とある暗部の軽音少女(バンドガールズ) 2 初陣!


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「……う、い……」

(……? なんだ、寝言?)

翌朝、澪はすすり泣くような声を聞いて目が覚めた。

「うい……、のど……ちゃ…」

(……唯か? うなされてるみたいだ。誰かの名前を呼んでいる? 起こしてあげるか……)

「ほら、唯、起きて」

「ん……うい?」

(うい? さっきからうい、ういって……)

なんとなく、澪は悟っていた。先ほどから唯が呼んでいる名前は、きっと唯の大切な誰かなのだろう。
そして、おそらくその人とはもう――

「唯、私だよ、澪だよ」

「……ああ、みおちゃん。おはよお~」

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

支度を終え、居間に一同が集合しくつろいでいると、タイミングよく律の携帯が鳴った。

「おっ、来た来た~。初仕事だな~!」

『もしもしりっちゃん? みんな集合してるかしら?』

「おうよ!」

律が携帯の音量を上げテーブルに置く。

『それじゃ仕事の説明をするわ。いきなりだけど、結構ヘビーな仕事よ。心して聞きなさい』

「おお、いきなり責任重大ですな、りっちゃん隊長!」

「ああ、だが我々は無敵だ、心配な~い!」

そのやりとりを紬がニコニコしながら、澪が苦笑しながら見つめる。

『……あなたたち、すっかり仲良くなったみたいね。ま、いいことだわ』

任務の説明が始まる。
今回のターゲットは、学園都市が秘密裏に進めている実験の情報を入手し、ばら撒いたとある暗部崩れの男。
及びその情報を既に入手した、学園都市の闇に抵抗する三つの組織だ。

『その男はレベル4。三つの組織にもレベル3~4の能力者が確認されているわ。
 情報の拡散を防ぐために、今日中にすべて始末すること。そいつらのアジトの場所を送るから、すぐに出発しなさい』

電話が切られる。

「どうする、律? 手分けするか?」

「ん~……高位の能力者もいるみたいだし、とりあえずまとまっていくか。
 よ~し、さっそく出発だ~!」

「「お~!!」」

唯と紬は元気に返事をし、それぞれの楽器を構えた。

「「え……?」」

その行動を律と澪は理解できず、ぽかんとしている。

「あ、言ってなかったね。わたし、ギー太を使って戦うんです! レベル4だよ、えっへん!」

「このキーボードは演算補助効果があるのよ。
 私の能力はレベル3の肉体再生(オートリバース)。他人の傷も治療できるの~」

「は、はあ……なんかすげえな、お前ら。
 よし、気を取り直してしゅっぱ~つ!」

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

まず一同は、三つの反抗組織のアジトから当たることにした。

一つ目のアジトは、アジトと呼んでいいのかわからない単なる路地裏。
そこにはスキルアウトと思われるチンピラの類が十名ほどたむろしていた。
とても統制されている組織には見えない。

「ただのチンピラじゃないか……こりゃ四人で来なくてもよかったかな~」

そう言って律はスキルアウトたちの前へと歩いて行く。
全員が律のほうをギロッと睨み、リーダー格と思われる男が律を挑発する。

「あんだ?  てめえは」

リーダー格の顔は送られてきた写真と一致した。やはり彼らが情報を入手したようである。

「あ~、あんたら最近、とってもヤバイ情報を入手したよな?」

それを聞いたリーダー格の表情が厳しくなる。

「てめぇ……なんでそれを知ってやがる」

「アニキ、なんのことっすか?」

「黙ってろ!」

リーダー格以外の下っ端はこのことを知らないようだ。
律は何も知らずにこれから殺される運命にある下っ端たちを哀れみ、ため息をつく。

「はぁ……お気の毒に。悪いけど、仕事だからあんたら全員始末するわ」

律の言葉を聞いた下っ端たちはぽかんとした表情を浮かべ、次の瞬間笑い出す。

「はっはっは!  聞きやしたかアニキ!?  このガキが俺たちを始末するってよ」

「……」

リーダー格は厳しい表情のまま黙っている。

 


一方、残りの三人は離れたところから一連のやりとりを見ていた。

「リーダー以外は下衆だな……律一人で楽勝そうだからここで見ていよう」

「りっちゃんはどんな能力なのかしら?」

「あ、気になる!  澪ちゃん解説よろしく!」

「あぁ、ちょうどいい機会だし、一人一人の能力を知っておいたほうがいいな。
 ……始まるぞ」

 


「ようお嬢ちゃん、あんま調子こいてると痛い目みんぞ?」

先頭にいたスキルアウトが律へと近づくが、律は余裕の表情を崩さない。

「はいはい、強がりはいいからさっさとかかってきなって」

「……あんだと?  へっ、じゃぁお望み通りぶちのめしてやんよぉぉぉ!!」

男が殴りかかる。しかし律は肘で軽々と男の拳を受け止めた。

「……あん?」

男があっけにとられている間に、律は男の腕を軽くポンと叩く。
それだけで、男の腕はありえない方向に折れ曲がった。

「があぁぁぁぁぁ!!」

さらに律は間髪入れずにうずくまる男を蹴り上げる。

「ぐぼぉっ!」

助走もつけずに適当に蹴っただけにもかかわらず、男の体は数メートルの高さまで跳ね上げられた。
そして、足元にあった小石を拾って空中の男にめがけて投げつける。
律の手元を離れた瞬間、石は銃弾のごとく加速し、男の脳天を貫いた。

もはや悲鳴を発することもない男の亡骸が、ドサッと音を立ててスキルアウトたちの前に落下する。

「はい、いっちょあがり~!」

リーダー格を除く下っ端たちの顔は驚愕と恐怖で引きつっていた。

 


「すご~い、何が起こってるのか全然わかんなかったよ」

「肉体強化系、かしら?」

「近いけどちょっと違うんだ。律の能力はレベル4の『衝撃増幅(アンプリファイア)』っていって、
 自分自身や、自分に触れたものの運動エネルギーを増減できるんだ。
 軽く叩いただけでも、その瞬間に相手の運動エネルギーを増幅させれば、強く叩いたのと同じことになる。
 逆に相手の攻撃が命中した瞬間にそのエネルギーを減少すれば、ダメージを受けない。銃弾をくらっても『痛い』程度らしい」

 


澪が話しているうちに、下っ端たちは混乱に陥っていた。

「ひいい! バケモノだ、逃げろおお!」

「ちょ、待て、逃げんな! あ~もう、一人目から派手にやりすぎたか……そらよっと!」

律は逃げ惑う男たちの頭上をすさまじいスピードで飛び越え、いとも簡単に回り込む。
両腕を大きく広げ、一気に前に向かって振り下ろすと、腕の動きに合わせて律の左右から突風が発生し、
散らばっていた男たちが一箇所へと集められた。

 


「あれは空気の運動エネルギーを増幅して風を起こしたんだ」

「ふむふむ、なるほど……りっちゃーん、ファイト~!」

「すごいわりっちゃん、がんばって~!」

「ちょ、おまえら……」

目の前で殺戮が行われているにもかかわらず呑気な二人に澪は驚く。

 


