【一月後・学園都市行き送迎バス】
バスガイド「……と、なっておりまーす♪」
あの無限に続いていたらしい夏休みも終わり、まだまだ残暑の厳しいこの季節。
俺はバスの中でガイドさんの説明を聞いて驚いていた。
別にこの町並みに、では無い。むしろ町並みは俺達の町となんら変わらない、多少都会ではあるが。
そうではなく、予想以上にここが『学園都市』であることと、ココが研究している「モノ」を聞かされたからである
現在学園都市には総勢230万の人口が居り、そのうちの8割までもが学生だという……まさに学園天国
よくもまぁ、こんなに学生ばかり集めたものだ
しかもこの学園都市、どうやらマジに『超能力』について研究してるみたいだ
モノの大小はあれど学生全員が全員、何がしかの『能力』しかも以前古泉が言っていた『インチキ臭い超能力』などでは無く、正真証明の『異能たる力』を持っているとは……
それを聞いたときのハルヒの喜びようときたら……後述するまでもないな
おい古泉。話がちがうじゃないか、どうしてくれるコンチクショウ
古泉「申し訳ありません。正直ここまでとは……」
まぁこればっかりは古泉を責めてもしょうがない
何せ古泉達『機関』が、総出で情報集めに心血注いでもまったく、と言ってこの辺りの情報は掴めなかったらしい……どんなとこだよココは。イギリスの諜報組織かなにかか?てゆーか入ったら入ったでこの説明とかどうなってんだオイ
古泉 (´・ω・)
話を戻そう。今回、交換留学に参加したのは我がSOS団は勿論のこと、その他にも何人かいたようだ
気分はちょっとした修学旅行だな
ただ偶然というか、これまた必然というか、朝比奈さんのオプションとして鶴屋さんがついてきた
まぁ見知らぬ土地で一ヶ月近くも暮らすというのだ。知り合いは多いほうが良い
ちなみに人数は総勢9名
引率の先生は我がクラスの担任、岡部一人……クラスほっといていいんですか先生?
SOS団を含めた一年生は俺、ハルヒ、長門、古泉、朝倉
二年生は朝比奈さん、鶴屋さん
三年生は喜緑さん
……よくもまぁハルヒの周りの人間達ばかりになったものだ
っていうかなんで喜緑さんと朝倉が!?
あの後、古泉達『機関』は『学園都市』について調べたそうだ
しかし、調べれば調べるほど実態が掴めなくなる。という事態が起きた
曰く、学園都市は外界との情報封鎖が激しい
曰く、入るには徹底的な調査と安全性の確認がなされる
曰く、学園都市内部は外界とは2、30年の技術格差があるらしいetc.etc...
とまぁ『学園都市』とはどうにも「陸の孤島」と言えるくらい、外部との連絡を絶っているフシがあった
っで急遽『機関』からも何人か潜入させよう、という工作があったらしいが……誰一人として潜入に成功したものはいなかった
……森さんクラスのエージェントが潜入不可能って、ここはホワイトハウスか何かなのか?
しかし、ハルヒや俺達の安全には変えられない
断腸の思いで長門さん達に助けを求めたところ、あの二人が選ばれたそうです。とは古泉の言だ
まぁ確かに? この三人がいれば? サハラ砂漠だろうが南極だろうが無事に過ごすことも可能だろう
ちなみに鶴屋さんは朝比奈さんに誘われて、というより最初から行く気マンマンだったらしい
朝倉「キョン君どうしたの? ぼーっとしちゃって」
キョン「なんでお前が、ココにいるのか、もう一度再確認してたところだ」
朝倉「あら、もう『あんなこと』はしないから大丈夫よ? 私もせっかく元に戻れたのにすぐ消される、なんてことされたくないしね」
キョン「……一度殺されそうになったこっちとしては、そう簡単に信用できんのだがな」
俺は極力声を落とし、皮肉を込めて言ってやる
長門「問題無い。朝倉涼子に以前のような敵性は無い。それに敵意を向けたとしても私達がいる」
朝倉「あー長門さんまでそう言うこと言うかなぁ」
長門「それは仕方が無い。あなたはそれだけのことを彼にした」
朝倉「ハイハイ、反省してますよーだ。ところでポッキー食べる?なんならあの時のお詫びにポッキーゲームでもしちゃう?」
ポッキーゲームというとアレか、両端から加えて食べていくってやつか
朝倉がポッキーを加えて顔を近づける。おれはそっと反対の端を……
キョン「ってできるか! なんでこんな昼日中のバスの中でんな恥ずかしいことせにゃならんのだ!」
朝倉「じょーだんよ、冗談♪」
クスクス笑いながら、何本かを俺と長門に渡し朝倉は前に向き直る
一方のハルヒはというと……うわっめっちゃ熱心にガイドさんの説明聞いてるよ
まぁ見るもの聞くもの初めてだから仕方が無い、か
欠く言う俺も(不安はあるが)今回の『交換留学』が楽しみでならないのだ
だって2、30年も科学が発達してるとか言われてる超科学都市だぞ?
