上条「二人で一緒に逃げよう」 美琴「………うん」 > 第一部 > 05


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雪がしんしんと降り、風が吹き荒れる中、1人の少年と1人の少女は目を閉じて互いの身を寄せ合っていた。いずれ来るその瞬間をひたすら待って――。

美琴「……ねぇ……向こうに行ったら……ずっと……一緒に……いようね……」

上条「……ああ……そうしよう……」

美琴「……でも……もしかしたら………私たちの妹に……会うかもね……10031人の妹たち……に」

上条「それもいいじゃん……優しくしてやったら……いい」

美琴「……そうだね……」

1人の少年――上条当麻と1人の少女――御坂美琴は笑みを作り静かに語り合う。

美琴「………当麻」

上条「………ん?」

美琴「……私……何だか……もう……眠い……」

上条「…………………そうか」

美琴「……………後で…必ず……来てよね……お願いだから……私を一人ぼっちにしないでね」

上条「…………ああ」

上条は悟る。自分の側にいる彼女はもう限界だと言うことを。そして、自分自身も長くないことを。
そう考え、上条は最後にこの世の景色を見納めておこうと1度だけ目を見開いた。

上条「…………………」

その時だった。





上条「!!!!!!!!!!」

ガバッ、と上条は何か信じられないものを見たかのように体勢を前へ大きく傾けた。

上条「(……………何だ………あれは?)」

美琴「……ど、どうしたの?」

突然起き上がった上条を不審に思い、美琴が訊ねてくる。




上条「……………光?」




美琴「……………え?」

確かに、上条の視線の先、数百mほど向こうに、小さいが1つの光が暗闇の中浮かんでいる。

上条「(……まさか、天国が近付いてきたとでも言うのか?)」

目を細める上条。
だが、それは見た感じ超自然的な光ではない。どちらかと言うと、人工的な、そんな感じがした。

上条「(家の灯り……?)」

一瞬、光の周りに小さな小屋らしきシルエットが見えた気がする。

美琴「……どうしたの? ……何かあるの?」

更に目を細める上条。
そして彼はその光の正体に気付いた。

上条「(間違いない……っ! あそこに小屋があるっ……!)」

美琴「………何なの?」

ザッと上条が立ち上がる。

美琴「え!?」

振り向き、上条は美琴を見る。

上条「小屋だ」

美琴「え?」

上条「あそこに光が見えるだろ? あれは小屋の灯りだ」

そう言って上条は光の方を指差す。それにつられ美琴はそっちに顔を向けた。

美琴「………小屋、って」

上条「影が見えた。間違いない。あそこまで行くぞ!」

真剣な顔で上条は美琴の顔を見据える。
だが、美琴は呆然と上条を見返すと、やがて小さく首を横に振って答えていた。




美琴「………やだ」




上条「………………何?」

美琴「…………やだ………やだ」

上条「!」

美琴「………やだやだやだ………………やだやだやだやだやだやだ!!!!!!」

徐々に、彼女の声が大きくなる。

上条「…………………」

美琴「もうやだ!!! これ以上無駄な希望なんて持ちたくない!!! もう終わりにしたいの!!! 生きてたって辛い思いするぐらいなら、もう終わりたいの!!!」

駄々っ子のように美琴は上条の提案を拒否する。

上条「駄目だ」

美琴「…………っ」
美琴「やだ!!! どうして!? やっぱり私と一緒にじゃ死ねないの!?」

上条「……まだ、諦めるのは早い」

美琴「………私はもう諦めたいの!!! もう……楽になりた……」

と、その瞬間。

上条「御坂!?」

フッ、と美琴がその場に身体を横たえた。

上条「おい、どうした!?」

美琴「……ハァ……ハァ……ハァ……」

再び、美琴が顔を赤くして苦しそうに息をしていた。

上条「叫んだことでまた症状が悪化したのか……」

1度は死を迎え入れる準備のためか、落ち着いていた美琴の体調。
だが今また彼女は、苦しみ始めた。

上条「ならお前もまだ……諦めきれてないってことだ」

上条は美琴を背負う。

上条「俺らしくなかったよ。あんな簡単に死のうとしてたなんて」

言って上条は、暗闇の中に見える光を見つめる。

上条「だがな御坂、俺は少しでも希望があれば絶対に最後まで諦めないんだよ」

上条はしっかりと地に足をつけ歩き始める。

上条「だから……絶対にお前を死なせたりはしない」

力強い声を響かせ、彼は美琴に話しかける。

上条「天国に行くのは最低でも後80年は待ちやがれ」

 

 

 

 

イギリス――。

ガチャッと窓を開ける神裂。彼女はそこから階下を覗いた。

神裂「どうかしましたか?」

『弧絶術式』の被害に遭った美琴を助けるため、死んだ魔術師のアパートに残っていた神裂。彼女は1階から声を掛けられると、何があったのか聞き返した。

アニェーゼ「いやー……こっちには特に目ぼしい物は見つかりませんでした。やはりその部屋が唯一の手掛かりのようですよ」

そう言ってアパートの外から、黒い修道服に身を包んだ元ローマ正教の修道女アニェーゼが見上げてきた。隣には、彼女の同僚のルチアやアンジェレネがいる。今、彼女たちは10人ほどの部下を引き連れてこの田舎のアパートまで来ていた。全員、他に回っていた案件が解決したので、手助けに来てくれたのだった。

