番外個体「ってなワケで、今日からお世話になります!」 一方通行「……はァ?」 > 3


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「…………」

一方通行は道のど真ん中で突然動きを止めた。
それに乗じて巻き起こっていた風も止む。

(……待て、待てよ。やっぱさっきっから何か引っ掛かってる……何だ?)

風となって駆け抜けていたのをピタリと止めたのは頭に何か気に掛かる事があったからなのだが、その正体が分からない。
一方通行はその場で立ち尽くしたまま頭を過去に遡らせた。

(番外個体の服買いに行って、けど店の雰囲気が見るからに女じみてるせいで入れなくてどォしよォか困ってる時に……)

(そォだ、妹達の誰かが現れて……ンでしばらく喋って…………!!)


~ここで先ほどの御坂妹との会話シーンへ戻る~


「………ミサカは」

「?」

「ミサカは、自分の心理状態と、あなたの頼みの両方に疑問を抱きます。調整を終えたばかりだというのに……」

「オ、オイ……?」

「どうやら、二時間前に行われた調整は失敗したようですね。やけに背が高くスタイルの良いミサカまで見える
 始末……とミサカはフラフラと旅に……」


『“やけに背が高くスタイルの良いミサカ”まで見える』


~~~


(―――それだ!!)

(アイツはあそこにいる! 少なくとも俺と妹達が一緒にいた時、間違いなくアイツも近くにいた!!)

(何でそン時すぐに気づかなかったンだクソったれがァァァ!!)

嘆きながら方向転換し、一方通行は再び疾風の如く駆け出す。
あの店付近を重点的に捜せば必ずいるはずだ。間に合え。妙な輩がヤツに接触する前に見つかれ。
一方通行はそれだけを願いながら全力で走った。


「わぁー、これも良いな~♪」

……
目的はあっさりと達成された。
なんとさっき御坂妹が代わりに入ってくれた店に番外個体はいたのだ。しかも瞳を輝かせて衣類を物色している。
一方通行は拍子抜けのあまり思わず引っくり返りそうになった。躍起になって走った自分が馬鹿みたいだ

「オ・マ・エ・はァァああああ!!!」

ズシズシと足を踏み鳴らす勢いで入店する一方通行。さっきは入るのをあれだけ躊躇していたのに、どうやら今は
その事もすっかり忘れているようだ。
鬼のような表情の一方通行が接近してくる事に番外個体は気づく。


番外個体「―――あれ? あなたこんなトコで何やってんの?」

一方通行「そりゃあコッチのセリフだァ!! オマエ何勝手に出歩いてンだよ!? ……ってオイ、オマエその服…」

番外個体「あぁこれ? 何か別の部屋にあったから借りてきちゃった♪」

一方通行(あァァ……ソイツは訊くまでもなく結標の……俺知らねェぞ)

番外個体「ねぇ、この服ってあなたの趣味? あの格好よりはマシだから着ちゃったけど、これ結構露出激しいから
      ちょっとだけ恥ずかしいかな……」

一方通行「……俺の趣味じゃねェ。っつーか勝手に着て勝手に外出てンじゃねェよ。無駄にバッテリー使っちまった
      だろォが」

番外個体「あっれぇ~、ミサカの事心配してくれたのぉ?」ニヤァ

一方通行「るっせェ。オラとっとと帰ンぞ」

番外個体「えー、ヤダ! だってまだ服……」

一方通行「もォ買ったから安心しろ」

番外個体「え! ウソ!? あなた一人で?」

一方通行「ンだよ? 悪りィかァ?」

番外個体「……よく入れたね」

一方通行「ま、まあなァ」

(本当はオマエの姉みてェなヤツのおかげなンだがな……まァアイツにも服買ってやったし、チャラってことでイイか)

番外個体「ん~、ならついでにこれも買って♪」(←チューブトップ)

一方通行「今着てンのより露出度高けェだろォがァァ!! 恥ずかしいとか言ってたよなァ!?」


―――


帰り途中

一方通行「ったくよォ、そンだけ買っちまったら俺の買ったヤツが無駄になンじゃねェか」カツカツ

番外個体「いいじゃ~ん。たくさんあって損はないんだし」テクテク

一方通行「理解できねェ……」

番外個体「とか言っても、結局買ってくれるんだよね。あなたって結構良い人?」

一方通行「ンな訳ねェだろォが。ただの気まぐれだっつの」

番外個体「ツンツンしちゃって♪ 可愛いヤツ」

一方通行「……殴ンぞ?」

番外個体「ハハッ、怒った~♪」タタタタ

逃げるように先を走る番外個体。追いかけるのも面倒な一方通行は溜息を吐く。

一方通行「あのクソガキと一緒にいるのと同じぐらい疲れるわ……ハァ」

打ち止め「誰と一緒だって? ってミサカはミサカは横から口を出してみたり」ヌッ

オワァァァァァ!!!

番外個体「ん? 何叫んでんのアイツ……?」


一方通行「こ、このクソガキがァ!! 最高のタイミングでいきなり現れてンじゃねェよ!!」

打ち止め「へへへ♪ さっき見かけたからつい後尾けちゃった。ってミサカはミサカはペロッと舌を出してみる。
      驚かしちゃってゴメンねっ」

一方通行「………心臓止まりかけたじゃねェか」

打ち止め「ねぇねぇ、ところで―――」

一方通行「あン?」

打ち止め「―――あの人、妹達だよね? どういう事? ってミサカはミサカはいきなり確信に迫ってみる」

一方通行「……?」

打ち止め「あのミサカ、他の妹達とは違うよね。けど流れている電磁波は妹達やミサカ以上お姉様未満ってトコかな。
      姿もお姉様より成長しているし……あのミサカは何なの? ってミサカはミサカは後を尾けた本当の理由
      を告げてみる」

一方通行「オマエは知らないのか?」

打ち止め「へ?」

一方通行「第三次製造計画についてだ」

打ち止め「…………知ってるよ」

一方通行「なら、アイツの事も分かンだろ?」

打ち止め「まさか、あのミサカは番外個体……なの?」

一方通行「あァ、そォだ」

打ち止め「!……何で? おかしいなぁ。あのミサカはネットワークからの信号が届いてないよ? ってミサカはミサカは
      当然の疑問をぶつけてみる!」

一方通行「…………」

打ち止め「それに、番外個体にはアナタを………するようインプットされているハズなのに、どうしてアナタと仲良さそうに
      歩いてるの? ってミサカはミサカは更に問い詰めてみる!」

一方通行「オイ、打ち止め……」

打ち止め「どういう事なの!? 説明して!」

一方通行「…………」

(言うべきか? ……イヤ、駄目だ。本当の事言っちまったらコイツも関わってくるに決まってる。俺らと一緒の所を
 見られでもしたら拙い。連中の手がもしコイツにも伸びちまったら、正直守りきれる保障がねェ。ここは何とか納得
 させて無理にでも帰さねェと……)

打ち止め「まさかアナタ、また危険な場所に飛び込んでいくんじゃないよね? 違うよね? もう危ない事はしないって
      ミサカと約束したよね? ねぇ答えて!! ってミサカはミサカは―――」

一方通行「落ち着け打ち止めァ!」

打ち止め「っ!」ビクッ

一方通行「……大丈夫だ。危ねェ事はしねェ」

打ち止め「………嘘じゃない?」

一方通行「あァ、別に危険に巻き込まれてる訳でもねェよ。ただアイツとの事情は……今オマエに言えねェンだ」

打ち止め「どうして……?」

一方通行「近い内話してやっから、今は納得しろ」

(可哀相かもしンねェが、コイツまで巻き込ンじまう訳にはいかねェ。念のため、事が済むまでは打ち止めともしばらく
 会わねェ方が良いな)

打ち止め「…………」

一方通行「オマエは何も心配しなくて良いンだよ。俺を信じろ」

打ち止め「…………」

一方通行(駄目か……)

打ち止め「………わかった。ってミサカはミサカはアナタを信じてみる」

一方通行「!……おォ、良い子だァ」ナデナデ

(すまねェ……)

打ち止め「……♪」(←撫でられて嬉しそうに目を細める)


一方通行「ところで、オマエ一人か? 黄泉川や芳川と一緒じゃねェのか?」

打ち止め「うん、ここからちょっと戻った店にいるよ。ってミサカはミサカは抜け出してきた事実を白状したり」

一方通行「なら早く戻ってやれ。アイツら心配すンだろォが」

打ち止め「うん………」

一方通行「ン? どォした?」

打ち止め「……次はいつ会える? ってミサカはミサカは確認の意味を込めて訊いてみる」

一方通行「………その内またな」

打ち止め「……本当?」

一方通行「あァ本当だ。近い内電話するから、ンな薄暗れェツラしてンじゃねェよ」

打ち止め「うんっ! 待ってるね! ってミサカはミサカはアナタから離れてみたりするけど……やっぱり名残惜しい…」

一方通行「ハイハイ、また今度な」

打ち止め「………じゃあね。ってミサカはミサカはサヨナラしてみる」

一方通行「おォ、気ィつけて行け」

パタパタと打ち止めは来た道を走っていった。時折一方通行に振り返っては手を振ってくる。
一方通行はそれに対し、杖を軽く持ち上げてやる事で答えた。
必ずまた会いにいくと言う想いを胸に秘めて。


番外個体「ちょっとぉー、ミサカの存在忘れないでくんな~い?」


○○
学区のある研究施設に御坂美琴を抱えた刺青男が何人かの部下による出迎えを受けていたのはそれから
間もなくの事だった―――。

 

―――


土御門元春はとある場所の資料室らしき部屋にいた。
目的は当然、今回の件での調べ物だ。上からの圧力により捜査不能となった警備員や風紀委員。
更にアレイスター直属の“自分達”が被害者との極秘接触。
被害者は一方通行と何らかの関係があるらしいが、一方通行本人はこれについて言葉を濁すばかり。『妹達』と
被害者の少女が類似している点も気に掛かるが、襲撃犯の全貌も気掛かりである。要するに色々と調べたいネタ
が豊富という事だ。大体そんな時に彼が情報を集めるのはこの書物や機械が豊富に備えてある資料室が主だった。
当然、一般人なら普段は立ち入る事のない場所にある。携帯電話の着信音にも気づかないほど彼は調べ事に熱中
していた。

「………なるほど」

その成果により今しがた把握した『第三次製造計画』の全貌に土御門の口角が上がる。
これで一方通行から直接伺う必要もなくなった。アレイスターの言葉の謎もようやく解けた。

「確かに、アイツが適任なハズだにゃー」

そう呟きながらウーン、と背伸びをする。

「さて、そうなると今回旅客機を襲撃した犯人の形もうっすらと見えてくるぜい」

もうひと調べ、と土御門は再び情報の詰まったデータバンクを探し始めた。
今回の事件については公けにされている情報が限られている。その裏を漁るのは彼が最も得意とすることだった。

「…………あった」

関係していそうな組織、機関を洗い出した。
どれが一番匂うか……。
土御門はスパイとしてこれまで培った勘と神経を研ぎ澄ませる。

「………こいつは違う。こいつも……違うな」

それぞれの組織の代表者の顔とデータをアップしては次の画面へ行く作業を繰り返す。
なかなか怪しい人物が出てこないが、土御門は焦らず坦々とリストを絞っていく。

「…………やはり、この時に動けそうな連中は“第三次製造計画”の連中……しかし、ヤツらに番外個体を襲撃する
 意味は……」

状況から言えば第三次製造計画について関わりを持つ組織が怪しいのだが、データにはまだ表示がない。
つまり計画者が怪しい事も考えられるのだが、旅客機には当然計画に携わった研究者も同乗していた筈。

「……やっぱりそれはないな。メリットゼロというか、無駄にも程があるだろ。………仕方ない」

もう一度バンク内のデータを調べる。しかし、同じやり方だと結果は変わらない。
土御門は少しだけ悩む仕草を見せた。

「………うーん、やっぱ自動規制を解除するしかないか」

ブラックアウトを覚悟の上で土御門はセキュリティレベルをMAXにした。要するに、機密とされいる極秘データの観覧
も可能になるという意味だ。当然これは危ない橋を渡るようなものだが……

「やっぱり上層部に一目置かれている連中なら、これくらいのリスクは冒さないとにゃー♪」

何故か土御門は楽しそうだ。彼は意外とスリル好きというか、神経が並の人間よりも図太いのだろう。
一緒にフランス上空でポイ捨てされた時、上条もそれを嫌というほど思い知っている。

やがて――

「お? 出てきた出てきた。うわぁ、セキュリティレベルMAXの組織がこんなに……つくづく歪んでるな。この街は」

まぁけど今更か。と言葉を付け加えながら組織リストを纏めていく。学園都市の闇が全て詰まったデータが今、土御門の
目の前に映る。

「………ん?」

しばらく無言で調べている内に、ひとつの組織名が目に止まった。


「『地獄の猟犬《ケルベロス》』……? なんだこりゃ?」


最新のデータにあったその名前。つい最近設立された組織らしいが、どこか気になった土御門は詳細をアップしてみた。

そして表示された代表者の顔写真と名前に、土御門は驚愕の表情を浮かべた。

「―――な!!?」

サングラスの奥の目を見開く。

「……馬鹿な………いや、そんなハズは……」

設立された日付は何度見ても同じだった。

「………ありえん……こんなの俺は聞いてないぞ……」

「どういう事だ。アレイスター……」

震える指で事件発生時刻と照らし合わせてみる。他にも何やら色々と探るように指を動かしていく。


結果は―――


―――
ビンゴだ。


「間違いなさそうだな……このデータに間違いが無いとしたら、こいつが今回の首謀者……しかし何故こいつ……」

「ッ! 待てよ……という事は……ヤツらの狙いは―――!!」

リストに映る首謀者の顔写真を残した土御門は、珍しく取り乱した様子で資料室から飛び出していった。
無人となった資料室で、顔に刺青を彫った男の写真が怪しく笑っている。


顔写真と、その上に表示された『木原 数多(きはら あまた)』という名前は、いつも飄々としている土御門の背筋を
一瞬凍りつかせるのに充分だった。

 

―――


刺青男こと木原数多は研究施設の自室にいた。御坂美琴を拉致監禁までした以上、後になどはもう引けないのだが、彼には
引く気などさらさら無かった。むしろ木原の狙いはここからスタートを切ったと言っても過言ではない。

「………さて、後はもう一人の方だな。……ククク、このまま上手くいきゃあニ~三日ってトコか」

ソファーに行儀悪く座りながらワインを飲む木原の自室の扉がコンコン、と音を立てる。

「おう、入れ」

「……失礼します」

ノックの後にドアが開かれ、遠慮がちに入室したのは部下の研究員の一人だった。


木原「―――で、どうだ? “アレ”は動きそうか?」

部下「えぇ、問題なさそうですね。さすがは学園都市でトップの発電能力を持つだけあります。あれほどの電力があれば充分
    すぎるかと……」

木原「ははは! 当たり前だろぉ? そのために捕らえたんだからなぁ。当初の片っ端から『妹達』集めるなんてクソだりぃ
    計画よりはよっぽどお手軽だったろ? 他の国にいるヤツらまで捜す手間もこれで大幅に削減できたって訳だ」

部下「しかし……大丈夫なんですか? いくら超能力者とは言え『闇』との関わりが少ない……言わば『表の住人』ですよ?
