてくれないんですか?こんなにもミサカは伝えようと必死になってるのに……どうして分かってくれないんですか?こんなにも一生懸命なのに……とミサカはあなたに訴えます」
上条「おまえ……」
御坂妹「私……あなたのことが好き……どうしようもないくらい大好きなんです……とミサカは……」
そこで御坂妹の言葉は途切れた。否、切らされたのだ。上条当麻その人の手によって。彼は御坂妹の手を握り締めてこう言う
上条「もういいんだ……いいんだよ。おまえはよく頑張った」
御坂妹「えっ……?」
上条「悪かったな……気づいてやれなくて。でも、安心していいから」
御坂妹「どういうことです……?とミサカは尋ねます」
そこで上条は一呼吸おいて、言った。
上条「俺だって……お前が好きだからさ」
御坂妹「それはどういう意味での好きなのですか?とミサカは核心に切り込みます」
そこで上条は初めて苛立った声をあげた
上条「あのなぁ!俺は好きでもない女にずっと側にいてやるなんて言わねぇんだよ!」
御坂妹「っ⁉」
上条「俺は、お前が好きだったから側にいてやるって言ったんだ!ただの友達みたいな奴にそんなこと言えるかよ……」
そう言って上条は御坂妹に向き直り、彼女を抱きしめた
御坂妹「あっ……」
上条「俺も大好きだ……」
御坂妹「嬉しいです……とミサカは……んっ」
彼女の言葉は押し付けられた上条の唇によって遮られたーー
御坂妹「どうしました?とミサカは疑問を発します」
上条「前はどうするつもりだ……?」
御坂妹「っ⁉」
上条「流石に上条さんも健全な思春期男子高校生なので、気にしない訳にはいかないと言うか……」
御坂妹「ミっ、ミサカがじぶんでやりますっ!」
そう言うと御坂妹は上条からタオルを受け取り、顔を赤らめながらこう言ったーー
御坂妹「向こう向いててくださいね……?とミサカは確認をとります」
上条「分かってる。」
上条はそう言って反対側に向き直り、あぐらをかいて座った。
後ろでは御坂妹が体をタオルで拭う音と、彼女の息づかいだけが聞こえてくる。
上条(最初に拭いてくれって言われた時はどうしようかと思ったが、これは大丈夫だな……)
そう思った時だったーー
つづく