ステイル「最大主教ゥゥーーーッ!!!」 > イギリス清教編 > 01


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ステイル=マグヌスは専守防衛に長けた魔術師である。

一定のエリアにルーンを刻んで己の『陣地』とし、

その内側を戦場に選べば聖人や超能力者といった怪物たちともどうにか、伍する事ができる。

しかし長所を裏返せば短所になるのは至極当然のことで

彼は追跡戦を最たるものとし、討って出る戦闘ではその戦術的価値を大きく下げてしまう。



ただ一人を守れる力。

それは彼が渇望しているものであり、終着点に着いたのだと諦めてしまっても良かった。



だが、ステイル=マグヌスはそこでは終われなかった。

『ただ一人を守れる力』では、彼女の笑顔までは守れないのだ。

ならばどうする。どうすればいい。



方法は二つあった。


一つ、『陣地』を動かしてしまう。

フィアンマの『ベツレヘムの星』は極端にすぎる例だが

常に陣地として機能する動く要塞があれば、ステイルの求める力は手に入るかもしれない。



                  そして、もう一つは――――



ステイルとエツァリを見送った土御門は、タイミングを見て背後の暗がりに声を掛ける。


「もう出てきていいぞ」



「ったく、なーにカッコつけてんですかグラサン」


現れたのは戦闘修道女の部隊を統括する、アニェーゼ=サンクティスである。


「ま、ちょっと嬉しくなってな。……配置は終わってるか?」

「完了したから来てんですよ。それとさっきのアレですけど、
 私たちは『必要悪の教会』にもイギリス清教にも鞍替えした覚えはありゃしねーんですが」

「十年経ってまだそんな事を言うのか……。だがどっちみち、助けてくれるんだろ?」

「ぬぐっ……ここでツンデレキャラになっちまうのは、何だか負けた気分になりそうです」


『別にアンタ達のためじゃねーんですからね!』というテンプレートをなんとか飲み込みはしたものの

十年慣れ親しんだこの街を守る、というアニェーゼの覚悟に揺らぎはない。



「素直で結構。さあ、おっぱじめるか」

「ま、私たちの出番が来ちまうほどの相手は、今のところ皆無ですが」


路地裏を抜け、陽が中天にかかっているにも関わらず

猫の子一匹――このタチの悪い二匹は例外だが――いないロンドンの街路に出る。



「……嬉しいってのは何の事なんです?」



周囲への警戒を怠らず、アニェーゼが徐に問いかける。



「…………ん、ああ。ステイルのことでな……」

「まさかあの早漏状態が好ましい、とか言うんじゃねーですよね」



まったく見習いたい口の悪さだ、と苦笑しつつ土御門はいらえを返す。



「言ってしまえば、そういうことだな。オレはアイツを昔から知ってるが、
 十三になるかならないかって頃に一人の女に人生を捧げる覚悟を決めちまったんだ。
 それだけでも大したイカレぶりだろう?」

「……私だって、そのぐらいで神にこの身を捧げてやすよ」

「そりゃあ失礼」



もちろんまったく悪びれずに大男は続ける。



「まあそういう経験を通して、あまりにも早く『自分を殺す』ことを覚えちまった。
 ……考えてみれば昔からその辺は異常だった。だってそうだろう? 
 惚れた女が自分など眼中にもない事をわかっていながら、
 それでも守る決意は一度だって揺らがなかったんだからな」

