上条「二人で一緒に逃げよう」 美琴「………うん」 > 第一部 > 07


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怒声が飛び、ダカダカと複数のブーツが行き交う音が響く。

黄泉川「よーし、そろそろいいじゃん」

某学区にある山の麓。そこに、黄泉川たちアンチスキルの部隊が完全武装で待機していた。

警備員「隊長!」

黄泉川「ん?」

警備員「北側にある道も、無事第5班と第6班による展開が終わりました!」

黄泉川「了解じゃん」

報告してきた部下にそう告げ、黄泉川は後部扉が開いたトレーラー型の装甲車の方へ振り向く。

黄泉川「この山にある尾根は北と南に2つ。そこに通じる山道を全て我々で包囲してしまえば奴らの脱出口は無くなるじゃん」

黒子「そう上手くいけばいいですわね」

装甲車の側に立っていた黒子が答えた。

黄泉川「この山は麓からしばらく登った地点に、山の周りを1周するように舗装された道がついてるんだ。例え山中で迷っていても、下っていればいずれその道に辿り着く。後はその道に沿って歩けば、やがて北か、もしくは南のここに通じている道に合流できるってわけじゃん」

黒子「つまり、どこで迷っていても奇跡的に生き残っていれば、いずれはこの南か北の出入り口に彼奴らが現れると?」

黄泉川「まあ、生きていればの話だがな」

黄泉川はまるでゲームに興じる子供のように笑う。

黒子「ま、どの道生きていても御坂美琴を仕留めるのは私ですの」

言って山の方に顔を向ける黒子。

黒子「さて、山中での垂れ死んでいるか、それとも再び黒子の前に姿を現すのか。今から楽しみですの。 お  姉  さ  ま  」ニヤァ

 

 

 

夕日が出始める頃、上条と美琴はまだ山中の避難小屋にいた。

上条「もう4時半か……」

小屋に掛かった時計を見て上条は嘆く。次いで彼はベッドの上で寝ている美琴を見た。

上条「御坂………」

美琴「………ごめんね」

顔から汗を流しながら美琴は呟く。朝ほどではなかったが、彼女はまた苦しそうな表情をしていた。
と言うのも昼頃を過ぎた頃、彼女はまた熱をぶり返していたのだ。そのため、2人はまだ山を抜けるどころか小屋からも出られない状態だった。

上条「大丈夫だ。すぐ治る。取り敢えずまだ、薬のストックはあるようだから」

美琴「………うん」

笑みを見せる美琴。

上条「少し便所行ってくるな。絶対すぐに戻ってくるから。大人しくここで待ってろ」

美琴「……分かった」

頷き、上条は小屋を出て行くと、避難小屋から数m離れた場所にあったトイレに入っていった。

上条「フー……1日ロスしちまったか……」

トイレの中は綺麗とは言えなかったが、文句を言える状況ではなかった。
用を足しつつ上条は正面に取り付けられた窓から外の景色を眺める。と言ってももっぱら木々しか見えなかったが。

上条「確か……学園都市の南にはキャパシティダウンを搭載した車がまだ配備されてないって話だったな……。間に合うんだろか実際」

身体を震わせ、便器から離れると上条は入口前の蛇口で手を洗う。
上条「だけど……あいつは何とかして守ってやらないと」

少しヒビが入った鏡を見ながら上条は呟く。

上条「そうだ、決めたんだ。何があってもあいつを守る、あいつを助けるって……」

手を洗い終え、彼はトイレから出た。

上条「例えどんな奴が襲ってこようとも……うろたえず、全力で退ける覚悟で」

握った右拳を見つめ、上条はそう誓う。

上条「よし……」

気合を入れ、彼は小屋へ向かっていく。

ガチャッ

上条「悪いな御坂。遅く…なっ……た………」

扉が開かれるのと同時、上条の表情がみるみると変わっていった。まるで、信じられないものでも見たように。





御坂妹「いえ、寧ろもっとゆっくりしてもらっていても良かったのですが、とミサカは邪魔者が入ったことに対して口中に舌打ちします」





上条「御坂……妹っ……!」

そこにいたのは、美琴と同じ顔を持つ1人の少女だった――。

 

