上条「二人で一緒に逃げよう」 美琴「………うん」 > 第一部 > 10


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その頃。『デーモンズ・ネスト』から逃げることに成功した上条と美琴は、どこかの幼稚園に隣接された小さな公園のベンチに向かい合うようにして座っていた。

上条「もうここまで来れば大丈夫だろう」

美琴「はぁ…怖かった……」

上条「………………」

胸を撫で下ろす美琴を見て上条は思う。彼女のその言葉は嘘でもなんでもないと。
今の美琴は能力を使うことも出来ないただの女子中学生でしかない。そんな彼女があんな目に遭えば真剣に恐怖を覚えるのもおかしくない話だった。

上条「(だからこそ……)」ジーッ

美琴「何? 私の顔に何かついてる?」

上条「いや……(だからこそこいつに早く気楽になってもらいたい)」

美琴「変なの」

上条「……」フッ

美琴「あ、そう言えばさ」

と、そこで美琴が何かを思い出したのか顔を向けてきた。

上条「何だ?」

美琴「あんたさっき拳銃持ってなかった?」

上条「ああ、これ?」

言って上条はズボンに挟んだ拳銃を取り出す。

美琴「わっ! 本物!?」

上条「当たり前だろ。グロック17とかいうやつだ」

美琴「さっき使ったのってそれだったんだ」

まじまじと美琴は上条の手の中にある拳銃を見てくる。

上条「ああ」

美琴「すごーい」

上条「仁科要から貰ったやつだ。これがなきゃ2人して『デーモンズ・ネスト』から無事に逃げれなかったかもしれない」

言って上条は手元の拳銃を見つめる。
美琴「ねぇ、見せて見せて」

上条「ダーメ。これは子供の玩具じゃないの。それに重いぞ?」

美琴に注意し、上条は拳銃を再びズボンに挟む。

美琴「ケチー」

上条「お前な……冗談言ってる場合じゃないんだぞ? よくそんなポジティブでいられるな」

美琴「だって……ポジティブでいたら電撃能力取り戻せるかもしれないじゃん」

上条「!」

素の表情で美琴は言う。

美琴「私が電撃さえ使えたら、さっきあんたにあんな危険なことさせなかったのに……」

彼女は少し思いつめたような顔になった。

上条「御坂……」

美琴「ホントごめんね? 一刻でも早くまた能力使えるようになったらいいんだけど」

自分の右手をどこか悲しげに見つめる美琴。

上条「…………、」




美琴「それにさ!」ガシッ




上条「!!!!!!」

と、そこで急に美琴は上条の両手を包み込むように優しく握ってきた。
上条「え……あ……」

美琴「私……嬉しかったよ? 当麻が私のために危険冒してまであそこまでしてくれて……」

美琴は笑みを浮かべ、上条に感謝を述べてくる。
その天使のような笑顔は、上条にとっては見たことのないほど美しかったためか、少しどぎまぎしてしまった。

上条「………そ、そうか……」ドキドキドキ

美琴「うん!」

逆に言えば、それほど美琴は上条に感謝しているということだった。

上条「………………」ドキドキ

視線を泳がす上条。

上条「あ、そ、そうだ……ち、地図確認しねぇと……」

と、恥ずかしさに耐えられなかったのか、上条は美琴の手を解き、焦るようにポケットをまさぐり出した。

上条「ち、地図地図……」

美琴「………………」

そんな上条を、真顔で見つめる美琴。もちろん上条はその視線には気付いていなかった。

上条「えーっと……どんなルートなのかな?」

美琴「…………」

上条から僅かに視線を外す美琴。

上条「ん? これは?」

美琴「?」

上条「何だこりゃ」

と、地図を眺めていた上条が頓狂な声を上げた。

美琴「どうしたの?」

不審がり、美琴は地図で顔を隠している上条に訊ねる。

上条「これを見てみろ」

美琴「え?」

そう言って上条は地図を広げ見せてきた。

上条「地下鉄だよ」

美琴「地下鉄?」

眉をひそめる美琴。

上条「ここから数km歩いたぐらいに入口があるようだけど……つまりこの地図は今はもう使われていない地下鉄の線路を利用した逃走ルートってことだよ」

美琴「!」

確かに、地図に顔を近付けじっくり見てみるとその大半が地下鉄の路線を基にして描かれたと思われる逃走経路だった。

美琴「そうみたいだね。でも何か問題でもあるの?」

上条「仁科はこの地図は1番価値の低い逃走経路の情報だって言ってた」

美琴「でも今は使われてない地下鉄なら、姿も見られないし大丈夫じゃないの?」

上条「まあそれはそうなんだが……そういう地下鉄ってのは大抵……」

美琴「?」

そこで言葉を切る上条。

美琴「何よ?」

上条「いや、何でもない。とにかく、だ」

ズアッ、と上条が立ち上がる。

上条「時間も惜しい。まずはこの地下鉄の入口を目指すぞ」

美琴「………分かった」

上条が今さっき何を言おうとしたのかは予想がつかなかったが、取り敢えず美琴は上条に同意して立ち上がっていた。

 

 

 

その頃――。

夜も11時を過ぎ、新たなる客層たちが足を運び始めるここ『デーモンズ・ネスト』。上条が起こした騒動も既に忘却の彼方なのか、客たちは再び、店が提供する歓楽に酔いしれていた。
そんな中、クラブのダンスホールの端に開かれた小さなファーストフード店の座席に、溜息を吐く豚……もとい人間が1人いた。

