- 黒子「………………」
上条と美琴が去ってからまだ間もない頃。
黒子は、人気の無い道の真ん中で呆然として座っていた。
黒子「………」チラッ
自分の足を見る黒子。その右ふとともには出血を止めるための布が巻かれている。美琴が応急処置のために巻いてくれたものだった。
黒子「…………」
本当は今すぐにでも布を取っ払ってしまいたかった。憎き敵による慈悲を受けたのだ。本来なら、人前に出るのも嫌になるほど恥ずべきことだ。
だが、応急処置を終えた時の美琴の笑顔を思い出すと、何故かそれも出来なかったのだ。
黒子「………………」
憎み、今すぐにでも美琴を追って殺したいと思っている自分と、敵とは言えその厚意を無駄には出来ないという自分。その2人の自分が心の中で衝突していた。
それが、黒子にとって辛かった。本来なら前者としてもう1度、御坂美琴討伐作戦を考えているはずなのに、それも出来ず優柔不断に迷っている。そんな今の自分を思うと、これまでの苦労は何だったのか、と言いようの無い空しさに囚われるのだった。
黒子「(……もう……どうでも良くなりましたわ……)」
黒子はボーッと、氷が解けていく地面を見つめる。
不良1「よーお嬢ちゃん」
不良2「さっきの見てたぜー! かっこよかったなー!」
と、そんな黒子の頭の上から2つ分の若い男の声が聞こえた。
黒子「…………」
生気の無い目で見上げると、そこには2人の不良らしき男が立っていた。どうやら先の戦闘をどこからか盗み見ていたらしい。
黒子「………………」
興味の無いように黒子は顔を下げる。
- 不良1「なー、お兄さんたちここら辺を住処にしてるんだけどさー、娯楽が少ないんだよねーマジで」
不良2「そうそう。だからさ、君お兄さんたちと一緒に遊ばない? 気分変えるにはいいと思うよ」
言って1人の不良が無理矢理黒子を立たせようとその左腕を掴む。
黒子「………………」
傷にひびくはずなのに、抵抗する気も残ってなかったのか黒子はされるがままだった。
不良1「俺たちと一緒に楽しいことしたら、負けたことで悲しくなってる気分も一気にぶっ飛ぶぜ!!! ぎゃはははは!!!!」
不良1「なあ?」
そう言って不良1は左にいた仲間に顔を向けた。
不良1「…………あれ?」
だが、仲間は何も答えなかった。無理も無かった。
不良1「………何だこれ」
全身を氷漬けにされ、オブジェのように笑顔のまま固まっていたのだから。
「白井さんに……手を出すな……悪漢ども……っ!」
不良1「ひっ!!??」
後ろから響く凍てつくような声。不良1が背中に悪寒を感じた時には既に遅かった。
- 瞬間氷結「しばらく眠ってろ」
次の瞬間には不良は氷漬けにされていた。2体の間抜けな顔をした雪像がそこに出来上がっていた。
瞬間氷結「白井さん!」
地面でうなだれていた黒子に近付く瞬間氷結。
瞬間氷結「どうしたんだ。君らしくもない」
黒子「………………」
瞬間氷結は声を掛けてみるが、黒子は何も答えない。
瞬間氷結「………行こう。黄泉川先生たちが待ってる」
言って、瞬間氷結は黒子の肩を支えながら立ち上がり、ゆっくりと歩き始めた。
黒子「…………離して……下さいですの……本部長……」
瞬間氷結「!」
ボソッと、突然黒子が声を発した。
黒子「…………黄泉川先生たちに合わす顔がありません………」
顔を俯かせながら黒子は今にも掻き消えそうな声で言う。
黒子「…………敵に負けて……あまつさえ……慈悲を受けた私に……戻る資格はありません……」
瞬間氷結「……バカ言っちゃいけない。何を気落ちしているのか知らないが、こんなことジャッジメントを長年やってたらよくあることだ」
黒子「………………」
瞬間氷結「君の今回の働きは表彰ものだよ。僕が保障してやる。だから……いつもの君に戻ってくれ」
正面を向いて歩きながら瞬間氷結は黒子を励ます。
黒子「……………………」
黒子はただ、黙って俯いていた。
-
- 一方その頃。
上条「暗いから足元に気を付けろ」
美琴「うん」