 

 

上条「……………………」

口を開けたまま目の前の人物を眺める上条。
彼がそんな反応も見せたのも当然だった。何故なら、背中を向け僅かにこちらを振り向き、ベッドの側に立っていたその少女の顔はあまりにも美琴のそれと酷似していたのだから。

上条「お前は……」

御坂妹「…………………」

美琴「…………当麻」

上条は呆然とその光景に見入る。
ベッドの上には、こちらを向き不安と一部悲しみが混ざったような表情を向ける美琴が、そしてそのベッドの側には彼女と同じ顔を持つ少女が1人。

上条「御坂妹………」

その名を口にする。
御坂妹――かつて、とある実験のために生み出された美琴の軍用量産クローン『妹達(シスターズ)』のうちの1体。

上条「何でお前がここに……?」

御坂妹「………………」

検体番号10032号――上条から『御坂妹』と呼ばれるその少女は名前を呼ばれ目を細めた。

上条「………………」チラッ

ふと、御坂妹の手元に視線を向ける上条。こちらからは彼女の背中しか見えなかったが、その手元に握られていた黒光りする筒のようなものの形はしっかりと確認できた。

上条「…………」ゴクリ

間違いない。御坂妹が握っているもの。それは、俗にアサルトライフルと呼ばれる強力な銃火器の1つだ。
綺麗に整備がされているのか、彼女のそれは、その存在感だけで目にする者を威圧する。そして『銃口』と呼ばれる先端部分――真っ暗な穴からは今にも何かが飛び出してきそうで、しかもそれが上条に向けられていて…………。




上条「!!!!!!!!!!」




ダカカカカカカカカカカカン!!!!!!!!!




突如鳴り響く連続した金切り音。
御坂妹が構えていたアサルトライフルから発射されたライフル弾が、小屋の入口付近に容赦なく突き刺さった。
御坂妹「!」

だが、そこに血を流し倒れている上条の姿はない。咄嗟に逃れたのだろう。

美琴「当麻!!!!」

御坂妹「………」ジロリ

美琴「!!!」

御坂妹「動けぬ的より動く的。手負いの獲物は後で仕留めるとしましょう。お姉さまはここで待っていて下さい、とミサカは狩りに出かける気分で伝えます」

美琴「あんた! 当麻に何するつもりなの!?」

御坂妹「………………」

美琴の言葉を無視して御坂妹は小屋を出て行く。

御坂妹「お姉さまがいるのでそう遠くへは行ってませんね。恐らくは近くから反撃の機会を窺っているはず、とミサカは推測します」

ライフルを構えながら、御坂妹は小屋の周りを沿うように歩き始めた。

御坂妹「どこにいますか? ミサカの前に出てきて下さい、とミサカは交渉をしてみます」

言いながら、すぐに彼女は小屋の裏まで来た。

御坂妹「ミサカは貴方まで殺す気はありません、とミサカはそれだけ念押ししておきます」

ライフルを四方に向けながら、御坂妹は小屋に沿って歩き続ける。

御坂妹「ミサカはとても残念です。貴方がお姉さまと行動を共にしていることが、とミサカは本当に残念がります」

再び小屋の表まで戻ってきた御坂妹。彼女はチラッと小屋の中を窺う。

美琴「あんた……」

壁に手をつき、こちらを睨み立っている美琴の姿が目に入った。

御坂妹「攻撃したければ攻撃してきても構いませんよ? ただし、今のお姉さまに出来るのなら、ですが、とミサカは弱りに弱ったお姉さまをバカにしてみます」

美琴「………っ」

正面に向き直る御坂妹。

御坂妹「近くの木々の陰か茂みの中にでも隠れているのでしょうか、とミサカは付近を探してみることにします」

そう言いながら御坂妹は小屋から離れていく。

美琴「……………………」

 

 

