上条「二人で一緒に逃げよう」 美琴「………うん」 > 第二部 > 2


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その頃・学園都市では。

黄泉川「何だって?」

トレーラー型の装甲車の内部に設けられた司令部。そこで電話を受けた黄泉川は開口一番そう呟いていた。

黄泉川「それは……ご冗談ですよね?」

信じられない、と言うように黄泉川はその顔に驚愕の表情を浮かべる。

黄泉川「いや、しかし……!」

警備員「………………」

明らかに尋常ではない様子に、後ろにいた警備員たちが無言になって彼女の姿を見つめる。

黄泉川「………っ 承知……しました……」

ガチャン!

その言葉を最後に、黄泉川は手を震わせながら電話を切った。

黄泉川「………………」

警備員「隊長?」

受話器を置いたまま微動だにしない黄泉川を、心配した1人の警備員が背後から声を掛ける。

警備員「何かあったのですか?」

黄泉川「…………じゃん」

警備員「は?」

と、何事かボソッと呟く黄泉川。



黄泉川「御坂美琴の捜査は打ち切りになったじゃん!!!!」



振り返り、黄泉川は部下の警備員たちにそう叫んでいた。

警備員「!!!!!!」

ドヨドヨと警備員たちの間にざわめきが起こる。
黄泉川「…………っ」

黄泉川は、悔しそうな表情を浮かべる。そこで1人の警備員が訳が分からないと言いたげに訊ねてきた。

警備員「どういうことですか!? 何で捜査打ち切りに!?」

黄泉川「どうやら学園都市上層部がそう判断を下したらしいじゃん。これ以上の捜査は不必要、とな」

警備員「そ、それじゃあ御坂美琴や上条当麻、そして2人を連れて逃げ去った男については……」

黄泉川「だから全部終わり。上層部が口出ししてきた以上、我々に動く術はない」

警備員「…………!」

愕然となる警備員たち。

黄泉川「因みにあの“アンチスキル最強の男”と称された武藤は数ヶ月間の停職処分、これからしばらくは本職の教師一本でやっていくそうじゃん」

警備員「では……っ!」

黄泉川「ああ、その通り。私も2ヶ月間、アンチスキルの停職処分を受けた。まあ、覚悟は出来てたがな」

警備員「そんな……」

黄泉川「………ふん」

顔を俯かせ悔しそうに拳を握らせる部下の警備員を見、黄泉川は立ち上がる。

黄泉川「とにかくはここで捜査は終わりじゃん。一先ず撤退準備を始めるぞ」

警備員「はい!!」

その言葉を合図に、警備員たちが忙しく動き始めた。どことなく悲壮感が漂ってはいたが。



「黄泉川先生!」



と、その時だった。

黄泉川「ん?」

後部扉が開いたかと思うと、1人の学生が駆け込んできた。アンチスキルの捜査本部に自由に入って来れる身分の学生と言えば、思いつくのは数えるほどもいなかった。

黄泉川「ああ、お前か」


瞬間氷結「白井さんを見ませんでしたか!?」



そう叫んで黄泉川に近付いてきたのは、ジャッジメント本部長の瞬間氷結だった。

黄泉川「さあ、知らんな」

瞬間氷結「さっきまですぐそこに僕と一緒にいたのに急にいなくなったんです!」

黄泉川「そうか」

必死の形相の瞬間氷結とは裏腹に、黄泉川はもはや気力も無くしているのかそっけない顔で身の回りの片付けをしている。

瞬間氷結「彼女、ここ数日間精神状態が不安定で今日もずっとボーッとしていたんです。だからとても心配で……」

黄泉川「そんなこと言われても困る。私はアンチスキルじゃん。ジャッジメントの問題は本部長のお前の管轄だろ」

瞬間氷結「………………」

黄泉川「ま、奴は1番御坂美琴と因縁深い人間だったからな。逮捕も失敗して捜査も打ち切りになったとしたら、自暴自棄になってもおかしくないだろうな……」