黒子と瞬間氷結の手から逃れた上条と美琴は、予定通り仁科から貰った地図を頼りに地下鉄の線路上を歩いていた。
上条「………………」
美琴「………………」
古くなった線路の上を、2人は慎重に歩く。
上条「………良かったのか?」
美琴「え?」
と、そこで前を行く上条が美琴に話しかけてきた。
美琴「何のこと?」
上条「白井のことだよ……」
美琴「ああ……」
美琴の声が僅かに小さくなる。
美琴「仕方がないよ、こればっかりは……」
- 上条「………もう会えないかもしれないんだぞ?」
美琴「………………」
上条「あ、ごめん……」
美琴「……ううん。前から覚悟してたことだから………」
上条「俺がもっとしっかりしていれば……」
美琴「何言ってるの? あんたのせいじゃないよ」
上条「………そうかもしれないけどさ……」
美琴「………………」
美琴は後ろから上条の横顔を見る。どこか、辛そうな顔をしていた。
美琴は胸中に思う。何故、いつもこの少年は他人の悲劇を自分のように感じることが出来、自らの身も省みず誰かを助けようするのだろうか、と。
上条「だが安心しろ御坂。お前だけは絶対守り抜いてみせるからな」
このように普通の人間なら簡単に言えないことを臆面もなく言ってのける。しかもそれは嘘偽り無い本心なのだから、言われた方は恥ずかしいなんてものじゃない。
だが………
美琴「(……嬉しい)」
口元を綻ばせる美琴。
実際、上条は過去にも美琴が困ってた時に颯爽と現れその危機を救ってくれたのだ。
- 上条「だから遠慮なくお前も俺を頼ってくれ」
最初はこの腐った学園都市で彼のような少年に出会うとは思っていなかったほどだ。だが、何の因果か美琴は上条当麻に出会った。そして戦友のようにお互いの仲を、絆を深め合い、今も再び訪れた美琴の危機に駆けつけ、行動を共にしてくれている。
本当は彼にとっても学園都市での生活を捨てるのはかなりの覚悟が必要だったろうに。
美琴「……………………」
嬉しかった。本当に嬉しかった。そして、もうこの先も彼のような人間と会えるとも思っていなかった。
だからこそ………
上条「って言ってもさ? 実際お前の力になってるかどうかは分からないけど。お前だって一緒にいるのが俺みたいな不幸で頼りない男は嫌だったりしないか?」
歩きながら上条は訊ねる。
上条「なんてな。そんなこと聞く状況でもねぇな。今のは聞き逃してくれ」
美琴「好きだよ」
上条「!」
美琴「私は……当麻のことが好きだよ………」
上条「…………っ!?」
- 振り返る上条。
笑顔で立つ美琴の姿がそこにあった。
美琴「今までずっと助けてくれたんだもん……。好きにならないほうが……おかしいよ……」
上条「………………」
呆然と、上条は美琴を見据える。
美琴「……………………」
上条「……………………」
見つめ合う2人。
美琴「――――――――――――――」
上条「――――――――――――――」
時が止まったような気がした――。
-
ガーーーーーーン!!!!!!!!
上条美琴「!!!!!!!!!!」
と、その時だった。
ガーーーーーーン!!!!!!
上条「何だ……?」
遠くの方から大きな音が聞こえてきた。
ガーーーーン!!!!
上条「まただ」
音は進行方向から聞こえてくる。
ガーーーーン!!!
上条「行ってみよう!」
美琴に叫ぶ上条。
美琴「…………うん」
2人は音の正体を探るため走り出した。
上条「見ろ! プラットホームがあるぞ! 音はあそこからだ!」
美琴「……………………」
ガーーーーーーン!!!!!!
プラットホームに着き、上条は慎重に物陰からホームの方を覗いてみた。
- ガーーーーン!!!!
上条「あれは……」
美琴「どうしたの?」
上条「何だ。これが音の正体だったのか」
と言ってスタスタと上条は階段を使ってホームに上がっていく。
美琴「ちょっと!」
上条「大丈夫だ。ほら見てみなよ」
美琴「え?」
促され、恐る恐る美琴もホームに上がる。
上条「これだよ」
美琴が近付いてみると、上条がホームの端に設置されたゴミ箱を顎でしゃくった。
ガーーーーン!!!!