「さっきからうるさいぞ外野~! ちょっとは手伝えよ!」

そう言いながらも、律は次々と男たちの首を折り、着々としとめていく。
残りはあっという間にリーダー格一人になっていた。
先ほどから黙ってまったく動かないリーダー格に律が話しかける。

「さて……と。さっきからあんたは全然動じないな、リーダーさん?」

「ふん、てめえが只者でないことぐらい見ればわかる。驚くほどのことでもない。だが、この俺をそう簡単に倒せると思うなよ?」

リーダー格は両手を前へと突き出し、律に対して気功を送るようなポーズをとる。

「へえ、やっぱりあんたは能力者か。最近はスキルアウトのくせに能力者が多くて困るぜ~……って、なんだコレ」

律が体に違和感を感じ始める。

「なんか、疲れてきたような……」

「へっ、効き始めたようだな。俺の能力でてめえの筋肉に乳酸を溜めて、しかもその分解を遅らせてんだよ。
 肉体強化系のてめえには相手が悪かったな」

疲労はどんどん溜まっていき、ついに律はその場に座り込んでしまった。

「……ハァ、ハァ……めっちゃ疲れた、動けね~」

 


「え、え、りっちゃん座っちゃったよ? あの人、なんて言ったの? 能力者だよね?」

リーダー格がぼそぼそと能力を説明していたため、唯たちのいる場所からは聞き取れなかった。
しかし、音波を操る能力者の澪はかすかな声を認識し、聞き取っていた。

「筋肉に乳酸を溜めて疲れさせる能力らしい……あいつ、律を肉体強化系だと勘違いしているな。
 筋力が落ちても、運動エネルギーを直接操っているから影響はないし、大丈夫そうだ」

 


座り込んだ律にリーダー格が近づく。

「残念だったな。死ね!」

律の顔面に蹴りがクリーンヒットする。
しかし、律はまったくダメージを受けていなかった。

「……なんだと」

「……あたし、筋肉増強、してるわけじゃ、ないんだよね~」

律は力の入らない手でリーダー格の足首をつかみ、やんわりと握り締めると、足の骨が砕けた。

「ぐああああああああっ!」

「あ~マジ疲れた……能力、説明してやるのも、おっくうだわ。さっさと、死んでくれい」

そのまま足首を引きちぎる。

「がああああああああああああっ!」

足を失ったリーダー格はバランスを崩し、あおむけに転倒する。

「よっこらしょっと」

律が重い腰を上げ立ち上がり、絶叫しながら倒れているリーダー格の頭上にもぎ取った足を掲げる。
そのまま顔面に向けて急加速して投げつけると、悲鳴が止んだ。

 


「終わったな……行こう」

澪たちが駆けつける。

「りっちゃ~ん、大丈夫!?」

「ああ、全然大丈夫だけど……疲れた! もう歩けん!」

律は座り込んだまま、動こうとしない。

「ちょっと待ってね、今回復するから」

すると紬がおもむろにキーボードを弾きはじめた。
聞いたこともないような、電子音のような音。リズムと言っていいのかわからない微妙なタイミング。
和音とも不協和音とも言えないような奇妙なハーモニー。
それは美しい旋律などではなく、「記号」のような「模様」のような、一秒間に満たない不思議な音楽であった。

「あれ……治ったよ。サンキューな、ムギ」

効果は確実に現れ、律の疲労は全快する。
澪は紬のキーボードに興味を示す。

「演算補助のためのキーボードか……確かに、普通の音楽とは違う機械的な音だったな。
 なんにせよ、回復役がいてくれるのは助かるよ。これからもお願いな、ムギ」

「ええ、お安い御用よ、澪ちゃん」

唯も紬のキーボードに興味津々で、じっと見つめていた。

「う~ん、わたしのギー太と似てるかも?」

紬も唯も楽器を使って能力を使用するという事実に澪は、

「そういや唯もギターで戦うんだっけか……なんかすごい集団だな、私たち」

と苦笑いする。

「ま、おもしろくっていいんじゃん? そうだ澪、あたしらも楽器で戦うか?
 あたしはスティックで敵をタコ殴り! 澪はベースから衝撃波!」

律の冗談混じりの提案に唯が素早く賛同する。

「おお~、なんかすごくかっこいいよ、それ! 楽器戦隊みたい!」

「お、それならあたしはレッドだな、リーダーだし!」

「ええ~、わたしがギターだからレッドだよう~」

二人のやりとりを本気にした澪は顔を真っ赤にして反論する。

「わ、私は嫌だからな! 恥ずかしいし、ベースが壊されたりしたら困るし!
 だいたい、秘密組織なのに楽器戦隊とか目立ちすぎだろ!」

「お、澪、顔がレッドだぞ~」

「うるさい!!」

「まぁまぁまぁまぁまぁまぁ。ほら、早く行かないと人が来ちゃうわ」


やいのやいのと騒ぎながら、一同は第二のアジトへと向かっていった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

第二のアジトは閑散とした工場地帯の中の廃工場だった。
入口の大きな扉は開けっ放しになっており、中には数十名にも及ぶスキルアウトの集団が見える。

「おお~、たくさんいるねぇ~」

「『電話の女』からのメールによると、この学区で最大のグループの幹部の集会らしいぜ~。スキルアウトのくせに、能力者も十人ぐらいいるとか」

「それは厄介ね……あんなにたくさん、いっぺんに相手できるかしら」

「私に任せてくれ」

澪が前に出る。その表情には自信が満ち溢れていた。

「いよっ、澪ちゅわん!  こりゃ澪のためにあるような仕事だな」

「あぁ、すぐに終わらせてくるよ」

澪は工場に向けて歩き出す。
一人で向かった澪を唯と紬が心配するが、律は澪の勝利を確信しているようだ。

「ほら、あたしらは安全なところへ離れるぞ」

一同は工場から離れ、遠くから見物することにした。

 


澪が工場の入口へと到着すると、一斉に数十人の目がこちらを向く。

(うわっ……これだけたくさんの人に睨まれるとさすがにゾッとするな)

中央にはボスと思われる人物が椅子に座っていた。
ボスはゆっくりと立ち上がり、口を開く。

「何の用だ?」

「心当たりがあるんじゃないのか?」

澪は毅然とした態度を崩さず言い放つ。

「ほう……もう情報が漏れたか。お前は上層部の手先だな?」

手先、という言葉に澪は眉をひそめる。

「……そんなところだ。お前たち全員、始末させてもらう」

その言葉に、スキルアウトたちが一斉に武器を構える。
澪は左手をゆっくりと前に出し、能力を発動しようとする。

しかし、ボスはまったく動じず、さらに話しかけてきた。

「ふん……学園都市の犬め。貴様はそれで満足か?
 上層部の言いなりになり、日々汚い仕事をこなすだけの、人形のような人生に、なんの価値がある」

「なっ……!?」

思わぬ挑発に、澪はびくっと反応してしまう。
澪自身、そんなことはわかっていた。暗部とはそういうものだ。だが、抜け出せないのだ。
最近は、抜け出そうと思うことすら忘れ、なすがままに生きていた澪は、スキルアウトの言葉に大きく動揺した。

「答えられないか。哀れだな。貴様のような人間に、生きる価値などない」

(落ち着け……スキルアウトなんかの言うことに耳を傾ける必要はない。演算に集中するんだ……!)

