とある魔術と木原数多 > 33


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8月20日11時30分、『猟犬部隊』32番待機所 
 
 
怪我人の応急処置を終えた『冥土帰し』達が、寮監の案内で待機所を訪れる。 
 
すると、丁度同じ時間に帰還した木原が背後から話しかけた。 
 
 
「思ったよりも早い到着じゃねーか。病院は大丈夫かよ?」 
 
「彼女達がいたからね。それに、襲撃した彼らもそれなりに治療を施してあるね」 
 
「お優しい事で。まあ何にせよ無事で良かったな、先生?」 
 
「……」 
 
 
木原のからかうような口調に、医者が渋面を浮かべる。 
 
それでも彼は何も言い返さない。 
 
代わりに、後ろにいた寮監が詰め寄った。 
 
 
「統括理事会が襲撃する事を、どうしてお前は知っていたんだ?」 
 
「知っていたわけじゃねえ。……あくまで念のための警戒だった」 
 
 
当然襲撃が行われた直後にその事実は掴んではいたけどよ、と木原は侮蔑を込めて話し続ける。 
 
 
「理事会の私兵が、『猟犬部隊』の装備を接収したのを把握していたからな」 
 
「俺らに成り済まして“何か”をしようとしていたのはすぐに分かった」 
 
「このタイミングで連中が動いた理由はまだ分からねーが、何を狙うかはある程度絞り込めるだろ」 
 
 
理事会の狙う標的。 
 
そのうちの1つが、比較的木原と接触が多く、且つ『管理個体』の肉体調整を担当している『冥土帰し』だったという事だ。 
 
 
「貴様……!」 
 
 
いくら確証が無かったとはいえ、勝手に利用されたのは許しがたい。 
 
寮監がさらに罵声を浴びせようとするが、それよりも先に走り寄る影があった。 
 
 
「ますたー」 
 
 
『管理個体』である。 
 
そのまま抱きつく『管理個体』。 
 
信じられないことに、木原は彼女の頭を優しく撫でた。 
 
 
「随分と派手なデビュー戦を飾ったらしいな。どうよ、人間を壊した感想は?」 
 
「ぐしゃってなって、めきめきいって、べったりです……ぴくぴくしてました」 
 
「イイね、最高じゃねーか。それが肉塊ってヤツだ」 
 
 
『学習装置』で戦闘技術を学んでいるとはいえ、実際にヒトを壊す経験は格別だ。 
 
彼女が感じた興奮と闘争本能を、木原は正確に理解していた。 
 
『管理個体』の血液中に注入されたナノマシンが、彼女の精神状態を逐一伝えているからである。 
 
 
「その感覚を、忘れんじゃね……」 
 
「もうやめるんだ」 
 
 
嬉々として話す木原を、医者が鋭い声で制止させた。 
 
幼い子供に向けるにはあまりにも不適切な発言に、我慢が出来なかったのだ。 
 
木原はやれやれと肩を竦めて、挑発的に笑う。 
 
が、ここで争う気はないらしい。 
 
 
「しょうがねーな。取りあえずガキは戦闘訓練所でいつものメニューをしてろ」 
 
「分かりました、べーしっくはそこで待ってます」 
 
 
軽快に走り去る『管理個体』。 
 
寮監は木原を殺す勢いで睨んでいたが、やがて彼女の後を追って部屋を後にした。 
 
 
「おっと、そろそろ向こうから連絡が来るはずだ」 
 
「連絡?」 
 
「そうそう。今回の事件のオトシドコロを協議するためにな」 
 
「先生も気になるんじゃねーの?」 
 
 
そう言って木原と医者は、待機所のVIPルームまで足を運んだ。 
 
 
木原達が入室した時には、すでに通信専用のモニターが部屋の主を待っていた。 
 
 
『こんにちは、木原数多。今回の襲撃について、一通り調査が終わったので報告をと思いまして』 
 
「統括理事自らがお出ましとはな。さぞや面白い話が聞けるんだろーよ」 
 
『貴方がどう思うかは、わたくしには何とも言えませんが』 
 
 
透き通るような、大人びた女性の声。 
 
相手の姿は映らず、その少しばかり神経質そうな声だけが部屋に届いていた。 
 
 
「で?」 
 
『まずは結論を。今回の件は、統括理事の1人が独断専行したものです』 
 
「……」 
 
『当然すでに当該人物は抹消済みですが、計画が実行されるまで気づかなかったのはわたくし達の落ち度です』 
 
「そりゃー良かった。俺はてっきり、成立した合議に基づいての行動かと思ってたからよ?」 
 
 
学園都市の統括理事会は、現在理事長が存在しない。 
 
対外的には存在する事になっているのだが、それはフェイクである。 
 
