ステイル「最大主教ゥゥーーーッ!!!」 > イギリス清教編 > 03

しかし絶望を突きつけられてなお、『半端者』の歪んだ志は未だ折れていなかった。


「く、クククク……だったら、アレならどうだぁ!?」

「ほう……?」


男が哄笑して指差す先、およそ百メートル。

彼方に異形の駆動鎧が数台並んで、起動を開始すべく蠢いていた。


「……これはこれは「FIVE Over」とは。十年前の遺物とはいえよくあれだけ揃えたな。
 しかもあれはガトリングレールガンか……あんなスクラップに嫁さんが見立てられてるなんて、
 カミやんが聞いたらキレるな、くくっ」

「笑ってられるのも今のうちだ! 貴様らの切り札ではあれは止められん!」

「切り札なんて言った覚えはないが……。
 だがあれで『陣地』の外から所かまわずぶっ放されたら、街にかなりの被害が出るな。
 ……お前ら、それがどういうことだかわかってるのか?」


これから起こるであろう事態を言葉に出した土御門が凄む。

しかし手負いの獣はそのような脅しなど歯牙にもかけない。


「仲間や一般市民の心配をする暇があるなら命乞いをしたらどうだ!
 『超電磁砲』の最初の標的は貴様だ!」

「…………そうかい、よーくわかったよ。
 まあ確かに、『守護神』じゃあれは止められないな」


ステイルの築いたシステムは『侵入者』に「魔力」ないし「悪意」があることを前提にしている。

仮に『侵入者』が秒間六十発放たれる金属砲弾だとしたら、それらを阻止することは不可能だ。


「あれがお前らの切り札ってわけだ。……ところで知ってるか?
 あの駆動鎧はその昔、とある異端の無能力者(イレギュラー)に
 戦闘不能にされたっていうご立派な実績があるんだ」

「ははは、戯言を! だったらなにか? 貴様がそれを再現して見せるとでも!?」

「御冗談。オレはか弱いか弱い、異端でも何でもない無能力者(レベル0)さ。
 しかしイレギュラーでも破壊できるんだぜ? だったら――」




土御門が舌先三寸で敵の気を引いているその時、

二つの影がまた別の方角――やはり百メートルほど先――に現れる。


「『アレら』はどうやら、無差別攻撃を行うつもりのようです。
 …………ならば、遠慮は全く要りませんね……!」

「よく聞こえんなー、あんな遠くの会話。
 ……それにしても微妙に見覚えがあると思ったらあの物騒なビリビリ、
 もしかして前にエリスを吹っ飛ばしたのと同じヤツかしら?」





「――だったらオレらの聖人(キリフダ)に、どうにかできないワケないだろうが」

「な、まさか、アレはぁぁっ…………!?」


「シェリー、二秒稼いでください。

 ……それで、終わらせます」


「その間に何発喰らわなきゃいけないのかしらね。
 まあしょうがない、相手は違うが…………。

 …………リベンジマッチといこうぜぇ、エリス!」



「撃てェッ!! はやくそいつらをコロセェェェェーーーーッッ!!!!」

男の絶叫とともに駆動鎧の銃身が回転を始め、 『Gatling Railgun』が光の嵐を放った。

精密性を著しく欠くそれらは疎らに拡がり、ロンドンの一角を阿鼻叫喚の地獄絵図に変える。




「『Intimus115(我が身の全ては亡き友のために)』!!」




――そこに居たのが、卓越した土属性の魔術師、シェリー=クロムウェルでさえなければ。

彼女が産み落とした特大ゴーレムは、かつてその身を貫いた

『超電磁砲』の一斉掃射をかろうじて逸らし、愛する街を守るべくそびえ立つ。




GAGAGAGAGAGAGAGAGA!!!!!!!!!!!!!!!


「耐えなさい、エリス!」


総合火力のみなら本家を上回る『Gatling Railgun』の前に、

シェリー渾身の一作とはいえゴーレムが屈するのは時間の問題である。

だが、彼女の表情が揺らぐことは微塵たりともない。



なぜなら、本物とは似ても似つかぬ無粋な鉄塊に向かって駈けるのは――






「『Salvere000(救われぬ者に救いの手を)』!!!」






――ロンドン最強の聖人なのだから――!