見てみると、ゴミ箱の下部の取り出し口の扉が風によって開いたり閉まったりしていた。
上条「キチンと閉まってないから音が出てたんだ」
言って上条は扉を閉める。さっきまでのうるささが嘘のようにホームが静まり返った。
美琴「………………」
上条「こっちは改札か」
後ろを向き、階段を見上げる上条。
上条「上へ行こう」
美琴「え?」
上条「改札窓口があるはずだ。そこで数時間ほど眠ろう」
美琴「……別にいいけど」
上条の提案に美琴は小さな声で答える。2人はそのまま階段を登っていった。
-
ホームから1階分上がった場所――地下1階に改札口はあった。
そのすぐ側にある、駅員が利用する窓口の中。
上条「お、毛布あったぞ。取り敢えずこれ2人でくるまって寝よう」
美琴「は? な、何考えてんのよあんた!?」
上条と美琴は数時間ほど休眠を取るためにそこにいた。
上条「別に何も考えてねーよ! ただ寒いし1枚だけしかないから一緒にくるまって寝ようって言ってるだけで……」
毛布を手にし、上条は説明する。
美琴「な、何であんたと一緒に毛布にくるまらなきゃならないのよ……」
上条「今更かよ!? 山の中でも一緒にくっついてたじゃねぇか!」
美琴「う、うるさい!! …わ、分かったわよ! 一緒にくるまればいいんでしょ!!」
上条「………………」ハァ
2人は一緒に毛布の中でくるまり身を寄せ合う。
美琴「ちょ、ちょっとくっつき過ぎじゃない?」
上条「………………」
美琴「な、何黙ってるのよ!? や、やっぱり変なこと考えてるんでしょ」
上条「お前さー……」
美琴「何よ?」
上条「さっき言ってたことなんだけど……」
美琴「え? さっきって一体…………!!!!」
さっき、のことと言えばもちろんあれしかない。美琴は思わぬ形で上条からその話を再開されてうろたえてしまう。
- 美琴「さ、さっき言ってたこと? さ、さあサッパリ分からないわね!!」
美琴「(何よ……。別にこんな私でさえ忘れてた時に思い出したりしなくても……)」
上条「何言ってんだ。お前さっき俺に……」
と、そこまで言いかけた時だった。
美琴「あーーーーっと!! 確か今日はバラエティ番組の『行って戻ってクイズでゴー!』があった日だわ! 毎週見てるのに今日は見れないのよねー残念だわー」
上条「………」
美琴がそれ以上はダメ、と言いたげに話を切り替えてきた。
美琴「ってうちの寮の部屋テレビなかったわ。あれー私何言ってるんだろーあははー」
1人コントをする美琴。
上条「………………」
美琴「私もついにボケが始まった? って私はまだピチピチの中学生だっつーの!!」
上条「………………」フッ
そんな彼女を見て上条は笑みを零す。
美琴「まったくもうこの歳で若年s……」
上条「いつまでもバカやってないで早く寝ろよ」
美琴「!」
それだけ言うと上条は毛布の先を口元まで引き寄せ目を瞑った。
美琴「あ……う……」
点目になる美琴。
美琴「………………」
何やら恥ずかしそうな顔をする美琴。やがて彼女も毛布を引き寄せると、上条の肩に頭を預けて目を瞑った。
-
- 数時間後――。
上条「おい、御坂」ユサユサ
美琴「う……うーん……」
隣で眠る美琴を揺らす上条。
上条「いい加減起きろ」
美琴「……後5分……」
上条「ダメだ。急がないと」
美琴「……むー……」
促され、美琴は不服そうに目を開ける。
上条「この地下鉄のルートもあと半分も無いんだ。ここさえ抜ければ、学園都市の『外』と『中』の境界もすぐそこだ」
美琴「分かってる分かってるわよ」
気だるそうに答えてガバッと毛布をめくる美琴。
上条「学園都市から逃げるんだろ?」
美琴「それも分かってる」
言って美琴は立ち上がる。
美琴「その代わり……」
上条「?」
美琴「ちゃんと最後まで守ってよね」
上条「…………もちろんだ」
立ち上がり、上条は笑顔を見せる。
- 美琴「よろしい」
美琴も笑顔を返した。
上条「…………」フッ
美琴「…………」クスッ
2人は改札窓口から出、階段を下ると再び地下鉄の線路に降り立つ。
上条「じゃ、残り半分。頑張ろうぜ」
美琴「おー!」
子供のように腕を上げる美琴。
上条「ったく。自分が置かれてる状況分かってるんですかねー」
美琴「ポジティブじゃないと能力は取り戻せないでしょ?」
いつもの調子で会話をし、2人は線路の上を再び歩き始める。
「「「………………」」」
が、この時彼らは気付いていなかった。彼らを密かに尾行する3人の邪悪な影があることに。
- 上条と美琴が再び地下鉄の線路上を歩き始めてから1時間後。