瞬間氷結「自暴自棄って……」

黄泉川「あいつなら責任を執るとか言ってそれぐらいのことしかねないじゃん。特に、今回のようなケースではな……」

瞬間氷結「!!!!!!」

その言葉を聞いた途端、瞬間氷結は慌てたように装甲車を出て行った。

黄泉川「……………ふん」

手を休め、黄泉川は顔を上げる。

黄泉川「ま、私もこの数日間走りっぱなしだったからな。たまには、本職の方で一息入れるとするじゃん」

退屈そうにそれだけ呟くと、黄泉川は片付けの作業を再開した。

黄泉川の部隊が展開する、とある大きな公園。その運動場の端に停車していた1台の装甲車の側で、2人の警備員が無駄話に花を咲かせていた。

警備員A「でさー……その生徒がな、胸が大きいから目のやりどころに困るんだよ」

警備員B「あー分かる。このご時世、セクハラなんてしたらすぐに捕まるからなー」

警備員A「………お?」クルッ

不意に、警備員Aが不思議そうな顔をし、後ろを振り返った。

警備員B「何だよ?」

警備員A「いや、今俺の後ろに誰かいなかった?」

警備員B「はぁ? そんなの知らねーよ」

警備員A「まさか……幽霊?」

警備員B「この学園都市で何言ってんだよ」

警備員A「あ、あれ!?」

とそこで頓狂な声を上げ、自分の足を見る警備員A。

警備員B「今度は何だよ?」

警備員A「お、俺の拳銃がない!」

警備員B「はぁ?」

警備員A「ほら!」

言って自分の右太ももを見せる警備員A。確かに、そこに巻かれていたレッグホルスターには、普段は収納されているはずの拳銃がなかった。

警備員A「ど、どっかに置いてきたのかな?」

警備員B「なら何でレッグホルスターのマジックテープが閉まってんだよ。どっかに置き忘れたままならマジックテープは開いてるだろ」

警備員A「あ、あれ? じゃあ何で?」

警備員B「大方お前が拳銃入れるの忘れてレッグホルスターだけ装着して来たんだろ?」

警備員A「そ、そっか。きっとそうだよな。俺間抜けだし」

警備員B「ああ、お前間抜けだもん。絶対そうだ」

警備員AB「「あはははははははははは」」

呑気な彼らは気付いていなかったが、別に警備員Aは拳銃を最初から持ってきていなかったのでもなく、どこかに置き忘れていたわけでもなかった。ただ、真相は1人の少女だけが知っていた。

最終下校時刻も近付き、アンチスキルの部隊以外は人気が無くなった公園。そこにある薄汚いトイレの裏に彼女――白井黒子はいた。

黒子「………………」

右手に拳銃を持って。

黒子「これで……お終いにしますの……」

談笑していた警備員から、瞬間移動で密かに奪ってきた拳銃を見つめる黒子。

黒子「私は……もう……生きていく資格が無いですの……」

ボソボソと彼女は生気の無くした目で1人呟く。

黒子「あの御坂美琴に1番近くにいた身であるにも関わらず、彼奴を取り逃がし、2度も相見えたと言うのに仕留めることはおろか捕縛することも出来ず、あまつさえ情けを受けてしまった……」

呟きながら黒子は自分の右足に視線を向ける。そこには、病院で治療を受けた際に巻いてもらった包帯が見えた。

黒子「……以前は御坂美琴という私にとって絶対的な存在が側にいましたが、それも過去の話。佐天さんも初春もきっと捜査に失敗した私に失望するでしょう。ならば……もう私に失うものはありません………」

言って黒子は顔を上げる。春には桜を咲かせるだろう大きな木が1本、正面に見えた。

黒子「遺書は私の部屋の机の引き出しに入っていますわ……」

カチャッ!

黒子「さようなら、みなさん……。そして、学園都市………」

黒子は目を閉じ、右手で持った拳銃の銃口を自分の胸元に添える。




ドォン!!!!