「…………美しい話です。良いか悪いかは別として」



自信の過去も悲惨なものであるゆえか、アニェーゼも神妙な顔で聞き入る他ない。



「ところが今はあのザマだ。インデックスを守れるのは自分だけだと先走って、
 この大事な時に体調不良。…………完全に護衛失格だ」

「おお、辛辣辛辣ぅ」

「守る相手が遠くから近くに来た分、視野が明らかに狭くなってるんだな。あれは」

「……の割には嬉しそうじゃねーですか。最初の質問に逆戻りです」

「まあつまりだな…………」


土御門が結論に入ろうとした、その時。


「この話はまた後で、ってことだ」

「…………そのようですね」


土御門とアニェーゼの前に、十を超える影がぬうと現れる。

魔術でも科学でもなく、そのどちらでもある――――作戦コード、『半端者』の集団だ。



「おうおうおめでとさん、アンタらが最初の『通過者』のようだ。ここまでの旅路はどうだった?」



しかし彼らは一様に決して浅くない負傷を負っている。いずれも――火傷である。



「いやー長旅御苦労さまでしたぁ。お疲れなんじゃねーですか?」



それを見たアニェーゼの顔が嗜虐心に揺さぶられて凶悪に歪む。

隣の土御門が思わず一歩引くレベルの残念加減である。



「そんじゃぁまあごゆっくりできるように――」



パチンに彼女が指を鳴らすと、こちらも十人以上のシスターが

ルチアとアンジェレネに率いられて姿を現し、『半端者』を取り囲んだ。



「防衛を重視、退却を禁止! 不退転の覚悟で、異教の友人を守り抜け!」



「し、シスター・アニェーゼ、ほどほどにしてくださいね……」



数の上で互角であろうと、アニェーゼ達と敵方には埋められない差がある。


それは体力であり、装備であり、練度であり――戦う理由だ。






「――豚肉市場に送ってあげちまいますから、よーろこんでくださいねぇぇええ!!!」





「聞いてないですよね……」


「だにゃー」


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女子寮についたステイル達を出迎えたのは、

火織、シェリー、オルソラ、五和、トチトリの五人だった。


「始まったのですね、ステイル?」


移動中も矢継ぎ早に使用していた携帯電話を耳から離すことなく、ステイルは火織の問いに頷く。


「僕の『陣地』の欠点を補うには君とシェリーの力が不可欠だ。行ってくれ」

「任せときな」

「私は建宮さんたちに合流します」

「ああ、頼むよ」



その時、階段から二人分の足音が聞こえてきた。

インデックスとショチトルも事態は把握しているようだった。


「連中め、もう来てしまったのか……」

「ショチトル、思い詰めてはいけないぞ」

「しかしだな、トチトリ!」


責任を感じずにはいられないのか、ショチトルが声を荒げる。

そこに、落ち着き払った声がかかった。


「ショチトル。深呼吸、してみましょうか」

「え、エツァリ……」

「いま自分たちにできるのは、自らの身の安全を確保し彼らを闘いに専念させること、ですよ」


張り付けたものではない、なによりもショチトルの不安をほぐす笑顔が向けられる。


「う、うん……お兄ちゃん…………」



「「「「…………」」」」


そのかわり、周囲の空気は何とも言えない味付けとなったが。



「ふふ、良かったねショチトル」

「これは……ご挨拶が遅れました。この度は誠、お世話になりました」


事の成り行きを微笑ましく見守っていたのはインデックスのみである。

ショチトルにばかり意識の行っていたエツァリは彼にしては珍しく、慌てて一礼した。


「あなたには、他にお話ししておきたい事もありますが……」

「すまないが後にしてくれ。事態は急を要する。最大主教、早急、に…………」

「……あ…………」


「…………ん」

「…………えと」


向こうが落ち着きゃ今度は此方で、ステイルとインデックスは視線を合わせようとしない。

いや正しくは、互いにチラチラ見合っているのにすぐに逸らしてしまうのだ。



「………………やってる場合ですか、この非常時に……!」


火織のぶつけどころのない嘆きはこの場の残り全員の、


「あらまあ、オセキハンをご用意した方がよろしいのでしょうか?」


「「「「………………」」」」


……残り全員マイナス1の意見を代弁したものだった。



「……ゴホン!! とにかくそちらの三人とオルソラは、
 最大主教と共に最も安全な場所に移る。四人分の『許可』は土御門が手配済みだ」

「…………ステイルは、どうするのかな?」

「……僕も、護衛としてランベスに詰めます」


インデックスが安堵のため息をつくのを見て、ステイルは内心の苛立ちを押し殺す。


(彼女にまで心配されるようでは…………僕は、何をやってるんだ)



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「終わりました、教皇代理」

「『元』、なのよな」

「……ふふ、仕事中と思うとなかなか昔の癖が抜けませんね」


ロンドン東端部の民家密集地帯。

とある一軒の屋根上に陣取るのは天草式十字凄教の建宮と対馬であった。

十年も昔の肩書で今なお男が呼ばれるのは、彼らの『女教皇』に

負けず劣らず建宮が慕われ、信頼を集めている証左でもある。


「五和がこちらに合流するという連絡も入りました」

「ん、了解。……しーっかしこれだけの範囲を人払いするのは一苦労だったのよ」

「王室の戒厳令がなければ現実味すらなかった話ですからね」


彼ら天草式が担当したのは今回の戦闘に市民を巻き込まないための工作である。

とはいえそこまで大がかりな術式を使ったわけでもないし、

外敵の侵入を戦闘前から完璧にシャットアウトしても意味が無い。

王室が鶴の一声で家の外に出るな、とのお達しを出して後は民家の入口を一軒一軒『人払い』。

ロンドン外周部の、更に狙われやすそうな位置に絞ったとはいえ

ひたすら地味で根気のいる作業ではあった。


「土御門もどうやって戒厳令なんて引き出したのよなぁ?」

「……あの男のことですから、なにがしかの取引があったのでしょう」


まさかその材料が『ステイルくん弄くり認可権』とは誰も思うまい。


暫くすると、建宮のふところの端末が震えて着信を知らせた。


「おっと、はいはい建宮なのよなー」

『七人抜けた。そこから西北西に約百五十m』


電話越しに事務的な声が響き、すぐに切れてしまう。


「……そっけないのよな」

「建宮さんが彼に被せた損害を考えれば、ごく当然だと思いますけど」

「はっはっは、そんじゃあお前ら始めるぜ!」


無理矢理誤魔化した彼の言葉に呼応して、そこかしこに潜んで居た天草式の精鋭メンバーが動き出す。


五和も、いつの間にやら愛用の海軍用船上槍(フリウリスピア)を携え到着していた。

建宮と目が合うと慌てて逸らす挙動不審に、生温かい視線が注がれる。


「き、緊張感を持ってください!」


( ( (それはこっちの台詞だ) ) )


「……? なにやってんのよな、お前ら」 

「教皇代理には関係ありません!!」

「だから『元』だっての……」


首を傾げた建宮は、まあいいかと切り替えて号令を掛ける。




「……んじゃあ、行くぞ! 『我らが女教皇様から得た教えは?』」




苦笑していた対馬、牛深、野母崎、香焼、諫早、浦上が、

そして憤慨から覚めた五和が鬨の声に代えて、一斉に応じた。



誰かに利用されるだけだった、あの三人の人生を変えるために。







――――救われぬ者に、救いの手を!!――――



第一の解答ですが、続きます


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