とある魔術と木原数多 > 25


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8月20日午前9時40分、胤河製薬学園都市支店 
 
 
「君の作った『幻想御手(レベルアッパー)』は脳波のネットワークを利用した演算機器ということだけど……」 
 
 
幻生は問う。 
 
 
「そのアイディアを教えたのは、一体誰かね?」 
 
 
この歪んだ世界のカギを握る、とある事実を。 
 
 
「……」 
 
 
しかし、木山は答えない。 
 
否。 
 
答えられない。 
 
 
「……アレは……っ」 
 
 
そのまま“何か”から逃げるようにほんのわずか後ずさる。 
 
彼女の震える手から落下した拳銃が、空しく音を立てた。 
 
しかし彼女は、自らの肩を抱いて震えるだけ。 
 
 
「落ち着きなさい、木山君」 
 
 
優しく声をかける幻生。 
 
だがその声には、軽い失望の響きが含まれている。 
 
 
「今日はこれでオシマイだねぇ」 
 
「また会いに来なさい、待っているから」 
 
 
その言葉に木山がハっと顔を上げた。 
 
だがすでに、鉄格子の中では。 
 
 
「い、ない……?」 
 
 
囚われの身であるはずの幻生の姿が、煙のように消滅していた。 
 
 
同時刻、第7学区の地下街 
 
 
天草式の教皇代理、建宮は完璧に表情を隠蔽しながら諫早と歩いている。 
 
けれどそれは、裏を返せば隠蔽すべき動揺が心中に存在しているということだ。 
 
突如として連絡を絶った対馬と香焼。 
 
即座に浦上と野母崎など12名を応援に向かわせたが、その彼らからも連絡はない。 
 
それでも、と建宮は思う。 
 
まだ若い香焼はともかく、対馬はメンバーの中でも優秀な実力者だ。 
 
そうそう簡単にやられはしない。 
 
 
(――本当に?) 
 
 
女教皇と一緒に、さらに危険な出来事を何度も乗り越えてきた。 
 
ここが敵地なのは承知の上だが、それでも勝ち目はある。 
 
 
(――本当に?) 
 
 
そこまで考えて、建宮は自分を欺くのを諦めた。 
 
 
(畜生、不安で仕方がないのよな!) 
 
(俺の独りよがりの復讐に、こいつらを巻き込んじまった) 
 
(女教皇を失った天草式をまとめ上げる必要があったっていうのにな) 
 
(クソッタレが) 
 
(自分たちの矜持を投げ捨てることになると分かってて、それでもこの足は止まらねえのよ!) 
 
 
 
『救われぬ者に救いの手を』 
 
 
 
かつて神裂と共に歩んでいた天草式は、その信念を胸に戦っていた。 
 
その姿は、弱者に手を差し伸べるヒーローそのもの。 
 
多くの人を救い、助けてきた彼らは誰に恥じることのない正義の味方だったのだ。 
 
だが今は違う。 
 
彼らは、自分たちの掲げる信念の別の意味に気づいてしまった。 
 
すなわち。 
 
すでに彼らは、誰も救えないのだと。 
 
 
悪に怯える人を助けるから、ヒーローなのだ。 
 
自らの力の無さを悔いる人間と、共に立ち上がれるから正義の味方たり得るのだ。 
 
困っている人間に手を差し伸べるから、天草式十字凄教なのだ。 
 
いつだって、彼らの力は他者を救うために振るわれてきた。 
 
しかし今、彼らが復讐によって救おうとしているのは――自分自身の行き場のない気持ち。 
 
救いの手を差し伸べるというその思いは、自分達が“救われぬ者”となった事で自らへと向けられた。 
 
自分の力を、自分のために使う。 
 
もはや彼らは、ヒーロー(あまくさしき)ではない。 
 
血と闇の溢れる世界へ足を踏み入れた、1つの戦闘集団へと成り下がった。 
 
 
(女教皇……どうしてあなたほどのお人が……!) 
 
 
建宮の慟哭は、それ以上続かない。 
 
 
(……? この気配は何だ?) 
 
