上条「二人で一緒に逃げよう」 美琴「………うん」 > 第一部 > 13


※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

アンチスキル・黄泉川部隊本部――。

黄泉川「………………」

トレーラー型の装甲車に設けられた司令部。その中に黄泉川の姿があった。

黄泉川「……どこだ」

彼女は今、ホワイトボードに貼られた学園都市全域の地図を前にして立っている。

黄泉川「………奴らはどこにいるじゃん」

腕を組み、地図を睨みながら黄泉川は呟く。

黄泉川「(今までの御坂美琴と上条当麻の逃走経路を振り返ってみたが、分かったのはやはり奴らは南に逃げているということ)」

背後で部下の警備員たちが忙しく動いているが、彼女はそれすらも意識の外にして考え事に集中している。

黄泉川「(白井たちを回収した時に、その場所の付近も捜索させた……)」

現在時刻午後4時過ぎ――。
今から約16時間前。黄泉川たちアンチスキルの部隊は黒子から連絡を受け現場に急行し、黒子と瞬間氷結を回収した。その時、黄泉川は隷下の部隊に付近の家や建物を徹底的に捜索させたが、終ぞ上条と美琴は見つけられなかった。

黄泉川「(『デーモンズ・ネスト』にも探りを入れてみた……)」

次いで『デーモンズ・ネスト』にも足を運んだ黄泉川だったが、店の責任者である仁科要に会うことは叶わず、黒服に「逮捕状を持ってきてから」と言われた上、半ば脅されるような形で店と繋がりのある上層部の存在を出されたため、渋々その場を後にするしかなかった。

黄泉川「(瞬間氷結は気絶していたと言う話だが、白井は奴らが逃げた時には意識があったはずじゃん。なら、白井が奴らの大体の行き先ぐらい知ってそうなものだが……)」

……黒子は今、右足に怪我を負っているため、瞬間氷結に見守られながら病院で治療を受けている。なので今病院に行って彼女に話を聞くのは無理だ。
しかし………

黄泉川「(まさかあいつ……御坂美琴たちがどの方面に行ったのか知ってて黙ってるんじゃ………)」

顎に手を添えながら黄泉川は1つの推論を組み立ててみる。

黄泉川「(……いや、白井に限ってそれはないか……)」

今思い浮かんだ疑念をすぐに払う黄泉川。

黄泉川「(しかし、半日以上奴らの足取りを見失ってるのはまずいじゃん……)」

黄泉川の表情に焦りの色が浮かぶ。

黄泉川「(何か手掛かりは……)」

と、その時だった。

警備員A「そういや、あれどうなったんだっけ?」

警備員B「あれって?」

背後から部下の警備員たちの会話が聞こえてきた。

警備員A「何でも学園都市の全域を囲む壁の数箇所に、対能力者用のキャパシティダウンを設置するとかなんとか……」

黄泉川「………………」

警備員B「ああ、能力者の脱走を塞ぐために東西南北8ヶ所に分けて配備されるってやつだろ? 確かこの間、キャパシティダウンを搭載した7台目のトラックが配備し終えたところって話だ」

警備員A「ん? じゃあ8台目は?」

黄泉川「………………」

背中越しに警備員たちの会話を耳に入れる黄泉川。

警備員B「もうそろそろなんじゃないかな?」

警備員A「どこに配備されるんだ?」

警備員B「南ゲート、って聞いたけど」




黄泉川「!!!!!!!!!!」




その瞬間、黄泉川の表情が変わった。

警備員A「でもそのキャパシティダウン、最新式らしいからレベル0から果てはレベル5まで効くらしいぜ?」

黄泉川「…………っ」

警備員B「何か学生たちが可哀想な気もするけど、上層部が決めたもんはしょうがねぇよなぁ…………え?」

警備員A「どうした?」

警備員Bの視線を辿る警備員A。その先に黄泉川の後ろ姿があった。何故か、肩を小刻みに震わせていたが。

黄泉川「くくくく……」

警備員AB「???」

黄泉川「なるほど、そういうことか……。だから奴らはわざわざ南に逃げていたのか……っ!」

1人、笑いを零す黄泉川。

警備員A「……隊長?」

心配した警備員Aが後ろから声を掛ける。

黄泉川「命令を達す!!!」

警備員AB「!!!!!!」

突如、黄泉川が大声を出して振り返った。

黄泉川「全部隊を召集!! 直ちに作戦行動に移る!!! 同時に、件の研究所に協力を申請!!! 今すぐキャパシティダウンを搭載したトラックを配備させるよう伝えるじゃん!!!!」