ゴリラブタ「あ~~……仁科さんに怒られちゃったよ~ん……ハァハァ。お陰でハンバーガーは自腹……嫌になるなぁもうあのツンツン頭の男と御坂美琴には……ハァハァ」

仁科に『ゴリラブタ』と呼ばれている全身脂ぎったメタボの代名詞みたいなこの男。彼の目の前には、Sサイズのハンバーガーが1つ侘しげに置かれていた。

ゴリラブタ「あいつら……次来たら許さないぞもう……ハァハァ」

ドサッ…

ゴリラブタ「!」

と、愚痴を呟いているゴリラブタの眼前に唐突にLLサイズのハンバーガーが姿を現した。

ゴリラブタ「!! えっ!? 何これ!? もしかして僕を可哀想に思ったハンバーガーの神様からの贈り物!? ハァハァ」

驚愕と感動を混ぜたような表情でハンバーガーを見つめるゴリラブタ。
と、そこへ………





「それは私からのプレゼントですの」





ゴリラブタ「!!!!」

突然、背後から女の子の声が聞こえ、ゴリラブタは振り返った。


「どうぞお召し上がりになって」


そこに立っていたのは、小柄な身体に童顔の顔、髪の毛をツインテールに纏めた1人の少女だった。
彼女を見て咄嗟にゴリラブタは胸中に思う。

ゴリラブタ「(可愛い……////)」ポッ
「横、宜しいですか?」

ゴリラブタ「えっ!? あっ…そ…その…ああう……どどど、どうじょ」

キョドリながらゴリラブタは隣の椅子を引く。

「では遠慮なく」

少女は礼儀正しく腰掛ける。

ゴリラブタ「(か…可愛い……しかもこの子、見たところあの常盤台の制服着てるじゃん……どうしてそんな子がこんな店……しかも僕の所に?)」

もちろんゴリラブタは知る由もなかったが、このツインテールの少女、言うまでもなく常盤台中学の生徒にしてジャッジメントの白井黒子だった。

黒子「私からのプレゼントですの。さあ、是非お食べになって」ニコッ

ゴリラブタ「あ、ありがとー(ハァハァ…可愛い…ハァハァ)……ハァハァ」

ゴリラブタは早速LLサイズのハンバーガーを口に頬張る。

黒子「………………」

ゴリラブタ「で、でも……ハァハァ……君みたいな小さな女の子がどうしてこんな場所に……? ハァハァ」

グイッ

ゴリラブタ「!!!!!!」

と、急に黒子がゴリラブタの身体を引っ張ったかと思うと、その耳元に顔を近付けてきた。

黒子「私……貴方に用があったんですの……」ヒソヒソ

ゴリラブタ「ぼ、ぼぼぼぼぼぼぼくによよよ用?(お…女の子の…い…息が……息が耳に……ハァハァ)」

黒子「そう……貴方と2人だけでナイショの話をしたくて……」ヒソヒソ
ゴリラブタ「ふっふふふふ2人だけで?」ドキドキドキ

黒子「ええ……何なら……今から2人だけになれる場所……行きません?」ヒソヒソ

艶かしく光る黒子の小さな唇が色っぽく動く。ゴリラブタの耳に、彼女の吐息が微妙に掛かるか掛からないかぐらいかの勢いで触れる。

ゴリラブタ「ほ、ほほほんとうにふふふふ2人だけ……? ハァハァ」ドキドキ





黒子「そ……ふ・た・り・だ・け」





ゴリラブタ「!!!!!!!!!!」ポーッ

黒子「……………」クスッ

それだけ言って黒子はゴリラブタの耳元から顔を離し、最後に中学生とは思えないような色香を纏った笑みを見せてきた。

ゴリラブタ「(こ……これは来た? 来たんじゃないのん? ハァハァ……今までの人生で1度も彼女が出来なかった僕にも……遂に……遂に……ああお母さん……今夜僕は大人になります……ハァハァ)」

黒子「向かいのビジネスホテルに一部屋とってありますの」

ゴリラブタ「え?」

黒子「早速向かいましょう」ギュッ

と言って黒子はゴリラブタの手を握る。

ゴリラブタ「あ……」ドキッ

黒子「行きますわよ」

次の瞬間、2人はその場から消えていた。

 

 

 

 

 

『デーモンズ・ネスト』の向かいにあるビジネスホテル――。

ブンッ

と音を立て、ホテルの一室に1人の少女と1人の男が現れた。

ゴリラブタ「わっ! どこだここ!?」

黒子「ホテルですわ」

黒子とゴリラブタだった。能力を行使する都合上、黒子はゴリラブタと手を繋いでいたが、その光景はまさに美女と野獣だった。

ゴリラブタ「一体全体何が起こったの!? ハァハァ」

黒子「私はレベル4の『空間移動(テレポート)』能力者。向かいのお店からここまで一瞬でテレポートしましたの」

ゴリラブタ「へーすごいね君……えっと……」

黒子「ああ。私は黒子ですわ」

ゴリラブタ「黒子ちゃん! 黒子ちゃんはすごいね~……中学生でレベル4だなんて……さすが常盤台のお嬢さまは違うんだなあ。僕なんてレベル0の無能力者なのに。ハァハァ」

