ステイル「最大主教ゥゥーーーッ!!!」 > 第二部 > 上条家編 > 02


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飛び込んだ二人の目に映った部屋は、素朴な生活感に満ちていた。

ここで暮らす者が、幸せであることを語らずとも実感させる。



しかしその窓際には、いまだ眠らない都市からの光を遮る異物が存在していた。

それは自分達が寄り添い合う誕生会での風景。











――――その、特大パネル(約二メートル四方)であった。










口をあんぐりと開けたままフリーズした二人に、空気の読めない男が声を掛ける。

彼の手にある起爆スイッチは一つではなかったようだ。


「二つ目の嚢は『お前らが固まったら』開けろっつー話だ。という訳で……」


当麻は固く縛られたパンドラボックスの口を躊躇なく緩めていく。

なんだかんだ言って、この男も現状を楽しんでいるのかもしれなかった。


「……よっと! 二つ目の中身を読み上げるぞー」


そして、哀れなアダムとイヴは自らの首にロープが締まっていくのを黙って眺めていた。




「えー、『小萌先生と風斬ちゃんと、ついでに一方通行にも送りつけといたぜい』……だってよ」

「」

「」



「いやーアンタらも大変ねーあはは」

「」

「」










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「せっかくのご飯の味がよくわからなかったんだよ……」


食事後とは思えない生気のない声でインデックスがひとりごちる。

あの後二人は意識の定かでないうちに、いつの間にやら晩餐を終えていた。


「まあま、これから毎日御馳走したげるから、楽しみにしてなさい?」


現在インデックスはリビングで、美琴と二人ソファーに腰掛け談笑していた。

かつての恋敵同士の、実に三年ぶりの対面である。

電波に乗せたやりとりは幾度となく交わしたとはいえ、直に顔を合わせての交流はやはり格別であった。





「誕生日はゴメンね。どうしても当麻の都合がつかなくて」

「いいよ、わかってたことだもん。…………それに、あんな、素敵な…………」


話題は、二ヶ月ほど前のインデックスのバースデイの件に移っていた。

いまだに想起するとこみ上げるものがあるのか、言葉に詰まる。


「……そ。喜んでくれて何よりだわ」


美琴は、小さく肩を震わせ俯くインデックスの背中を優しく撫でる。

部屋にはしばらく、コツコツという柱時計の正確な音のみが奏でられた。

背越しにでも伝わる彼女の温かい拍動が落ち着いたのを見計らって、美琴は再び声を掛ける。


「ステイルの事、だけど」


震えが収まったはずの身体が、ひと際大きく跳ね上がる。


「あの人が、好きなのよね?」


インデックスは顔を背け、しかしコクンと頷いた。

しかし、羞恥や驚愕のために逸らした、という風には美琴は受け取れない。


「…………ごめんなさい。これ以上は、立ち入らないわ」




これは、もっと複雑な『何か』だ。








頭を掻いて、共通の友人であるメイドの話でもしようか、と頭を巡らせていた美琴に、





「……聴いて欲しい。…………ううん違う、みことには、最初から話そうと思ってたの」





決然とした貌でインデックスがその『何か』を蒸し返した。








語り始める前に、告解者は唯一の懸念を確かめねばならなかった。


「とうまとまことは、今なにをしてるのかな?」

「パパは可愛い我が子を寝かしつけようとして………………一緒に、寝たみたいね」


超能力者――『電撃使い』としての能力の一端で、美琴は家族の動向を概ね把握できる。

愛する夫にだけはその効き目が無いが、そこは常なら経験則で補うところだ。

ちなみにステイルは件のパネルを四つにばらして厳重に包んだ後、

どこか広い場所で燃やしに行ったらしかった。


「じゃあ、この話を今聴いてるのは…………」

「万が一、盗聴器かなんかがあっても私には通用しない。
 正真正銘、私とインデックスだけの女の秘密よ」


珍しく神経質に状況を確認するインデックスに、母である女は胸を叩いて請け負う。

力強い仕草に勇気づけられた彼女は、二度三度と深呼吸をくり返し――







――自らの、醜い『熱』を告白した。






「私はね、みこと。まだ、とうまを――――」





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マンション裏の、遊具が狭い空間にこれでもかと立ち並ぶ公園。