警備員AとBがポカーンと口を開ける。

黄泉川「何してる!? さっさと動くじゃん!!!」

警備員AB「りょ、了解!!!」

不適な笑みを浮かべて黄泉川は叫ぶ。

黄泉川「我々も南に向かうぞ!!!!」
その頃。某学区・某病院では。

黒子「…………」ボーッ

とある病室。そのベッドの上に、窓から外の景色を眺める黒子の姿があった。
彼女は昨晩、美琴との戦闘後、黄泉川たちに回収されると右足の治療を受けるためこの病院に搬送されたのだった。

瞬間氷結「今頃黄泉川先生たちが頑張ってるところだよ」

黒子「…………そうですの」

瞬間氷結「………………」

側に座っていた瞬間氷結が話しかけるが、黒子は窓の外を見たまま心ここにあらずと言った口調で答える。

瞬間氷結「明日、君の友達が見舞いに来てくれるそうだよ」

黒子「…………そうですの」

彼女は病院に着いてからずっとこの調子だった。

瞬間氷結「…………」ハァ
瞬間氷結「…………飲み物を買ってくるよ。君はここで待っててくれ」

黒子「…………そうですの」

まるで壊れたロボットのように答える黒子。そんな彼女を見て瞬間氷結は一瞬やり切れない顔をすると、静かに病室を出て行った。

黒子「……………………」

再び病室が静かになる。
その瞬間だった。




「だからああああああ!!!! 金なんて持ってねぇええええんだって!!!!!!」




黒子「……………?」

病室の外から、静寂をぶち壊すような1つの下品でやかましい声が聞こえてきた。
「いえ、我々としても治療費を頂かないことには……」

「知るかよ!!! ここまで来た俺を勝手に治療したのはそっちだろうが!!!!」

何やら病院の医師と、態度が悪い患者が口論しているらしい。若干、後者の方が勢いで勝ってるようだが。

「では、その応急処置を施してくれた人の名前を……」

「施してくれただぁ? あっちが勝手に傷つけて勝手に応急手当しただけだよ!!! あのクソガキども……!!」

「ですから、その子供たちの名前は覚えてないんですか?」

「あああ? 確か『とうま』だの『みさか』だの言ってたなあ」


黒子「!!!!!!!!!!」


患者の言葉に目を丸くする黒子。病室の外もざわめついたようだった。

「そ、それは本当に『みさか』と名乗っていたのですか!!??」

医師が慌てるように訊ねている。

「もしかして下の名前は『みこと』ではありませんでしたか!?」

「ああ、そういやそんな名前も聞いた気が……」
「そ、その『みさかみこと』は今アンチスキルが全力で追ってる犯罪者ですよ!!!!」

「ああああ? 誰だよそりゃぁ。こっちは数年世俗とは離れてるんだっつーの」

「た、大変だ……まさか『みさかみこと』に会っていただなんて……!」

黒子「……………………」

ベッドから降り、黒子は僅かにドアを開けるとそこから外を窺った。
松葉杖をついた浮浪者らしき男と、慌てた様子の医師や看護士の姿が見えた。

浮浪者2「金はもういいのかよ?」

医師「そんなことよりアンチスキルに連絡せねば……!!」

黒子「(……御坂美琴。また怪我した他人を治療でもしたんですの……)」

外の様子を眺めながら黒子は胸中に思う。

黒子「(……ま、もう私には関係の無いことですわ……)」

ドアを閉め、ベッドに戻ると、黒子は再び窓の景色を眺め始めた。

黒子「(……それに……どうせ……私はもう………)」

彼女の生気のない目が、夕焼けに染まり始めた空を見つめていた。

 

 

 

 

学園都市・南ゲート――。

キキッと音を立て、大所帯でやって来た黒塗りの自動車や装甲車が慌てたように一斉にストップする。

バンッ!!!

その中のうち、数台の装甲車の後部扉が同時に開き、中からザザザと規則正しい動きで黒ずくめ姿の武装兵たちが次々と飛び出してきた。胸にアサルトライフルを構え機敏な動きで部隊を展開する彼らの正体はアンチスキルだ。

黄泉川「行け行け行け行け行け行け行け!!!」

装甲車の側に立ち、車内から飛び出してくる警備員たちを促すのは指揮官の黄泉川だ。

黄泉川「事態は一刻を争うじゃん!!!」

彼女の指示により南ゲート付近はあっという間にアンチスキルの部隊によって埋められた。

黄泉川「……よし」

その様子を見て小さく頷くと黄泉川はスピーカーを取り出して叫び始めた。

黄泉川『アンチスキルじゃん!! 今からこの南ゲートは我々が封鎖することになった!! ここに並ぶ全ての自動車は今から我々の検分を受けてもらうじゃん!! その後異常が無ければUターンして、別ゲートから『外』に出て行ってもらって構わない!!』