上条「行ったか?」



美琴「ええ!」

部屋の中から聞こえる上条の声。

上条「よし、今だ。逃げるぞ!」

彼は美琴が寝ていたベッドの後ろからその姿を現した。御坂妹が小屋の後ろに回っている間に、戻ってきて隠れていたのだ。

美琴「でもどこに?」

上条「とにかく逃げれる場所までだ!」




御坂妹「ミサカから逃げれる場所なんてどこにもありませんよ、とミサカは釘を刺しておきます」




上条美琴「!!!???」

驚き、正面を見る2人。小屋の前に、御坂妹が立っていた。

御坂妹「どうせこんなことだろうと思っていました。それでミサカの目を欺いたつもりですか? とミサカは思わず失笑を零します」

美琴「あんた……っ」

御坂妹「………」チャキッ

美琴にライフルを向ける御坂妹。

上条「!!」バッ

が、すぐに美琴を守るように上条が前に躍り出た。

御坂妹「…………どいて下さい」

上条「どかない」

御坂妹「……ミサカは貴方を殺したくありません」

上条「……俺は御坂を殺したくない」

御坂妹「………………」

上条「………………」

睨み合う2人。

御坂妹「お姉さま」

美琴「!」

と、そこで御坂妹が上条の背後にいる美琴に声を掛けてきた。

御坂妹「言っておきますが学園都市から逃げることなど不可能ですよ?」

美琴「………っ」

御坂妹「お姉さまはこの人を頼りにされているようですが、たった2人だけで何が出来ると言うのですか?」

上条「………………」

御坂妹「ジャッジメントにアンチスキル、様々な人間がお姉さまたちを追っています。そんな状況下で学園都市から逃げるなど不可能に等しいと言っても良いでしょう。例えここでミサカを退けられたとしても、ミサカよりも高位の優れた能力者たちがお姉さま討伐のため準備を整えている、という話も耳に入れてます」

上条美琴「………………」

御坂妹「ならばいっそのことここで、同じ遺伝子を持つ妹であるミサカに引導を渡してもらうのも1つの賢明な判断ではないでしょうか……」

美琴「………………あんた」

御坂妹「……と、ミサカはいい加減お姉さまをぶち殺したい衝動を我慢出来なくなってきていることに苛立ちを覚えます」

上条「ふざけるなよ」

美琴「!」

御坂妹「?」

不意に、話を黙って聞いていた上条が口を開いた。
御坂妹「何でしょうか?」

上条「何でそこまでして御坂を殺そうとするんだ?」

御坂妹「世間がそれを求めています」

上条「確かに……そうなったのは『弧絶術式』が原因だけどよ……」

と、そこだけ小さな声で喋る上条。

御坂妹「?」

上条「だけど…お前と、妹達の命をあんなにまでして救ってくれたのは御坂じゃねぇか!」

美琴「………当麻」

上条は御坂妹に向かって叫ぶ。

御坂妹「実際に助けてくれたのは貴方ですが?」

上条「違う!! 俺は最後の1割手を貸しただけだ!! 残りの9割は全てこいつのお陰だ!!」

美琴「………………」

御坂妹「………………」

上条「だってのに! 今じゃその恩を仇で返すってのかよ!?」

御坂妹「言っている意味が分かりません。それとこれとは話は別です」

上条の必死の説得も空しく、御坂妹は無表情のまま言ってのける。

上条「何ぃ?」

御坂妹「確かに、今回、ミサカがお姉さまの殺害を決定したことについて、学園都市の『外』にいる妹達は猛烈に反対をしましたが……お姉さまは生きているだけで罪のような人間です」