    この事がもし上層部に知れたら……」

木原「ハッ、心配すんな。お偉いさんにはすでに“手回し済み”だ。三日もすりゃ報道もされるだろうが、それも計算の内よ」

部下「えぇ!?」

木原「……なに驚いてんだよ? 俺には“ソッチ”のコネがねぇとでも思ったか? まぁ、さすがに上の連中が全員味方って
    訳じゃねえけどな。そこんトコはどうにでもなるんだよ。偉いヤツが一人でも味方にいるだけでもだいぶ違ってくん
    だぜ?」

部下「はぁ……なるほど……しかし統括理事長は?」

木原「あぁん? あーダメダメ、アレイスターの馬鹿はどうせ聞かねえだろうから、今回は出し抜き決定だ。余計なトコに
    まで漏らしたら、せっかく高い金出して購入した“道具”が全部無駄んなっちまう」

部下「………しかし、いくら何でも一般人を巻き込むのは…」

木原「あ? なんだテメェ、俺に説教たれようってか?」

部下「い、いえ! 決してそのような意味では…」

木原「言っただろぉが? コッチは手段なんて選んでる余裕が無えんだよ! 借金も大量に背負っちまってんだからなぁ!」

部下「も、申し訳ありません…」

木原「チッ……もぉいいから行けぇ。酒が不味くなる」

部下「あ、あの…」

木原「あぁ? まだ何かあんのかよ?」

部下「いえ……ただ…」

木原「何だ?」

部下「ずっとお伺いしたかったのですが……木原さんは、その……何故そこまで…」

木原「んだよ、何を言うかと思ったら……それかよ。お前『地獄の猟犬』にいるクセしてそんな事も知らなかったのか?」

部下「す、すみません…」

木原「………いいぜ、なら教えてやるよ」

部下「はい…」


木原「そこまでしてでも“ブチ殺してやりてぇ男”がいるからだ。どんなド汚ねぇ手ぇ使ってでもなぁ……。そのために
    俺はこうしてこの世に舞い戻ってきたんだ。わかるか? だから俺は『地獄の猟犬』なんだよ」ニヤァ


木原の表情は、その言葉と共に表情を歪めた。
かつてないほど、不気味に。
部下はその表情に恐怖を抱いたせいか完全に言葉を失っている。
今の答えを聞く限りでは完全に木原の私情だが、そこに指摘など入れられるはずがなかった。

「たったそれだけのために」など、今の彼に一体誰が言えようものか。


―――

 

 

「………ん…」

御坂美琴は薄暗い牢のような部屋で目を覚ました。

「――はっ!? どこ……ここ…?」

キョロキョロと見回すが、見覚えなどあるはずもない場所だった。例えるなら犯罪者でも収容されていそうなイメージの個室。
何故自分は今ここにいるのか一瞬呆けたが、すぐに自分に起こった状況を思い返す。

「そ…そうだ、私……アイツに……!」

目にも止まらぬスピードで急接近され、男の身体がすぐ目の前に来たと認識する前に意識を奪われてしまった。
美琴にとっては屈辱以外の何物でもない。

「私とした事が……完全に油断したわ」

無論、あっさりと拉致されてしまったのは美琴の過信も原因の一つだ。だが、それ以前に……

(けど、何者よアイツ……動きが全然見えなかった。まさか、黒子と同じ『空間移動系』の能力でも使えるっての? だとしたら
 ちょっと厄介ね…)

「とりあえず、ここから出るか……」

と…

「―――ッ!?」

立ち上がろうとした美琴の腕が、何かに引っ張られた。というより引っ掛かった。

「………ま、そりゃそーよね」

壁と美琴の両手は手錠よりも太めの鎖で繋がっていた。
幸い足は自由なままだが、鎖を外さなければ移動ができない。
さらに、目の前に見えるのは鉄格子張りに見える通路。これではまるで囚人だ。
冗談じゃないわ! と美琴は啖呵する。

「いつまでもこんな所にいれるかっつーの!」

能力を行使しようとするが―――

「痛ッ!!?」

―――
その瞬間、頭に激痛が走った。

「………うぅ」

突然の頭痛にその場でうずくまる美琴だが、演算を止めた途端痛みはすぐに消えた。
ギュッと閉じた目を薄っすらと開けた美琴は今起きたばかりの現象に不可解な表情をする。

「何?……今の」

今はもう頭痛など起こっていない。どうやら能力を使用するために脳が演算を行おうとしたのがキッカケのようだ。
試しにもう一度だけ軽くやってみるが、やはり演算処理と同時に軽い痛みが脳を襲った。どうもこの痛みは能力の
強弱に比例しているらしい。

「これは………」

実は前にこれと似たような経験がある美琴は、この現象の正体をすぐに見抜いた。


(―――まさか、キャパシティダウン……!?)

「ッ!!」

突然の声に驚く。

声の直後、美琴の前に姿を現したのは木原数多だった。

「へへへ…」

鉄格子越しに怪しく薄ら笑いを浮かべている木原に美琴は目を鋭くさせる。

「アンタは……ッ!」

喰って掛かろうと身体を前に動かすも、左右の手に繋がれた二本の鎖が邪魔をする。

「ぐぅ…ッ!!」

「おーおー、獰猛だねぇ。お嬢様は実はジャジャ馬娘でしたってかぁ?」

ぎゃはは! と笑う木原に美琴は唇を噛みしめる。

「アンタ、こんな事してタダで済むと思ってんの!? 早くこれ外しなさいよ! 今ならまだ許してあげなくもないわよ!?」

「あん? テメェまだ己の立場が分かってねーのか? おっかしいなぁ、常盤台は頭良い連中の集まりって聞いたんだが……」

「うっさい黙れ!! さっさとこっから出しなさいよぉっ!!」

ガシャンガシャン! と鎖を鳴らして暴れる美琴にすっかり呆れ顔の木原。

「……あー、ピーピーうるせえなぁ。ったく、だからガキは嫌いなんだよ」

「ガキって言うなっ!!」

「どう見てもガキだろーが。ったく……クソ生意気なトコだけはあの野郎にソックリだな」

「……あんま私を嘗めない方がいいわよ? いざとなったらこの建物ごとぶっ飛ばせるんだからね」

勿論脅しのつもりで美琴は警告するが、木原は表情を変えない。
それどころか、「できるもんならやってみろよ」とばかりに挑発的な態度で美琴を見下していた。

「…………ッ」

木原の表情で脅しが効かない事を悟った美琴は、核心に迫る。

「……何が目的よ? 私を一体どうしようっての?」

「なあに、ちょっとした『実験』に協力してもらうだけだ。別にどっかに売り飛ばしたりする訳じゃねえから安心しろよ」

「実験……?」

「まぁテストってヤツだ。とにかく、あんま反抗すんのは後々よくないぜ? 更に苦しい結末を迎えるだけだからな」

「…………」

「さぁて、じゃあ早速付き合ってもらうとすっか」

木原はそう言って鉄格子を開けた。
そのまま美琴の側まで近づき、両手の鎖を外していく。脱出するには絶好のチャンスともとれるが……

「一応言っておくが、逃げようだなんて馬鹿な考えは捨てろ。無駄以外の何モンでもねぇし、余計な仕事が増えんのは嫌い
 でねぇ」

「…………」

鎖を外しながら忠告する木原に美琴は何も答えなかった。

やがて鎖が外され、両手が自由になる。

「コッチだ。ついて来い」

拘束具一切無しの美琴に余裕の振る舞いで木原は前を歩き出す。
何とか隙を伺って逃げた方がよさそうだと判断した美琴はひとまず従う事にし、木原の後ろを無言で歩いた。


木原「もう気づいてるとは思うが、この建物内じゃ“一部の場所を除いて”能力は一切使えねぇ。何でか知りてぇか?」

美琴「……キャパシティ…ダウン」

木原「お? 知ってたか。なら話は早えぇな。まあ正確には演算妨害してんだが…」

美琴「それも知ってる。前に嫌ってほど体験してるわ…」

木原「ここに設置されてんのは多分お前が知ってるヤツよりも強力だぜ。何せ超能力者と言えど“完全無効化”だからな。
    前のヤツはお前でも何とか使えるか使えないかのレベルだったんだが、コイツは最新作よ。まぁ言っちまえばアレは
    未完成品っつーか、試作品みてぇなモンだったからなぁ」

美琴「!? ………あれが、試作品……?」ゾクッ

木原「驚いたか? 高かったぜぇ。おかげで俺は一気に借金まみれよ」

美琴「そんな……あれって確か……」

木原「あぁ、普通じゃまず手に入る代物じゃねぇ。けどたまたま身内で持ってるヤツがいたんだよ。ソイツからサンプルデータ
    さえもらえりゃあ後はどうにでもなる。こう見えて俺も一応科学者だからな。費用はかなり掛かっちまったが、結果は今
    お前が体感してる通りだ」

美琴「………ッ!」

木原「な、すげえだろ? ここは俺らがアジトにしてる研究施設なんだが、一部を除いた施設内には常にコイツを流している。
    俺達の耳じゃ到底聞き取れねえが、生憎コイツは耳からじゃなくて脳に直接伝えるタイプだ。分かりやすく言やぁ、そぉ
    だな……低周波ってヤツか。そういうこったから、いくら耳を塞いでも無駄だぜ?」」

美琴「……何で……そこまでしてアンタは一体何をやろうとしてんのよ!?」

木原「カカカ、その内イヤでも分かるからそう急くなって♪ とにかく、今は黙って俺に協力しといた方が無難だぜぇ?」

美琴(……冗談じゃないわよ! 誰が…ッ! 早く隙を作ってここから逃げないと……!)


