とある魔術と木原数多 > 35


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8月22日午後2時00分、『猟犬部隊』32番待機所 
 
 
「……時間だな」 
 
 
会議室の机にだらしなく足を乗っけていた木原が、ゆっくりと起き上がる。 
 
それを見て、彼の後ろに控えていたマイクとナンシー、そしてエツァリも警戒態勢に入った。 
 
現在統括理事会を訪ねているロシア成教のシスター2名が、間もなくここを訪ねることになっているからだ。 
 
その目的は不明。 
 
だが公式な手続きを経ている以上、木原の権限で面会を断るのは難しい。 
 
 
(十字教三大宗派が一角、ロシア成教の魔術師) 
 
(このタイミングで、いったい何を狙ってやがる……?) 
 
 
そして、場違いなほど明るい声が木原の耳に届いた。 
 
 
「はろはろーん。学園都市の皆さんこんにちはー!」 
 
 
同時刻、第1学区の合同庁舎ビル15階 
 
 
木原が抱える問題は、これだけではない。 
 
突然現れた外部の警察官による捜査も、同時に対応しなくてはならなかった。 
 
本来なら木原ではなく他の暗部組織が片を付けるべき案件なのだが、今回はそうもいかない。 
 
何故なら、やってきた警察官はこう名乗ったからだ。 
 
自分は捜査零課の人間である、と。 
 
それは眉唾物と思われた魔術サイド専門の部署を指す。 
 
そして相手が魔術師ならば、それは木原率いる特別編成隊の管轄だ。 
 
木原はしばらく考えた末、その対応をステイルとショチトル、そしてヴェーラに任せることにした。 
 
選ばれた3人は、会合場所であるこのビルの応接室に先に到着している。 
 
服装は、装甲服を警備員のものに偽装したものだ。 
 
 
「どうして僕達が、日本の警察なんかの対応をしなくちゃいけないんだ」 
 
 
苛立ちを隠そうともしないでそう述べるステイルに、ヴェーラが静かに反論した。 
 
 
「木原さんの人選よ、間違いなく何らかの意味があるわ」 
 
「ふん。それはどうかな」 
 
 
ステイルが白煙を吐き出し、ジロリとヴェーラを睨む。 
 
 
「そもそもあの男は、今回警察が何で来たのかも分からないと言っていたじゃないか」 
 
「言ってたわ」 
 
「だったら……」 
 
「馬鹿ね」 
 
 
ステイルの言葉を、ヴェーラが失笑気味に否定した。 
 
 
「あの人が、自分の胸の内を私達ごときに教えるとでも?」 
 
「な!」 
 
「“分からない”はずがないでしょう? 既にあの人は、何手先をも見据えて駒を配置している」 
 
「そんな当たり前のことも想像出来ないなんて、随分と素直な性格なのね」 
 
「……チッ」 
 
 
ステイルが悔しそうに顔を歪めるが、反論はしない。 
 
けれど両者が険悪な雰囲気になったのは明らかだった。 
 
そんな2人の間に、ショチトルが割って入る。 
 
 
「2人とも、ここで争って何になるんだ?」 
 
「「……」」 
 
「私とステイルは、日本の警察を良く知らない。ヴェーラは魔術師についてあまり分からない」 
 
「なら協力するしかないだろう。失敗なんかしたらエツァリお兄ちゃ……いや、とにかくマズいことになる」 
 
 
ショチトルの訴えを聞いて一応は納得したのか、それ以上の言い争いはなくなった。 
 
応接室の扉がノックされたのはその後すぐだ。 
 
 
「失礼する。捜査零課の闇咲……む、これは……?」 
 
「ちょっとちょっと、入り口で止まりやがるのはやめてくださいよ。入れねーじゃないですか」 
 
 
闇咲が突然立ち止まったので、後ろにいたアニェーゼが文句を言う。 
 
しかし彼は、彼女の話をまるで聞いていなかった。 
 
普段は閉じている両目が、驚きでクワッと開いている。 
 
その視線は、ヴェーラへとまっすぐ向けられていた。 
 
 
「……2年前に焼死したはずの君が、何故ここにいる?」 
 
 
木原による“先手”が、相手の思惑を嘲笑う。 
 
 
8月22日午後2時05分、『猟犬部隊』32番待機所 
 
 
ワシリーサがあまりにも楽しげに登場したので、マイク達は気勢を削がれて立ち尽くす。 
 
 
「ロシア成教のお二人さん、ようこそ学園都市へ」 
 
 
唯一動揺を見せない木原が、おざなりに歓迎の言葉を吐く。 
 
それでもワシリーサは、嬉しそうにニッコリと笑った。 
 
 
「そう言ってもらえると嬉しいにゃーん。あ、あとTV見ました、木原数多さんサインくださーい」 
 
「……ワシリーサ」 
 
 
サーシャが呆れたように注意するが、他の人間はそれどころではない。 
 
特に魔術師であるエツァリは、ワシリーサの放つ圧倒的なプレッシャーに冷や汗が止まらなかった。 
 
 
(『神の右席』に対面した時と同じような、圧倒的な魔術師としての“格の差”……) 
 