ワクワクしないほうがどうかしてる
とりあえず今後俺たちがどうするか、なのだが
これからお世話になる学校を見学のした後、学校やこの都市での生活の簡単な説明
それが終わったら午後からの授業に参加。まぁこれは顔見せとのことだ
授業終了後は、これからしばらく暮す学生寮への案内
その後、自由行動
以上が本日の日程だそうだ
尚、飯は各自自炊および自力調達で、とのことらしい
出来ないことはないがなんだかなぁ……朝比奈さんとか作ってくれないかなぁ
朝倉「なんならアタシが、作ってあげようか?」
だまれ、心を読むな
バスガイド「……はい、ではご乗車ありがとうございましたー。ココがアナタ達が今日からしばらくの間通うことになる学校でーす」
どうやらついたようだ
見た目はなんの変哲も無い高校
しかしバスガイドは、ほぼ全生徒が何がしかの『能力』をもっていると言っていたが……んーむ、にわかには信じられんな
ハルヒ「キョン! なにしてんのー! 早く行くわよ!!」
興奮冷め遣らぬのはわかったから落ち着けハルヒ。恥ずかしいから
ハルヒ「グズグズしてるのが悪い!」
やれやれ
さてさて、今回の『交換留学』
鬼が出るか蛇がでるか……どうか何事も無く、平穏無事に過ごせますよーに!
俺はハルヒではなく、いるかどうかわからない神様に対して心の中で合掌すると、ハルヒ達を追うべくバスを降りた
土御門「どいうことだ?」
「どういうことだ、というと?」
土御門「ふざけるな! 何故こんな時に、わざわざ外部からあんなヤツらを招き入れた!!」
「『涼宮ハルヒ』とその仲間達……『情報統合思念体の端末』と『機関の抗体』、『未来からのお客さん』、そして『涼宮ハルヒの鍵』、のことかな?」
土御門「そうだ! 大体『アレ』に関しては、魔術側からも科学側からも、手出し禁止となっていた筈だろう! しかも外部から魔術師が来ているかもしれないという時に!!」
「なんの問題もない。それに『涼宮ハルヒ』については、あちら側から接触希望があったのだから仕方が無い。断ったほうが危険だ」
土御門「……『閉鎖空間』のことか」
「そうだ。魔術師についても問題は無い。彼女を利用すればプラン1682からプラン2082まで短縮でき……」
土御門「お前は、いったい何をしようとしている」
「何も? ただプランを推し進めているだけさ。さぁ、もう帰りなさい」
土御門「っ?! ……いいのか? 帰しても。帰ったら俺がヤツを始末するぞ」
「なんの問題もない」
土御門「チッ」
土御門(一体何を考えている? アレイスター・クロウリー)
【交換留学二日前・路地裏】
暗がりの路地で煤けたゴスロリ衣装を身に纏った女と『影』が会話している
「それで? 私はこのジャパニーズの少女「も」襲えばいいんだな?」
「―――」
「しかし『願望実現能力』ねぇ……にわかには信じられないな」
「―――」
「わかってるさ。手を抜いたりなんかしない」
「―――」
「あぁ、これが成功すればアンタも目的が達成されるし、私は火種が作れて万万歳さ」
「―――」
「その辺は上手く立ち回るさ。いくらセキュリティがしっかりしてたって少しの間潜伏しつつ、準備を整えるなんてワケない」
「―――」
「アンタも上手くやることだね。コイツはアンタだって上手くやってくれないと成功しない」
「―――」
「あぁそれじゃあ準備が出来次第、作戦開始だね」
そういうと『影』はこの場から消え去った
一人残された魔術師、シェリー・クロムウェルは微笑みながらつぶやく