それを聞いた途端、自動車を運転していたドライバーたちから不満の声が沸き上がった。何台かはクラクションを鳴らしている。

黄泉川『黙れ!!!!』

キーンとスピーカーがハウリングする。一斉にドライバーたちは静かになった。

黄泉川『御坂美琴を逃すわけにはいかない。協力してもらうじゃん』

言って黄泉川は側にいた部下にスピーカーを預けると、隷下部隊指揮官の下へ歩いていった。

黄泉川「5班と6班は自動車の検分、7班と8班はその護衛及び周囲の警戒。1班と2班はいつでも車をスムーズに動かせるよう配備しとくじゃん」

班長「はっ!!!!」

横に並んだ班長たちが一斉に返事をする。

警備員「隊長!!」

黄泉川「ん?」

と、そこへ1人の警備員が叫びながら走ってきた。

警備員「来ました!! 例のトラックが!!!」

言って警備員は指を指す。

黄泉川「来たか」

黄泉川が視線を向けた先……そこに、ごつい形をしたトラックが警備員の誘導によって近付いて来るのが見えた。

班長「おおお」

班長たちが感嘆の声を上げる。

警備員「あれが……」

黄泉川「最新型のキャパシティダウンを搭載した車両――『キャパシティダウンキャリアー』だ。無理を言った甲斐があったじゃん」

トラックを見て満足そうな笑みを浮かべる黄泉川。
そんな彼女に警備員は訊ねる。

警備員「しかし、話に聞くと御坂美琴は能力を失ってるようですが……わざわざ配備を早める必要があったんでしょうか」

黄泉川「『不安定な自分だけの現実(UPR)』は別に演算能力を失うわけではないじゃん。能力を実現化出来ないだけ。だからどの道効果はある。レベル0の無能力者なら話は別だが、奴は何だかんだ言ってレベル5の超能力者。能力を一時的に使えなくなってても特に問題は無いじゃん」

警備員「なるほど。これなら鉄壁ですね。今、アンチスキル最強の男もこちらに向かっていると聞きますし」

黄泉川「ふん。これで御坂美琴も終わり……忌々しい雷も、雨雲さえ消えてしまえば恐れる必要は無いってわけじゃん」

言って黄泉川は不適な笑みを浮かべた。

 

 

 

その頃・某学区にて――。

通りの端に設置された1台の公衆電話ボックスの中。

上条「ああ、そうか……分かった」

そこに、上条の姿があった。

上条「よし、じゃあそうしよう。こっちもそのつもりで動く」

受話器を耳に当て話しながら、上条は外を見る。

上条「ああ、頼む」

目を鋭くさせ、上条は答えた。

 

 

学園都市・南ゲート前――。

黄泉川「来ないな……」

組んだ腕の上で指を規則的に叩きながら黄泉川は呟いた。

黄泉川「一応この付近にも捜索部隊を出してるんだが……」

美琴と上条を待ち伏せるため、黄泉川の部隊が南ゲート手前で部隊を展開してから既に1時間と30分が経過していた。

警備員「例の医師から通報があった地下鉄ですが……結局ホームレス2人以外に何も見つからなかったようですね……。あ、拳銃は一丁見つかったようですが」

黄泉川「うむ……」

部隊を展開してから30分後のことだった。最寄りの支部経由で、美琴の目撃情報が入った。何でもその情報提供者によると、病院に足の治療を受けにきた浮浪者が、美琴と一緒にいた少年に拳銃で撃たれたとの話だった。

黄泉川「奴らめ……どこにいるじゃん」

それを聞いた最寄りの支部は直ちに隷下部隊を件の地下鉄に派遣、美琴と上条を捜索させたが、結局発見出来たのは怯えたホームレス2人と拳銃一丁のみ。美琴と上条の姿は既にどこにもなかったとのことだ。

黄泉川「今までの逃走経路に合わせて地下鉄のルート。それらの要素を合わせて考えれば、奴らは今すぐにでもこの南ゲートに現れる可能性が高いと思ったが……どこかで読み違えたか……」

