とある暗部の軽音少女(バンドガールズ) 5 絶頂期!


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それ以降、梓は任務に毎回参加するようになる。
日々の殺戮に最初こそ拒絶反応を示していたものの、放課後ティータイムの一員になるという思いを支えに、徐々に慣れていった。

それに応じて、少しずつ全員で演奏をする機会が増えていき、ティータイムの雰囲気もなごやかになってきた。

しかし、いささかなごやか過ぎてしまったようで、

「みなさん、練習しないんですか……?」

と梓は戸惑う。

「「ほ~げぇ~」」

唯と律は特にだらだらしていて、紬も一緒にのほほんとしている。澪は少し離れた場所で音楽雑誌を読みながらくつろいでいた。

「梓ちゃんもおいでよ~、おいしいよ~」

唯が梓にケーキを差し出し、手招きする。

「は、はあ……」

腑に落ちない様子の梓だが、いざケーキを食べるとぱあっと幸せな表情を浮かべる。

(……はっ! このままじゃ私、ダメになる……!)

そのとき、律の携帯が鳴り響いた。

「んあ? 『電話の女』? 今日の仕事はもう終わったっつーのに……何だろ。はいもしもーし」

『もしもしりっちゃん? さっき郵便物を送ったから、そろそろ着くはずよ。爆発物じゃないから安心してね。じゃ』

それだけ言うと、電話は切られた。

「なんだ急に……郵便? ムギ、どうだ?」

「あ、今ちょうど郵便屋さんが来たわ。行ってくるね」

紬は表に業者が現れたのを探知能力で確認し、玄関へと向かう。
ポストには大きな封筒が入っていた。中に何か立体的なものが入っているのか、厚みがある。
爆弾でないことを確認し、それを開けると、手紙が出てきた。

『中野梓さんへ
 暗部には慣れたかしら? 気の毒だけど、せいいっぱい生きて。
 ささやかだけど、プレゼントよ。ネコミミとか似合いそうだと思ってたのよね』

 

紬が部屋に戻ると、唯と律が出迎える。

「ムギちゃん、どうだった~?」

「ふふ。『電話の女』さんから、梓ちゃんにプレゼントよ」

「え、私にですか!?」

「ええ。じゃ~ん」

紬がネコミミを取り出し、高く掲げる。

「「おお~~~!!」」

「ええっ!?」

唯と律は目を輝かせているが、梓はなぜこれがプレゼントなのか、と驚いている。

「早速つけてみてよ、梓ちゃん!」

唯にネコミミを渡され、梓はそのまましばらく硬直していたが、唯の期待に満ちた視線に負け、しぶしぶ装着した。

「「「かわいい~~!!」」」

大好評のようである。
さらに、恥ずかしがっている梓に唯が、

「ねえ、にゃあって言ってみてよ!」

と追いうちをかける。

「え、ええっ!?」

「ねぇ~お願い」

「……に、にゃあ~」

「「「きゅるりぃ~ん!」」」

梓の可愛さに一同がノックアウトされる。
本を読んでいた澪もいつのまにかこっちを見ていた。

「あだ名はあずにゃんに決定だね!!」

 


――――――――――――――――――――――――――――――――――

 


その日の夜。

第二十二学区の地下にあるこのアジトは、非常に静かであり、さらに五人全員分の個室があるため、
一人の時間を過ごすにはもってこいの場所であった。

梓は自分の部屋に戻ろうと廊下を歩きながら、考え事をしていた。

(はあ……放課後ティータイムってなんであんなに練習しないんだろう)

一世を風靡したバンドだからこそ、日々厳しい練習を積んできたのだろうと予想していた梓は、
現実とのギャップに戸惑っていた。

(唯先輩は全然用語とか知らないし、律先輩もCDで聴いてたのよりも走るし……
 それなのに、全員で演奏が始まってしまえばやっぱりすごくいい音楽になる……どうして?)