「ふん、スキルアウト風情が、とでも思ったか?
 だが、我々には我々のやりたいことがある。たとえ力がなくても、こうして目的に向かって団結し、進んでいる。
 貴様らのような連中こそ、我々から見れば唾棄すべき存在なのだよ」

「――黙れぇぇぇぇっ!!!」

 

 

遠くの建物の屋上から見物していた律たちは、
轟音とともに工場の壁や天井が吹き飛ぶのを目の当たりにする。

「うっひゃ~。澪のやつ、派手にやったな」

「すご~い、工場が吹っ飛んだよ! あれが澪ちゃんの能力なの?」

「ああ、澪の能力は『波動増幅(ショックウェーブ)』。音波を一気に増幅して、衝撃波にするんだ。
 レベル4だけど、威力だけならレベル5級らしいぞ」

「だから、澪ちゃん一人で行ったのね」

「そ! 何十人いたって、あんだけひとかたまりになってれば澪の能力で一掃できるからな。
 ただ、威力はすごいんだけど弱点が多いんだよな~。
 範囲は狭められないからいちいちあたしは避難しなきゃいけないし、音がすごいから人が集まってきちゃうし。そんでもって――
 ……っ!!」

突如、何かに気づいた律が建物から飛び降り、全速力で工場へむけて走り出した。

「え、ちょっと、りっちゃ~ん!? 置いてかないでよ~!」

 

 


(はあ、はあ……よかった、なんとか能力が発動した……
 敵は……全員、倒したな)

澪は工場内を見渡す。あたりに生きている者はいない。
正面を見ると、ボスが座っていた椅子が遥か遠くに吹っ飛んでいるのが確認できた。
が、その直線上にはボスの遺体がない。

(……おかしい、ボスはどこへ行った?)

その瞬間、澪は自分の足元の床が不自然にうごめいていることに気づく。

(!! ……地面に潜ってるのか!)

刹那、床からボスが飛び出してきてアッパーを繰り出す。
とっさに身を翻した澪はなんとかかわすが、その拳は頬を掠めた。

「ひっ……!」

澪は慌てて距離をとり、もう一度能力を発動しようとするが、焦ってしまい、演算に集中できない。

「無駄だ、撃てまい。貴様の能力は強大なかわりに不安定で、演算には集中力が必要なのだろう?」

「な……なぜ、それを……」

弱点を見透かされた澪は動きが止まり、立ち尽くしてしまう。
ボスはじわじわと近づきながらさらに話を続ける。

「ふん、カマをかけてみたがやはりそうか。
 我々数十人に対し一人で丸腰で突っ込んでくるからには、相当のレベルの能力者だとは予想できた。
 だが貴様は私の挑発で動揺し、それを必死に抑えようとしていたように見えた。
 すなわち、その強大な能力を制御するためには、冷静になり演算に神経を集中する必要があるということだな」

「く、来るなっ……!」

澪が左手を掲げるが、その手は震えており、能力は発動できない。
ボスはひるむことなく近づいてくる。

「ふん、そのうろたえぶりでは能力は使えまい。
 思ったよりも威力が高く、私以外全滅したのは誤算だったが……
 そいつらの分まで、苦しんでもらおう。くらうがいい、上層部の犬め!」

ボスは澪に向かって走り出し、拳を掲げる。
しかし、次の瞬間――

「おりゃーーーーーっ!!!」

澪の頭上を飛び越えて、律が高速で蹴りをしかけてきた。
しかし、ボスがとっさに地面に潜ったため空振りに終わり、律は瓦礫の山に突っ込む。

「うわっ!! あっぶね……なんだよ、地面に潜る能力か?」

「律っ!!」

「ちっ……まだ犬がいたか。ふん、まあいいだろう。一人はもう使い物にならん。まずは貴様から始末してやる」

「ハッ、このあたしに勝てると思ってんのか~?」

ボスと律の戦闘が始まる。
律はボスが潜っている場所を狙って高速で蹴りを叩き込むが、ボスが地面を移動するスピードもかなり速く、うまく捕らえられない。

「どうなってんだ、こいつ……地面と同化してんのか?」

『その通りだ。私を構成する分子の連結情報を保ちつつ、地中に拡散している』

地中からボスの声が響く。

(だったら……地面ごと破壊すればいいのか? でもあたしの攻撃が当たらないし……よし)

「澪! 撃て!!」

「えっ……!?」

すっかり腰が抜けて動けなくなっていた澪は、律の言葉で我に返った。
しかし、まだ動揺していて演算に集中できない。

「落ち着け、澪! こいつはあたしが引きつけておくから!」

『無駄だ! そいつはもはや能力を使えない』

ボスは地中をすばやく移動し、あたりに散乱している銃器のなかから、壊れていないものを回収していく。
地面から器用に銃口だけを出し、律に向けて発砲を始めた。

「澪、深呼吸だ! ……いてててて! てっめえ!」

『銃弾が効かないだと? ふん、ならばこれならどうだ』

ボスはバズーカ砲を回収し始める。律にとって銃弾は痛い程度でしかないが、爆発による炎は防げない。

(このままじゃ……律が)

澪は精神を集中させようとするが、うまくいかない。

「澪! しっかりしろ! じゃないとお前の作ったポエムを今ここで音読するぞ!!」

「う、うわあああ! それはやめろおおっ!!
 ……あ」

いつものやりとりによって、澪の精神状態はいつのまにか元に戻っていた。
深呼吸し、演算に集中する。

「……バカ律! 行くぞ!」

「澪……へへっ。
 よっしゃ~! やっちまえいっ!」

『何っ――』

澪は思いっきり地面を足で踏みつける。
地中を伝わる音波が増幅され衝撃波となり、一瞬にして地面が張り裂け、粉塵となって舞い上がる。
連結情報を保てなくなったボスの体は、地面とともに粉砕した。

高くジャンプして衝撃波を避けていた律が着地し、澪のもとへ駆け寄る。

「み~おっ、お疲れ」

「……りつぅぅぅぅぅ!」

澪は緊張の糸が切れたのか、律に泣きつく。

「ったく、澪はやっぱ一人じゃ不安だな~」

律が澪を撫でていると、唯と紬がやっとのことで駆けつける。

「も~、置いてくなんてひどいよりっちゃん! わたしたちも建物から下ろしてくれれば間に合ったのに」

「いや~、悪い悪い……澪が殴られそうになってんのを見たら、頭に血がのぼっちゃってさ」

 


――――――――――――――――――――――――――――――――――

 


次のアジトへと移動する途中、澪が律にこっそりと話しかける。

「なあ、律……」

「ん?」

「私たちって、なんのために生きてるのかな……」

「……お前、あのスキルアウトになんか言われたのか?」

「……うん。
 あいつらは自分たちの意思で学園都市に喧嘩を売ってる。やりたいことをやってるんだ。
 でも私たちはただ学園都市の言いなりだ。自分の意思のない人形みたいなやつだ、って言われた……。
 私、自分がなんなのか、わかんなくなってきた。自分を嫌いになりそうだよ」

澪と律も、かつては暗部を抜け出すために上層部に反抗しようとしたことがあったが、失敗に終わった。
それが無謀なことだと知り、いつしか反抗しようなどという思考はなくなっていた。