夕焼けに染まっていた空には、群青色が混ざり始めている。なるべく早く美琴を捕まえたいと思っていた黄泉川は、これまでのことも相まって苛立ちが募りに募っていた。

黄泉川「早く来るじゃん」イライライラ

が、目の前の道路には検問のことも知らずやって来た自動車が数台並んでいるだけで、それ以外には猫の子1匹すら見当たらなかった。

警備員「隊長、少し休憩を入れてみては?」

見かねた部下の警備員が提案する。

黄泉川「休憩してる間に、もし奴らが現れたらどうするじゃん」

警備員「………………」

何も言い返せなくなる警備員。

 

黄泉川「……………………」
黄泉川「………ま、休息あってこそ有事に動けるもんだな」

警備員「え、ええ」

表情を緩め、警備員にそう答えると黄泉川は踵を返した。

黄泉川「分かった。10分ほど休むじゃん。異常があったらすぐに呼べ」

警備員「了解」

言って黄泉川がトレーラー型の装甲車に向かおうとした時だった。

ィィィィィィィィィィ………

黄泉川「ん?」ピタ

ィィィィィィィィィィィィィィィィィィィン……

黄泉川「待て」

警備員「は?」

ィィィィィィィィン………

黄泉川「バイク?」

警備員「え?」

どこからともなく、バイクの走行音が聞こえてきた。

 

ィィィィィィィィィン………

黄泉川「近付いてくるな……」

音は徐々に大きくなっている。


ィィィィィィィィィィィィン……


と、次の瞬間だった。




イイイイイイイイイイイイイイイン!!!!!!!!!!




黄泉川「!!!!!!!!」

背後から聞こえたバイクの音に驚き、振り返る黄泉川。

黄泉川「………………」

その一瞬、検問に並んだ自動車の横を通り抜けて、警備員の制止も無視してそのままU字路を駆け抜けていくオートバイが………そして、どこか見覚えのある姿格好でそれを運転する少年と後部座席に座る少女の姿が………





黄泉川「…………っ!!」





――目に入った。

 

黄泉川「いたぞおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!」




警備員「えっ?」

黄泉川「御坂美琴と上条当麻じゃん!!!!!」

警備員「ええっ!!!???」

咄嗟に走り出す黄泉川。

黄泉川「1班2班、出動準備!!! 今逃げたバイクを追うじゃん!!!!」

走りながら黄泉川は無線に指示を入れる。

黄泉川「7班と8班も準備が整い次第、直ちに我々の後に続け!!! 5班6班は引き続きこの場に残って検問作業!!! 以上だ!!!!」

『了解!!!!』

ノイズに混じって、8人の班長たちが一斉に返答する。

黄泉川「来い!!! 奴らを追うじゃん!!!!」

そこら辺に立っていた警備員たちを走りながら叩き、促す黄泉川。

黄泉川「せっかく巡ってきたチャンス!! 逃すわけにはいかないじゃん!!!」

言って黄泉川は1台のアンチスキルの自動車の助手席に乗り込む。

黄泉川「他の連中は!?」

運転手「既に出発してますよ!!!」

黄泉川「さすが優秀な連中だ。我々も負けてられない。逃げたネズミを捕まえるじゃん!!!!」

運転手「了解!!!」

黄泉川を乗せた自動車が出発する。

『止まりなさい!!! 止まりなさい!!!!』

『そこのバイク!!! 今すぐ道の端に寄せて止まりなさい!!!!』

『止まりなさい!!! これは警告である!!!!』

けたたましいサイレンとスピーカーの声が鳴り響き、3台のアンチスキルの車が道路を驀進する。

上条美琴「………………」

イイイイイイイイイイン!!!

彼らが追うは、美琴と上条が乗る1台のオートバイ。

『止まれ!!! 止まれ!!! これは警告だ!!!!』

もちろんバイクは止まることなく寧ろスピードを上げつつあった。

警備員「こちら1班。現在、御坂美琴と上条当麻が乗車するオートバイを追跡中。発砲許可求む」

無線に吹き込む警備員。

黄泉川『周囲の安全を確認し、警告をした上でのみ認めるじゃん』

すぐに黄泉川から返事が返ってきた。

警備員「了解」

無線を切り、警備員は隣の運転手に話しかける。

警備員「なるべく市街から離れるよう奴らを追い詰めるぞ」

逃げる美琴と上条を確実に捕まえるため、3台の車は更にスピードを上げる。

イイイイイイイイイイイイン!!!!!!

美琴と上条が乗ったオートバイは十字路に差し掛かる。
と、そこでオートバイはまっすぐ進むかと思われたが、その直前………


キキィィィィーーーッ!!!!


と甲高い音を発生させ、左に急カーブした。
警備員「何っ!?」
警備員「クソッ! 左だ!! 左に行けっ!!!!」

キキィィィッーーーー!!!!

