とある世界の残酷歌劇 > 幕前 > 13


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「――ほう?」

御坂の言葉にアレイスターは片目を僅かに歪め可笑しそうに口の端を吊り下げる。

「一体どうして君がそんな事を思うようになったのか、大方見当はつくが――」

「大方も何も、全部分かってて言ってるでしょ」

そう言い返されるが、アレイスターは何も答えずただ御坂に笑みを向けるだけだった。

「君は、君自身の言葉の意味が分かっているのかね。 私の『プラン』、上条当麻の代役となる、その意味が。
 彼は常々己の境遇を不幸だと嘆いていたが――君が彼の代役となるのであれば、それは彼の不幸を背負うのと同義だ」

「そんな事どうだっていいわ」

予め用意しておいた言葉を消費し。

「私にとって大事なのは一つだけよ」

一言付け加え、御坂は彼に向けていた視線を下げ、自分の手元、膝の上を見る。

クーラーボックス。

正確には、その外枠に遮られ視認できない内部へと。

「幸福も不幸も、いらない。どうだっていい」

膝の上に置いたそれをまるで抱き締めるように両手で抱え、御坂は目を伏せるのだ。

「私はただ、当麻と一緒にいたいだけなの」



そして短い沈黙の後。

ほんの少しの願いを込めて――けれどそれが決して叶わぬ事を理解しながらも願わずにはいられず――御坂はゆっくりと目を開く。

しかし抱えるのは相変わらず硬い感触の塊だし、巨大な試験管の中では長い銀髪が揺れながら嗤っている。
彼女だけに都合のいい夢のような世界など在り得ない。

死んだ者は生き返らないし。

世界は何一つ変わらない。

そんな事は分かっている。過去は変わらず、未来は分からない。
未来を知る術などなく、未だ来ぬために観測されない事象は曖昧模糊として、予想する事ですら下らないだろう。
だから、今に生きる者はその刹那を変えようと躍起になるのだ。

刹那主義であればよい。
過去も未来も知らないし、要らない。

今この瞬間こそが全て。



――汝の欲する所を為せ、それが汝の法とならん。



「私が望むものはそれだけ。たったそれだけなの。
 そのためになら悪魔にだって魂を売ってやるわ」

そう言ってから御坂は、ああ自分はやっぱり壊れているんだなと改めて思う。

狂気の沙汰――ではない。狂人の思考は誰にも理解されないし、何より自身が理解していない。
けれど御坂は、自ら声に出した言葉を耳にして、まともな思考ではないと思うのだ。

どのようにしてこのような考えに至ったのか、それは御坂自身が一番よく知っている。
それを鑑みても、やっぱり壊れているという感想しか持たないのだが。

だが、けれど、自分が壊乱している自覚を持っていたところで何も変わらない。
それは例えば、あるいは彼への恋心に気付いた時と同じように。
表面上の些細な変化はあるものの、本質的なところは何一つ変わらない。
            と う ま
「だから――私が『幻想殺し』になるの。
 そうすればいつだってずっと、一緒にいられるでしょう?」

そう言って御坂はにこやかに、凄惨な笑顔を浮かべるのだった。



「だがね、『超電磁砲』」

とアレイスターは言い、嗤い顔を崩さぬまま御坂を俯瞰する。

「君が『幻想殺し』になると言い張ったところで、私は別にそれがいようといまいと大して変わらないのだよ」

「でも、いないよりはいた方がいいでしょ?」

「そうとも。確かに私の『プラン』に於いてそれは欠けさせられない重要な位置にある。
 が――だからと言って替えが利かぬという訳でもない。単純に言えばね、『超電磁砲』。労力に見合わないのだ」

軌道修正もこれで中々骨の折れる仕事なのだよとアレイスターは嘯く。

「しかし、君には幾つか借りがある。一方通行、『妹達』、そして言うまでもなく件の『幻想殺し』も。
 君の存在無くしてはここまで『プラン』を進める事もできなかっただろう。感謝するよ、『超電磁砲』。
 だから――いようといまいと大して変わらないし、君はどうあろうと『超電磁砲』でしかないのだから――」

