とある世界の残酷歌劇 > 終幕 > 03


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「テ――メェ、心理掌握ォォおおおおおおおお!!」

垣根の絶叫よりも早く、御坂美琴は世界最高の巨大演算装置を掌握した。

都合九九六四人分の脳を多重接続した補助演算装置が御坂美琴の強度に更なる後押しを加える。

御坂に足りなかった生々しいく泥臭い殺人知識。
一〇〇三一人分の生と死の結果。
あらゆる力のベクトルを操るあの『一方通行』の補助演算経験。

知識。記憶。経験。思考。推察。演算。予測。判断。
脳の持つあらゆる機能が、その領域を拡大し九九六四倍の後援を得る。

さらに、まだ加えるべき要素がある。

「っ――――――!!」

地球上の陸地ほぼ全域を覆う形で展開された電脳の網は垣根の行動を余さず捉えていた。

「――逆算、とっくに終わってるわよ」

豪雨となって降り注ぐ未元物質の攻撃は人が反応できるものではない。

だが御坂は音速をも超えて飛来する殺意の雨を柔和な笑顔で正面から見据えていた。

彼女には可視光線などに頼らずとも全て『見』えている。
電子の動き。電界と磁界のゆらぎ。電磁力の働き。
そうしたもの全てが全方位に対する完璧なソナーとして存在する。

あとはその中で『おかしな挙動』をするものを汲み上げればいい。

視覚を解して情報が脳に送られた瞬間に対抗手を打つ。

音すらも掻き消える破壊と共に宙を舞うコンテナが一斉に内側から爆ぜ、飛来する白の一つ一つを正確に、残らず薙ぎ払った。



彼女の能力は雷電だけではない。磁力だけではない。

ここは学園都市。
世界最高の科学の街。

電気が街を覆い、機械のほぼ全てが電力によって動いている。

この街そのものが彼女のためにあるようなものだった。

だからこそ最先端の、彼女のために誂えられたような武器がある。

瓦解するコンテナは自由落下と同時にその中身を空中へとぶちまけた。
一つにつき一ダース、合計三三六機。
三三六の駆動音が夜の街にノイズを撒き散らす。

「これ元々私のだし。別にいいわよね。多分」

それら全てが彼女、御坂美琴、超電磁砲の武器だ。





FIVE_Over.

Modelcase_"RAILGUN".





第三位の名を関す機械の能力が、宙を埋め尽くしその羽を震わせた。



「ファイブオーバーシリーズ……!」

一つ一つが蟷螂のようなフォルムをした機械たちが蚊柱を作るように飛び回る。
羽が震え風を生み大気を乱す。無数というには程遠い機虫らはしかし竜巻のように垣根を取り囲む。

本来操縦者が中にいなければ動かない駆動鎧も電磁を支配する御坂の前ではチェスの駒も同然だ。
垣根は理解する。昼間の『六枚羽』の遠隔操作は、単にこれの試運転に過ぎなかったのだ。

「く……!」

喉を鳴らすような声、垣根が身構えると同時にそれは起こった。
  コマンド
「命令名――『一掃』」

小さな呟きと共に発せられた命令に従い、機械の羽虫は忠実にそれを実行した。

轟音と轟音と轟音が炸裂し音そのものすらも掻き消して、六七二の腕、二〇一六の砲門が火を吹いた。

吐き出されるのは超音速の弾丸だ。
合計秒間四四八〇〇発。
それらが全て垣根帝督というただ一人を狙い正確に放たれる。

「づ――おおおおぉぉ――ッ!!」

弾丸の一つ一つを迎撃することなど不可能だった。

単純な話、垣根には手数が足りない。
未元物質は強力な能力ではあるが、迫る弾丸全てを拾うことなどできはしない。
御坂のような並列思考、機械的多重操作などできるはずがないのだ。