木原「あ。そうだ、身内ってので思い出したんだがよ」ポン

美琴「えっ?」

木原「“姉貴”が以前お世話になったらしいな。『超電磁砲』」

美琴「は? 姉貴……? 何のことよ?」

木原「っと、いけねぇ。そう言やぁ自己紹介もまだだったか」ポリポリ

美琴「………」

木原「はじめまして、超電磁砲。元『猟犬部隊《ハウンドドッグ》』、現『地獄の猟犬《ケルベロス》』のボス―――」


と、その時―――


「お目覚めかい? お嬢ちゃん」


木原「―――木原数多だ。以後よろしく……ってかぁ」ニヤリ


美琴「ッッ!!? ……き、木原…って、まさか…」

木原「お前の事はテレスのクソビッチから聞いてたぜ? 第三位は反吐が出るぐれぇに生意気な小娘だってなぁ。ぎゃははは!」

美琴「!……って事は……アンタも木原幻生の…」

木原「あぁ? なんだ、お前俺の“じいちゃん”も知ってんのか……。ま、繋がってんのは血縁だけだから別にどうでもいいけどよ」

美琴「!!……」

さらっと告げられた衝撃の新事実に流石の美琴も驚きを隠せなかった。


―――

 

 

 


その頃

隠れ家に戻ってきた番外個体と一方通行

番外個体「―――ねぇ、ところでささっきの子……」

一方通行「ン?」

番外個体「ミサカに似てたけど、もしかしてあの子が最終信号《ラストオーダー》?」

一方通行「は……?」

番外個体「あれ? 違った?」

一方通行(!……そォか。ネットワークに接続できねェって事は妹達の存在は知ってても人物、つまり検体番号の特定までは
      できねェのか……つってもあのガキならそンな区別の意味はねェが…)

番外個体「おーい、聞いてる?」

一方通行「あ、あァ……まァな」

番外個体「やっぱり……ってことはあの子がミサカ達の上位個体なんだね」

一方通行「まァそォなンのか……」

番外個体「あなたとずいぶん仲良さそうだったけど、何で?」

一方通行「そ、そりゃあ…」

番外個体「まさか、あなた……」

一方通行「………!!」


番外個体「…………ロリコン?」


一方通行「なワケあるかァァあああああ!!!」クワッ

番外個体「どうどう。まぁコーヒーでも飲んで落ち着けよ」コトン

一方通行「フー……フー……」

番外個体「鼻息荒いって」

一方通行「…………」ゴクゴク

番外個体「うわ……ホントにあなたってブラック好きなんだね~」

一方通行「……文句あンのかァ?」ギロリ

番外個体「ロリコン呼ばわりしたのは謝るからそんな睨まないでよ。目が怖いんですけど~?」

一方通行(目つきの事をオマエだけには言われたくねェよ)


番外個体「さてと、んじゃミサカ着替えてくるね。あなたが買ってきた服は?」

一方通行「そこに置いてあンだろ」

番外個体「あ、これね。……ってか、ずいぶん買ったんだ~。まぁあって困ることはないけどさぁ」

一方通行「それで文句はねェだろォ。着替えンなら早く行け」

(いつまでもそのまンまの格好だと目のやり場に困ンだよォ…)

番外個体「はーい。隣の部屋借りるね♪」

一方通行「お好きにどォぞォ」

番外個体「………」ジーッ

一方通行「……ンだよ?」

番外個体「覗くなよ?」

一方通行「誰が覗くかァァ!!」

お決まりのやりとりを済ませ、番外個体は服の詰まった袋を抱えて別室へと向かう。
この馬鹿みたいな会話の応酬をもう三日も続けている自分の現状に、一方通行は大きな溜息をひとつ盛大に吐いた。

間もなく訪れる猟犬の牙によって、この何気ない二人の空間が呆気なく破壊されてしまう事になるのをこの時の彼は
まだ知らなかった―――。

 

 

 

 

 

―――


通路を歩く木原と、その後ろをついて歩く美琴。どこに向かってるのか美琴は気に掛かるが…

美琴「ねぇ。アンタに訊きたいんだけど……」テクテク

木原「あ? 何だよ?」テクテク

美琴「どうやって私の電撃を避けたのよ? ……どう考えてもやっぱ普通じゃないわ」

木原「ハッ、そんな事か…」

美琴「そんな事!? ふざけないで! 人間が雷の速度より速く動ける訳がない事ぐらい、子供でも分かんのよ!」

木原「そんなショックだったのか? テメェも案外プライド高けぇんだなぁ」

美琴「ッ……別に、今なら教えてくれたっていいじゃない……」

木原「まぁそれもそっか……いいぜ、教えてやる。つっても簡単なんだけどな」

美琴(簡単……!?)ピクッ

さりげなく自分の能力を見下されている気がした美琴は目を細めてムッとした。

そんな彼女の心境などお構いなしで木原は答える。

木原「確か三日ぐれぇ前か? お前と最初に遭遇してから、お前のありとあらゆる情報を部下に探らせた」

美琴「なん……ですって!?」

木原「俺の方も監獄でテレスからお前の能力や勝気な性格について聞けるだけ聞いた。まぁアイツも性格腐ってやがるから
    面会の終わりにゃ高笑いで締めてたけどな。ククク」

美琴「………!!」

木原「ウチの部下共は皆優秀でねぇ。つっても、使えねえヤツを切り捨ててる内に使えるヤツだけが残っただけなんだが……
    二日ほどでお前の能力は底まで調べがついた」

美琴「な……!」

木原「攻撃パターンは勿論、演算開始から放電までのロスや、能力の正確な範囲まで……。今じゃお前が持ってる下着の趣味
    まで調べがついてんだぜ? ぎゃはは! そんなにカエルちゃんが好きー♪ ってかぁ!」

美琴「~~ッッ!!?」

木原「そういう訳で、テメェの攻撃を予測して放電の瞬間に身体を移動させるくらいは造作もなかったんだよ。どうだぁ? 
    これで満足したかぁ?」

美琴「…………勝手にっ! なぁぁにしてくれてんのよおおっ!!!」シュッ

プライバシーの侵害によって怒りを爆発させた美琴だが…

木原「――おっと!」ガシッ

美琴「くぅ……ッ!!」ギリッ

木原「おいおい……なんだそりゃあ。色気ねぇにも程ってモンがあるだろぉ。これはデマだと思ったが……マジだったんか」

美琴「~~~~~~~~ッッ!!!」

怒りが爆発し、血のジュースを吐かせんとばかりに木原のわき腹へ繰り出された美琴の蹴りはあっさりと足を掴まれる結果に
終わる。
返ってきたのはスカートの中から晒された短パンに対する木原の冷めたコメントである。
これにより、美琴の顔は今にも噴火しそうなほど歪むのだが、木原が涼しい表情を崩す事はなかった。


その後も移動を続けるが、美琴の頬はむくれたままだった。

テクテクテク

美琴「………」ムッスー

木原「まぁ心中は察するが、これも計画のためなんだ。悪く思わないでくれや」

美琴「……勝手にストーカーされて悪く思うなってのが無理よ…」

木原「その代わりと言っちゃあ何だが、これから更に珍しいモン見せてやるよ。この学園都市でここにしかない、“とっておき
    の技術”ってヤツをな」

美琴「…………?」

木原「お、着いたぜ。ここだ」

ドアの前で立ち止まる木原。美琴も恨めしい顔から緊張の顔に戻る。

木原「先に伝えておくが、ここから先はキャパシティダウンの効果範囲外だ」

美琴「え!?」

木原「さっき“一部の場所を除いて”っつったろぉ? 実はこの部屋がそうなんだよ。お前の能力が働かなきゃ話になんねえんだ
    から当然の処置なんだがな」

美琴「いったい……何されるってのよ……?」

木原「ははっ、そぉビビんなよ。気楽にいけ」

美琴(気楽ぅ!? そんなの無理に決まってんでしょ!? もう怪しいなんてレベルじゃ……)

木原「しつけぇとは思うが、もう一回だけ忠告しとくぜ? 能力使えるようになったからって逃げようとか考えるな。今度は一発
    で気持ちよくさせねえぞ?」

美琴「わ……分かってるわよ」

(チャンス! 能力が使えるんなら、何とかこの部屋で……)キラーン


木原「じゃ、行くぜ」

ギィィ……バタン


美琴「!………な、何これ……?」

木原「な、どうだよ? すげえと思わねえか?」


目の前に映ったオペレーター室のような空間。前方の巨大モニターに見た事もない複雑な機械。科学の中でも最先端と呼ばれる
学園都市内で、更にここはその最先端な場所だ。と木原は言う。
確かにこれだけの設備を揃えるのなら借金地獄に陥っても無理はないが、木原自身はネタぐらいにしか以外に思っていなさそう
な様子である。
底が知れない男だ。と美琴は身体を震わせた。


美琴「…………」

(一体ここで……何をしようっての……?)

