とある世界の残酷歌劇 > 終幕 > 05


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閃光の正体は雷だ。
周囲を取り巻く駆動鎧と、風に吹かれ広範囲にばら撒かれた砂鉄。
それらの間に無数の雷電が発生し縦横無尽の落雷を連続させる。

その様はあたかも世界が光に包まれたよう。
空間を歪め炸裂させるように雷撃の嵐が突如として発生した。

「ちぃいいいっ――!!」

即座に反応し全方位に防御の白を展開しようとする垣根に、雷速よりもなお早く、一条の光が差し込む。

赤外線の照射だ。
電磁場干渉により励起状態となった電磁波は調律収束されたレーザーを生み光速で垣根へと飛来する。

光そのものという世界最速の攻撃だ。

「――――――!!」

通常の防御では間に合わない。
回避も不可能の一撃を凌ぐには光線を事象遮断の未元物質で直接防御するしかない。

(まに――あえ――!!)

多層展開した羽毛の壁で僅かばかりの時間を稼ぐ。
生まれた間隙に白剣で高次元時空間を切断。強引にその刃を光の前に捻じ込んだ。

「ぐ――――!」

白剣に切り払われレーザーは消失する。
だが防御に要した一瞬の間に全方位からの落雷が垣根へと降り注いだ。



雷鳴が轟き、空が割れるような悲鳴と共に垣根へと降り注ぐ。

閃光、爆音。激震が学園都市の夜空に咲く。
あたかも絢爛な花火を思わせるそれは一人の少年の身体を貫こうとするものだった。

しかしその爆心点。
垣根帝督の防御は間一髪で成功した。

背の六枚の翼の内、二枚を炸裂させ周囲に散布、迎撃弾幕とし、二枚を使ってその身に掛かる地球の遠心力を遮断した。
それにより弾かれるように落下した彼の身体を残る二枚が抱擁するように包み込み、雷撃から彼を守った。