圧倒的物量を投入する御坂の前に、垣根は未元物質の殻に籠もるように防御に徹する他なかった。



超電磁砲。心理掌握。そして妹達。
超能力者同士が能力を連携させるなどという発想は、不思議な事に全く存在しなかった。

能力は一人につき一つまで。
行使の幅を広げたとして大前提は覆らない。

だから能力者は元より、研究者も、そして教師も、個人の力を重要視する。
例外は体育祭、大覇星祭くらいだろう。しかしそれも祭りの狂乱に浮かされての行動に近い。

しかし例外中の例外は確かに存在したのだ。

能力者であり、研究者であり、教師であった女がいた。
複数の能力者の脳を仲介連結させ、複数の能力を我が物として振るった擬似多重能力者。

『多才能力』――木山春生。

夏休みの始め頃に起きたあの事件を引き起こした張本人。
彼女の生み出した『幻想御手』もまた、本来は御坂の能力から派生したものだ。

だからこれらは全て御坂美琴の持つ力の一端と称してもいい。
『超電磁砲』の副産物である妹達が持つミサカネットワークは最初からそういうものだ。

しかしこれは『妹達』のみに許されている能力の使用法だ。
『幻想御手』を用いてさえ、脳に莫大な不可を掛け多くの能力者を昏睡状態に陥らせた。
複数人の脳を連結させるなど、同じ脳波パターンを持ち電磁能力を有する彼女たちだからこそできる業なのだ。

だが、その前提条件を覆すことのできる唯一の存在がいる。

『心理掌握』――脳と思考と精神を司る超能力者。
彼女が『幻想御手』の代理を果たす事で傷害は取り払われる。

連結された能力は単一種、『電撃使い』のみ。

しかし最高精度で連結された一人分の『超電磁砲』と九九六四人分の『欠陥電気』は、副次的に期待されていた効果を十全に発揮する。

能力強度上昇――レベルアッパーというその名のままに純粋に御坂の能力を引き上げる。



「結局あれ、コンボよコンボ。ゲームなんかでよくあるじゃない。
 味方の攻撃力引き上げて、敵に弱点属性つけたりとかして。少しくらいやったことあるでしょ?
 一匹狼気取るのもいいけどさ、手取り足取り仲良くすればこんな事もできちゃう訳よ。
 アンタみたいな奴には結局、一生分かりっこないでしょうけどさ」

ビルの屋上の端、給水タンクの上に腰掛け足をぶらぶらと揺らしながらフレンダは誰にともなく言う。

「ま、当然といえば当然よね。自分だけの現実なんて、つまり結局、他の誰にも理解されないんだもの。
 だからこそ自分だけの現実なんて言うんだろうけど。世界にとってそれが常識なら能力者なんてただの凡人じゃない。

 能力者は異常者なのよ。世界にとって異常でなくちゃならない。だから平均化なんてできないし誰とも共存できやしない。
 たとえ同系列の能力であっても別個の世界を有しているんだもの。パラレルワールドっていうの? よく似た世界でもまったくの別物。
 まったく同じ自分だけの現実を持つ能力者ってつまり、それは同一人物ってことよ。
 そんな気持ち悪いヤツがいるとすれば、結局それって最初からそういう自分だけの現実を持ってたってこと」

聞こえるはずもない相手に向かって独り言のように金髪の少女は嘯く。

「え? どうしてこんな事を思いついたのかって? そんなの決まってるじゃない」

そして愉快そうに目を細め。

「――結局、私がそうだからに決まってるじゃない」

どこか自虐めいた笑みを浮かべるのだった。



「これが『幻想御手』を元にしたものだとして、『幻想御手』がミサカネットワークを基にしたものだとして。
 だったら結局、一番始めにそんな事を考えたのは誰かって話よね。
 簡単よ。『心理掌握』、大本はこの私って訳。全部全部、私が最初。

 同じ脳波の能力者を大量生産して連結させようって『欠陥電気計画』も。
 超能力者の演算パターンを植え付けて同化させようって『暗闇の五月計画』も。
 木原の馬鹿どもが作った『能力体結晶』も私の能力を素にして作られた。
 結局、『幻想猛獣』も私の劣化コピーみたいなものよ。

 つまり私は、『心理掌握』っていうのはそういう能力者なの。
 これは他人の精神と思考を操る能力じゃない。結局、他人を自分と同じにするのよ。

 食蜂操祈も、フレンダ=セイヴェルンも、他の色んな『心理掌握』もみーんな私。
 精神操作でも精神支配でもない。脳の中身を単一フォーマットに仕立て上げる能力。
 みんなみんな同じにして、結局、自分の脳なんだから好きにできるに決まってるじゃない。

 だから私はみんなの『ともだち』。みんなみんな私と仲良し。いつでも仲間に入れてあげるわ。
 私はフレンダ=セイヴェルンであり食蜂操祈であり、どちらでもあってどちらでもない。
 名前なんていくつあったか数えるのも面倒だし、ついたあだ名はもっと多かった。最初の名前なんてとっくの昔に忘れちゃった。