黒子「そうですの」

至って興味が無いというように答える黒子。

ゴリラブタ「あ、でも店を抜け出してきたのがバレたらまた仁科さんに怒られるかも……ハァハァ」

黒子「………………」

不安げに語るゴリラブタ。そんな彼を見て黒子は行動に出る。

黒子「ね~ぇ」ピト

ゴリラブタ「はうっ!」

突然、黒子に横から寄り添われ、ゴリラブタは驚きの声を上げる。

黒子「私のお願い、聞いてくださるぅ~?」

甘ったるい声を出し、ゴリラブタを上目遣いで見上げる黒子。
ゴリラブタ「ななななななな何かな?(あー遂にこの瞬間が来たのか~ハァハァ)」

黒子「貴方のお店って~……裏で犯罪者さんたちのお手伝いやっているんでしょ~?」

ゴリラブタ「よよよよよく知ってるね(顔が近いよ~ハァハァ)」

黒子「で~……そこでお願いなんですけれどぉ~今日1日で貴方たちの組織を頼って来た犯罪者の方々の名前を教えてほしいんですの~」

ゴリラブタ「えっ!?」

と、そこでゴリラブタが驚いたような顔を見せてきた。若干、その表情には警戒が混じっている。
しかしそんな彼の反応も想定内だったのか、黒子は気にせず話を続ける。

黒子「もし……教えて頂ければ……黒子、何でもしますの……」

恥ずかしそうに目を逸らし、黒子は襟元を右手で僅かに広げる。彼女の白い肌がそこから窺えた。

ゴリラブタ「………」ゴクリ




黒子「ダ・メ・?」




目に涙を溜め、黒子は改めて懇願する。

ゴリラブタ「(あ~~~とても良い匂いが……とても良い匂いがするよ~ん……ハァハァ)」

しかし忠誠心は無駄に高いのか、ゴリラブタはこれでは折れなかった。

ゴリラブタ「でもバレたら仁科さんに殺されるし………」

黒子「………………」

ブンッ!

ゴリラブタ「おわ!?」

黒子がゴリラブタの身体に触れたかと思うと、次の瞬間にはゴリラブタは部屋の中にあったベッドの端に座っていた。

ゴリラブタ「な、何々!?」

ヒタッ……

ゴリラブタ「きょぇっ!?」

気付くと、ゴリラブタの横に黒子が同じようにベッドに腰掛け、その白くて細い手で彼の左頬を撫でていた。

黒子「……教えて……頂けませんの?」

ジッと黒子はゴリラブタを至近距離で見つめる。

ゴリラブタ「あ……あ……ハァハァ」

黒子「…………」ジーッ

ゴリラブタ「分かったよ~ん……ハァハァ」

簡単に折れるゴリラブタ。

黒子「ありがとうですの!」

ゴリラブタ「いや、黒子ちゃんの為だもん……ハァハァ……で、何が知りたいんだっけ?」

黒子「貴方がたを頼って今日お店に来た犯罪者の方々の名前ですの」

ゴリラブタ「そう言われてもな~……ハァハァ……実は僕下っ端であまり深く関われないし……それにさすがに1日にどれだけの犯罪者が来たかなんて覚えてないよ……ハァハァ」