梓が澪の部屋の前を通りかかると、扉が少し開いていて、中から光がもれていた。
隙間からこっそりのぞくと、澪がヘッドホンをつけ、パソコンに向かいながら何かを書いている。作詞にいそしんでいるようだ。

(澪先輩はすごくうまくて、真面目なのに……なんとも思わないのかな)

「ふう、一息つくか……ん?」

コーヒーを入れようと立ち上がりこちらを向いた澪が梓に気づく。

「あ、すいません……お邪魔しました」

「梓……ちょっと、おいで」

澪は梓の抱えている不安をなんとなく感じ取ったようだ。

「あ、はい……失礼します」

部屋に入った梓にお茶を出し、小さいテーブルを囲んで向かい合わせに着席する。
しばらく梓は黙ったままだった。

「梓、何か悩んでる?」

「……はい」

梓はゆっくりと悩みを吐き出していく。
自分が放課後ティータイムに感じていた、技術ではない「何か」。
それに惹かれて放課後ティータイムに入ったものの、練習をあまりせずにだらけているバンドからなぜそれが生み出されるのか、
逆にわからなくなってきていた。

「私、わからなくなって……! どうしてあんなに感動したのか、わからなくなって……!」

泣き出す梓に、澪はやさしく語りかける。

「……私さ、このメンバーで演奏するのが好きなんだ」

「……え」

「私たちは、みんな不幸な過去を抱えてるし、人殺しだし……他人を欺き合い、殺し合う世界に生きている。
 そんな中でも、こうやってお互いに分かり合えて、楽しく一緒に過ごせる仲間に出会えた。
 私たちがバンドを組んで、同じサウンドの中にいること自体……奇跡だと思うんだ」

「だから、私はみんなとの時間を大切にしたい。バンドだけじゃなく、一緒に過ごす時間ぜんぶ。
 ティータイムの時間も、私たちにとっては必要なんだと思う。
 きっと、みんなもそう思ってて……だから、いい演奏になるんだと思う」

「……!!」

「梓も、もう私たちの大切な仲間だよ。一緒に、いい音楽を作ろう?」

「……はい!!」

 


――――――――――――――――――――――――――――――――――

 


放課後ティータイムの演奏の持つ魅力は、その絆の深さ。
それを理解した梓は、ゆったりとしたティータイムに戸惑うことはなくなり、

「もう、みなさん! 練習しましょうよ!」

と自分のキャラを発揮するようになってきた。これもまた、彼女たちの大切な日常である。

そして、放課後ティータイムは本格的に音楽活動を再開。
シングル第二段「GO!GO!MANIAC」「Listen!!」を同時リリースする。

デビュー以来しばらく音沙汰のなかった放課後ティータイムの待望の新作とあって、
またもや売り上げ一位と二位を独占。音楽市場は大いに盛り上がりを見せた。

そしてもうひとつ、盛り上がりの一旦となったビッグニュースは、新メンバー「Az」の加入である。

Azのギターテクニックはバンドの中でも突出していたが、バンドのサウンドから浮くことはなく、
むしろ、奔放なYuiと正確なAzの対照的なギタリストがいいコンビネーションを発揮し、よい演奏を生み出していた。

 

だが、Azのデビューは音楽業界以外にも衝撃を与える。
行方不明となった中野梓の所属する桜ヶ丘女子高では、梓=Az説がすぐさま広まった。
さらに、学園都市の闇に抵抗する組織の間には、組織を壊滅させた犯人の一人とされている中野梓=Az、
すなわち放課後ティータイム=暗部組織であるという解釈が広まった。

こうなることは予想できていた。それにもかかわらず、本人たちの強い意志により、
偽名を使わずAzという露骨に分かりやすい名前でデビューさせた。

さっそく、『電話の女』からお咎めが入る。

『てめぇら……なんてことしてくれんじゃぁぁぁ!! 私の首が飛びかけたぞゴラァァ!』

絶対秘密の組織であるはずが、その存在を知られてしまったことにより、彼女は上司から大目玉を食らったようだ。
突然の豹変ぶりに、一同は一瞬たじろぐが、すぐに紬が言い返す。

「すみません、でもうちで何とか情報は封鎖してしのいでますから……!」

反抗組織からの放課後ティータイム及びそのバックにつく琴吹グループに対するマークは厳しくなっていたが、
グループは警戒を強め、情報の流出は防いでいたため、実際の被害はいまのところない。

『そういう問題じゃねえんだよ! だいたいなあ、デビューすること自体危険だったんだよ! そのせいで一般人巻き込んだんだろうが!
 しかもあんなバレバレな名前でデビューさせやがって……
 隠れてコソコソと曲を出しとけばまだよかったものを、自ら正体をバラす暗部組織がどこにいるんだ、ああ!?』