 ――もし『私』に単一の名前があるとすれば『心理掌握』ただ一つ。
        ファーストプラン
 アレイスターの初期候補。初代虚数学区。
 学園都市最初の超能力者――最初の第一位『心理掌握』。それが『私』」



「長い」

フレンダに振り返りもせず、御坂は一言で切って捨てた。

「ひっどー!?」

「うるさい。面倒。どうでもいい」

「結局、少しくらいいいじゃない。私ずーっと接続補佐してるだけなんだしぃ」

言って頬を膨らませるが、見る者は誰もいない。

「アンタがどこの誰で何考えてようと私には関係ないわ。
 そんな細かい裏設定みたいなのは本当にいらないから、アンタは仲介に集中しなさい」

「結局、言われなくても大丈夫よ。
 まさかこの『心理掌握』が、脳波パターン操作なんてままごと同然のことをミスるはずがないじゃない。
 寝ながらだってやってやるわよ。だから代わりに言ってやるわ。結局アンタこそそっちに集中したらどうなの?」

「言われなくたって――」

続く言葉は爆音によって掻き消された。

刹那の煌きの後、ガトリングレールガンの包囲の一角に穴が穿たれる。
垣根の放った白光の一撃が駆動鎧を十数機纏めて破壊し吹き飛ばした。

包囲網が崩れたのは一瞬。
けれどその間に垣根は翼を翻し機械と銃弾の嵐から脱する。

方向は直上。
漆黒の夜空に向かって白の軌跡を描き舞い上がる。



「は――何だよコイツは」

小さく呟かれた言葉は夜風に紛れて消えてしまう。
超高速で駆動鎧の包囲から離脱した垣根はさらに上昇し翼を翻す。

本当にこれが第三位の力なのか――と垣根は心中で呻く。

仮に第五位、心理掌握の補助を受けたとしてもこの力はありえない。
彼女らの力は一方通行は元より、自分の足元にも及ばないほどだったはずだ。

ピンセットから得た情報は確かで、そこには客観的な圧倒的彼我があったのだ。

仮にもあの統括理事長が使っていた情報網だ。そこに誤りは無い。
だからこれは、情報が更新されなくなったあの瞬間から後の話。

(この一週間で爆発的に伸びやがったとしか考えられねぇ――!)

一〇月九日、学園都市独立記念日。
自分が一方通行を下し、そして彼女の言う『アイツ』が死んだ日。

あの日、あの時、全ての歯車が噛み合ってしまった。
御坂美琴が第三位などという枠に収まりきらずに飛躍的進化を遂げる可能性の、最後のピースがかちりとはまった瞬間だった。

上条当麻の死亡。
一方通行の敗北。
心理掌握の助力。

いくつもの条件がまるで計ったかのようにあの瞬間に交差し形を成した。

(つまりこれも織り込み済みってことかよ、アレイスター……!)



学園都市の序列などというものが単に科学的発展への価値によってのみ付与されるはずがない。
なぜ一方通行が第一位なのか。なぜ自分が第二位なのか。
強度、実力、希少性、利用価値。
それらは全て後付けの対外的な謳い文句に過ぎない。

御坂美琴――第三位。

彼女もまたアレイスター=クロウリーの計画の一端を担っている。

一方通行が、そして垣根帝督がそうであったように。

(念には念を入れて、第三候補――サードプラン、ってかぁ?
 一方通行も、俺も、誰も彼も信用できねぇって感じだな。どこまで臆病なんだよオマエはよぉ!)

順当に行けば第四の候補として麦野沈利の名が挙がるのだろう。
超能力者とは全てアレイスターの計画の中核に据えられた能力者の総称に過ぎない。

そういう区分で言えば上条当麻もまた超能力者と呼んでも差し支えないのだろうが――。

飛翔する垣根の後を特殊合金の弾丸が追いかけてくる。
銃弾の速度は音速など軽く凌駕する垣根をもなお上回る。
                            、 、 、 、 、
その一つ一つの狙いは一部を除いて正確に狙いを外し、弾丸は面となって垣根の退路を断つ。
回避を許さず迎撃を強要させる広範囲弾幕。

――逡巡は一瞬。

「チッ!」

舌打ちし、進行を反転。翼を盾に飛来する弾丸を迎撃する。
前面を覆うように六枚の翼を広げ弾丸の雨の中を力技で押し通る。



一発一発が防災用隔壁すらも薄紙のように破るほどの破壊力を伴った弾丸を前にしても垣根の翼は揺るぎもしなかった。

破壊を振り撒くだけの雨に垣根は真正面から対抗する。
この世ならぬ物質にはこの世の条理は通用しない。
まるで空間そのものが歪んだような奇妙な軌道を描いて弾丸は翼に沿って垣根の後方へと流されてしまう。