シェリー「『禁書目録』に『幻想殺し』、『願望実現能力者』か……さてさて、どいつから殺してやろうかねぇ?」
ハルヒ「ついに……つ い に! 今日から夢と希望と冒険とロマンとスリルとサスペンスとアクションに満ち溢れた危険な学生生活が始まるわけね!」
キョン「いいから少しは落ち着けハルヒ」
夢と希望と冒険とロマンとスリルとサスペンスとアクションに満ち溢れた危険な学生生活ってなんだ一体
ここが俺達にとって未開の地だということはわかるが、あくまで常識的な都市っぽいぞココは
まぁあの説明を受けて「常識的」というのはどうかと思うが……
とりあえず俺達が住んでいた町とはそれほど掛け離れている、というほどではないらしい
見た感じ、車が空を飛んでいるわけでもないし、歩道が空飛ぶチューブの中、なんてどこぞの22世紀チックなわけではなかった
ハルヒ「何言ってるのよキョン!『超能力』よ『超 能 力』! SOS団が求め続けた不思議の真っ只中に今!! 私達はいるのよ!? これが落ち着いていられるわけ無いじゃない!」
俺は求めた覚えは無い
ハルヒ「しかもガイドさんの話によれば、私達にだって何がしかの『異能』に目覚めることだってできるって言ってたじゃない!」
キョン「かもしれない、だろ。大体一ヶ月やそこらでその……」
長門「『開発』」
キョン「そうソレだ。その『開発』の授業とやらを受けたところで16年間ふつーーーうに、暮してきた俺達がそうそう目覚められるとは到底、思えないんだがな」
バスから下りて俺達は目的地の高校である会議室に案内された
幸か不幸か今は授業の真っ最中らしく、俺達がこの学校の生徒達から奇異の視線で見られることは先送りにされたようだ
現在ちょっとした休憩中、これから説明を受けるところだ
ハルヒ「はぁーーー、だからアンタはいつまでたってもヒラ団員なのよ。もっとこう不思議に対する情熱とか持ちなさいよねっ!」
鶴屋「アッハッハッハ! キョンくんもハルにゃんも相変わらずだねぇ」
朝比奈「あの、そろそろ担当の先生がくるそうですよ」
ハルヒ「どんな先生なのかしらね。やっぱり白衣着でマッドサイエンティストみたいな感じなのかしら」
何故「マッド」をつける。
しかし『超能力』の研究をしてるんだからあながち、ありえない想像でもないか……
ハルヒ「んで、右手にはやっぱドリルよね」
朝比奈「さ、さすがにそれは無いんじゃないかと……というかそんな先生怖いですよぉ」
鶴屋「相変わらずみくるは怖がりだなぁ」
その時、会議室のドアがガラっと音を立てて開く
はてさて、どんな人物がこれからの一ヶ月間俺達の教鞭をとってくれるのかと目を向けると………なんで小学生がここに?
そこには白衣を着たドリルなマッドサイエンティストなどではなく、我が妹くらいの……いや妹より年下みたいだな。小学生、ともすれば幼稚園児とも思える幼女がいた
迷子か何かだろうか?
小萌「みなさん集まってますねー?。これからせつm……」
鶴屋「おや? お嬢ちゃん迷子か何かなのかな?それとも、お兄さんかお姉さんを探しているのかい? ほら高いたかーい」
小萌「え、ちょっやめ、アッー!」
鶴屋さんが近寄り、高い高いをする
うむ、微笑ましい光景だ
朝比奈「わぁ可愛い~鶴屋さん鶴屋さん、私にも抱っこさせて下さい」
ハルヒ「こんな高校にいるはずの無い幼女が……はっ!? まさかこれが、かの有名な座敷童子!?」
そんなワケあるか。というか朝比奈さん、その子窒息しますよ?