「……ふーん。じゃあ澪、あたしたちのやりたいことって何だよ。
 やりたいことってのは何も学園都市に喧嘩売ることに限られるわけじゃないだろ?
 あたしらはもう暗部がどうこうとかは興味ない。言いなりだろうがどうでもいい、単なる生きていく手段だ。
 で、もう一度訊くぞ。あたしらがやりたいことって何だ?」

「私が、やりたいこと……『音楽』、かな」

「……だろ? だったらそれをやればいいじゃん! 意思がないだの人形だの、勝手に言わせときゃいいさ。
 あたしらだって、本能に従ってやりたいことを楽しんでるんだ。それでいいじゃん」

「そっか……そうだな! 律、ありがとう」

 


――――――――――――――――――――――――――――――――――

 


三つ目のアジトは、寂れた町の薄暗い廃ビル。
ここを拠点として活動するレベル3の能力者三人組がいるらしく、
このあたりでは有名な凄腕の集団で、様々な依頼を受けているという。

廃ビルの一階は広いホールのようになっており、正面は全面ガラス張りだったようだが、すべて割れていた。
一階の真ん中には事前情報の通り三人の男が座り込んでいた。
中央に座っている、赤い服を着た赤髪の男が立ち上がり、威勢のいい声で言い放つ。

「誰だ貴様らは! さては上層部の手の者だな!?」

その風貌を見た唯が思わず、

「おお、真っ赤だよ!」

と発言し、他のメンバーが噴き出してしまう。
よく見てみれば、他の二人も緑の服に緑の髪、黄色の服に黄色い髪である。

「き、貴様ら……バカにしやがって!」

赤い男が大げさな身振りで悔しがっていると、クールな表情の緑の男がそれをたしなめる。

「落ち着けレッド。たかが女四人。我らの敵ではないさ」

その言葉にさらに唯が反応する。

「レッド!? なんだかヒーローっぽいね!」

「ぷっははははは!! あたしらもさっき戦隊物をやろうって言ってたけど、客観的に見てみると笑えるな、コレ」

「ぷっ、くくくく……だからやめようって言っただろ、律……くく」

「うふふ……残りの二人はグリーンさんにイエローさんかしら?」

四人の笑いは止まらず、レッドは顔色まで真っ赤になってくる。

「く、くそう……! 貴様ら、聞いて驚け! 俺はレベル3の発火能力者、レッドだ!」

「ふん、我はレベル3の風力使い、グリーン」

「ククク、ワタシはレベル3の電撃使い、イエロー」

「どうだ! 俺たち三人のコンビネーションの前に敵はない!」

レベル3は学園都市の中では優秀な部類であり、見た目はどうあれレベル3の三人組とあらば普通は恐怖の対象になるだろう。
しかし、レベル4がごろごろいる集団にとっては笑いを誘うものでしかなかった。

「あ~笑いがとまんね~! こりゃたいしたことなさそうだな。
 よ~し、大砲の澪と回復役のムギは下がっててくれ。唯、あたしらでちゃちゃっと片付けちゃおうぜ」

「了解ですりっちゃん隊長! ついにギー太もデビューだね!」

まかせたぞ、と言い残し澪と紬は廃ビルの向かいの建物の下まで下がる。
律と唯がまだ笑いながらも臨戦態勢に入る。

レッドは完全に頭に血が上っているが、グリーンとイエローは余裕の表情だった。

「ふん、バカにしていられるのも今のうちだ。イエロー、あれを」

「ククク、了解。さあ、さっそくですが死んでもらいましょう。油断大敵、ってところですかね」

イエローは右手を律の方へとかかげ、電撃を放つ。
律は余裕でその電撃をかわす……はずだった。
しかし、電撃は律の頭上を越え、向かいの建物の屋上付近に直撃し、そこにあった何かが爆発した。

「……え?」

振り返った律が目にしたのは、建物の屋上にあったコンテナや金属の板などの瓦礫が、
真下にいる澪と紬に向かって降り注ごうとしている瞬間だった。

(――しまった!)

油断していた。だが、律はこのような危機は幾度となく脱してきた。
落下する瓦礫へと飛びかかり、蹴散らせばいいだけの話だ。
しかし、今までは澪一人を守ればよかったのに対し、今回は二人だということが決定的な違いだった。

いっぺんに二人を守りきれるだろうか、それでもなんとかしなくては――と律が飛び出そうとした瞬間、
なぜか澪がその場から消えていることに気づく。

それに疑問を感じている暇もなく、律は高速でジャンプし、紬の上空の瓦礫を遠くへと蹴り飛ばした。
澪がいたはずの場所へ大きなコンテナが落ち、すさまじい音が鳴り響く。

ほっとした律が落下しながら下を確認すると、なぜか紬もその場にはいなかった。
澪も紬も、本来の場所から数メートル離れた場所に、まるで最初からいたかのように立っていた。

「……どうなってんの?」

状況を理解できない律がぽかんとした表情で着地する。澪も唯もぽかんとしている。
紬は気まずそうな表情で目をそらしていた。

沈黙する四人をよそに、レッドたちがこの事態の解析を始めた。

「くそう! 惜しかったな。まさかあのデコ女があそこまでのスピードだとは……」

「ふん、よく見てなかったのか、レッド。デコ女の能力の有無にかかわらず、下の二人は脱出していた。
 どうやらあの黒髪の女は空間移動の能力者らしいな。しかも自分自身を移動できるということはレベル4だ。これは厄介だな」

「ククク、違いますよグリーン。あの黒髪は自分で移動したのではありません。
 ワタシは見ましたよ、となりの金髪が黒髪の体に手を触れたのを。金髪こそが空間移動です。
 そして、自らは走って逃げていた。ということはレベル3です」

「バカな。金髪の走るスピードは常人のものではなかった。奴は肉体強化系能力だ。
 ……いや待て、そもそもあの二人は『主砲と回復役』だとあのデコが言っていなかったか?」

「どうなってるんだ! さっぱりわからんぞ!」

さっぱりわからないのは律たちも同じだった。どう考えても、紬の能力が説明できない。
紬は肉体再生の能力者でありながら、空間移動で澪を移動させ、肉体強化系能力で高速移動したことになる。
一人の能力者が二つの能力を保持する多重能力(デュアルスキル)は、理論上不可能。しかも三つなど、到底ありえない。
そんな「常識」が彼女らを混乱させる。

だが、その「常識」を知らない唯は、あえて誰も言わなかったことを単刀直入に訊く。

「ムギちゃん、たくさん能力使えるの?」

まさか、と思う一同の予想に反して、ビクン、と紬の肩が揺れる。
そして観念したのか、ゆっくりと語りだす。

「……ごめんなさい、今まで隠していたわ。私、肉体再生以外にも、たくさんの能力を使えるの。
 ちゃんとあとで全部説明するから……この場は、私に任せてくれないかしら」

紬は今まで隠していたことへの罪悪感からか、申し訳なさそうな表情で言った。
ほかの三人は言葉が出ずに立ち尽くしていた。
それを肯定と受け取った紬はレッドたちのほうへ向かっていく。