2人は想像だにしなかった悲劇に見舞われることになる。
美琴「でね、その時黒子がね、転んじゃって! それがおかしくてさ……フフフ」
上条「へえ。あいつらしいな」
少しでも気分を盛り上げるためにと会話をしていた上条と美琴。そんな純粋な1人の少年と1人の少女の楽しげな一時を潰さんと、3匹の悪魔たちが近付いていた。
上条「と、待て……」
美琴「え?」
上条は美琴の腕を掴み、彼女を止める。
美琴「どうしたの?」
訝しげな表情で上条を見る美琴。
上条「誰かいる……」
美琴「え?」
上条の視線を辿り、美琴が前方に顔を向ける。
「ありゃー気付かれちゃったよ!」
「でへへへ。なかなか鋭いガキじゃねぇか」
上条「………………」
美琴「………」ギュッ
暗闇から発する2つの下品な声。それに怯えるように、美琴が上条の服をギュッと掴む。
- 「やーこんばんはー僕ちゃんにお嬢ちゃーん」
「こんな所で迷子になっちゃったのかなー?」
現れたのは2人の男だった。と言っても、どっちも明らかにまともな格好をしていない。
服はボロボロで白髪混じりの髪はクシャクシャ。おまけに数m離れていても異臭が漂ってくるほどだった。
恐らく彼らは、この地下鉄を根城に暮らすホームレスの浮浪者たちだった。
浮浪者1「ここが俺たちの家だって知ってて来たのー?」
浮浪者2「もしかして金持ってたりするかぁ?」
上条は彼らを見て思う。
上条「(目がイってやがる……)」
美琴「と、当麻」
隣で美琴が怯えたような声を出す。そんな彼女を見て面白がるように浮浪者たちは言う。
浮浪者1「何恐がってるのお嬢ちゃん?」
浮浪者2「大丈夫だよ。おじさんたち何も恐くないよー?」
上条「………そこを通してくれないか?」
舐められないよう真剣な表情を浮かべ、上条は浮浪者たちに訊ねる。
浮浪者1「通行料1万円」
上条「なっ!?」
浮浪者2「またはそれに準ずるもの」
浮浪者たちはニヤニヤと、何本か歯が抜けた口を大きく見せて無理難題を言要求してくる。
上条「ふ、ふざけないでくれ!」
浮浪者2「ああ?」
上条「うっ……な、なあ…た、頼むよ。俺たちはあんたらに何か危害を加えようとかそんなつもりはない。ただ、この先に行きたいだけなんだ」
浮浪者1「だーめ。通行料払いな!」
上条「………っ」
あくまで浮浪者たちは引き下がる気はないようだった。
- 浮浪者2「僕ちゃんたち、大人を舐めちゃいけないよ? これでも俺、人を殺したことがあるんだから!」
上条「なっ……」
浮浪者2「こう見えても5年ぐらい前までは研究員してたんだよ。で、とある研究所で色々と表には出せないような実験の担当しててさー……毎日のように実験体になった子供や女の子たちを良いように扱ってたんだなこれが! だけど安心して。殺したって言っても実験の一環だったから。法的には何も悪く無いよ」
浮浪者1「俺も似たような状況で殺しまくったっけなあ」
まるで過去の栄光を自慢するように浮浪者たちはどや顔で語る。
上条「こいつら……」
美琴「酷い。そんな昔から学園都市は裏で酷いことを……」
浮浪者1「さあ。ここを通りたかったら通行料よこしな」
浮浪者2「出来ないならどんな目に遭っても知らないぜ?」
言って浮浪者たちは美琴の身体をジロジロと見てきた。
美琴「……!」ゾクッ
上条「何度も言うがお前らに渡すものなんて何も持ってない。頼むからそこを通してくれ」
美琴を守るように上条が1歩前へ歩み出る。
美琴「当麻!」
浮浪者1「あちゃー。結局ガキはガキだったってわけかぁ」
上条「何?」
浮浪者2「じゃあもう大人の現実を思い知らせてやるしかねぇなぁ」
上条「何を言ってる?」
浮浪者たちは上条の言など知ったことではないと言うように、何やら勝手に喋っている。
上条「下らない。御坂、強引にここを通っていこう」
美琴「え? でも……」
上条「大丈夫だ。何かしてきたら俺があいつらボコボコにしてやるから」
上条は美琴を安心させるように言う。が、そんな彼の思いを嘲笑うように浮浪者たちはニヤニヤと不気味な笑顔を向けてきた。
浮浪者1「もしかしてお前ら、俺たちが2人だけだと思ってるのかぁ?」
上条「え?」
-
ドゴォォォッ!!!!!!
上条「!!!!!!!!!!」
瞬間、上条の頭に深い衝撃が走った。
美琴「きゃあああああああああ!!!!!!」
上条「ぐっ……」
ドサッ…と上条がその場に崩れ落ちる。
浮浪者3「ふへへへへへ。真打登場ってな!」
美琴「!!!!!!」
その声に振り返る美琴。そこに、保線員が使うような誘導棒を手にした新たな浮浪者が1人立っていた。
ガシッ!!