「――私たちは!!」

澪が叫ぶ。

「私たちは、あなたたちの言いなりにはならないっ!! 私たちのやりたいことをやる!! 私たちの歌を聴いてもらいたいんだ!!」

さらに律が続く。

「そうだっ、バレたって構わない、全部返り討ちにしてやるぜ! だからあえてこうしたんだよ。
 どうせいつ死ぬかわかんないんだからな、全力で生きたいんだ」

『電話の女』は、それを聞いてしばらく黙りこむ。そして、もとの穏やかな口調で話し出す。

『……それでいいの、梓ちゃん?』

「はい。みんなで決めたことです。これが私たちの意志です」

『まったく、あんたたちときたら……わかったわよ。最期まで付き合ってあげる』

 


――――――――――――――――――――――――――――――――――

 


一方の桜ヶ丘女子高には、Azのデビューを受け、行方不明の中野梓に関する取材が多く来るようになっていた。
これでも、琴吹グループの情報操作でかなり抑えているほうである。

職員は日々対応に追われ、夜になってから本来の仕事を片付けなければいけない状況であった。

「はあ……ああは言ったものの、疲れるわね……」

音楽教師、山中さわ子もその一人。職員室にて遅くまで仕事をしていた。

「書類片付けなきゃ……ん、風紀委員(ジャッジメント)の依頼書?」

さわ子が手に取った書類は、他校の能力者を捜査のために入校させるための許可証で、風紀委員から提出されたものだった。

「なになに……中野梓の行方を調査するため、遺留品から記憶を読み取る能力者を呼んで捜査に協力してもらう?
 差出人は真鍋さんか……考えたわね。まあ、無駄だと思うけど……」

さわ子は許可証にサインをした。

 


憂、和、純の三人による放課後ティータイムの捜索は難航していた。

憂と純はネットワークを用いての捜査を続けていたが、琴吹グループが警戒を強化したことでそれはほぼ不可能になってしまう。
和は風紀委員の仕事のかたわら、かねてから行っていた『闇』についての調査を行っていたが、それも実らない。

そして今回、和の権限で捜査のために別の能力者の協力を仰ぐことに成功した。

放課後、校門の前で三人が来客を待つ。

「今回来てくれるのは、物から記憶を読み取ることができる精神感応系能力者よ。
 梓ちゃんが日ごろ使っていたもの……机とか文房具、あとは家に残されていたものを調べてもらうわ」

だが、最も記憶を読み取りやすいのは普段持ち歩いていた携帯電話やギターなどであり、それらは梓とともに行方不明になってしまった。
しかも、梓の家からはいつの間にかパソコンなどの重要なものがなくなっており、たいしたものは残っていなかった。

「机なんかで大丈夫ですかね……? 机に梓の思い入れがあるとは思えないんですけど」

「正直、それはわからないわね。だから最初、心理掌握(メンタルアウト)に頼もうと思ったのだけど、さすがに無理だったわ。
 ただ、今回その子のレベル4の友達が来てくれることになったから、実力は確かよ」

一同が話していると、一人の少女が現れた。
少女は小~中学生ぐらいに見えたが、気品にあふれ、高校生に対して物怖じすることなく堂々とした口調で話しかけてきた。

「ごめんあそばせ。あなたが真鍋さんでしょうか?」

「ええ。あなたが協力してくれる能力者の方ね。私が風紀委員の真鍋和。
 こちらは中野梓ちゃんの友人の、平沢憂、鈴木純よ」

「「よろしくおねがいします」」

ふたりが会釈をすると、少女は一瞬、憂のほうを鋭い目つきで見た。
そして、すぐにもとの表情に戻る。

「よろしくお願いしますわ。では早速参りましょう」

いかにもお嬢様といった態度に、純は露骨に嫌な顔をする。

(うわ、勝手に仕切ってるよ……感じ悪っ。
 てか、さっきからずっと憂のこと見てるし……心理掌握の友達っていうか、差し金なんじゃないかなこの子。憂の偵察に来たとか……?)