黒子「1人ぐらい犯罪者の方を見てませんの?」

ゴリラブタ「いや、何人かは見たけどね……ハァハァ」

黒子「ならっ!」

ゴリラブタ「でも仁科さんが……」

顔を俯かせ、ゴリラブタは躊躇を見せる。

黒子「………………」

ゴリラブタ「ん?」

黒子「実は……もしかしたら……今日貴方がたを頼ってお店を訪れた犯罪者の中に……私のお友達がいるかもしれませんの」

ゴリラブタ「えっ!? そうなの!?」

黒子「ええ……急にこの間失踪してしまって……それで自分なりに集めた僅かな情報から……今日、貴方がたのお店に訪れた可能性が高いことが分かって……」

悲しそうに黒子は語る。

黒子「ですから……教えてほしいんですの……彼女は……私の無二の親友で……グスングスン」

両手で目を拭う黒子。

ゴリラブタ「あ~……」

同情するような声を上げるゴリラブタ。

黒子「お教え頂けたら、本当に黒子は何でも……しますから……」

ゴリラブタ「!!!」

言って黒子は頬を紅潮させ顔を背けながら、スカートを少しめくる。彼女の白くて弾力性のありそうな細い太ももが露になる。

ゴリラブタ「ハァハァハァハァハァ……」

息を荒くし、ゴリラブタは黒子の足に目を奪われる。

黒子「お願い……しますの」

ゴリラブタ「あ……う……うん…ハァハァハァ」

黒子「………………」

またしても簡単に折れるゴリラブタ。
ゴリラブタ「ぼ、僕が今日……直接……仁科さんと……契約してた人間を見たのは……3人かな? ハァハァ」

黒子「3人?」

ゴリラブタ「ただ……みんな男だったけどね……ハァハァ」

黒子「その殿方の中に、ツンツン頭の高校生ぐらいの方はいらっしゃいませんでしたか?」

僅かに黒子の目が鋭くなる。

ゴリラブタ「あ! うん、いたよいた! ハァハァ……でも何でそんなこと知ってるの?」

黒子「いえ、もしかしたらですが……私のお友達はその殿方と逃げてるかもしれませんの……」

ゴリラブタ「そうなんだ! いやねその男が今日ちょっと騒動起こして……」

黒子「?」

と、そこで突然ゴリラブタは言葉を切った。

ゴリラブタ「………でも店であったことあんまり他人にペラペラ喋るのもなあ……」

ゴリラブタはまたも躊躇を見せる。

黒子「…………」チッ

ゴリラブタ「え?」

黒子の方から聞こえた舌打ちらしき音に気付き、ゴリラブタは思わず黒子に振り返る。
すると………

黒子「………ハァ……リボンが少しきついですわね」

何故か黒子が自分の髪を縛っていたリボンを取っていた。

黒子「フゥ……」

ファサッ…

と黒子は頭を1回だけ振る。降ろした髪が優雅になびいた。
彼女の髪から漏れた女特有の甘い香りがゴリラブタの鼻腔をくすぐる。

ゴリラブタ「(あ~~~~~何て良い匂い……ハァハァ…僕もうそろそろ限界だよ~)」

黒子「で、続きは?」

色っぽく髪を乱した状態で、黒子は煽るような目でゴリラブタを見る。