美琴「え?」
腕を掴まれた感覚を覚え、美琴は正面に向き直る。
浮浪者1「へへへへへ」
浮浪者2「でへへへへ」
美琴「!!!!!!」
浮浪者たちが、美琴の両腕をそれぞれ掴んでいた。
美琴「や……」
浮浪者1「大人しくしろやああああああ!!!!!!」
美琴「いやあああああああああああ!!!!!!!!」
物凄い力で美琴の腕を掴む2人の浮浪者。彼らは上条から数m離れた場所まで美琴を引っ張っていき、ゴミを捨てるように彼女を地面の上に仰向けに叩きつけた。
- 浮浪者2「久しぶりの獲物だぜぇぇぇぇ!!!」
浮浪者1「大人しくしろよ!!」
逃げ出そうとする美琴を、浮浪者1が後ろから両腕を掴んで動けなくする。
美琴「いやああああああああ!!!!!! 離してえええええええ!!!!!!」
叫ぶ美琴に、正面から近付く浮浪者2。
浮浪者2「大丈夫だよ? おじさん、優しくしてあげるから!!」
美琴「来ないで!!! 触らないで!!!!」
浮浪者1「動くなよ!!!」
暴れる美琴を浮浪者1が無理矢理押さえつける。
浮浪者2「じゃあ……でへへへ。まずは俺からいかせてもらいますか」
狂った目を浮かべて、両手をワキワキとさせながら浮浪者2が美琴に近付く。
美琴「いやああああああああああ!!!!!! 当麻ああああああああああ!!!!!!」
上条「うっ……御坂……」
朦朧とした意識の中、上条が目を開く。
浮浪者3「おっと! 手出しは無用だぜ?」
そんな上条の背中を浮浪者3が後ろから膝で押さえつけ動けなくする。
上条「は、放せ……。あいつに何をするつもりだ……!?」
浮浪者3「いいからお前は目の前で自分の女がヤられるところを見とけよ」
言って浮浪者3は上条の頭を、前が見えるように固定させる。
上条「み、御坂ああああああああ!!!!!!」
美琴「当麻ああああああああ!!!!!!」
浮浪者2「じゃ、用意はいいでちゅかお嬢ちゃん?」
美琴「来るなあああああ!!!!」
ドゴッ!!!
浮浪者2「ぐぇあっ!!」
- 美琴の蹴りが浮浪者2の股間に入る。
浮浪者1「あっ!」
浮浪者2「こいつぅ……人が下手に出てたら調子に乗りやがってええええ!!!!」
バキッ!!!
美琴「きゃぁっ!!」
美琴の頬を殴る浮浪者2。
上条「御坂!!!!」
美琴「い、痛い……うううう」
殴られたためか、大人しくなる美琴。それを好機と見た浮浪者2が彼女の服に手を掛ける。
美琴「いやっ……! やああああああ!!!!」
上条「御坂ああああああああああ!!!!!!」
涙を浮かべて首を振りながら抵抗する美琴。そんな彼女を嘲笑うように服をめくろうとする浮浪者2。そしてそれを見ていることしか出来ない上条。
浮浪者2「暴れてんじゃねぇよ!!!」
浮浪者1「思いっきりやっちまえ!!」
浮浪者2「こうしてやる!!!」ズルッ
怒った浮浪者2が美琴のスカートをずらす。
美琴「やああああああああ!!!!!!!」
浮浪者2「あれ? 何だこれ?」
浮浪者1「ああ? どうした?」
不思議そうな顔を浮かべる浮浪者たち。
浮浪者2「何だこいつガード固ぇな!! 短パンなんか履いてやがるぜ!!!」
浮浪者1「どうでもいいけどそっちは後にとってけよ。まずは上から行こうぜ」
浮浪者2「おうそうだな!!!」
言って浮浪者2は美琴の服をめくる。彼女の肌と下着が露になった。
美琴「!!!!!!!!!!」
- 美琴「いやああああああ!!!! 助けてええええええええええ!!!!!!」
上条「御坂あああああああああああ!!!!!」
美琴「当麻あああああああああああ!!!!!」
泣きながら上条に顔を向ける美琴。浮浪者たちはその手を止めることをせず、今度は彼女の短パンに意識を戻す。
浮浪者2「おら!!!!」
美琴「い、いやぁ!!!!」
短パンを脱がされ、下半身も下着が露になった。
美琴「当麻あああああああああああああ!!!!!!!」
上条「御坂……御坂っ!! ああああっ……御坂!!!!」
浮浪者3「だから俺たち大人を舐めなきゃよかったのによ」
上条「頼む!!! やめてくれ!!! あいつを今すぐ解放してくれ!!! その代わり俺には何をしてもいいから!!! お願いだ!!!!!!」
上条は必死の形相で、美琴を弄ぼうとする浮浪者たちに主張する。
上条「頼む!!!! 本当にやめてくれ!!!! お願いだ……そいつは……俺の大事な人なんだ……やめてくれよ………」
浮浪者3「うっせぇ!! これは罰だ!!! お前は目の前で自分の女が良いようにやられていく様を見てろ!!!!」
