とある世界の残酷歌劇 > 終幕 > 12


※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

学園都市の空を舞う両者の戦いは熾烈を極めていた。

背から黒翼を広げる超能力者、一方通行。
杖を突いていた時分の枯れ木のような脆弱さは消え失せ、白髪の少年は風を踏むように宙を軽やかに駆ける。
烈風を纏う彼はその荒々しさとは裏腹に、妙に冷めたような面持ちで相手を睥睨する。

対するは雷光を纏う超能力者、御坂美琴。
手の先が裾に隠れた左腕を庇うようにしながら、少女の背丈には少々大きすぎる黒衣が翻る度に雷鳴が響く。
右手には『原子崩し』の光剣が握られ、笑顔とも泣き顔とも取れぬ表情を向けている。

空中を走る御坂の足元にはただ風が舞っている。
目に見えるような足場はない。だが彼女は宙を縦横無尽に駆けていた。

その正体は他でもない、彼女自身の力だ。

彼女が踏むのは帯電した大気が作る電場と、そして地磁気、惑星そのものが構成する磁場だ。
電磁の力を自在に操る超能力者にとってそれは魚が水中を泳ぐに等しい。

過去の彼女であればそんな真似は到底不可能だった。
しかし全世界に張り巡らされたミサカネットワークを手中に収める御坂であれば可能だ。
圧倒的な演算力に加え、観測機として各地の妹達を利用することができ、そして純粋に莫大な出力を得たがために成し得た業だ。

既に――御坂は『超能力者』という範疇すら逸脱しつつある。



その事実を一方通行は正しく認識していた。

まさか、これが真の『絶対能力進化計画』だったのか――と思ってしまうほどに。
                      レ ベ ル 6
超能力者をも超える能力者――『絶対能力者』。
第一位、一方通行以外に到達不可能と言われたその座に御坂は手を掛けている。

今や御坂が第一位――『一方通行』と成りつつあるのだ。

彼の持つ演算能力、解析性、そして絶対的な力の支配。
その全てを獲得しつつある。

「例えそうだったとして……オマエが絶対能力者になったとして、どうなるっていうンだよ」

小さな呟きは彼女に届かないだろう。
或いは、もしかすると自身に投げた自問なのかもしれない。

「死ンだ連中はもォ戻ってこねェだろォがよォォ――!」

叫びを体現するように背から噴出する翼が爆発した。
雷鳴を掻き消すような轟音を響かせ一方通行は御坂に突進する。

腕を振るう動きに呼応し黒翼がうねる。
暴力の具現が少女の矮躯に向かって打ち下ろされた。



二つの音に更なる撃音が唱和する。

御坂の手に握られた眩く輝く白の光剣が黒の翼を受けた。
純粋な『力』という概念を溶かしたようなあり得ない現象に対し彼女の剣は真っ向から激突し、それを止めた。

「それをアンタが言うの?」

皮肉と侮蔑を込められた嘲笑と共に御坂は黒翼の連撃をいなす。

僅かの躊躇いも戸惑いもない洗練された返し。
熟練の剣技にすら匹敵する動きに一方通行は僅かに眉を顰める。

「アンタの動きは、もうとっくに逆算済みよ」

数合目の炸裂が響く。
御坂は翼を肩の後ろに流し、体を回転させながら微かな間隙を縫ってその懐に体を滑り込ませる。

そして、剃刀のような鋭い一閃が一方通行の首元を狙う。

回転の動きをそのままに、彼の左側、やや上方から浅い角度で剣が繰り出される。
それは避けるなどという選択肢が取れるような生易しいものではない。
防御も回避も到底適わぬ――確実に相手の首を落とす必殺の刃だ。



「ちィ――!」
                   、 、 、 、 、
しかし一方通行はその一撃を受け止める。
彼の持つ能力は未だ健在。回避不可能な一撃を左腕で遮った。
『原子崩し』の特性上その力を操ることは出来ないがベクトル操作で相殺拮抗させることなら可能だ。

振り払うように光剣を跳ね除け一方通行は僅かに距離を取る。

現在の彼は過去の彼のように無敵ではない。
かつての彼に無く、今の彼にあるもの。
首元――ミサカネットワークを介し代理演算を働かせる電極がアキレス腱となる。

体と入れ替えるように振るわれる黒翼の殴打を御坂は僅かな動きで躱す。

「どうして動きが読まれるか不思議?」

逃がさない。

退く一方通行を御坂は追う。
連打される翼を避け、いなし、あるいは受け止め、距離を開けさせない。

「当然でしょ。今、私はミサカネットワーク……妹達と同期してるのよ。
 妹達の知識、経験、技術。私はそういうのを全部纏めて使いこなせる」

嘲笑し。
  、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、 、
「『私』は一〇〇三一回もアンタに殺されてるのよ」