ゴリラブタ「うん!! その騒動を起こした男の連れが、何とあの御坂美琴だったんだよ!!! ハァハァ……」

黒子「……」

その瞬間、黒子の表情が僅かに変化した。

ゴリラブタ「あ、もしかして君のお友達って……」

黒子「ええ。その御坂美琴ですの」

ゴリラブタ「だけどあんな最悪の犯罪者が友達だなんて……君も大変だね」

黒子「犯罪者でもありお友達ですの。私自身としてはとても複雑な気持ちなのですが、彼女を連れ出して更正させたいと思っていますの」

ゴリラブタ「そうなんだ……」

黒子の話を真に受け、ゴリラブタは再び同情するような言葉を寄越してくる。
対して黒子は胸中に思う――あと1歩だと。

ゴリラブタ「あ……」

黒子「?」

ゴリラブタ「そう言えばあの御坂美琴ってレベル5の超能力者なんだよね?」

唐突にゴリラブタが訊ねてきた。

黒子「そうですが……それが何か?」

訝しげな表情になる黒子。

ゴリラブタ「いや、何か違和感あると思ってたんだけど……あいつ、ツンツン頭の男が騒動を起こした時に僕たち店側に人質に取られてたんだけどね。その間1回も能力を使わなかったんだよ」

黒子「………………?」

ゴリラブタ「だっておかしいと思わない? 人質に取られてても、レベル5の超能力者なんだからちょっと能力使えば僕たち全員倒せたのに……。男が拳銃で仁科さんを脅したから結局解放されたけど、何か回りくどいと思わない?」

黒子「!!!!!!!!!!」

ゴリラブタ「……あ、いや、人質ってのは別にその……君のお友達に恨みがあったわけじゃなくて……それに怪我もさせてないし……。……? どうしたの?」

ゴリラブタが見ると、黒子は顎に手を添えて考え事をしているようだった。

ゴリラブタ「黒子ちゃん?」
黒子「…………なるほど」クスッ

ゴリラブタ「え?」

黒子「………これは面白い状況になってきましたわね」

黒子の口元が不気味に歪む。

ゴリラブタ「ど、どうしたって言うの? ハァハァ」

黒子の様子がおかしいと思い、彼女の顔を覗き込もうとするゴリラブタ。

黒子「それで!!」

ゴリラブタ「ん?」

と、その前に黒子は再び元の色っぽい顔をゴリラブタに見せてきた。

黒子「2人がどこへ行ったか分かりませんの?」

新たな情報を掴もうとする黒子。

ゴリラブタ「いや、さすがにそれは……」

が、ゴリラブタは教えられないようだった。当然といえば当然である。寧ろここまで上手くいったのが奇跡なぐらいだった。

黒子「お願いしますの! この通りですの! 誰にも口外はしないので!」

祈るように両手を握り、黒子はゴリラブタに懇願する。

ゴリラブタ「う、うーん……」

ゴリラブタもこれには躊躇っていた。何しろ黒子が知ろうとしているのは仁科が契約を交わした犯罪者たちの逃亡先だ。もしここでその情報を一般人に教えてしまえば、お店の沽券…果ては組織の存続に関わる問題にもなりかねなかった。
しかし、そんな彼の葛藤を嘲笑うかのように黒子の猛攻はクライマックスを見せる。