(何ですかこれは……『原典』……否、もっと違う“何か”だ) 
 
 
隣にいるマイクとナンシーも、ワシリーサの得体の知れなさだけは鋭敏に感じ取っている。 
 
 
今この場にいるのは僅か4人。 
 
木山とインデックスは念のため別室に移動しているし、テレスティーナは今も地下で実験中だ。 
 
いざとなればクローン部隊を使うとはいえ、エツァリは生きた心地がしない。 
 
 
「俺もそちらさんの名前は知ってる。有名な童話のヒロインに出会えて光栄だ。……サインくれっかな?」 
 
 
だからこそ、木原が平然とそう言い返した事に驚愕した。 
 
 
「やだもー、ヒロインだなんて照れちゃう」 
 
「第一の質問ですが、話が進みませんのでとっとと本題とやらに入ってはどうですか?」 
 
「やん、サーシャちゃんったら怖い。じゃ、改めて名乗りましょうか。『殲滅白書(Annihilatus)』のワシリーサよん」 
 
「サーシャです」 
 
 
2人がそう言うと、マイク達が1歩近づいて少しばかり頭を下げる。 
 
 
「マイクだ」 
 
「ナンシー」 
 
「デニスと言います」 
 
 
そして最後に。 
 
 
「木原数多だ。この学園都市で、魔術サイドとの“交流”を任されている」 
 
 
臆面もなくそう言い切った木原に、ワシリーサがますます楽しそうに笑顔を向けた。 
 
 
「……交流、ね。良かったあ」 
 
「いきなり攻撃されちゃうかもって、実は不安だったし」 
 
 
欠片も怯えを見せずにそう言ってのけるワシリーサに、木原も同じ態度で言い返す。 
 
 
「俺もだ。てっきり殴り込みに来たのかと思ってたんだが」 
 
「うふふ、まさか」 
 
 
腹の探り合いは、そこが限界だった。 
 
それまでの空気を一変させ、木原が鋭く質問する。 
 
 
「じゃあ目的なんだ?」 
 
 
そしてワシリーサは、この場にいる全員を驚かせる一言を告げた。 
 
 
 
 
 
「実はロシア成教から逃げてきました。だから学園都市で匿ってほしいな☆」 
 
 
 
 
 
 
誰もが――木原ですら――驚いて言葉を失うが、この中で最も愕然としたのはサーシャである。 
 
 
(え、は、へ?) 
 
(どういう事ですかワシリーサ聞いてませんよ知りませんよ何ですかこれはどういう状況ですかいい加減にしろよクソ野郎) 
 
(ちょ、ちょっと落ち着いてサーシャちゃん。口調がおかしいゾ?) 
 
 
ワシリーサの首を掴んでガクガクと揺さぶるサーシャだったが、やがて深呼吸して小声で尋ねた。 
 
首に掛けた手は離さず、その力を少しも緩めないまま。 
 
 
(……第二の質問ですが、何でこういう事に?) 
 
(えっとぉ、ニコライの指示でスパイ活動を……) 
 
(第三の質問ですが、嘘ですよね? ってゆーか、この訪問本当に上の方の許可を取ったんですか?) 
 
(……てへ) 
 
(それじゃあホントに反逆行為じゃねーか!) 
 
 
ブチ切れたサーシャが、完全に口調を乱してギュウギュウとワシリーサを絞める。 
 
 
(ああ、Sなサーシャちゃんも素敵……けどだんだん目の前が暗く……) 
 
(第一の解答ですが、そのまま死ねこの変態) 
 
 
そんな2人を見ていた木原が、これからどうすべきか分析する。 
 
 
(この女、目的がまるで見えねえ) 
 
(確かに懐に抱えるには危険すぎる爆弾だが……) 
 
(かといって、このチャンスを捨てるのもな) 
 
 
すでに結構な量の問題を抱えているのだ。不用意なリスクは避けたい。 
 
では、彼女達を安全に活用する方法はあるか。 
 
――ある。 
 
 
(ワシリーサか……用意していたカードの1枚、切る価値はありそうだ) 
 
(フィアンマに連絡を入れておこう) 
 
(こっちの世界の木山ちゃんにもな) 
 
 
 
こうして、その日のうちに“元ロシア成教『殲滅白書』”の修道女2名が、新たに猟犬部隊へ加わった。 
 
 
(虎穴に入らずんば虎子を得ず。これからが楽しみね、木原数多) 
 
 

 
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