とある魔術と木原数多 > 30


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8月20日午後6時20分、アビニョン『教皇庁宮殿』近くの庭園 
 
 
先に攻撃を仕掛けたのはショチトルだ。 
 
掴んだ『マクアフティル』ごとアックアへ突進する。 
 
 
「アアアアアアァァァッ!!」 
 
 
しかしそれは、あまりにも無謀な挑戦。 
 
 
「良い度胸である」 
 
 
ショチトルの鬼気迫る表情を見ても、アックアは平然とそう言ってのける。 
 
彼はメイスなど振るわない。 
 
片手で攻撃を受け止めると、そのまま握力でもってアステカの剣を粉砕した。 
 
 
「その程度かね?」 
 
 
薄く笑うアックア。 
 
そんな彼に対し、武器を破壊されたショチトルは。 
 
 
(チャンスは一度……いけ!!) 
 
 
突進の速度をむしろ早めて、そのまま彼に体当たりした。 
 
――隠し持った黒曜石のナイフを突き立てて。 
 
 
(この体格差、狙うは人体の急所の1つ、腎臓……!) 
 
 
ずぐ、という鈍い衝撃が、ナイフを通じて彼女に伝わる。 
 
 
「もう一度聞くが……その程度かね?」 
 
「な!?」 
 
 
下腹部へ突き立てたはずのナイフは、彼の体に傷1つ与えられないままだった。 
 
 
「まがりなりにも聖人であるこの私を、こんな策で倒せるとでも?」 
 
「あ……」 
 
「随分と舐められたものである」 
 
 
呆然とするショチトルを、アックアはすでに敵とみなさない。 
 
邪魔な石ころにそうするように、気楽に彼女の体を蹴り上げた。 
 
 
「ショチトル!!」 
 
 
エツァリの叫び声よりも派手な音をして、彼女が空中で回転する。 
 
そのままズシャリと落下した彼女は、ピクリとも動かない。 
 
否――。 
 
 
「ま、だ……わ、たし、は……」 
 
 
微かに動く口から漏れ出る声。 
 
どう考えても行動不能なはずの彼女から、意地の一声が発せられた。 
 
 
「……そうか」 
 
 
アックアから表情が消える。 
 
代わりに浮かぶのは、冷たい眼光。 
 
尚も叫ぶエツァリを無視して、彼はゆっくりとショチトルに近づいた。 
 
 
「ふん」 
 
 
そしてそのまま、彼女の背中を踏み潰そうとして片足を振り上げる。 
 
彼女はそれでも何とか足掻こうとして――。 
 
 
 
 
 
 
「何してんだクズが。そう言うのは“俺ら”のやり方じゃねえだろ」 
 
 
 
 
 
 
 