「たまんねぇなオイ、超電磁砲! 俺に勝負を挑まれたときのアイツもこんな気分だったのかぁ!?」

哄笑と共に翼を打ち広げ、生まれた衝撃波が弾丸の雨を押し退け道を作る。

「出し惜しみはなしだ。アイツに使ったとっておき――食らってみろよ!」

大きくその身を伸ばした三対の翼。
雲間から差し込む月の光を浴び純白の輝きを返す。

天から降り注ぐ光は、この世ならざる翼の間を抜け静かな殺意を得る。
そして本来ありえない『攻撃力』を伴って光の速さで地へと駆け抜ける。

反応など不可能。
回避など論外。
相手はただ、なす術もなく平伏するしかない最高速度の攻撃。

しかしそれが放たれる刹那、

「――――――」

御坂が自分を見る眼が――まるで哀れむように見えた気がして――。

「……くたばれ、超電磁砲!」

声よりも早く、何よりも速く、光速の一撃が地上へと降り注ぐ。



「アイツ、本当に私より序列上なの?」

ぽつりと、御坂は小さく呟いた。

光撃は放たれた。
即死する一撃だったはずだ。

元は一方通行戦用に準備しておいた切り札だ。
ベクトル操作という前提条件を覆す能力さえなければ問答無用で切り捨てるような、そんな攻撃だったはずだ。

しかし御坂は何事もなかったかのように夜風に黒衣をはためかせ、垣根を見ている。

「おいおい――冗談じゃねぇぞ」

呟きに反応したように駆動鎧たちがその陣形を変える。
壁を作るような面から、真っ直ぐに伸びるように。

地上の御坂と天上の垣根を結ぶ架け橋のように、両者の間を線で繋ぐ。

「っ――!!」

悪寒が背筋を走り、翼を払う。
放たれた羽毛を模した光の欠片が駆動鎧を狙い宙を疾走した。

だが――描かれた線は蛇のようにぐねりと波うつ。

(避け――!?)

「いつまでも見下してんじゃないわよ」

声を置き去りに、雷光を纏った御坂が夜空を駆けた。



駆動鎧が作った天への階段を踏み御坂が疾走する。

それらは垣根へ至るレールだ。
超電磁砲の名のままに御坂自身が弾丸となって機械が描く弧に沿って垣根へと駆け抜ける。
速度はまさしく疾風迅雷。届くはずのない距離を埋めるには一瞬も必要ない。

背後へと流された腕が身体を追い抜き、振り切られる。
その動きに従い黒の嵐が垣根へと打ち払われた。

砂鉄の剣。あるいは鞭。
一粒一粒が帯電し超振動を纏う濁流が垣根へと顎を向けた。

「ち、ぃ――!」

ギィィィン――! と耳障りな音を立て黒剣と白翼が交差する。

砕かれたのは御坂の剣だった。
不定形ゆえに破壊されるはずのない砂鉄の剣が垣根の翼に払われ霧散する。

「く――らぁああ――ッ!」

返す刀で払われた翼を、しかし御坂は不自然な軌道を描き回避した。
真横、いつの間にか再度包囲した駆動鎧に向かって跳ねるように急転回し翼の一撃を避ける。

「その動き、テメェの方が追いつかねぇだろぉが!」

速度に相当し御坂の身体には強力な負荷が掛かる。
高速機動の戦闘機乗りに付き纏う慣性の檻。それが御坂にも同じくあるはずだ。
内臓、そして脳は鍛えられない。血液の流れが阻害され一瞬の意識の混濁が生まれる。

だが――。

ばぎん、と鈍い音が生まれる。

御坂の向かった先にあった駆動鎧の一機が音を立てて砕けた。
破片を宙に撒き散らし花が開くように機械の中身を晒したそこに御坂の矮躯が滑り込み。

「――――代理演算完了、投射します」

生まれた破片の悉くが御坂の身体を避け、その身と入れ替わるように垣根に向かって撃ち放たれた。



電磁誘導に導かれた金属片群は散弾となって垣根へと降り注いだ。
一つ一つの大きさはまちまち、しかも先の超電磁砲の一撃はおろか、ガトリングレールガンの砲にも劣る速度だ。
だがそれぞれが確かな必殺の威力を持って大気を切り裂く。