そして1発の銃声が轟いた――。

 

黒子「………っ!!??」



トサッ……



と言う音と共に黒子の胸を弾丸で貫いたはずの拳銃は地面に落ちた。だがしかし、彼女の胸に穴は開いていなかった。

黒子「…………っ」

信じられない、と言うように黒子は目を大きくし、突如その場に現れた男を見る。

黒子「ど、どうして……」




瞬間氷結「何をしてるんだ君は!!」




黒子の自決を阻止した人物。それは、瞬間氷結だった。

黒子「ほ、本部長……何故ここに!?」

瞬間氷結「そんなことより! 君は今何をしようとしていた!?」

黒子の顔を見据え、瞬間氷結は怒鳴り声を上げる。

 

黒子「………」チラッ

瞬間氷結「…………急に消えたと思ったら……」

言って瞬間氷結は地面に落ちた拳銃を拾う。

瞬間氷結「自殺でも考えていたのか?」

黒子「………」ギンッ

黒子の目が密かに鋭くなる。

瞬間氷結「やめておけ」

黒子「あ!」

が、彼女の思考を見抜いていたのか、瞬間氷結は右手に握っていた拳銃を一瞬で氷漬けになってしまった。

黒子「う……何故……邪魔をなさるのですか?」

黒子の目に涙が浮かぶ。

瞬間氷結「やはり死のうとしていたんだな? 何でこんなことを……」

黒子「決まってるではありませんか……。私は……御坂美琴を取り逃がし、あまつさえ情けを受けてしまった……。生きている資格はありません……」

俯き、小さな声で黒子は言葉を紡ぐ。

瞬間氷結「それで君が死ななきゃならないなら、ジャッジメントの長である僕は一体どうすればいいんだ。死ぬよりも酷い目に遭わなきゃならないじゃないか」

黒子「………………」

瞬間氷結「死んだって何の得にもならないよ。生きてればまた、やるべきことも見つかる」

黒子「そんなの……」

瞬間氷結「それに君の友達だって悲しむ。君は死ぬことで責任を果たせると思ってるんだろうけど、余計な悲しみをこの世に生み出すだけだよ」

静かに、瞬間氷結は黒子の顔を見つめながら語る。

黒子「佐天さんも初春も失望してるに決まってます……」

瞬間氷結「そうかな? さっき僕のところに初春さんから電話が掛かってきたよ。『白井さんは無事ですか?』って。彼女も、佐天さんって子も相当白井さんのことを心配しているようだよ」

黒子「………っ」
瞬間氷結「だから自殺なんて下らないことはやめるんだ。君が1番しなければならないことは、生きて再びジャッジメントとして信念を貫いていくことだよ」

黒子「ですが!」

瞬間氷結「?」

と、そこで黒子は耐え兼ねたようにその辛そうな顔を瞬間氷結に向けてきた。

黒子「私はもう、ジャッジメントとしては役立たずです。あの御坂美琴を取り逃がしてしまったんですから……」

瞬間氷結「…………」

黒子「本部長だってそうでしょう!? もう私をお払い箱だって思っているのでしょう!? ならさっさと解雇して下さいまし!!」

瞬間氷結「そんな訳ないだろ」

黒子「…………え?」

即座に瞬間氷結は否定していた。

瞬間氷結「そんな訳ない」

キリッと真剣な表情を浮かべ、瞬間氷結は黒子を見る。

黒子「なっ……」

瞬間氷結「君はいずれ近い将来、ジャッジメントを背負う人物だ。そんな君を、僕が解雇するわけがないだろ?」

黒子「本部長……」

瞬間氷結「寧ろもし叶うのならば、初春さんと共に本部の幹部要員に欲しいと思ってるところだよ。そんな君を僕が手放すわけがないだろう?」

黒子「あ……う……」

目を丸くし、黒子は瞬間氷結を見つめる。

 