予想外の言葉を浴びせられた。 
 
言葉はさらに続く。 
 
 
「下らねえ。全力を尽くしてヒーロー気取りで死ぬなんてな」 
 
「クズはクズらしくしろよ。真っ当に死のうなんて思うんじゃねえ」 
 
 
語られたのは、とある部隊のあり方そのものだ。 
 
リーダーを始めとして、人間のクズばかりを集めた殺戮部隊。 
 
“とある世界”と異なり、アレイスターによる手綱が存在しないが――彼らは『猟犬部隊』と呼ばれた。 
 
 
姿を見せたのは、その中の1人。 
 
かつての名を失い、今はマイクというコード名で呼ばれる男だ。 
 
 
「……生きていたのであるか」 
 
 
感心してみせるアックアを、マイクが睨みつける。 
 
 
「仕方ないだろ。あのまま死んでたら、リーダーが怖いんでな」 
 
 
8月20日午後6時00分、アビニョン『教皇庁宮殿』 
 
 
――「当然、兵士としての覚悟は出来ていて当然である」 
 
――「……クソッ」 
 
 
あの時。 
 
反撃の時間など、毛ほども存在しなかった。 
 
目の前にいたクローンを魔術とメイスで片づけ、壁や床を粉砕しながら迫りくるその様はまるで巨大な壁。 
 
あらゆる抵抗を封じられた学園都市の兵士は、全員まとめて宮殿もろとも叩き潰された。 
 
それから少しして。 
 
『C文書』が持ち去られ、廃墟と化した宮殿。 
 
そんなアックアにより蹂躙されたこの場所で、蠢く影があった。 
 
 
「ぐ……痛ぇな畜生」 
 
 
今回の作戦の指揮を執っていたマイクだ。 
 
彼は巨大なメイスの一撃を食らっていたのだが、大きな怪我をすることもなく一瞬の気絶だけで済んでいる。 
 
そして無事なのは彼だけではない。 
 
その事を確信しているマイクが、背後の瓦礫の山に向かって呆れたように呟いた。 
 
後ろを振り返ることなく。 
 
 
「……ナンシー。テメェも生きてるのはわかってんだ」 
 
 
1秒、2秒、3秒。 
 
反応が無いまま、時間が経過する。 
 
だが、結局誤魔化しを諦めることにしたらしい。 
 
チッと舌打ちをしつつ、ナンシーが埋まっていた瓦礫から顔を出した。 
 
 
「冗談じゃないわ。あのまま死んでてもおかしくないのよ私達」 
 
「けど生きてんだろ。まあ、2度目は無いようだけどな」 
 
 
そう言いながら、マイクは着ていた迷彩服を脱ぎ捨てる。 
 
いや、正確にはその中に着こんでいた“純白の修道服”を。 
 
それはテレスティーナが開発した、『歩く教会』と呼ばれる霊装のコピーだ。 
 
8月3日の時点ではオリジナルの1/100程度の性能しかなかったが、彼らが着ていたのはそれの改良型にあたる。 
 
インデックスの協力の結果、耐久度だけならオリジナルの1/30ぐらいには向上した試作品。 
 
今回が初の実戦投入だったのだが。 
 
 
「やっぱりか。ボロボロになってやがる。……クソッ」 
 
「撤退すべきね。もう“替えが無い”以上、次はあっさり殺されるわよ」 
 
 
今回実戦用に配備されたのはわずか6着。 
 
マイクとナンシーは、それを2人だけで分け合った。 
 
3枚重ね着して万全を期したのだが、アックアの攻撃で全てがボロ布と化している。 
 
 
「馬鹿か。『C文書』は相手が持ったままだろ」 
 
「アンタこそ馬鹿言わないでよ。この服無しで、化物ゴリラとやり合えっていうの?」 
 
「じゃあどうする。どっちにしろ、任務を果たさなきゃ木原さんに殺されるんだ」 
 
「……」 
 
 
マイクの端的な指摘を受けて、ナンシーが押し黙る。 
 
リーダーである木原は、部下の不始末を許さない。 
 
彼から逃げ切った者はおらず、その全員が凄惨な最期を迎えている。 
 
そしてそんな事は、他ならぬ『猟犬部隊』の人間が一番よく知っているのだ。 
 
無言になったナンシーを見て、マイクは議論は終わったと判断した。 
 
 
「まだ行動可能なクローンを集めろ。部隊を再編して立て直す」 
 
「……了解」 
 
 
クローン部隊のうち、先行した7人は戦闘不能に追いやられている。 
 
しかし宮殿を囲っていた本隊13人はほとんどが無事だ。 
 
クローンに指示を出しながら、ナンシーはマイクに1つだけ尋ねた。 
 
 
「で、どうやって任務を遂行するわけ?」 
 
「……『C文書』を手に入れる事は難しい」 
 
「は?」 
 
「最善が無理なら、次善の策でいくまでだ」 
 
 
8月20日午後6時25分、アビニョン『教皇庁宮殿』近くの庭園 
 
 
再編成したクローン部隊が、アックアと戦闘を開始する。 
 
先の戦闘とは異なり、今度は彼だけが標的だ。 
 
 
「む……」 
 
 
10人以上の聖人が相手では、流石のアックアでも瞬殺は不可能。 
 
彼が動きを止めたその間に、マイクは攻撃を終えていた。 
 
 
「死んどけクソ野郎」 
 
 
異様に遅い速度で、アックアに金属の粉末が襲い掛かる。 
 
すぐに彼は、これが宮殿での戦いで自分のメイスを受け止めた異能だと思い至った。 
 
 
(アレに物理攻撃は通用しないのであったな……だが甘い) 
 
 
アックアの戦闘方法は、格闘だけではない。 
 
彼は魔術師だ。 
 
それも『神の右席』でありながら、一般の魔術も使える稀有な存在である。 
 
 
「その異能と我が魔術、どちらが優れているか確かめてみるか?」 
 
 
付近一帯の水分を利用した、水の魔術が粉塵を迎え撃つ。 
 
だが、その瞬間だった。 
 
 
「……テメェが水を操ることは把握していた。同じ手を二度も使うなんて、あの人なら失笑モノだ」 
 
「?」 
 
 
マイクが投げた粉末は、さきほどの鉄粉ではない。 
 
元素記号Rb――ルビジウムと呼ばれる金属の粉末だ。 
 
そしてこの物質は、“水に対し爆発的に反応する”という特質を持つ。 
 
 
「!?」 
 
 
クローン部隊がエツァリ達を抱えて身を引くのと同時、激烈な化学反応が発生した。 
 
それは燃焼というより、巨大な爆発となってアックアに襲い掛かる。 
 
銃弾すら避ける聖人の反応速度も、全く予測していなかった至近距離での水素爆発には及ばない。 
 
 
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!?」 
 
 
『絶対等速』の能力により、彼の居た場所だけがピンポイントで吹っ飛んだ。 
 
 
――ゥゥゥゥン……!!!! 
 
 
轟音が鳴り止む。 
 
白い煙が徐々に晴れてきた。 
 
そして見えてきた光景に、ナンシーが絶句する。 
 
 
「……本気で化物ね、まだ生きてるなんて」 
 
 
そこには、傷を負いながらもしっかりと立つアックアの姿があった。 
 
 
「ああ、だがこれで次善の策は成った事になる」 
 
 
マイクの言葉を裏付けるかのように、アックアの懐から“それ”が灰となって風に運ばれていく。 
 
『C文書』。 
 
世界を混乱に陥れたその霊装は、化学反応による爆発で燃え尽きていた。 
 
爆発の目的は、アックア自身を倒す事ではない。 
 
強奪が無理なら、破壊するまで。 
 
左方のテッラが引き起こした世界規模のデモは、この時点で失敗に終わった。 
 
木原数多が統括理事会に宣言した通り、状況は改善された事になる。 
 
 
「ざまあみろ」 
 
 

 
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