そこでアレイスターは一度言葉を切り、矢張り嗤うのだ。

「ここで君の望みを聞き入れたとしても大して変わらない。」

御坂を逆しまに観望しながら。

見下ろすように――見下すように。

「ただ――それだけでは些か面白くない」

「そこが判断基準な訳?」

「無論だとも。面白くない物語など塵芥も同然だ。唾棄すべき存在でしかない。
 私の描いた筋書きは果たして面白いのかと問われれば沈黙せざるを得ないのだがね。
 だから私は君に――大して意味のない問いを投げよう。面白くもない、下らない問いを」



例えば過去も、そして未来も確定しているのだとしたら。
現在の選択など大して意味がない。

犯人もトリックも割れている推理小説など読んだところで面白くもない。
予定調和、筋書きに沿ったままの物語など下らない。

だから現在、この場の彼の問いは、彼なりの諧謔だ。

「舞台の奈落、学園都市の暗部に身を墜とした者は皆何かしら奪われている。
 それは自由だったり尊厳だったり金銭だったり人生だったりと様々だ。
 が、君は奪われていない。何一つ失ってなどいない。そうでないと言うのであれば君はどうして笑っていられるのだ」

それもそうね、と御坂は妙に納得してしまった。
彼女は失ってもいなければ奪われてもいない。

たった一つを残して全てを失ったのも全てを奪われたのも、彼だ。

「だから『超電磁砲』、御坂美琴」

「私に通行料を払え……って事?」

然り、とアレイスターは頷く。

「そう。言うなれば六文銭、彼岸と此岸を繋ぐ渡しの船賃だ。
 まさか代償もなしに只で望みが叶うはずもないだろう。
 先程君も言ったが、例え相手が悪魔であろうと対価を必要とするという点は同じだ」

「私に魂を寄越せって? でもそれは――」

「無理な話、だ。君の魂はもう、彼に捧げてしまったのだから。
 別に何でも構わないとも。私は君に対して何かを望んでいる訳でもない。
 これは他ならぬ君への儀礼に過ぎない。相応の対価を支払わねば君自身が納得できないだろう」



「別にそういう事もないと思うけど」

「そういう事にしておきたまえ」

「…………」

そして暫くの黙考の後。

「そうね。でも今の私には、アンタにあげられるものなんてほとんど残ってないわ」

御坂は立ち上がり、少し躊躇って椅子の上にクーラーボックスを置くと。

「あるのは精々この体くらい」

「……ほう」

言って、羽織った黒の学ランを脱ぎ、クーラーボックスに覆い被せる。
そのままブレザーのボタンを外し、脱ぎ、白のブラウスも同様に。
それらを纏めて学ランの上に無造作に置いて。

上半身だけ下着姿となった御坂は、じゃり、と足音を立てアレイスターを見上げる。

「相応の対価になるかは知らないけど」
――ぱちん、と空気が爆ぜる。

「それが君の答えかね」

小さな白い光が前髪の辺りで閃き、そして何かが蠢いた。
履いた靴の中から黒い何かがぞわりと這い出してくる。

砂鉄だ。

ざあああっ――と風に木の葉が波立てるような音を立て舞い上がった黒の奔流が渦を巻く。

「相当の対価にならなるわよね、きっと」

声と同時に怒涛の刃となって一直線に目標へと喰らい付いた。



そして――――びぃぃぃんっ――――という鈍い音。



何かを無理矢理引き裂いたような音と共に黒色に朱が混ざる。

血飛沫と共に御坂の左腕が宙を舞った。



痛みは、ない。
感覚というものは突き詰めてしまえば神経を伝わる電気信号の生み出すものだ。
己の生体電気を支配する事など御坂にとっては赤子の手を捻るよりも容易い。

ただ痛みがないだけで触覚は十全に働いている。
だから肩より少し先からの感覚が消失した事に奇妙な違和感を持たずにはいられない。
初めて感じる酩酊にも似た幻覚。
ぴゅーっ、ぴゅーっ、と噴き出す鮮血の先に存在していないはずなのに見えない手を動かせる気さえする。