黒子「にしても……ここ……暑いですわね?」

ゴリラブタ「!」

言って手で顔を仰ぎ、黒子は右手で自分の服に触れる。
次の瞬間には、消えた彼女のブレザーが床に落ちていた。

ゴリラブタ「ハァハァハァハァハァ」

ゴリラブタは鼻息を荒くし目を充血させる。

黒子「はぁ……ん。暑い。暑いですわ……」

ワイシャツ姿になった黒子は襟元のボタンを1つ開け、肌を大きく露出させる。
黒子「何でも…しますから……」

その状態で彼女は更にゴリラブタに身体を近付け、彼の頬に左手を添えた。

ゴリラブタ「…」ゴクリ

だが、これだけでは終わらなかった。
黒子は、自分の足をゴリラブタの左足に乗せる。スカートがはだけているため、彼女の白い足がそこから窺えた。

ゴリラブタ「ハァハァハァハァ」

降ろした髪からは止め処なく甘い香りが漂う。襟元からは見せそうで見えない胸の谷間が覗き、おまけに上気させた顔を至近距離まで接近させ、上目遣いで覗いてくる。

黒子「おねがぁい……」

トドメは甘えるような猫撫で声だった。

ゴリラブタ「こっから南の方に!! 30分ほど前2人して走っていったよ!!! 今なら隣町にいるんじゃないかな!!?? ハァハァハァ」

我慢しきれなかったのか、ゴリラブタは全ての情報を吐いていた。

黒子「ありがとうございますの……。じゃ~あ……」

ゴリラブタ「黒子ちゃああああああああああああああああん!!!!!!!!!」

限界に達したゴリラブタが両手を大きく広げ、黒子に襲い掛かってきた。




ドゴオッ!!!!!!




ゴリラブタ「!!!!!!??????」

だが、ゴリラブタが待ち望んでいた展開とは違い、彼の股間を襲ったのは信じられないほどの痛みだった。
ゴリラブタ「亜qwせdrftgyふじこlp」

ゴリラブタの頭の中が真っ白になった。

ゴリラブタ「ど……どうして?」





黒子「このゲス豚があああああああああああ!!!!!!!!!」





ドゴオッ!!!!

ゴリラブタ「ぐえあがああああああ」

今度は鋭い痛みがゴリラブタの腹を貫いた。
黒子が思いっきり蹴り飛ばしたのだ。

ゴリラブタ「な…何で……」

黒子「この!!! 汚い手で私に触れやがってええええええええ!!!!!!」


ガスッ!!!


もう1度、黒子がゴリラブタを蹴り飛ばす。

ゴリラブタ「うあああ……」

ゴリラブタは腹を抑えながら床に転がった。
だが、黒子はそれでも容赦なく蹴り続ける。
黒子「どうして!!!!」

ゴスッ!!

黒子「この!!!!」

ズガッ!!

黒子「私が!!!!」

バキッ!!

黒子「あんな女のために!!!!」

ズカッ!!!

黒子「こんな!!!!」

ドゴッ!!!

黒子「脂ぎった!!!!」

バキャッ!!!

黒子「息の臭い!!!!」

ドコッ!!!!

黒子「豚と!!!!」

ガッ!!!!

黒子「このような!!!!」

ドガッ!!!!

黒子「気持ちの悪いことを!!!!」

ゴッ!!!!

黒子「しなければ!!!!」

ドスッ!!!!