美琴「………………」

御坂妹「よって、彼女たち学園都市の『外』にいる妹達に、この件についてはこれ以上余計な口出しをさせないよう上位個体が特別措置を施しています」

上条美琴「!!!???」

美琴「う、ウソ……あの子が?」

信じられない、と言うように美琴が目を丸くする。
御坂妹「この件について反対を唱えようものなら、即刻その個体は一時的に行動を停止させると予め警告しているのです」

美琴「そ……そんな……」

御坂妹「そもそも、学園都市に残ったミサカたちの手でお姉さまを殺害しようと決定したのは上位個体ですから」

美琴「………な………何で………何であの子が……」

絶望がかった表情になる美琴。彼女の脳裏に『上位個体』と呼ばれた少女――『打ち止め(ラストオーダー)』の笑顔が蘇る。

上条「お前……」

御坂妹「何で? 何で、と申されましたかお姉さま?」

美琴「!」

御坂妹「ならミサカも質問です。何故お姉さまは、ミサカたちが周りの人からどのように思われているのかも知らずに平然とそんなことが言えるのですか?」

美琴「?」

少し御坂妹の口調に苛立ちが混ざったような気がした。相変わらず顔の表情は変わっていなかったが。

上条「どういうことだ?」

御坂妹「どうもこうもありません。ミサカたちは普段、人と接する度に、あの御坂美琴の妹ということで『大変だね』『辛いでしょう』『可愛い顔してるのに何であの御坂美琴に似てるんだ』『悩み事があったら相談して』などと哀れみや同情の声を掛けられるのです」

美琴「!!!」

上条「………………」

御坂妹「幸い、間違って罵られたり殴られたりと言ったことはありませんが……代わりに毎日! 毎日!! 毎日!!! このような言葉を多くの人から掛けられる始末……。その気持ちがお姉さまには分かりますか?」

表情はあまり変わっていないのに、御坂妹の放つ言葉にはかなりの怒りが篭っていた。

御坂妹「ミサカは、妹達が最近になって徐々に個体ごとに個性も芽生え、感情も豊かになっていると自覚していますが……そのせいでミサカたちは、他人から掛けられる『哀れみ』や『同情』に敏感になってしまっているのです。……皮肉なものです。普通なら個性が芽生え感情が豊かになることは良いことのはずなのに、そのせいで深い劣等感に苛まれることになる。その気持ちが……お姉さまには分かりますか?」

美琴「………………」

妹から姉へぶちまけられる率直な思い。それは、妹達の幸せを願う美琴にとってとても辛いものだった。

御坂妹「もっとも、その個性や感情のお陰で、今お姉さまにこのように恨みや憎しみを思いきりぶつけることが出来るのですが……」

上条「御坂妹………」

御坂妹「………と、ミサカは言いたかったこと全てを言い終え、多少溜飲が下がった気分になります」
美琴「………………」

上条「………」チラ

上条は美琴を横目で見る。思った通り彼女は元気を無くし、半ば俯いている。だが、それも無理も無いことだった。幸せになってほしいと思っていた妹が、芽生えたばかりの個性・感情によって劣等感に苛まれ苦しんでいるのだから。
しかもその間接的な原因が、妹達の姉である美琴自身であると聞かされれば、尚更それは辛いものであることは容易に予想がついた。

美琴「………………」

それだけではない。確かに美琴は今まで、妹達10031人が虐殺されたことで、彼女たちから恨み憎まれても仕方が無いと思っていた。だが、現在学園都市にいる御坂妹や打ち止めを始めとする10人の妹達は、虐殺のことで姉である美琴を憎んでいるわけではなかった。元は、どこか遠い海の向こうの、今まで全く知らなかった『魔術』などという得体の知れないものによって起こされた状況が作り出したものだった。

御坂妹「だから」

上条「!」

御坂妹「だからお姉さまにはここで死んでいただきたいのです、とミサカは催促します」

上条「お前、仮にも自分の姉だぞ……。なのに……」

御坂妹「逆にミサカには分かりません。どうして貴方はお姉さまを助けようとするのですか?」

上条「そ、それは……」

美琴「……………」

言い淀む上条。彼は一瞬、『弧絶術式』のことを打ち明けようと思ったが、言ったところで御坂妹が完全に事情を理解をしてくれる保障も無かった。それ以前に彼女の美琴への殺意を完全に消せるとも思えなかった。




御坂妹「当麻」




美琴「!!??」

思わず顔を上げる美琴。


御坂妹「当麻」


美琴「………っ」

美琴は目を丸くする。
そこには、今まで見せたことのない笑顔を浮かべて、上条に右手を差し出している御坂妹の姿があった。

 

 