至近距離、それもないと踏んでからの高速攻撃。
しかし垣根は反応した。

「っ――づ、らぁぁああああっ!!」

翼を振るい打ち払い、羽を散らし炸裂させ、残らず相殺し迎撃した。

瞬間の攻防はそれだけで十分な時間だった。

「オーケー、ナイスアシストよ」

復帰した意識は垣根を正しく捉えている。
払われた翼の軌跡。羽の軌道パターン。効果範囲。反応速度。
それらのデータは完全に処理され、垣根の防御を崩す攻撃ルーチンを構築する。

「さっきのが私の本気? こんなオモチャの銃が超電磁砲?
 冗談言わないでよね。私の超電磁砲がその程度なはずないじゃない」

彼女の手には長い帯が握られている。

それは駆動鎧の内部にあった弾丸のベルトだ。
帯電・帯磁性能、伝導率、空気抵抗、強度、硬度、靱性。
あらゆる条件において最適と計算されつくされた電磁投射砲専用の弾丸。

御坂美琴にとってそれはコインなど比べようもない至高の弾丸となる。

「――これが本家本元の『超電磁砲』よ」

放たれたのは一発。
描かれたのは直線軌道。

何一つ小細工のない、超電磁砲の最高にして全力の一撃が大気の悲鳴すら貫いて放たれた。



爆音を通り越し、轟音を砕き割り、ただ耳鳴りのような余韻を残して奔った弾丸は翼に阻害されることなく垣根へと突き刺さる。

だが額に直撃する寸前――何の前触れもなく弾丸が停止する。
そこだけ時間を切り取り写真に収めたように、ビデオの一時停止ボタンを押したような不自然さで弾丸が動きを失った。

「――――それ、卑怯」

「うるせぇ卑怯もクソもあるかテメェに言われたくねぇよ――!」

重力に引かれ弾丸が落下すると同時に打ち返しが放たれる。
六枚の翼が打たれるたびに羽毛の形をした光が舞い、不自然な軌道を描いて御坂へと放たれる。

だが二人を取り巻く駆動鎧の砲がそれらを残らず撃ち散らす。
正確無比の迎撃が一片すらも残さず羽を貫き、だが垣根の攻撃は止まらない。

(現状千日手だが……攻めを休めたら今度はこっちが防戦一方になる)

だがそれもあと十数秒で終わる。
弾丸も無限ではない。駆動鎧の形状と、御坂の手にした弾帯から見てあと二十秒ももたないだろう。
それを撃ち尽くさせたら垣根は弾幕を警戒せずに済む。

だが、御坂の弾は尽きないだろう。
この街のあらゆる金属、電磁を帯びるものが彼女の弾丸だ。
それこそゲームセンターでも崩せばコインやパチンコ球はいくらでも出てくる。

「く――――」

知らずに漏れた自らの呻きに垣根は更に焦燥する。
『電撃使い』という酷く常識的で分かりやすい能力なのに、強度の桁が違うだけで垣根に伍している。

(違う……それだけじゃねぇ……)

何か、更におかしな力を持っている。
そうでなければ――あの光速の一撃を受けて無傷でいられるはずがないのだ。



乱射と連射の応酬の間に再度放った光撃は、矢張り御坂には届かない。

そもそも反応できるような速度ではない。
前提として反応することそのものが間違っている。

この世界の最高速度を持つ一撃よりも早く反応するなどありえないのだ。

「そんなに不思議?」

激音の攻防の間に御坂が笑う。

「回折――だっけ?」

破壊の音に巻き込まれ消えそうになった声。
しかし垣根は掠れそうなその音を確かに聞いた。

――垣根は御坂に、これが何かと一言も言っていない。

「まさか――」

「一方通行には少しは通じたかもしれないけど、それ」

は、と笑い御坂は目を細める。

「私には通用しない。前提条件で間違ってるのよ。
 電撃使いにスタンガンとか効かないのは分かってるでしょ?」

ふざけるな、と垣根は思う。これはそんな単純なものではない。
相手が一方通行だろうが御坂だろうが、通じないこと自体がおかしい。

「アンタね、一方通行をどうやって倒そうとしたのか、まさか忘れたの?」



「――まさ、か」

一方通行に対して何をしたのか。
言われるまでもなく自分が一番よく分かっている。

「『未元物質』のスリットを通して光の波長を変えて、殺人光線にするんだっけ?
 そんなのできる訳ない――とも言えないらしいけど。
 それでも光は光。どうやったってそこは変わりっこないでしょ? だったら――私の領分だわ」
           、 、 、 、 、 、 、 、 、
光――それは電磁場の起こす波だ。