朝比奈「あ、ごめんなさいぃ」
キョン「ほらお嬢ちゃん。大丈夫か?」
小萌「っぷは!」
あぁ、ふらふらしてるじゃないか
朝比奈さん、その凶器という名の禁則事項を少しは自覚してください
小萌「うぅ~頭がクラクラするぅ……じゃなくて! 私は、お嬢ちゃんではありませぇーん!!」
キョン「あぁ、それはすまなかったなお嬢ちゃん。迷子か? お父さんとお母さんは?」
可愛そうに、酸欠で少々混乱してるらしい
???「あー気持ちはわかるがその人、教師だぞ」
なにを馬鹿な。こんな幼子が教師だなんてそれこそ漫画の世界だ
???「いや、マジでその人この学校の先生だから」
ふと幼女から目を離すと、そこには黒髪の男子生徒と日本人形のような雰囲気の女子生徒がいた
キョン「……マジ?」
男子生徒が答える
上条「マジ」
小萌「だから迷子でも、幼女でも、幼稚園児でも、ましてや座敷童子でも、ありませんッ!!! 私はッ! あなた達をッ! 担当する先生です!」
一同「え……? えぇぇぇぇええええ!?」
【会議室】
小萌「……と、いうわけでこれからあなた達の学園生活の補佐をする」
上条「上条当麻です」
姫神「姫神秋沙です」
あの後、小萌が免許証を提示したことで交換留学生の面々は何とか納得したらしい。
ただ涼宮ハルヒだけは「こんな先生がいるなんてさすが超科学都市……」などと呟き、彼女を知らない人達の顔を困惑なものに変えていたが
小萌「……あなた達がしばらく住むことになる寮へは、この二人が案内してくれます。なにかわからないことがあったらまず先生か上条ちゃん、姫神ちゃんに聞いてください」
小萌「生徒さんが立ち入り禁止の箇所もあるので、みだりに禁止区域へ入ったりしないように。以上がこの都市での生活の説明となります」
小萌「クラスは1年生が私、月詠小萌が担当のクラスへ。2年生がこちらの黄泉川先生が担当します。三年生は親船先生へと割り振られます」
黄泉川「黄泉川愛穂だ。担当は保健体育『警備員』もやってるじゃん。これからよろしく」
親船「親船素甘です。担当は数学、よろしく」
上条当麻は教員達の説明を聞き流しながらこの後のことを考えていた
確かこの後校舎を案内して、授業を受け、それが終わったら寮への案内だったな
んで希望者がいたら……まぁ初めて来る街だ。多分みんな色々見て回りたいだろうし、食料の買出しだってしたいだろうから街の簡単な案内、だな。その時に御坂達が合流するはずだから……
そこまで考えて留学生の面々をそれとなく観察する。以下は彼の目から見たSOS団の第一印象である。
……こいつら、本当にココの技術を盗みに来た工作員か?
とてもじゃないがそうは見えねーぞ
涼宮……こいつはやる気というか興奮してるというか、何かを探りに来たって感じでも無いな。
キョン……こっちは逆にやる気の無さしか感じられない。つーか自己紹介邪魔されてあだ名だけって、どんなんだよ
長門……よくわかんねー。全然しゃべらねーし。ひょっとして気弱なのかな?
古泉……なんだこのイケメンスマイルは。これがリア充ですか。リア充って人種ですか!?