「……!」

彼女の言葉に一方通行の瞳が僅かに揺らいだ。
その隙を御坂は見逃さない。

黒翼を掻い潜り肉薄する。



「――っざけろォォおおおおおお!!」

御坂を迎え撃ったのは一方通行の叫び。
そして黒の瀑布だった。

彼の背から吹き出る一対の翼。
右と、左。二枚を打ち流し内へと入り込んだはずだった。

だが御坂の前に三枚目の翼が現れる。

「く……っ!!」

刈る動きは割り込んできた新たな翼に阻まれた。
その御坂を左右の翼が抱きすくめるように迫る。

「この……!」

宙を踏みとんぼ返りに弧を描き、陸上競技の高飛びよろしくすんでのところで回避する。

視線は天上へ。
降り注ぐオーロラの光が目に突き刺さり、そして――光が遮られた。

「――――!」

天幕と御坂の間に黒い影が屹立する。

四枚目の黒翼――だけではない。

「六枚……!?」

さらにもう一対、都合三枚の黒が虹色に代わって御坂の元へと降り注ぐ。



驚愕するも対応は迅速だった。
叩き付けるように打ち降ろされた翼に、御坂は腕を突き出し剣先で受ける。

「がっ……あ……!」

猛速の激突に右腕がみしみしと軋み悲鳴を上げる。
殴打され地上に向かって打ち払われるも、しかし御坂は不意の一撃を凌いでみせた。

二人の距離が開く。

御坂の剣の射程外へ。

「おい……超電磁砲、御坂美琴」

一方通行はそれを追うでもなく、何か攻撃を放つでもなかった。
動きはない。ただ、暗く、沼底から浮かび上がったような鬱々と重く湿った声で名を呼んだ。

空中で停止した御坂の見上げた先には彼女を見る一方通行の白い姿があった。
背から三対六枚の翼を大きく広げ、極光の空に黒い影を落としている。
静かに宙に佇んだまま、白貌に映える赤い双眸が、御坂を侮蔑の視線で見下していた。

「オマエが今踏ンでるものは一体なンだ」



「……あ?」

投げ掛けられた言葉に御坂は眉を顰める。

単純に言っている意味が分からない。

彼女の足元にあるはただのがらんどうだ。
あえて言うなら電磁場を踏んでいると表現してもいい。だがその程度だ。

だから問いを返す――よりも早く、一方通行は続ける。

「オマエは一体何を踏みつけてやがる」

侮蔑、悲嘆、そして憤慨――赤い瞳の中で波紋を生む感情はそういう質のものだった。

「確かに俺は殺した。
 あァ殺したよ。殺戮した。蹂躙した。虐殺した。
 一〇〇三一人! 間違いなく俺はアイツらを殺した!」

だがな、と彼は一度言葉を切り、そして歯噛みする。

「……俺はそれを一度たりと忘れたことはねェ。あれは俺の罪だ。俺だけの罪だ。
 オマエは俺じゃねェだろォ。オマエはアイツらじゃねェだろォが。
 『私を殺した』だァ? 俺は一度だって御坂美琴を殺した覚えはねェぞ。
 あの晩偉そうに説教垂れてくれたどっかの馬鹿と、何よりオマエの言葉を一番蔑ろにしてンのはオマエ自身じゃねェか。
 今、アイツらの死を、生を、湯水みてェに浪費してンのは他でもねェオマエだろォが。それとも――そンな単純な事にすら気付いてねェのか」

そして彼は目元を手で覆い天を仰ぎ――ああ――と嘆息する。

「――まったく、哀れだなァオマエ。哀しくなっちまうほど哀れだ」

指の隙間から漏れた視線に込められた感情は――ただ憐憫。

「さっきからべらべらべらべらと薬キメたみてェに悦ってヨガって知ったよォな口ほざいてンじゃねェぞ三下がァァああああああ!!」



月下極光の天蓋を背に六枚の翼を広げた超能力者は咆哮する。
彼から吹き付けるのは暴力的なまでの感情の嵐だった。

今まで抑圧されていた想念が怒涛となって押し寄せる。

「まさかオマエの口からそンな言葉が聞けるとは思ってもなかったぜ超電磁砲!
 ああ駄目だ。確かにこりゃァどうしよォもねェ! 最悪も最悪だ、反吐が出るぜまったくよォ!
 愛とか友情とか心とか魂とか! そンな幻想みてェなものを大事そうに語ってたオマエがそのザマだもンなァ!」