瞬間氷結「だからさ」ポン

黒子「あ……」

優しく、黒子の頭に手を乗せる瞬間氷結。

瞬間氷結「僕(ジャッジメント)には君が必要なんだ。だから、これからも僕と一緒に学園都市の平和を守っていこう」

言って瞬間氷結は笑みを浮かべる。



黒子「……………はい//////」ポッ



瞬間氷結「よし。良い部下……いや、良い後輩を持てて僕は幸せだよ……」

その言葉を最後に、瞬間氷結は踵を返す。

瞬間氷結「さ、黄泉川先生の所へ戻ろう」

黒子「………………」

瞬間氷結「拳銃を盗ってしまったことは素直に謝ろう。多分2人してこっぴどく怒られるだろうけどね、ははは」

黒子「あ……あの……本部長……」

瞬間氷結「ん?」

と、そこで背後から黒子が呟く声がし、瞬間氷結は振り返った。同時、顔を上げる黒子。

黒子「いえ……“お兄様”!//////」

瞬間氷結「……は? お兄様?」

黒子「そ……その……私……実はお願いがありますの……」

モジモジと恥ずかしそうに言う黒子。何故か彼女の顔は赤い。

瞬間氷結「お願い? 何だい? 言ってごらんよ」

黒子「こ……今度……黒子と……2人で……お茶でも……ご一緒……しません?//////」

瞬間氷結「……お茶? まあそうだな……うん。僕は忙しい日が多いけど、今度の非番の日なら大丈夫かな?」

黒子「ほ、本当ですの!?」

パァァと黒子の顔が明るくなる。

瞬間氷結「ああ、もちろん」

黒子「ありがとうございますの!」

瞬間氷結「じゃ、そろそろ戻ろう。黄泉川先生も心配してるだろうからね」

黒子「はい!!」

かつて美琴と一緒にいた時のような元気を取り戻す黒子。

瞬間氷結「急に元気になったね………」

黒子「お兄様のお陰ですのよ………」

瞬間氷結「はは…どういう意味だいそりゃ………」

先を歩く瞬間氷結の後を、黒子が子供のようにはしゃぎながらチョコチョコとついていく。
こうして、御坂美琴を追う彼らの長い日々はようやく終わりを迎えた――。

 

 

 

 

上条「はぁ~~……」

1人、賃貸マンションの一室で深い溜息を吐く上条。

『ふんふんふ~ん♪』

部屋の奥に設置されたバスルームからは、同居中の女の子――美琴の愉快な鼻声が聞こえてくる。

上条「楽しそうだよなぁ。人の気も知らないで……」

机の前に座り、テレビを見ながら上条は呟く。

上条「にしてもまさかあいつと二人暮しするなんて思ってもみなかった……」

4日前、上条と美琴は無事学園都市からの脱出に成功した。そしてその際に、2人は土御門たちが予め用意していたこの賃貸マンションにほんの少しの間だが住むことになったのだ。もちろん、もしもの時を考慮してマンションの周りには絶えず護衛の魔術師たちが張り付いている。

『ふんふんふ~ん♪』

普通なら、年頃の女の子と同棲するのは羨ましがられるものだが、上条にとっては慣れていたのか、そこまで深く気にするようなことではなかった。

上条「………………」

もしくは、今現在上条がとある悩みに悩まされていたため、だからかもしれない。

上条「御坂は明日でイギリスに行っちまう……」

そう呟く上条。
実は翌日、美琴はイギリスへ行くことになっていた。それもただの旅行ではない。定住のためである。これは『弧絶術式』を受けた美琴を、学園都市の近くに置いておくのは危険と判断したインデックスや土御門、『必要悪の教会(ネセサリウス)』による配慮のもので、既に美琴の両親の承諾も得、荷物の用意も出来ていた。

上条「俺も1度実家へ帰ることになる……」

しかし上条の方は実家へ1度帰る予定はあったものの、美琴についていくことは出来なかった。もちろんそれは上条自身が『弧絶術式』を直接受けた被害者ではなかったためでもあったが、土御門の話によると上条の知らない所で密かに行われた取引の内容のせいでもあるらしかった。