朝比奈さん……何だか可愛らしい人だな~。無いな、この人がスパイってのは絶対無いな。
朝倉……うん、優等生って感じだな
鶴屋さん……元気な人だなぁ
喜緑さん……うーん、なんだろ?何故か風船を思い出す
一応ありえるのは長門、古泉、朝倉、喜緑さんってとこか。でもな~そうは見えないよなー……まぁスパイらしいスパイってのもおかしな話か
そんなことを考えていると不思議そうな顔をした姫神に声をかけられた
姫神「どうしたの? 難しい顔して」
上条「あぁ、この後のことを考えてたんだ」
姫神「この後って。例の常盤台中学の女の子達が来るっていう……?」
一緒に面倒を見ることになった姫神には、ことの詳細を一応話している。
上条「そうそう、それ」
そう答えると姫神は思案に暮れるような顔をする。その表情は心なしか険しい。
姫神「……(せっかく二人で共同作業できるように小萌が手配してくれたのに。なんで邪魔が入るかな……というより。なんで女の子ばっかり集まるのかな。留学生も何故か女の子多いし)」
上条「ひ、姫神? なんか機嫌悪くないか?」
姫神「別に。そんなこと無い」
上条「だ、だったら、いいけど……」
上条当麻は何故か姫神の顔が先日見た二人のすさまじい笑顔と重なって見えた。
ここで少しでも彼女達の気持ちに気付いていれば姫神の顔が何故そう見えたのか、見当くらいつくのだが……そんなことに彼が気付くわけも無いので「俺なんかやらかしたっけ?」などと見当違いの方向へ方向へと思考が傾いていった。
考え込んでいるその傍ら、やっと説明が終了したようだ
小萌「それでは説明は以上です。何か質問はありますかー? 無ければこれから校舎の案内にはいりますが……」
ハルヒ「はい!先生!」
勢いよく手を上げる女子生徒。見当違いの思考を中断し、そちらに目を向けると涼宮ハルヒだった。
小萌「はい、涼宮ちゃん。なんですかー?」
ハルヒ「私達が受ける『開発』の授業は、いつですか!」
もう我慢できない! 早く早く!
そんな感じのニュアンスが多分に含まれた質問だった。
小萌「みなさんの『開発』の授業については、明日からとなっています。ただし、みなさんは初心者さんなのでクラスのみんなとは別の教室で初歩的な『開発』から受けてもらいます。これは2、3年生さん達も合同ですよー」
ハルヒ「授業の詳細は!?」
小萌「涼宮ちゃんは、随分楽しみにしてたみたいですねぇ。そんなに熱心だと先生嬉しいです♪……上条ちゃんも少しは見習ってくれるといいんですけどねぇ」
上条(先生聞こえてます。ほっといてください)
小萌「コホン。詳細については、また授業の時に説明しますから楽しみに待っててくださいねー……質問は以上みたいですね。では、校舎の案内をしますので、みなさんついて来て下さい」
【廊下】
ハルヒ「ねぇねぇ、当麻と秋沙だっけ?これからよろしくね」
廊下に出たところで早速、涼宮ハルヒに声をかけられる。教師の手前一応声は落としているようだ。
姫神「よろしく」
上条「ああ、よろしくっていきなり名前かよ!」
ハルヒ「さっそくだけど、二人も何か『異能』の力をもってるんでしょ? どんなのか教えて欲しいの! レベルは? 効果は? どんなことができるの?」
上条の抗議など聞いてはいない。まぁいいかと思い直し、彼女を見る。
白井達からは自分の手の内を簡単に晒すな。と言い含められたが……いかにも好奇心の塊です! といった感じの彼女をごまかしていいモノだろうか?
そんな彼らしいお人よしな考えが脳裏に一瞬走ったが
上条「期待に添えなくて申し訳無いが、俺も姫神もレベル0の『無』能力者だ」
流石にスパイかも知れない相手にそうそう情報は与えられない。そのくらいの判断力は彼にもあった。しかし……
ハルヒ「え……そうなの?」
目に見えて落胆するハルヒ。それはなんというか捨てられた子犬の目?上目使いに潤んだ瞳に見つめられドキリと心臓が跳ねる。心無しか震えているようにも見え、思わず保護欲を掻き立てられた。ほぼ全ての男子がこういう女子の目に弱い。しかも相手は十分な美少女。とすれば当然例外無く上条も弱かった。
上条「あーまぁ一応上条さんには「幻想殺し」なんてものが備わっておりまして……」
気付いた時には素直に白状していた。隣の姫神が呆れた顔をしているが見なかったことにした。
上条(上条さんはこういうのに耐性ないんですよ。許してくださいよ姫神さん!)