木原「今日は見学に連れてきただけだ。実際お前の出番は今から三日後になる訳だが……」

美琴「ッ!?」

木原「あん? どうした?」

美琴「ちょっと待ってよ! み、三日って……嘘でしょ!?」

木原「嘘なワケねーだろ。これはもう決定事項なんだよ」

美琴「何が決定よ!! ふざけんな!!」

木原「ふざけてねえよ。こいつは大マジだ」

美琴「じ……冗談も大概にしなさいよアンタッ!! 私は帰らなきゃいけないのよ!!」

木原「んん? 学校行きたいってか? 残念だが諦めな。それに“そんなつまんねえトコ”より、コッチの方がまだ意味あると
    思うぜ?」

木原の発言に美琴の頭は完全に沸騰したようだ。

美琴「はぁ!? 何それ!? 何でアンタにそんな事決めらんなきゃいけないの!?」

木原「どーせ学校じゃ浮いて退屈してんだろ? 超能力者の宿命ってヤツだ。よく分かるぜぇ」

美琴「アンタに何が分かるってのよ!? 私にだってちゃんと『居場所』ってモンがあるんだからっ!」

木原「あぁそう。まぁそんなのどうでもいいけどな。とにかくもう決まってんだ。我が儘ばっかたれてんじゃねえよ」

美琴「だから勝手に決めんなっての!!」 

木原「…………」

美琴「私がどうするかは私が決める! アンタの敷いたレールの上なんかを歩くつもりはないわ!」

木原「…………」

美琴「私は絶対帰る……帰らなきゃいけないのよ! ここで協力するか帰るかなんて、選ぶまでもない!」

木原「今のお前に選択権なんてご大層なモンが用意してあるとでも思ってんのか?」

美琴「………もういいわ。アンタにこれ以上言ったってどうせ無駄よね」

木原「あぁ、無駄だな。……で、どうすんだ?」


美琴「決まってんでしょ!? アンタをぶっ飛ばしてでもここから逃げてやる!!」

木原「いや、だから無理だって。っつか人の話全然聞いてねえなこいつ……」ハァ

美琴「うっさい! ちゃんと聞いてるわよ!………確かここじゃ能力使えるんだったわね?」ニヤッ

木原「あぁ、だったらどうした?」


美琴(だったら、超電磁砲で部屋ごと―――)チャリン


木原「チッ……!」ヒュッ

ドスッ

美琴「―――ぐっ!!?」ドサッ


木原「……ったくよぉ、これじゃせっかく忠告してやった意味がまるでねえだろぉが。あんまし世話を焼かすんじゃねえっつの。
    学習能力ゼロの小娘が」


美琴「……ううぅ…」


木原「まだ良く理解できてねえ様だから教えてやる。いいか? もう元の暮らしになんて帰れると思うな。テメェにゃ俺の計画の
    終わりまで付き合ってもらう事決定なんだよ。一度“コッチ”側の世界に入った以上、光を浴びる生活になんざ戻れやしねぇ」


美琴「…………ッッ」

木原「あと勘違いしねぇ様に言っておくが、俺はテメェを優しく扱うつもりは毛頭ねぇ。テメェは『お客さま』なんかじゃなく、
    ただの『実験動物(モルモット)』だ。ソイツを忘れんな。本来“科学者”と“能力者”ってのはそういう関係であるべき
    なんだよ。テメェが役目を終えたその後の末路は……もう言わなくても分かんだろ?」


美琴「…………」ギリッ


木原「これが最終通告だ。今度くだらねえ真似しやがったら……二度と人前に見せれねえ身体になると思え。テメェはせいぜい俺が
    機嫌を損ねないように身の振り方でも覚えてりゃ良いんだよ」


美琴「……ちく…しょう……ッ」

木原「でなきゃ、次は本当にこんなモンじゃあ済まさねえぜ!」ズドッ

美琴「が!!……は………ッ」ガクッ

地面にひれ伏した美琴の腹に強烈な蹴りを突き刺したのは、言葉とほぼ同時だった。
その一撃で再び呆気なく気絶した美琴に向かって唾でも吐きかけるかのように、木原はこう言った。

「恨むんなら、一方通行を恨むんだな」と。

美琴の監禁生活はこうして始まりを迎える。


―――

 

 

 

―――


その日の夜

一方通行「…………遅せェ」

番外個体「何さっきからケータイ睨んでんの? 誰かからの連絡待ち?」

一方通行「あァ、気にすンな」カパ

(何で誰も折り返して来ねェンだ……? 土御門はともかく、結標からも海原からもサッパリ応答がねェのは……)

番外個体「ね~、ところでミサカお腹空いたんだけど?」

一方通行(俺が病院でコイツといた三日の間に『グループ』内で何かあったのか? イヤ、だとしたら俺に何の音沙汰
      もねェのはおかしいよなァ……)

番外個体「おーなーかーすーいーたーっ!」

一方通行「ッ! ……あァ?」

番外個体「あァ? じゃなくて! お腹空いたから何か食べたいっつってんのーっ! ってかあなたさっきからミサカを
      放置しすぎじゃね? ミサカ別にそういうプレイは好きじゃないよ?」

一方通行「……もォ夜か」

番外個体「あなた大丈夫? その見た目で頭の中はお年寄りとかシャレになってないよ?」

一方通行「………仕方ねェな。何か食いに行くか?」

番外個体「え? あなたって料理……しないよねーやっぱ。うん、しないねこりゃ」

一方通行「オイ、勝手に質問を自分で解決してンじゃねェよ。……まァその通りだが」

番外個体「しょーがない。そんじゃあミサカが作ってあげよっかな♪」

一方通行「は?……オマエ作れンのか?」

番外個体「あ! バカにした目で見てる! 任せといてよ。これでも結構得意なんだから!」

一方通行「ホントかよ……」

番外個体「ムッ……よーしわかった。意地でも美味しいって言わせてやるんだからそこで大人しくしてて!」 

一方通行「不安要素しかねェぞ」

番外個体「……えーっと、冷蔵庫は…」スタスタ

一方通行「聞いてねェし………」

番外個体「お、結構材料あるじゃん♪ スーパー行く必要ないね」ガラッ

一方通行「…………」

この先は言わなくても分かる結果だった。
ただ、この日の二人の夕食は結局出前で済ませる事になったとだけ言っておこう。

その後も同僚から連絡が来る事はなかったが、一方通行は自ら動く訳にもいかずにただ待つしかなかった。


―――


それから更に三日後の朝……学園都市で報道された大事件


御 坂 美 琴  謎 の 失 踪


『常盤台中学在学、御坂美琴さん(14)の行方が三日前の正午すぎから完全に途絶えていることが分かり、警備員は―――』

『最後に目撃されたのは、寮の付近に位置する公園とされており―――』

『何らかの事件に巻き込まれたのではないかと見て、捜査を―――』

『同室で生活されている学生からは、未だ詳しい話が聞けていない現状で―――』


どのチャンネルでニュースをつけても同じ内容だった。新聞の一面にも大きく載っている。
常盤台のエース”を襲った突然の報道に学園都市の学生達は衝撃を受けた。
ほとんどの学生達が彼女の無事を願っている。
当然だが、事件の影響によりマスコミが殺到しているせいでこの日の常盤台中学は休校となった。


―――
正午・第七学区

「おいおい、今朝のニュース見たか?」

「あぁ、見た見た。常盤台の『超電磁砲』が失踪したんだろ?」

「急に姿消すとか、変じゃね?」

「超能力者が行方不明って、どーなんだろうな?」

「山奥とかで死体になってたら笑えなくね?」

路上でたむろしながら口々に今朝の話題で盛り上がるスキルアウト達。

「けどよ、誰かが攫ったとか有り得るぜ。超電磁砲って相当生意気らしいし、恨み買ったりとかもしてんだろ」

「えっ? そうなのか?」

「あぁ、実は俺の友達が一回声掛けた事あるらしくて……」


??「ちょっと、そこのあなた方」


「!」


突然掛けられた女の声にスキルアウト達は顔を上げる。
そこにいたのは『風紀委員《ジャッジメント》』の腕章を腕につけた一人の少女だった。

「あぁ?……何だお前?」

「風紀委員が俺達に何か用かよ?」

スキルアウト達は「早くどっか行けよ」と目で伝えるが、少女は立ち去るどころか更に歩み寄ってくる。

??「あなた方にお尋ねしたいのですが、『御坂美琴』について何かお心当たりはございませんか?」

目の前で立ち止まった少女は丁寧すぎて逆に怖い口調でそう尋ねてきた。

「何? 聞き込み捜査?」

「風紀委員も大変だね~」

??「知らないのでしたらもう結構ですの」

素っ気無く言って立ち去ろうと背を向ける少女の腕をいちばん近くの一人が掴んで止める。

「もう帰っちゃうの~? もう少しゆっくりしてきなって♪」

「つーか“んなダルい仕事”放っといてさ、俺らと遊ばない?」

「何だよ。よく見たら結構可愛いじゃん♪」

「っつかその制服常盤台? ってこたぁ今日休みだから問題なしだな」

「どっか楽しいトコ行こうぜ~」

止められて振り返った矢先に次々と返ってくる余計な返答。少女は呆れたのか俯いてしまった。

「あれ? 怖くなっちゃった?」

「バーカ♪ お前の顔のせいだよ」

「「「ぎゃははははは♪」」」


??「…………」


「お? 大丈夫~?」

顔を上げて再び座ったままの彼等を見下ろす少女。
表情は俯く前と変わっていないように見えるが、彼等は気づかなかった。

少女の目の色が恐ろしいほど黒く変化していたことに―――。

 

 

―――


少女の目に闇が現れてから数分後。
そこに映っていたの狂ったように暴れまわる少女と、完全に戦意を喪失した若いスキルアウトの面々だった。


「ひぃぃ……っ!!」

「も、もうやめてくれぇ!」

「あ……あんた風紀委員だろ!? お、俺達が一体何し――」


「やかましいっっ!!!」ドゴッ


「――グハッッ!!」

地面にひざまずき許しを請うような目で見上げるスキルアウトのわき腹を容赦なく蹴り飛ばす少女。
その後も少女は完全に我を忘れた形相で恐怖に怯えたスキルアウト達を一人、また一人と徹底的に叩きのめしていく。

「ハァ…ハァ……ふぅぅ………思い知りましたか? この下衆ども…」

数分間、休むことなく一方的な暴行を働き続けた少女は肩で荒く息をしながらボロ雑巾となった男達を見下す。
その中の一人がボロボロの身体を起こして少女に抗議する。

「ぐ……テメェ……正気かよ…? 風紀委員が…一般人にこんな事して………ただで済むと?」

もはや立つ力も無い男に少女は氷のような冷たい視線で答えた。

「あなた達がどうなろうが、わたくしの知った事ではありません」

「ッ!」

風紀委員とは思えない言葉に背筋が凍る男。
だが、すぐに強がりともとれる姿勢で少女に向かって言う。

「ふ…ふざけんな! これは立派な傷害罪だ! テメェの特徴は覚えたからな……今すぐ支部へ駆け込んで、訴えてやる!!」

「ふん、好きにすればよろしいですわ」

「!?」

少女のまるで何も感じていないような声に言葉を失うスキルアウトの男。
何だこの女? 普通じゃない……!! と、歯をガタガタ言わせて恐怖した。

「……仰りたい事はそれだけですの? ではそろそろ眠って下さいな。とても目障りですので―――ッ!!」

「―――ぐふっ!!?」

言い終わると同時に少女は蹴りを入れて最後の一人を完全に沈黙させた。


「…………」


静まり返った溜まり場で倒れたままのスキルアウト達に少女は背を向ける。

「お姉様……」

聞きとれないほどの小さな声でたった一言呟いた少女は、ゆっくりとその場から姿を消した。
無残なまでにボロボロにされたスキルアウト達を、放置したまま。


―――

 


「……………」

鬱憤を晴らすように暴れ、路地から出てきた少女はとぼとぼと大通りを歩く。
その様子は、先ほどスキルアウト達の前で見せた表情とはうって変わって悲しみと疲労により憔悴した後のようだった。
足元も若干フラついているが、これは急激に高まった感情によって体力を一気に使った影響か。

「お姉様ぁ………どこにいらっしゃいますのぉ……?」

この言葉をここ三日で何度使ったか、もう少女は覚えていなかった。


そうしてしばらく歩き続けている内に、彼女の後ろから怒ったような口調の声が掛けられる。


「―――白井さん!」


「……?」

名前を呼ばれて振り向いた少女、白井黒子の目に映ったのはまず頭頂部に咲いた色鮮やかな無数の花。
これに該当する人物は一人しか知らない。


「初春……」


頭の花の華やかさから一転した表情の初春飾利は、振り向いた顔を戻して歩こうとする黒子の前に立ち塞がった。
まるで「行くな」とでも言うように。


黒子「……どいてくださいまし」

初春「どきません!」

黒子「………」

初春「どこに行くつもりですか?」

黒子「言わなくても分かるでしょう? お姉様を捜すんですのよ」

初春「……また、“あんなやり方”でですか?」

黒子「……!」

初春「……いくら何でもやり過ぎです! あれじゃ裁判になっても文句言えませんよ!?」

黒子「………見てましたの?」

初春「当たり前です! 固法先輩からも『なるべく一緒にいてあげて』って言われてるんですから……」

黒子「あの方々なら自業自得ですわ。お姉様の悪口などを好き勝手に叩くから、鉄槌を下してあげたまでですの」

初春「それでもあれはやり過ぎですよっ! あの人達が無抵抗になった後も一方的に殴るなんて……」

黒子「…………」

初春「止めなきゃ。って思ったんですが………怖くて、足が動かせませんでした。あんなの白井さんじゃない………
    白井さんらしくないですよ!」

黒子「………余計なお世話ですの。放っておいてくださいまし。風紀委員も警備員も、どういう訳か発令された上層部
    からの『捜査禁止命令』を受けている以上、もうアテにはなりませんし期待もできません。表面だけは『捜査』を
    続行している事にするなんて、馬鹿げているにも限度がありますわ……」

初春「……だからって単独で、それも腕章を付けて動くのはさすがにマズイです! もしこの事がバレたら……クビどころか、
    下手したら逮捕だって有り得ますよ!?」

黒子「覚悟の上ですの。風紀委員として動けない以上、わたくしだけでも何とかしてみせます」

初春「そんな……」

黒子「それにわたくしは今日非番ですの。腕章は聞き込みをする上で都合が良いから付けているだけですわ。やり過ぎて
    しまった事については反省していますの。次からはなるべく抑えるように努めますわね……。ところで、初春は今日
    出勤でしょう? わたくしはもう大丈夫ですので、あなたは早くお行きなさいな。わたくしについていると、あなた
    にまで火が飛ぶかもしれませんわよ?」


これ以上関わるな。と言いたげに初春を突き放そうとするが…

初春「そうはいきませんっ!」


黒子「!」

初春「今の白井さんを放っておくなんて、私には無理です! 先輩に言われなくても、私は白井さんを放ってなんて行けません!