上条「………………」

御坂妹「今すぐにこんなバカなことは止めてミサカと一緒になりましょう。……ミサカなら、お姉さまとは違って素直になれないからと言って電撃を浴びせたりなどしません。ただ、貴方の望む女性として、共に歩むことが出来ます、とミサカは生まれて初めて本気で想いを告げてみます」

美琴「…………っ」

上条「………………」

そう言って御坂妹は上条に手を差し出している。彼女の目は、無感情で生気の無いものではなく、一途に恋をする少女のそれだった。

御坂妹「このままお姉さまといても貴方は幸せにはなれません。ですが、ミサカなら……ミサカなら共に一生を幸せに過ごすことが出来ます」

上条「………………」

美琴「…………っ」

不安げに御坂妹と上条の顔を交互に見る美琴。

御坂妹「さあ」

促す御坂妹。

上条「……………………」

美琴「……………………」

御坂妹「……………………」

しばらくの間、沈黙が漂っていた。
そして………

上条「御坂妹」

美琴「!」ビクッ

御坂妹「はい」




上条「ごめん」

美琴「!!」



上条「ごめん」



静かに、上条はそう答えた。

御坂妹「………………」

御坂妹の差し出された手が、空中で空しく静止する。

上条「俺にはこいつがいる。だから、嬉しいけどお前の申し出には受けられない」

御坂妹「………………」

再び御坂妹の顔が表情の無いものになった。

上条「俺は御坂を……美琴を助けたいから」

美琴「当麻!」パァァ



御坂妹「………っ」ギロリ



上条美琴「!!!!!!!!!!」

一瞬、御坂妹が今までに見たこと無いぐらいの怒りに満ち溢れた顔を美琴に向けた。

御坂妹「……分かりました。ならもうこれ以上の説得は必要ありません。全てを終わりにする時です、とミサカは再びライフルを構えます」

チャキッ

と言う音を立て御坂妹がアサルトライフルの銃口を上条たちに向ける。

御坂妹「さよなら」


ドォォォン!!!!


容赦なく御坂妹は引き金を引いた。

 

 


御坂妹「さよなら」





上条に美琴より自分を選ぶよう迫り、断られた御坂妹。
彼女は全てを終わりにするため、アサルトライフルの銃口を上条たちに向ける。
が………

上条「!!!!????」

ライフルの銃口は何故か上条たちをスルーし、そのまま御坂妹自身の顎に添えられ………

美琴「はっ!!??」
美琴「やめてえええええええええええ!!!!!!」





パァァン!!!





銃声が轟いた。

美琴「…………っ」

それは一瞬の出来事だった。

 


御坂妹「!!!???」




上条「…………………」

美琴「…………え?」

顔を両手で覆っていた美琴が恐る恐る目を開いた。

御坂妹「…………何故」

が、そこには、美琴が予測していたような惨劇は繰り広げられていなかった。
驚き、固まる御坂妹と、前へ踏み出しだ上条、そして床には銃口から硝煙を登らせ黒光りするライフルが一丁。