 


一同は教室に移動し、梓の机の上に文房具などのありったけの品を置く。

「これで全部よ。たいしたものは残ってないけれど……お願いするわ」

「わかりましたわ。それでは……」

少女は演算に集中し始める。

「……うっすらと、見えてきました……机に座って、放課後を今か今かと待ち望んでいる記憶が。
 この後、放課後ティータイムのことを探しにいこうという思いが非常に強いですわね」

「……でも、どこを探しても見つからない、もう手がかりがないと嘆いていらっしゃいます。
 そして、記憶が途切れる最後の日……」

一同が固唾を呑んで少女の言葉に耳を傾ける。最後の日、梓はどこに向かったのか。それが一番欲しい情報であった。

「……ごめんなさい、強い思いなら感じ取れるのだけど……どこに行こうかとか、細かい情報は読み取れませんでしたわ。
 せめて、もっと本人の思いが込められた品であれば……」

やはり、レベル4の能力者をもってしても、記憶を読み取ることはできなかった。

「そう……いえ、仕方ないわ。協力してくれてありがとう。食蜂さんにも伝えておいてくれるかしら」

「ええ。お役に立てず、申し訳ございません。それでは」

和が少女を送り、教室から出て行く。

純は、少女が見えなくなるのを確認すると、すかさず憂に小声で話しかける。

「……憂、やっちゃいなよ」

「……うん」

憂は『能力複製』を発動する。

能力を発動すると憂のAIM拡散力場は半径100メートルにまで拡大され、その範囲内にすっぽり収まった少女のAIM拡散力場を介し、自分だけの現実(パーソナル・リアリティ)を隅々まで「見る」ことが可能になる。
そして瞬時に、それを観測するための演算式を独自に構築。少女のもつ精神感応系能力をレベル5級の演算で行使し、机から情報を読み取る。

(見える……! あの日梓ちゃんは、噂話を追って第八学区の住宅街に行こうとしてたんだ!
 詳しい場所と、近道は……っと)

憂は読み取った内容を素早くメモしていく。その様子を見て純は感心する。

「お~、さっすが憂……やっぱレベル5はすごいよ。
 “第六位の前では自分だけの現実はもはや自分だけのものではない”だっけ。確かにって感じ」

憂の能力はあくまでAIM拡散力場の拡大であり、コピーすることは能力に含まれない。
他人の自分だけの現実を瞬時に理解し使いこなすという離れ業は、憂のもつ恐るべき理解力、のみこみの速さによるものであった。

自分だけの現実を本人よりも深く理解し、レベル5の演算にて行使する。それをやられた能力者は完膚なきまでにプライドを打ち砕かれてしまう。
そのため、高位の能力者は自然と憂を避けるようになり、憂自身も他人が傷つくことを恐れて能力の使用を控え、他者との深い交流をもつことを遠慮していた。
そんな中、能力を気にせず分け隔てなく接してくれる純や梓は、憂にとって大切な友達であった。

「……終わった!」

少女が半径100メートルの範囲から出る前に、憂は読み取りを終える。
他人の自分だけの現実を自らの脳にコピーしたわけではないため、相手が範囲から出てしまうと能力を使用できなくなってしまうのが『能力複製』の欠点であった。

「おつかれ、憂! どうだった?」

「うん、場所がわかったよ! 早速行こう!」

 

 

憂と純は校門にて、和と合流する。

「憂、場所はわかった? なるべくゆっくり歩いて時間は稼いだつもりだけど……」

「うん、分かったよ! ありがとう和ちゃん」

「よかった……やっぱり、レベル4でもダメだったわね。憂がいてくれて助かったわ。
 さあ、行きましょう」


一同は第七学区から近道を通って第八学区へと向かう。
道中、先ほどの少女の話題が出た。

「それにしてもなんなのさっきの子! 超ムカついたんだけど」

「すごいお嬢様、って感じだったわね。心理掌握も相当なお嬢様で、かなり大規模な派閥を作ってるらしいわ」

「うわぁ……あーやだやだ、そういうタイプ」

憂はしばらく黙ってそのやりとりを聞いていたが、突然口を開く。

「実は、その子のことなんだけど……私の記憶を読み取ろうとしてきたの」

「うそっ!?」

「なんですって!? いつの間に?」

憂の告白に、純と和は驚き、歩みを止めて憂のほうを見る。

「……最初に会った瞬間から。なんか、私が『闇』に関わっているかどうか調べたかったみたい。
 別に調べられても大丈夫だから、そのまま放っておいたけど。あ、でもお姉ちゃんの記憶は隠したよ」