タイヤが悲鳴を上げるようにスリップし、車が無理矢理な姿勢で方向転換する。

ドォォォォン!!!!

と、その1台目の車の後部左側部分に、続いて追ってきた2台目の車のバンパーが軽く衝突した。

警備員「チッ!!! 構わん行け!!!」

衝突したことを気にもせず、1台目の車はオートバイを追うため再び発進する。やがて2台目の車も同じく方向転換して後に続こうとしたが、それも叶わなかった

ドォォォン!!!

道の真ん中で止まっていた2台目の車を避けようと、右ハンドルを切った3台目の車の横っ腹が、その後部に衝突したのだ。
そこからは芋ずる式だった。

ドォォォォォン!!!

対向車線に、垂直に車体を乗り上げるように停車していた3台目の車のバンパーの左側部分に、反対側からやって来た一般車両が衝突した。

キキィィッ!!!!! 

そして急停車したその一般車両を避けようと後からやって来たまた別の一般車両が右にカーブを切り………

ドォォォン!!!!!

動けずに止まっていた2台目のアンチスキルの車のバンパーに衝突した。

プププッーーー!!!!

プアッ!!! プアッ!!!! プププーーーーーッ!!!!

四方面からやってきた何台もの自動車が、道を遮られたことでクラクションを鳴らし始めた。瞬く間にその場に渋滞が巻き起こり、取り残された2台のアンチスキルの車は身動きが取れなくなってしまった。

一方、無事渋滞に巻き込まれる前に一足早く十字路を脱出していた1台目のアンチスキルの車は、黄泉川を乗せた車と合流していた。

イイイイイイイイイイン!!!!!!!!

2台が追うのは、これだけの迷惑を起こしておきながらいまだ飄々と逃げ続ける上条と美琴が乗ったオートバイ。

黄泉川『これは警告である。これは警告である。そこのバイク、今すぐ止まるじゃん!!! 止まらなければ撃つ!!!!』

上条美琴「「………………」」

もちろん美琴と上条は聞いていない。寧ろわざと無視しているようにも見える。

黄泉川「チッ…舐めやがって……っ!」
黄泉川『これは警告だ!!!! そこのバイク止まれ!!!! 止まらないと撃つ!!!!』

上条美琴「「……………………」」

黄泉川「やれ」

警備員『了解』

無線を通して黄泉川から命令を受けた、1台目の車の助手席に座っていた警備員が、窓から身を乗り出しその両手に拳銃を構えた。

パァン!!! パァァン!!! パァァン!!!!

容赦なく警備員は、オートバイのタイヤを狙って発砲した。

イイイイイイン……

と、ほんの少しバイクの速度が緩んだ。

黄泉川「やったか!?」

イイイイイイイイイイイイン!!!!!!!

が、追跡車両を嘲笑うかのようにバイクはまたもスピードを上げた。

黄泉川「クソッ!!!」

警備員「……しぶとい奴め」

パァン!!! パァァン!!! パァァン!!!!

再び警備員はタイヤを狙って撃つ。

イイイイイイイイイイン!!!!!!

だが、バイクは僅かに蛇行するだけでスピードを落とす気配は無い。

イイイイイイイイイイイイイイイイイイイン!!!!!!

黄泉川「あっ!!」

と、そこでオートバイは歩道に乗り上げた。

黄泉川「クソッ……歩道は人が通るから撃てないじゃん!!」

黄泉川は苦虫を噛み潰したような顔になる。

イイイイイイイイイイイイイイイイン!!!!!!

一方、オートバイは歩道を驀進する。最終下校時刻を過ぎていたため、人が少ないのは幸いだったが、歩道を歩く人々にしてみれば只事ではなかった。

「うわ!」

「ちょっ」

「きゃあ」

「ひょえっ」

「わああ!」

避ける通行人たちの間をバイクは華麗にすり抜けていく。
そのバイクに拳銃を向ける黄泉川だったが………

黄泉川「チッ…ダメじゃん。これでは撃てん」

イイイイイイイン………

と、そこで歩道も途切れのか再びオートバイが道路に戻ってきた。

黄泉川「よし!!」

警備員「バカめ。わざわざ撃たれに戻ったか!!!!」

窓から身を乗り出し、警備員が発砲しようとする。

イイイイイン……

と、その時バイクのスピードが急激に落ち、追跡車両との距離が縮まった。

警備員「?」

黄泉川「何だ?」

その様子を後ろの車から訝しげな目で窺う黄泉川。

上条美琴「「………………」」

警備員「?」

やがてバイクは1台目の車と並走するぐらいに、スピードを落としてきた。

警備員「!」

そこで警備員はバイクの後部座席に乗っていた少女と目が合った。

美琴「………」ニコッ

笑っていた。ヘルメットのバイザー越しだが、確かに彼女は笑っていた。

警備員「………っ」
警備員「……バカにしやがってえええええええええ!!!!!!!!!!」

パァン!!! パァァァン!!!! パァァァン!!!!!