翼に切断された千の雷槍は悉くが砕けその色と力を喪失する。

『未元物質』の防御の前にはあらゆる事象は突破できない。
それを可能とするのは異界の法則すらも我が物とした白髪の超能力者だけだろう。

そう、思っていた。



だが――ここに究極の例外が存在する。



あらゆる事象を遮断するはずの未元物質の匣。

その中にあるはずのない声があった。





「――つかまえた」





『幻想殺し』という名の究極の例外が存在することを垣根は知らない。



「――――――」

一瞬、何が起こったのか分からなかった。
未元物質の防御は完璧で、崩しようのない異界の絶対法則だ。

「だから言ったじゃない。そんなの、アンタだけの常識だって」

右手に持っていたはずの白剣はいつの間にか失われ無手となっている。
その手首を、御坂の手が掴んでいた。

彼女の声は右耳の側から聞こえてくる。
なのに、掴まれた腕の肘は――彼女の胸を指していない。

掴んでいるのは御坂の左腕だ。
だというのに、肌に感じる指の並びは右手のものだ。

「――――――」

緩やかに視線を落とせば、矢張り掴んだのは右手だった。
しかしそれは、彼女の左手に着いている。

非現実的な光景に喉が不自然に蠢く。

「は――――なんだよ、それ」

乾いた笑いに御坂の濡れるような声が答えた。



「幻想殺し――私の、彼氏」



直後、黒天から降り注いだ雷柱が垣根の体を貫いた。



――――――――――――――――――――



天地を裂く雷撃の閃光が網膜に焼き付いた。
まるで旭日のような輝きに眼が眩みそうになる。

そして一瞬遅れて轟音が響き、びりびりと腰掛の震えを感じる。

「んんー、ん」

雷光に照らされた金の髪を風に流し、咳払いする。

まぶたの裏に残影を感じながら両目を瞑り、僅かに空を向く。

そしてゆっくりと口を開き、声を発した。

「Oh――o――」

直前までとは打って変わって、しんと静まり返った夜の街に涼やかな少女の声が澄み渡る。

「O――o――oh――――」

僅かに上下し調律するような声の音色は、やがて一つの高さで安定する。
そこで一度声を切り、数秒の無音が生まれた。

静寂を破ったのは小さな音だった。
こん、こん、と二回。靴の踵で小さく給水塔を蹴り、そして再び唇が開かれる。







   おぉ友よ、このような調べではない
「――O Freunde, nicht diese Tone!」








紡がれるのは歓喜の旋律だ。

本来バリトンが担当するべき歌を、しかしソプラノの少女の声が奏でる。

彼女の声に応えるように音が聞こえる。
何か、重く硬いものが立て続けに落下する耳障りな低音。

それにまた応えるように、少女は続く音色を紡ぐ。



「――Sondern laßt uns angenehmere」



長く伸びる声の残響。
そしてしばらくした後、また音が返ってきた。

小さな、かすかな音。
人が聞き取れる大きさではなく、彼女の耳に届く前に消えてしまうようなものだった。

だがその音を確かに聞いた少女は、続く詩を唇に乗せた。



「――anstimmen, und freudenvollere.」



そしてゆっくりと息を吐き、少女は展開していた能力を停止させた。



しん――と夜の静寂が染み渡る。
激闘の嵐による騒乱はもはやなく、不自然なまでの無音が街全体を包み込んでいた。

無為な自問自答はない。
ただ、胸の内を街と同じような静寂が満たしていた。

そして長い空白の後。
再び唇が開かれる。

「――Freude」

主題から接続する二度の感嘆。
その一度目を漏らしたときだった。

「――Freude!」

コーラスが担当するべき句だった。
それを返した者が誰であるか、考えるまでもなかった。

「――Freude」

歓喜という言葉をそのままに、先程よりも強く、感嘆を漏らす。

「――Freude!」

そして矢張り応える少年の声。
馬鹿みたいにノリがよくて、こちらの妙な遊びに付き合ってくれるような輩は一人しかいないのだ。






   Freude, schöner Götterfunken,

   Tochter aus Elysium

   Wir betreten feuertrunken.

   Himmlische, dein Heiligtum!


   Deine Zauber binden wieder,

   Was die Mode streng geteilt;

   Alle Menschen werden Brüder,

   Wo dein sanfter Flügel weilt.






     

 

      

     

 

  

           

   

        


     

            

  

       

   






   Wem der große Wurf gelungen,

   Eines Freundes Freund zu sein,

   Wer ein holdes Weib errungen,

   Mische seinen Jubel ein!


   Ja, wer auch nur eine Seele

   Sein nennt auf dem Erdenrund!

   Und wer's nie gekonnt, der stehle

   Weinend sich aus diesem Bund!






      

   

          

    

             

       


   

               

 

       

         

   

            

     






   Freude trinken alle Wesen

   An den Brüsten der Natur;

   Alle Guten, alle Bösen

   Folgen ihrer Rosenspur.


   Küsse gab sie uns und Reben,

   Einen Freund, geprüft im Tod;

   Wollust ward dem Wurm gegeben,

   und der Cherub steht vor Gott.









ここ?

こっち?

このへん?

これかな?









   Freude trinken alle Wesen

   An den Brüsten der Natur;

   Alle Guten, alle Bösen

   Folgen ihrer Rosenspur.


   Küsse gab sie uns und Reben,

   Einen Freund, geprüft im Tod;

   Wollust ward dem Wurm gegeben,

   und der Cherub steht vor Gott.









あれ?

ええと?

うーん?








   Froh, wie seine Sonnen fliegen

   Durch des Himmels prächt'gen Plan,

   Laufet, Brüder, eure Bahn,

   Freudig, wie ein Held zum Siegen.









ちがう









   Freude, schöner Götterfunken,

   Tochter aus Elysium

   Wir betreten feuertrunken.

   Himmlische, dein Heiligtum!


   Deine Zauber binden wieder,

   Was die Mode streng geteilt;

   Alle Menschen werden Brüder,

   Wo dein sanfter Flügel weilt.









これじゃない

これもちがう

こっちも

これもだ









   Seid umschlungen, Millionen!

   Diesen Kuß der ganzen Welt!

   Brüder, über'm Sternenzelt

   Muß ein lieber Vater wohnen.









なんで?









   Ihr stürzt nieder, Millionen?

   Ahnest du den Schöpfer, Welt?

   Such' ihn über'm Sternenzelt!

   Über Sternen muß er wohnen.









おかしいなぁ









Seid umschlungen, Millionen!

               Freude, schöner Götterfunken, Tochter aus Elysium

Diesen Kuß der ganzen Welt!

               Wir betreten feuertrunken. Himmlische, dein Heiligtum!









もっとおくかな

      ざざざざざざざざざざざざ

よいしょ

      がざざざががごぎざざざざ









   Ihr stürzt nieder, Millionen?

   Ahnest du den Schöpfer, Welt?

   Such' ihn über'm Sternenzelt!

   Über Sternen muß er wohnen.










やっちゃった

まぁいっか









   Freude, Tochter aus Elysium


   Deine Zauber binden wieder,

   Was die Mode streng geteilt;









まだかな?









   Deine Zauber binden wieder,

   Was die Mode streng geteilt;

   Alle Menschen werden Brüder,

   Wo dein sanfter Flügel weilt.









もうちょっと?









   Seid umschlungen, Millionen!

   Diesen Kuß der ganzen Welt!

   Brüder, über'm Sternenzelt

   Muß ein lieber Vater wohnen.



















「――Seid umschlungen!
     Seid umschlungen!

     Diesen Kuß der ganzen Welt!
     der ganzen Welt! der ganzen Welt!

     Diesen Kuß der ganzen Welt!
     der ganzen Welt! der ganzen Welt!

     ganzen Welt!


     Freude!

     Freude, schöner Götterfunken!


     Tochter aus Elysium!


     Freude, schöner Götterfunken!」









「もう、いいや」



諦めて、立ち上がる。



「なんだ。やっぱり。未元物質なんてどこにもないじゃない」



真っ赤になった手を止めて、少し首を傾げて、微笑んだ。



「だってほら、血と肉と骨しかないもの」
















「――Götterfunken!」










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