    私達、パートナーじゃないんですか!?」

黒子「……っ!」

初春「ひとりで危ない橋なんか渡らせませんからね?」

黒子「別にそんなつもりはありませんわ。お姉様を捜すのはあくまで勤務外ですから、心配など不要ですの」

初春「それだけじゃありません!」

黒子「?」

初春「白井さん……御坂さんが行方不明になってから、いったい何時間寝ましたか?」

黒子「!…………」

初春「心配なのは分かります。けど……私だって心配なんです! 佐天さんも心配で眠れないって………それに固法先輩だって」

黒子「……何が仰りたいんですの?」

初春「自分だけだなんて思わないで欲しいんです! 御坂さんが心配なのは皆一緒なんですよ!? なのに……自分だけ食事も
    とらないで、アテもなく一人で捜し続けて……手掛かりすら掴めない苛立ちを一般人にまでぶつけて……」

黒子「…………」

初春「白井さん……ここニ~三日、まともに寝てないんでしょう?」   
   
黒子「………ふ…」

初春「…………」

黒子「何を言い出すかと思えば、そんな当たり前の事を……。お姉様が見つかるまではのんびり休んでなどいられないに決まって
    ますわ。初春も重々承知だとは思いますが、わたくしはお姉様のためならどんな事でもしてみせますのよ?」

初春「けど……白井さんがこのまま無理して倒れでもしたら……何にもならないじゃないですか!」

黒子「わたくしなら平気ですわ。この程度で音なんて……」


初春「嘘ですっ!!」


黒子「!?」

初春「自分の姿を鏡でよく見てください! 目に隈をつくって、肌はカサカサで、髪は傷んで、頬はすっかり痩せこけて……
    痛々しくて……もう見てられません…っ……今の白井さんを御坂さんが見たら……きっと、怒りますよ……」グスッ

黒子「…………」

初春「私…っ……もう、そんな白井さんを……見たく……ない…」ポロッ

黒子「……初春…」

初春「だから……もうっ……ッッ……やめて、くだ……さいっ………御坂さんを早く見つけたいのは……私だって同じ……
    なんですからぁ………ッ」グスッ

黒子「…………」

初春「……もう………やめて……っっ」グスグス

黒子「ですが……わたくしは………ルームメイトでありながら、お姉様の異変に全く気づけなかったっ!!」

初春「白井さんが悪いんじゃありませんっ! 自分を責めないでください………」

黒子「でも……お姉様が、わたくしに何も言わずにもう三日も……携帯も全く繋がらず、送り続けたメールも全てエラー……
    これをただ事とは思えません……っ。お姉様の身に何かあったのではないかと考えると……わたくしは……もう……」

初春「………白井さん…っ!」

黒子「わたくしは……わたくしは一体どうしたらいいんですのぉぉ……っ!!」ポロポロ


精神を繋ぎ止めるために装着していた心の仮面を外し、二人の少女はそのまま路上で抱き合い泣いた。
心から慕う先輩の身を案じる黒子と、憧れのお嬢様として友人として、ただただ無事を祈る初春。
精神的に相当参っていたのは二人とも同じだった。

その後、初春と共に風紀委員支部へ向かった黒子は備え付けられている宿直用のシャワーと仮眠室で、これまで殆ど不眠不休で
動き続け酷使した身体の疲れをひとまず癒す事にした。
「こんなひどい姿でお姉様に会う訳にはいかない」と自分に言い聞かせ、今は少しでも休む。
歯痒い思いを抑え、焦る気持ちを押し隠し、黒子は眠る。
愛するお姉様の無事を、ただ信じて。

 

 

 

 

―――


~『グループ』が所有する隠れ家~

オーイ オーキーロー 

一方通行「……zzzzz

チョットー モウアサダヨー

一方通行「……ンゥ……うるせェぞ。クソガキィ……むにゃ」

クソガキ? ナンノユメミテンノー? 

一方通行「………ンン…」ノソノソ

番外個体「―――おーい! コラー! ア・ク・セ・ラ・レーターーー! 起きろーーー!!」

一方通行「!……ンあ……?」パチッ

番外個体「あ? 生きてた」

一方通行「おォ、オマエか…………っつか、今のはどォいう意味だァ?」

番外個体「いや~、あなたって肌白いからさ。一歩間違うと死体にも見えるってか…」

一方通行「久しぶりの不愉快な目覚めを提供してくれてアリガトウよ。オマエも白くなりてェンならお礼に協力して
      やってもイイぜ?」ギロッ

番外個体「おーっと、やっぱ寝起きのあなたってちょっと怖いね♪」

一方通行「……怖がってるよォには見えねェが?」

番外個体「気のせい気のせい☆」

一方通行「ったく…………!…」

番外個体「……どうしたの? 急に固まったりして…」

一方通行「…………………オイ、ちょっと待て」

番外個体「ん?」

一方通行「なンで当然みてェにオマエが俺の隣りに居ンだよォ!?」

番外個体「? だってあなたが『隣りで寝ていい』って言ったから…」

一方通行「そりゃ『隣りの部屋で』って意味だァ! っつーか一昨日までは普通にソッチで寝てただろォが!」

番外個体「え……そうだっけ?」

一方通行「あァ? 何だオマエ、まだ寝ぼけてンのか?」

番外個体「うーん……あれ? なんでかなぁ……一昨日ミサカどこで寝てたっけ……?」

一方通行「ッ!?」

(しまった……! そォ言やコイツは記憶障害で脳が不安定なンだった……ややっこしいなクソ)

番外個体「……ん~」

一方通行「オイ、もォイイからいつまでも気にしてンな。それより腹減ってンならメシ食いに行くぞ」

番外個体「お! いいね~♪ ミサカ腹ぺこ~。それじゃーまたミサカが作っt」

一方通行「ファミレスで良いよな? よし決定。ンじゃ早い内に行くとすっかァ」

番外個体「………」ビリッ


ウォオ!? アブネエナ! アサッパラカラナニシテクレテンダァ!

ウルセー!! コノデリカシーゼロノガリガリヤロウ!! サワヤカナアサトトモニシンジャエ!!

アァ!? イミワカンネェーンダヨォォォ!!

 

(隠れ家に身を潜めてからもう三日……土御門も結標も海原も音信不通のまま。一体どォなってやがンだ?)

(明日は番外個体を検診に連れてく事になってっから、そン時に医者から何か聞けりゃあ良いが…)

(どォも妙な胸騒ぎがすンだよなァ……)


―――

 

 

 


~ファミレス~

番外個体「あなたってさ、寝てる時の顔と起きてる時の顔のギャップが激しいよね」

一方通行「あ? 急に何言い出すンだァ?」

ファミレスでモーニングセットを平らげて食後のコーヒーを啜る一方通行に唐突な事を言う番外個体。


番外個体「前々から思ってたんだけど、言ったらあなた怒るかなぁって………怒った?」

一方通行「……自分の寝顔がどォかなンて知る術もねェから分かンねェし、別に怒りゃしねェよ」

番外個体「お? 寛大だね~。コーヒー飲んでる時なら機嫌良さそうだから言ってもいいかなって思ったらその通りでした~♪」

一方通行(クソガキにも言われたなァ……っつか、人の寝顔を覗く趣味とか……超電磁砲のDNAはどォなってンだよ…)

番外個体「ねぇ、この後どうしよっか?」

一方通行「どォするって……」

番外個体「たまにはさ、どっか出かけない? ミサカはまだこの街の事あんま知らないし」

一方通行「……構わねェが、人の多いトコは行かねェぞ?」

番外個体「そうだね。ミサカも人混みはドッチかっていうと苦手かも」

一方通行「………あと十分ぐらいしたら出るかァ?」

番外個体「そうだね。………」ジーッ

一方通行「……何でそこで見つめてくンだよ?」

番外個体「い~やぁ、ちょっと意外だっただけ~」

一方通行「何が?」

番外個体「あなたって遊びに行くの嫌いそうじゃん。超インドア派です、みたいな?」

一方通行「俺だって暇な日ぐれェ外出るっつゥの」

番外個体「えー!? 日の光浴びててそれ!? ウッソだぁ~!」

一方通行「………紫外線に強ェンだよ。多分生まれつきに…」

番外個体「はぁぁ!? 何その超羨ましすぎる体質!? ちょっとぉ! ミサカと身体交換してよ!」

一方通行「女に羨ましがられたってちっとも嬉しくねェぞ……」

番外個体「いいな~。あなたって北欧とかソッチの方の人なの? 何かそんな気がする…」

一方通行「あ、あァ。まァあンまし覚えてねェけどなァ」

(そォ言やそンな設定にしたンだったな……チッ、自分で言っといて何だが、イイ加減まどろっこしくなってきやがったぜ。
 どォも俺に演技は向いてねェらしい……)


番外個体「さて、じゃあそろそろ行きましょっか!」

一方通行「どこに行きてェンだ?」

番外個体「今日天気良いから景色の綺麗な海沿いの公園とかが良いなぁ~」

一方通行「ンじゃそこにすっか。こっからなら遠くねェし」

番外個体「あなたはどこか行きたいトコはないの?」

一方通行「ン……特にねェ」

番外個体「寂しいヤツ……」ジトー

一方通行「うるせェ! オマエが行きてェ場所で良いっつってンだ! 行くンならさっさと行くぞ!」カツカツ

番外個体「あぁ!? ちょっ、待ってってば~!」

これは、まさかデート? 慌てて追いかける番外個体はふとそんな事を思ったが、杖を鳴らして先を歩く一方通行の方はどう思って
いるのか。

(ま、たまには外の空気を吸わせンのも悪くねェだろォ)

こうしてほのぼのと過ごしていられる時間もあと僅か。
それを未だ知らない一方通行と番外個体は、明るい太陽の光を浴びながら移動を続けた。

彼等の平和を脅かす足音は、もうすぐそこまで迫ってきていた―――。

 

 

―――


~海浜公園~

番外個体「うわぁ~……海キレイだねぇ」

一方通行「あァ」

(考えてみりゃあのガキともここには来たことなかったな……)

番外個体「な~に感慨に耽っちゃってんのかにゃ~ん? 似合わないよ?」ニヤニヤ

一方通行「う、うるせェよ」

番外個体「あ! あっちから砂浜行けるみたいだね。行こ行こ♪」グイッ

一方通行「わかったから引っ張ンな」


~砂浜~

ザブーン…

番外個体「ひゃっ、冷たっ! あ~あ、夏だったら良かったのにぃ…」

一方通行「もォすぐ冬だぞ?」

番外個体「もっと早くここ来たかったな~。ロシアの海なんて凍ってるから……」

一方通行「見たことあンのか?」

番外個体「うんにゃ。イメージ的に」

一方通行「………」(だよなァ…)

番外個体「さっきから渋く決めてどしたの? あ、さてはミサカの水着姿でも想像してたとか?」

一方通行「は? 何言ってンだァ?」

番外個体「照れんなって♪」

一方通行「照れてねェし」

番外個体「きゃわいい~♪」

一方通行「……沈めンぞ」

番外個体「あははは♪ 怒った~」ザザザザ

一方通行「あ! オイ走ンな! ックソ! 砂浜じゃ杖が上手く……」

番外個体「あっひゃっひゃ! 動物の赤ちゃんみたい! ウケル~♪」

一方通行「ちっくしょ。歩きにきィ…」ザッ ザッ

番外個体「ミサカがおぶってやろっか~?」

一方通行「馬鹿にしてンじゃねェぞ!」ザッ ザッ

番外個体「えい♪」グイッ

一方通行「うォ! 馬鹿オマ――ッ!?」フラッ

番外個体「え?―――キャッ!?」

ドサッ

一方通行「…………」(←番外個体に馬乗り)

番外個体「…………」(←真下)

一方通行「あ……」

番外個体「………///

一方通行「わ、わざとじゃ……!」

番外個体「変態……///

一方通行「っつか、オマエが急に引っ張るからだろォが!」

番外個体「あはは、ゴメンゴメン……」

一方通行(あァ…? てっきりまた電気が来ると思ったら、何だこの反応……?)