上条「………………美琴……」
呆然と、前を見る上条。彼は自分が置かれている状況と、今から目の前で見ることになる地獄の光景を思い浮かべ意識を止める。
上条「………………」
- 美琴「当麻あああああああああああああ!!!!!!」
浮浪者2「いただきまーす!!!」
美琴「いや……やめて……! あっ……ううあっ!!!」
浮浪者2「おおおお!!!!」
美琴「がっ……ああああああっ……いや……いやあああああ………」
浮浪者1「おいどんな感じだ!?」
浮浪者2「こりゃいいぜ~!」
美琴「痛い……痛いよう……当麻ぁぁぁ……」
浮浪者2「でへへへへへ!!!! 最高だな!!!!」
美琴「うっ……あっ……あっ……うっ……はっ……あっ……はぁぅ……と、とうまぁ……」
浮浪者2「俺たちをバカにするからこうなんだよ!!!」
浮浪者1「ぎゃははははははははははは!!!」
美琴「とう……と……とうま………とうま………」
上条「…………………」
上条は意識を戻し、前を見据える。
浮浪者2「よし、じゃそろそろ始めようか」
埃がついた自分のズボンに手をかける浮浪者2。
上条「………………」
上条は今頭に思い浮かべた最悪の光景を意識の中から放り出す。
美琴「いやああああああああああああ!!!!! 当麻ああああああああああ!!!!!!」
浮浪者2「覚悟しろよ?」
美琴の下着に手をつける浮浪者2。
-
上条「(………何で……)」
浮浪者2「静かにしろや!!!」バキッ!!
美琴「きゃっ!!」
上条「(どうして……)」
――「…………私を……1人にしないで……」――
上条「(あいつが一体……)」
――「似合ってる……かな?//////」――
上条「(あいつが一体………)」
――「私の裸なんて見ても、やっぱり何とも思わないの?」――
上条「(何をしたって言うんだ……)」
――「………助けにきてくれた時……嬉しかったよ……」――
上条「(あいつはただ……)」
――「私……嬉しかったよ? 当麻が私のために危険冒してまであそこまでしてくれて……」――
上条「(友達と楽しく暮らしたかっただけなのに……)」
――「私は……当麻のことが好きだよ……」――
上条「(………………………)」
地面に顔をつける上条。
浮浪者3「あん? 何してやがる。これからが良いところだってのに」
美琴「当麻ああああああああああああ!!!!!!!!」
浮浪者2「いただきまーす!!!」
当麻「あああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!」
- 美琴「!!!???」
浮浪者3「!!!!!!」
浮浪者1・2「!!!!!!」
当麻「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!」
美琴「とう……ま?」
浮浪者3「何だこいついきなり大声上げて!! ってうおっ!?」
ドサッ!!
当麻「あああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」
唐突に叫び出した上条。彼は背中に乗っていた浮浪者3を払いのけるように立ち上がる。
浮浪者3「こ、こいつぅ!!」
浮浪者1「何やってんだよ!!! しっかり押さえとけ!!!」
当麻「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!」
当麻「……………………」ピタ
浮浪者3「死ね!!!!!」
浮浪者3が後ろから誘導棒を持って上条に襲い掛かろうとする。
が、しかし………
パァン!!! パンパンパンパンパァァァン!!!!!!
浮浪者3「ひ、ひいいいいいいいいいい!!!!!!」
- 浮浪者3「ひ、ひいいいいいいいいいい!!!!!!!」
美琴「当麻!!!!!!」
浮浪者1「なっ!!??」
浮浪者2「あ、あれは……!!」
パンパンパァン!!! パンパァン!!!!!!!!
驚き、上条を見る浮浪者たち。彼は拳銃を手にし天井に向かって何発も発砲していた。
上条「………………」
そのまま無言で上条は歩き出すと、美琴を押さえている浮浪者たちに近付いてきた。
浮浪者1「あ、ひ、ひ……お、お助け……」
浮浪者2「あああ……」
ドカッ!!!
浮浪者2「ぎゃっ!!!」
浮浪者2を蹴り、美琴から離す上条。
上条「………………」
浮浪者2「あ、な、何をす、する……」
上条は黙って拳銃を浮浪者2に向ける。
パァン!!