黒子「なりませんのおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!」

ドカ!ゴス!ズカ!バキ!ドカ!!ドスドスドスドスドスドスドスドスドスドス!!!!!!!!!!
怒りに溢れ、黒子はゴリラブタの背中をひたすら蹴り続ける。その様子は、先程まで甘ったるい声を出してゴリラブタを誘惑していた彼女とはまるで正反対だった。

黒子「ハァ…ハァ……」

肩で息をし、黒子はうずくまったゴリラブタを侮蔑の視線で見下ろす。

ゴリラブタ「うああ……」

黒子「………っ」

ゴリラブタにまだ意識があると分かると、黒子は最後にもう1発蹴りを彼の腹に入れようと足を大きく振り上げた。

ガシッ!!!

黒子「!!??」

しかし、それは叶わなかった。誰かが、寸前で黒子の肩を後ろから掴み止めさせたのだ。
振り返る黒子。

黒子「あ………」

そこに立っていたのは、1人の男だった。

「………………」

黒子を止めた男は静かに首を横に振る。
それを見て黒子は落ち着きを取り戻したのか、顔を俯かせて言った。

黒子「も、申し訳ありませんの………」

「………………」

黒子「で、でもいくつか有力な情報は手に入れましたわ! そ、それだけは確かですの!」

次に黒子は喜びの表情を見せ報告する。

黒子「この方はアンチスキルに引き渡します。『デーモンズ・ネスト』は学園都市の上層部とも繋がりがあると噂されているので、すぐに釈放されるかもしれませんが……」

言って黒子は床にうずくまったゴリラブタを一瞥すると、男に顔を戻した。

黒子「では、そろそろ参りましょうか?」 

「………………」ニコッ

男は満足するように大きく頷いた。

 

 

 