ハルヒ「イマジンブレイカー!? 何それ!? どんな事ができるの!?」
すると彼女はまた目をキラキラさせ矢継ぎ早に聞いてくる。先ほどの悲壮な顔などどこ吹く風だ。
上条「立ち直り早ッ!? ですよねー嘘泣きですよねーえぇ知ってました。知ってましたとも!上条さんは!!」
ハルヒ「? 何ブツブツ言ってるか知らないけど早く教えなさい! 団長命令よ!」
上条「いや団長とか言われても上条さんにはなんの事か分からないんですが……」
ハルヒ「い い か ら、早く答えなさい」
目が怖かった。いい加減にしないとぶっ飛ばすわよ。そんな目である。
上条「は、はひ! んーまぁなんて言うかこの右手で触れた『異能』の力は全部消せるってコトかな……特になんの役にも立たない『能力』ですよ」
右手を振りながら気だるげに答える。実際はこの右手のおかげでインデックスを助けたり、御坂に勝負を挑まれたりしているが……まぁそれは言わなくてもいいだろうと判断する
ハルヒ「つまり瞬間移動できたり、雷だしたり、ゴーレムを作りだしたりとかは出来ないのね?」
思わず、お前は何を求めて学園都市にきたんだ、おい。と言ってしまいそうになるがなんとか押し止める。先程から教師陣の目が痛いのだ。あれだけ騒げば当然と言えば当然である。
キョン「あー、上条君とやら」
言葉に詰まった彼を見かねたのか、キョンが会話に割り込んでくる
キョン「スマン、コイツの戯言には耳を貸さなくていい」
ハルヒ「ちょっとキョン! たわごととは何よ、戯言とは!」
キョン「あんまり騒ぐな。ほら先生もこっち見てるぞ」
ハルヒ「まったく、キョンのくせに……ぶつぶつ」
彼女はぶつぶつと言いながらも、おとなしくなる。
そんな上条の耳にまたも雑用係りがどうとか、と言う声が聞こえた。
上条「正直助かったよ。あ、俺のことは上条でいいぞ」
キョン「そうか、すまなかったな上条。俺のことも……まぁキョンと呼んでくれ」
上条「別にいいさ。なぁ雑用係りとか団長って何のことだ?」
するとキョンは頭を掻きながら言いにくそうに
キョン「まぁ……なんていうか部活の一種……かな」
上条「へぇ、応援団か何かか?」
上条当麻は現在帰宅部だ。記憶を失う前は部活動に精を出してた中学生時代などあったかも知れないが、今は知る術が無い。なのでどんなことをしているのか興味が湧いた。
キョン「いや、その、なんというか、だな。……あー不思議を探す団というやつだ」
上条「は?」
そこへ待ってました! と言わんばかりのどや顔でまたも涼宮ハルヒが割り込んでくる
ハルヒ「SOS団よ! それは略称で正しくは『世界を、大いに盛り上げる、涼宮ハルヒの団』!
活動内容は『宇宙人や未来人や超能力者を探し出して一緒に遊ぶこと』よ!」
ハルヒ「団長はアタシ、この涼宮ハルヒ。副団長はそこの古泉君、名誉顧問の鶴屋さんに、団員一、ニはユキとみくるちゃん。それから雑用係りのキョンよ!」
ハルヒ「そうね、これから一ヶ月の間あなた達のお世話になるわけだし特別に、当麻と秋沙も団員にしてあげる! しかも初の超能力者の団員第一号と二号よ!
ありがたく思いなさい!」
それだけまくしたてると彼女は先生の元に歩み去っていく
上条当麻は何も言えず、ただキョンの方をそっと見る
キョンは額に手をあて、首を振った
……それはあきらめて団員になれってことか?
キョン「スマンな……」
マジかよ……また面倒くさいことに巻き込まれた気がするのは気のせい……じゃないんだろうな
………………不幸だ