窓から腕を出し、警備員は苛立ち紛れに発砲する。
が、バイクはスススとスピードを上げ、また車の前に躍り出てきた。

警備員「あのやろおおおおおおお!!!!!! 絶対捕まえてやる!!!! スピード上げろ!!!!」

怒り心頭した警備員は隣の運転手に怒鳴る。

黄泉川『1号車!!! 挑発に乗るな!!!! 今すぐ速度を落とせ!!!!』

黄泉川の声が無線からこだまする。

警備員「あいつを捕まえろ!!!! 追え!!!! 追え!!!! 追ええええええええ!!!!!! スピード上げろ!!!!!」

が、警備員は聞いていなかった。

と、その時だった。

黄泉川「!!!!!!!!」
黄泉川「危ない!!!!!」

警備員「!!!???」

プアアアアアアアアアアッ!!!!!!!!

再び十字路に差し掛かった時、バイクを追う1台目の車の右手から、トラックが飛び出してきた。

警備員「よけろおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!!!!」

運転手「…………っ」

慌てて右ハンドルを切る運転手。車が右に曲がり車体の右半分が僅かに浮かび上がる。
運転手は一か八か、トラックの右手に滑り込もうとハンドルを限界まで回す。

ガァン!!!

バンパーの右側部分がトラックの右ヘッドライト付近と衝突し、そのまま砕け散る。

キキキイイイイイイイッ!!!!!!

と嫌な音が鳴り響き、その衝撃で横転状態となった車は道路を滑っていった。

ドォォォン!!!!!!

やがてスピードを減らしていった車は電灯のポールにぶつかるとそこで停止した。

シュウウウウウウ………

運転手「………ハァ…ハァ…ハァ…」

警備員「………クソッ!!!」ガンッ!!

警備員は悔しそうに、助手席のグローブボックスを叩いた。

ィィィィイイイイイイイイイン!!!!!!!!

一方、オートバイを追う黄泉川は。

黄泉川「4号車と5号車、現在位置を報告せよ」

『こちら4号車、現在123番通りを西に向かって走行中』

『こちら5号車、同じく123番通りを西に向かって走行中』

黄泉川「了解。なるべく早くこちらと合流せよ」カチッ

そこまで言って無線を切る黄泉川。

黄泉川「さあ、ここまでやった分、落とし前つけてもらうじゃん!!! 御坂美琴!!! 上条当麻!!!」

彼女は前方を行くバイクを見据える。

イイイイイイイイン……バンッ!!!!

………ィィィイイイイイン!!!!!!

坂道を駆け上ったところでジャンプし、一瞬空中で停止すると再びバイクは地面にタイヤをつけ走り始める。

ブオオオオオオオン……バンッ!!!!

………ブォオオオオオオン!!!!!!

同様に黄泉川を乗せた車も坂道を駆け上ったところでジャンプし、一瞬空中で停止すると再び地面にタイヤをつけ走り始める。

パァァン!!!! パァァァン!!! パァァン!!!!

箱乗りし、バイクに向かって発砲する黄泉川。

イイイイイイイイイイイイン!!!!!!

だが、バイクは一向に止まる気配は無い。

黄泉川「何故……当たらないんじゃん!!!!」

言って黄泉川は後部座席からアサルトライフルを取り出すと、今度はそれをバイクに向けて発砲し始めた。

ダカカカカカカカカカカカカ!!!!!! ダカカカカカカカカカカカカカン!!!!!!

容赦なく、黄泉川はライフルを掃射する。

黄泉川「チッ……もっとスピード上げろ!!!!」

車は更にバイクに近付く。

ダカカカカカカカカカ!!!!! ダカカカカカカカカカン!!!!!!

黄泉川「何であいつらには弾が当たらないんだ!!!!」

苛立ちを露にしながら身体を引っ込める黄泉川。

黄泉川「にしてもあいつら……南ゲートからどんどん離れていってるじゃん。いよいよ自棄になったか? ……ふん、まあどの道私の手から逃れられはしないけどな!!!!」

ィィィイイイイイイイイイイイイイン!!!!!!