その頃。

美琴「静かだね……」

上条「ここらは過疎化が進んで住民もほとんど別の学区に移っちまってるらしいからな……」

『デーモンズ・ネスト』から無事逃げることに成功した上条と美琴は、仁科から貰った地図を頼りに、寂れた街の一角を歩いていた。

上条「住み心地が悪く、近年はここよりももっと発展した学区に人を取られてるとか。スキルアウトですら住み着くのを嫌がるほど環境が劣悪らしいけど……」

地図に書き込まれた情報を読み上げる上条。

美琴「ふーん」

暗い夜道を歩く2人。朝まで降っていた雨の影響か、地面の所々が濡れていた。
美琴は水溜りを避けながら、前を行く上条に訊ねる。

美琴「でも本当に大丈夫なの?」

上条「この辺りは監視カメラの数も少ないし、今の時間帯は電気節約のために稼動してないらしいから大丈夫だろ。それにこんな寂れた場所、誰も好き好んで来ねーよ」

美琴「そう。ならいいんだけど」

美琴は辺りを見回す。確かに猫の子1匹いないような空気がそこにあった。

上条「それに……」

美琴「?」

上条「ほら!」

左手に地図を持ちながら上条が道の先を指差す。

上条「あの道が交差する場所。噴水みたいなのがあるだろ?」

美琴「ああ、うん」

確かに、見てみると20mほど先に小さな噴水があった。
上条「あの噴水を越えてしばらく行った所に地下鉄の入口がある」

美琴「そうなんだ」

と、その時だった。

美琴「待って」グイッ

上条「え?」

美琴が後ろから上条の服を掴んだ。

美琴「誰かいる……」

上条「何?」

美琴の視線を辿り前方を見る上条。
確かに、人影のようなシルエットが暗闇の中1つだけ浮かんでいる。

上条「誰だあれは……?」

警戒を見せる上条。その人影はまるで上条と美琴を待ち伏せてるかのようにそこに立っている。

美琴「ど、どうしよう? 何か変だよ。引き返そうよ」

美琴がそう言った瞬間だった。





「引き返す必要は無いよ」





上条美琴「!!!!!!!!!!」
突如、その人影が声を上げた。

上条「…………っ」

咄嗟に上条は美琴を庇うように前へ出る。美琴も不安な表情を浮かべながら上条の肩越しにその人影を窺った。



「無論、ここから先に行く必要もないけどね」



再び声を上げる人影。

上条「………俺たちに何の用だ?」

訊ねる上条。
それに応えるかのように、やがて人影は1歩前へ出た。点滅して今にも消えかかりそうな街灯の光によってその顔が浮かび上がる。




「御坂美琴と上条当麻。君らの旅もここまでだ。僕と一緒にアンチスキルの支部まで来てもらおう」




男の全容が明らかになる。
見たところ、若い。歳も上条と大して変わらないように思われる。背は上条より少し高いぐらいで、中肉中背の体つきをしている。
その顔からは優男のような穏やかな風貌を感じさせたが、表情は鋭く1つの隙もなかった。雰囲気としてはエツァリが化けた海原に近い。
上条「(こいつ……強い)」

今までの経験から上条は一瞬で相手が強敵であると悟る。

上条「断ると言ったら?」

顔に1つ汗を流しながら上条は人影に話しかける。

「それは無理な話だね。もし抵抗すると言うのなら、僕は正義に誓ってでも全力で君たちを捕縛させてもらう」

上条「………………」

その言葉に嘘は無い。男の真剣な声を聞けば明らかだった。

「それに………」




「それに私たち相手を2人にして逃げ出すなど、普通なら不可能ですから」




上条美琴「!!!!!!!!!!」

後ろから声がした。上条と美琴は同時に振り返る。



黒子「御機嫌ようお姉さま。決着を着けに参りました。今日で貴女の逃亡生活もお終いです」



常盤台の制服を着、腕にジャッジメントの腕章を巻いたツインテールの少女がそこに1人。

美琴「あんたっ!!??」

白井黒子がそこにいた。
黒子「はい何でしょうかお姉さま」

ニヤリ、と黒子は笑みを浮かべる。

美琴「どうしてここに……っ!」

黒子「はて……どうしても言われましても……」

首を傾げる黒子。

「とにかく、だ」

上条美琴「!!!」

と、今度は前方から男が声を発し、上条と美琴は慌てたように振り向き直った。

「僕らと一緒に大人しく来るか、それとも抵抗して捕縛されて連行されるか、どっちか選ぶことだね」

上条「…………冗談じゃねぇよ。どっちもお断りだ」

男の言葉を上条は真っ正面から突っぱねる。

黒子「何を息巻いているのか存じていませんが、不思議な右手を持つ貴方でも彼に勝てるとは思えませんわよ?」

上条「何だと?」

目だけ横に動かし、黒子の声を背中越しに聞く上条。




黒子「何故なら彼は、私を負かした経験があるのですから」




上条美琴「!!!???」

そう、黒子は断言した。まるで、もうお前たちはここで終わり、と言いたげに。

上条美琴「………っ」

2人は男の顔を信じられない、というように見る。

「………………」

黒子「彼は、あの『座標移動(ムーブポイント)』の使い手、結標淡希に引けを取らないとも言われていますわ」

美琴「何ですって!!??」
その名前の人間の実力を知る美琴が驚きの声を上げる。

黒子「並のレベル4なら2人がかりでも彼を倒すことは難しいでしょうね」

「………………」

黒子は自慢げに語るが、当の男は表情を動かさない。ふと、上条はその男の腕に巻かれてあるものを見た。

上条「ジャッジメントの……腕章……」

「………………」

上条「てめぇ一体何者だ?」

上条は睨みながら訊ねる。その言葉に先に反応したのは黒子だった。

黒子「ああ……彼はあれでも全てのジャッジメントを束ねる立場のお方で……」

「いいよ白井さん。僕から直接言おう」

が、男は黒子が説明し終える前にその言葉を遮った。

黒子「あら、これは失礼致しましたの」

「僕が誰かって? なら教えてあげるよ」

男は更に1歩前へ出、上条と美琴を見据える。

上条美琴「………………」





「『風紀委員(ジャッジメント)』本部長にして最強のレベル4(大能力者)。人呼んで『瞬間氷結(フリージング・ポイント)』」





上条美琴「!!!!!!!!!!」



瞬間氷結「それが僕だ……」



凍てつくような目を見せ『瞬間氷結(フリージング・ポイント)』は静かにそう言った。
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