「多重能力は不可能だと証明されたはずです。
 アナタたちの雇い主でもある学園都市の闇が、たくさんの罪もない子供たちを犠牲にして、ね。
 ふざけた冗談はやめてほしいものです、ククク」

イエローの挑発を無視し、紬は無言でキーボードを構える。

「ふん、おおかたそのキーボードがこのトリックのタネだろう。ならばそれを破壊するまでだ」

「一人で俺たちにかかってくるとはバカな奴だ! 食らえ、多重能力もどきめ!」

レッドが右手を高く掲げ、火炎弾を生み出す。
紬はひるむことなく、笑顔で言い放つ。

「ふふ。多重能力じゃなくて、多才能力(マルチスキル)よ」

レッドの炎が紬に向けて放たれると同時に、紬はキーボードを素早く弾く。
不思議な音が鳴り、突如、壁際にあった水道の蛇口及び排水溝から水が噴き出す。
その水は意思を持ったように空中を移動し、レッドの炎を直撃して消し去った。

「なにぃっ、水流操作だと!?」

「ふん……食らえ!」

グリーンが風を操り、あたりに散乱している廃材などを巻き上げる。
さらに間髪いれずにイエローが電撃を放つ。
紬はまた不思議な音を奏で、今度は念動力を発動すると廃材を空中で止め、それを集めて即席の壁を作り、電撃を防いだ。

「ククク、どうやら一筋縄ではいかないようですねえ」

「だが、防御だけでは勝てんぞ! ようし、総攻撃だ!!」

三人がそれぞれの能力を発動しようと構えた瞬間、空気中の水分を集めて発生した霧がレッドを包む。

「うおっ!?」

炎を出せないレッドをよそに、グリーンが風の反動を利用して自らを突撃させる。
しかし紬はそれを肉体強化で難なくかわすと、すぐさま地形を操作して床を隆起させ、イエローから飛んできた電撃を防ぐ。

「ふん、ちょこまかと……食らえ!」

紬の背後にまわったグリーンが真空の刃を放つ。
が、紬は隆起した床に触れ、その一部を空間移動により紬の背後に移動し、真空の刃を消滅させた。

「そこだあっ!!」

隆起した床に出来た隙間を狙い、霧から抜け出したレッドの火炎弾が飛んでくる。
紬に命中したかに見えたが、それは光学操作による残像だった。
残像はしばらくすると消え、紬の姿は見当たらない。

「くそっ、どこに隠れた!?」

「うふふ、こちらからもいきますよ?」

その言葉とともに、レッドの正面に突如紬が現れる。

「うおおっ!?」

レッドの危機に、グリーン、イエローがすぐさま紬に向けて攻撃を放つ。
しかしそれは残像であり、すぐさま消えると、かわりにその場所に空間移動によって強制移動させられたレッドが現れた。

「ぐああああああああっ!!!!」

電撃と真空の刃を同時に受けたレッドは致命傷を負い、倒れた。

「なに!? ……ふん、貴様、ただでは――」

激昂したグリーンが突風を起こそうとした瞬間、彼の眼前にアルミ缶が出現した。
量子変速により爆弾と化したアルミ缶が至近距離から炸裂し、顔面が破壊され仰向けに倒れた。

「ふざけたマネを……キエエエエエエッ!」

相次ぐ仲間の死に自暴自棄となったイエローは、最大出力の電撃を放つため演算を開始する。
その隙に紬は素早く距離を詰め、足元にあった小さな瓦礫の破片を拾い上げる。
それをイエローの脳内へと直接転移させると、白目を剥いて倒れた。


息ひとつ切らさない紬が三人のもとへと帰ってくる。
相手を容赦なく殺害する非情さ、そして手際のよさは、紬が律・澪と同じく暗部での経験が長いことを示していた。

律と澪はまだぽかんとしていた。唯だけが目をキラキラと輝かせている。

「ムギちゃん、すごいよ! かっこよかったよ!」

唯の賞賛に対し、紬は苦笑いで応える。

「あはは、え~と……」

ふと時計を見ると、ちょうど正午を回ったところであった。
ここまで順調に進んできたおかげで、残り時間は十分にある。

「……お昼、食べる?」

 


――――――――――――――――――――――――――――――――――

 


一同は『ユニゾン』の第二のアジトとなる第七学区のとある高層マンションへと到着した。
ジムや温水プール、レストラン、音楽スタジオなど、あらゆる設備が備わっている高級マンションであるが、
紬の多才能力のことで頭がいっぱいの一同はそれに感動する気分でもなく、
館内のコンビニで買った昼食を持って、寄り道することなく紬の所有する部屋へと入る。

「ええと、何から話したらいいかしら……」

先ほどからずっと申し訳なさそうにしている紬に対し律が、

「なあ、ムギ……無理に話さなくてもいいんだぜ? あたしらも暗部なんだし、秘密なら別に追求するようなことはしないって。
 ただちょっとその多才能力ってのが気になるから、ほんの上辺だけでも仕組みを教えてくれればな~……って」

と気づかうが、紬の決心は変わらない。

「ううん、いいの、話させて。多才能力のことも、私の正体も、全部」

三人はそれぞれの昼食を食べる手を止め、真剣な面持ちで紬を見る。

「……『魔術』って、知ってる?」

紬は淡々と魔術について語り出す。
十字教をはじめとする宗教や、神話に基づく魔術が存在すること。
魔術とは、術式を用いて神の世界の法則や現象を現実世界に現す技術であること。
そして現在、世界は魔術サイドと科学サイドがいがみ合い、冷戦状態にあること。

「マジかよ……にわかには信じられないな。知ってたか、澪?」

「いや……ずっと暗部にいても、魔術だなんて聞いたこともなかった」

「無理もないわ。魔術はその存在自体が禁忌で、魔術サイドも科学サイドも知っている者は一部の上層部だけのはずよ。
 それで……」

紬の表情が曇る。
そして、数秒間の間をおいて、突如立ち上がり、意を決した表情で言い放つ。

「――私は、魔術サイドのスパイなの!」

「「「……え?」」」

突然の告白に、三人はぽかんとした表情を浮かべる。
自らスパイであることを告げた紬に、三人はどう反応していいかわからなかった。

「でも、私はあなたたちに危害を加えにきたわけじゃないの! これだけは信じて!
 みんなとは、これから仲良くやっていけるかなと思ったから……隠し事したくなかったの。
 でも、私が科学の敵だって言ったら、この先やっていけなくなるんじゃないかって不安で……
 結局、話せずに迷っているうちにこんなかたちでバレちゃって、ごめんなさい」

仲良くなりたいからという理由で自らの秘密をしゃべるようなスパイはいない。
暗部とは思えない、あまりにも優しすぎる紬の性格に、一同に自然と笑みがこぼれる。
律が立ち上がり、紬のそばに寄り優しくポンポンと肩をたたく。

「はは……ムギはスパイに向いてないんじゃないか?」

「うっ……」

「あたしたちに敵意があるわけじゃないんなら、別にスパイだろうと何だろうと関係ないって。なあ唯?」

「うん、ムギちゃんはムギちゃんだよ!」

「みんな……」

「それにな、ムギ」

澪が続ける。

「私たちだって、必ずしも学園都市の味方ってわけじゃない。
 今まで散々、闇を見てきたからな……だから、ムギが学園都市の敵だからって、何とも思わないよ」

「そだな。正直魔術と科学がバトってようがどうでもいい。あたしらはあたしらのやりたいように生きるだけだ」

だろ、澪? と律が澪に視線を送り、澪もそれに微笑む。

「わたしは、ムギちゃんと、みんなとバンドできればそれでいいよ?」

「みんな……ありがとぉ~……」

「ムギちゃんよしよし……」

 


