とある暗部の軽音少女(バンドガールズ) エピローグ


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あの日から数週間後。

とある学生寮にて。
風紀委員(ジャッジメント)の仕事を終え帰宅した和が、自室の玄関のドアを開ける。

「ただい……」

つい、言ってしまったことを和は後悔した。もう、ルームメイトの憂はいない。
唯を失い、憂が行方不明になったあの日から、和は帰宅するたびに絶望的な気分になっていた。

中に入りドアを閉めると、和は靴を脱がずに立ち尽くす。

(私は……間違っていたの、唯?)

そして、これも毎日のように自問していた。
唯を救うため、学園都市の『闇』を摘発するために風紀委員を志し、あの日も自分の思いに従って行動した。
しかし、その結果放課後ティータイムは崩壊。
梓を救うことができたとはいえ、唯は死亡し、憂は精神を失い行方不明。唯と梓の大切な放課後ティータイムの仲間たちも奪ってしまった。

(唯……あなたたちの言う通り、『闇』に逆らうなんてするべきではなかったのかしら……)

和が腕章に手をかける。
しかしその時、呼び鈴が鳴った。

「……」

和がドアの覗き窓から外を確認すると、純がいた。
ドアを開け、純を迎え入れる。

「……純、どうしたの?」

「こんにちは和さん! ……って、ちょっと」

和の顔は涙で濡れていた。

「ごめんなさい、見苦しいとこを見せちゃったわね」

「……いえ。てかそれと関係する件で話があるんですけど」

「どういうこと?」

「え~っと、突然なんですけど……
 ルームシェア、しませんか!?」

「――!!」

「和さん、最近悩みすぎですよ。やつれてるじゃないですか……。
 なんか心配になっちゃったんです。えへへ、ダメですかね?」

「……いいわよ。ありがとう、純。あなたは強いのね」

「そんなことないですって。私もあれから数日間は引きこもってましたし……
 でも、悩んでてもしょうがないって思ったんです」

「……」

「また首を突っ込んだら今度こそ私たちが死ぬかもしれないし、憂が死んじゃうかもしれないけど……
 でもここまでやったらもう引き返せないですよ。一緒に、憂を見つけ出しましょう!」

「……ええ!」

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

それから、和と純はルームシェアをし、協力して憂の捜索を開始した。
とはいっても、放課後ティータイムの捜索のときよりもさらに手がかりは少なく、捜査は難航する。

とある日。
和が仕事を終え帰宅すると、純がゴロゴロしながらノートパソコンに向かっていた。

「ただいま」

新たなルームメイトを得た和はもう絶望することはなく、笑顔が戻っていた。

「おかえりなさい~! どうでした?」

「相変わらず全然ダメね。何も手がかりは得られないわ」

「こっちも全然です。でも、表向きは進展ありましたよ! 見てください」

純がパソコンの画面を和に見せる。

「これは……!!」

「明日、梓に見せに行きましょう!」

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

とある収容施設にて。
牢屋、というほど薄暗くなく、比較的きれいで設備の整った独房の隅に、一人の少女が縮こまって座っていた。
その少女は、かつて放課後ティータイムのメンバーとして一世を風靡し、暗部組織『ユニゾン』のメンバーとして闇の世界に君臨していた、中野梓。
しかし今は見る影もなく、もともと細い体はさらにやつれ、腕には引っ掻いた痕が多数見受けられる。

(私……なにやってんだろ)

梓は収監されてからずっと、同じことを悩み続けていた。

(放課後ティータイムに憧れて、場所を探し当てて、事件に巻き込まれて。
 最初は人殺しなんて嫌だったけど、先輩達に迷惑かけないようにって、闇に堕ちることを決心した……はずだった)

(なのに、憂に見つかった瞬間、頭が真っ白になって……先輩たちを裏切って、自首しようなんて言って。
 私の覚悟なんて、その程度のものだったんだ。最後まで暗部として戦った先輩たちに比べたら、私なんて……。私のせいで……唯先輩は……!!)

(……ああもう、これはもう考えないようにしようって決めたじゃない! こんなこといつまでも考えたってしょうがない。もう先輩たちは、戻ってこない……
 だから、私は私の決めた道を行くしかないんだ。表に戻って、暗部と戦うって……でも)

(ダメ。私、死にたいって考えてる。そんなこと、考えちゃいけない。私は、生きなきゃ……死にたい……会いたいよ、唯先輩……
 早く、みなさんのところに逝きたいです……もう嫌です……!)

表の世界で生きると決心したはずであったが、長期にわたる孤独で単調な日々が梓の心を蝕んでゆく。
自責の念が積もりに積もり、何度も自殺未遂を起こしていた。

(憂……ごめんね、私のせいで、唯先輩も、憂の心も……!)