 
付近に人が潜んでいる感覚とは違う。 
 
そもそも潜入を得意とする天草式は、同種の行動をされても的確に察知する。 
 
今彼らが感じているのは、より得体のしれない破滅の気配だ。 
 
 
「教皇代理、これは!?」 
 
 
諫早が思わず刀を抜いた。 
 
と同時、それは飛来してきた“あるモノ”によってあっさりと切り落とされる。 
 
 
ヴィィィィィィ!!と刃を回転させる、直径70センチほどの金属製円盤。 
 
その名を、『エッジ・ビー』と言う偵察及び殺戮用の無人兵器だ。 
 
 
「マズイな、どうやって我らの居場所を把握したってのよ!?」 
 
 
30個の殺人ディスクが建宮と諫早に襲い掛かる。 
 
それを遠くで操る人物が、退屈そうにこう漏らした。 
 
 
『ようこそ、こちら側の世界へ。私とて「新入生」の身ではあるが、せいぜい歓迎しよう』 
 
 
血と闇の溢れる世界には、当然『先達』がいる。 
 
木原の策によって引っ張り出された悪意が、天草式に容赦なく襲いかかった。 
 
 
8月20日時刻不明、『猟犬部隊』32番待機所 
 
 
暗闇の中、五和は意識を取り戻した。 
 
 
(ここは……私、一体……?) 
 
 
自分の身に何が起きたのか、思い出すのにかかったのは数瞬。 
 
 
(そうだ、あの人と戦ってて) 
 
 
敵の施設へ入り込み、駆動鎧を着た女性と戦った事は覚えている。 
 
 
(確かに七教七刃を当てたのに……突然意識を失ったんだ) 
 
 
つまりは、敵に捕らわれたのだ。 
 
そう判断した五和が、逃げようとして固まった。 
 
 
(目が見えないし体も動けない……拘束されてる?) 
 
 
外部からの拘束にしてはどうも“妙”な感じがする、と五和は思う。 
 
ベッドに寝かされているらしいのは分かるが、まるで自分の位置がつかめないのだ。 
 
視界に至ってはそれ以上に違和感がある。 
 
目隠しをされているはずなのに、“まぶた”の重みを感じない。 
 
 
「あら、ひょっとして起きたのかしら?」 
 
「!」 
 
 
もぞもぞと動く五和に気づいて、隣にいたテレスティーナが楽しそうに笑った。 
 
 
「……!」 
 
 
自分を放せ、と訴えようとする五和。 
 
そこで彼女は、初めて自分の声が出ないことに気が付いた。 
 
 
「ああ、喚かれると嫌だから声帯は取っちゃったの」 
 
「!?」 
 
 
ギョッとする五和を無視して、テレスティーナはさらに衝撃的な事実を告げる。 
 
 
「麻酔が効いてるから分からないのね。性能がいいのも考え物だわ」 
 
 
その言葉は、心のない機械よりもなお冷たく感じられた。 
 
 
 
「すでにあなたからは、眼球と四肢も切り取ってあるんだけど」 
 
 
 
もしも五和に声があったなら、あらんかぎりの絶叫をしたに違いない。 
 
 
「だってモルモットに、逃げるための機能は必要ないでしょう?」 
 
 
そう言い放つと、テレスティーナは『学習装置』のスイッチを入れる。 
 
 
「……、……!」 
 
「だからぁ、声は出ねーっつてんだろーがよ!」 
 
 
尚も叫ぶ五和にいらだったテレスティーナが、彼女の無防備な腹にひじ打ちを食らわした。 
 
 
「!?」 
 
 
あまりの痛みに痙攣する五和を見て、テレスティーナが嬉しそうに笑う。 
 
 
「心配しなくても、あなたの言いたいことは脳波を読み取ってモニタリングしているわ」 
 
「じゃないと、さすがに面白くないものね?」 
 
 
精神の限界を超えたのか、それを聞いた五和が今度こそ完全に沈黙した。 
 
 
「じゃ、実験開始よ。256の段階を用意してあるんだけど、せっかくだから最高記録の8は超えて頂戴」 
 

 
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