とある魔術と木原数多 > 28


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8月20日午前9時50分、第7学区のとある路地裏 

 
 
ルーン文字が焼き付いているここは、とある魔術師が用意した狩場だ。 
 
 
「はあ、はあ、はあ……くそ、どうなってるんだ!?」 
 
 
その狩場――否、処刑場から逃げる者がいた。 
 
野母崎と呼ばれる、天草式の1人。 
 
連絡の取れなくなった仲間の元へ駆けつけた彼は、そこで学園都市に有ってはならないものを目撃する。 
 
すなわち魔術。 
 
『魔女狩りの王』と呼ばれる、業火の巨人を。 
 
 
「あ、あ、あぁぁぁぁ」 
 
 
すでに対馬達は無残に焼き焦げた後で、怒りのままに突入した浦上達も同じ末路をたどった。 
 
 
「あんなの……単身で勝てる相手じゃない」 
 
 
紅蓮の手が迫る寸前、彼は身を翻して路地裏を脱出する。 
 
 
「あの化け物に対抗するには、みんなの協力が必要だ」 
 
「この事を早く教皇代理に知らせなくては」 
 
 
通信術式を使用するため、一旦戦闘区域から離脱を図る野母崎。 
 
彼の警戒心の全ては、背後の炎に向けられている。 
 
だからこそ。 
 
飛び出した自分を待ち構えていた、真っ黒な装甲服を着ていた女性に気づくのが、僅かに遅れた。 
 
 
「ちゃお」 
 
「!?」 
 
 
ショットガンから放たれた散弾が、野母崎の胸部を一瞬で粉みじんにする。 
 
醜く崩れた自分の体を知ることもなく、彼の意識はそのままブラックアウトした。 
 
人の形を留めていない犠牲者の姿を見ても、ヴェーラは心が痛んだりしない。 
 
彼女にとって、木原数多以外の人間は生きようが死のうが大して違いがないからだ。 
 
 
「お疲れ様、ステイル。今からあなたの補佐をするからよろしくね」 
 
「……ああ」 
 
 
ただし、矛盾するようだが彼女は仲間思いでもある。 
 
自分と同じく“木原に仕える”数少ない仲間は、例外として仲良くしたいと思っていた。 
 
協調を求め、互いに信頼を築きたいとさえ願っている。 
 
 
「周囲に反応。すぐに接敵するわ」 
 
「……君は……」 
 
「え?」 
 
 
一見すると善人にしか見えないヴェーラの、根底に存在する歪み。 
 
それに気づいたステイルが何か言おうとして、結局諦めた。 
 
 
――「蔑むべき『猟犬部隊』へようこそ。心から歓迎するぜ」 
 
 
『必要悪の教会』とは、違った意味での汚れ役。 
 
リーダーである木原自身が言った通り、ここにいるのは蔑むべきクズばかり。 
 
そして皮肉なことに、ステイルも今はその一員なのだ。 
 
 
「なんでもない。……いくぞ『魔女狩りの王』」 
 
 
同時刻、第7学区の地下街 
 
 
『エッジ・ビー』に発見されておよそ10分。 
 
建宮は、付近にいた仲間20名と共に戦っていた。 
 
優勢なのは天草式だ。 
 
すでに『エッジ・ビー』の半数は無力化してある。 
 
 
「お得意の科学ってモンに頼り切りじゃあ、これが限度なのよな!」 
 
 
そう語る建宮を、『エッジ・ビー』が高速で追いかける――が。 
 
突然、それは空中で動きを止めた。 
 
その場をしっかりと観察すれば、『エッジ・ビー』のプロペラにあるものが巻き付いているのが確認できる。 
 
鋼糸。 
 
天草式が得意とする鋼糸は、空中の至る所で円盤を縛り上げていたのだ。 
 
何しろ相手は機械的に追尾してくるだけ。 
 
予め張ってある鋼糸の所へ誘導することは難しくない。 
 
 
(いつまでも隠れたま、勝てると思うなよ木原数多!) 
 