逃走するオートバイ。

ブオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!!!

それを追跡するアンチスキルの車両。

黄泉川「地獄の底まで追いかけてってやるじゃん!!!」

上条美琴「「……………………」」

両者は決して譲らない。
と、その時だった。



カンカンカンカンカンカン………



黄泉川「ん?」



カンカンカンカンカンカンカンカンカンカン………



黄泉川「何だ?」

遠くから聞こえてくる機械的な音に気付き、怪訝な表情を浮かべる黄泉川。

黄泉川「あれは………」

逃げるオートバイの先――目をこらしてみると、そこに点滅する赤い光が見て取れた。

黄泉川「!!!!!!!!!!」




カンカンカンカンカンカンカンカンカンカン!!!!!!!!




黄泉川「踏み切り……っ!!」
彼女が叫んだ通り、進行方向に1つ、大きな踏切がその姿を現した。そして前を走るバイクは一直線にそこを目指していて………

黄泉川「我々を振り切るつもりか……っ」

現状、電車はまだ遠くを走っているし、警報音が鳴ってるだけで遮断機は降りていない。タイミングが合えば黄泉川の車両を振り切ることが出来るが、失敗すれば恐らくは逆の結果が待っている。
どちらにしろ、黄泉川はここで諦めるつもりはなかった。

黄泉川「スピード上げろっ!!」

ブオオオオオオオオオオオオン!!!!!!

イイイイイイイイイイイン!!!!!!!!

車とオートバイが同時に速度を上げた。前者は、オートバイを捕らえるため。後者は、踏切を利用して追っ手を振り切るために。



カンカンカンカンカンカンカンカン!!!!!!!!



遮断機がゆっくりと下りてくる。

イイイイイイイイイン!!!!!!

バイクの速度が更に上がる。
そして………

ガタンゴトンガタン……

遂に、電車が踏み切りに近付いてきた。

ゴトンガタンゴトン……ゴトンガタンゴトン……

電車がレール上を走る音が徐々に大きくなっていく。
上条「…………っ」

イイイイイイイイイイイイイイイイイイン!!!!!!!!!!

それと共にバイクも更にまだ速度を上げていく。

黄泉川「止まるな!!! 行けえええええええええ!!!!!!!!」

ブオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!!!!

それと共に黄泉川を乗せた車も更にまだ速度を上げていく。

ガタンゴトンガタン!! ガタンゴトンガタン!!! ガタンゴトンガタン!!!! ガタンゴトンガタンゴトン!!!!!!

けたたましい音を鳴り響かせながら、電車がその姿を露にした。踏み切りの赤いライトがそのボディに映える。

ゴンッ!!

黄泉川「!!!???」

と、その時、バイクに追いついた車のバンパーがその後部に衝突した。

イイイイイイイイイイイイイイン!!!!!!!!


バキッ!!!!


まるでそれを発射台にするかのようにバイクは遮断機を真っ二つに割り、踏切に突っ込んでいった。





黄泉川「―――――――――」





上条美琴「「―――――――――」」





電車の前を、飛ぶように横切る1台のオートバイ。そのシルエットが電車のライトによって暗闇に浮かび上がる――。


プアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!!!!!!!!!!!




耳をつんざくような警告音が鳴ったかと思うと、オートバイは既に踏み切りの向こうへ着地していた。

黄泉川「止まれえええええええええええええ!!!!!!!!」

運転手「…………くっ!」

キキキキキキキイイイイイイッ!!!!!!!!

摩擦音を響かせながら、黄泉川を乗せた車が横滑りする。このまま突っ込めば、猛スピードで走る電車にまともに衝突するのは必至。

キキキキィィィィィィッ!!!!!!

黄泉川「……………っ」

キキキキィィィィィィ………

車内が揺れに揺れ、窓の外の景色が遊園地のコーヒーカップに乗っているかのように巡る。

ィィィィィッ………

黄泉川「…………っ!?」



ピタッ………



ガタンゴトンガタンゴトンガタンゴトンガタンゴトンガタン………




黄泉川「………っ……ゼェ……ハァ……ゼェ……ハァ……ゼェ……」




顔から大量の冷や汗を流しながら、黄泉川は大きく肩で息をする。

運転手「ハァ……ゼェ……」

隣に座る運転手も同様だった。
黄泉川が乗る車は、線路に対して平行に並ぶように、踏み切りに立ち入るか否かの僅かな位置で停車していた。

カタンコトンカタンコトン………

電車が走る音が小さくなっていく。

黄泉川「ハァ………ゼェ……」

生きている感触を確かめるように、黄泉川はただ、息を吐き続けた。
電車が過ぎ去った踏み切りは、今までの喧騒が嘘かのように静まり返っていた。

一方、追っ手を撒きに撒き、逃走を続けていた上条と美琴を乗せたバイク。

『止まりなさい!!! 今すぐ止まりなさい!!』

『これは警告である。 今すぐ止まりなさい!!』

遂に彼らも潮時を迎えたのか、新たに現れた2台のアンチスキルの車両に追い詰められていた。

イイイイイイイイイン!!!!!