「……これでどうかしら」

床に落ちた片腕には一瞥もせず御坂はアレイスターを見上げ笑った。

「腕一本、等価交換よ。アンタは別にいらないんだろうけどさ」

くつくつと、御坂の答えにアレイスターは愉快そうに嗤った。

等価交換などおこがましいにも程がある。
魂と引き換えにしてもいいと言うのであれば腕一本の対価など端数に過ぎない。

何をしても魂分には足りない。

それは御坂自身も分かっているだろう。

けれど彼女は――幸福も不幸もどうだっていいと口にした。
過去の幸福も。未来の不幸も。現在のためになら些細な事でしかない。

幸福も不幸も大して変わらない。

彼女にとってそれらは無意味無価値なものであり。
同様に――魂であろうが腕であろうが髪の毛一本であろうが大して変わらない事を意味する。

だから形式ばかりの等価。

右腕と対を成すとすれば左腕。

「――構わないとも」

それはアレイスターにとっても同じ事。
このやり取りに意味などないし、形式ばかりの儀式に過ぎない。



いつの間にか床に落ちた腕は蜃気楼のように消え去っていた。
替わりに、広がり続ける血溜まりの上には、椅子と対を成すよくある量産品の学校用の机がいつの間にか現れていた。

その上には人差し指ほどの大きさのガラスの小瓶が一つ。

「飲みたまえ」

茫と響く声に御坂は何の躊躇いもなく瓶を摘み上げる。

「疑問や不安はないのかね。私が君を謀っているという可能性を考えないのかね」

「別に」

顔を向けぬまま、御坂は瓶の中に揺れる液体を覗き込んだり、軽く振ってみたりしながら答える。
それからガラスの栓を抜こうとして、左手が無い事を思い出し、行儀が悪いと思いつつも口で咥えて引き抜いた。

「アンタにとっちゃ私が生きていようが死んでいようが、私を騙そうが騙すまいが関係ないんでしょ」

栓と共に吐き捨て、瓶の口を顔に近付け軽く嗅いでみる。
特に意味はない。あえて言うなら好奇心といったところだろうか。

「わざわざ電話を寄越したり下らない話をしたり、本当に私がどうでもいいならアンタはそんな事しない。
 意味のない事にわざわざ労力を割かないでしょ。他の目的があるならもっとスマートに済ませる方法が幾らでもあるだろうし」

言っている間にもどうにも寒気を感じる。
どこか熱を帯びているようにも思える傷口からは絶え間なく血が噴出している。
痛みは無いが動脈からの出血は体温と共に循環する血液を放出している。このままではいずれ失血死する。

だが御坂はそれに一切頓着する様子もなく、借り物のスカートなのに端に血が付いてしまったななどと頭の隅で呟く。

「どうせ、何がどうなったって大して変わらないくせに」

言って、御坂は瓶を煽る。
中にあった液体はチェリータルトとカスタードクリームとパイナップルと炙った七面鳥とタフィーと熱いバタートーストが混ぜ合わさったような酷い味だったけれど。
一息で飲み干し、














――――――――――――――――――――









白井黒子は脇役である。

彼女が自身の矜持として抱いているのはそういう類のものだ。

白井黒子という少女を語るに於いて常に御坂美琴の名が付き纏う。
ルームメイト、敬虔な後輩、露払い――あるいは金魚の糞。
言葉は様々だが全てが御坂に従属するものだ。風紀委員などというものは肩書きであり、彼女の本質を捉えてはいない。
悪辣な野次も幾らか耳にはしている。が、何と言われようが彼女はそれをよしとしているし、同時に誰であろうと避難される謂れはない。