番外個体「……ねぇ」

一方通行「な……何だよ?」

番外個体「そろそろ、どいてくれたりすると……その……」モジモジ

一方通行「!? わ、悪い!」ムクッ

番外個体「………」

一方通行「ほら……」(←手を差し伸べる)

番外個体「うん……」ギュッ

スクッ


番外個体「…………」

一方通行(何黙り込ンでンだァ……? 普段うるせェコイツがダンマリとか違和感しかねェ……っつかこの雰囲気がまずおかしくねェか?)

番外個体「………なんかさぁ」

一方通行「ン?」

番外個体「さっきあなたの手を掴んだ時……なんか、懐かしいってか……よく思い出せないけど、そんな気分になったんだよね」

一方通行「……そォ…か」


番外個体「やっぱり、あなたとミサカって……どこかで逢ってる気がする」

一方通行「!?」

番外個体「やっぱり、ミサカの勘違いなのかな……」

一方通行「…………」


(少しずつだが……コイツは安定してきている。まだボケた所はあるが、確実に元の番外個体に戻りつつある)

(ネットワークへの接続が再び繋がるのも……もう時間の問題かもしれねェ…)

(そしたらまた……負の感情を拾い集めて、コイツは俺を――)


番外個体「ご、ごめん。 変なこと言っちゃったね。忘れていいよ」

一方通行「……あァ、気にすンな」

番外個体「っくしゅん! ……海沿いって、やっぱ冷えるね~。公園の方に戻ろ?」

一方通行「そォだな」


(死ぬのは……別に怖くねェ)

(前は自分の命が一番だったが、今はそれ以上に大事なものがある)

(怖いのは……コイツが、今目の前で俺に微笑ンでるコイツが俺の命を奪うために生産された事)

(なンだかンだ言って、コイツと再会して一緒に過ごすハメになっちまってからもう一週間……)

(負の感情がねェコイツの……言わば『表』を見てきた……)

(無理だ……)

(コイツを傷つけるのは……今の俺じゃ絶対にできねェ)

(けど、俺は死ねない……クソガキもコイツも妹達も、全員イカレた呪縛から解き放たれて自由に生きられる。その時まで、
 俺はアイツらを守り続けると決めた)

(……考えたくもねェが、コイツが俺にまた牙を剥いた時……その時が来ちまったら俺は―――)


(―――どォすれば…良い……?)


ザッ ザッ ザッ



番外個体「あ! ネコみーっけ♪」

ネコ「ニャ~」サササッ

番外個体「あ……」

一方通行「どォした?」

番外個体「逃げられちゃった……」

一方通行「ネコか……」

番外個体「好きなのになぁ~。こういう時ってこの能力恨めしいよね。あはは……」

一方通行「………」

番外個体「………」ショボーン

一方通行「………」カチッ


ポン…ッ


番外個体「ん?……何?」

一方通行「ネコに触りてェンだろ? まだあそこにいるじゃねェか」

番外個体「いや……だから逃げられるって。ミサカの身体は常に電磁波が発生してるから動物には…」

一方通行「ンな事ァ知ってンだよ。イイから行くぞ」

番外個体「……ちょっ」

カツ カツ

ネコ「ニャ~♪」ゴロゴロ

番外個体「!……うそ……逃げない…」

一方通行「………」

番外個体「なんで……?」

一方通行「さァな、鈍感なネコなンじゃねェのか?」

番外個体「あはっ♪」ナデナデ

ネコ「ニャ~」

番外個体「か~わいい~♪ ネコに触れる日が来るなんて思わなかったよぉ」

一方通行「……ソイツは良かったなァ」

番外個体「うん♪ ……ねぇ、いつまでミサカの肩に手ぇ置いてるの?」

一方通行「歩き疲れちまったからなァ。このまましばらく貸せ」

番外個体「はは、貧弱ぅ~」ニタァ

一方通行「っせェよ」

(触れてねェと生体電気のベクトルが操れねェだろォが)

番外個体「まぁいいか。考えたらあなた杖つきだもんね」

一方通行「そンなのひと目見りゃ分かンだろォ」

番外個体「ありがと……」ボソッ

一方通行「あン?」

番外個体「なんでもなーい」

一方通行「…………」

番外個体「おー、よしよし」ナデナデ

ネコ「ニャー♪」ゴロゴロ

一方通行「………」


(考えたら、今のコイツと俺って……脳に障害負ってるって意味じゃ同じなンだよなァ…)

(……イヤ、同じじゃねェな。コイツら妹達がいなきゃ俺はこンな風に考える事も立って歩く事もできねェンだし…)

(コイツを重病人みてェに最初は見ちまったが、俺に比べりゃまだ救いようがあるンじゃねェのか)

(ンな事に今気づいたからどォって訳でもねェけどよ……)

(っつーか変だよなァ。さっきからどォしてこンな事ばっか考えてンだ俺は…?)

(ガラでもねェ……)


番外個体「ばいばーい。元気でね~」ヒラヒラ

一方通行「………」

番外個体「さて……もうネコ行っちゃったし、そろそろ行こ?」クルッ

一方通行「ン? ……あァ」


番外個体「~~♪」

一方通行「ずいぶン機嫌良いなァ」

番外個体「そりゃあね。夢の一つが叶ったんだもん」

一方通行「あァーそォかい。良かったじゃねェか」

番外個体「うん♪ 来て良かったな~。……また来ようね」

一方通行「機会があったらなァ」

番外個体「ううん、絶対行くの! ………あ」ピタッ

クレープ屋の前で番外個体が足を止めた。

一方通行「……オイ」

番外個体「………」ジーッ

一方通行「……食いてェのか?」

番外個体「」コクリ

一方通行「ったく、仕方ねェな」


アリガトウゴザイマシター


番外個体「♪」パクッ

一方通行「………」

番外個体「おいしー!」

一方通行(つくづく甘いよなァ俺ってヤツァ。一体いつからこォなったンだか……)

番外個体「あなたは食べないの?」

一方通行「俺はイイ。甘いのは好きじゃねェンだ」

番外個体「ひとくちだけ食べてみなよ。絶対おいしいから」

一方通行「イヤ、だから要らねェって」

番外個体「はい、あーん」

一方通行「オイ、人の話聞いてンのかァ?」

番外個体「あーん」ジリッ

一方通行「ってかオマエ…」

番外個体「あーん」ジリジリッ

一方通行「…………」パクッ

番外個体「ふふっ♪」

一方通行「………」ムシャ ムシャ

番外個体「どう? おいしい?」

一方通行「…甘ェ」

番外個体「やっぱりヤだった……?」シュン

一方通行「けどまァ、たまには甘いモノも悪くねェ」

番外個体「ホント?」パァァ

一方通行「おォ、あンがとな」(あからさまっつーか、分かりやす過ぎンだろコイツ…)

番外個体「半分あげる♪」ニンマリ

一方通行「ひとくちだけっつっただろォが!」

番外個体「いいから食えよー」ズイッ

一方通行「だァ! バ――!?」ベチャ

番外個体「あ……」

一方通行「……こ、この野郎ォ」(←口の周りクリームだらけ)

番外個体「……ぷっ! あっひゃっひゃっひゃ!! なにそのツラ面白れぇ~!! ばっかみてぇ~!!」パン パン パン

一方通行「………あー、こりゃちっとばかしお仕置きが必要だなァァ」スクッ

番外個体「おっと、ここは戦略的撤退っ♪」ピュー

マチヤガレコノクソアマァァァァ!!

アハハハ マテッテイワレテマツバカハイナイデショバーカ


二人の時間はこうしてマッタリと過ぎていく。
その後も他愛無いコミュニケーションはしばらく続き、一方通行も護衛という義務感を段々と忘れつつあった。
それほどに楽しく、平和なひとときだったから。

「そろそろ帰ろっか」

「そォだな」

 

~帰り道の途中~

「えいっ」ギュッ

「!?」

どういう心境なのか、番外個体が杖をついていない方の腕にいきなり自らの腕を絡めてきた。

「~~~♪」

「………」

咄嗟に抵抗しようとも思ったが、番外個体のどこか幸せそうな表情に免じて諦める事にした。

(ったくよォ……歩きにくいっつの)

文句を心中で漏らす。が、

(チッ、今回だけだかンなァ)

まんざらでもなさそうな顔をしている事に当の本人は気づかず、二人はそのまま家路に着いた。


―――

 


○○
学区内、研究施設(『地獄の猟犬』アジト)

「……ハァー…」

施設内の地下。牢屋の一歩手前とも言える部屋の中心で大きな溜息を吐くのは御坂美琴。

彼女がこの独房で監禁生活を強いられてから早くも三日が過ぎた。
窓もなく、電球一個分の明るさしかない室内は美琴の鬱な気分を更に促進させている。

「…………」

言葉もなくただ俯き、膝を抱えて時を過ごす。動こうにも左右から伸びた鎖が両手に繋がれているため不可。
用足しや食事、シャワーの時は木原の部下である女性研究員が付き添い、鎖も外されるが不自由に変わりはない。
最初は勿論脱走を目論んでいた。
しかし、能力が使えない以上できる事などたかが知れている。そして木原によって徹底された監視体制の中では、
隙など簡単に見つかるはずもなかった。


独房内や通路に仕掛けられた監視カメラや盗聴器。
外へ通じる全ての扉はカード式のロックシステム。
この上、交代制で見張りの警備員も各持ち場に配置されていては、能力を封じられてただの女子中学生と化した
美琴の希望など、打ち破るのにそう時間は掛からない。

もはや逃げられる可能性は絶望的皆無だった。

こうなっては大人しく助けを待つしかない。自分が帰らない事によって動いてくれる人間はきっといるはずだ。
自力で脱出できる希望は捨てつつあるが、助かる希望までは捨てていない。いや、捨てきれない。

(……みんな、今頃どうしてるんだろ……)

(黒子、無茶してないかな……)

(初春さんや佐天さんも……)

(心配かけて……ごめんね)

(それに―――)

そこで頭に浮かぶのは、彼だ。
ツンツン頭の黒髪に「不幸」が口癖の少年。
自分の築き上げた『自分だけの現実《パーソナルリアリティ》』を崩壊させるほどに大きくなってしまった存在―――。

(アイツは……どうしてるかな…)

(逢いたいなぁ)

(逢いたい……)

今では美琴の希望を繋ぎ止めてくれている大切な存在でもある。
もしかしたら、彼がまたあの時のように助けに来てくれるんじゃないか……。
そんな淡い夢も抱いてしまうほど、美琴の精神は追い詰められていた。
いくら努力して超能力者の第三位に上り詰めたとて、実際の中身は普通の女の子だ。
こんな生活にいつまでも耐えられるものでもない。

これが更に一週間、一ヶ月と続いてしまえばどうなるのか……。

美琴はそれ以上考えるのを放棄していた。正確には「考えたくない」と言った方が正しいか。

「もう、いや………。いつまでこんなトコにいなきゃいけないの……」

「帰りたい……早く帰りたいよ……」

果たして彼女はあと何日持つのか? これではやがて精神そのものが崩壊してしまうのも時間の問題である。

と、その時……


「―――よう、気分は……良いワケねえか」


「…………」


皮肉そうな笑みを浮かべて登場した木原数多。自分を拉致監禁した張本人が目の前に立っているにも関わらず、
美琴は顔を上げて睨む事しかできない。無力な自分に舌を噛み切りたくなる思いだ。

「お? だいぶお嬢様らしくなってきたじゃねえか。そんくらい大人しい方が良いセンいってるぜぇ。目つきだけは
 相変わらず気にくわねえがなぁ。ククク…」

うすら笑いと共に掛けられる声が屈辱と恐怖心を刺激する。

「ここに来てから三日経ったワケだが、どうだ? 少しは協力的になったかぁ?」

遠まわしに「もう諦めがついたろ?」と投げ掛けてくるが、

「…………」

何も答えない。答えたくない。それだけが唯一の抵抗とでも言うように、美琴は無言を貫いた。

「ケッ、つまんねえの……。まあいい」

木原の方も会話にならないと察したのか……早々に切り上げて独房に入り、美琴を拘束している鎖を手早く外す。

「いよいよお前が役に立つ時が来たぜ。さぁ、ついてきな」

「…………」

逆らおうとも逃げようともせず黙って立ち上がり、木原の後について歩きだす美琴。
無表情で生気を感じさせない様子だが、木原は気にせず前を歩く。

「三日前に言ったことは覚えてるか?」

「………えぇ」

唐突に尋ねられて迷うが、ずっと無言という訳にもいかないと悟った末に美琴は声を返した。

「なら、もう一から教えてやる必要はねえな」

フッ、と鼻で笑いながら漏らす木原。
忘れるどころか、美琴の頭には今日する事への不安がずっとこびりついていて離れなかった。
木原の目的や計画の詳細は依然知らされていないのだから当然である。これから自分は一体何をされるのか……。
どうしても悪い方向へ想像してしまう。何も分からない事が余計に不安を誘っている。

(私、どうなっちゃうの……何されるの?)