梓が腕を引っ掻き始める。すると、聞きなれた声が独房内に響く。

「梓、来たよ」

それは今の梓にとって聞きたいようで聞きたくない声。純の声だった。
梓がゆっくりと顔を上げると、面会用の窓の向こうに純と和の姿があった。

「……純、和先輩」

梓はその場を動かず、横目で二人のほうを見る。
純は、梓の腕がたった今引っ掻いた傷で真っ赤になっているのを見逃さなかった。

「梓、またやったね……?」

「……別に」

「このバカ……!」

梓のあいまいな返事に純は怒るが、和がそれを止める。

「純、今日の目的はそれじゃないわよ」

「……すいません。
 梓、ちょっと来て。見てほしいものがあるんだ」

純が紙切れをペラペラさせ、梓に見せる。梓はしぶしぶと立ち上がり、純のもとへと向かった。

「はい、コレ見て」

「これは……えっ!?」

その紙には、こう書いてあった。
“放課後ティータイム突然の解散!! そしてYui衝撃のソロデビュー!!”

「まさか……憂!?」

梓が記事を読み進めていく。
それによれば、放課後ティータイムはメンバーそれぞれが違う進路を目指すため、解散を決定。Yuiだけが、音楽の道に進むことに決めたという。
所属するレコード会社は、今まで通り琴吹グループのものであった。

「そ。憂で間違いないよ」

「憂……よかった……」

一人で闇の世界に帰っていった憂の無事が確認され、梓は安堵する。

「所属が琴吹グループってことは、憂が琴吹グループと接触しているのは間違いないわ。
 手がかりは、相変わらず全然つかめないけど……調査の方向性が分かっただけでも大きな進展ね」

「多分、私たちが放課後ティータイムをやってたころと同じように、琴吹家の援護を受けてるんだと思います。これなら、しばらくは安心ですね……」

「へ~、やっぱそんなにすごいんだ、そのグループ。ま、それはさておき」

純が身を乗り出す。

「目標ができたね、梓。憂を絶対に見つけ出して、記憶を取り戻して……私たちで、バンド組もうよ!!」

「――!!」

梓がびくっとする。学園都市の闇に対抗し、憂を見つけ出し、そして好きな「音楽」をやる。
それは梓が決心した「表の世界で生きる」ということそのもの。失われつつあった心が、輝きを取り戻し始める。

「わ、私が……人殺しで裏切り者の私が、音楽なんてやっていいのかな……」

「いいに決まってんじゃん! さっさと出所して、探しに行くよ!」

「で、でも……また、暗部の襲撃を……!」

「それが、あれからまったく暗部からの攻撃がないのよ。私たちは秘密を知ってしまったんだから、覚悟していたのだけれど。
 多分、憂が……守ってくれているんだと思うわ」

憂の最後の言葉が思い起こされる。彼女が言っていた「守る」とは、こういうことだった。

「二度と関わるななんて言われちゃったけどさ。そう簡単にあきらめられるかってわけだよね~」

「そう、だね……純。危険な目に遭っても、やりたいことをやる。それが、放課後ティータイムだもん」

「お、のってきたな~梓?」

「私も、全力でサポートするわ。あなたたちの演奏、もう一度聴かせて」

「――はいっ!!」

梓に笑顔が戻る。
目的と仲間を得た梓は、もはや自殺未遂を起こすことはなかった。

 


――――――――――――――――――――――――――――――――――

 


梓の罪は証拠不十分のため比較的軽く、後日、出所する。
施設の入口の前で、純と和が出迎えた。

「おかえりっ、梓!!」

「……ただいま、純。和先輩も、これからよろしくお願いします」

「ええ。こちらこそよろしく。はい、これYuiのデビュー曲よ」

和が梓にCDを手渡す。タイトルは『U&I』と書いてあった。

「ありがとうございます。この曲名、もしかして……憂のこと、ですか」

「そうよ。唯から憂への想いが詰まった曲。一緒に住んでいたころの記憶が残っていたのね」

「唯先輩……私たちが憂の心を取り戻したら、唯先輩は……」

「……唯は、もう亡くなったわ。唯の精神が消えてしまうとしても、憂の心を取り戻してあげましょう」

「……はい。唯先輩とは、お別れします。決めました」

「梓……つらいと思うけど、しっかりしなよ?」

「うん、ありがとう、純。私はもう大丈夫」

 


――――――――――――――――――――――――――――――――――

 


三人は、デビューしたYuiこと憂を探し、再び一緒に暮らせることを夢見て、新たな一歩を踏み出した。

「憂、唯。私はあきらめないわよ。もう二度と、あなたたちを失いたくない。必ず見つけて、『闇』を暴いてみせるわ」

「憂、新曲聴いたよ。いつの間にギター弾けるようになってんだか……私もベースうまくなったから、一緒にやろうね!」

「憂、私のことずっと探しててくれたんだね。ありがとう。今度は私たちが絶対に見つけ出して、憂の心を取り戻してみせるから!
 唯先輩、そして、放課後ティータイムの先輩方……。私、自分で選んだ道を……貫き通します。だから、どうか見守っていてください!」


おわり

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