黒子、とその名の示すように。
舞台の花を引き立たせるため、影に徹するのが己の務めだと理解していた。

けれど――。

「これはこれで……どうして中々、辛いものがありますのね……」

夜の公園に独りベンチに腰掛け、白井は瞑したまま小さく呟いた。

少女の人生の中で幾度かあった、所謂『物語』としての場面。
まるで映画の一シーンのような活劇。ジャンルにすれば学園能力バトルもの。少年漫画によくあるパターンだ。
生憎白井自身そういう手のものを好む訳ではないが、他ならぬ御坂がよく読み耽っているので話の種にと何度か借りた事がある。

量産品の、一山幾らで投売りされている安っぽい王道主義。
そういう感想を抱く。

それらの事を低俗とは言わない。
仮にも現代に生きる女子中学生だ。骨董品を頭に乗せたお堅い連中とは訳が違う。
漫画家もそれぞれなりの美学や信念を抱いて作品を世に送り出しているのだろうし、それを笑おうとは決して思わない。

だが――どうにも安っぽく見えてしまうのだ。

それは多分、自分を作中の人物に投影してしまうからだろう。
       フィクション  リアル
白井黒子は、幻想ではなく現実に生きている。
              ファンタジー
しかし現実が中途半端に幻想だから性質が悪い。

白井は漫画のような現実に浸っている。
この街にいる限り――そして白井が白井である限り抗いようのない事実。

そして実際に、白井は幾度か『まるで漫画のような』場面に遭遇している。

だからなおの事思わずにはいられないのだ。
大概の物語は主人公の視点で語られる。
であれば、視界の外、物語からフェードアウトしていった脇役達は、一体何を思っていたのだろうと。



白井黒子は脇役である。

主役を彩るための対比的な影の存在。
スポットライトが差し込むのであれば必然として光の当たらぬ場所には影が生まれる。

白井黒子の登場する物語。
その主人公はきっと白井ではない。

白井の物語の主人公は御坂美琴だ。

いつからだろうか、そんな事を漠然と思っていたのに。
白井は今の今まで全く考えようとはしなかったのだ。

そう――御坂美琴の物語の主人公は誰なのだろう、と。

白井が彼女の背を追うように、彼女もまた誰かの背を追っていた。
それが誰かとは考えるまでもない。

「お姉様もきっと……こういう気持ちだったんですのね」

時刻は既に深夜と言ってもいい。
御坂が『窓のないビル』に消えてから数時間、日付が変わろうとしている。

数時間、白井はずっと、ベンチに独りきりで御坂を待ち続けている。

帰るかどうかも分からない相手を待ち続けている。

『空間移動』で眼前に聳えるビルに入ったのは御坂一人だ。
大抵の者なら予想が付くだろうが――『窓のないビル』に入るために空間移動能力が必要ならば、出るときもまた、必要となるだろう。
しかし御坂美琴の才は発電能力であり、空間移動能力ではない。

彼女一人では――帰ってこれない。

そして中の様子を知る事ができない以上、例えば御坂が死んでいたとしても白井はその事実を知る事なく、いつまでも待ち続けるだろう。
まるで忠犬のよう。ともあれば死ぬまでこの場を動かず御坂の帰りを待ち続ける。
もしそうなれば公園に銅像が建てられてしまうかもしれない、などと益体もない事を考えながら白井はただひたすらに待ち続ける。

彼女の背は遠く遥か、きっともう何をしても追い付けない。

だから白井には待ち続けるしか術がない。



待つ、という行為は存外に辛い。
来ないかもしれない相手であればなおさらだ。

そして帰らぬ人を待ち続ける事ほど辛い事はないと思う。

けれど、どんなに辛くとも白井は御坂を待ち続けるしかできない。

白井は御坂の影であり、従属する者だ。
自分には彼女の邪魔をする事などできない。
できるのであればとっくにそうしている。できなかったからこそ今この場にいるのだ。

白井はゆっくりと目を開け、そして空を見上げる。
夜空に星は見えず、けれどどうしてだろう、雪でも降ってきそうだった。
まだそんな季節には早いのに何故そんな事を思ったのか、自分でも不思議だった。