放課後ティータイム、行方不明の梓、その友人の学園都市第六位。
そこに『闇』の存在を疑った心理掌握は、第六位が『闇』に関わっているのではと考え、あえて依頼を受けて取り巻きの少女を向かわせたようである。
憂本人は関係ないとはいえ、『闇』に巻き込まれていると思われる姉・唯の情報を知られたくなかった憂は、
瞬時に少女の能力をコピーし、気づかれない範囲で妨害を行っていた。

「うっひゃー、憂のことジロジロ見てたのはそういうことだったのか……」

「ごめんなさい、憂。不用意にレベル5の関係者を招くべきではなかったわね……」

「ううん、大丈夫だよ。おかげで、場所も分かったし。行こう!」

手がかりが得られたことで、憂はいつになく嬉しそうであった。
一同は駆け足で先を急ぐ。

 

 

第八学区の高級住宅街に着いた一同は、目的の場所を探し始める。

「え~と、ここを曲がって……このあたりのどれかの家だよ」

あたりは閑静な住宅街。しかし、一ヶ所だけ不自然な空き地があった。

「なんでここだけ家がないのかしら……」

その空き地こそ、かつて放課後ティータイムのアジトがあった場所。
今は完全な更地になっており、何も残されていなかった。

不信に思った和は、周辺の家に聞き込みを行う。
ほとんどの家は留守であったが、何軒目かで主婦と思われる女性が応じてくれた。

「けっこう前に、あそこにあった家で爆発事故があったのよ。周りの家の窓ガラスが割れて大変だったわ。
 その家は事故後すぐに取り壊されて、今は何もなくなったわ」

「誰か目撃者はいなかったんですか?」

「このへんの家に住んでるのはみんな教師で、事故当時は仕事で誰もいなかったのよ。
 私は子供がいたからすぐに裏から避難したし、目撃情報はないわ、ごめんなさい。
 ただ、一回目の爆発のあとに、ダダダダっていう音が聴こえて……その後二回目の爆発が起こって、ガラスが割れたのよね。
 あの音はなんだったのかしら……」

(……銃声?)

 


得られた情報を総合すると、ここであった事故は単なる爆発事故ではなさそうだ。
おそらく、銃を使った戦闘が繰り広げられ、それに梓が巻き込まれた可能性が高い。
その後、証拠隠滅のために家を跡形もなく消し去ったのだろう。

なによりも、和自身、風紀委員でありながらこの事故の存在を知らなかった。何らかの情報操作が加えられたのは間違いない。

しかし、そこまで分かったといってもここには何も情報は残されていなかった。
わかったのは、唯や梓が危険なことに巻き込まれているという事実だけ。捜査は再び振り出しに戻る。

三人の間に、重い空気が流れる。

「うう……お姉ちゃん、梓ちゃん……」

憂は泣き出してしまった。失意のまま、三人は帰宅する。
帰り際、和が純に耳打ちする。

「純ちゃん……ちょっと話があるから、明日の放課後残ってくれる?」

 


――――――――――――――――――――――――――――――――――

 


翌日の放課後。憂が帰宅したのを確認すると、誰もいない教室で和と純が落ち合う。

「話って何ですか、和先輩?」

「憂の能力のことよ」

「憂の……『能力複製』、ですか?」

和は小さいころの憂について説明を始める。
憂は早くから能力を習得していたが、本人も周りもそれに気づいていなかったという。

「あの子は結構小さいころから、無意識のうちに唯の自分だけの現実をコピーしていたらしいの。
 でも、憂は唯の能力をコピーしても使うことはできなかった」

「憂でもコピーできないなんて……そんな能力があるんですか?」

「ええ、唯の能力は研究者でも解明できないほど複雑で……それでおそらく事件に巻き込まれたんでしょうけど。
 とにかく、唯の能力を憂は使えなかったから、憂はずっと無能力者だと思われていたのよ」

「それでも憂は能力なんかに興味はなかった。唯の自分だけの現実をコピーし続けて、唯の存在を間近で感じているだけで幸せだったの。
 唯が能力範囲外に出ようものなら、『お姉ちゃんはどこ』って言って泣き出すぐらいだったわ」