しばらくして紬が落ち着き、説明が再開する。

「それで……魔術サイドの最も大きな勢力は十字教だけど、その他の宗教や神話に基づく少数勢力もたくさんあって、
 互いに警戒、牽制し合っているわ。私の父が経営する琴吹グループは、そのうちの一つ」

琴吹グループという単語に澪が反応する。

「琴吹グループって……もしかして10GIAとかの?」

「ええ、そうよ」

「よく知ってんな、澪」

「有名じゃないか。他にも音楽関係の会社がたくさんあるぞ。レコード会社とか……
 じゃあ、ムギはその会社の社長令嬢ってことか」

「だからお金持ちだったんだね~ムギちゃん」

うふふ、と軽く微笑み、紬は説明を続ける。

琴吹グループは、北欧のとある魔術勢力と密接な関わりをもち、実質、その勢力の一員として協力体制をとっている。
そして、学園都市内にもシェアを拡大して、上層部や暗部とも関わりを持つことによって、学園都市を監視する。

その一方で、最大の魔術勢力である十字教を監視するという意味では、学園都市と目的が一致するため、
琴吹グループからも魔術サイドの情報を学園都市に提供している。
お互いに利害関係が一致しているため、紬のようなスパイが入り込んでいることは学園都市は知っていながら黙認している状態だった。

「うちの勢力は十字教に比べればかなり小さいほうだから、秘密を知られても影響力は少ない、と思われてるのかも」

「なるほどな……で、それと多才能力がどうつながんだ?」

「学園都市は、魔術を使えなくするようなフィールドを展開する技術を開発しているらしいの。
 それに対抗するために、魔術師が超能力を使えるようにしたのが、このキーボード――『合成魔術(シンセサイザー)』よ」

琴吹グループは、魔術と超能力は本質的に同じであるという独自の理論に基づき、合成魔術を完成させた。
魔術が神の住む天界から術式を用いて超常現象を引き出すように、超能力も自分だけの現実(パーソナル・リアリティ)から超常現象を引き出す。
そのための術式に相当するものが、能力開発によって脳に刻み込まれる。
能力者は、自らの体そのものが術式と化しており、能力者が魔術を使用すると、異なる世界の術式が混線して拒絶反応を起こす。

ならば、その術式を脳内ではなく外部で組み立てれば、能力開発を受けずとも他人の超能力を使え、魔術を使用しても拒絶反応が出ない。
その考えをもとに、琴吹グループは魔術の知識を用い、魔方陣を描くように能力者の脳内回路を再現することに成功した。
さらに、その魔方陣を即席で作れるようにしたのが、紬の持つキーボードである。

「このキーボードは音程や波形を細かく調節できるように作られてるんだけど、これでたくさんの音波を合成して、
 まわりの空間に意味を持つ模様を作ると、これが術式となって対応する自分だけの現実に接続できるの。
 模様を少しずつ変えていけば、理論上は虚数学区に存在するあらゆる自分だけの現実に適応できるはずよ」

「なんだかすげーな……それでホイホイと能力が変わってたのか。ん、ってことはもしかして、あたしたちの能力も使えんの?」

「ええーっ!? それじゃわたしたちの出番なし!?」

「そんなことないわ! 合成魔術はまだ開発中で、レベル3までの能力しか使えないの。
 音波の模様だけで脳内の回路を再現するのには限界があるわ。
 それでもなんとか、レベル3までのほとんどの能力は引き出せるようになったから、
 これからは攻撃に回復に補助に、いろんな能力でみんなをサポートしていくね」

「それは頼もしいな……改めてよろしくな、ムギ」

「ええ♪」

「よ~し、気を取り直して出発だ~! あと一人、ちゃちゃっと片付けるぞ~っ」

「「「お~!!」」」

 


――――――――――――――――――――――――――――――――――

 


最後のターゲットは、今回の騒動の発端となった、機密情報をばら撒いた暗部崩れの男である。
その男が潜んでいるのは、廃墟と化したとある研究所跡だった。

「情報によると、ターゲットはレベル4の念動力使いらしいぜ~。おっ、いたいた、あいつだな」

廃墟の中に一人たたずむ男の姿が見える。

「四人でかかれば楽勝だろ。よし、行くぞ~」
 
「……待って」

一歩踏み出した律の腕をつかんで止めたのは唯だった。

「……唯? どうした?」

唯は普段の呑気さからは想像できないような暗い表情を浮かべていた。

「……わたしが行くよ」

ただならぬ雰囲気の唯に圧倒された律は言葉を返せず、唯がゆっくりと男のほうへ向かっていくのをただ眺めているしかなかった。

「どうしたのかしら唯ちゃん……まるで別人だったわ」

「さあ……よくわかんねーけど、見てるしかなさそうだな……危なくなったら助けに入ろう」

 


唯の姿に気づいた男が振り返る。

「ん? ……ほう、こいつはおもしれえな。まさかお前が俺の始末に来るとは。久しぶりだなあ、平沢?」

「……なんで生きてるの」

「なんだ、感動の再会だってのに冷たいねえ。確かにあの時、俺は瀕死の重傷を負ったが、なんとか逃げ延びた。
 それからは暗部もやめて、こうして上の情報を盗んでは売って暮らしてたんだよ」

この男こそ、唯を暗部に引き込んだ張本人。あのときの「少年」であった。
彼らの暗部組織は当時、上層部に反抗すべく戦力を必要としており、唯を利用した。
しかし、その作戦はあえなく失敗。用済みとなった唯は捨てられ、闇を転々とする生活を送ることになる。

その後、彼らのグループは別の暗部組織によって壊滅させられたと唯は聞いていたが、この男は生き延びていたようだ。

「暗部を……やめたの?」

唯の人生を身勝手な理由で狂わせた人物が、ぬけぬけと表の世界で生きている。
その事実に唯の表情がゆがみ、ギターが黒いオーラに包まれ始める。

「ああ、俺は一応死んだことになってたからな。やすやすと抜けられたわけよ。
 あんなクソな世界、できるものなら一秒たりともいたくはねえ」

「その世界に……わたしを引き込んで、捨てて、しかも自分は暗部を抜けてゆうゆうと暮らしてるなんて!
 そんなの……勝手すぎるよ!!」

唯がギターを思いっきりかき鳴らし、無数の真っ黒なエネルギー弾が発射される。
しかし、男は自らの体を念動力で操り、空中浮遊して難なく避けた。

「知ったことかよ。どのみち、あのとき俺が暗部に引き込んでなければお前は死んでいたはずだ」

「おうちに帰してくれればよかったのに……わたしの能力を利用したかっただけでしょ!?」

「ハッ、あのまま返しても研究者殺しの犯人にされただろうな。満足に生かしてやったんだ、感謝しな?
 だいたい、お前こそいつまで上層部の犬をやってるんだ?
 いいか平沢、お前が俺を殺すってことは、クローンだのなんだの言ってるあのイカレた実験を擁護するってことになるんだぞ、ああん!?」