夜風が冷たい。
手指は悴んでしまって感覚が無い。
茫と頭を霞める眠気に似たものは、睡眠不足からか、それとも。

ああ――凍えてしまいそう。

「お姉様――」

早く、一刻も早く戻ってほしいと白井は祈らずにはいられなかった。

だから。

「――なあに、黒子?」

名を呼ばれた時には心底驚いて、思わず飛び上がりそうになった。

予期せぬ言葉に驚いた訳ではない。
思った通りに叶った事に驚いた訳でもない。

その声にどうしてだろう――夜風など比較にならぬほどに寒気を感じて――。

「っ――――!」

「どうしたの。そんな怖い顔しちゃって」

御坂は白井のよく知る彼女のように柔らかく微笑む。
けれどそれはどこか酷く無感情なものに見えた。
コピーアンドペーストをしたように、何故だか薄く思えるのだ。



「お姉……様……」

「うん。ごめんね黒子、遅くなって」

意思に反して上ずる声に、御坂は優しい響きの声で応える。
羽織った学ランのポケットに両手を突っ込み、白井を見て目を細めた。

「今何時?」

「あ、え――と」

慌てて携帯電話の画面を見て時刻を確認し、そこでようやく日付が変わっていた事を知った。

「〇時過ぎ――です。六分」

「ああ……どうりで」

そう言って御坂は両手をポケットに入れたまま、白井に背を向け数歩歩いた後、肩越しに振り返って笑った。

「寒かったでしょ。何か温かいものでも飲みましょ。奢るから」

そんな彼女の様子を見て白井は改めて思うのだ。

遠い――と。

手を伸ばせば届きそうな距離にいるのに、追い付ける気がしない。
たった数メートルの空隙の先が無限の彼方に思える。

御坂はそんな白井の心境など知る由もなく、一人ですたすたと歩いて行ってしまう。
はっとなった白井がようやく彼女の背を追い掛けたのは、その姿が公園から出掛かったときだった。



「んー。どれにしよっかなー」

ポケットから取り出した財布から片手で器用に小銭を取り出し、公園の出口すぐそばにあった自販機に次々と投入する。
それから迷う事すら楽しむような様子で御坂は順繰りに商品を指差し。

「黒子はどれがいい?」

「……では、紅茶を」

がこん、がこんと大きな音が二つ続けて響く。
結局御坂も同じものにしたらしく、少々熱過ぎる缶を白井に手渡した後、それと同じものを続け様に取り出し口から引き抜いた。

そして御坂は片手で器用にプルタブを開ける。

「……何もそこまで面倒がらずとも両手を使った方がスムーズに空けられますでしょうに」

「んー……まあそうなんだけどさ」

一口飲んで、ほう、と息を吐き御坂は目尻を下げる。

――そこで白井はようやく気付いた。

ずっと肌身離さず持っていたあのクーラーボックスが見当たらない。
御坂は手ぶらで……いや、左手をポケットに突っ込んではいるが、あの無駄に大きな箱の姿が無かった。

その事実がどういう意味を指すのか、一瞬だけ考えて――。

「でも、寒くしちゃ可哀想じゃない」

そう言って御坂は照れたようにはにかむのだ。

一瞬の思考の空白の後、握り締めた紅茶の缶は熱いほどなのに、何故だか歯が鳴りそうになのを必死で堪えた。

「あったかいね」

「そう……ですわね……」

その優しい響きに、嗚咽だけは飲み込み、震える声で応えるのが精一杯だった。

きっと彼女は今、とても綺麗な笑顔を浮かべているのだろうけれど。
視界はどうしてか滲んでいて、これもきっと寒さの所為なのだろうと愚にもつかぬ事を考えるしかなかった。






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