ざあ――と風が哭く。

「今はっきりと悟った。オマエは最悪だ。俺みてェな悪党なンか足元にも及ばねェよ。クソも同然だ。
 止めるとか終わらせるとか、そォいうのはもォどうだっていい。
 理由なンているか。目的なンて知るか。ただ一つはっきりしてりゃァいい」

悲風は瞬時に颶風へと変わり突如として学園都市の空に竜巻が発生した。

大気が彼の元へと吸い寄せられる。
六方へ広げられた黒翼に空気が飲み込まれてゆく。
撓み、軋み、ぎちぎちと音を立てながら――超高密度に圧縮される。

翼の中からきらり、きらりと木漏れ日のように光が瞬いた。
あまりの圧力に空気が高熱を発しながらプラズマ体へと変化し光を生んでいるのだ。

か、と白髪赤眼の最強は喉を鳴らす。

来る。

「単に――俺がオマエをブチ殺してェ」

それは死刑宣告に等しい呟きだった。



「……!」

放った言葉を追い越すように一方通行は疾駆した。

もし第三者視点でこの場を俯瞰していた者がいたとしたら彼の姿が掻き消えたとしか思えなかっただろう。

軽やかに、しかし重く。
雷鳴と同質の、けれど異質な爆音。

急激な加速に引き裂かれた大気が断末魔の炸裂を上げ夜のしじまに轟く。

翼に飲み込んだ空気をジェットエンジンさながらに背後に吹かし加速。
更にはその身に掛かる全ての負担と反動のベクトルを操作、背後へと逃がし更なる加速の助けとする。

疾風。そう称するに何の躊躇いも必要ない。

一条の弾丸となった白の超能力者は翼を背後へと打ち一息に間隙を埋める。

黒の翼が対する少女の体に向かって手を伸ばす。



圧倒的なまでの暴力の塊。
それは如何なる法則で、そしてどれほどの熱量を孕んだ代物なのか。

唯一つ確かな事は、それは少女の柔肌を微かでも撫でようものならたちまち四散してしまうほどの埒外な力の結晶だった。

しかし翼が彼女の肌に届くことはない。

「ッ――!」

「――あは」

柔和な微笑を浮かべ対峙する超能力者の少女は疾風と対を成す迅雷。
彼が黒の暴風を背に持つのであれば、彼女もまた白の閃光を背から広げている。
                              、 、 、 、 、
伸ばされた翼を御坂の手にした原子崩しの剣がかち上げる。