浮浪者2「!!!!!!!!!!」
浮浪者2「ぎゃああああああああああああああああああ!!!!!!!!」
美琴「!!!!!!!!」
撃たれた浮浪者2の足から血が噴き出した。
- 浮浪者2「い、いてええええええええ!!!!! てめぇチキショーよくもやりやがったなあああああ!!!!! いてええええええええ!!!!!」
足を押さえながら浮浪者2が泣き叫ぶ。
上条「………………」
美琴「と、当麻……?」
呆然と美琴は上条の顔を見上げる。
浮浪者3「あひいいいいいいいいいいいいいい!!!!!」
浮浪者1「あ、てめぇ!!!!」
仲間が撃たれた姿を見、怖気づいた浮浪者3が逃げていく。
上条「…………殺す」ボソッ
美琴「!!!」
上条「……どいつもこいつもムカつく………だから殺す」ギロッ
浮浪者1「なっ!?」
上条に睨まれた浮浪者1が腰を抜かしたように後ずさる。
浮浪者2「いてええええええ……いてええええよ………」
- 上条「………何が『実験』だよ。何が『レベル6』だよ。何が『世界大戦』だよ。何が『弧絶術式』だよ」
ブツブツと独り言を呟く上条。
上条「……何が魔術だよ。何が超能力だよ。どいつもこいつも……人を勝手に巻き込んどいてよおおおおおおおお!!!!!!!!」
美琴「当麻……? ど、どうしたの?」
明らかにいつもと様子が違う上条を見て美琴が驚いた目で彼を見る。
上条「みんな自分勝手な都合で人を不幸にする奴ばかり……ムカつくなぁ……ムカつくぜ……だからムカつく奴は全員殺す。容赦なく殺す」
美琴「何を言ってるの当麻? 変だよ?」
上条「何が拳一つで生きてきただ」
浮浪者1「あひゃあああああああああああ!!!!!!!」
怯えた浮浪者1が堪らず逃げ出していた。
上条「拳銃一丁ありゃ簡単に敵を殺せるんじゃねぇか」
トンネルの奥に消えていく浮浪者1の背中に拳銃を向ける上条。
上条「死ねクズ」
言って上条は引き金に指を掛ける。
美琴「やめて!!!!」
-
パァン!!!!!!
直前、美琴が横から上条に飛び掛かった。そのせいで銃口の向きが逸れたためか、弾丸は浮浪者1ではなく、トンネルの天井に当たり兆弾しただけだった。
上条「チッ……逃がしたか」
美琴「何やってるの!!!??? いつもの当麻じゃないよ!!!!」
上条「どけ。寧ろ今まで殺意を向けてくる敵を殺そうとしなかった俺がバカだったんだよ」
言って上条は優しく美琴をどかす。
美琴「やっぱり変だよ!! いつものあんたはそんなこと言わないのに!!!!」
上条「で、仲間は逃げて残るはお前だけだよな?」
上条は美琴の言を無視し、足を押さえて痛がる浮浪者2に近付く。
美琴「当麻!!!!」
浮浪者2「……お、俺を……殺すのかよ?」
上条「………」
チャキッ
浮浪者2「ひっ!!」
浮浪者2の額に銃口をつける上条。
浮浪者2「や、やめろよ……人を殺して良いと思ってんのか?」
必死に浮浪者2は命乞いをする。
上条「はぁ? 実験でたくさんの子供や女を殺したお前が何言ってんの?」
浮浪者2「あ、あれは実験だから……べ、別に法に反してるわけじゃ……」
上条「学園都市のクズってどいつもこいつもそうだよなあ? 自分で人殺しといて飄々としてやがんの。マジで下らないわ、お前らみたいな『暗部』に住む人の命を何とも思ってない研究者とか」
浮浪者2「た、頼む……お、俺が悪かった。見逃してくれ……!」
上条「知るか。死ね」
引き金に掛けた指に力を込める上条。
- 美琴「当麻!!! ダメだよ!!!!」
上条「………………」
しかし、そんな上条を美琴が制止する。
上条「ハァ……じゃ、仕切り直しだ。今度こそ死ねよ」チャキッ
浮浪者2「や、やめ……!」
美琴「当麻!!!!!!」
上条「…………御坂。こいつはお前に酷いことをしようとしたんだぞ? 死んで当たり前の人間だ」
美琴「違う!! もしここでそいつを殺しちゃったら、当麻もそいつと同じになっちゃうよ!!!」
上条「………………」
浮浪者2「あっ……ひっ……ううう……」
美琴「だからやめて!! 私、当麻が人を殺すとこなんて見たくない!!!」
上条「……今までの俺が間違ってたんだ。この世界じゃ不条理なことがたくさん起こる。そんな状況で悪意を持った人間から身を守るには、手っ取り早く殺す方法が1番だったんだよ」