(怖い。怖いよ……)

通路を進むにつれて恐怖が増してくる。
目の前を歩く男がまともでないのが分かっている以上、何をされてもおかしくない。
何かの実験体になるのか、はたまた三日前に聞いた“とっておきの技術”とやらの生贄になるのか。
いずれにせよ、楽に終わるとは思えなかった。
緊張のあまりの身体が僅かに震えだす。

(誰か、助けて……助けてよ)

間もなく三日前訪れたっきりの部屋へ繋がる扉が見えてくる。
まるで処刑台に向かうような気分だ。

そして、遂に扉の前に到着する。木原は美琴のそんな心境から目を逸らし、ためらいを見せずに扉を開けた。

「………」

そこに映ったのは三日前に見た光景とほぼ同じ。
建物全域に鳴らされているキャパシティダウンもここだけは例外である。つまり、ここなら美琴本来の力が存分に
発揮できるのだが…

「…………」

結果は三日前に証明されてしまった。
今、木原は美琴に背を向けて何やらよく分からない機械をいじっているが、彼の背中には隙がまるで感じられない。
背中に監視されている気分である。コインを取ろうとポケットに手を突っ込もうにも手が動かない。
仮に実行に移したとしても、それより早く木原の拳が届く。
何故かは分からないが木原の体術はまるで“軍用”としか思えないほどの動きだった。
不良の放つ拳とはケタ違いな命中率とスピードを持つこの男が、やすやすと隙など見せるはずがない。
これは『余裕』というやつなのだろう。

隙があるようで実は全く隙がない。木原数多とはそういう男なのだ……。と、美琴はこの三日間で完全に理解した。

「―――さて…」

「!」

機械から手を放して唐突に振り向いた木原にビクリとする美琴。
いよいよだ……。いよいよ始まる。

「………」ゴクリ

美琴の顔に緊張が走った―――。

 

 


「―――さて、じゃあ早速この装置から説明してやるか」

「……!」

そう言いながら木原が指をさしたのは目の前の巨大モニターである。
モニター正面には回路線が複雑に入り組んでおり、幾つかの正体不明な装置と接続されている。
軍の管制室などにありそうなイメージだ。
木原はいつの間にかモニターのリモコンらしきものを手に持っていた。


木原「まず、こいつは最新の対人探索装置だと思えばいい。今は範囲を学園都市全域に設定しているが、設定変更すりゃ世界
    じゅう全域の探索も可能になる優れモンだ。つけてみるとこんな感じだな」ピッ

美琴「っ…!」

木原「どうだ? 学区ごとにキチンと区分けもされてんだろ? 要するに世界のどこまで逃げてもこの装置は“対象”の位置を
    常にリアルタイムで把握し、正確な位置を示す信号をこのモニターに表すってワケだ」

美琴「……そんなものを、いったい何に?」

木原「まあ焦んなよ。説明は最後まで聞いとけや」

美琴「………」ゴク…

木原「んで、こいつだが……このままじゃただの『デジタル世界地図』だ。対人探索として使うには条件みてぇなモンがある」

美琴「条件って……?」

木原「本人、またはソイツのDNAをそこのタンクに数滴分注入しなきゃならねぇ」

美琴「――!?」

木原「だがソイツは三日前にお前を眠らせた時回収した」

美琴「………」ギュッ

木原「だがなぁ、それだけじゃまだこいつは実用できねえんだよ」

美琴「えっ……?」

木原「対象の信号を受信するのに電力が足りねえんだ。なんたって電力消費の激しいモンばっかここにはあるからよ。こいつは
    そん中で最も電力を使う。今無理に使用しても三秒で停電よ」

美琴「……」

木原「家電で言うなら“電子レンジ”と“ドライヤー”を合わせてるようなモンだ。……そこで、お前が活躍ってなぁ! 期待
    してるぜ? 『電撃使い《エレクトロマスター》』」

美琴「!」

木原「ホントはよ。当初はテメェじゃなくて『妹達』を引き入れる予定だったんだ。規定値を超えるまで生き残ってるヤツらを
    片っ端から集めるっていう気の長げぇ話よ」

美琴「あの子達を……!?」

木原「けどよ、“お前一人”いれば規定値なんて軽くオーバーで釣りまで来る。だがお前は『表』の人間。簡単に上から許可は
    降りそうにねぇ。さて、どうする?」

美琴「知らないわよ…」

木原「んな難しい事じゃねえよ。上のお偉いさん連中を賄賂で釣った、ただそんだけだ」

美琴「!!」

木原「お嬢さんにはちっと生々しかったか? けどまぁ大人の世界なんてこんなモンよ。いち早く社会の勉強ができて良かったなぁ」

美琴「ッ……」

木原「グダグダうるせぇ上層部対策もできたところで、コッチもやっとお前に手が出せたってワケだ。ククク…」

美琴「……何でよ」

木原「あん?」


美琴「アンタは一体何のためにそこまでしてんのかって訊いてんのよ!」


木原「……知りてぇか?」

美琴「当たり前でしょうが! 私のDNAを使って、一体どうしようってのよ!? 妹の誰かでも捜すっての!? サッパリ話が見えて
    こないんだけど!?」

木原「…………」

美琴「いい加減に教えなさいよ! でないと、とても協力的になんて……」

木原「話したら多分もっと協力したくなくなるぜ。それでもいいってか?」

美琴「え…?」

木原「テメェの大嫌いな学園都市の闇が絡んでんだぜ?」

美琴「………いいわ、聞かせてみなさいよ」

木原「…………ふ」

木原「ま、言ったところで何かが変わるワケでもねえな……いいぜ、教えてやるよ」

美琴「………」


木原「お前は知らねえと思うが、『絶対能力進化実験』の後にこんな計画ができたんだ」

美琴「“あの実験”の後……?」


木原「『第三次製造計画』」


美琴「サード……シーズン…? 何それ……」

木原「名前の通り、クローン個体製造企画の三代目…ってことになんのかねぇ」

美琴「……何のため…?」

木原「簡単に説明すっと、学園都市統括理事会がアレイスターの計画(プラン)から離れていく一方通行と最終信号に打った対策案
    ってトコか」

美琴「アクセラレータ……? ラストオーダー……??」

木原「あぁ? 何だよ、最終信号も知らなかったのか? チッ、面倒臭ぇ…」

美琴「訳が分からないんだけど……ちょっと待って。一方通行とそのラストオーダーっていうのは……」

木原「最終信号は第三次製造計画前に作り出された最後の妹達だ。調整不十分で放り出されたために、姿形はチンマリしてるがなぁ。
    その最終信号は偶然か必然かは知らねえが、一方通行と出会った。思えば、この時すでに統括理事会の誤算は始まっていたの
    かもな」

美琴「最終……信号……最後の妹……それが何で一方通行と……?」

木原「お前からすりゃ理解できねえだろうなぁ。“最強”から“無敵”の称号を得る、ただそれだけのために一万体以上の妹達をブチ
    殺したあの一方通行がだぜ? たかだかガキ一人の命と引き換えに“最強の力”すら制限されるハメになっちまったとはよぉ……
    ククッ、笑い話にもならねえったらありゃしねぇぜ」

美琴「ッ!? ちょっと……それ、どういう事? ……一方通行が妹を救ったって……」

木原「お前は確か“あの実験”で一方通行を憎んでたんだよなぁ? だったら信じられなくても無理はねぇ。俺だって最初聞いた時は
    嘘だと思ったぐれぇだからな」

美琴「……そんな……まさか…」

木原「だがこれは紛れもない事実だ。どういう風が吹きまわされたんだが分からねえが、一方通行と最終信号はその後もしばしば行動
    を共にしていた。まぁいわゆる『子守り』ってヤツか」

美琴「一方通行…が…?」

木原「それが続いてる内に一方通行にとって全ての妹達は『守るべき存在』となったらしい。そのためならどんな敵にも立ち向かうし、
    命だって惜しみなく張るだろうな」

美琴「……!!」

木原「そんな一方通行の決意を打ち砕くために発案されたのが『第三次製造計画』だ。要は、思い通りに動かねえ一方通行の希望を
    粉々にしてやろうっていう、言っちまえば八つ当たりみてぇな計画だな」

美琴「な……」

木原「目的はそれだけじゃねぇ。……その前に訊くが、お前は『ドラゴン』について何か知ってるか?」

美琴「ドラゴン……???」

木原「やっぱ知らねえよな。実はその正体について俺もよく分かってねえんだが、妹達にとって共有手段でもある“ミサカネットワーク”
    がどうも出現の鍵みてぇなんだ。なんでもアレイスターが言うには、『AIM拡散力場の結晶』らしい」

美琴「???」

木原「……ちゃんと理解できてんのか?」

美琴「だって、急にそんな意味不明な存在を理解しろだなんて…」

木原「……まぁ、それはいい。とにかくソイツがここ最近姿を現したんだよ。で、ヤツの出現は全世界に散らばる妹達及び最終信号に
    多大な影響を与えた」

美琴「え!?」

木原「その影響で使えなくなった妹達の『代わり』を製造するのも第三次製造計画の一環だ」

美琴「代わりって……」

木原「その先行、つまり“切り込み隊長”として製造されたのが、番外個体《ミサカワースト》。姿はそうだな……お前の約二年後って
    ところかぁ」

美琴「ミサカワースト……?」

木原「ロシアの研究機関と学園都市の開発部門が協定を結んだ時に輸入された特殊な『学習装置《テスタメント》』を用いて作られた、
    言わば最新作よ。これまでの欠陥電気とは格が違う。能力もレベルで言うなら大能力者クラスってトコだな」

美琴「……!!」

木原「さっそく計画実行(スタートプラン)によって差し向けられた番外個体だが、結果は散々だった。それどころか番外個体は標的と
    一時的な同盟まで結んじまう始末……これには上層部もカンカンだ」

美琴「………」

木原「そこで番外個体はロシアの研究施設に再調整され、計画は再スタートを迎えたように見えだが―――」

木原「―――その時点じゃウチらにとって番外個体はもうただのお邪魔虫でしかなかった」

美琴「!?」

木原「どうもロシアの連中は勘違いしてたらしくてなぁ……。『代わりの刺客なんざいくらでも作れるんだから、わざわざ失敗作を返品
    してくんな』って言っておかなかったコッチの落ち度もあるが」

木原「だから鬱陶しい存在になる前に消しておこうと思ったワケよ。また“同盟”でも組まれたら面倒臭ぇことこの上ねえからなぁ」ニヤリ

美琴「ロシアから……って事はまさかあの二十三学区の『墜落事故』って!?」

木原「あぁ、実行させたヤツは“不手際”が目立つから殺しちまったが、その後更に面白れぇこと思いついてよぉ…」ニヤァ

美琴「……ッ…」ブルッ

木原「もし、同盟で一方通行と番外個体の間に絆が生まれていたとしたら……?」

木原「『守るべき存在』として認めていたら、これを利用しない手はねえと思わねえか?」

美琴「どういう……事よ?」


木原「簡単だ。一方通行をより一層苦しめて殺すために、番外個体を奪う。俺の予測じゃあ十中八九、ヤツは一方通行と共に行動している
    ハズだ。まだ学園都市内で生きているとしたらの話だがなぁ」

美琴「なっ!? 何よそれ!! そんな……そんな事して一体アンタに何の得があるっての!?」

木原「そこまでお前に話す意味はねぇ。……話が長くなっちまったな。さっさと始めんぞ」

美琴「待ってよ! アンタはこれから、番外個体ってのを探すんでしょ!? まさか、そのために……」

木原「まぁな、さすがに一方通行も馬鹿じゃねえから今ごろ相当気ぃ張り巡らせてんだろ。そうなると捜すのは手間が掛かる。だが地道に
    捜すってのはどうも俺の性分に合わねぇ。そこでこの装置の出番ってワケよ。お前のDNAと発生されるAIM拡散力場の違いが色に出て
    表れるコイツなら、正確な居場所もすぐに把握できる。俺の目的は番外個体を誘拐して一方通行のボケに間抜けな泡ぁブクブク吹かす
    ことなんだよ! もちろん最終的には無残な肉の塊にしてやるつもりだぁ! ただで死なすには惜しすぎる野郎だぜぇぇアイツはよぉ! 