少女の右肩から振り下ろされた黒を、左脇から伸びた白光が迎撃する。
そして、そのまま火花と表現するにはあまりに大きい閃光を放ちながら。

弾き返した。



「なン……!?」

――あり得ない現象だった。

一方通行のあの翼はそもそも防御という概念が通じない。
あらゆる力のベクトルを支配する彼の奥底から湧き出したような翼はそれ自体が『力という概念』そのものだ。

『黒翼』の性質は『未元物質』に近い。
両者が同形態であるのは何も偶然ではない。
元々が近しい存在だからこそ同じ指向性を帯びていただけの話だ。

『未元物質』がこの世ならざる力なのであれば『黒翼』はこの世の力そのものの太極。
根源の力――と称すると何やらオカルトめいてくるがそうではない。

――力というものは特性を帯びる。

どんな力にも必ず何か特徴があるのだ。
例えば発熱。例えば運動。例えば高度。例えば圧力。
エネルギーが発揮されるとき必ず何かしらの形態を取る。

そうした中で『無形』という、到底形式とは呼べぬ型を持つ力を振るえばどうなるか。

無形の力は何者にも侵されず、ただ他者を犯すだけだ。
それに対抗できるのは――例外、『原子崩し』の固定という特性のみ。

しかし『原子崩し』の力はあくまで固定だ。
上位階にある無形の力に対抗することはできても、ましてそれを弾き返すなどという芸当ができるはずがなかった。

だというのに――白剣は黒翼を叩き返した。



「なン……!?」

――あり得ない現象だった。

一方通行のあの翼はそもそも防御という概念が通じない。
あらゆる力のベクトルを支配する彼の奥底から湧き出したような翼はそれ自体が『力という概念』そのものだ。

『黒翼』の性質は『未元物質』に近い。
両者が同形態であるのは何も偶然ではない。
元々が近しい存在だからこそ同じ指向性を帯びていただけの話だ。

『未元物質』がこの世ならざる力なのであれば『黒翼』はこの世の力そのものの太極。
根源の力――と称すると何やらオカルトめいてくるがそうではない。

彼の操る『黒翼』という、既存のありとあらゆる超能力全てを逸脱する究極にして始原の異能。

一言で表すなら――『大統一力場干渉能力』。

ありとあらゆる『力』を操るそれは世界そのものに対する干渉能力であると称しても過言ではない。

超能力者序列第一位『一方通行』。
その名に違わぬ最強無比の絶対的な力だった。

……もし仮にその力に対抗できる者があるとすれば。
この世の物理法則に該当しない、彼の力の及ばない力という馬鹿げた存在だっただろう。
何故なら前提条件からして破綻している。この世界にある限りこの世界の法則からは逃れられない。

ただ一人、この世ならざる力を操る者、垣根帝督という存在を於いて他になかった。

そうでなければそれこそオカルトの世界を論じることになる。



一方通行自身もそれは正しく認識していた。
彼の持つ力を検出するという特性は非覚醒状態であるならばいざ知らず、この場においては正しく機能していた。
  アクセラレータ
『量子加速検測器』の名の示すように。
自身の力の実体を完璧に把握していた。

だがここにもう一人の例外が存在した。

第三位『超電磁砲』――御坂美琴。

電気を操るという極めてシンプルな、この街にはごまんといる平凡な能力。
しかしその頂点を極め、更なる高みへと至った少女はこの馬鹿げた力に対抗する術を手に入れていた。

極めてシンプルなその力は、単純比にして彼の四分の一。
黒翼が放つ未分化純力場に対抗する、四分の一の欠片。

『重力』。

『強い力』。

『弱い力』。

そして――『電磁気力』。

この世界を構成する四つの力――四つの基本相互作用の内の一つを統べる電磁の女王の剣は確かに彼の黒翼を弾き返した。



翼を弾かれたのはいかに一方通行であろうとも予想外の出来事だった。

対抗できるはずがない。できるはずがないのだ。
それほどまでにその力は圧倒的だった。

しかし御坂はそれに対抗する。

伍する。
後塵を拝すとも追い縋る。

届かぬはずの高みへ。
追いつけるはずのない相手へ。

手を、伸ばす。

「ちィ――おォォおおおおおお――ッ!!」

「あああああああ――ッ!!」

刹那もなく続く黒翼の連撃、三対六枚の暴風の全てを御坂は細剣一振りでまたもや返す。
弾き、受け、流し、両者が交錯する度に虹色の閃光が花弁のように、あるいは血飛沫のように舞い散る。

「浪費してる? いいえ――活用してるわよ!」

御坂は相変わらずの面持ちで、激剣の中で微笑む。

「これはあの子達がアンタのために積み上げた力。
 ただアンタを殺すためだけに築き上げた一〇〇三一回の技術と経験よ。
 アンタにとっては飯事だったかもしれないけどあの子達は必死に生きようとしていた」



「どの口がほざきやがる……ッ!
 オマエはアイツらを、それこそ道具みてェにしか思ってねェだろォが……!」

「そうでしょうね。でもそれでいいじゃない。
 アンタを殺せるなら……!」

数十合目の剣撃が響き。

「これはあの時の続きよ。
 第一〇〇三二次実験を私が代わりにやってあげる。
 もう終わりにしよう。ね? 今度こそ、アンタを、私が、殺してあげるから」

彼女は微笑む。
                               ラストオーダー
「一方通行。ここがアンタの終着点――私がアンタの『打ち止め』になってあげる」

その童女のような笑みを彼はどこかで見たことがある。
ついさっきまで胸の中に擁いていた、太陽のような天真爛漫な微笑みに――。

「オマエが――その名前を騙るンじゃねェェええええええええええええええええ!!」

渾身の力を込めて振り下ろされた黒翼が、ついに御坂の剣を砕いた。



「しまっ……!」

御坂が失策に気付いたときには既に手遅れだ。

心理掌握の補助のない状態でのミサカネットワークの酷使は構成要素そのものを焼き切りながら行われている。
妹達の命を燃料に、ネットワークそのものを自壊させながら。

両者の勝負はリソースの奪い合いだ。
終始どれだけ演算領域を確保できるかということに帰結する。

……実際のところ一方通行はその能力をほとんど使っていない。
彼の背から噴出している『翼』は演算とは無関係の位置にあった。

能力を使う度に代償として妹達の命が支払われるという状況下で、彼にとっては間違いなく僥倖だった。
たとえそれが焼け石に水程度だったとしても、だからといって問題は覆らないとしても。