横道を入っていくオートバイ。

ブオオオオオオオオオオオン!!!!!

それを追いかける2台の車両。

イイイイイイン………

と、急にバイクが速度を緩めていった。

イイイイイン………

キキッ……

軽く横滑りして唐突に停車するバイク。

上条「……………………」

美琴「……………………」

彼らが止まったのも無理も無かった。その先は行き止まりだったのだから。
キキッ……!

警備員「手を挙げろ!!!!!!」

と、追いついた2台の車から、完全武装したアンチスキルがざっと10人ほど降り立ってきた。

警備員1「手を挙げろ!!!! 挙げろ!!!!」

警備員2「挙げろ!!!! 手を挙げろ!!!!!」

警備員3「妙な真似をすると撃つ!!!」

停車したオートバイに一斉にライフルを向け、警備員たちは叫びまくる。

上条「…………………」

美琴「…………………」

バイクに乗っていた上条と美琴は互いの顔をチラッと見る。

上条「……………」コクッ

美琴「……………」コクッ

頷き合う2人。彼らはゆっくりと両手を挙げる。どうやら観念したようだった。

警備員「いいぞ! そのまま!! 手を挙げて…………おい! 何をしている!?」

カチャカチャカチャ……チャキッ!!!

班長らしき警備員の声に反応するように、10人の警備員たちがライフルを構え直す。
上条「……………………」

美琴「……………………」

と言うのも、一瞬、両手を挙げ観念するかと思われた上条と美琴はヘルメットに手を添えていたのだ。

警備員「みょ、妙な真似をすると撃つぞ!!!」

焦って怒鳴る警備員。
と、そんな警備員を嘲笑うように、ヘルメットを取りながら上条が久しぶりに口を開いた。





上条「いやー……まさかここまで上手くいくとはにゃー」





警備員「!!!???」



上条「わざわざアンチスキルの前に姿を見せた甲斐があったってもんぜよ」



警備員「…………は?」

警備員は咄嗟に思う。何かがおかしい。何か違和感があると。
と、後部座席に座っていた美琴が、上条の言葉に答えるようにヘルメットを取りながら言った。





美琴「ふふふ、私も褒めてほしいかも。これでもバイクに乗ってる時はドキドキしてたんだよ!」





警備員「……………え」
違う。明らかに違う。何が違うかと言われればすぐに説明は出来ないが、確かに何かが違った。

警備員「…………お前ら……何者だ……」

呆然と、警備員は率直に思ったことを訊ねる。

上条「………………」フッ

美琴「………………」クスッ

やがて、上条と“思われた”少年と美琴と“思われた”少女はヘルメットを取りその素顔を露にした。



上条「どう見たって上条当麻ぜよ。それともちっとばかり変装が下手だったかにゃー?」


美琴「髪を切って染色までして変装した私の方が、上手だったってことなんだよ!」



警備員「…………な………」

確かに、そこには上条当麻と御坂美琴がいた。
服は捜査本部で渡された資料の写真と同じもので、髪にしても、上条当麻と思われる少年の方はツンツン頭の黒髪。御坂美琴と思われる少女の方はシャンパンゴールドの肩までかかるショートヘアと、両方とも本人のものだった。
しかし………




警備員「顔が違う………」




上条「つまりはそういうことぜよ。ここまで追跡ご苦労さん」

警備員「じゃあ、本物は一体どこに………?」

美琴「さあ? でも2人ともここにいないのは確かなんだよ」

言って、上条と“思われる”少年と美琴と“思われる”少女はニヤリと笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

その頃・南ゲート付近――。

「……大分警備員の数も減ったわね」

「……ああ、インデックスと土御門が囮になってくれたお陰だ」

物陰から、ゲート近辺に展開するアンチスキルの部隊を窺いながら、1人の少年と1人の少女は顔を見合わせる。





上条「さあ、いよいよ脱出だ」


美琴「ええ」





本物の上条当麻と本物の御坂美琴――彼らは互いの顔を見て頷き合う。遂に訪れたその瞬間を目前にして――。

 

 

ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。