言ってグググッと上条は銃口を浮浪者2の頭に押さえつける。
浮浪者2「や、やめっ……!」
美琴「方法とかの問題じゃない!!」
上条「………」ピタ
美琴「当麻はそういう人間じゃないって言ってるの!!!」
上条「………お前も今まで学園都市に住んでてたくさん酷い目に遭わされたろ? 不条理だと思ったろ? 今回の『弧絶術式』についても同じだ。結局は殺しちまった方が1番早い。だから死ね」チャキッ
浮浪者2「ううああああ」
美琴「お願いやめて!!!」
上条「………御坂……俺はお前を助けると誓ったんだ……。頼むから、止めないでくれ」
- 僅かに、辛そうな表情を浮かべて上条は言う。
美琴「もしここでその人を殺しちゃったら、当麻はもう後戻り出来ないよ!?」
上条「…………っ」
美琴「これからも襲ってくる敵をみんな手当たり次第殺しちゃう人間になっちゃうよ!?」
上条「………それでもいいんだ。お前を守るためなら、人を殺すことになろうが俺は変わったほうがいい。寧ろ今まで拳一つで魔術師や超能力者たちをぶっ飛ばしてきたのが間違いだったんだ」
美琴「違う。間違いなんかじゃない。私は人を簡単に殺す当麻より、今までみたいに言葉と拳だけで生き抜いてきた当麻の方が好きだよ。妹達の時だってそうやって助けてくれたじゃない? 言葉と拳だけで学園都市最強の超能力者を倒したじゃない!!??」
上条「………………」
美琴「今ここで撃ったら絶対に戻れなくなる。ただ何も感じずに敵を殺すだけのつまらない人間になっちゃう。……当麻は、そんな人じゃない。……そんな人になっちゃダメ。そんな人になっちゃ嫌………」
上条「……構わない。どうせいつかは今みたいに決断を迫られる日が来るんだ……」チャキッ
浮浪者2「ああああ助けて……」
美琴「当麻!!!!」
上条「俺はここで変わる必要がある。いや、変わってみせる」
浮浪者2「うわああああああああああ!!!」
美琴「やめて!!!!!!」
上条「…………」
叫ぶ美琴。が、彼女の声も空しく上条は引き金を引いた。
-
カチッ……
上条「!!!???」
浮浪者2「…………?」
上条「あ、あれ……?」
美琴「???」
顔を覆っていた美琴だが、発砲音がしないことに不審を覚え目を開けてみた。
上条「クソ!」
カチッ……
浮浪者2「ひっ!!」
上条はもう1度試してみるが、やはり拳銃は火を噴かなかった。
上条「な、何で……」
カチッカチッ!
更に何度も引き金を引く上条。だが、それも徒労に終わった。
美琴「た、弾切れ……?」
上条「そ、そんなバカな……」
先程浮浪者たちを脅すための分と『デーモンズ・ネスト』で美琴を助けるために撃った時の分で、既に弾丸は全て尽きていたのだ。
上条「じゃあ……さっきのが最後の……」
逃げた浮浪者1を撃ち殺すため発砲したものの、美琴の制止によって外れた1発。あれが最後の弾だったのだ。
- 浮浪者2「……た、助かった……?」
上条「そ、そんな……」
美琴「当麻!!!!」
上条「!!」
振り返る上条。
パシィィィィン!!!!
上条「あ………」
彼は思いっきり美琴に平手を食らわされた。
上条「御坂……」
呆然と上条は美琴の顔を見返す。
美琴「目ぇ覚めたか、バカ!」
上条を平手打ちした右手を空中に浮かせて、目に涙を溜めている美琴がそこにいた。
- 上条「お、俺は……」ズッ…
そのままゆっくりと上条は地面に膝をつく。
上条「ただ……お前を守りたかっただけなのに……」
美琴「そんな進んで人を殺しちゃうただの殺人狂みたいな当麻に守られたって嬉しくない!!!」
浮浪者2「あ……う……」
怯えたまま2人のやり取りを見る浮浪者2のことなど気にすることなく、美琴は上条を叱咤する。
上条「御坂……」
美琴「当麻……」スッ…
そして美琴は、上条に近付くと、優しく彼を抱き締めてあげた。
美琴「当麻にはもう、こんなもの必要ないから……」
言って上条の手から拳銃をゆっくりと取り上げる美琴。
美琴「私を助けてくれたことは嬉しかったよ……。でも、私は……いつもみたいに長ったらしい説教で他人を説得させて、右手だけで敵を倒す当麻の方が良いから……」
抱き締めながら美琴は上条の耳元でそう呟いた。
上条「御坂……っ!」
表情を崩し、上条もまたその優しさに甘えるように美琴を抱き締め返した。