神裂「そうですか。ありがとうございます。では適当に休憩を入れて下さい」

アニェーゼ「はいはーい」

手を振り、アニェーゼたちは部下の所に戻っていく。それを確認し、神裂は窓を閉めると、部屋の中央の椅子に腰掛けている人物に顔を向けた。

神裂「今聞いた通りです。どうやら、手掛かりはこの部屋にしかないようですね」

インデックス「…………………」

が、インデックスは顔を俯けながら何も答えようとしない。

神裂「今、ステイルと土御門が、何とか我々が学園都市に赴けないか上と交渉に行ってる最中です。状況が良い方向に転がればいいですね……」

インデックス「……………………」

神裂「インデックス、我々も頑張りましょう。必ず手掛かりが掴めるはず」

インデックス「…………うん」

静かに答えインデックスが立ち上がる。

インデックス「ぷぎっ!」

バタン!

神裂「インデックス!?」

と、インデックスはいきなり盛大にその場で転倒した。

神裂「大丈夫ですか?」

インデックス「うー…大丈夫だけど……この本のせいなんだよ」

1冊の本を持ち上げるインデックス。どうやら床にあったその本が躓いた原因のようだった。

インデックス「こっちが大変な時に、舐めた真似するんじゃないんだよ!」

神裂「インデックス!?」

言ってインデックスはその本を放り投げようとする。
が、

インデックス「ん?」

神裂「?」

インデックス「……あれ?」

神裂「どうかしましたか?」

怪訝そうな顔をしたインデックス。彼女は手に持っていた本を顔に近付け、その表紙を眺めた。

インデックス「………日誌」

神裂「え?」

そう、インデックスは呟く。神裂が彼女の視線を辿り、本の表紙を見てみると確かにそこには『DIARY(日誌)』と書かれていた。

神裂「多分、死んだ魔術師のもののようですね。何か書いてあるかもしれませんよ」

インデックス「………………」パラパラパラ

無言で本をめくるインデックス。
と、その時だった。

インデックス「!!!!!!!!」

急に、インデックスが神妙な顔をしたかと思うと、彼女は慌てたようにページを逆に捲り始めた。

神裂「? どうかしましたか?」

インデックス「今確かに『弧絶術式』の単語を見かけたんだよ」

神裂「ええっ!?」

インデックス「85ページ。そこに書かれてたんだよ……あった!」

叫んで、インデックスは目的のページを開く。

インデックス「ほら! ここに!」

神裂「あ、確かに……」

インデックスが指差したページの一部分。そこには確かに『弧絶術式』の単語が書かれていた。
神裂はインデックスから本を受け取る。

神裂「これは……あの少女のことが書かれていますね」

インデックス「本当に!?」

インデックスが本を覗き込む。

神裂「やりましたねインデックス。手掛かりが見つかりましたよ」

インデックス「うん、良かったんだよ。でも、何て書いてあるの?」

神裂「ちょっと待って下さい。どうやら魔術師が何故あの少女を狙ったのか。その理由が書かれてあるようです」

インデックス「………」ゴクリ

神裂は無言で本を読み込む。
しばらくして………

神裂「あ!」

インデックス「? 見つかった? あの魔術師が短髪を狙った理由!」 

神裂「これは………」

インデックス「?」

急に蒼ざめる神裂。

インデックス「どうしたの?」

神裂「ええ……。見つかりました。確かに魔術師があの少女を狙った理由が書かれてます。しかし……」

インデックス「しかし?」

神裂「こんな……こんな理由で………」

インデックス「え?」

不思議そうな顔をするインデックス。彼女の目の前で本を読んでいる神裂の手はワナワナと震えている。そして神裂は、怒りを露にするように叫んでいた。

神裂「こんな下らない理由で……あの魔術師は彼女を狙ったのですか!?」

インデックスは呆然と、怒る彼女の顔を眺めていた。

 

 

 

 

 

学園都市――。

ドバン!!!

古い造りのドアが勢い良く開けられた。

上条「着いたぞ……御坂」

上条だった。上条が美琴を背中におぶり、小屋に入ってきた。

上条「しっかりしろ!」

某学区にある山中。2人して死を迎える寸前だった時、彼らは暗闇の中に一筋の光を見つけた。
それは、強盗対策の為にとある小屋の入口に備えられた、一定時間ごとに点く自動点灯式の灯りだった。

上条「死ぬんじゃないぞ!!」

その光を頼りに、上条は高熱状態にあった美琴を小屋まで連れてきたのだ。

美琴「……ハァ…ハァ……ハァ……」

部屋の隅にあった寝台に美琴を寝かす上条。彼は室内を見回す。

上条「何か……布団か何かを」

その避難小屋は、普通の家の一部屋ぐらいの大きさがあった。
具体的には、正面左手に机が、正面左奥に横向きの寝台が、そのすぐ後ろにはスライド式の扉が、正面右手には壁に沿って設置された長い椅子が置かれていた。

上条「それより火だ……火を起こさないと」

言って上条は部屋の中央にあった薪ストーブの側に近付く。彼は、背後の机の引き出しを適当に探ると、1つのマッチを見つけ、それを擦った。

上条「点くよな? ここは避難小屋だ。定期的に整備されて全て使える備品が揃ってるはず」

何度もマッチを擦る上条。


ボッ!!