どうにかこうにか巨大パネルを運搬してきたステイルは、

陽の在るうちは笑い声で賑わうだろう憩いの場に、念のため『人払い』を施した。

覆いを取り外した彼は羞恥に叫びたくなる衝動と――それ以上の葛藤に苛まれながら、カードを翳す。



切り取られた世界の中の男女は、灰も残らず炎に消えた。




「良かったのか?」


刹那の間だけ炎が上がった虚空を、暫し眺めていたステイルに一つの影が近づく。

『人払い』されている空間に侵入できる者など、たとえこの街でも極めて限られる。


「良いに決まっているだろう。残り三枚と土御門の元データ。
 ……と、ついでにクソ野郎自身も同じ行く末になるさ」


特段驚いた様子もないステイルは、顧みもせずにいらえる。


「…………お前さ。他にインデックスと写ってる写真、何枚持ってる?」


影はもちろん、彼女が真に愛する男だった。




「『彼女』との写真は無い。今燃やしたこれだけだ」


懐に肌身離さず持っている一枚を無意識に弄りながら、神父は努めて平坦に答える。

当麻はその仕草に気付いたのかどうか、会話の向きを変えるが――



「…………お前も、拘るんだな」



――ステイルは容赦なく、向けられた切先を突きつけ返した。



「僕ではなく彼女がだ。嘗ての君のようにね、上条当麻」



己を懸想してくれる人が本当に愛したのは、自分ではない『自分』。

現在のインデックスと十年前の上条当麻は、実に似通った業を背負っていて。

そしてその帰結まで、同じ道程を辿るはずなのだ。



「僕にとってはそんなこと、大した問題じゃあない」


  ――そんなの、もう、どうでも良いよ――



いつかの声が重なって、ステイルの吐露は当麻の耳に届いた。

十年前の上条当麻の罪はあの日、彼女の心からの叫びによって許されていた。

ならばインデックスのカルマも、神父に赦されて終わるのだろうか。




――しかし。


「本当に、そうか?」


上条当麻は、己が信念に従い愚直に突き進む。





束の間、ステイルは逡巡する。


「……そうだとも。僕の問題は、そこではない」


僅かにでも感化されてしまったのか、と告解者は自嘲する。

ステイル=マグヌスもまた、このどこまでも憎く畏敬すべき英雄に――




――自らの『真の懊悩』を、ぶつける決心を固めた。








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「…………帰ってきたわね」


ステイル達の帰宅を精緻に察知した美琴が呟く。

インデックスは、すでに湯浴みも済ませて床に就いていた。


ガチャリ、と気遣いを感じさせる静かな音が、しかしそれ以上の静寂に包まれたリビングまで届く。

手の中のグラスを揺らしながら、シャワー上がりの美琴は二人に声を掛けた。


「おかえり。男同士の腹の内の見せあいはどうだった?」

「どっちかって言ったら、コイツが一方的に割ってただけだな」

「黙れ。君の腹の中を見たいときは直接かっ捌くまでだ」

「んだとこのヤロ……おっといけね」


声を荒げずに罵り合う男どもを見て、思わず彼女は噴き出す。

基盤部分では平和を愛する夫の喧嘩腰、というのは平時では滅多に見られない姿だった。

あるとすれば金髪の変態か、青髪の変態と絡んでる時に限られるだろう。


「やっぱりアンタたち、良い友達なんじゃない?」

「「誰が」」


声が揃ってしまったことに気づき、再び反目した二人を見て、美琴は爆笑をすんでのところで堪える。


「……っく、く、……ぷぷ…………はーぁ。
 ま、深くは訊かないわ、私も女の秘密は話せないし。
 そろそろ日付も変わるけど、もう寝る?」

「……このマンションのセキュリティは?」

「自分の目で確かめただろ。学園都市では最高峰だよ」


それは即ち、『科学的』に全世界最高水準である、という意味だ。

この夫婦は一宗派のトップたる自分達よりよほど裕福なのではないか、とステイルは一瞬悩む。

しかし眠気が勝ったのか、彼は疑問を振り払って勧めに従う事にした。


「了解した。で、どこで寝れば? このソファかい?」

「廊下の、こっち側から数えて二番目の部屋が空いてるわ」


(慣れない事をするもんじゃあないな)


おどけたつもりだったステイルは、淡白に流されたボケを悼んで苦笑する。

と同時に軽く、素直な感嘆の声を上げた。


「客室が二つもあるのか……羨ましい話だね、まったく」

「インデックスの家はこんなとこよりずっとでかいんだろ?」

「『ランベスの宮』は最大主教の住まいだ。僕には関係ない」


肩をすくめて馬鹿にするステイルに、しかし夫婦は底意地の悪い笑みを並べる。

背筋に寒いものを感じた男は、慌てて問い質した。


「なんだ、その面は……!」

「いやいや、なんでもありません事よ?」

「そうだ、ベッド一つしかないから気を付けてねーん」


魔術師が『仕事』用に匹敵する形相で鋭く睨みつけても笑って手を振るのみ。

つい六時間ほど前のアバンギャルドな滑空旅行が、

ここにきて脳に休息を求める信号を発させている事も手伝う。

これ以上は時間と体力、精神力の無駄だと判断したステイルは踵を返した。




(いいだろう。どんな罠を仕掛けたか知らないが、
 拠点攻略の達人でもあるこの僕に通じると思うなよ……!)




その謎のプライドの高さが、命取りになるとも知らずに。




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チュン チュンチュン


翌朝、インデックスは昔懐かしい雀の鳴き声で目を覚ました。

手探りで昨夜寝付くまでは握っていた携帯電話を、『自由な右手』で手繰り寄せる。

瞼を上げればいつ以来だろう、天蓋もつかず大きさは一人分のベッドが。

そして可愛らしく飾り付けられた、彼女の住居からすればやや手狭な部屋が目に入る――






――はずだった。



眼前に、見慣れた黒尽くめの柱が鎮座――というか横倒しになっていなければ。



「…………へ?」












              そして、御近所迷惑な悲鳴がマンションを劈いた。
















「すすすすすすすすすすすす、すている?
 さささささささすがに、まだ、心の準備が、できてないんだよ……!」


「違う、これは違うんだ! いいか、ハッキリ言っておく!! 
 僕がこの部屋に入ったのはあのバカ夫婦の仕組んだ謀略で、
 いまだに居るのは寝ぼけた貴女がどーしてもその手を離さなかったからだ!!!」


「へ? あわわ!(バッ) ご、ごめんなさいですわ! で、でもでも!
 全くそういう気にならなかったって言うならそれはそれで失礼な話かも!」


「ふざけるなどうしろって言うんだ!! 黙秘だ! その件については断固として黙秘する!!」



部屋の外からはしてやったりの呵々大笑がこれまた近隣に迷惑をかけている。


そんな大声さえ耳をスルーする必死の痴話喧嘩の中で――――











――――二人の科学の街での、騒がしい日々が始まった。










続くっつってんでしょうがぁ!


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