「終いだな」


瞬きの間に全てが終わったとしか認識できない男は膝から崩れ落ち、放心状態に見える。

が――


「おっと!」


土御門がいきなり男の手を踏みつけた。

その手には通信用の護符なのだろう紙切れが握られている。


「何のために長々と講釈を垂れてやったと思ってるんだ? 
 さっさと出さずにあんなガラクタ引っ張ってくるもんだから、一時は焦ったぜ」

「ちいぃっ…………!!!」


男は土御門が親切に語ってやった情報を仲間に伝えるべく

密かに連絡文を飛ばそうとしていたのだが、それこそがこの曲者の狙いだった。


「早速連絡先を探知させてもらおうか」

「キサ、がああああぁぁぁっっ!!??」

「ああ、ちなみにオレの魔法名は『Fallere825(背中刺す刃)』だ。 ついでにコイツも」


土御門は友好的に表情を崩したつもりである。



しかし男は、死神が自分に微笑んだ、としか感じなかった。



「――――覚えて死ね」



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ところ変わって、再び『ランベスの宮』。


「潮が引いていくな……」


敵の動きの変化を感じ取り、ステイルはそう呟いた。


「なんだ、もう終わりか。結局私の出番はなかったし」


キャーリサはぼやくが、軍事を司る彼女ももちろんわかっている。

どんなヤケッパチの集団だろうと、戦力の過半数を失えば負け戦を認めざるを得ない。

土御門も外交交渉上、余り勝ち過ぎて禍根を残すのはよろしくない、という見解だった。

一般への被害をほぼゼロに抑えた上での完勝というのは理想の戦果である。

しかし、インデックスは――



「たくさん、人が死んだんだね……」

「………………最大主教」

「これは、戦争だったんだ。向こうから仕掛けてきて、決してやめようとはしなかった、な」



キャーリサの力強い言葉に、後ろめたさは一切見られない。

彼女が守るのは自国民の安寧のみであり他国の、ましてや

敵対者に慈悲を与えるなどこの王妹の矜持が許すはずもない。


「それでも、私は祈るよ」


しかし、インデックスは毅然と宣言する。

自分にできることはそれだけだ、と言わんばかりに。


「私も、お供をさせてくださいね」


オルソラが、いかなる時も揺るがぬ柔和な笑みで彼女に続いた。

かつて自らを殺めようとしたアニェーゼを許し、共に歩んでいる現世の聖母。


「……はっ、好きにするといいの」

「こらこら、言い方というものがあるだろキャーリサ」

「インデックス、くれぐれも無理なきようにしなさい?」


二人の静かな決意に、三人の女傑が同調し場の雰囲気も僅かながらに緩む。





――そのときだった。単調な機械音が鳴り響く。

ステイルが眉をひそめて、しかし即座に着信に応答した。



「土御門か、どうしたんだ? 敵の動きならもう……」

『手短に言うからよく聞け、ステイル!』



通話マイク越しに伝わってきたのは焦燥。

周囲にそれを悟らせぬよう、落ち着き払ってステイルは答える。


「なんだい?」


しかし事態は、彼の予想を大きく上回っていた。





『敵だ! それもおそらく、かなりの実力者がすぐ近くまで迫っているぞ!』





終幕は、まだ下りきってはいない。





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火織を先行させた土御門は、自身はその辺りにあった農家のトラックを拝借して走らせていた。

とはいえロンドンのほぼ中心に位置する『ランベスの宮』までここから二十キロ弱はある。

火織の到着も半刻は先になるだろう。しかし何をおいても土御門を急がせるのは――



(舞夏…………!!)



あの状況で死んだ男がロンドンの『仕掛け』を伝える相手は

それなりの地位と実力を持った指揮官クラスだろう、と土御門はふんでいた。

運よく司令部の場所でも割れれば、戦術的にも戦略的にももはや優位は揺るがない。


ところが札から魔力を探知すると、すでにその反応は都の中枢に迫っているではないか。

こうなると弱まった敵の攻勢も何らかの伏線と見るべきである。

念のため、シェリーをはじめとするメンバーには外への警戒を引き締めるよう指示した。



『半端者』がいかにして『守護神』の情報を掴み、そして突破したのかは杳として知れない。

しかし察するに、敵の目的はこの厄介極まりない術式を内から破壊して、

しかる後に残存戦力をつぎ込むことだろう。




術式の破壊とは即ち、ステイルの首を取ることに他ならない。




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「なるほど、ヤケッパチを通り越した愚者の集まりだった、ということか」

「……なぜ着いてくるんです」

「母上に叱られておいて、まだ言うか」

「く…………」


淑女諸氏をエツァリに任せたステイルは、『ランベスの宮』の入口で刺客を迎え撃つ事に決めた。

中で待ち受けてもよかったが、万が一この要塞さえ突破するような

実力者であった場合、彼女らの身の安全を保証できない。

更には市街地を無差別に攻撃するのではないか、との危惧もあった。


…………余計な、しかしこの上なく豪華なオマケもついてきたが。


「……ちなみに申し上げておくと、あなたの護衛は僕の仕事に含まれていません」

「そりゃそうだし。お前の仕事は私に護衛されることだからな」

「……………………はぁぁ……」



潜入した敵が用いた手段に、ステイルはある程度想像がついていた。

手段というより、敵の性質か。

天罰が作動した相手が魔術師なら、苦しみから逃れるため魔力を精製して抵抗しようとする

可能性は高く、そこに『揺らぎ』が生まれる。多種多様の感知術式を併用することで、

ステイルはその揺らぎをかなりの精度で察知することが可能だ。



ならば初めから、この敵に『揺らぎ』は起こらなかった、ということになる。



そこに至る可能性は二つ。



「あの、すいません」



一つ、魔術師ではない、つまり能力者の類。ステイルの考えではこちらだ。



「えーっと、『ランベスの宮』というのは、こちらでよろし……おや、君は」



そして、まあこっちはないだろうが、二つ目は――



「どこかで会わなかったかな……ああそうだ、確か!」



――悪意がまるっきり無い場合。





「当麻の結婚式に来てくれたともだ」



「誰が友達かぁぁーーーーっっ!!!!!」



「………………おい、ステイル。説明しろ」

「そうそう、ステイル君! すまないね、商売柄人の名前を忘れてはならないというのに」


キャーリサもステイルも、火織のオムライスをいっぱい食わされたような湿気りきった面をしている。


「……ご紹介します、キャーリサ殿下」

「へ? キャーリサ? 英国王室の?」


それもそうだろう。こんなとき、他にどんな顔をしろというのか。




「上条当麻……








          ……さんの父君、上条刀夜氏です」




「あ、どうもよろしく」


「」



「あれ? なにこの空気?」



「どういうことなの…………」



……とりあえず、ステイルくんから一言。








「……………………不幸だよな、コレ」








「なんだ、やっぱり友達じゃあ」


「違いますッッッ!!!!」


続くのでございますよ


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最終更新:2011年06月11日 20:12
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