何十年も前に、学園都市を築いた統括理事長は姿を消している。 
 
残された理事会のメンバーは、その莫大な権益を互いに奪い合うことを何よりも恐れた。 
 
人の身に余る地位と資産は、必然的に彼らを保身へと走らせる。 
 
12人の統括理事は、相互不可侵を暗黙の掟として徹底した。 
 
各人が手を伸ばす分野を限定し、明確に住み分けたのだ。 
 
以降彼らは、あらゆる決定を合議の成立によってのみ認めることになった。 
 
その意向に反すれば、苛烈な制裁が待っている。 
 
 
『わたくし達が、貴方に敵対する理由など存在しませんよ。分かっているでしょう?』 
 
「それを聞いて安心したぜ」 
 
『ええ……彼は“流れ”を読み違えただけ。もう二度とこんなことはありません』 
 
 
木原一族の破滅を願ったあの老人は、初代の理事会メンバーだ。 
 
それはかなり珍しいケースだった。 
 
ほとんどの統括理事は、それぞれが後継者を選んで代替わりしている。 
 
 
『学園都市にとっては、かえって良かったかもしれませんね。古臭いだけの血は、淘汰されてしかるべきでしたから』 
 
 
そんな彼ですら容易に切り捨てる辺りに、統括理事会の闇の深さを垣間見て――木原は気づかれぬように失笑した。 
 
 
「ところで、後任は誰になった?」 
 
『それはあなたの知るところではありませんよ』 
 
 
そう言われる事は分かっていて聞いたのだが、木原は不満そうに言い返した。 
 
 
「そうかい。じゃあこの責任は誰が取るんだよ?」 
 
『死体でもお送りしましょうか?』 
 
「それが本物だって証拠がねえだろ。まさかこのまま、なあなあに済ます気か」 
 
『では代わりのモノを差し上げましょう』 
 
「へえ?」 
 
『彼が携わっていた研究の成果を譲ります。正直申し上げて、木原一族よりも優れた結果ですよ』 
 
 
そして送られてきたのは、膨大な研究データだ。 
 
分けても目を引くのが、とある兵器に関する開発データである。 
 
 
「これは……『プロジェクト:ファイブオーバー』……?」 
 
『すでに何機かはプロトタイプが完成してるとか。これで手打ちということで異論はないでしょう』 
 
「……ああ、十分だ」 
 
 
木原という狂人に与えられた、新たなチカラ。 
 
この段階に至っても、統括理事会は彼の事を甘く考えていた。 
 
彼らがそれを後悔するのは、もうしばらく後の事である。 
 
 
同時刻、警視庁捜査零課の会議室 
 
 
その男の出で立ちは、どう考えても異様なものだった。 
 
真夏なのに漆黒のスーツを着ているし、キッチリと絞められたネクタイも黒。 
 
そして何よりも変わっているのは、右腕に装着された絡繰式の梓弓だ。 
 
 
「……遅いな」 
 
 
男――闇咲が低い声で嘆息する。 
 
その両目は固く閉じられており、表情も引き締まっているのだが、どこか苛立っているように感じられた。 
 
 
「どうもどうも、遅参しちまったみたいですいません」 
 
「む……」 
 
 
バタン!と勢いよく会議室の扉が開けられ、生意気そうな少女の声が響く。 
 
 
「ようやくか」 
 
「だから謝ってるじゃないですか。日本人は時間に厳しいってのはホントですね」 
 
 
少女の服装もまた奇妙だった。 
 
着ているのは修道服――しかもスカートがとても短く、太ももが露わになっている。 
 
チョピンと呼ばれる30cmほどの高さの厚底サンダルも目立つ特徴だ。 
 
背中までの赤毛を、鉛筆くらいの太さの細かい三編みに分けている彼女の名は、アニェーゼ・サンクティス。 
 
 
「折角“合同捜査”になんですから、仲良くしてほしいもんです」 
 
「良かろう。こちらとしても、ローマ正教の支援はありがたい」 
 
「それはこっちも同じですよ。なんせ地の利はそちらさんにありますから」 
 
 
そう言いながら、アニェーゼは静かに黙考する。 
 
 
(まったくもって、めんどくせえ仕事を引き受けちまったもんです) 
 
(学園都市とローマ正教を結ぶパイプ役、木原数多に接触しろなんてのは) 
 
(……まあ幸い捜査零課と話は付けましたし) 
 
(このまま、上手に事を運んじまいましょうかね) 
 
 
そんな彼女の思惑を読み取るかのように、闇咲の目が一瞬だけジロリと開いた。 
 
 

 
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