どれだけ変質しようともそれが光なら御坂の支配下にある。
彼女に操られるべきものが電磁の女王を傷付けるはずがないのだ。

だが垣根の攻撃はそれだけではない。

そんな事は分っている。
普通の電磁能力者なら届かない域の支配だろうと、御坂は難なくやってのけると最初から想定していた。
彼女の力を測る以前だ。それがどれだけ無謀であったとしても、垣根に刃を向けるからにはそれに相応する力があると考えなければならない。

慢心はない。垣根は御坂を正しく敵と認識していたのだから。
だから最奥の技を惜しげもなく使った。

「これ、素粒子である『未元物質』そのものの粒子ビーム――よね?」

「…………ッ!」

一言で言い当てられ垣根は言葉に窮する。
どうして見破られたのか。だとしても、からくりが見破られたところで防げる理由には――。

垣根の脳裏を過ぎる疑問は、続く御坂の一言で正確に打ち抜かれた。

「アンタの攻撃パターンなんて、全部アイツが割り出してくれたわよ」



御坂と対峙した垣根の最大の誤算は、彼自身の行動にあった。

彼は既に一方通行と対峙し、全力を賭して戦っている。

その戦闘履歴は代理演算という形でミサカネットワークに蓄積されている。
未元物質の性質は一方通行によって完全に解析されている。

「この世に存在しない物質――常識は通用しない、だっけ?」

ついに途切れた弾丸に、無数の羽毛が御坂に向かって飛来する。

だというのに、これ以上阻まれる事のないはずの白の雨がなおも撃ち抜かれる。

「――!」

一度放たれた弾丸が、御坂自身の電磁誘導によって再び弾幕を形成する。
その一発一発が駆動鎧から放たれるのと同等以上の正確さで、垣根の攻撃を残らず撃ち落とす。

「確かに既存の物理法則の範疇を超えたおかしな物質みたいだけど。
 でも、だからといってアンタの言ってることを全部鵜呑みにする馬鹿はいないわよ」

荒れ狂う弾丸は目にも留まらぬ速度だが、圧倒的な物量によって垣根の視界に砂嵐を通したようなノイズを引く。

その隙間を御坂の一撃が貫いた。

「ぐ――――!!」

弾丸は再び止められたものの、先ほどよりもはっきりと垣根との距離が詰まっている。

「あんまり攻撃に回しすぎると防御が疎かになるわよ」

二撃。三撃。途切れのない攻撃とは言い難いが、御坂の放つ超電磁砲は羽毛の雨を正確に避け垣根を狙ってくる。



「何の話だっけ。ええと……ああ、そうそう。アンタの言う常識って何かって話だったっけ」

御坂は笑顔のまま、手にした弾丸を順に放ちながら、垣根にそんな言葉を投げる。

「この世の常識って何? って哲学の問題じゃないわよ。要するに物理法則ってことでしょ。
 光をどれだけ回折したって殺人光線にならないのと一緒でさ。そりゃあガンマ線とかにまでしたら殺せるでしょうけど」

「テメェ――何言って――」

「アンタの言ってることについての揚げ足取りよ」

そもそも、と御坂は言う。

「その『未元物質』が一切の物理法則を無視するなら、何もできない。
 この世は物理法則に囚われている。物理法則で出来ている。
 だったら、それに干渉できるのは同じ法則だけよ。まったく別世界の言語じゃ話が通じないの。そうでしょう?
 アンタのそれが無視できるのはある程度までの物理法則だけ。つまりアンタもやっぱり常識に囚われたまま。
 一定ラインを越えられない。そうじゃなきゃ目にも見えない。触れない。幽霊みたいなものになっちゃうんだから」

「でも――だとしても、それがどうして――!!」

「だからさ、『未元物質』が私に干渉できるんだから――」

常識でしょ、と御坂が笑い。
唐突に弾丸の嵐が凪ぐ。

「――!?」

今度こそ阻まれることのなくなった白片の豪雨が御坂に向かって殺到する。
迫る白の壁を前に、御坂は矢張り笑顔を崩す事なく――。



「――私が『未元物質』に干渉できないはずが、ないわよね?」



羽毛の全てが御坂の眼前で動きを停止していた。





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