上条「点いた!!」

5回目にしてようやく火が点き、彼はそれをストーブの下に穿たれた空間の薪に向かって放り込んだ。


ボオオオオッ!!!!


と勢い良く炎が燃え上がった。

火が点いたのを確認するやいなや、上条は寝台の後ろにあった扉を開け中を見回した。
色々と、遭難者のために用意されたものがそこに収容されてあった。

上条「これだ!!」

奥にあった毛布を数枚引っ張り出す上条。彼はそれを十分に暖まるようストーブの側に置き、次にベッドの上に寝かせた美琴に近付いた。

上条「ごめん御坂……」

美琴「ハァ……ハァ……」

一度、美琴の身体を起こし、上条は彼女が倒れないよう支えたまま背中を向けさせる。

上条「………その……この服のままお前を寝かすわけにはいかないんだ。だから………脱がすぞ?」

そう言って上条は美琴の帽子、マフラー、上着などを脱がす。

上条「し、下着までは脱がさないから! そ、それになるべくお前の素肌見ないよう気を付けるから!」

美琴「ハァ……ハァ……」

彼女に聞こえているのかは分からなかったが、一応念のため上条はそう言っておいた。

上条「じゃあ、いくぞ?」
上条「……………………」ゴクリ

顔を背け、上条はゆっくりと美琴の服を脱がしていく。

上条「見てないからな? 見てないからな?」

やがて美琴の上半身は地肌に下着1枚の格好となったが、上条はそれでも彼女に気を遣ってか視線を逸らしていた。

上条「つ、次、下脱がすぞ?」

ここからが正念場だった。上条は美琴を寝かすと、今度は下半身に手を伸ばした。

上条「い、いくぞ?」

美琴「ハァ…ハァ……」

もちろん美琴は聞いていない。

上条「見てないからな? 見てないからな?」

言って上条はフリルのスカート、短パンを順に脱がしていく。そして……

上条「………後はこのレギンスを脱がすだけ…」ゴクリ
上条「あ、いや、下心なんて無いからな! 絶対無いからな!」

美琴「ハァ……ハァ……」

上条「よ、よし……そのまま…そのまま……」

ゆっくりと、上条はレギンスを脱がしていった。
顔を背けていた上条だったが、途中、ふと視界の端にフリフリした布キレと白い肌が見え、彼は思わずそちらに視線が………

上条「だから見てない! 見てない!! 見てない!!!」

……向く寸前で目を閉じた。

上条「っと、毛布毛布毛布」

そして、しどろもどろしながらも、上条はストーブの前で暖めていた毛布を手に取った。
顔を背けながらそれで美琴の身体を包んでやると、今度は棚の奥から大きな布団を取り出し彼女に被せてやった。

上条「棚にあった毛布と布団合わせて3枚。これで冷えた身体を少しは温めるはず」

ベッドの上で息をする美琴を見て小さく頷くと、上条はまた棚の中を探し始めた。

上条「次は……えーっと……」

応急セットだ。最低でも美琴の熱を冷ますための何かが欲しい。

上条「これか? 違う……。 これか? いや違う……」

棚の中にあった箱らしきものを次々と取り、上条は中を確認していく。

上条「! あった! 応急箱! これだ!」

何度目かに手にした箱の中。そこに、目的のものはあった。

上条「これだ! 今はこれに頼るしかない」

見つけたのは、人の額に貼って熱を冷ます冷却シート。完全に美琴の熱を冷ますには不十分だったが文句を言える状況ではなかった。

上条は急いで袋から冷却シートを取り出し、それを美琴の額に乗せてやる。

美琴「……ハァ……ハァ……ハァ……」

上条「しっかりしろ御坂。頼むからこんな山中に俺を1人で置いていくなよ」

そう語りかけながら、上条は美琴の顔をよく見れる位置に椅子を置き腰掛けた。

上条「お前はレベル5の超能力者……学園都市第3位の『超電磁砲(レールガン)』なんだろ? だったら、こんな所でくたばってんじゃねぇ」

美琴「……ハァ……ハァ…」

上条「………………」

苦しそうに息をする美琴を、上条は心配そうに覗き込む。
やがて彼は彼女の髪にそっと手を伸ばすと、優しく触れ撫でてやった。

上条「御坂………」

シャンパンゴールドの滑らかな髪が、上条の指の隙間をサラサラと流れていく。

上条「絶対に……死ぬなよ……」

雪と寒風に晒される1つの小さな小屋。その中で、少年は少女が再び元気な顔を見せるようになるのをひたすら願う。
今、長い長い夜が終わりを迎えようとしていた――。

 

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