「そこまでお姉ちゃん大好きだったんだ……」

「そう、それがネックなのよ……あの子、あまりにも唯に依存しすぎていて……
 唯が行方不明になったとき、あの子の能力が暴走してしまったの」

「『能力複製』が暴走……いまいち想像できないんですけど」

「これは研究者が言ってたことの受け売りなんだけれど……
 憂の能力の本質は『能力吸収(AIMグラビティ)』。重力を自由に変えられる星のようなものらしいわ」

大きな質量を持つ星が周りの時空をゆがめて重力場を作るように、自分だけの現実という異世界の存在は周りの現実世界の法則をゆがめる。
このときに生じるのがAIM拡散力場だと考えれば、憂の能力が説明できる。そう研究者は語った。

「あ~、相対性理論ってやつでしたっけ? ちゃんと勉強しとけばよかったなあ……」

「ま、あくまで仮説よ。そう考えればつじつまが合う、ってだけ」

憂の『能力吸収』は、自分だけの現実による現実世界のゆがみの程度を自由に増減できる。すなわち、AIM拡散力場を広げたり縮めたりできる。
その結果、相手の自分だけの現実が自らのAIM拡散力場の影響下に入り、それを観測することができる。

本来はそれだけの能力であり、半径100メートル以内の能力者の居場所がわかる程度。
即座に演算式を組み立てて相手の能力を使用できるのは憂自身の理解力によるものである。

「それで、『能力吸収』が暴走、すなわち重力を自在に変化させられる星が暴走したら――」

「――ブラックホール、ですか?」

「そう。憂の能力が暴走すると、あたりにいる能力者の自分だけの現実を強く引き付けはじめる。
 そして、最終的にはブラックホールになって、完全に吸収してしまうのよ。
 あのときの感覚は今でも覚えているわ……まるで自分が幽体離脱して、憂に吸い込まれていくような感じだった」

「和先輩も巻き込まれたんですか!?」

「ええ。あの時は必死に憂を抱きしめて、唯は帰ってくるから大丈夫、私もいるから大丈夫、あなたは一人じゃない、って言い続けたわ。
 そうしたらなんとか落ち着きを取り戻して、暴走は止まってくれたけど……」

その事件により、憂の能力は研究者の興味を惹き、唯と同じように研究所通いになってしまう。
ただ、すんなりと解析が進んだことで非道な実験に巻き込まれることはなかった。

研究者によれば、もし和があのまま自分だけの現実を吸収された場合、無能力者になったうえ、精神に異常をきたしていたという。
そして、そのまま暴走を続ければ、憂の自分だけの現実は自重で潰れ、憂の人格も崩壊していたらしい。

「唯が危険なことに関わっている以上、最悪の事態も考えられるわ。
 もし憂がまた暴走したら……純ちゃん、憂を抱きしめて救ってあげて。 憂、あなたのことをかなり信頼してるようだから」

「……はい、まっかせてください!!」

 


――――――――――――――――――――――――――――――――――

 


苦戦する憂たちとは対照的に、放課後ティータイムは仕事も音楽も絶頂期にあった。

とある小さな研究所にて。
学園都市が行う極秘の実験に携わっていた研究者が、一人パソコンに向かっていた。

「よし……反乱分子どもはうまく動いているようだな。あとは混乱に乗じて逃げ出せば……」

この研究者は、実験の情報を反抗組織に流出させて研究所を襲撃させ、その隙に重要なデータを持ち去って逃亡し、現在隠れ家の個人研究所に潜伏中であった。
上層部は反抗組織の討伐に既に動いているようだが、研究所から避難した研究者がデータを持ち逃げしていることにはまだ気づいていないようである。