上条「…………はぁ~」

よって、上条と美琴は翌日を境に、滅多なことでは頻繁に会えなくなる。

上条「……………………」

無言になった上条の脳裏に、ある美琴の言葉が蘇る。



   ――「私は……当麻のことが好きだよ………」――



上条「…………っ」
思わず目を伏せる上条。

上条「(御坂……お前は……。そして俺は……)」

深刻な表情を浮かべ、上条は胸中に呟く。




美琴「なーに暗い顔してんの!?」




上条「!!!!!!」

突如背後から聞こえた声に驚き、振り返る上条。

美琴「ビックリした?」

見ると、バスタオル1枚の姿のまま、美琴がすぐ後ろに立っていた。

上条「お、お前……っ!!////」

美琴「何よー?」

あっけらかんと返す美琴。
上条「昨日に続いて今日までも……! ちょっとは恥じらいぐらい見せろよ!!////」

片手で顔を覆いながら、上条は慌てふためく。

美琴「バカバカしい。学園都市で逃げてる最中、何度あんたにギリギリのところで素肌見せたと思ってんのよ」

上条「いや、でも! 俺はこれでも年頃の青少年だぞ! 高校生だぞ! ちょっとは警戒ぐらいしろよ!!」

美琴「………?」

眉をひそめる美琴。僅かに上条の声に苛立ちが混ざっていた。

美琴「大丈夫よ」

上条「ええっ?」

美琴「だって、あんたならそんなことしないって信じてるもん」

上条「………っ!」

言いながら美琴は再びバスルームに戻っていき扉を閉めた。

上条「(……こっちの気も知らないで……っ!)」

普通の高校生なら喜ぶところだったが、深い悩みを抱えている今の上条にとっては重大な問題だった。だが、美琴の学園都市からの脱出に成功させてくれた上条への気の許しようはこれだけでは済まなかった。そしてそれがまた上条を苦しめていた。
美琴「………ねぇ」

上条「…………っ」

就寝前。上条の服を後ろから引っ張るパジャマ姿の美琴。

上条「ダメだ」

美琴「……お願い……」

上条「ダメなものはダメだ」

美琴「……どうして?」

何かを必死に頼む美琴とそれを拒否する上条。

上条「昨日も言ったはずだ。俺とお前は家族でも兄妹でもないんだ。なのに……そんなこと、常識的に考えて……」



美琴「……お願い当麻……。一緒に寝てよ……」



上条「………っ」

上条にとってもう1つの重大な問題。それはこのことだった。

上条「いい加減にしろ。お前、1度常識で考えてみろ。俺は男でお前は女だぞ! しかも2人とも思春期の真っ只中だ。それなのに一緒に寝るだと? ……インデックスと同棲中だって1度もそんなことはなかったぞ」

美琴「だって……仕方ないじゃない……怖いんだもん……」

上条「……もう中学生だろ」

このアパートに来てから1日目の夜だった。就寝時、どちらがベッドを使うかという問題が起こった。上条は慣れてるからと言って自分はバスタブで寝ることを提案、その時は美琴も承諾しそれで済んだのだが、数時間後、彼女はあろうことか上条に一緒に寝てほしいと頼んできたのだ。

美琴「………また…見るんだもん……夢を……」

理由は悪夢を見るから、と言うものである。しかも、学園都市で逃げてる夢でいつも上条と美琴が2人して追っ手に殺される内容らしかった。
美琴「当麻と寝ると……怖い夢……見ないし……」

上条「勘弁してくれよ。普通は頼まないぞそんなこと」

当然、最初は断った上条だったが、余りに美琴がぐずるのでその日から毎晩ずっと一緒に眠っているのだった。

美琴「大丈夫だよ……。当麻は、私に変なこととかしないもん……」

上条「………………」

学園都市で逃げてる頃から、美琴に幼児退行の兆候があったとは言え、さすがの上条も女子中学生と同じベッドで寝るには抵抗があった。しかも、深い悩み事を抱えている今なら尚更のことである。

美琴「お願い………」

上条「………………」

要は、それほど美琴が上条のことを信用していることの証左だったが……複雑な感情が頭の中で巡り巡ってる今の上条にとっては死活問題と言っても過言ではなかった。
しかし………