上条「勝手に死のうとしてんじゃねぇよ」




美琴「………………」

御坂妹「…………っ」

呆然としていた御坂妹。彼女の表情が代わり、上条を睨みつける。

御坂妹「どうして!? どうして止めたのですか!?」

上条「お前には死んでほしくないからだ」

御坂妹の顔を見つめ、上条は静かに答える。

御坂妹「ふざけないで下さい!! ミサカがどれだけの覚悟をしてここまで来たのか、それも知らないくせに……。ミサカにはもう、貴方しかいないんです……」

上条「………………」

御坂妹「だから……史上最悪な人間に落ちぶれたお姉さまに取られるぐらいなら……」ギロッ

美琴「!」

御坂妹「お姉さまを殺してでも貴方を奪い返したかったんです!!」

普段の御坂妹とは思えないほど、彼女は感情的になっている。

御坂妹「それが失敗した以上、ミサカにはもう残されたものはありません。ですから……ですから……ミサカは……」

涙こそ流していないものの、御坂妹は悲しそうだった。

上条「俺はお前に死んでほしくなんかないんだ」

御坂妹「……なら、今すぐにでもお姉さまを捨ててミサカと一緒に帰って下さい」

キッと御坂妹は上条を見つめる。

美琴「………………」

上条「それは出来ない。俺は御坂を助けなきゃいけないから」

だが、上条の答えは変わらなかった。

御坂妹「………っ」

一瞬、何か言いかけようとした御坂妹。が、直前に思い留まったのか彼女の口は終ぞ開かなかった。

上条「ごめんな御坂妹」

御坂妹「………………」

拳を握り、俯く御坂妹。

上条「だけど、頼むからその命、無駄に捨てようとしないでくれ。それが、俺の願いだ」

御坂妹「……………………」

上条「………………」

何も喋らなくなった御坂妹を見、上条は振り返る。
上条「これ以上はここに留まれない。行こう。時間も惜しい」

美琴「………分かった」

歩き出した上条についていく美琴。

美琴「…………、」

美琴は、御坂妹の横を通り過ぎる一瞬、彼女の顔をチラッと見た。自分と同じ顔をした、大切な妹。幸せになってほしいと思っていた妹。もし『弧絶術式』という魔術が発動されなければ、これから先も一緒に笑っていられたかもしれない妹。そんな彼女の悲しそうな顔を目に焼きつけ、美琴は無言のまま小屋を出て行った。


御坂妹「…………います」


上条美琴「「え?」」

と、2人が外に出た瞬間、小屋の中にいた御坂妹が何かを呟いた。
2人は咄嗟に振り返る。御坂妹の小さな背中が見えた。



御坂妹「この山はアンチスキルに囲まれてます」



上条美琴「!!??」

そう、御坂妹は言った。

美琴「それって……」

御坂妹「このまま山道を降りて行っても、待ち伏せされたアンチスキルに捕まるだけです、とミサカは情報を伝えます」

こちらを向く御坂妹。その顔は、元の無表情のものに戻っていた。

上条「い、いや……確かに考えてみれば当然のことだ。俺たちは山に逃げたのを白井や黄泉川先生たちに目撃されてるんだから」

美琴「そ、そっか……」

上条「だけど何で……」

御坂妹に疑問の視線を投げかける上条。

上条「……それを俺たちに教える?」

美琴「………………」

美琴も御坂妹を見る。

 

御坂妹「ミサカは別にアンチスキルの仲間というわけではありません。ここには自分の意志で来たまでです。最初は、貴方がたが山でアンチスキルに追われたというニュースを見て、もしかしたらと予想をつけこの山に訪れたのです。そして、電磁波のレーダーを飛ばして山中を歩きお姉さまを発見したのですが……結果はこの通り。貴方にお姉さまの殺害を阻止された上、幸か不幸かミサカの覚悟も一蹴されてしまいました、とミサカは説明してみます」

上条「………………」

御坂妹「なら、合理的に考えても、これ以上意地を張っても意味はありません。ミサカは今もお姉さまは決して許せませんが……」チラッ

美琴「…………、」

御坂妹「貴方には今まで返しても返し尽くせない恩があります。よって、ミサカが持っている情報だけは与えても構わないだろうと判断したのです、とミサカは本心を打ち明けます」