作戦の成功を確信した研究者は、データディスクをポケットにしまい、小研究所を出ようと立ち上がる。
しかしその瞬間、照明が消え、すべての電気系統がダウンした。

「なんだ、停電か!?」

「そんなわけないでしょう」

動かなくなった自動ドアを手でこじ開けながら、梓が部屋に侵入してきた。
その右腕には、小型化された砲身だけの超電磁砲(レールガン)が装備されている。

「ば、バカな! どうしてここがわかった!? まだ気づかれていないはずだったのに……!」

「ええ。まだ気づいてませんよ、上層部は」

梓の情報処理能力は時に上層部をも上回り、先に真犯人を特定してしまうことも珍しくなかった。
他のメンバーは、現在手分けして反抗組織の討伐を行っている。

「くっ……」

研究者がポケットの携帯端末に手をかけ、助けを呼ぼうとする。

「無駄です」

しかし、ボタンを押しても反応がない。研究者が確認すると、端末の電源は既に落とされていた。

「き、貴様……ならこれでどうだ! これが欲しいんだろう!?」

研究者はデータディスクを取り出すと両手で持ち、いつでも折ることができるとアピールする。

「研究所の方のデータは全て消してやった! 残るはこれだけだ! さあ、これを破壊されたくなかったら大人しくするんだ」

「メモリー解析完了です」

梓はあっさりとデータを読み取ると、自らの携帯端末にデータを複製する。

「な……化け物め! 貴様、今データを読み取ったんならわかるだろう? この実験がどれだけヤバいかを!!」

「さあ……? いちいちデータを解読して盗み見る趣味はありません。0と1の羅列をコピーしただけです」

「二万だぞ!? 二万人を殺すんだぞ!? そんなのに加担してられるかよ!! 貴様はそれでいいのか!?」

「知りません。私たちは、ただ好きなことをしているだけです。それには、これは必要なことなんです。
 こればっかりは、ゆずれません。死んでください――超電磁砲!!」

「お、鬼――」

研究者の体を超電磁砲が貫く。
もともと試作品であるため本家に比べればかなり劣るものの、レベル4程度の威力はあり、実戦には十分であった。

「……鬼でもなんでもかまいません。どうあがいたって、どっちについたって、どうせ二万ぐらいは簡単に死んじゃうんです。
 そして、私たちもいつか……。だったら『今』、楽しんだもん勝ちですよ」

研究者の亡骸に向かって、梓が冷たく宣告する。短い期間で、梓は一人前の暗殺者へと成長を遂げていた。
超電磁砲に並ぶ強力な情報処理能力を得た『ユニゾン』の快進撃はとどまることを知らず、学園都市の秘密計画は順調に進んでいく。

「ふふ……やりましたよ、先輩方。
 さ、早く帰って新曲の練習しなきゃ!」

梓は笑顔でその場を後にした。
しかし、暗部に入ってから日が浅い梓は、日々の殺戮から唯以上に膨大なストレスを受け続けている。
放課後ティータイムの描く詩の世界に浸り、冷たい暗殺者を演じることでなんとか精神を保っていたが、それは非常に脆いものであることに彼女はまだ気づいていなかった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

その日のティータイムにて。

「今日はお手柄だったねあずにゃん!!」

早速唯が梓に抱きつく。

「もう、唯先輩……」

梓もまんざらでもない様子で、他の三人が生暖かい目で見ていた。

「あずにゃん~んちゅちゅ……いやあ幸せだねぇ……」

最近は仕事も音楽も非常に充実しており、皆が幸せをかみしめていた。
幸せすぎるあまり、唯はふと不安になる。

「こんな好きなことばかりやってていいのかなあ……ダメになっちゃうかなぁ……」

どこかで聞いたようなセリフを吐く唯にすかさず澪が突っ込みを入れる。

「『つーかダメんなるわけない。』だろ? 自分で書いた歌詞を忘れるなよ……」

「おお!! そうでした……でへへ」

「ふふ……でも唯先輩、だらけすぎてたらダメになっちゃいますよ?」

「そ、それはイヤ! あずにゃん、練習しよう!!」

「はい♪」

「うふふ……梓ちゃん、唯ちゃんの扱いがうまくなってきたわね」

唯、梓がスタジオへと向かい、紬もそれに続く。
澪もスタジオに行くため席を立つと、ソファーに寝転がったまま天井をぼーっと見つめている律が目に入った。

「律、行くぞ」

「……なあ澪」

「……なに?」

「さっきの唯じゃないけどさ、最近、楽しいよな」

「ああ、そうだな。すごく充実してる」

「いつまで、続くのかな」

律もまた、幸せすぎる日々が終わる日が来ることに漠然と不安を感じていた。

「……どうしたんだ律、らしくないぞ。
 私たちはいつ死んでもおかしくないんだ、未来のことを考えたってしょうがないだろ。
 そう言ってたのは律じゃないか」

律はしばらく無表情で黙っていたが、やがて起き上がり、いつもの笑顔に戻る。

「……ま、そうだな。あたしたちは今しか生きられない。さっさと仕上げようぜ、新曲」

 

 

放課後ティータイムは、第二段シングルの熱も冷め切らないうちに、第三弾シングル『Utauyo!!MIRACLE』『No,Thank You!』を同時発売。
空前の大ヒットを記録し、音楽業界は放課後ティータイム一色となった。

 

 

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