けれどその事が功を奏した……といってもいいのだろう。

互角とは言い難いものの、少なくとも状況だけを見れば御坂の強度は一方通行に迫っている。

まともに戦えていると表現してもいい。
一万の距離がほんの数十ほど詰まった程度だが、その差を御坂は戦技でもって埋めている。

しかし、だからこそその代償は御坂自身にも返ってくる。
ミサカネットワークとの接続が御坂の脳を焼き切るようなことはない。
能力的な上位互換であり、更には上位個体権限を持つ御坂には直接的なダメージはない。

だが彼女の度を超えた能力行使によって力の源であるミサカネットワークは共に目減りしている。

演算は御坂自身の力であり、ましてそれが許容値を超えることはない。
しかし演算機能をミサカネットワークに頼っている以上、機能が損なわれればその分御坂の出力も減衰する。



単純に言ってしまえば使えば使うほど力は弱まる。
道徳的な論を抜きにして考えれば妹達の存在は彼女にとっての電池のようなものだ。
充分な演算ができないのでは出力は減る一方でしかない。

その結果が光剣の瓦解。
不動のはずの力場が砕かれた。

ガラスのような音を立て虹色の光を振り撒きながら飛散した光は御坂の手から零れ、薄氷のように消える。

御坂自身の力のみを行使していればこのような事態にはならなかったはずだが、それでは一方通行に抗し得ない。本末転倒だ。
だが彼の黒翼と切り結ぶのであれば『原子崩し』を使う他に術はなく――。

(再演算じゃあ出力が足りない……もっと効率のいい演算式を構築、再構成……!)

思考と実行は刹那もない。

加速した思考と並列した頭脳が瞬時に演算式を叩き出す。
一ミリ秒の誤差もなく再度御坂の右手に光剣が顕現する。

しかし致命的な一瞬だった。

雷速の斬撃はその一瞬を埋めるのには充分なものであったが――。

砕けんばかりの激音と虹色の閃光を放ち、再び白と黒が交錯する。



「っ……!?」

両者が克ち合った瞬間御坂は気付く。

漆黒と白光がぶつかり合いお互いを弾いたのは変わらない。

しかし弾かれたのはこちら、御坂の振るった『原子崩し』の光剣だ。
今まで翼を打ち払ってきた白刃と、剣に払われてきた黒翼の立場が先の一瞬で逆転した。
電子剣の一撃を阻害され、そして。

「コイツが駄目なら――こっちはどォだよ」

凍えるように吐き出された言葉。
ずるり――と七つ目の必殺が放たれる。

それは一方通行の右手だ。

何の変哲もない、あえて特徴を挙げるとすれば線の細い、白い掌。
だがその恐ろしさを他の誰よりもよく知っていた。

脳裏にフラッシュバックするのは一〇〇三一回の死。

「オマエに直接能力をぶちかましちまえばよォ、幾らなンでも防げねェだろォ?」

ミサカネットワークの崩壊により一方通行の能力出力は落ちている。

だがそれがどうしたというのだ。そんな事実も些事でしかない。
どれだけ力を削がれようとも必殺には変わらず。


  、 、 、 、 、 、 、 、 、 、
触れただけで即死する。



「――――あ――」

思わず声が漏れた。

それは『死』という名の絶対の鎌だ。



「や――――」

対抗手段である光剣は弾かれた。

どれだけ御坂の剣が速かろうとも逆転した立場は埋められない。
防ごうとする刃の前に翼が割り込み防がれ虹色の撃光が砕け舞う。
無残に弾かれた右腕に次はなかった。

「やだ――いや――」

触れれば、死。

それを知っているからこそ御坂は真っ白な指先から目が逸らせずにいる。

加速した視界の中、手は奇妙なほどにゆっくりと伸ばされ。

「たす、け――て――」





ぱん、と呆気ないほど小さな音が爆ぜた。





それは伸ばされた手が払われた音。
防ぐ手段などないはずのそれを鎧袖一触に、いっそ無造作ともいえる動きで打ち伏せる。

必殺だったはずの死神の腕が振り払われる。





「な、ン――」





驚愕の色に染まった一方通行の瞳を真っ直ぐに射抜き。

丈の合わない長い袖から伸ばされた左腕が。

その先に付いたどうやっても右手にしか見えないものが。

まるで『あの時』と同じように一方通行の手を払い除け。

そして御坂は童女のような無邪気な、満面の笑みを向ける。










「――助けて、当麻」










「み――さ、かァァァァああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」



叫びを遮るように左の右手が振るわれ、一方通行を殴り飛ばした。





前へ        次へ
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。