上条「…………分かったよ」



美琴「ありがとう!!」

美琴の必死の願いを断ることも、今の上条には出来なかった。
美琴「………zzzzz」

上条「(結局こうなるのか……)」

部屋の灯りも消えたアパートの一室。ベッドの上で美琴は安心しきったように寝息を立てながら、上条にしがみついて眠っていた。

上条「………………」

上条は美琴の顔を見る。彼女は本当に幸せそうだった。

上条「(どうせ今日で終わりなんだ。俺も寝よう……)」

そう胸中に呟き、上条は目を閉じる。

上条「………………」

美琴「う……ん……」

上条「………………」

美琴「とう……ま……」

上条「………っ」

上条の服をガシッと掴みながら、美琴が寝言を呟く。

上条「(……無視だ無視)」

美琴「………とうま……」

美琴の体が上条の身体に接近する。

上条「(クソッ! 頼むから勘弁してくれ……っ!)」

美琴「………好き……だよ……」

上条「!!!!!!」

思わず目を開け、美琴の方を見る上条。

美琴「…………zzzz」

どうやら寝言のようだった。

上条「………………」

上条はそんな至近距離にある美琴の顔を見つめる。

上条「……………………」

美琴「…………zzzzz」
改めて見ると整った輪郭を保っており、同年代の女の子の中でも実に可愛い顔立ちをしている。

上条「………………」

美琴「zzzzzz」

規則的に寝息が零れるその小さな口は、柔らかそうな感触をしており、窓の外から差し込む光を綺麗に反射している。

上条「……………」

美琴「zzzzzz」

そしてその肌は白く、瑞々しさを保っていた。その上、風呂上りであるためか、彼女の髪や身体からは甘い香りが漂ってくる。

上条「………」チラッ

パジャマの襟元からは僅かにその奥が垣間見え、上条の思考を停止させる。

美琴「zzzzzz」

少しでも触れると壊れてしまいそうな彼女の華奢な身体。

上条「………………」

刹那、上条の頭に良からぬ考えが過ぎった。
だが………

上条「(何を考えているんだ俺は……。バカめ……っ!)」

頭を軽く振ると、彼は再び枕に頭を預け目を閉じた。

上条「………………」

しかし、上条の苦労を知ってか知らずか、美琴は眠っているにも関わらずまた上条を刺激してきた。

 

美琴「とう……ま……」

美琴の腕が上条の腕に絡みつく。

上条「!!!!!!」

美琴「………ん」ギュッ

耳元で囁かれる甘い寝息と接近する彼女の身体。

上条「(やめろ……)」

美琴「………とうま……」

漂ってくる甘い匂い。

上条「(やめろっ!)」

美琴「………う……ん」

背中に感じるその柔らかい感触。

上条「(やめろおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!)」

美琴「好き……だよ……」

上条「(俺はっ! 俺はっ!! ……チクショウ!!)」

美琴「ん……とうま……」

上条「(チクショオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!)」



ガバッ!!!!

上条は思いっきり布団をめくり起き上がる。

上条「ハア……ハア……」

そのまま彼は美琴と対面する形で彼女に覆い被さる。まだ、両腕をベッドに突き立てているため互いの顔と身体はまだ距離が大分あったが。

上条「ハァ……ハァ……ハァ……」

美琴「………zzzzzz」

荒い息を立てる上条とは逆に、美琴は相変わらず幸せそうな笑顔を浮かべて眠っている。

上条「………………」

触れようと思えば、すぐに触れられる距離。そこに、美琴の身体はある。やろうと思えば、自分の全ての衝動を今すぐにでも彼女にぶつけることが出来る。だが………



  ――「大丈夫だよ……。当麻は、私に変なこととかしないもん……」――



上条「………っ」

脳裏を掠めた彼女の言葉がそれを直前で諌めた。

上条「クッ……チクショウ……っ」

美琴の寝顔を正面に、上条は苦しそうに表情を歪める。

上条「……………クソッ………」

嘆くように吐き、ベッドから降りる上条。そして彼はそのまま足音を僅かに響かせて、トイレに向かっていった。

しばらくして――。

ガチャッ

という音と共に洗面所の扉が開き上条が出てきた。彼は洗面所の灯りを消すとベッドの所まで戻り美琴を見た。

美琴「………zzzzz」

上条「俺は……何てことを……」

悲しみと後悔が混じった言葉を吐き、上条は左手で自分の頭を抱える。

上条「ごめん……御坂……っ!」

自分の悩みにいつまでも決着を着けられない無力感、それが原因で衝動的に彼女を傷つけてしまっていたかもしれないと言う後悔の気持ち。それが一気に上条を襲った。

                                                  

                                                           

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