 
その時だった。 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
『おいおい。ずいぶんと余裕だなぁ、侵入者?』 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
本能的に不快感を覚えるような声。 
 
これ以上なく侮蔑に満ちた嘲笑が、どこからか聞こえてきた。 
 
言うまでもなく、声の主は木原数多本人だ。 
 
 
「ふん、やはり気づかれていたか。ようやくご本人の登場って事よな」 
 
 
即座に正体を看破した建宮が、辺りを警戒する。 
 
それは周りで戦っている仲間も同様で、自分達の女教皇を殺めた人物への殺意を漲らせていた。 
 
 
『テメェらさぁ、もしかしてこの俺が痺れを切らして自ら出向いたとか思ってんのか?』 
 
 
しかし、相手の木原の声からは戦闘時の高揚が伝わってこない。 
 
むしろ退屈な映画を見てるかのような、怠惰な感じさえ受ける。 
 
 
『俺を引きずり出してぇんなら、もうちょっと有能になる事だ』 
 
 
ため息交じりの木原の言葉を、天草式が訝しむ。 
 
 
「まさか……!」 
 
 
木原の狙いに気づき、かつ反応出来たのは建宮を含む10名ほど。 
 
鋼糸に捕まっていた『エッジ・ビー』が、一斉にピッと電子音を鳴らす。 
 
 
「自爆だ!」 
 
 
そして地下街に、爆風と轟音が炸裂した。 
 
気づくのが遅れた天草式のメンバーが、抵抗も許されずに吹っ飛ぶ。 
 
とっさに術式を構築して踏みとどまった者には、何百もの釣り針が襲い掛かった。 
 
伏せたりして身を守った人間もいるが、彼らとて安心する余裕はない。 
 
爆発によって鋼糸は千切られた。 
 
つまりもう同じ作戦は使えない。 
 
体勢を整える間もなく、残った半数の『エッジ・ビー』が彼らに攻撃を開始する。 
 
 
『ほぉーら、そろそろウォーミングアップは終了だろ。もっとやる気出してくれよ』 
 
『ま、こっちとしちゃあこれでほぼチェックメイトなんだけどな』 
 
 
学園都市に侵入したのは、50名で構成された天草式の魔術師。 
 
うち12名は、ステイルとヴェーラによって対処済み。 
 
しかも、『エッジ・ビー』が地下街に隠れていた20名を発見、半分は戦闘不能にした。 
 
すでに天草式は散り散りとなったも同然。 
 
 
(わざと『エッジ・ビー』を捕獲させて油断を誘う) 
 
(数がある程度まとまった時に自爆させれば、間抜けはその餌食になる) 
 
(あの聖人サマと戦った時から、テメェらが鋼糸を使うことぐらい分かってんだからよ) 
 
 
ただし、木原は地下街にいる天草式の全滅を望んではいない。 
 
最初からその気なら、敢えて直前に会話などせずに無警告で爆破する。 
 
木原の目的は、彼らを疲弊させ生け捕りにする事。 
 
ステイルはその術式上生け捕りは難しい。 
 
が、こちらの戦闘はある程度のダメージコントロールが出来る。 
 
そして捕まえてしまえば、それは他にいる居場所の分からないメンバーへの人質となるのだ。 
 
天草式の固い絆を利用した、卑怯な作戦である。 
 
 
(もしも人質が通用しなかった場合、そのまま研究に流用すればいいしな) 
 
(どっちに転んでも、ただ殺すよりはメリットがある) 
 
 
そして、木原の狙いはもう1つ。 
 
 
――「よお、待ちくたびれたぜ。相手の情報は?」 
 
――『……侵入してきたのは、神裂の仲間である天草式十字凄教の人間だ』 
 
――「天草式? 聞き覚えがあんな。確かあれは……」 
 
 
木原は、天草式の事を全く別の観点から知っていた。 
 
それはクローンを統括する『聖痕』の共鳴実験の時、『樹形図の設計者』が参照したデータ。 
 
 
――(まあ、伊能忠敬の『大日本沿海與地全図』が、そのお手本になるとは予想外だったがな) 
 
 
『大日本沿海與地全図』と呼ばれる、偶像の理論を逆利用した地図がある。 
 
それを使った瞬間移動法が、天草式十字凄教には伝わっているのだ。 
 
 
(その現物さえ手に入れば) 
 
(学園都市の技術を使って、新たな日本地図を作れる) 
 
(いや、それどころか世界地図クラスの移動法が実現するだろう) 
 
 
その術式を明らかにするまで死なない様頑張ってくれよ、と木原は一人薄く笑った。 
 

 
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