男はあたりに転がっている瓦礫を操り、唯へ向かって高速で放つ。

「効かないよ!」

唯がとっさにギターを軽く鳴らすと、唯を中心に球状のバリアーが展開される。
瓦礫はバリアーにすべて阻まれ、唯に届くことなく落下した。

「けっ、相変わらず何でもありな能力だな。だがお前の攻撃パターンはすべてお見通しなんだよ。
 なんたって、この俺が育ててやったんだからなあ!」

男はさらに瓦礫をバリアーへと叩き込む。だんだんとバリアーにはヒビが入っていき、ついには音を立てて崩壊した。
すぐさま唯がギターのネックを男のほうへと向けかき鳴らすと、六本の弦に沿って黒いレーザーが発射される。
しかし男はレーザー攻撃を読みきっており、飛び回って避けながらさらに瓦礫を唯へと投げつける。
唯は再びバリアーを出し、戦いは振り出しに戻る。

 


両者決め手のない戦闘を眺めながら、律はあることに気づく。

「さっきから平沢、平沢って、唯の苗字か? ということは唯のフルネームは平沢唯……なーんかどっかで聞いたことあるような」

「「!!」」

その言葉に澪と紬が反応する。

「ん? どうした澪、知ってるのか?」

「……いや、唯じゃないけど、似た名前なら……知ってるだろ?
 ――学園都市第六位、平沢憂」

「あ、そうそうそれ! 一文字違いか~似てるな」

「いや……まあ、そうなんだけど」

澪は唯の寝言に出てくる「うい」という人物のことを思い出していた。

(まさか……唯と第六位は)

「みんな、これを見て」

紬が携帯電話の画面を見せる。そこには、唯とそっくりな人物の顔写真。
画面の下には、「学園都市第六位 平沢憂」と表示されている。澪の予想は的中していた。

「うそっ、唯じゃん!? ん、いや、姉妹か?」

「やっぱりか……律、唯は第六位の姉妹で間違いないと思う。中学三年って書いてあるから、唯が姉か」

「まじかよ……いや待て、本人が化けてるって可能性はないか? 唯の能力ってわけわかんないし、レベル5ならありえるんじゃね?」

「ううん、うちのグループで第六位の動向はつかんでいるけど、普通に中学校に通っているわ。同一人物ってことはないと思う」

「っちゅーことは姉は暗部、妹は表でしかもレベル5……こりゃ~厄介だな、いろいろ」

「唯が寝言で言ってたんだ、『うい』って……あれは間違いなく、第六位のことだろうな。
 唯とあの男の会話からすると、唯はあの男に暗部に引き込まれて妹と生き別れになったってことか……」

 

 

唯と暗部崩れの男の戦いは長期化し、唯の能力の精度が落ちてきていた。

「へっ、そろそろ限界か。お前の能力は強力だが、技を知り尽くしている相手じゃあさすがに分が悪かったな」

「……だったら」

唯は一旦距離をとり、ギターを構えなおす。

「今、新しい技を作ればいいんだよ!」

唯がポン、ポンと優しい音を出すと、唯の顔ほどの大きさがある黒い音符が多数出現した。

「……あ? なんだそれは」

「いっけえ~!」

唯の声とともに、音符が男めがけて飛んでゆく。そのスピードは決して速くはなく、軽々と男に避けられてしまう。
しかし、音符はUターンして再び男を追跡し始めた。

「ちっ、追尾だと!?」

男は空中を逃げ惑うが、音符はしつこく追尾してくる。だが、唯から離れすぎるとコントロールを失い、
軌道を外れた衛星のようにあさっての方向へ飛んでいき、やがてスーッと消えた。

「……へっ、たいしたことはねえな。離れちまえば――」

「逃がさないよ!」

距離を置こうとした男に対し、唯はさらにレーザーを打ち込む。不意打ちを避け切れなかった男の肩をレーザーがかすめる。
さらに、唯は新しい音符をどんどん生み出し、男を追い詰めていく。

「くっ……! ならこれでどうだ!」

一気にたたみ掛けようと考えた男は、全演算を集中し、大量の瓦礫を唯めがけて投げつける。
唯はバリアーを張るが、精度が落ちてきているため男の全力の攻撃に耐えられず、一撃で破られる。

「くらいな、平沢あぁぁ!!」

バリアーが破られた隙をつき、男が拳を掲げながら突撃してきた。

「ここでもういっちょ新技!」

唯が大きく腕を振り回しながらウインドミル奏法でギターを激しく鳴らすと、竜巻が発生した。
空中にいた男はそれに巻き込まれ、吹き飛ばされる。

「な、なんだと――」

そして、吹き飛ばされた先には追尾してきた音符があった。
音符の正体は爆弾であり、男に触れると爆発し、さらに後続の音符も巻き込んで大爆発を起こした。

 


唯の能力に律が驚く。

「うわあっ! すげーなオイ……どうなってんだあの能力? ムギ、そのキーボードで唯の能力を調べたりできないのか?」

紬の合成魔術はレベル4の能力を使用できないとはいえ、
自分だけの現実に接続してどんな能力かをある程度調べることは可能だった。

「ええ。さっき唯ちゃんの自分だけの現実にアクセスできたんだけど……
 単純に、何か一つのものだけを操る能力みたい。なんであんなにいろんなことができるのかしら?」

唯の多彩な能力は、とても一つの物理法則を操るだけでは説明できそうにない。一同は首をかしげる。
さらに、紬はもう一つ気になることがあった。

(唯ちゃんが能力を発動するたびに自分だけの現実が広がって、解除すると元に戻るみたい。どういうこと……?)

 


爆発によって発生した煙が晴れ、倒れている男の姿があらわになる。
男は右手、右足を失い、もはや虫の息であった。
唯はゆっくりと男のもとへ近づいていく。

「た……すけて、くれ……」

男は命乞いを始めた。

「ひら……さわ……たすけて、くれ。いままで、やってきた、ことは……あや、まる……」

唯の顔が引きつり、ギターが再び黒いオーラに包まれ始める。

「おねがい、だ……なあ、おれが、そだてて、やっただろ……? その、おんを――」

この男によって、唯は幸せな生活から一転して暗部に堕ち、人殺しを強要させられてきた。
他の三人と違い、暗部に入った時期が遅く、比較的経験の浅い唯は、その膨大なストレスをうまく発散できず、溜め込む。
任務中のあっけらかんとした態度も、そのストレスを紛らわすための逃げ道にすぎなかった。

そして、自分の人生を狂わせたこの男の、身勝手で醜い姿に、蓄積してきた唯のストレスは限界に達し――

「――あ、あは、あははははははははははは!!!」

ついに発狂した唯の能力が暴走する。
その瞬間、唯から不可視の衝撃波のようなものが発せられた。

「「!?」」

それは物理的なものではなく、周囲の物体にまったく影響はない。
しかし、律と澪はその瞬間、強烈な違和感を覚えた。

「澪、感じたか、今の!?」

「あ、ああ……なんか、自分の精神が吹き飛ばされそうになるような感覚が……
 いや、今も感じる。唯から、何かが暴風のように吹き出ている?」

「あは、あははは!!」

暴走する唯の周囲10メートル程には黒いオーラがうずまき、無秩序な爆発が連続して起こる。
近くにいた男の体は不可視の斬撃により切り刻まれ、内部から爆裂し、もはや肉塊と化していた。