    それを果たすためなら借金抱えようがどこで誰がどうなろうが知ったこっちゃねぇ! そして、そのためにお前はこれから協力すんだよ!」


美琴「―――ッッ!!?」


木原「これで理解したかぁあ!? ぎゃははははは!!」


美琴「…………」

美琴「……ん……でよ」

木原「あぁん?」

美琴「なんで!? なんでそれだけのために……っ!!」

木原「キヒッ」

美琴「番外個体は見た事ないから知らないけど……その子も私の妹なんでしょ!?」

木原「見た目は逆だが、正確にはそうだなぁ」

美琴「アンタ……一方通行に何か恨みでもあるの?」

木原「あぁ、少なくともテメェよりは深いつもりだぜぇぇ」

美琴「…でも、それでも……っっ」

木原「ん?」

美琴「それでもその子には関係ないじゃない!! 結局はアンタが一方通行に恨みを晴らしたいっていう個人的な理由じゃないの!!」

木原「……ま、否定はしねえな。確かにウチらは第三次製造計画に携わった人間とも関わりはあるが、コイツは確かに俺の独断だよ。
    別に上からこうしろと指図された訳じゃねぇ。全部俺が決めて仕組んだ事だ」

美琴「番外個体が、その子がアンタに何したのよ……」

木原「………」

美琴「“そんなくだらない理由”のために生み出されて、好き勝手に利用されるなんて……そんなの、あんまりじゃない。妹だって、
    最終信号だって、番外個体だって、……みんな生きてるんでしょ!?」

木原「学園都市に生かされてるって言った方が正しいけどなぁ」

(俺も、お前も……)

美琴「アンタには、情ってモンが欠片もないの!?」

木原「この街で研究に携わる以上、そんなモンは邪魔でしかねぇ。何も俺だけがイカレてる訳じゃねえんだぜ?」

美琴「………ひどいよ……そんなのひどすぎる」ギリッ

木原「どう思おうが勝手だが、どの道テメェに拒否権はねえんだ。大人しく俺に協力してもらうぜ?」

美琴「……いやよ」

木原「あぁ?」


美琴「誰がそんな事に協力なんてするかって言ってんのよっ!! それならいっそのこと死んだ方がマシだわ!!」


木原「ほう」


美琴「アンタの思い通りになんか、絶対させない!!!」

木原「……やれやれ、懲りねえな。テメェも」

「こうなるのが目に見えてっからなるべく話したくはなかったんだがな」

「仕方ねぇ。また少し痛めつけてやっか…」グッ


美琴「!!…………」サッ


木原「と、言いたいところだが―――」シュン


美琴「―――ッ!?」


ガチャリ……!!


美琴の背後に一瞬で回り込んだ木原はいつの間にか手にしていた謎の腕輪を彼女の右腕に装着した。(この間僅か二秒)

「!?」

「はっはぁ、良かったなぁぁ。これで痛い目見ずに済むぜ? 俺の優しさに心から感謝しやがれ! ぎゃははは!」

「え………」

目にも止まらぬスピードでまた正面に戻った木原の高笑いに美琴は唖然とした。
右腕に付けられた正体不明の腕輪に困惑するが、これが何なのか訊かずにはいられない。

「何よこれ……?」

「ソイツは『自分だけの現実』へ進入し、能力者の発するAIM拡散力場を自動放出させる機能を持った特注品だ」

「んなっ!?」

木原の言葉に驚愕する美琴。つまり、この腕輪を付けている限り、脳が自動的に演算をして超能力を放出させているような
ものだ。そして、

「お前から発生された電力は、全て自動的にその腕輪に集められてそこの探索装置へ転送される」

「ッッッ!!??」

勝ち誇った笑みを見せながら木原はそう告げた。意味を理解した美琴は腕輪を外そうと試行錯誤するが、

「無駄だ。これがなきゃソイツは絶対に外せねえよ」

意地悪く鍵を見せびらかす。美琴はそれを見るや否や木原に飛び掛かった。

「よこせぇぇええ!!」

「ひゃっはっはっはぁ!! ほ~らコッチコッチィ~♪」

手が鍵に届く寸でのところでサッと避けられる場面が何度も繰り返される。
完全に遊ばれていた。

「くっ! こんのぉぉっ!!」

「よっ。おっと。ほらほらぁ、どーしたぁ~? ヒヒヒッ!」

その後も必死に鍵を奪おうと美琴は奮闘するが、木原の余裕を消すには至らなかった。

「あー愉快愉快♪ 娘と遊んでるみたいで楽しいねぇ」

「ハァ…ハァ」

「ったく、何だよもう終いかぁ? 若ぇのに体力ねぇなオイ」

輪っか状のホルダーを指で回しながら平然とする木原に対し、美琴は肩で息をしていた。
単純な身体能力では、差があり過ぎる。

「………!」

この腕輪を付けている以上、能力は腕輪にしか集まらない。

(なら、フル放電してこんな腕輪ぶっ壊してやるっ!)

最大の十億ボルトを一気に爆発させようとするが…

「あ、あれ?」

電流が流れることはなかった。

「あー、言い忘れたがソイツは定められた出力以上は受け付けねえように設定されてっから、いくら壊そうとしても無駄だぞ。
 ついでに言うと、規定値以上の電圧は全部お前の体内へ戻り、消滅する造りにもなってる。『キャパシティダウン』の制限機能
 付きっつった方が分かりやすいか? 要は外にも体内にも放電できねぇってこった」

「!!?」

ご丁寧に返ってきた思いもよらない種明かしに美琴は唇を噛む。

「……外してよ」

最後は今にも消え入りそうな声で懇願するが、木原はそれに応じることなく話を進めた。

「よし、これで準備が整ったな。―――おい!」

木原の合図の直後に入室してきた数人の部下が美琴を取り押さえた。

「い、いやっ! やめて! 離してっ!!」

抵抗も虚しくあっさりと捕まる美琴を木原は舌なめずりしながら見つめる。

「んじゃあ早速やってもらうか。つってもだいぶ時間喰っちまったが……」

そう言いながら、機械のリモコンをいじる木原。すると、

「な、何……?」

突如、人ひとり入れる程度の大きさをしたドーム状の物体が床から現れる。中はコックピットのような造りになっていた。
美琴は押さえられながらもその物体を見て呟く。

「こん中に入れ」

木原の言葉に美琴の身体が反応する。

「い……いや……」

お化け屋敷の苦手な人間が入り口で見せるような仕草で抵抗するが、木原には所詮無意味な足掻きだった。

「おい、早く入れろ」

「っ!?」

容赦なく告げられた木原の命令で、美琴を押さえている部下が彼女をドーム内のコックピットに押し込んだ。

「いやぁ!! いやぁああああ!!!」

悲痛な叫びと共にドーム内へ姿を消した美琴。

この機械と美琴に取り付けた腕輪で初めてモニターが検索し、DNA信号をキャッチするという事らしい。

「お? 早くも出たか……さすが超能力者だな。欠陥品たぁ格が違うぜ」

嫌味ともとれる口調でモニターを見上げる木原。
モニターには学園都市全学区が表示されており、青マークは無能力者~強能力者。赤マークは大能力者。そして、超能力者
である美琴は黄色マークで表される。つまり黄色いマークの場所が現在地だ。
見た限りでは、青マークが目立っていた。これは学園都市に在住する妹達を表している。数は十程度だが、木原が注目して
いるのはもはやそこではなかった。

「クククク、見つけたぜぇぇぇ」

第七学区に一つだけ表示されている赤マークを見つけた途端、木原の顔が悪魔のように歪む。この街で赤マークが表示される
という事は、御坂美琴のDNAを持つ大能力者がいる事に繋がる。そして、これに該当する人物はひとりしかいなかった。


「ついに見つけたぁぁああああ!!! 番外個体ぉぉおおおおお!!!!! ぎゃーはははははははぁ!!!!」

管制室のような部屋に木原の笑い声が響く。

「…………グスッ」

小型ドーム内の座席から見える邪悪な喜びに満ち溢れた木原の姿に、美琴はただ涙を飲むしかなかった。
ドームには鍵が掛けられ脱出不能な上に能力も使えない。自分にはもうどうする事もできない。
逃げる事も、木原を止める事も。

「クックック……。さあ、地獄に落ちる時間がやって来たぜぇ。一方通行ぁぁ」

「待ってろよ。今行くからなぁ!」

こうしてひとしきり笑い終えた木原は美琴を見張るための部下を二人残し、残りの部下を引き連れて部屋を出ていった。
どこへ行くのかはもう分かりきっている。


ついに復讐の斧を振り下ろす時が来た。


―――

 

 

 

 


「…………」

白井黒子は風紀委員支部から寮までの帰路を俯きながらトボトボと歩いていた。
目を覚まし、ある程度回復した彼女に突きつけられた現実はしばらくの謹慎処分である。
先ほど暴行した連中の一人が宣言通り被害届けを出したのもそうだが、この三日の間に同じような事を幾度となくしていたために
本部も決断を下したのだ。
風紀委員が一般人に暴行などあるまじき行為なのはもはや承知。黒子も覚悟の上で美琴の捜索に身を削った。焦る心が生んだ暴走
だと、先輩風紀委員の固法美偉が必死に弁護してくれたおかげで解雇は免れた。

謹慎処分程度で済んだだけマシなのかもしれない。下手をすれば初春の言ったように傷害罪で告訴されてもおかしくはなかったのだ。
被害者への謝罪のために各寮をまわった黒子は、すっかり疲れきった表情で寮へと足を運ぶ。
当分は勤務時間中の外出を禁止すると寮にも連絡がいった以上、寮監の目が今後更に光を増してくるだろう。

(先輩にはお世話になりっぱなしですの……。初春にもしばらく頭が上がりませんわね…)

(ですが、学校以外の外出はしばらく禁止……)

(これでは、一体いつお姉様を捜せばいいんですの……)

(いっそ、夜中にこっそり抜け出して……)

表情とは違い、頭の中は忙しい。

(それしか手段がなさそうですわね)

(またご迷惑を掛けてしまうかもしれませんが、やはりわたくしはお姉様を放っておけませんの)

(たとえ塀にぶち込まれたとしても、これだけは決して譲れませんの!)

(どうか、許してください。先輩、初春……)

今夜からまた捜索を再開しよう。せめて美琴が無事なのかだけでも確認できない事には、このまま泣き寝入りなど到底できそうにない。
自分の能力さえあれば、寮監の目を盗む事も容易い。


決まりだ。

(帰ったら、夜に備えて少し寝ておかなければ……)

一人息巻く黒子。反省はしているが、諦めるつもりはないらしい。
やがてしばらく歩いている内に常盤台女子寮が見えてきた。

「………!」

寮の入り口が視界に見えた時点で彼女の足が止まった。

寮の入り口正面に、誰か立っている。

「あ……!!」

人物を確認できる距離まで近づいたところで黒子は驚きの声を上げる。
その人物には見覚えがあった。忘れようにも、あの後ろ姿は印象が強すぎて忘れられるはずがない。今回の美琴失踪事件にもしかしたら
何らかの関わりがあるかもしれない、と実は黒子が密かに捜していた人物でもあったからだ。

「―――ッ!」ダッ

常盤台寮正面に佇んでいるツンツンと無造作に跳ねた黒髪の少年に向かって、黒子は迷う事なく一気に駆け出した。


                                                        つづく

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