上条「そうか……。それは本当にありがとう御坂妹」

御坂妹の言葉を受け、上条は感謝の言葉を述べる。

御坂妹「これを」

上条「?」

と、そこで御坂妹はポケットからある物を取り出し、上条に渡してきた。

上条「これは?」

見ると、今上条たちがいると思われる山の地図だった。地図には、いくつかの印や単語が書き込まれている。

御坂妹「ミサカが事前に入手した情報を元に書き記したアンチスキルの配置と、その警備の抜け穴です」

上条美琴「!!!」

驚き、上条と美琴は地図に向けていた顔を御坂妹に向ける。

御坂妹「その地図を頼りに山を下れば、アンチスキルの目から逃れられるはずです」

上条「お前………」

御坂妹「………あともう1つ」

いちいち上条の反応など気にもせず、御坂妹は今度はペンと小さな紙を取り出すと、何かを書き始めた。

上条「?」

御坂妹「隣の学区に着いたらここに行ってみるといいでしょう」

文字や地図が書き込まれた紙を御坂妹から貰う上条。

上条「何だこれ? 『デーモンズ・ネスト』?」

御坂妹「ミサカネットワークに保存されてある、とあるスキルアウトが経営しているクラブです」
上条「クラブ?」

眉をひそめ上条は怪訝な顔で訊ねる。

御坂妹「表向きは。裏では学園都市に隠れ住む犯罪者たちのサポート業務などを行っています」

上条「サポート……」

御坂妹「ボスの名前は『仁科 要』。スキンヘッドが特徴のいやらしい顔をした男です、とミサカは陰口を言ってみます」

上条「この男がどうかしたのか?」

御坂妹「『デーモンズ・ネスト』へ訪れたら彼に頼ってみて下さい。逃亡に必要なものを用意してくれるはずです。ただ、その男は頭も切れて根っからのスキルアウトなので交渉の際は相手に飲み込まれないよう注意して下さい」

上条「それはとてもありがたい情報だけど……」

上条は何かを言いたそうにする。

御坂妹「別に嘘と思っていただければそれでも構いません。この情報をどう扱うかは貴方次第ですから、とミサカは言っておきます」

上条「いや、そうじゃなくて………」

御坂妹「ああ……。別にミサカはお姉さまを思ってこんなことをやっているわけではありませんよ?」

美琴「!」

御坂妹「ミサカはただ、貴方に恩返しをしているだけ。そして貴方が求めていた情報がたまたまお姉さまが求めていたものと被った。それだけの話です、とミサカはつまらなさそうに言ってみます」

上条「………………」

ジッと上条は御坂妹を見つめる。

御坂妹「何でしょうか?」



上条「ありがとな!!」



笑顔で上条は言った。

御坂妹「!!」
そして、上条は御坂妹の頭をポンと叩く。

御坂妹「あ………」

不意打ちを食らったような反応を見せる御坂妹。

上条「これは俺との約束だ。絶対に死ぬんじゃないぞ」

御坂妹「…………」

一瞬、呆然とした御坂妹だったが、彼女はすぐに答えていた。

御坂妹「……………分かりました、とミサカは観念します」

上条「じゃあ、もし会えたらまたどこかで会おう」

御坂妹「………叶うのならば……」

御坂妹から離れる上条。

御坂妹「………………」

彼は振り返ると美琴に近付く。

御坂妹「……………………」

上条「行くぞ」

美琴「うん」

2人は、頷き合う。

御坂妹「……………………」

美琴「あ……」

と、その時だった。

御坂妹「!」

視線が合ったかと思うと、美琴は御坂妹に近付いてきた。

美琴「あの……ごめんね。姉としてあんたを悲しませちゃって……」

御坂妹「…………」

そう、美琴は言ってきた。どこか寂しげな表情で。

美琴「幸せになってね」

苦しげな笑みを見せる美琴。

御坂妹「……………………」

美琴「………………」

御坂妹「………彼に感謝することですね、とミサカは嫌々ながらも最後に特別にアドバイスしてみます」

美琴「うん……。そうだよね……。ありがとう妹。今まで楽しかったよ」

手を振り、踵を返す美琴。そんな彼女の目に何か光るものが浮かんでいたのを、御坂妹は見逃さなかった。

御坂妹「………………」

上条「ありがとなー!」

美琴「ありがとうー!」

最後にもう1度だけ手を振ると、やがて上条と美琴は御坂妹の視界から消えていった。

御坂妹「………………」

それを確認し、御坂妹は1度だけ深く両目を閉じた。

御坂妹「………しかし、“今の状態の”お姉さまだと学園都市から脱出するのは難しそうですね。本人はそれに気付いているのでしょうか、とミサカは推測してみます」

独り言を吐きつつ、御坂妹は踵を返す。

御坂妹「………ま、ミサカの知ったことではありませんが」

その言葉を最後に、御坂妹は上条たちが去っていったのとは反対の道を歩き始めた。

 

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