一方、紬は自らの体には何も感じていなかったが、先ほどから接続していた唯の自分だけの現実の変化を感じ取る。

「唯ちゃんの自分だけの現実がどんどん膨張してる……むしろ、蒸発し始めてる!? このままじゃ、危ないわ!!」

自分だけの現実がなくなれば、無能力者になってしまう。
それどころか、一度脳に刻み込まれた超能力が無理に失われれば、精神に異常をきたす可能性もある。
唯の暴走を止めるため、律と澪が唯のもとへ駆け寄ろうとするが――

「……なんだコレ!? 頭がぼーっとする……能力がうまく使えねー!!」

「近づけば近づくほど、自分だけの現実が不安定になるな……あんまり近づくと、私たちも……くそっ!」

唯から発せられる何らかの力により、能力者の自分だけの現実が反発を受ける。
近づきすぎると自分だけの現実を吹き飛ばされてしまう――そんな感覚を、二人は感じ取っていた。

「私にまかせて!!」

能力者ではない紬は、唯から暴風のように吹き荒れる何かの影響を受けない。
しかし、唯の周囲の黒いオーラの勢いは止まらず、とても近寄れる状況ではなかった。

「唯ちゃん! もうやめて!!」

紬はギリギリの位置まで近づき、唯に向かって叫ぶ。

「あはははは!! なんで~ムギちゃん? この人、ひどい人なんだよ!? これぐらいしておかないと――」

爆発により巻き上げられた粉塵が紬に襲いかかるが、ひるまずに叫び続ける。

「その人のことはもういいの! 唯ちゃん、そんなことしてるとあなたの精神が壊れちゃうわ!!
 お願い、やめて! 私たちは、唯ちゃんを失いたくないの!!」

紬の言葉に、唯の周りの黒いオーラが収まり始める。

「唯ちゃん。つらいんだったら、私たちを頼ってくれていいのよ?」

「……」

唯の表情から狂気が消え、それに伴って黒いオーラも霧散する。唯の暴走は完全に収まった。
自分だけの現実に影響を受けなくなった律と澪も駆けつける。

「そうだぞ、唯! あたしたちは、お前と違って最初から暗部にいたから、
 気持ちは半分ぐらいしかわかってやれないかもしれないけど……それでも、力にはなれると思う」

「言える範囲内でいいから、唯の話、聞かせてくれないか? ……話せば、少しは楽になるんじゃないかな」

「……うん、ありがとう、みんな」

 


――――――――――――――――――――――――――――――――――

 


アジトへと戻り、任務完了の報告を済ませた一同は、リビングにて唯の話を聞いていた。

唯は置き去りであったものの、妹や親友とともに比較的幸せな学校生活を送っていたこと。
ある日、能力が発現し、それが解析不能だったために研究所に通いつめていたこと。
そして、研究者に拉致され、人体実験をされそうになったときに能力が覚醒し、研究所を破壊して逃げ出したこと。
疲れ果てて動けなくなっていたところを、あの「男」に保護され、暗部入りしたこと。

唯は全てを話した。また、その話しぶりから、どうやら妹がレベル5になっていることは知らないようである。

「唯……ひとついい?」

澪には、訊いていいのか悪いのかわからないが、どうしても確認しておきたいことがあった。
唯がうなずくのを確認すると、一呼吸おいて話し始める。

「妹さんに……会いたい? 気に障ったらごめん」

唯は特に顔をしかめる様子もなく、優しく微笑んで答える。

「大丈夫だよ、澪ちゃん。会いたくないっていったら嘘になるけど、そんなことしたら憂も不幸にしちゃうもん。
 もう絶対に会わないって、決めたから」

表の世界に生きる憂と闇に生きる唯が接触すれば、当然憂にも闇の影響が及ぶ。
それを考慮せずに唯が憂と会いたいと思っているのではないかと澪は恐れていたが、それは杞憂だったようだ。

「それに、みんなに会えたから。もうさみしくないよ!」

唯にいつもの笑顔が戻る。それにつられて、皆も自然と顔が緩む。

ここで、律がひとつの提案をした。

「なあ澪。この際だから……」

「……ああ、そうだな。私たちのことも話そう」

「へへっ。まあ唯やムギに比べたら大して劇的じゃないけどな~。
 あたしたちは置き去りどころか、そもそも学園都市内で生まれて、物心つく前から実験台だったんだ。
 で、能力が発現したらさっさと脱走して、一人で乞食みたいな生活してたんだ。
 実験で痛い思いするよりマシだったからな」

「私は律とは別の研究所にいたんだけど、能力が発現した瞬間に暴走して、衝撃波で研究所を吹き飛ばしちゃったんだ。
 それで、瓦礫の中で一人で泣いていたところを律に助けられて……」

「そ! 澪を拾ってからは、二人でなんとか生きてきたんだ。
 んで、よく覚えてないけどいつのまにか暗部に入ってたな~。たぶんエサにでも釣られたんだろ。
 あのころはガキだったし、良いも悪いもわかんなかったしな」

「幸い、私も律も最初からレベル4だったから、暗部でも比較的重宝されたし、今まで五体満足で生きてこれた。
 もし、あのとき律に助けられてなかったらって考えると……
 律、その、あ、ありが……」

「お、澪ちゅわんデレましたな~?」

「……うるさいっ!」

「あだっ!!」

「あらあら、うふふ……澪ちゃんに叩かれるときは能力使わないのね、りっちゃん」

「えっ!? ああ、まあ、な……いちいち使うのめんどくさいし!? あははは~……」

 


しばらくして、話題は唯の能力のことにも及ぶ。

「唯ちゃん。暗部に入ってから、唯ちゃんの能力については何かわからなかったの?」

唯の自分だけの現実の不思議な挙動を体感した紬は、気になっていたことを唯にぶつける。

「ううん、あれからもいろいろ調べられたけど結局わかんなかったんだ~。
 わたし、ギー太がないと能力使えないし、本当は無能力者なのかも?」

それを聞いた三人は違和感を覚える。唯の能力が暴走したときのすさまじいオーラは、とうてい無能力者に出せるものではない。
そもそも昔はギター以外の楽器でも音符が出ていたはずだ。

(ギターがないと能力を使えない、と思い込んでるのかしら? ますますわからなくなってきたわ……)

紬は難しい顔をして考え込む。それを見た律は笑いながら、

「ま、気にしてもしょうがないだろ、ムギ? 暴走しないようにすればいいんだし。
 またあんな野郎がでてきたらボコボコにしてやるからな、なあ唯?」

「うん! えへへ、わたしはもう大丈夫だよ。ありがとう、みんな」

「……うふふ、そうね。気にしすぎてたわ」

 

その後も、一同は夜遅くまで話し続けた。
闇に生きる者同士ながら、お互いに素性を知り、心を許しあう。『ユニゾン』は、学園都市の闇には珍しい、絆の深い組織となった。

 

 

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